• 検索結果がありません。

『パルトノプー・ド・ブロワ』における驚異の役割

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "『パルトノプー・ド・ブロワ』における驚異の役割"

Copied!
14
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

『パルトノプー・ド・ブロワ』における驚異の役割

著者

武藤 奈月

雑誌名

フランス文学研究

37

ページ

14-26

発行年

2017-03-15

URL

http://hdl.handle.net/10097/00121915

(2)

バルトノフー・ド・ブ、ロワ』における驚異の役割

武 藤 奈 月

はじめに 『パjレトノプー・ド・ブロワ 1)j (Partonopeude Blois) は1182年から 1185年頃に書か れた平韻八音綴の物語 (roman)で あ る ? 作 中 で は , 当 時 の 物 語 作 者 が 好 ん で 取 り 上 げた主題であった古代ものの題材とブルターニュものの題材が共存している 『パjレトノプー』における驚異的なテーマ (merveilleux)ははっきりと読者の目に付 くようには現れていない.そのため,このテーマが作中で果たしている役割についての 研究は少ないが,中世文学においては,すでに初期のテクストから,妖精や巨人,怪物, 魔法使い,魔法の薬などが頻繁に出現する.語源的に「驚異J

(

(

(

merveilleux>>)とは,

1

驚 くべきものmirarUすべてを指しており,本来の意味は,超自然、的なものというよりも, 人間に恐怖や不安 跨踏を引き起こす光景のことであった ダニエル ・ポワリオンはそ の中世文学における驚異についての先駆的な著作のなかで,この語源とのつながりを維 持しつつ,驚異を恐怖への欲求と定義したり.ただしこの時点では,文学作品における 驚異は,モチーフとして扱われており,テーマにはなり得なかった.つまり, 驚異が主 題として,作品全体のス トーリーの展開に与えている影響について論じられることは少 なかった.その後の,ローランス ・ハルフ=ランクネルとビエール・ガレによる研究は, 妖精と人間との出会いの物語において 前者から後者に課された禁忌の侵犯に焦点を当 てた勺これらの業績は妖精が,驚異という用語を離れて独立し それ自体として研究 対象となったことを示している. し か し こ の よ う な ア プ ロ ー チ は , 諸 作 品 に お け る 女性登場人物像の描写についての議論に収束される傾向にある.一方,

r

バルトノプー』 に関する近年の論文で,ジャン=クロード ・ミュールターラーは,驚異が徐々に物語の 前面から消えていくことを示した.彼によれば,作中で驚異的なものが見られなくなる のは,主人公の青年期の終わりと一致している 驚異の消滅は青年期の終わりと相伴う.

r

バルトノプ-j は妖精の庇護のもとでの通 過儀礼の物語から始まり,そして性の発見から人生が大人に強いる妥協に至るまで の,壮年期への辛い移行を物語っている 5) この指摘は驚異と物語のストーリーの構成を結びつけて論じたという点で重要であ る. しかしここでは女主人公メリオールを登場人物からの呼び名にすぎない「妖精J, つまり超自然的な驚異と解釈して分析している.彼の解釈では 後ろ盾としての役割を 果たしていた「妖精

J

メリオー ル と の 別 れ が 大 人 へ と 成長する時点への移行を意味し ている. ところが そもそもメリオールは語り手によって妖精として紹介されているわ

(3)

けではないことに注意したい.驚異が消失するのは確かであるが,それだけではなく, 作者は最初から物語の辻棲が合うような合理的な説明の余地を残している.さらに,物 語世界の細部に着目してみると,二人の離別以降は,驚異と呼べるほかの要素も同時に 消えていることが分かる.本稿では 森や魔法の船 ランタンといったほかの事物も取 り上げた上で,物語全体の構成と結びつけた場合,驚異の消失がこの作品において全く 同時に起こっていることを強調したい.驚異の消失とともに,主人公たちが生活してい る世界も様相を変えている.まずは先行研究でもたびたび論じられた,本作中でバルト ノプーの恋人となるメリオールの人物像の分析を行う.そして驚異的なものが現れる場 面の状況に注目し,どのように表現されているのかを見たうえで,いかにそれが合理化 されて取り込まれているか またそれが消失 す る の が パルトノプーがメリオールとの 約束を破った時点と一致していることを示す. 1 .メリオールの人物像 主人公であるバル トノプーはある日,クローディス王が開催した狩りに参加するが, 途中で仲間とはぐれ,アルデンヌの森に迷い込む.若者が不思議な船に乗り込むと,や がて船は王宮へと彼を導く.森から別世界へと迷い込んだパルトノプーが出会う女性メ リオールは,その並外れた知識や能力から推測すると,妖精の特徴を残していると思わ れるが,作者は最初の登場場面から彼女を人間として表現しようと注意を払っている パルトノプーはシェフ・ドワールという魔法にかけられた街の王宮に着き,その部 屋で見つけた寝台に旅の疲れのあまり横になる.謎の生き物がそこへ滑り込んでくるの であるが,語り手は未知の<<arme >>が寝台に近づいてきたと言う. そのときとある者が一歩ずつ,少しずつ 寝台へとやって来た, しかし彼はそれが何であるのかは分からないの. 語り手はパルトノプーが感じた恐れを描くのに焦点を当てている.このわずか十三歳の 若者は森の中を一人でさまよったときも強い不安を感じており,今回は謎の生き物の姿 が見えないこともあって恐怖に怯えている 彼はこれが悪魔なのではないかと恐れ そして悪いときに生まれたものだと言う しかしそれは醜いとしても,美しいとしても, ひとりの乙女である 7) ラテン語の「運命

J

((<fatum>>)に由来する<<fee ))という語は,この作品では明白な否 定的なイメージを持っている.メリオールは以後,敵対する登場人物であるパルトノ

(4)

プーの母親と王の姪からしか<<fee>>と形容されない.語り手はすぐにその正体を乙女 (damoisele)と明かしている.彼女は実のところ, ピザンツ帝国の裕福な継承者,かつ魔 法の都市シェフ・ドワールの女主人であり 実際はパルトノプーに以前から恋していた. そこで,わたしはあなたを初めて見て,かわいい人, そこへ二週間いたのです. そこからわたしは立ち去って,あとで 王がアルピに来るようにしました わたしの術によって王は アルデンヌに狩りをしに行き 海へと導いた猪をあなたは わたしによって追ったのです そこでわたしはあなたに ここまでそっとあなたを運んできたその船を導いたのです このすべてのことを誰にも見られもせず聞かれもせずに わたしは行ったのです これまでの今までのところでは 決して見られることはないままでいます8) クローヴイス王をアルデンヌの森で狩りをするように仕向け,パルトノプーに猪を追わ せ,さらには彼を王宮へ導く船を準備したのも自分だとパルトノプーに明かす.パルト ノプーがこの王宮へ来るのを<(engien>>によってすべて仕組んだのは彼女である.そこ で彼女は,主人公や読者が抱くだろう自身の未知な性質への恐怖を見越し自分は悪魔 的存在ではないと強調している ですがわたしがあなたの魂が滅びるようにと お世辞を言い 何か悪い罪を犯させる 悪魔のものではないかと あなたが恐れていることは分かっています, けれどもそんなことをしたいのではありません. わたしはマリアの息子である神を信じています9) メリオールの証言によれば,彼女の<<englen>>には何ら悪魔的なところはない.作者は 謎を持った存在として描き その具体的な正体については宙吊りにしたまま物語前半の ストーリーを進めている.恋人となった後彼女は自分の姿を見ょうとすることをパル トノプーに禁止する 10) そしてこの約束を守っているという条件で,二年後, しかる べきときに正式に結婚することを約束する 11) この禁止命令はメリオールの口から繰り

(5)

返されている 12) 主人公は,シェフ・ドワールで,昼の聞は狩りをして夜にはメリオールのもとで学 んで過ごす. しかしフランスが懐かしくなり, 一年後にはメリオールに祖国へ戻る許 可を願い出る.メリオールは帰ってもほかの誰とも結婚しないようにと彼に言うが13) 興味深いのはここで彼に完壁な騎士となるための教訓も与えている点である 戦闘では勇敢であるようにしなさい 高貴さをもってみなから愛されるようにしなさい そして惜しみなく与えるようにすることを覚えておきなさい. わたしから多くの財産を得るでしょうから 財力が足りないのではないかと 心配してはいけません. 優れた騎士で あなたによって財産が与えられない人はいないようにしなさい. 貧しい人々に対して謙虚でいて, 彼らに対して織物や衣服を与えなさい. みなにたいして心地よく理解しやすいものでなければ 言葉というものを好んで用いてはいけません. 神と聖なる教会を敬い その正義を守りなさい 14) 武勲に秀でていることは十分ではない.メリオールは恋人に,出会う人に対して気前よ く親切であることを助言し倣慢という最も重大な罪を避け,神を拝めるようにすすめ る.この時点で未だに<<enfant >>と形容されるバルトノプーに感情教育のみならず,道 徳的教育を施すのがメリオールであり,いわば主人公を導く役割を担っている. 2.驚 異 的 な 事 物 次に物語世界を形成している「不可思議な faesJ 生物や事物,空間について検討して いきたい. クローヴイス王が催していた狩りの間,パルトノプーは猪を追っているうちに,ァ ルデンヌの森の奥深くへ迷い込む. 主人公が横断したアルデンヌの森は,プロローグ で語り手が「わたしがあなたがたに語る頃には 15)

Jと述べて半過去形で語

る時点では, 以下のように描写される. [アルデンヌには]象や獅子, 大蛇や竜, それに森にひしめいていた

(6)

ほかのとても驚異的なものゆえに 海を行き来していた者も 敢えて入ろうとはしないような, 樹海が広がっていた 森はぞっとするようで魔法にかけられていたけれども ただ十分のーの地区だけは呪われていなかった 住民はその地域が続いている通りに そこに境界線を設置していた 16) 森は,この他界との境界にあたる象徴的空間である.ここでは怪物,悪魔のような生き 物や想像上の動物であふれでいる.この空間では 狩猟という太古からヨーロッパ文明 に深く根を下ろしたモチーフが用いられている.不思議な動物の狩り, とりわけ白鹿 の追跡は,象徴体系のなかで恋の探求を意味しており,

r

エレックとエニッドj(Erecet Enide)や『ギ、ジ、ユマールj(Guigemar),

r

グラエラント j(Graelent)の冒頭にも見られる. 『パlレトノプ-j における猪の追跡は二段階に分けられている. まず,主人公は王の 見ている前で,慣習に従ってごく普通の猪を追いこれを殺す.この最初の狩りは,おそ らく二番目の狩りの奇妙さを強調している.その後 大きな猪を追って行ってしまう犬 を引き留めようと,バルトノプーは王の制止にもかかわらず同行者たちから離れ森へ迷 い込んで、いく.語り手は猪の色や形について描写せず,ただそれが大きな猪と述べるだ けである.通常,狩りは昼間に行われるものであるが,この不思議な猪を追っているう ちに日は暮れ夜になる.この時間の経過が 他界への移動を暗示している.文学作品 のなかで,猪は案内役の動物としては白鹿ほど多く確認されない.猪の狩りの場面は, 白鹿のそれに比べて主人公のロマネスクな恋愛とは結びつき難いように思われる.アン チーム・フーリエが指摘したように,猪は白鹿と比べて,むしろ通常の, 日常的な狩り という印象を与えている 17) そのため,この珍しい例は驚異的な要素を作者が緩和し ているように思われる.広く流布していた白鹿を用いずに,作者は敢えて猪を採用した のである 猪を追った後,パルトノプーは森の果てで船を見つける.この船は不思議な美しい オーラを漂わせており 18) 乗り込むと自動的に前へと進む. 船はまるで、魔法で、操っているかのように まっすぐこの方向へと進んでいく 19) 船には船員もおらず設備も全く何も付いていない.パルトノプーは最初に森を越え,次 には川を越えて行く.この不可思議な航海は森での狩りと二重になって異界への訪問を 示している 若者は乗った船の中で眠り込んでしまい その聞に船は輝く港に到着する.これが シェフ・ドワールという魔法にかけられた街への入り口であり,王宮は見事に美しいも

(7)

のの人の気配が全く無い.そのためバルトノプーは天国へ入ったのではないかと自問し つつ20) 自分が錯覚 (enganes) を見ているのではないかと心配する 21) この魔法のよ うな王宮への恐怖は繰り返し強調される. その若者は 悪魔が自分をあとで裏切るために この美しい見かけを作っているのではないかと大変恐れた22) 語り手は不思議な光景を見て,神の恩寵によるのか悪魔の魔法によるのか自問する主人 公を描くことに集中しており,これらの魔法が善であるか悪であるかは明かされていな い.王宮の部屋では空腹の主人公のために夕食が食卓に準備されており,主人公は見え ない手から給仕される 23) 食事のあとには,テーブルクロスが消え食卓が自然に下ろ される.疲れた主人公は,二つの動くろうそくの光に導かれて部屋へと入っていき 24) このろうそくは役目を果たすと消えていく 25) シェフ・ドワールのメリオールに結びついた魔法に加えて,人間の側の魔法も存在 している.パルトノプーとメリオールの関係に介入しようとして パルトノプーの母は 息子に魔法のランタンを渡す けれどもそれ[メリオール]を見たときは 恐れすぎないよう気を付けるように言う というのも悪魔は醜いだろうから そして彼[パルトノプー]にランタンを渡し それからその中で燃えているろうそくは どんな風でも消えないと すべてを間違いなく言う 2

バルトノプーはメリオールを見たとき,これを投げ捨てて光を消してしまう.このとき パルトノプーは恋人との約束を破り,同時にランタンを割って両方の側の魔法を象徴的 に破る.メリオールという登場人物についての可視性と不可視性との聞のゆらぎの消滅 は,物語世界では夢幻的な雰囲気から現実への移行を示している.メリオールがパルト ノプーに見えるようになった後,あらゆる驚異的要素は,二人のストーリーからは消え 去っていく. 3.驚 異 の 消 失 主人公の冒険の物語の途中から,魔法の船やシェフ・ドワールの自動で動く食卓, バルトノプーの母や王姪に妖精と形容されるメリオールの能力 魔法のランタンといっ た,あらゆる驚異は物語から消えていく.

(8)

一度目にフランスへ戻ると,バルトノプーは恋人のことを母親に話すが,姿を見せ ない彼女のことを悪魔だと断定されてしまう.母親は結婚を防ぐため,息子を王の姪 と結ばせようとする. この少女はパルトノプーが自分のものになると思ったときに「あ なたの恋人である美しい妖精の力から解放されたのね27)

J

(

(

(

Jetes estes de le baillie / La belle fee, vostre amie >>)と叫ぶのであり,メリオールを形容する((fee >>はパルトノプー の母の場合と同様に否定的な意味合いを含んでいる.この言葉を聞いたパルトノプーは 我に返り,後悔にさいなまれて全速力でメリオールのもとへと戻る.このときにパルト ノプーが乗った魔法の船はメリオールの力にまだ直接に結びついていた.パルトノプー が,帰省していたフランスから最初にシェフ・ドワールへ戻るとき,語り手は船の奇妙、 さを強調する. 船は[海を]渡りそして止まる 不思議な出来事をお聞きください 彼[パルトノプー]は擢が進むのを見るが 自分の騎士も 犬たちも馬も 下で船をこぐ者も見えないお) 最初にバルトノプーが裏切ったときは,メリオールは彼を許したため,航海はまだ不思 議な性質を持っていたのである.バルトノプーの機悔を聞いたメリオールは恋人の裏切 りを許し,恋人の母が自身に対して抱いている,悪魔なのではないかという疑惑を見越 している 29) 実際に パルトノプーが二度目にフランスへ戻ると 母親は相変わらず彼 女を妖精と見なしている.王の姪を使って恋人をあきらめさせるのに失敗した次には, 司教のもとへ行って助言を求める 30) そして司教から受け取った魔法のランタンを息 子に渡し,その光が恋人の美しい姿をあらわにする.その瞬間,王宮ではすべてが目に 見えるようになり,不可視性に結び付けられていたメリオールの神秘は消え去る.何も かもが顕わになったメリオ午ルは,自身の持っていたはずの知識やその由来をパルトノ プーに説明する.彼女はピザンツ帝国の唯一の継承者であり それゆえに父親から高度 な教育を受けていた. 今ゃあなたはわたしの望みなくわたしを見ることによって こうしてわたしの知識を奪ってしまいました もうこれから生きている限り決して 何もわたしによって作り出されることはないでしょう わたしはすべてを知っています, すべての思想,すべての技術を すべての書物のことをとてもよく知っています, けれどもこれらすべては何にもなりません,

(9)

もう節制し苦労して 徹夜して学んだ, 不思議なことをできないのですから あなたのせいですべてを失ってしまいました 31) メリオールの並外れた知識や技術は社会的地位から説明されており,それらを身につけ たのも努力によってである.メリオールの繰り返した約束にもかかわらず,ついにパル トノプーは家族の助言に従ってこの取り決めを破る.パルトノプーが約束を違反してか らメリオールは,恋人を臣下の目から彼を隠せなくなり,名前も知られていない若者を 選んだことで非難されることになる. もはや名誉を奪われてしまったメリオールは パ ルトノプーに絶交を言い渡す.ここでバルトノプーがフランスへ戻る時の航海はもはや 魔法でも不可思議でもなく,通常の様子で描かれる. 美しいユラークは船に入り すぐに帆を広げさせ, 優れた身体を持った船員たちに もしも順風であれば, 帆をナントまで 無事に広げているように命じる 32) 普通の人間である乗組員はメリオールの姉妹ユラークの指揮下にあり,船が無事に進む かどうかは自然界の風次第である.フランスに戻ってから,恋人を失ったことで狂気に 陥ったバルトノプーは,森をさまよう.この時点での二回目の森の描写では,語り手は 竜や大蛇といったあらゆる想像上の生き物の存在を巧妙に消していることに気づく.当 時ヨーロッパに生息していなかったとはしても,獅子や豹といった現実の動物の描写に とどめている. バルトノプーは蛇が自分たちの地域としている 海を渡る. 昼も夜もたいそうさまよったので 熊や 獅子,豹の生息地へと来た そこからいかなる臆病者も逃れることはできない. 何も彼のほうへと向かつては来ず 彼は蛇たちの聞を通り抜けた功 主人公のたと守った道のりは,当時,現実として表現された世界からそれほど離れてはお らず,他界の不可思議なものは社会の延長線上に位置している.当然,作中に表現され

(10)

ている現実と中世社会の現実は異なるが,この作品では,フィクションとして表現され た人間世界の枠組みで幸福な結末を得るため 驚異的な要素は徐々に弱められている. 人間界と超自然世界は対立するように見えるが,おとぎ話のような外見の下に,

r

パル トノプ -jは現実世界の延長線上に驚異的なるものを配置している.現実という枠組み の中に,他界の表現は吸収されていき,作者や読者が実際に生きているこの世界の一部 へと変化させられる.この現実の範囲内での驚異的なるものを取り込む際には,たとえ 不可思議な要素があったとしても 可能な限り真実らしく見えるよう 合理化されて表 現されるのである. パルトノプーを失った後 メリオールは結婚相手を探すように臣下たちに急かされ て,三日間の馬上槍試合を行うことに決める.パルトノプーの身元が公になってしまっ てからは,メリオールはもはや臣下たちの意見に従うことができなくなっている.かつ てパルトノプーを一目見て気に入り,彼を自分のもとへと導いたのとは大違いである 彼女は馬上槍試合という公的な場においてしか, 自身で正式な配偶者を選べなくなる. メリオールは主人公を導くというポジテイヴな面を持っているが 敵対者からは悪魔と 形容されている.語り手はメリオールがとある乙女であること以上のコメントをせず, その潜在的な悪魔性は登場人物を通して何度も繰り返し強調されるため,主人公である パルトノプーと読者はメリオールの言葉と敵対者のそれとどちらを信じるべきなのか 自問することになる.メリオールの本性に関する謎の解き明かしは物語の進行の度合い に応じて段階的に明かされる.メリオールという登場人物の不思議は,本人が説明して いるように,悪魔性ではなく単なる不可視性に結びついていた.そして,バルトノプー とメリオールが初めて出会ったのも その後に逢瀬を繰り返すのも夜であった.光がな ければ姿が見えないことは当然である.メリオールがたとえば自身の姿を隠す不思議な 力を使っていたからではなく 暗聞がメリオールの姿を隠していただけである.主人公 も読者も,恋人を見えないものだと思い込んでいたことで,メリオールは驚異となって いたのである.作者は女主人公とも呼べるメリオールに謎を残しつつも,最初の登場場 面からすでに超自然的要素を排除して人間化していることが分かる.最後には謎は消え 去り,主人公たちと変わりない存在となる 物語の前半において見られた不思議な雰囲気は若い主人公たちの激しい情熱を表現 していると言える.ひとたび青春期が過ぎてしまえば,彼らは社会規範と自分たちの情 念を調和させる必要がある.ふたりの登場人物の結婚は単に恋愛の結果ではなく,馬上 槍試合での主人公の勝利によるものでなければならなかった 幸福は [パルトノプーの]資質の結果ではなく,妖精による予想外の介入は,選ば れたことと幸運の表れである.

r

パルトノプー』の第二部は驚異的な筋をやめて,幸 福と愛とは正当化され得るものであって 試練によって獲得できるものだと思わせ ている 34) パルトノプーもメリオールも物語の前半と後半では変化する.物語の後半はバルトノプー

(11)

とメリオールの二人に課された試練を語っているのである.バルトノプーが約束を破った ために,メリオールは恋人から離れなければならず パルトノプー自身は狂気に陥って自 殺を考えるほどになる.バルトノプーは恋人の愛を取り戻すために,人間界の枠内で自身 の騎士としての資質を示せるときを待つ必要がある.メリオールの方は, もはや恋ゆえに 自由奔放に振る舞うことはせず, 自身で意思決定のできない王女として描かれる 物語の後半から消滅させるのであれば,作者はなぜ驚異的なものを最初は部分的に 導入したのだろうかという疑問は生じる.驚異は古代の異教由来であれ,民間伝承由来 であれ,キリスト教イデオロギーが社会を規定していた当時においては,

I

いま・ここ」 を離れた魅力があった.当時の作者として作品内に導入したのは流行に従ったのだとす れば,いわば当然の選択とも言える.驚異はまず読者を惹きつける役割を果たしてお り,その消滅によって道徳的教訓を示していることが分かる.パルトノプーは「妖精J と呼ばれるメリオールを得るために,その庇護を離れて,自分の力で恋人を獲得するた めに武勇を証明する必要がある.後半から騎士道の理念に沿った物語を展開していった のは,読者を教化するという道徳的な意図があったのだろう.与えられたものを享受す るのではなく,自ら努力することの重要さを説くという教訓的色合いが,驚異の消失に よって分けられている物語の前半と後半という構成に見て取ることができる お わ り に これまで,

r

パルトノプー』の作者が驚異的なものをいかに巧妙に取り扱っているか を見てきた.はじめに述べたように,本作品中における驚異は明白なかたちで表されて いない.むしろ,そのように巧みに驚異を取り込み,おとぎ話のような様相を取りつつ も,宮廷風騎士道の理想に沿ったストーリー展開を用いていることは,少なくとも現代 のわれわれの目には作者自身の創意工夫として考えられる.驚異は物語に魅力を与える ためだけの装飾ではなく 物語の世界への導入的な骨組みとして機能する役割を持って いる.作者は,驚異のテーマを用いて読者を惹きつけつつも,物語の流れに応じて意図 的に驚異を消し,パルトノプーという一個人の物語を中世社会の枠組みの中で展開させ ていく.物語を進め楽しませながらも教訓を与えるという技法が作品に新しい意義を 付与していると言えるだろう (東京大学大学院人文社会系研究科博士前期課程) 註

1) Le Roman de Partonopeu de Blois, editeet traduit par OlivierCOLLET et Pierre-MarieJORIS,

Librairie Generale Francaise, 2006. 以下,

r

バルトノプ-.]の引用はこの版による この作品は写本によって異なる展開を示しているため,校訂版では約3,500行まで はA (アルスナル)写本を一つの底本としつつも その後は適宜B (ベルヌ)写本

(12)

及 びT(トウール)写本の両方のテクストを本文として採用している. A写本はパ ルトノプーとメリオール及びユラークといったそのほかの登場人物たちの婚礼で終 わる典型的なハッピーエンドを示す. しかしながら 写本伝統の上では孤立してお り,改作者によるテクストなのではないかとまで言われている.一方で,ほかの六 写本は長さが異なるものの メリオールを妻にと望んだスルタンの復讐劇を描いて いる.本稿では,特に断りの無い場合,A写本に基づいて校訂されたテクストを示し, そのほかのテクストの場合はその旨を記す.なお日本語訳の際には校訂版で[]に入 れられた部分も訳出した 2)以下 『パルトノプー』と略記.この作品については 松原秀一「ブロワのパルトノ プー

J

r

流 域

1

n0 62, 2007・2008年, pp.18・27を参照.

3)Daniel POIRION, Le merveilleux dans la litteraturej均ncaisedu Moyen age, PUF, 1982, p. 4.

4) Laurence HARF-LANCNER, Les Fees au Moyen Age.MOl宮αneet Melusine. La naissance des fees, Champion, 1984お よ び PierreGALLAIS, La Fee a la Fontaine et a 1 'Arbre.Un archetype

du conte merveilleux et du recit courtois, Amsterdam, Rodopi, 1992.

5)Jean-CLAUDE MUHLETHALER, <<Translitterations feeriques au Moyen Age : de Melior a

Melusine, entre histoire et fiction,>>inEtudes de lettre[en ligne], 3-4I 2011, mis en ligne le 15 decembre 2014, URL: http://edl.revues.org/198 ; DOI: 10.4000/eld.198.

6)<<A tant une arme vint al lit/ Pas por pas, petit et petit/ Mais il ne set que ce puet estre,>>

vv. 1121・3,p. 126.

7)<<Ilcrient que ce ne soit maufes / Et dist que male eure向nes,/ Mais ce est une damoisele, /

Quels qu'ele soit, u laide u bele,>>vv. 1127-30, pp. 126-8.

8)<<La vos vi primes, beaus amis, / Et i demorai .xv. dis. / D'iluec m'en ving, et fis apres/

Que li rois vint en Albiges./ Par mon engien fu que li rois/ Ala chacier en Ardenois; / Par moi sivistes le saingler/ Qui vos amena vers la mer./ La vos fis amener la nef / Qui ca vos aconduist soe王/Tote ceste oevre fis jo si/ C'on ne m'i vit ne ne m'oi./ Des dont dusque or me sui tenue/ Si c' onques puis ne白iveue ,>>vv. 1377-90, p. 140.

9)<<Mais je sai bien que vos cremes / Que jo ne soie aucuns maufes / Qui tant vos face par

losenge/ Qu' en aucun mal pechie vos prenge/ Por faire vostre arme perir, / Mais ne vos voel de ce servir./ Je croi en Deu, le fil Marie ,>>vv. 1529-35, p. 148. 10)Vv. 1441・6,p. 144. 11) Vv. 1469・75,p. 144. 12)Vv. 1725-30, p. 158. 13)Vv. 1901-4, p. 166. 4)<<Gardes qu'as aロnessoies pros/ Et par francise ames de tos/ Etsovenans de bien doner, / Et ne vos estuet pas douter/ Que vos n'aies asses de coi : / Asses avres avoir par moi./ Ne soit bons cevaliers troves/ Cuivostre avoirs ne soit dones./ Humles soies vers povres gens; / Dones lor dras et gamimens. / Vostre parole n' aies chiere, / A trestos soit douce et pleniere./ Ennores Deu et Sainte Glise, / Et maintenes li se francise,>>vv. 1913-26, p. 168.

(13)

15) V. 507, p. 96.

16)<<1 par avoit de forest tantI Que cil qui erroient par mer I N'i ossoient pas ariver, I Por

elefans ne por lions, I Ne por guivres ne por dragons, I Ne por autres mervelles gransI

Dont la fores ert formians.I Ele estoit hisdouse et faee ; I La disme pars n' en ert antee.I Li paissant i missent mers I De tant con duroit li convers>>,v. 508-20, p. 96.

7

)Anthime FOURRlER, Le Courant realiste dans le roman courtois en France au Moyen age,

Nizet, 1960, p. 389. 18)Vv.7004,p.106. 19)<<La n己sen vait droit cele partI Con s'on le conduisist par art>>,vv.769・70,p. 108. 20) V. 874, p. 114. 21) V. 926, p. 116. 22)<<Li enfes crient molt que diablesI Li aient fait cest bel samblantI Por lui del tot trair avant>>, vv. 1050-2, p. 124. 23)Vv. 1041・9,p. 122. 24) Vv. 1059・61,p. 124. 25)Vv. 1093:..4, p. 126.

26)<<孔1aisgart soi quant l' avra veueI Qu' il[ne]soit trop espoentes, I Por co que laisert li

maufes.I Une lanteme a tant li baille, I Puis li a dit que tot sains failleI La candelle qui art dedansI N' estaint por ores ne por vens>>,vv. 4460-6, p. 306. 27)Vv. 4049・50,p. 286. 28)<< Li bateaus oire et il repose.I Oir poes estrange cose : I Il voit les avirons nagierI Et ne voit pas son cevalierI Ne ses levriers ne son cevalI Ne ceus qui nagent contreval>>, vv.4127-32,p.290. 29)Vv. 4253-4, p. 296. 30) Vv. 4353-8, p. 300.

1) <<Or m'aves si tolus mes sensI Par moi veir sains mon asensI [Que jamais nul jor de ma

vieI Par moi nen iert ouvre bastie].I Je sai molt bien totes mes pars, I Tos les engiens, totes les ars.I Tos mes livres sai je molt bien, I Mais tot ico ne pris jo rienI Quant n'en puis faire les mervellesI Que j'ai apris par tantes velles, I Par geunes et par travals.I Tot ai perdu par vos assaus>>, vv. 4647-56, p. 316.

32)<<La bele Uraque entre en la nef I Et fait tost defermer le tref, I Et bien comande as

notonniers, I Si cum il ont lor menbres chiers, I Qu'illemetent, s'il ontbon vent, I Duc'a Nantes paisiblement>>,Texte deB, vv. 5143-8, p. 342. 3 )<<Parthonopex passe les mersI Ou li se中entont lor convers.I Tant a e汀己 kenuis ke jorsI Qu' il est venus al hant des orsI Et des lions et des liepars. I D' iloc n' eschape nus coars.I Passes s'en est parlesserpensI K'ains nus versluin'en gita dens>>,Texte de B, vv. 5743-50, p.376. 4 )Jean-CLAUDE孔1UHLETHALERαrt.cite.

(14)

Les formes e

t

l

e

s

r

o

l

e

s

du m

e

r

v

e

i

l

l

e

u

x

dans

Partonopeu de B

l

o

i

s

N

a

t

s

u

k

i

MUTO

Dans cet article, notre travail consiste a mettre en evidence les formes et les roles de la representation du merveilleux dansPartonopeu de Blois (ca. 1182-1185). Ce roman est marque par son univers particulier mele de realite et de songe. L' auteur anonyme unit l'arriとre-planpolitique et 1 'histoire antique legendaire. Le theme merveilleux est une composante omnipresente dans la litterature medievale. Il se reconnait a l' apparition de fees, de geants, de magiciens et de monstres, au voyage vers l'au-dela ou aux objets magiques.Partonopeu suit le fil conducteur d'un recit dote d'elements merveilleux. Pourtant, l'auteur est invite a valoriser les valeurs de la chevalerie. Il s' en eloigne pour developper 1 'histoire individuelle du heros aprとsqu'il a pro白tede son charme et attire l' attention du lecteur. Afin de demontrer ce procede de la rationalisation du merveilleux, nous viserons d' abord a montrer le caractとreambivalent de Melior, appelee<<fee>>uniquement par ses ennemis. Et puis, nous nous concentrerons sur les0句etset les espaces, qui entourent ce personnage principal et sur leur recul dans le recit de Partonopeu aprとsla separation de deux amants. A travers ces analyses, nous nous proposerons finalement, de lier le merveilleux avec l' ordre intrinsとquede l'univers romanesque. Le merveilleux est finalement a la rupture avec l'ordre etabli pour avoir un denouement dans le cadre du monde humain. D'ailleurs, les frontiとresentre le monde humain et le monde merveilleux se situent dans le prolongement du monde normal.Ces espaces peuvent montrer le rapprochement du merveilleux vers le monde humain. Il nous est possible de voir une absorption du merveilleux dans le cadre de la r己alite<<fictionnelle>>.Elle devrait etre coh己rentea l'interieur du recit et transform伐

参照

関連したドキュメント

これらの定義でも分かるように, Impairment に関しては解剖学的または生理学的な異常 としてほぼ続一されているが, disability と

と言っても、事例ごとに意味がかなり異なるのは、子どもの性格が異なることと同じである。その

であり、 今日 までの日 本の 民族精神 の形 成におい て大

、肩 かた 深 ふかさ を掛け合わせて、ある定数で 割り、積石数を算出する近似計算法が 使われるようになりました。この定数は船

しかしながら、世の中には相当情報がはんらんしておりまして、中には怪しいような情 報もあります。先ほど芳住先生からお話があったのは

巣造りから雛が生まれるころの大事な時 期は、深い雪に被われて人が入っていけ

モノづくり,特に機械を設計して製作するためには時

単に,南北を指す磁石くらいはあったのではないかと思