国内図書館所蔵ペルシャ語図書の利用とイランの図
書館の動き -- イラン史研究の立場から (特集 続
・地域関連コレクション -- 中東・アフリカ・ラテ
ンアメリカ)
著者
阿部 尚史
権利
Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア
経済研究所 / Institute of Developing
Economies, Japan External Trade Organization
(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp
雑誌名
アジ研ワールド・トレンド
巻
186
ページ
11-12
発行年
2011-03
出版者
日本貿易振興機構アジア経済研究所
URL
http://hdl.handle.net/2344/00004284
筆者は、一八、一九世紀のイラ ン史を研究しており、その分野を 専攻する一利用者の立場から、首 都圏を中心に、ペルシャ語書籍所 蔵状況を若干の独断をもって概観 し、イラン現地の資料利用の現況 と併せて、今後の研究の方向性に も簡単に言及したい。
●
首都圏を中心とした
、主要
なペルシャ語図書所蔵機関
の蔵書内容について
東京大学東洋文化研究所図書 室、文学部図書館 前近代イラン を中心にした人文系書籍 ︵歴史書、 思想書等︶に比較的厚みがある 。 東洋文化研究所には、古代イラン 学の碩学、伊藤義教氏や言語学の 荒木茂氏の旧蔵書も所蔵され、一 九、二〇世紀初頭に出版された貴 重な書籍が散見される。また、一 九 世 紀 中 ご ろ か ら 刊 行 さ れ た Biblioteca Indica シ リ ー ズ ︵ 文 学 部︶や、中世インド史の荒松雄氏 らが収集した写本のマイクロフィ ルム ︵東文研︶なども含めると 、 前近代インドに関連する貴重なペ ルシャ語資料にも見るべきものが ある。 東京外国語大学付属図書館 ペ ルシャ語学科とアジア・アフリカ 言語文化研究所を擁する東京外国 語大学図書館は、二〇世紀初頭立 憲革命前後に出版された新聞の貴 重なコレクションや、一九七九年 のイスラーム革命以前の学術雑誌 のコレクションをもつ。 東洋文庫 歴史、思想、文学を 中心に幅広い分野をカバーし、国 内最大のペルシャ語蔵書を誇ると 考えられる。イラン国内の各図書 館の写本目録といったリファレン ス類をはじめ、イスラーム革命以 前の学術雑誌、国民議会およびイ スラーム評議会の議事録 、イス ラーム革命関連パンフレットのコ レクションも所蔵する。資料収集 がほぼ毎年行われており、絶えず イランの出版状況が反映されてい る点に強みがある。また、岩見隆 文庫やキャスラヴィー ・コレク ション ︵加賀谷寛氏が収集︶ など、 個人蔵書に由来する図書も所蔵さ れている。刊本等の他に、大英図 書館やサンクトペテルブルク東洋 学研究所に所蔵されるペルシャ語 写本のマイクロフィルムも所蔵さ れている。特に後者は非常に貴重 なコレクションである︵現在仮目 録のみ存在︶ 。同館は 、ペルシャ 語蔵書目録、岩見文庫目録、キャ スラヴィー・コレクション目録な どを出版し、近年は、蔵書の電子 検索も充実させている。二〇一一 年初めに新館が完成し、五月から 閲覧も再開する予定である。今後 もアジア研究の拠点としての活躍 が期待される。同館について詳し くは、 本誌二〇〇七年三月号参照。 アジア経済研究所付属図書館 二〇世紀半ばから、定期的に作成 されるようになったイランの公式 の統計資料︵人口世帯、産業、農 業、労働に関する統計等︶や、ア フガニスタンの統計を所蔵する 。 同研究所の性格を反映した蔵書と 言える。また戦前に尾崎三雄氏が 収集した貴重なアフガニスタン関 係ペルシャ語資料も所蔵され、今 後の利用が期待される。 京都大学付属図書館 一定数の ペルシャ語書籍を所蔵し、一九八 〇年代初頭に作成されたペルシャ 語蔵書目録もある。アジア・アフ リカ地域研究科の設立から一〇年 以上経ており、現代関連の書籍も 充実しつつあると期待される。 京都外国語大学付属図書館 ペ ルシャ語の写本史料を所蔵し、写 本目録もある。 この他、旧大阪外語大学を退職 したラジャブザーデ氏が運営する 私設図書館が、 大阪吹田市にある。 筆者は訪問したことがないが、是 非近いうちに足を運んでみたい。 以上、雑駁に国内の図書館につ いて概観したが、筆者が歴史研究阿
部
尚
史
特集続・地域関連コレクション
︱ 中東・アフリカ・ラテンアメリカ ︱ 中東・ 北アフリカ国内図書館所蔵
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アジ研ワールド・トレンド No.186 (2011. 3)を専門とし、また東京在住という こともあり、他地域の大学・機関 等の図書館所蔵状況に関する知識 は、非常に限定されている。しか し、 批判を恐れずに書くなら、 ︵イ ラン研究に限定されることではな いだろうが︶資料収集が個人の力 に依拠しているため、東洋文庫を 除けば、本格的な研究活動を行う には、いずれの図書館も蔵書が物 足りないということである。 一九世紀初頭に、イランにも出 版技術が本格的に導入されて以 降、官報の発行、新聞、雑誌の創 刊など、利用可能な史資料が劇的 に増大した。また、一九世紀半ば 以 降 、 当 時 の 国 王 ナ ー セ ロ ッ ディーン・シャーが書きもの好き であった影響で、政府高官を中心 に、回想録や旅行記の執筆が一種 のブームとなった。近年、こうし た回想録が盛んに出版されてい る。当然ながら、一九世紀末以降 を対象とした史資料の体系的な所 蔵は、相当の資金力と継続的資料 収集の方針がなければ困難であ る。従って、史料が少ない前近代 イラン史ならば、東京大学、京都 大学の図書館はある程度対応でき る蔵書を有すると考えられるが 、 資料数が急増する二〇世紀以降の 書籍に対応できる図書館は、東洋 文庫を除いて 、日本にはないと 言ってよさそうである。 現在、日本の大学・研究機関の 資金状況や人的資源に鑑みて、膨 大な蔵書を誇る、アメリカの研究 大学の図書館に倣ったペルシャ語 図書収集を期待するのは、現実的 な話ではない。ただし、個人的な 感覚からいえば、日本人イラン研 究者がもつ個人蔵書は驚くほど豊 富である 。こうした個人蔵書を もっと活用する手はないのだろう か。ラジャブザーデ氏の試みを見 ると、こうした可能性を考えるこ とも的外れでもないように思われ る。