• 検索結果がありません。

「言語活動」を踏まえての保幼小連携を軸とした音楽科教育

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "「言語活動」を踏まえての保幼小連携を軸とした音楽科教育"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 「言語活動」を踏まえての保幼小連携を軸とした音楽科教育. Author(s). 木村, 貴紀. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 66(1): 187-194. Issue Date. 2015-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7813. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第66巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 66, No.1. 平 成 27 年 8 月 August, 2015. 「言語活動」を踏まえての保幼小連携を軸とした音楽科教育 木 村 貴 紀 北海道教育大学旭川校 芸術・保健体育教育専攻 音楽分野. Music Education, which was centered on Nursery, kindergarten and Primary school in light of the “language activities” KIMURA Takanori Department of Edition, Asahikawa Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 平成20年度改訂による小学校学習指導要領でのいくつかの改訂点の中での中核ともなる「言 語活動」だが,これは特に音楽科にとっては実験的ともなりかねないテーマといえる。また一 方でその就学期である小学校は,就学前の機関である保育所と幼稚園との強い縦の関係強化が 求められる,いわゆる「保幼小連携」の気運が高まっているが,それはやはり音楽科に於いて も例外ではない。小学校の全教科に共通して掲げられている「言語活動」は,就学前の保幼で も小学校の内容に準じるくだりが見られる。つまり,どの教科に於いても比重が置かれている 言語活動と,就学前後という線引きを飛び越えてでの接続や連携という2つの趨勢があるわけ だが,その中で音楽科が果たす役割とはどのようなものだろうか。実は就学前後という括りに よって生起した問題が,音楽科に於ける問題としてそのままあてはまるものがある。そのよう な問題を解く鍵を就学前後のそれぞれの機関に求め,音楽科の問題点としてどのように明らか にしていくことができるのかを展望する。. はじめに. に浸透度が深まっていることと目されるところで ある。そしてそれと同時に,昨今は次の改訂もが. 「言語活動」に言及しているのは小学校から高. そろそろ視野に入ってくる時期に差しかかりつつ. 等学校までに於ける現行の学習指導要領であり,. あるといえる。そのような学習指導要領に於いて,. これは従来には見られなかった試みでもある。と. 今次のいくつかの改訂点の中での中核でもありな. はいえ,現行の最も新しい改訂が平成20年に行わ. がら,実はとりわけ「音楽科」という教科にとっ. れたものであり,実際の実施年度が,校種別に見. ては実験性が高いアプローチにもなりかねないの. た時最も早期に着手されたのが小学校に於ける平. が,冒頭に挙げた「言語活動」なのである。. 成23年度だったことから,当然その後,年度ごと. それでは校種別に見た時,「言語活動」に立脚. 187.

(3) 木 村 貴 紀. しているのは,小学校での新学習指導要領が最も. ることができるのかを検討していく。. 早い段階かというと,その更に前段に位置する『幼 稚園教育要領』の中にも,それに準ずる文言が確 認される。それは『保育所保育指針』にも同様の. 1 保幼小連携. くだりが見られることから,最近とみにその活動. 保幼小での連携で,その活動の活発化について. が活発化しつつある保幼小連携がここに投影され. 先述したが,これは以前から提唱されてきていた. ていることが明らかである。この状況に鑑み,本. ものであって,特段斬新な取り組みというわけで. 稿は保幼小の連携を下敷きとして論を進めていく。. はない。だがそれは平成24年度の「幼児教育実態. 保幼小の連携については,平成10年に改訂され. 3 にも明らかであり,そこでは幼稚園園児と 調査」. た小学校学習指導要領と幼稚園教育要領の中に既. 小学校児童との交流実施率として75.8%という数. に関連したくだりが見出せる。これは,平成13年. 値が示されている。これは幼稚園教育要領・保育. 1. に文部科学省が「幼児教育振興プログラム」とし. 所保育指針・小学校学習指導要領などが一斉に改. て策定したことが,今日の保幼小連携の追い風と. 訂された平成20年度での同じ調査時には55.6%と. なったといえるだろう。それは特に「幼稚園教育. いう結果であったことから,園児と児童との交流. と小学校教育との間で円滑な移行や接続を図る観. 活動の活発化が顕著に表れていると認められる。. 点に立って,幼稚園と小学校の連携を推進する」. その交流の具体的な例としては,幼小の合同によ. との文言に明らかにされているが,それはその後. るイベントが催されたり,またはプロジェクト型. 自治体レベルに於いてもその重要性が認められて. の連携がはかられるなどという比較的「企画」色. おり,その浸透度がうかがえる。このことは,文. の強い取り組みが主な内容として挙げられる。確. 部科学省による平成21年度の「幼稚園教育と小学. かにそのような活動は,文部科学省から研究開発. 校教育の円滑な接続に関するアンケート調査」2に. 学校指定を受けた幼稚園や小学校による連携研究. 顕著に表れているものであり,そこでは都道府県. や実践という,いわば上意下達による意向の反映. で100%,市町村という単位でも99%というほと. として行われているとの見方はできるだろう。だ. んどの自治体から高い重要性を認識している旨の. がそれぞれの校種に於いて,そのそれぞれが就学. 回答がなされている。ところがそれほどの認識性. の前後の位置付けとしてどうあるべきかという明. の高さの一方で,その取り組みが充分に実施され. 確な自覚の芽生えがこのような活動となった表れ. ているとはいえないのが現状であることは,都道. であるということも,他方ではいえるのではない. 府県で77%,市町村で80%という実態に明らかで. だろうか。それは保幼小がそれぞれでの職務分掌. もある。この数値からは,幼小のそれぞれの現場. に終始するといっては語弊があるが,もし個々が. が幼小に於ける接続関係に対する理解を示しつつ. 個として独立した機関であるという認識にのみ基. も,現実としてその具体化の難しさに逡巡してい. づいていたとしたら,それは互いに切り離され孤. る様子がうかがえるところでもある。しかし教科. 立した機関の単なる並立にとどまったことだろ. の性質上,連続性や系統性がとりわけ求められる. う。だからこれは,制度的な枠組みを越えながら. 音楽教育に於いてであれば尚のこと,現在の状況. も,そこに主知性を付与させたと換言できる,能. 下でいかに接続性・連続性の高い取り組みをして. 動性と自発性を併せ持った取り組みの表れなので. いくことができるかが大きなテーマとして,幼小. ある。. という就学前後の機関に課せられているといえる。. ただそれらは一方で,「企画」という域をなか. ここでは小学校学習指導要領で提示されている. なか出ないものが多いのもまた事実である。幼児. 内容に鑑みて,それが就学後に於いては,就学前. の生活と児童の学習のそれぞれについて報告し合. での音楽活動からどのようなつながりを以て進め. う連絡会などが行われていればまだしも,就学前. 188.

(4) 「言語活動」を踏まえての保幼小連携を軸とした音楽科教育. の段階での「領域」から,小学校教育での「教科」. 学前後期の関係を対立的ととらえてしまうと, 「ま. へとどのように引き継いでいくのかという,接続. ず接続ありき」といういわば呪縛から逃れられな. 的な取り組みにはどうも至っていないように見受. いまま,上記のような何のための接続なのかが判. けられるところでもある。事実それは,再び先の. 然としない上での取り組みが続きかねないという. 「幼児教育実態調査」の中での「ステップ2:年. ことである。. 数回の授業,行事,研究会などの交流があるが,. 保幼という就学前の機関は,幼児の生活の中で. 接続を見通した教育課程の編成・実施は行われて. の欲求・自発性・好奇心などを重視して,それら. いない」という項目に対しての62.1%という数値. の伸長の先にやがて来る就学期に求められる生活. にも明らかである。ここからは,やはり先述した. や学習の基盤作りを担っている。それに対し就学. ようなどう踏み出したらいいかという懸念ゆえに. 期に入ると,そこでは知識・技能・態度といった,. 困惑する様子がうかがえるようでもあるが,これ. いずれ社会生活を送る上で欠くことのできない要. はそれまで踏襲されてきた取り組みにいまだ甘ん. 因の形成を,「教科学習」の体裁を以て学ぶこと. じていることが隠見したことの率直な数値だろ. になる。それゆえに,就学の前後の機関というカ. う。いずれにしても,企画や交流を幼小の懸け橋. テゴライズは,便宜性に比重を置いたことを理由. とする契機としてまずそこから出発するのはいい. とするひとつの線引きにとどまるものでは当然な. が,そのような「参加型」や「体験型」という範. い。それは,就学前後の機関がそれぞれでの明確. 疇を越えた,更に内容的にもう一歩踏み込んだ試. な役割分担を担うことで,それぞれの時期に特有. みが求められるといえる。. な取り組みに特化する意味を持つものでもあるの. それでは,単なる「企画」を越えて「接続」を. だが,だからといって分断ばかりに傾斜すること. 標榜した取り組みとはどのようなものだろうか。. なく,そこには同時に共通項も置かれなければな. ここでの状況とは,就学前後の機関それぞれが自. らない。だからというべきか,就学前に於いてで. らの立ち位置を変えることをしないまま交流など. は,小学校での「言語活動」へとスムーズに移行. をはかってみて,それで案の定平行線を崩せない. していけるような取り組みが就学前に求められて. という現実に苛まれている姿が浮かび上がる。あ. いることが,幼稚園教育要領,保育所保育指針と. るいは,接続の先に思い描くべき具体的なイメー. もに明らかな記述が見られる。よって就学前とい. ジが漠然としたままでいるのに,巷間で叫ばれて. う時期から俯瞰した時,やがて来たるべき就学期. いる幼小接続の気運が高まっていることで,その. を見据えての下地作りという前提がどうしても必. 潮流に乗り遅れまいとして明確なビジョンもない. 要であることは論を俟たない。その上で,柔軟性. まま取り組んでいる様子なども考えられる。しか. に富む幼児期だからこそでき得る,幼児の浸透力. しここは「就学前とは」とか「就学後とは」とい. に寄与する取り組みであったり,理解力の深化を. う範疇からいったん放たれて, 「接続へと結ばれ. 標榜した視座が求められることになる。確かに,. る取り組みとは」という焦点を先の範疇を飛び越. この時期の取り組みを,就学期を待たずして「学. えた上で具現化させようとする,建築的な俯瞰性. 習」というカテゴリーで括ることには問題がある。. こそが不可欠と思われる。 「就学前後の違いがあ. しかしこのいわば「取り組みの累積」が,ひいて. る」という前提に立った上で幼小を見渡そうとす. は就学前から就学後へのひとつの円滑な連絡とな. る視座は現実を直視していることでもあるし,ま. り得る一端となることは否めない。それは就学後. たそれはひとつの側面としても確かに必要であ. の時期からの視座にしても同じで,就学前の段階. る。しかしあまりにそれに縛られると,就学前に. でどれだけのことができるのかという進捗性や,. 於ける遊びが包含する教育的価値の見出し方を看. またはどのような目的に向けて進められてきたの. 過したり見誤ったりしかねない。換言すれば,就. かという方向性などを勘案した上でその先に累積. 189.

(5) 木 村 貴 紀. していくことが,保幼小にカテゴライズされた仕. はない。保幼という就学前のいずれの段階に於け. 組みの中でし得る縦断的な取り組みとして考えら. る音楽活動もが,遊びや生活と密接な関連の上で. れる。そしてこれは,音楽活動に焦点を絞ってみ. 取り入れられていることはいうまでもないところ. てもやはり同様のことがいえる。. だが,就学後には,音楽が「教科」という学習の 対象として取り扱われ始めることで,就学前後の. 2 音楽活動に於ける幼小連携と分離点. それぞれの教育機関が,やはり目指す点を必ずし も同じくしていないと見受けられる。つまり先の. 就学前後の音楽活動を述べる前に,その前段と. 幼小連携で示したのと同様の問題点がここでもそ. して幼小での「言語活動」について触れておく必. のまま当てはまっているのが認められるのであ. 要がある。. る。勿論そこには先にも触れたような就学前後そ. 小学校ではどの教科に於いても一様に「言語活. れぞれでの音楽的な能力の高さの違いは当然ある. 動」を根底に置くことが示されていることは先に. ものの,それを勘案してもこの音楽活動での分離. も触れた。とはいえこれを事項的な見地から俯瞰. の状況は,先に幼小連携に見られた状況のいわば. した時,全校種の中で小学校という校種に於いて. 縮図である。. 初めて取り組まれる新しい事項というわけではな. では,その幼小の分離した音楽活動についての. い。それは就学前に於ける取り組みの中にも,小. 事例を追うことにする。. 学校での「言語活動」の先駆的な活動を示す「言. 一例として,巷間に溢れるほどに活発な就学前. 葉」という事項が存在するからである。そしてこ. での音楽活動のひとつとしてリトミックが挙げら. のことは,就学前での活動が就学後でいうところ. れる。そもそも現在主に幼児期に於いて行われて. の「言語活動」と絡められてこれまでも行われて. いるリトミックとは,本来創案者であるダルク. きていることを意味する。しかしだからといって,. ローズのメソッドを様々な方向へと発展させてい. 就学前までの時期に既に生活に密着して,ことに. き,更に日本の土壌に合わせたものであるという. 遊びと連動して進められてきていたそれまでの活. 4 があるが,それはいわば 指摘(塩原 2008:44). 動を,就学後になって突如「学習」としての体裁. リトミックの拡大解釈版であるとも解され,日本. をとることを「言語活動」の狙いであると受け止. 式に変換された「もうひとつのリトミック」との. めるのは,無理があるとのそしりは免れないだろ. 指摘は昨今上がった声ではない。それはともかく. う。それではと,これをもう一方の就学前の観点. としても,就学前には一定の比重が置かれるほど. から見た時,小学校学習指導要領中に謳われてい. のリトミックではあるが,就学後にはそれと同じ. る内容を,逆に就学前の時期に前倒しで進めると. だけの比重としてはおろか,踏襲されることがな. 理解するのも,更に現実的に考えにくいところで. い。踏襲されないどころか,就学前でのリトミッ. ある。前章では就学前後の機関が互いを視野に入. ク活動を前提とした上で音楽学習に入るわけでも. れつつ取り組むことの重要性について触れた。し. なく,そもそも小学校での音楽そのものがリト. かし,保幼という就学前での教育機関が,就学期. ミックを基盤として進められない。それはあたか. のいわばプレスクールとして機能する機関では決. も就学後にはリトミックという音楽活動が消滅し. してない以上,前倒しにした取り組みは,保幼の. てしまったのかと見紛うほどであり,要は就学前. 存在意義を揺るがす問題にも発展しかねないと考. 後で切り離された活動として取り組まれていると. えられる。そして何よりも,学力と内容の両面か. いう状況が顕現しているのである。それは就学前. らどうしても限定されることで現実味を著しく欠. でのリトミックのあり方が,幼児を音楽に親しま. くということが,最大の要因として挙げられる。. せる契機としての手段であるという認識に,特化. だがこれはなにも「言語活動」に限ったことで. しているとまではいわないまでも,少なくとも起. 190.

(6) 「言語活動」を踏まえての保幼小連携を軸とした音楽科教育. 因してはいることがひとつの理由として考えられ. 前述したような2領域4分野からなる音楽という. る。これには,小学校学習指導要領中にリトミッ. 教科に於いては,児童が自発的にアプローチする. クが該当し得る項が存在しないことにも関係があ. ことができる機会が,質量ともにその幅を飛躍的. るだろう。一方で,リトミックの延長線上に往々. に広げることにはなる。特に表現の領域での実技. にして位置付けられることの多いサウンドスケー. 的な側面に於いては,技能的な向上が一層顕著に. プによる数々の事例を眺めた次第では,保幼小連. 見られるのがこの時期であることも疑いのないと. 携を踏まえての音楽活動への合致性が,そこには. ころだろう。しかしそれらが顕現しているのは,. 却って強く感じられる。それはこの活動が,日常. 就学後に学習という形をまとったことによって劇. の生活との関連の中から音楽的な素材を抽出して. 的に変化するわけでは当然なく,表現という形に. いく試みとして様々になされていることからも考. よって育まれてきた就学前での活動がその礎をな. えられるところではある。だがこれも,小学校学. しているからではないだろうか。確かに内容的に. 習指導要領内での項目とは内容的に一線を画する. は踏襲が適わなかった,あるいはリトミックとし. 材料を多く含有しているせいか,実践されるとし. ての形態こそ引き継がれてはこなかったという経. てもやはり副次的な位置を出るものではない。そ. 緯は否定できない。そのことでの,先の就学前後. のように,いずれにしてもリトミックは,就学前. でのリトミックの連続的・継続的な取り組みの欠. に於ける期間的に限定された占有的な活動と受け. 如はあったものの,その就学前での独自の音楽活. 取られてもいたしかたないような,就学前に特有. 動が音楽的素地を作り,それを育むことによって. な一音楽活動といった状況を呈している,あるい. 潜在力が培われたからこそ,就学後になってそれ. はその域を出ていないのが現状である。そしてそ. まで累積された音楽的素養が活性的に表面化した. れこそが,先に就学前後での分離の縮図と形容し. のである。従ってこれは,就学前後による相乗的. たゆえんでもあるのだが,就学前後という二者が. な取り組みが,実は連続性や継続性を伴っていた. 最終的に目指すところを揃って同じ地点に据えて. ことのひとつの証左ともいえることなのである。. おかなければ,そこにはスムーズかつ連続的な音. 就学前でのそのような音楽活動だが,幼児の感. 楽的連携が生まれにくいことの,これはひとつの. 性をはぐくむ過程として,「うけとめる(五感)」. 象徴的な例ともいえるものである。. 「かんじとる(感受)」「あらわす(表現)」(福士. とはいえ,リトミックのような,幼児が音楽に. 5 という音楽に関わろうとする主体性の 2003:6). 目覚める契機となる活動がなかったと仮定した. 育成が,就学前での活動で意図的に進められるこ. ら,ことに音楽的環境の素地がないまま育ってき. とによって,「聴き取り,感じ取り,表現し,共. た幼児にとっては,就学前での音楽活動はそれこ. 有しあう心情・意欲・態度が養われ」(同:7). そ貧しいものになってしまうことだろう。勿論就. ることにつながる。これらの育成内容の中でも,. 学前での音楽活動はリトミックが唯一のものであ. ことに「共有しあう」という項は就学後に集団学. るということでは決してない。しかし幼児を音楽. 習という音楽活動へと移行した時に欠くことので. に親しませるにあたって,またその下地作りをす. きない要素である。本来的には個人による営為で. るにあたっては,リトミックをはじめとする就学. ある音楽活動が,それを学校という集団によって. 前に於ける音楽活動が,後年になってその果たし. 取 り 組 む 際 に そ の 有 効 性 が 認 め ら れ る( 木 村. てきた役割を明らかにすることになる。それは以. 2014:193)6点で,これはひいては音楽に於ける. 下のように就学期で見られる。. 「言語活動」にも関連する事項であるといえる。. 就学後にいわゆる教科としての音楽に移行した. 逆説めくが,このように音楽活動が,学習形態に. ことで,遂に遊びという範疇を越えることのな. 影響を及ぼすという面も看過できないところであ. かったそれまでの就学前での音楽活動に比して,. る。. 191.

(7) 木 村 貴 紀. 3 言語活動に資する音楽活動,音楽活動に 資する言語活動. のワークシートとは,その設問に沿って児童が作 業を進めていくことで,教師の狙いとしているこ とへと児童が自然に導かれていく仕込みがされて. 再び「言語活動」を取り扱うが,ここではまず. ものであり,これについての事例も数多く報告さ. 小学校学習指導要領での「言語活動」が音楽編の. れてきている。そしてそこではいくつかのプロセ. 中で示されている箇所を導入とする。それは「楽. スを経て,その先にひとつの,あるいは自分なり. 曲を聴いて想像したことや感じ取ったことを言葉. の結論へと結ばれるように作成されているものが. 7. で表す」(傍線筆者・以下同じ)というくだりに. 多い。これは先にも触れたように,以前の「鑑賞」. 明らかである。この文言は,音楽という教科を構. にはあまり時間が割かれなかったことでの学習の. 成する「表現」と「鑑賞」という2つのうちの片. 深化の不十分さに対する見直しとして,そこには. 割れである「鑑賞」の領域について述べられてい. ある程度の時間を要するだけの内容が盛られてい. る。 「器楽」 「歌唱」「音楽づくり」の3分野から. る。つまり「鑑賞」にも自ずと一定程度の時間が. なる「表現」が,往々にして実技を伴う実践的な. かけられるようになり,「表現」と「鑑賞」間の. 領域であるのに対し,一方の「鑑賞」は単一の分. 比重的なバランスがより配慮されるようになった. 野がそのまま領域として独立している,音楽とい. ことの表れがここに顕著に見られるということで. う教科内でも実技を伴わない机上学習的な性格を. ある。そしてこれはとりもなおさず,小学校での. 含有する領域と位置付けることができる。つまり. 「言語活動」を踏まえているのみならず,このあ. 「言語活動」は「鑑賞」でこそ取り入れられる性. との中学校・高等学校でも引き続き行われる「言. 質を強く持つものであるばかりか, 「鑑賞」とい. 語活動」をにらんでこその,長期的な取り組みの. う領域が音楽という教科での一翼を担っているこ. 端緒ともいえるものである。. とから,音楽に於いても他教科と同程度の「言語. そしてそこでは何よりも,児童による音楽の捉. 活動」の比重の大きさが確認できる。そしてその. え方にこそ,注意が払われなければならない筈で. 「鑑賞」での取り組みとして,具体的には,ある. ある。小学校の,ことに音楽的な環境で育ってき. 特定された楽曲を対象として,それについての児. たわけではない児童にとっては,「音楽のよさ」. 童自身の思いを表すという活動が主に進められて. といわれても漠然としか響かないことだろう。し. いることが,様々な実践報告によって明らかであ. かし更にそこに音楽の言語化が求められてくるの. る。ただ,これは勿論「言語活動」を下敷きにし. であれば,漫然とした音楽の感受にとどまらず,. ていることには他ならないが,現行の学習指導要. 自分に対して咀嚼しての音楽の理解が必要にな. 領改訂以前に於いてでも,いわゆる鑑賞のあとの. る。それが実はこれまでに述べてきた「音楽を言. 感想文という形で従前から長きに渡って行われて. 葉で表現する」ことに他ならないのだが,逆説的. きたことであり,このままではその踏襲の域を出. にいえば,音楽を感受する過程に言語化を持ち込. るものにはならない。. むことで,「音楽」という抽象物をどう理解する. しかしこれが現行の学習指導要領に移行したあ. かという取り組みにあたっては強力な援用の役割. とには,それまでの取り組みに寄りかかるだけに. を果たせるものと思われる。それは,空気の振動. とどまらない,改訂内容に則った「鑑賞」のあり. 物であって,立ち現われては霧散してその痕跡を. 方が様々に考案された。その試みとは,教師側で. 残さない「音」と,それによる構築物である「音. 用意したワークシートを活用するという取り組み. 楽」という手にとって示すことのできないものの. に顕著なように,鑑賞した教材の単なる感想を書. 理解であるわけだから,やはりそこには具体的な. き綴ってそれを深めないまま終わるという従来の. 手段が必要であり,その意味でも最も身近な手段. あり方よりも一層踏み込んだ音楽活動である。そ. である言葉を用いて表すことの有用性が認められ. 192.

(8) 「言語活動」を踏まえての保幼小連携を軸とした音楽科教育. る。. にも恒常的に行われてきている。これはその季節. このように, 「言語活動」と結びつけられた音. について何らかの感触を幼児に伴わせることで,. 楽的理解が求められる就学後での音楽活動である. 幼児がその季節に対しての理解を一層深めること. が,その基盤とは,就学前の時期に育まれた,生. を標榜しての活動といえる。例えば,川や海など. 活や遊びと密接に関連した音楽活動によって培わ. という水が関連する楽曲を題材としたとする。そ. れるものなのではないだろうか。それでは次に就. の時に,単なる活字や口頭によってでのみそれら. 学前での 「言語活動」に相当する取り組みを追う。. を受け止めさせるのではなく,水遊びを通じて季. 就学前の機関に於いて「言語活動」が示唆され. 節感とともに水の質感を幼児が実感していること. たくだりとして,幼稚園教育要領中には「自分の. で,歌の歌詞に対するとらえ方がより現実味を帯. 8. 気持ちを言葉で表現する楽しさを味わう」とあ. びた,強い実感を伴ったものになってくることだ. り,また保育所保育指針中にも「感じたことや考. ろう。その季節感が幼児にとってたとえ漠然とし. 9. えたことを自分なりに表現して楽しむ」として示. たイメージであったとしても,その状況を扱った. されている。更に「自分のイメージを動きや言葉. 歌を実際に歌うにあたっては,幼児が幼児なりに. などで表現したり,演じて遊んだりするなどの楽. 受け止めた何らかのイメージを持っていれば,そ. 10. しさを味わう」 という文言に至っては,幼稚園. れを楽曲にあたった時にあるひとつの表現として. 教育要領・保育所保育指針のいずれにも同様に示. 反映させることが可能になるものと思われる。つ. されているとおりである。. まりそれまでの体験が,具体的な学びへと高めら. 幼児は,自分が表したいと思う内容や素材を自. れるだけの契機ともなり,一方でその学びを高め. 分の生活から感じ取り,それを表現する術を自分. るに際してのトレーニングの材料ともなり得ると. なりに考案した上で,なんとか相手に伝えようと. 考えられる。. 試みる。そしてそこにはしばしば音やリズムを. このように,一見どこにでもあるようでいて実. 伴っていることが確認されるが,ただ,そこでの. は音楽的であるともなり得る素材と,それを捉え. 音やリズムというものはどうしても偶発的で一時. る様々な子どもたちの受け止め方は,日常や遊び. 的であることが多いものである。しかし先に述べ. の中に無数に散布されている筈である。そのよう. た契機的なことを優先するのならば,幼稚園教諭. な体験をとおして得た生きた印象やイメージが,. や保育士は子どもがそのような表現を繰り返しで. 子どもたちが歌うときの心情や使用する言葉など. きる機会の頻度を上げたり,また表現するにあ. へと姿を変えて,ひとつの表現として結ばれるこ. たって使用する音やリズムの種類を増やさせるこ. とになり,それをひいては就学後での「言語活動」. とができるようなある程度の手引きをする必要が. と関連させた音楽活動へとスムーズへと移行させ. あるともいえるだろう。それは,あるいは人為的. ていけるのではないだろうか。ただ,これを就学. という見方もできるかもしれない。しかしそれに. 前後でのどちらかがどちらかに合わせるという認. よって幼児が自然に繰り返すことでその能力を高. 識のもとで行うと,互いに領空侵犯ではないが,. めることにつながるのであれば,様々な角度から. 就学前後の機関それぞれの持つ独自性が希釈され. 幼児の実体験を掘り起こし,鑑賞活動の興味や関. てしまうという問題などに発展しかねない。今述. 心を引き出す音楽活動の導入として,ある事項に. べた提案は,就学後の「教科」としての音楽へと. 焦点化させる試みが考えられなければならないの. 向かわせる,就学前でのひとつの下地作りにはな. ではないだろうか。. り得ると考えられるひとつの事例に過ぎない。だ. それでは次にその具体的な例を挙げてみたい。. が,就学前後というカテゴリーが大前提としてあ. 幼児期のことに歌唱面での音楽活動では,季節. る以上,それを踏まえた上でそれぞれの意義を,. 感を伴った楽曲を扱うという取り組みがこれまで. 互いがどこまで理解し協力するかが,どのような. 193.

(9) 木 村 貴 紀. 「連携」の体裁をとることができるかの鍵となる のではないだろうか。. 2 文部科学省『幼児期の教育と小学校教育の円滑な接 続の在り方について(報告)』第1章 幼小接続の現状 と課題 3.幼小接続の課題 3 文部科学省初等中等教育局幼児教育課『平成24年度 幼児教育実態調査』2013. 4 結 論. 4 塩原麻里『ジャック=ダルクローズ音楽教育論の心. 就学の前後を問わず,これまでの教育は分担・ 分断した形をとることをあたかも前提のようにし て行われてきていたことは,既に語り尽くされた 感もあり改めて述べるまでもない。それは年齢, 発達,教科,校種などという様々な局面に於いて 見ることができるが,特に校種の違いはその枠組. 理学的再考:脳神経科学との関連から』東京学芸大学 紀要.芸術・スポーツ科学系,60:43-49 2008 5 福士幸雄『幼小連携の進め方に関する研究―幼児児 童の感性をはぐくむ音楽的な活動をとおして―』岩手 県立総合教育センター教育研究 2003 6 木村貴紀『中学校音楽科に求められる[共通事項] に立脚した「批評」的鑑賞のあり方』北海道教育大学 紀要教育科学編65巻1号 2014. みを超えるという発想に結びつきにくいのか,そ. 7 『小学校学習指導要領』第2章 各教科 第6節 音楽 . れが校種単位の中で一つひとつの累積がなされる. 第2 各学年の目標及び内容 第1学年及び第2学年の. という,校種単位による括られ方がされていたよ. 目標と内容 2 内容 B 鑑賞 ⑴ウ,第3学年及び第. うに思われる。しかしそれを縦断した視座から眺 めての再構成がとしての試みが,今回触れてきた 就学前後の連携を軸とする教育,ひいては音楽教 育活動といえるだろう。ことに音楽教育では有機 的な連続性を欠くことのできない一方で,学びや 理解の段階に応じた変化に富んだ教育もが併せて. 4学年の目標と内容 2 内容 B 鑑賞 ⑴ウ,第5学 年及び第6学年の目標と内容 2 内容 B 鑑賞 ⑴ウ 8 『幼稚園教育指導要領』第2章 ねらい及び内容 言 葉 1 ねらい⑴ 9 『保育所保育指針』第三章 保育の内容 1 保育のね らい及び内容 ㈡ 教育に関わるねらい及び内容 オ 表 現 ア ねらい② 10 『幼稚園教育指導要領』第2章 ねらい及び内容 表. 重要となる。だからそこに,例えば校種として見. 現 2 内容⑻,『保育所保育指針』第三章 保育の内容 . られたような明確な線引きをした上で段階性を以. 1 保育のねらい及び内容 ㈡ 教育に関わるねらい及び. て行うのか,縦断的な事例のようなフレキシブル で無段階な活動を標榜するのかは,今後も引き続 き試行錯誤が繰り返されるものと思われる。いず れにしてもこれらの理念を理念で終わらせないた めには,連携と接続とが噛みあった,就学前後機 関双方による一層の共通理解と,何よりもこれま での慣習的な縛りを解かれた上でそれを実行する 能動性が望まれるところである。時代趨勢は縦断 性に傾斜しつつあるが,だからといってそのよう なカリキュラムの作成ありきで進めるのではな く,その前に就学前後の各機関それぞれが,互い にその実体を明らかにするところから始めなけれ ばならないのではないだろうか。. 参考及び引用文献 1 文部科学省「幼児教育振興プログラム」2001年3月 29日. 194. 内容 オ 表現 イ 内容⑩. (旭川校准教授).

(10)

参照

関連したドキュメント

専攻の枠を越えて自由な教育と研究を行える よう,教官は自然科学研究科棟に居住して学

 音楽は古くから親しまれ,私たちの生活に密着したも

市場動向 等を踏まえ 更なる検討

In 1894, Taki was admitted to Tokyo Higher Normal Music School which eventually became independent as Tokyo Ongaku Gakkō (Tokyo Acad- emy of Music, now the Faculty of

Amount of Remuneration, etc. The Company does not pay to Directors who concurrently serve as Executive Officer the remuneration paid to Directors. Therefore, “Number of Persons”

「旅と音楽の融を J をテーマに、音旅演出家として THE ROYAL EXPRESS の旅の魅力をプ□デュース 。THE ROYAL

 “ボランティア”と言えば、ラテン語を語源とし、自

「海洋の管理」を主たる目的として、海洋に関する人間の活動を律する原則へ転換したと