Japan Advanced Institute of Science and Technology
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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 電気電子・情報通信分野の研究開発における日本の変 化とその内訳分析 Author(s) 野村, 稔; 白川, 展之; 奥和田, 久美 Citation 年次学術大会講演要旨集, 25: 682-685 Issue Date 2010-10-09Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/9387
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2E15
電気電子・情報通信分野の研究開発における日本の変化とその内訳分析
○野村 稔,白川展之,奥和田久美(科学技術政策研究所) 1.はじめに 著者らは、電気電子・情報通信関連分野で世界 最大の学協会であるIEEE(電気電子技術者協会) における定期刊行物の文献の推移から、この分野 の世界のトレンドを探ってきた(これを以下では 「前回検討」と呼ぶ:参考文献参照)。今回は、 IEEE の変化のなかでも特に日本の変化の特徴に 着目し、その背後も含めて詳しく内容分析した。 具体的には、日本の文献生産における主体、企業 と大学における文献生産の内容等を分析し、日本 の変化の実態を洗い出すことを目的とした。 2. 前回検討で見出された IEEE における変化 2.1. IEEE 全体の変化 前回検討の結果から、IEEE 全体の変化を概観す ると研究の量的拡大・多様化が起こったことが分 かった。主な内容は、次のようにまとめることが できる。 1988 年以降、IEEE の定期刊行物の数は、ほぼ 倍増。特に 1992 年以降の 5 年間と 2002 年以降 の 5 年間の2つの時期に刊行物数が増加。 IEEE 全体では、「コンピューター」「通信」「信 号処理」といった情報通信関連分野の定期刊行 物が大きく伸長。 会員数は減少傾向だが、文献数は飛躍的に増大 し、1 人当たりの発表件数は増加。 総文献総数は、量的にも地域的にも拡大傾向。 特に 2002 年以降の文献数の伸びが顕著。 IEEE では、グローバル化が進展し国際競争が 激化。北米中心の学会から「世界の学会」に。 2.2. 日本の特徴 上記した IEEE 全体の変化に対し、日本は特異 な傾向を示している。参考文献2(p.134)には、以 下のように傾向がまとめられている。 電気電子関係が多く情報通信関係が少ない という、世界の中で特異な日本 超伝導やロボット工学などの特定の領域に おいて強みを発揮し、独特の「選択と集中」 が起こった日本 電気・電子系で世界2位から東アジアの1国 へと変化した日本 産から学へと主役交代したが、領域が変化し なかった日本 3. 日本に起こった変化の実態分析 3.1. 文献生産主体の変化 図表1は、IEEE における日本の文献データを 産学官のセクター別に分析した結果である。1990 年代後半以降に企業の文献数が落ち込み、それを 大学等が代替して日本全体での文献数をほぼ一 定に保っている。つまり、電気電子・情報通信に おいて研究開発の主役と言われてきた企業から、 大学等へその中心がシフトしており、「産から学 へ」の主役交代が起きたと考えられる。 図表1 日本のセクター別文献数の推移 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1992年 1997年 2002年 2007年 文 献 数 全体の文献数はほぼ一定 大学 企業 公的セクター 以降では、文献数で大部分を占める企業と大学 における変化を更に詳細に分析する。 3.2. 企業の変化 図表2では、1992 年に対し 2007 年における企 業の文献数の変化を大きく 3 つに分類して示す。 分類1は、NTT グループ(以下、NTT とする) の文献数の変化である。NTT の文献数の減少は、 日本の企業の文献数の減少の過半を占めるほど 大きい(後述)ため、単独でその変化を示している。 文献数の低下の中でレーザー・光学領域が特に大 きい。また、デバイスや通信での文献数も落ち込 んでいる。一方、信号処理は増加しており、2007 年でも日本のトップの文献数を生産している。 NTT の文献数の推移は、光通信技術の確立・成熟 化と事業ドメインの再定義に伴う戦略転換の結 果と捉えられる。 -682-分類2は、6 位以下の企業の状況を示す。デバ イス、磁気学・光学、家電・その他の領域での減 少が多くみられる。 分類3は、2 から 5 位の企業の状況を示す。磁 気学・光学、デバイス、レーザーなどの領域で文 献数が減少している。 図表3は、2007 年における文献数でトップ5 の企業グループの 1992 年から 2007 年までの文献 数の推移を示している。 1 位の NTT の減少幅は非常に大きい。2 位から 5 位までの企業の減少も大きいが、近年、これらの 企業には特徴的な変化が表れてきている。海外研 究所からの文献数の増加である。各社とも海外比 率を大幅に伸ばしてきており、特に NEC が際立っ ている。そして、日本の文献数は減少してはいる が、グループ全体としての文献数を維持または増 加させている。文献の領域からみても、国内、海 外での研究領域の重複は少ないため、国内外での 研究領域の棲み分けによるグローバルな R&D が行 われていると考えられる。 (注:前回検討では海外分は日本の文献数に加算 していない) 3.3. 大学の変化 図表4は、年間文献数が5以上の日本の大学と その文献数の推移を示す。図表から大学の数は 1992 年に 13、1997 年に 28、2002 年に 30、2007 年に 34 と着実に伸びており、研究の裾野拡大が 起こっている。しかし、上位の大学での文献数の 伸びは世界レベルに比べると低い。 図表5は、1992 年と 2007 年における大学の文 献数の領域別変化である(特徴的な領域を抜粋し て示す)。超伝導、絶縁・誘電体、ロボット工学 図表3 企業グループの文献数の推移 (2007 年における文献数でトップ5の企業グループ) 0 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 文 献 数 NTT 海外 日本 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 文 献 数 日立 海外 日本 0 10 20 30 40 50 60 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 文 献 数 東芝 海外 日本 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 文 献 数 NEC 海外 日本 0 10 20 30 40 50 60 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 文 献 数 三菱 海外 日本 図表2 企業の文献数変化の内訳(1992→2007) 602 -94 -12 -44 9 -47 -31 -31 -20 -47 -20 264 0 100 200 300 400 500 600 700 0 100 200 300 400 500 600 700 1992 年 レ ー ザ ー ・ 光 学 通 信 デバ イ ス ・ そ の 他 信 号 処 理 デ バ イ ス 磁 気 学 ・ 光 学 家 電 ・ そ の 他 磁 気 学 光 学 デ バ イ ス レ ー ザ ー ・ 磁 気 2007 年 文 献 数 1992年 2007年 NTT(1位)の変化 6位以下の変化 2~5位の変化 (日立・東芝・NEC・三菱)
分類1
分類2
分類3
(専門領域別に文献数をカウント。黄色は減少分) -683-の領域では純増し、大きく伸びている。この領域 へ多くのパワーが投入されたことがうかがえる。 また、電子デバイス、通信などの領域の伸びも大 きい。磁気学、レーザー・光学などの領域ではほ ぼ横ばいの状態である。 以上、全体的には大学での研究の裾野は拡大し ているが、研究領域でみると、世界動向である情 報通信関連が少なく、電気電子関係、特に超伝導、 絶縁・誘電体などの特定領域に偏っているように みえる。 3.4. 企業と大学の変化における相関 参考文献 2(p.137)では、日本のセクター別文献 数推移を示し、企業と大学との文献数の変化を比 較している。図表6にその一部を抜粋して示す。 電子デバイスと通信では企業の文献数の減少 を大学が補完している様子が明確にみられる。一 方、レーザー・光学では、企業の大幅減に対して も大学ではほぼ一定を保ち、全体的に大きく落ち 込んでいる。これらの領域における企業の文献数 は、図表2に示すように大幅に減少しており、図 図表4 日本の大学の文献数の推移 78 55 42 35 26 25 25 19 19 17 17 12 10 10 10 10 9 8 8 8 7 7 7 7 6 6 6 6 5 5 5 5 5 5 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 東京大学 東北大学 東京工業大学 京都大学 慶應義塾大学 大阪大学 名古屋大学 九州大学 北海道大学 横浜国立大学 早稲田大学 岡山大学 九州工業大学 山形大学 豊橋技術科学大学 長岡科学技術大学 鹿児島大学 熊本大学 静岡大学 電気通信大学 上智大学 新潟大学 大阪府立大学 東京都立大学大学 岩手大学 神奈川大学 千葉大学 東京電気大学 広島大学 秋田県立大学 同志社大学 奈良先端科学技術大学院大学 法政大学 立命館大学 2007年 41 37 36 15 14 12 11 10 10 9 6 6 6 5 5 5 5 0 10 20 30 40 50 東京大学 東北大学 東京工業大学 名古屋大学 大阪大学 京都大学 静岡大学 広島大学 名古屋工業大学 電気通信大学 九州大学 岡山大学 岐阜大学 北海道大学 早稲田大学 新潟大学 徳島大学 1992年 39 29 28 28 27 20 15 13 12 12 12 11 11 11 10 10 10 8 7 7 7 7 6 6 6 5 5 5 0 10 20 30 40 50 東京大学 名古屋大学 東京工業大学 大阪大学 東北大学 九州大学 北海道大学 京都大学 横浜国立大学 九州工業大学 信州大学 早稲田大学 山形大学 広島大学 岡山大学 電気通信大学 法政大学 名古屋工業大学 慶応大学 熊本大学 神奈川大学 大分大学 長岡技術科学大学 東海大学 群馬大学 豊橋技術科学大学 茨城大学 会津大学 1997年 52 50 34 22 19 15 13 13 10 10 9 9 9 8 8 8 7 7 7 6 6 6 6 5 5 5 5 5 5 5 0 10 20 30 40 50 60 東京大学 東北大学 東京工業大学 大阪大学 京都大学 広島大学 慶應義塾大学 九州大学 名古屋大学 横浜国立大学 北海道大学 早稲田大学 山口大学 山形大学 電気通信大学 法政大学 長岡技術科学大学 大阪府立大学 千葉大学 静岡大学 岩手大学 京都工芸繊維大学 三重大学 岡山大学 新潟大学 神奈川大学 東海大学 佐賀大学 大分大学 琉球大学 2002年 1992年 全体 359 13大学 1997年 全体 497 28大学 2002年 全体 533 30大学 2007年 全体 654 34大学
年間文献数5以上の大学数の推移(1992)
図表5 1992 年と 2007 年における大学の文献数変化 0 50 100 150 1992年 2007年 文 献 数 -684-表6の傾向を裏付けている。 一方、これらの領域での大学の伸びを考察する に、同時期に企業から大学への研究者の異動が想 起される。電子デバイス、通信では、大学へ異動 した研究者が企業と同様の研究を継続した結果 であろうか。他方のレーザー・光学は、光通信技 術の成熟化に伴い、この研究領域自体への取り組 みが減少したのであろうか。 図表6 企業と大学の文献数の変化(抜粋) 0 50 100 150 200 250 1992年 1997年 2002年 2007年 文 献 数 電子デバイス 公的研究機関等 大学 企業 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 1992年 1997年 2002年 2007年 文 献 数 通信 公的研究機関等 大学 企業 0 50 100 150 200 250 1992年 1997年 2002年 2007年 文 献 数 レーザー・光学 公的研究機関等 大学 企業 3.5. 分析から見えてきたこと 文献数の推移は、国の政策や研究資金のファン ディング施策を色濃く反映すると思われる。参考 文献 2(p.110)には、「超伝導関連の公的研究開 発ポートフォリオの日米比較」が示されており、 日本では超伝導関係の研究費配分は優先的に維 持されていると掲載されている。継続的に多くの 公的資金が投資されてきた超伝導研究では、世界 で際立った存在感を示している。 文献数の推移は、企業の事業ドメインの変化や 収益状況などに応じた企業活動を明確に反映し ている。図表2に示すデバイス領域がその好例で ある。かつて、多くの企業が製造に携わり、研究 開発が活発に行われ、文献が多数生産されていた が、企業の撤退・再編統合が進み、文献を生産す る企業数や文献数が大きく減少している。 研究を行う大学の数は拡大している。しかし、 超伝導、絶縁・誘電体、ロボット工学、デバイス、 通信領域などの文献数の増加以外に研究内容の 多様性の拡大を示すデータは得られていない。 4. おわりに IEEE の全定期刊行物から電気電子・情報通信 分野における日本の変化と変化の実態を洗い出 した。研究開発活動は、かつて主役であった企業 の落ち込みを大学及び公的セクターが下支えす ることで、日本全体での研究開発の活動水準を一 定に保っている。 企業の変化の背後には、事業戦略の転換、そし て研究領域の棲み分けによるグローバルな R&D 推 進がみられる。 大学の変化の背後では、文献生産を行う大学数 の着実な拡大はあるが、研究内容面では世界の動 向である情報通信関連の伸びが少なく、電気電子 関係の領域、特に超伝導、絶縁・誘電体など特定 領域での研究に偏っているようにみえる。 企業から大学への研究者の異動が大学の文献 数増加に大きく関連しているが、領域の多様化を もたらすまでには至っていないようにみえる。 以上、電気電子・情報通信分野の研究開発にお ける日本の変化の内容をうかがい知ることがで きたが、定期刊行物の傾向のみで結論付けること には無理があるように思われる。筆者らは、今後 の方向としてIEEE 関連の主要な Conference の 実情把握にまで検討の枠を広げ、多面的に変化の 実態分析を進めていく予定である。 (参考文献) 1. 白川、野村、奥和田『IEEE 定期刊行物にお ける電気電子・情報通信分野の国別概況』科 学技術政策研究所 調査資料 169 (2009.7) 2. 白川、野村、奥和田『IEEE 定期刊行物にお ける電気電子・情報通信分野の領域別動向』 科学技術政策研究所 調査資料 176(2010.2) 3. 野村、白川、奥和田、『IEEE において特徴的 な推移を示す国々の分析』、2D12、第 24 回 年次学術大会(2009.10) 4. 白川、野村、奥和田『電気電子・情報通信分 野の研究における日本の各大学の動向』、 2I05、第 24 回年次学術大会(2009.10) -685-