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多様な支援者が集うコミュニティ臨床の実践 ― 8年間の「シンタの集い」の構造と展開 ―

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(1)Title. 多様な支援者が集うコミュニティ臨床の実践 ― 8年間の「シンタの集 い」の構造と展開 ―. Author(s). 後藤, 龍太; 森, 慧太朗; 中谷, 紫乃; 新保, 裕行; 菅原, 博子; 山下 , 温子; 吉田, 香奈; 平野, 直己. Citation. 学校臨床心理学研究 : 北海道教育大学大学院教育学研究科学校臨床心理 学専攻研究紀要, 16: 53-60. Issue Date. 2019-03-26. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/10495. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 多様な支援者が集うコミュニティ臨床の実践 ― 8年間の「シンタの集い」の構造と展開 ― 後藤 龍太*・森 慧太朗**・中谷 紫乃***・新保 裕行****・菅原 博子*****・ 山下 温子******・吉田 香奈*******・平野 直己********. The Community Clinical Practice Gathering Wide Variety of Practitioners: the Structure and Development of“Shinta no Tsudoi”in the Eight Year Period. 要 約 「シンタの集い」は,北海道の子ども・若者にかかわる多職種・多領域の支援者がつながり,支え合 うコミュニティをつくるコミュニティ臨床の実践である.本稿では, 「シンタの集い」の構造と展開に 着目して8年間の経過を整理する. 8年間の経過の中で,開始当初につくった目標,運営,展望,対象についての構造は変化の展開をみ せた.「シンタの集い」の構造は維持することが難しい変容性の高いものであり,展開はつくった構造 が壊れ,時に自ら壊し,またつくって,そして壊れを繰り返すプロセスといえる.この構造と展開がコ ミュニティ臨床の実践の難しさであると考えられ,実践の難しさに対し1つの決まった形にこだわらな い,参加者との対話から解決を模索するあり方はコミュニティ臨床の「インフォーマルな性質」といえ る.. 1.はじめに. とするだけでなく,地域住民や学校,職場に属す る人々(コミュニティ)の心の健康や地域住民の. 臨床心理士の活動には,主に面接室を活動の拠. 被害の支援活動を行うこと」とされており,特に. 点とする臨床心理面接や臨床心理アセスメントだ. コミュニティの中で人とつながり,人をつなぎ,. けでなく,臨床心理学的地域援助がある.臨床心. そのつながりを通して人を支える実践は「コミュ. 理学的地域援助とは,公益財団法人臨床心理士資. ニティ臨床」と呼ばれている(下川 2012).. 格認定協会によると「専門的に特定の個人を対象. コミュニティ臨床は,面接室における活動とそ. *. Ryota GOTO:医療法人社団北陽会牧病院. **. Keitaro MORI:医療法人社団至空会. ***. Shino NAKAYA:北海道大学病院. ****. Hiroyuki SHINPO:小樽高等支援学校. *****. Hiroko SUGAWARA:医療法人トルチュ氏家記念こどもクリニック. ******. Atsuko YAMASHITA:医療法人北仁会旭山病院. *******. Kana YOSHIDA:江別市立病院. ********. Naoki HIRANO:北海道教育大学. キーワード:コミュニティ臨床,構造と展開,インフォーマルな性質. 53.

(3) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). の構造や展開が異なるため, 「主として一対一の. して,この領域における実践の難しさに対する一. 二者関係から構成される従来の心理臨床の現場に. 方策を提示したい.. おける対人関係よりも困難が多い」 (本城 2015). 2.「シンタの集い」はどのようにして始まっ たのか. など,その実践の難しさについては度々言及され ている(平野ら 2006,星野 2008,等).さらに 実践の難しさに対する具体的方策が見出されてお らず,研究の不十分さも課題となっている(丹治. はじめに「シンタの集い」を始める背景につい. 2004) .. て触れておきたい.筆者らは,前述した臨床心理. 臨床心理士がさまざまなコミュニティに出て活. 士によるコミュニティ臨床について課題を持つ中. 動するコミュニティ臨床の場合,直接的に被支援. で,2010年に北海道で開催された青少年にかかわ. 者への支援に取り組むだけでなく,コミュニティ. る全国の支援者が省庁を超えて集う研修会に参加. の支援者を支えるような支援や,被支援者と必要. 者や講師として関与する機会を得た.研修内容は. な人材とをつなげるような支援が求められること. 虐待,発達障害,ひきこもりやニート,自立支援. もある.このようなコミュニティ臨床は,専門的. など多様で,参加者も教育関係者,警察・司法関. な技術と知識を持つよう訓練された個人や組織化. 係者,福祉関係者,地域のNPO関係者など多彩. された施設が被支援者を支えるというモデルより. な人々が集まった.またこの研修会は2泊3日の. も,多様なアイディアや役割を持った幅広い人的. 合宿形式を取り,夜には有志で飲食しながらの交. 資源の協働によって被支援者を支えるとともに,. 流会が企画され,参加者は互いに日々どのような. その被支援者自身も人的資源の一人として他の被. 活動をし,活動の中でどのような困難を抱えてい. 支援者を支えるような円環的・相補的な支援モデ. るか語り合い,盛り上がりを見せた.この研修会. ルを強調することとなる.平野(2006)は,こう. に参加した筆者らは,普段かかわることの少ない. した人的資源のネットワークづくりを「ポテン. 領域や専門の支援者と出会えることの魅力,寝食. シャルスペース機能(懐の深さ) 」と呼んだ.こ. をともにしながら交流を深めることの面白さを実. のモデルに立つならば,10人の臨床心理士が集ま. 感した.また講師として参加した筆者らの1人は,. る場よりも,それぞれに異なる立場・役割・個. 研修会場となった教育施設の責任者とのあいだで. 性・スキル等を持った10人の支援者が相互理解と. 北海道の支援者を対象とした同様の研修会をつく. 相互協力によって集う場の方が創造的な実践が生. りたいと意気投合した.以上のきっかけから筆者. まれると考えられる.筆者らはこの発想を多様な. らは,他にもコミュニティ臨床の実践に関心のあ. 個人経営の商店が協力し合い多様なニーズに応え. る臨床心理士に声をかけて仲間を集め, 「シンタ. るコミュニティを形成する商店街に例えて, 「支. の集い」が動き出すことになったのである.. 援者の商店街計画」と呼び,2011年より北海道の. 次に「シンタの集い」を始めるにあたり,どの. 子ども・若者にかかわる多職種・多領域の支援者. ような目標や運営方針,展望などを持ったのか,. がつながり,互いに支え合うコミュニティをつく. その構造を説明したい(図1).筆者らは開始当初,. る「シンタの集い」の実践を開始した. 「シンタ」. 異なる職種や領域を専門とする支援者たちが自ら. とはアイヌの言葉で「ゆりかご」や「空飛ぶ船」. 主体的・積極的に関与し,交流し,つながり,支. を意味し, 「シンタの集い」があちこちを行き交. え合うことを目標とした.このことは,従来,臨. いながら人をつないでいくような場,いろいろな. 床心理士が支援者支援として行ってきた教育分析. 人の思いや可能性を抱えられるような場になって. やスーパーヴィジョン,コンサルテーションなど. いくことを期待して名付けている.. 「支援する-支援される」という役割がはっきり. 本稿では「シンタの集い」をコミュニティ臨床. とした一方向的な支援関係とは異なり,専門性や. の実践事例として取り上げ,その構造や展開に着. 役割を尊重しつつもそれにとらわれることなく互. 目して8年間の経過を整理する.さらにコミュニ. いに支え合う関係の構築を目指すことを意味して. ティ臨床の実践の特徴について考察することを通. いる. 54.

(4) 多様な支援者が集うコミュニティ臨床の実践. 3.「シンタの集い」の構造は8年間でどう 変遷したのか 「シンタの集い」を始めて8年が経つ中で,図 1で示した開始当初の構造はさまざまな変遷を見 せることになった.その構造の変遷についていく つかの側面から述べていきたい. ⑴ “みんな積極的に”から“それぞれの参加 の仕方に”へ. 図1:「シンタの集い」開始時の構造. 1つ目は目標にかかわる変化である.筆者らは, 運営については,前述した教育施設とタイアッ. 前述した背景や目標を伝えながら参加者を募った. プし,会場や運営費用の一部は教育施設からの提. こともあり,参加者各々が「つながりたい」「交. 供により始まることになった.また目標で掲げた. 流したい」という動機を持ち,主体的で積極的な. 支援者同士が互いに支え合うつながりを1回数時. 形で「シンタの集い」に参加することを想定した.. 間の単発の研修会の中でつくることは難しいと考. そのため参加者に「どのような企画をしたらいい. え,1泊2日の合宿形式を1年に1回,10年間続. か?」 「話を聞いてみたいゲストはいないか?」. けることを試験的に行うことにした.内容は講演. などの意見を求め,また参加者の日々の活動を報. やシンポジウムの他,プログラムとプログラムの. 告し,宣伝し,相談できる「実践報告会」という. 合間の時間を多く設ける,懇親会は席にこだわら. プログラムを企画した.それに対し,筆者らの期. ずに自由な食事形態であるバーベキューを企画す. 待に応えるように積極的に意見を出し,自ら実践. るなど,参加者同士の交流を促す工夫を組み込ん. 報告会の発表者を担う参加者も現れたが,一方で. だ.. 意見を述べたり役割を担うことには消極的な参加. しかし,筆者らのみで10年間「シンタの集い」. 者もおり,筆者らはこの参加者らの反応に戸惑い. の企画・運営を続けていくことは負担が大きいと. を覚えた.. 考えていたことと,また「シンタの集い」という. そこで筆者らは,参加者が「シンタの集い」に. 場を「提供する-される」という一方向的なもの. 何を求め,どのように関与しようとしているのか,. でなく,支え合いながらともにつくっていくコ. プログラムの合間や懇親会の中での会話,アン. ミュニティにしたいという考えを持っていたこと. ケートを通して参加者の声に耳を傾けることに努. から,徐々に参加者に企画・運営に携わってもら. めた.すると参加者の中から「前に出て役割を担. うこと,ゆくゆくは筆者らが手を放しても成り立. うことは苦手だが,フロアから一参加者として盛. つことを展望していた. 「シンタの集い」を神輿. り上げたい.毎回参加して学びたいしつながりは. に見立て,その担ぎ手を,企画者である筆者らか. つくりたい」といった意見が聞かれ,一見消極的. ら参加者へ受け渡していくようなイメージを描き, で受け身的に見える参加者でも,その人なりの主 筆者らは「神輿モデル」と呼んでいる.. 体的な目的を持ちながら参加していることが理解. 参加者の対象は,学校教員,NPOを立ち上げ. された.このことから,参加のあり方を一様に求. 活動している者,若者の就労支援や自立支援に携. めることを目指すのではなく,他の参加者の先頭. わる者,保護司,児童養護施設職員など,子ども・. に立って周りを引っ張ることが得意な者や一参加. 若者に直接・間接問わずかかわっている北海道内. 者として場を盛り上げることが得意な者など,そ. の支援者とした.. れぞれに合った仕方で参加することが可能なコ ミュニティを目指すことになった.. 55.

(5) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). ル」に近づいてきたのではないかと考え, 「神輿. ⑵ “1つの会場”から“持ち回り制”へ. 2つ目は運営,特に会場についての変化である. モデル」を具現化すべく運営にかかわるさまざま 筆者らは当初より,共催者として会場の提供を申. な負担を積極的に参加者に振り分けることを試み. し出てくれた教育施設を,1年に1回,北海道内. た.しかしその結果は筆者らの期待とは異なり,. の子ども・若者の支援者が集まる“聖地”のよう. 参加者の中には依頼した役割を断ったり,一応は. な場所にできればという思いを抱いていた.しか. 引き受けるものの迷惑そうな態度を示したり,実. し開始2年目, 教育施設側の人事異動によって 「シ. 際に不満を訴える者もいて,必ずしも協力的な反. ンタの集い」に理解を示していた施設長が転勤と. 応ばかりではなかった.. なったことをきっかけに,筆者らと教育施設との. 筆者らの期待に反したこれらの反応を受け,筆. あいだに「シンタの集い」に対する考えのズレが. 者らが改めて参加者の様子や言葉に目を向けると,. 生じるようになった.長期的な視点でつながりを. 参加者は開始当初から変わらず一貫して“参加者. 広げていくことを目指して顔の見える範囲から口. 同士がつながり,交流し,支え合う”ということ. コミでその輪を広げて行こうと考えていた筆者ら. を求めていることが再確認された.一方で,筆者. と,1回の研修会の参加者数を増やすことを期待. らはこの事態について話し合う中で,運営をめぐ. する教育施設とのあいだの見解の違いは顕著で. る自分たちの負担に対し「自分たちに代わって『シ. あった.両者のあいだで何度も議論を行い,意見. ンタの集い』という神輿を担いで欲しい」という. の相違の修復を試みたが,その溝は埋まることな. 思いが強くなり,それを目的化していたことに気. く,2回目の開催を最後に教育施設は「シンタの. がついた.筆者らと参加者とのあいだに生じてい. 集い」から撤退し,筆者らは会場と運営費用につ. た「シンタの集い」についての方向性のズレを修. いての安定した基盤を失うこととなった.. 正すべく,今一度参加者にとって「シンタの集い」. しかしこうした状況の中,ある参加者から「こ. というコミュニティをより充実したものにしてい. のような集まりは北海道のいろんな地域でやるべ. くという目標に立ち戻ることとした.そして筆者. き!」 「もしよければ来年は私の地域で引き受け. らは,開始当初から展望として掲げていた「神輿. たい」という声が挙がり,3年目から「シンタの. モデル」を諦め,10年間自分たちで企画・運営を. 集い」の会場は参加者の持ち回り制へと変わるこ. 担っていくことを決意した.. とになった. ⑷ “支援者のコミュニティ”から“より幅広 い参加者を受け入れたコミュニティ”へ. ⑶ “みんなに神輿を!”から“自分たちで10. 4つ目は, 「シンタの集い」の対象となる参加. 年間企画・運営する”へ 3つ目は「みんなに神輿を担いでもらおう!」. 者の拡がりに関する構造の変化についてである.. と考えていた「シンタの集い」の展望にかかわる. 表1は,1回目から8回目までの参加者数をまと. 変化である.会場が持ち回り制となり,その地域. めたものだが,3回目以降は概ね40人前後の参加. で活動する参加者の協力を得ながら,余市を皮切. 者が集まり,リピーターの参加者も新規の参加者. りに,帯広,旭川,函館,倶知安,釧路で開催し. も毎回一定数いることがわかる.また新規参加者. てきたが,会場によっては食事や寝床の準備など. の中には,開催地域で活動している現地の支援者. の会場設営を全て自前で運営しなければならなく. もみられ,会場が持ち回り制となったことによっ. なった.このような状況の中,企画運営を担う筆. て参加者が拡がったと考えられる.その他,リピー. 者らが余裕なく準備している姿を見かねてか,進. ターが知り合いを誘い,さらにその知り合いがま. んで手伝いを申し出る参加者が現れるようになっ. た別の知り合いを連れてくるという参加者の拡が. た.筆者らはこうした参加者の動きから,参加者. りもみられた.. が自分たちで「シンタの集い」をつくっていくと. また,北海道は面積が広く物理的な距離の問題. いう自覚を持ち企画や運営を担おうとしているの. により一部の地域からの参加者が得られないとい. ではないか,筆者らの思い描いていた「神輿モデ. う課題に直面した.そのため,参加者の現れない 56.

(6) 多様な支援者が集うコミュニティ臨床の実践 表1:参加者の内訳 参加者数. 1回. 2回. 3回. 4回. 5回. 6回. 7回. 8回. 全体(現地). 35(2). 26(1). 41(12). 43(10). 44(17). 41(7). 37(12). 42(11). リピーター. ─. 11. 18. 23. 22. 24. 25. 20. 新規. 35. 15. 23. 20. 22. 17. 12. 22. 地域に筆者らの方から出向いて現地の支援者に協. ミュニティの充実を求める声から,筆者らは企. 力を得ながら開催したり,開催する地域や現地の. 画・運営を参加者に受け渡すことを目的化してい. 支援者との交流を活発にするために現地の参加者. たことに気づき, 「神輿モデル」を展望していた. が行う事業とタイアップすることも試みた.その. 構造を自らで壊すことで,自分たちで企画・運営. 結果,従来想定していなかった若者支援に関心を. しながら10年間続けていく方向性を展望する構造. 持つ高校生や大学生,実際に悩みを抱えている若. に展開した.. 者や保護者,その他北海道外で子どもや若者にか. さらに参加者のいない地域との交流や参加者の. かわる支援者から参加の希望をもらうようになり, 事業とのタイアップなどを通して得られた「シン 「シンタの集い」の目的を共有した上で彼らを受. タの集い」に関心を持つ道外の支援者や学生,実. け入れていくことにした.こうした変化に,従来. 際に悩みを抱えている若者や保護者からの「参加. の参加者から否定的な反応が出ることも懸念され. したい」という声から,北海道内の子ども・若者. たが,リピーターたちは新たな参加者に積極的に. の支援者のみを対象とする構造を壊すことで,幅. 声をかけ,活動に誘うなど,歓迎する様子がみら. 広い参加者とつながり交流することができる構造. れた.以上のように,開始当初は北海道内の子ど. へと展開した.. も・若者の支援者を対象としたコミュニティをつ. 以上のことから「シンタの集い」の構造とは,. くろうとしてきたが,現在はより幅広い人々が対. 状況の変化に対応するために維持することが難し. 象となっている.. くなったものを破壊し修正していく変容性の高い ものといえる.そして「シンタの集い」の展開と. 4. 「シンタの集い」の構造と展開. は,つくった構造が状況の変化とともに壊れ,時 には自分たちから壊し,またつくり,そして壊れ. ここまで「シンタの集い」の8年間における構. て(壊して)を繰り返す,構造をつくり直してい. 造の変遷について整理してきた.要約すると開始. くプロセスといえる.. 当初につくった構造は, 「シンタの集い」の経過. 心理面接など面接室における活動では,一般的. の中で次のように展開したといえる.. に一度設定した構造を維持していくことが推奨さ. 例えば,一部の参加者からみられた消極的・受. れる.例えば福島(2008)は,クライエントとカ. け身的な参加態度にもその人なりの主体性がある. ウンセラーとの役割関係,時間や場といった構造. ことを参加者の実際の声から知ることにより,参. を明確にし,そのルールを守ることで,クライエ. 加者全員が積極的に意見を出し役割を担う参加の. ントとカウンセラーは温かい率直な相互作用を展. あり方を目指す構造は壊れ,参加者それぞれが得. 開することができると説明している.. 意な仕方で参加し,支え合うことを目指す構造へ. しかし「シンタの集い」では,一定の構造が外. と展開した.. 的要因によって壊れただけでなく,それまでに筆. またタイアップしていた教育施設との考えのズ. 者らが参加者とともにつくり上げてきた構造を自. レが生じ,1つの会場を中心にして10年間続けて. らの手で意図的に壊すという展開を見せた.従来. いく構造は壊れ,参加者から提案された会場の持. の面接室での活動では避けられるような構造を壊. ち回り制という構造に展開した.. すという行為は,筆者らと参加者とのあいだに生. そして運営に関する負担を強いられた参加者の. じたズレを修正するため,想定外の対象からの参. 否定的反応や参加者の「シンタの集い」というコ. 加希望に応えることでより幅広い人々と交流する 57.

(7) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). ために行ったものである.以上のような状況の変. マルな性質」は,異質性・多様性をもつコミュニ. 化に応じた,構造を破壊する行為は結果的にコ. ティに凝集性や一体感をもたらし,企画・運営す. ミュニティの成長へとつながったといえるが,こ. る者も参加する者も含めたコミュニティにかかわ. うした見通しの持ちにくい非常にダイナミックな. るすべての者が互いにエンパワメントし合うよう. 構造と展開が実践の難しさなのではないだろうか. な互恵的な場を生み出すポテンシャリティを持っ ているといえるのではないだろうか.. 5.コミュニティ臨床の「インフォーマルな 性質」. 6.おわりに. それではコミュニティ臨床の実践である「シン. 以上, 「シンタの集い」の8年間の構造と展開. タの集い」は,この実践の難しさをどのようにし. を通して,コミュニティ臨床の実践の難しさと,. て乗り越えてきたのだろうか.もちろんつくって. それに対応する「インフォーマルな性質」につい. きた構造が壊れる(壊す)ときにはさまざまなリ. て述べてきた.. スクも生じることが懸念される.しかし,8年間. 今回整理した紆余曲折しながら進んでいくコ. の経過の中で確認できるのは,参加者1人1人が. ミュニティ臨床の構造と展開は,思い通りになら. 得意なやり方で関与し,意見や不満があればそれ. ないことや大変なことに耐えながら次の転機を待. を表明し,何かアクシデントが起これば積極的に. つ,それを乗り越えた先にコミュニティとしての. 協力し,イレギュラーな出来事にはそれを歓迎し. 成長があるというプロセスを教えてくれる.. て楽しむ参加者の姿勢であった.また企画・運営. 開始当初の構造の中で展望として考えていた. を行う筆者らの側から見れば,そのような参加者. 「神輿モデル」は,筆者らから参加者へ企画・運. の反応や参加者の声を頼りにしながら,次第に参. 営を受け渡すという面では失敗したが,それを乗. 加者の姿勢を心強く思い,彼らとなら何かあって. り越えたところで,今では筆者らと参加者とが一. も一緒に何とかすることができると信じて,臨機. 緒に「シンタの集い」という神輿を担いでいる感. 応変に対応してきたプロセスともいえる.. 覚になってきている.このことは, “受け渡す神輿”. コミュニティ臨床の実践の難しさに対し,1つ. から“ともに担ぐ神輿”へと変化した「神輿モデ. の決まった形にこだわらず,会議など格式ばった. ル」という構造の展開を表していると同時に, 「シ. ところで問題を解決するものでもない,プログラ. ンタの集い」が互恵的な場になってきているとい. ムの合間や懇親会など「シンタの集い」の中で行. うコミュニティの成長を示唆している.. われる参加者と筆者らとの対話から解決を模索す. 「シンタの集い」は,まず10年間続けてみると. るあり方は「インフォーマルな性質」といえ,コ. いう試みで始めたが,それも残り2年というとこ. ミュニティ臨床の特徴と考える.. ろまできている.新たな課題も生じているが, 「シ. 「シンタの集い」は多職種・多領域の子ども・. ンタの集い」を通して学んだコミュニティ臨床の. 若者の支援者が集い,つながり,支え合うコミュ. 「インフォーマルな性質」が持つポテンシャリティ. ティを目指し,異質性や多様性を求めて始まった. を信じてこれからも取り組んでいきたい. 表1からもわかるように, 「シンタの集い」に参. 7.謝 辞. 加する支援者の輪は実際に拡がっており,右往左 往しながらもその目的に向かって進んできたとい える.これは「シンタの集い」の参加者に対し企. 「シンタの集い」は,2012~2016年度北海道教. 画・運営する筆者らが一方向的に提供してきたも. 育大学学長裁量経費(地域貢献推進経費),2015. のでなく,ここまで示してきた通り,企画・運営. ~2017年度科学研究費(基盤研究(C)課題番号. をする筆者らも参加者から力を得ながら,ともに. 15576772)の助成を受けている.. つくり上げてきたものである. このことからコミュニティ臨床の「インフォー 58.

(8) 多様な支援者が集うコミュニティ臨床の実践. 8.文 献 下川昭夫,2012,コミュニティ臨床とは何か(下 川昭夫編,『コミュニティ臨床への招待-つな がりの中での心理臨床-』 )新曜社,pp.3-18. 本城秀次,2015,序文(本城秀次監, 『心理臨床 における多職種との連携と協働-つなぎ手とし ての心理士をめざして-』 )岩崎学術出版社, pp.ⅰ-ⅱ. 平野直己・牧野高壮・菅原英治・高野創子・小田 切亮・後藤龍太・山元隆子・渡辺美穂・小林亜 希子,2006,心理臨床のローカルな観点-地域 実践から臨床心理学を再考する-,北海道教育 大学大学院研究紀要学校臨床心理学研究第4号, pp.23-37. 星野命,2008,児童・生徒・学生,そしてコミュ ニティのメンバーと組織の危機に「臨機応変」 に対応できる「心の専門家」に期待する(日本 臨床心理士会資格認定協会編『臨床心理士の歩 みと展望-財団法人日本臨床心理士認定協会20 周年記念-』 )誠信書房,pp.48-52. 丹治光浩,2004,連携の成功と失敗(丹治光浩・ 渡部未沙・藤田美枝子・川瀬正裕・大場義貴・ 野田正人 『心理臨床実践における連携のコツ』 ) 星和書店,pp.1-28. 平野直己,2006,地域と大学のポテンシャリティ を活かす実践活動:フリースペースの試み(中 田行重・串崎真志編『地域実践心理学・実践 編』 )ナカニシヤ出版,pp.63-76. 福島脩美,2008,カウンセリングの構造(福島脩 美『総説カウンセリング心理学』 )金子書房, pp.46-60.. 59.

(9) 学校臨床心理学研究 第16号(2018年度). SUMMARY The Community Clinical Practice Gathering Wide Variety of Practitioners: the Structure and Development of“Shinta no Tsudoi”in the Eight Year Period Ryota GOTO*, Keitaro MORI**, Shino NAKAYA***, Hiroyuki SHINPO****, Hiroko SUGAWARA*****, Atsuko YAMASHITA******, Kana YOSHIDA*******, Naoki HIRANO******** (*Maki Hospital) (**Medical Corporation Shikukai) (***Hokkaido University Hospital) (****Otaru Special Needs High School) ***** Ujiie Memorial Clinic for Children) ( (******Asahiyama Hospital) (*******Ebetsu City Hospital) ******** Hokkaido University of Education) ( “Shinta no Tsudoi” is a community clinical practice which built a community for social connects and mutual support of practitioners with multidisciplinary and from multiple area who are involved with children and youths in Hokkaido. In this paper, we report the structure and development of “Shinta no Tsudoi” in the eight year period. In the eight year period, the structures of the purpose, the government, the vision and the participants developed. The structure of “Shinta no Tsudoi” is difficult to maintain , and has high transformation. Further, the development of “Shinta no Tsudoi” has repeating processes of breaking and reconstructing the structure. It is considered that the structure and development are the difficulty of a community clinical practice. Against the difficulty, community clinical practice has “informal nature”, therefore it does not stick to a formality, and it explore ways of resolving through conversation with practitioners.. Key wards : a community clinical practice / a structure and development / informal nature. 60.

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