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https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 日本企業の中国におけるR&D戦略 Author(s) 胡, 穎; 宮崎, 久美子 Citation 年次学術大会講演要旨集, 23: 136-139 Issue Date 2008-10-12Type Conference Paper Text version publisher
URL http://hdl.handle.net/10119/7521
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本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management.
1C12
日本企業の中国における
R&D 戦略
○胡 穎(コエイ),宮崎久美子(東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科) 日本企業の中国におけるR&D戦略について焦点を当て、実証分析を行った結果、ソフトウェア、家電/ AV業界又は自動車業界の企業は「market pull」型のR&Dに強い傾向が示し、情報通信/マルチメディア や精密機器等の業界は「tech push」型及び「market pull」型の両方に強い傾向が現れた。
日本企業の中国におけるR&Dは「コストの削減」や「人材確保」等のメリットがある反面、技術及びノ ウハウの保護や現地中国人との組織プレー等が問題視されている。 今後、日本企業の中国におけるR&D活動は拡大する傾向が強く見られる。 1. はじめに 21 世紀は安価な労働力を当てにした低コストの 生産拠点から市場を狙う投資への転換期だと言われ ている。世界経済のグローバル化及び先進国の国内 市場の飽和に伴って、海外における生産、研究開発 (以下R&Dという)及びマーケティング活動が活 発になっている。日本企業は1990 年代以降、積極 的にR&Dのグローバル化を進めている(山田、宮 崎、1999)。 このように急速に経済発展をとげる中国に対して、 日本企業の中国におけるR&D 戦略について焦点を 当て、実証分析を行った。具体的には、日本企業が 中国で行われているR&D活動の背景、目的、種類 (市場主導、技術主導または産学連携型など)及び 組織、研究分野、中国におけるR&D 活動のメリッ ト、デメリット及びそれに基づいた研究成果等につ いて詳しく調べ、日本企業の中国におけるR&D 戦 略の特徴をまとめ、さらに今後中国でR&Dを行う 予定の日本企業及び中国政府に対して提言を行った。 2.既存研究レビュー
Richard Florida(1996)は「The globalization of R&D: Results of a survey of foreign-affiliated R&D laboratories in the USA」で、海外子会社の R&D研究所は、バイオテクノロジーと医薬「需要」 要因よりも「技術」要因を重要視しているに対して、 電気機器は両方を重視していることを指摘した。ま た、組織的には本国主導と現地主流とのコラボレー ションになり、海外子会社のR&D研究所には自由な 研究風土に与えているという。
Oliver Gassmann, Maximilian von Zedtwitz (1999)は「New concepts and trends in
international R&D organization」で、多国籍企業 のR&Dグローバル化は、主に5つの傾向があると指 摘した。それらは、①、国際市場と知識センター向 けのR&D活動が活発化しており技術志向企業は R&Dの拠点を技術エクセレンスセンターに設置す る。②緊密な協調リスニングポストの設置、③海外 R&Dサイトの増強、補強、④分散化R&Dの更なる 統合、⑤少ないノウハウセンターのR&D活動の緊密 なコーディネーション、である。
Kazuyuki Motohashi ( 2006 ) は “R&D of Multinationals in China: Structure, Motivations and Regional Difference”で、中国における多国籍企 業のR&D活動の規模が比較的に小さいことから、 多国籍企業は主に本国によるR&D活動を進めている ことを結論付けた。また、中国における多国籍企業 のR&D活動の多くは、“technological driven”又は “human resource driven”ではなくて、“market driven” であることを明らかにした。 3.R&Dのグローバル化 R&Dのグローバル化には、3 段階の発展段階があ る(折橋、1997 、pp.137 )。 ①市場対応型の応用開発段階:現地ニーズに対して 母国技術で設計変更を行なう。 ②市場対応の新製品開発研究段階:現地の研究開発 部門強化を目的に現地技術による製品コンセプトの 新製品開発を行なう。 ③グローバルR&D ネットワーク段階:製品開発研 究所だけでなく基礎研究所も海外に設立され、グ ローバルな研究活動が展開される。 4.分析手法・フレームワーク 中国に進出している、電子機器、化学系の日本企 業に対するヒアリングを行い、まとめた結果に基づ いて、アンケートの調査表を作成した。 中国でR&Dを行っている日本企業の電気通信や 化学、測定機器、自動車等の分野11社を対象に、 中国でR&Dの理由、目的、地域選択、R&Dの形 態、企業及び中国の技術の強み分野、技術ノウハウ の保護、メリット、デメリット等のことを中心にア
ンケート調査を行った。アンケート調査票のデータ に基づいて各項目の統計分析及び企業によるR&D のタイプのグループ分けのためのSPSSによる統 計分析を行った。SPSSによる統計分析は表1の データに基づいて行った。 表1 SPSSによる分析のファクター Factor Q1.中国における R&D 拠点を設ける理由について q1 tech push q2 others q3 market pull Q.2 地域選択の仕方 q4 地理的 q5 機能的 Q4. 研究機能について q6 local China q7 global U.S. EP. q8 global JP. Q7. 技術やノウハウなどの保護について q9 非常に難しい q10 大丈夫である Q.9 中国における R&D 活動の評価について q11 基本的に成功している。 q12 必ずしも成功しているとはいえない。 q13 どちらでもいえない・判断不可能 q14 優秀な人材が確保できる q15 コストが削減できる q16 創造性が高められる q17 人材の育成・確保が難しい(流動性が高い) q18 委託や共同研究時の契約が難しい 5.分析結果 アンケート調査により、以下図1から図7まで示す ような結果が得られた。 中国でR&D拠点を設立した理由は図 1 のような 結果が得られた。最も多く選ばれた理由は「優秀な 人材が確保できるから」であり、11 社のうち、9 社が選択した。次に多く選ばれたのは「中国現地向 けの開発研究が必要だから」であり、11 社のうち、 8社が選択した。その次が「市場が大きい」(7社選 択)、「コストが日本と比べて安い」(6社選択)、「消 費ニーズや水準が高まっている(市場重視と考えら れる)」(5社選択)、「生産・販売拠点に伴い、R&D 機能が必要になってきたから」(3社選択)である。 この結果から、日本の大企業が中国でR&D拠点を 設けた背景は、中国経済の発展により、中国人の消 費水準やニーズが高くなるにつれ、将来的には付加 価値の高い商品の需要が大きくなると経営トップが 認識している事がわかる。又、中国は日本企業が思っ た優秀な人材がたくさんおり、人件費も日本と比べ て格安という利点があるから、R&D拠点を中国に 設立したと考えられる。 図1 中国でR&D拠点を設立した理由 0 5 10A B C D E F G H I J A 優秀な人材が確保できるB 現地向けのR&Dが必要 C 人口が多く、潜在市場が大きい D 物価水準が低く、コストが低い E 消費ニーズと水準が高くなった F 大学等の研究成果が活用できる G 生産・販売機能の発展により、 R&D機能も必要となった H 中国政府の支援策がある I 富裕層の消費能力が大きい 中国におけるR&D拠点の設立目的は、主に「中 国現地市場向けの製品開発」や「現地の基礎研究の シーズ・知識ストックの活用」、「現地研究者との人 脈形成」、「現地の技術や市場情報の収集」等に集中 していることがわかる(図2を参照)。興味深いこと は「現地研究者との人脈形成」という項目が重要視 されている。これは中国の国情に適応するための“研 究者ネットワーク”であると考えても良いであろう。 図2 中国でR&D拠点を設立した目的 0 2 4 6A B C D E F G H I A 現地市場向け新商品の開発 B 現地の基礎研究シーズ・知識ストック の活用 C 現地研究者との人脈形成 D 現地の技術・市場に関する情報収集 E 現地独自の技術標準に対する迅速な 対応を図るため、中国政府との人脈強化 F 既存製品の改良や生産サポートの充 実 G 現地法人の新規設立により中国事業 体制の拡充 H 開発人員の確保、テスト検証等の大 規模化への対応 I グローバルなR&D拡大のため 研究形態は図3に示してあるように、日本の技術 者及び現地の従業員によって構成されている。 図3 研究形 態 0 2 4 6 8 自社の技術者(指揮/ヘッド役)及び 中国現地で雇った中国人技術者によ る研究開発。 産学連携の形式による中国の大学又 は政府研究機関との共同研究。 現地の政府や大学研究機関に委託す るような研究開発。 会社 数
技術やノウハウの保護等について、図4 に示すよ うに、法税度の難航や現地の人と考え方等の違いに よって生じた誤解等がもっとも問題視されている。 各企業が成功した分野を探ってみると、図5が示 すように、「開発研究の成果として、すでに一部製品 化されている」ことが一番多かった。その他に、「中 国市場向けの製品開発に結び付いた」、「技術開発に 結び付いた」、「R&Dの成果を日本国内で特許出願 している」も複数あった。このことから、日本企業 の中国におけるR&D活動は、中国の言葉や生活習 慣、文化、考え方の違いがあるにもかかわらず、ま た人材流動度が高い点や知的財産の保護が難しい等 の難点があるにもかかわらず、基本的に成功してい ることがわかった。すなわち、中国でのR&Dは利 益>弊害のことが明らかになった。これは日本企業、 特に今後中国でR&Dをする予定の日本企業にとっ て、大きなよいインセンティブになるであろう。し かし、事業としてもっと成長するには、やはり各企 業が指摘しているようなリスク(人材流動度が大き いや知的財産の保護が難しい等の難点)を最小限に することが大切だと考えられる。 中国におけるR&D のメリットは、図 6 のよう な結果が得られた。「現地の優秀な人材確保」(8 1%)、現地の大学との共同研究ができる(55%)、 コストが格安である(約27%)と挙げられた。他 に、「日本人と異なる考え方や感性をR&D に取り組 める」、「異文化の交流により日本人研究者の創造性 が活性化される」ことも多く挙げられ、海外での R&D は外国人により研究者の創造性を活性化でき ることが新たにわかった。また、現地研究者の評価 においては、「高い志を持ち、夢に向かって一生懸命 頑張っている」ことを高く評価されている。 図6 中国におけるR&Dのメリット 0 5 10A B C D E F G A 現地の優秀な人材確保できる B 現地の一流大学と共同研究ができる C 日本人と異なる思考方法・感性を研 究開発に取り組める D 最新の情報(政府機関の政策や分野 ごとの動き等)が素早く入手できる E 異文化との交流により日本人研究者 の創造性が活性化される F 円高のため、人件費等の研究費が安 くなる G 無回答 中国におけるR&Dのデメリットは人材の流動性 が高く、現地研究者の組織プレーがうまくない、人 材育成するのに時間がかかるなどが多く挙げられた。 一方、「特になし」の回答多く挙げられた(約36%)。 これは現地のR&D拠点が設立して間もないため問 題が生じていないと考えられる。 しかし、中国におけるR&D活動は多くの問題が あるにもかかわらず、各企業は中国におけるR&D 活動がほぼ成功していると評価した。成功した面に ついては、具体的に、「中国市場向けの製品開発、開 発研究、基礎研究に結びついた」、「日本市場向けの 製品開発、開発研究、基礎研究に結びついた」、また、 「欧米市場向けの製品企画に結びついた」、「技術開 発に結びついた」にある。こうした中で、今後中国 におけるR&D活動は拡大する傾向が強く見られた。 図4 技術 やノウハウ等の保護 0 2 4 6A B C D E F G H A 中国で知財法の実施率が 低いた め、技術やノウハウ等の保護が難しい B 無回答 C 非常に大変(言葉や制度また価値 観の違いによって誤解や行き詰まりは よく起こるから) D その他 E 中国の出願制度は日本と比べ て難 しい又は理解しにくい F 模倣品対策とし て、中国の政府機関 (知的財産局)や民間企業の協 力を求 めている G 模倣品の 頻発によって、中国では特 に特許出 願による技術の保護が必要 H 模倣品による損害が大きい 図 5 R&Dの成果について 0 1 2 3 4 5 6 7 開発研究の成果とし てすで に一 部製品化されている 研究開発の成果を知的財産に よる保護を受けている、又は国 内と現地に特許 出願をし ている 中国市場向け製品開発に結び ついた 基礎研 究の成果として国内の 製品開発研究に生かし ている 技術開発に結びついた 会社数 図7 中国におけるR&Dのデメリット 0 2 4 6A B C D E F A 研 究者の流 動性が 高く、優 秀な人 材が辞 めてし まうこと が多い B 現地の 研究者 は組織プ レーを改 善する余 地がある C 人 材育成 には ある程度の 時間が 必要なため、研究 所開設 から実際に 研究を始 まるま で時間 がかかる D 特になし・ 無回答 E 契 約会社であるため、契約 で定め られた研究しか しない傾 向がある F 日本の事 業活動 への理解 に時間 がかか る
それは主に大学への委託研究や大学及び政府研究機 関との共同研究、開発研究、応用研究、基礎研究の 強化等にあることがわかった。 次に、11 社の日本企業の中国におけるR&Dタイ プを分類するために、表 1 のデータに基づき、SP SSによるクラスター分析及び分散分析を行った。 結果は表2に示すように、11 社は二つのグループに 分けられた。グループ1は「market pull」型の傾向 が強く、グループ2は「tech push」型及び「market pull」型の両方に強い傾向が見られた。 表2 SPSS のクラスター分析による結果 company CLU2_1 ソニー 1 オムロン 2 NEC 2 住友電工 1 ミツミ電気 1 リコーソフトウエア 1 日立製作所 2 東芝 2 沖電気 1 富士電機システムズ 2 日産自動車 1 注: グループ1:「market pull」型、グループ2: 「tech push」型及び「market pull」型
以上の分析結果から、日本企業の中国における R&D活動は「tech push」型及び「market pull」型 の両方に強い傾向が見られた。ソフトウェア、家電 /AV業界又は自動車業界の企業は「market pull」 型の傾向が強く、情報通信/マルチメディア等の業 界は「tech push」型及び「market pull」型の両方 に強い傾向が見られた。「market pull」型の企業は 地理的な選択(地理的)や、コストの削減、人材の 育成・人材確保等の項目を重視しているのに対して、 「tech push」型及び「market pull」型の企業は地 理的な選択(機能的)、政府の優遇政策、技術の必要 さ等を重視している。また、「market pull」型の企 業のR&Dは主に中国、日本又は欧米市場向けの製品 開発を行っているのに対して、「tech push」型及び 「market pull」型の企業のR&Dは基礎研究及び製 品の試作を多く行っていることが明らかになった。 6.おわりに 日本企業の中国におけるR&D 活動は主に 「market pull」型及び「tech push」型、「market
pull」型の両方に分かれる。 中国におけるR&D活動は基本的に成功であるが、 技術やノウハウの保護は依然として難しい。 日本企業は今後中国政府の優遇政策を有効に利用 して中国でのR&Dを加速すべきである。 [参考文献] 1.山田、宮崎(1999)「90 年代の日本企業における研究 開発のグローバル化の分析 ―電気機器と医薬品の ケース―」東京工業大学大学院 社会理工学研究経営 工学専攻 The Journal of Science Policy and Research Management Vol.14,No.4 pp.253~265 2.Kazuyuki Motohashi(2006)は“R&D of
Multinationals in China: Structure, Motivations and Regional Difference”
3.折橋靖介(1997)『グローバル経営論』白桃書房 4.Japanese Firms’ International R&D Activities」