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大学生年代における イマジナリー・コンパニオン体験の諸相

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Academic year: 2021

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(1)

大学生年代における

イマジナリー・コンパニオン体験の諸相

後藤和史(愛知みずほ大学人間科学部)

大饗広之(日本福祉大学子ども発達学部)

(2)

問題意識①

イマジナリー・コンパニオン(imaginary companion, IC)体験は児 童期に比較的多くみられる現象ではあるが,「虐待-解離」にまつわる臨 床的文脈の中で積極的に論じられている(Putnam, 1989, 1997)。 また,一般的にはICは次第に消失して青年期後期には見られなくなると されているが,臨床的文脈ではいくつか報告がみられる。 • 澤ら(2002):青年期のIC体験の臨床的記述 • 大饗(2007):成人におけるIC体験の臨床的記述 …が,一般大学生を対象に「現在の」IC体験を調査した研究は数少ない。 • 山口(2007): IC体験を報告した大学生を対象に調査面接・心理検査

(3)

問題意識②

またIC体験を拡張して「想像上の人格体験」(非実在 and/or 非生物の 対象だが人間のような独自の人格や心性を持った存在として認める体験) ととらえると, ・人格化体験 ぬいぐるみや人形などの非生物に人格や心性を認めて話しかけるなどの空想 的活動 ※橋本・宇津木(2011):生物・非生物に対する心性評価と攻撃性との関連

・実体的意識性(leibhaftige Bewußtheit; Jaspers, 1913)

※柴山(2010):解離性障害患者群の実体的意識性体験の臨床的記述

厳密な定義と異なり視知覚されている例も記されている。

(4)

本研究の目的

• ウェブ調査を用いて大学生年

代におけるイマジナリーコン

パニオン(IC)周辺体験の

諸相を記述することを第一の

目的とした。

• 併せて,手法の妥当性を検討

するために解離性傾向との関

連を検討した。

ウェブ調査の利点 • 資源(印刷用紙)の節約 • 回答時間の任意性 • (動画・音声が利用可能) • 調査者によるデータ入力の必要 がない  入力ミスが起きない。  調査からデータ分析開始まで の時間が短縮される。 • 個人データの一元管理  電子データのみとなる。  回答用紙処分の手間が省力化 調査対象となる学生群には,筆記用具は持ち 歩かないが,スマートフォンは常時携帯して いる,というタイプもいる

(5)

方法①

調査参加者 大学生186名(男性65名,女性121名,平均年齢20.10歳)。 質問紙構成 1. IC周辺体験:独自に開発した質問紙を用いた。 ①人格化体験(ぬいぐるみなど),②他自我体験,③他人格体験,④実体的 意識性体験の4つの体験について説明し,関連体験の有無・具体的な説明・ 関係性・参加者自身の関与行動・IC様対象の心的活動・IC様対象の関与 行動について回答を求める形式とした。 2. 解離性体験:DES日本語版(田辺・小川, 1992)

(6)

方法②

調査手続き • 調査回答用のウェブページの作 成にはGoogle Formsを用いた • 講義授業および学内情報配信シ ステムを用いて調査内容の説明 を す る と と も に 回 答 ペ ー ジ の URLを紹介して,回答への協力 を依頼した。 • 回答ウェブページの初頭には調 査目的の説明・倫理的表明・調 査同意欄を設け,調査への参加 について能動的同意を表明した 参加者のみが回答できるように 設定した。

(7)

方法③~4つのIC周辺体験

①人格化 • 人によっては,人形やぬいぐるみ など本質的には非生物であるもの に対して,あたかも心を持った存 在であるかのように感じたり振る 舞ったりすることがあります。 ②他自我 • 人によっては,「自分の中に,別 の自分がいる」と感じることがあ ります(「別の自分」は人間とは 限りません)。 ③他人格 • 人によっては,「自分の中に,今 の自分以外の誰かがいる」と感じ ることがあります(「誰か」は人 間とは限りません)。 ④実体的意識性 • 人によっては「自分にも見えたり 聞こえたりといった感覚がないけ れども,確かに自分の近くに誰か がいる」と感じることがあります (「誰か」は人間とは限りませ ん)。

(8)

①IC周辺体験の有無

②体験の記述

プラス…

③関係性(親近感~嫌悪感) 1. 友情を感じる 2. 恋愛感情を感じる 3. 大切にしたい,と思う 4. 恐れや不安を感じる 5. 怒りを感じる 6. いなくなってほしい,と思う ④関与行動(自分→対象) 1. 何かを言う 2. 会話をする 3. 何か具体的なことをする 4. 何かを強制的にさせようとする /させる 5. けんかする 6. 協力して何かする 7. 何かをしてあげる ⑤ICの心的活動 1. 何かを感じている 2. 何かを考えている 3. 何かに興味を向けている 4. 何か意図している ⑥ICの関与行動(対象→自分) 1. 何かを言う 2. 会話をする 3. 何か具体的なことをする 4. 自分に何かを強制的にさせよう とする 5. けんかする 6. 協力して何かする 7. 何かしてくれる

(9)

結果①~基礎的情報

1. IC周辺体験を「現在ある」と報告した割合は①人格化体

験で33.0%,②他自我で28.7%,③他人格で14.6%,④

実体的意識性で13.4%であった(図1)。

• 人格化体験を除くIC周辺体験の体験を「現在ある」と1つ以上報 告した者は有効回答176名中63名(35.8%)であった。

2. 性差については,①人格化体験のみが女性の体験率が有意

に高かった(図2)。

3. ①人格化体験を報告した参加者は,他のIC周辺体験を有意

に高い割合で報告していた(図3)。

(10)

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 人格化 他自我 他人格 実体的意識性 27 21 10 6 34 30 17 19 24 8 2 2 100 119 156 159 確かにある たまにある 過去にあった まったくない・わからない 図1 大学生年代におけるIC周辺体験の体験率

(11)

図2 IC周辺体験の体験率の性差 63 22 40 19 20 9 19 8 58 42 75 44 101 55 102 57 0% 25% 50% 75% 女性 男性 女性 男性 女性 男性 女性 男性 人格化 (OR=2.07, p=.029*) 他自我 (OR=1.24, p=.618) 他人格 (OR=1.21, p=.832) 実体的意識性 (OR=1.33, p=.663)

(12)

31 70 75 16 0% 25% 50% 75% なし あり 人格化 他自我・他人格・実体的意識性 なし 他自我・他人格・実体的意識性 あり 図3 人格化体験と他のIC周辺体験との関連 OR=10.58 Fisher’s exact p=0.0000 (two-tailed)

(13)

結果②~解離との関連1

• DESをWaller&Ross (1997)の タクソン判定法に基づいて病的 解 離 群 ( n=33 ) と 非 解 離 群 (n=114)とに分類してIC周 辺体験との関連を検討した。 • Pt_xスコア=0.5を分割基準 とした。

病的解離群のほうが有意に人

格化・他自我・他人格体験の

体験率が有意に高く,実体的

意識性体験も高い傾向が認め

られた(図4)。

(14)

24 41 22 20 13 6 6 11 9 73 10 87 20 107 27 103 0% 25% 50% 75% 病的解離 非解離 病的解離 非解離 病的解離 非解離 病的解離 非解離 人格化 (OR=4.75, p=.000*) 他自我 (OR=9.57, p=.000*) 他人格 (OR=11.59, p=.000*) 実体的意識性 (OR=2.08, p=.215) 図4 IC周辺体験と解離との関連

(15)

結果③~解離との関連2

• ICとの関係性・関与行動・心的活動・IC

の関与行動と解離との関連を,Fisherの

直接法・オッズ比を用いて検討した。

• 人格化を含むすべてのIC様

対象で病的解離群のほうが

体験率が高かった。

• 有意 and/or 高いオッズ比

(16)

3 65 8 4 5 45 27 13 7 3 9 24 41 19 13 18 27 15 7 6 3 8 8 82 20 77 81 80 40 58 72 78 82 76 61 44 66 72 67 58 70 78 79 82 77 77 ②(自分が)恋愛感情を感… ③(自分が)大切にした… ④(自分が)恐れや不安を… ⑤(自分が)怒りを感じる ⑥(自分が)いなくなって… ①(自分が)何かを言う ②(○○と)会話をする ③(自分が)何か具体的な… ④(自分が)何かを強制的… ⑤(○○と)けんかする ⑥(○○と)協力して何か… ⑦(自分が)何かをしてあ… ①(○○が)何かを感じて… ②(○○が)何かを考えて… ③(○○が)何かに興味を… ④(○○が)何か意図して… ①(○○が)何かを言う ②(自分と)会話をする ③(○○が)何か具体的な… ④自分に何かを強制的にさ… ⑤(自分と)けんかする ⑥(自分と)協力して何か… ⑦(○○が)何かしてくれる 人格化 • 非解離群>解離群 ③(自分が)大切にした い,と思う* • 解離群>非解離群 ②会話をする* ⑥協力して何かをする* ②何かを考えている† ④何か意図している* ①何かを言う* ⑥協力して何かする* ⑦何かしてくれる†

Fisher’s exact test

(17)

19 7 17 22 23 6 6 6 10 8 27 24 10 23 22 19 8 13 7 11 11 40 52 42 37 36 53 53 53 49 51 32 35 49 36 37 40 51 46 52 48 48 ④(自分が)恐れや不安を… ⑤(自分が)怒りを感じる ⑥(自分が)いなくなって… ①(自分が)何かを言う ②(○○と)会話をする ③(自分が)何か具体的な… ④(自分が)何かを強制的… ⑤(○○と)けんかする ⑥(○○と)協力して何か… ⑦(自分が)何かをしてあ… ①(○○が)何かを感じて… ②(○○が)何かを考えて… ③(○○が)何かに興味を… ④(○○が)何か意図して… ①(○○が)何かを言う ②(自分と)会話をする ③(○○が)何か具体的な… ④自分に何かを強制的にさ… ⑤(自分と)けんかする ⑥(自分と)協力して何か… ⑦(○○が)何かしてくれる • 解離群>非解離群 ①友情を感じる** ②会話をする* ⑥協力して何かする† ②何かを考えている† ③何か具体的なことをす る† ④自分に何か強制的にさ せようとする† ⑥協力して何かする* ⑦何かしてくれる*

Fisher’s exact test

(18)

10 1 9 10 3 4 13 12 2 2 4 7 5 14 16 7 8 14 10 4 4 4 7 8 19 28 20 19 26 25 16 17 27 27 25 22 24 15 13 22 21 15 19 25 25 25 22 21 ①(自分が)友情を感じる ②(自分が)恋愛感情を感… ③(自分が)大切にした… ④(自分が)恐れや不安を… ⑤(自分が)怒りを感じる ⑥(自分が)いなくなって… ①(自分が)何かを言う ②(○○と)会話をする ③(自分が)何か具体的な… ④(自分が)何かを強制的… ⑤(○○と)けんかする ⑥(○○と)協力して何か… ⑦(自分が)何かをしてあ… ①(○○が)何かを感じて… ②(○○が)何かを考えて… ③(○○が)何かに興味を… ④(○○が)何か意図して… ①(○○が)何かを言う ②(自分と)会話をする ③(○○が)何か具体的な… ④自分に何かを強制的にさ… ⑤(自分と)けんかする ⑥(自分と)協力して何か… ⑦(○○が)何かしてくれる

Fisher’s exact testの結果...

• 解離群と非解離群との間に有意な 違いは得られなかった。 ※解離群で体験率が高い項目 ③大切にしたい,と思う ⑤けんかする ⑥協力して何かする ①何かを感じている ③何かに興味を向けている ②会話をする ③何か具体的なことをする ④自分に何かを強制的にさせよ うとする ⑤けんかする ⑥協力して何かする ⑦何かしてくれる ( n.s. but OR>4.0 )

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①何かを感じている**

③何か具体的なことをする*

Fisher’s exact test

(**: p<.01, *: p<.05, †:p<.10) ※解離群で体験率が高い項目 ①友情を感じる ③大切にしたい,と思う ⑤怒りを感じる ②会話をする ④何かを強制的にさせようとす る/させる ②何かを考えている ④自分に何かを強制的にさせよ うとする ⑤けんかする ⑥協力して何かする ( n.s. but OR>4.0) 13 1 10 9 7 3 3 4 1 3 8 9 7 11 7 4 7 5 3 4 2 14 26 17 18 20 24 24 23 26 24 19 18 20 16 20 23 20 22 24 23 25 ④(自分が)恐れや不安を… ⑤(自分が)怒りを感じる ⑥(自分が)いなくなって… ①(自分が)何かを言う ②(○○と)会話をする ③(自分が)何か具体的な… ④(自分が)何かを強制的… ⑤(○○と)けんかする ⑥(○○と)協力して何か… ⑦(自分が)何かをしてあ… ①(○○が)何かを感じて… ②(○○が)何かを考えて… ③(○○が)何かに興味を… ④(○○が)何か意図して… ①(○○が)何かを言う ②(自分と)会話をする ③(○○が)何か具体的な… ④自分に何かを強制的にさ… ⑤(自分と)けんかする ⑥(自分と)協力して何か… ⑦(○○が)何かしてくれる

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体験記述内容のまとめ

病的解離群 非解離群 人格化 ぬいぐるみ • 慰めの言葉,やさしい言葉をくれる • 不安やストレスの低減 • いないと眠れない → 「母」を埋める移行対象的存在 ぬいぐるみ・人形・身近な道具 • 友達・遊び相手・相談相手 ※過去形の記述 他自我 自分の分身 • 運命共同体 • 生活を共にする存在 • 頼れる・尊敬できる • 「DIDである」との自己報告 • TPOに対応した役割的自己 • 自己客体視 • 自己嫌悪的内省状態 • 一時的な解離状態 他人格 兄姉・友人のような存在 • 助言・違和感 (記述なし) 実体的 意識性 生霊・怨霊・幽霊 • ただいるだけ・悪さをする・味方となる 霊・神様 • ただいるだけ ※「確かにある」と回答した参加者の記述内容を中心にまとめた 大饗(2012)における 一 般 青 年 の 「 人 格 の 多元化」に相当

(21)

考察①

• 大学生年代でもIC周辺体験は比較的高い割合(1/3強)で

みられることが見いだされた。

• 人格化体験は他のIC周辺体験と関連していた。

• 背景となるシステムの類似性が示唆。

• 仮説1 共通する背景に空想傾性(Fantasy proneness)が? • 仮説2「人格化体験→IC」という進行パターン? • ICは「内在化された移行対象」という仮説も導出可能 • 逆に,人格化体験におけるぬいぐるみ・人形は「外在化したIC」?

(22)

考察②

• 解離群のほうが

• IC様対象が活発に心的活動をしている, • 自己-対象間で積極的な心理的やり取りが行われている,と報告 • ウェブ調査による自己報告という新規な調査手法をとったものの,臨 床報告でも関連が示唆されている解離との正の関連があることが見い だされ,手法の妥当性が示された。

※今後の展開

• ICの機能的役割の検討 • 解離群における現実適応的(レジリエンス的)機能,など

参照

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