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[IV]

2006年度

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天疱瘡 I 概要 1. 定義  天疱瘡は、皮膚・粘膜に病変が認められる自己免疫性水疱性疾患であり、病理組織学的に表 皮細胞間の接着が障害される結果生じる棘融解(acantholysis)による表皮内水疱形成を認め、 免疫病理学的に表皮細胞膜表面に対する自己抗体が皮膚組織に沈着するあるいは循環血中に認 められることを特徴とする疾患と定義される。天疱瘡抗原蛋白は、表皮細胞間接着に重要な役 割をしているカドヘリン型細胞間接着因子、デスモグレインである。  天疱瘡は、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡、その他の3型に大別される。その他として、腫瘍 随伴性天疱瘡、尋常性天疱瘡の亜型である増殖性天疱瘡、落葉状天疱瘡の亜型である紅斑性天 疱瘡、疱疹状天疱瘡、薬剤誘発性天疱瘡などが知られる。 2. 疫学  厚生労働省稀少難治性皮膚疾患調査研究班によると、1997 年の時点で全国での天疱瘡患者 数は 3,500 4,000 人と推定される。男:女=1:1.36 と女性にやや多い。40 歳代に発症のピ ークを認め、ついで 50 歳代が多い。病型では、尋常性天疱瘡が最も多く(60.6%)、ついで落 葉状天疱瘡(26.0%)、紅斑性天疱瘡(9.9%)、増殖性天疱瘡(3.5%)であった。 3. 病態生理  天疱瘡の水疱形成における基本的な病態生理は、IgG 自己抗体が表皮細胞間接着において重 要な役割をしているカドヘリン型の細胞間接着因子デスモグレインに結合し、その接着機能を 阻害するために水疱が誘導されると考えられる。尋常性天疱瘡抗原はデスモグレイン3(Dsg3)、 落葉状天疱瘡抗原はデスモグレイン1(Dsg1)である。尋常性天疱瘡は、さらに粘膜優位型と 粘膜皮膚型に分類される。粘膜優位型尋常性天疱瘡では抗 Dsg3 IgG 抗体のみを認めるのに対 し、粘膜皮膚型尋常性天疱瘡では、抗 Dsg3 IgG 抗体および抗 Dsg1 IgG 抗体の両抗体を認め る。落葉状天疱瘡では、抗 Dsg1 IgG 抗体のみを認める。

 デスモグレイン代償説(desmoglein compensation theory;同じ細胞に2種類以上のデス モグレインアイソフォームが発現している場合、細胞間接着機能を補い合う)により、天疱瘡 における水疱形成部位の多様性が論理的に説明される。表皮において Dsg3 は表皮下層、特に 基底層・傍基底層に強く発現しており、Dsg1 は表皮全層に発現が見られ、上層に行くに従い 発現が強くなる。一方、粘膜では、Dsg3 が上皮全層に強く発現しており、Dsg1 は基底層を除 く全層に弱く発現している。血清中に抗 Dsg1 IgG 抗体のみが含まれる落葉状天疱瘡の場合、 表皮では、Dsg3 による接着機能の代償がない表皮上層に水疱形成が誘導されるが、粘膜では、 全層で多く発現している Dsg3 により Dsg1 の接着機能障害が代償され明らかなびらんを形成 しない。血清中に抗 Dsg3 抗体のみが認められる粘膜優位型尋常性天疱瘡の場合、皮膚では Dsg1 が表皮全層にわたり発現が認められるため、抗体による Dsg3 の接着機能阻害を Dsg1 が代償 し、水疱形成は認められないか、認められても限局されたものとなる。一方、粘膜では、発現 レベルの低い Dsg1 は失われた Dsg3 の接着機能を補いきれず、びらんが形成されることにな る。同様に、血清中に抗 Dsg3 抗体のみならず抗 Dsg1 抗体も含まれる粘膜皮膚型尋常性天疱

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 腫瘍随伴性天疱瘡は、悪性または良性の新生物(主にリンパ球系増殖性疾患)に伴い、びら ん形成を主体とした重篤な粘膜病変と多彩な皮膚病変を認め、デスモグレインおよびプラキン 分子に対する IgG 自己抗体を有する自己免疫性皮膚疾患である。液性免疫のみならず細胞性免 疫による粘膜上皮、皮膚への傷害も特徴的である。 4. 臨床症状および病理所見 1)尋常性天疱瘡(pemphigus vulgaris)  天疱瘡中最も頻度が高い。尋常性天疱瘡の最も特徴的な臨床的所見は、口腔粘膜に認められ る疼痛を伴う難治性のびらん、潰瘍である。初発症状として口腔粘膜症状は頻度が高く、重症 例では摂食不良となる。口腔粘膜以外に、口唇、咽頭、喉頭、食道、眼瞼結膜、膣などの重層 扁平上皮が侵される。約半数の症例で、口腔粘膜のみならず皮膚にも、弛緩性水疱、びらんを 生じる。水疱は破れやすく、辺縁に疱膜を付着したびらんとなる。びらんはしばしば有痛性で、 隣接したびらんが融合し大きな局面を形成することがある。皮疹の好発部位は、頭部、腋窩、 鼠径部、上背部、殿部などの圧力のかかる部位で、拡大しやすい。一見正常な部位に圧力をか けると表皮が剥離し、びらんを呈する(ニコルスキー現象)。臨床症状から、粘膜病変が主で、 皮膚の水疱、びらんはあっても限局している粘膜優位型と、粘膜のみならず皮膚も広範囲に侵 される粘膜皮膚型に分類できる。  生検は、新しい小水疱か水疱辺縁部を採取する。表皮細胞間接着が失われ、表皮基底層直上 の表皮細胞間に裂隙形成が認められる。水疱内に棘融解細胞(acantholytic cell)が認められ る。基底細胞は上下もしくは隣接する細胞間の接着が障害されているが、基底膜との接着は保 っており墓石状(row of tombstones)となる。 2)落葉状天疱瘡(pemphigus foliaceus)  臨床的特徴は、皮膚に生じる薄い鱗屑、痂皮を伴った紅斑、弛緩性水疱、びらんである。紅 斑は、爪甲大までの小紅斑が多いが、まれに広範囲な局面となり、紅皮症様となることがある。 好発部位は、頭部、顔面、胸、背などのいわゆる脂漏部位で、口腔など粘膜病変を見ることは ほとんどない。ニコルスキー現象も認められる。  表皮細胞間接着が失われ、角層下から顆粒層の表皮上層に裂隙形成が認められる。水疱内に 認められる棘融解細胞は、数が少なく注意深く探す必要がある。 3)腫瘍随伴性天疱瘡(paraneoplastic pemphigus)  最も頻度の高い臨床症状は、難治性の口腔内病変である。口腔内から咽頭にかけた広範囲の 粘膜部にびらん、潰瘍を生じ、赤色口唇まで血痂、痂皮を伴うびらんを認めることを特徴とす る。大多数の患者は眼粘膜病変を伴い、偽膜性結膜炎を認め、高度の病変のため眼瞼癒着を生 じることもある。食道、鼻粘膜、膣、陰唇、亀頭部粘膜病変も好発する。皮膚病変は多彩であ り、紅斑、弛緩性水疱、緊満性水疱、びらん、多形滲出性紅斑様皮疹、扁平苔癬様皮疹などを 認める。手掌・足蹠に多形滲出性紅斑様皮疹を認めれば、手掌・足蹠に皮疹をほとんど認めな い尋常性天疱瘡との鑑別に有用である。慢性型では、苔癬型皮疹が見だつ。  随伴する腫瘍は、その多くがリンパ球系の増殖性疾患であり、一般的に頻度が高い固形腫瘍 である消化管、肺、乳線における腺癌、扁平上皮癌、あるいは皮膚における基底細胞癌、扁平 上皮癌を随伴することは稀である。閉塞性細気管支炎(bronchiolitis obliterans)様肺病変に よる進行性の呼吸器障害に注意する。  病理所見は、臨床症状を反映して多彩である。皮膚病変部は、尋常性天疱瘡様の所見、多形 滲出性紅斑様の所見、扁平苔癬様の所見を混じる。水疱部は、基底層直上で棘融解を認めるが、 表皮細胞壊死および表皮内へのリンパ球浸潤を伴う。さらに、基底細胞の空胞変性、真皮上層 に帯状の密なリンパ球浸潤が見られることもある。好酸球浸潤は稀である。 4)増殖性天疱瘡(pemphigus vegetans)  本症は尋常性天疱瘡の亜型で、水疱、びらんの病変から増殖性変化を生じる Neumann 型と、 間擦部などの膿疱性病変から増殖性変化を生じる Hallopeau 型の2型がある。自己抗体は、尋 常性天疱瘡と同じ抗 Dsg3 IgG 抗体であり、一部の症例では抗 Dsg1 IgG 抗体も有する。病理 学的に、基底層直上での裂隙形成に加え、表皮の著明な乳頭状増殖、好酸球性膿疱を特徴とす る。Neumann 型は比較的進行性で難治であり、Hallopeau 型は自然消退もあり予後良好とさ

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れる。 5)紅斑性天疱瘡(pemphigus erythematosus、Senear-Usher syndrome)  落葉状天疱瘡の局所型である。顔面の蝶形紅斑様の皮疹を伴うことが臨床上の特徴である。 Senear-Usher 症候群が記載された時点では、天疱瘡と紅斑性狼瘡の中間に位置する、あるい は両者が合併した疾患であると推察されたが、その後本症は天疱瘡群に特徴的な抗表皮細胞膜 IgG 抗体を認め、天疱瘡としての特徴を持つことが明らかとなった。 6)疱疹状天疱瘡(herpetiform pemphigus)  古典的天疱瘡の亜型とされる臨床的にジューリング疱疹状皮膚炎に似て、掻痒性紅斑と環状 に配列する小水疱を特徴とするが、蛍光抗体法所見にて天疱瘡と同様に IgG クラスの表皮細胞 膜表面に対する自己抗体が検出される疾患を疱疹状天疱瘡とする。病理学的には古典的天疱瘡 で見られる棘融解が明らかでなく、好酸球性海綿状態が主な所見である。 7)薬剤誘発性天疱瘡(drug-induced pemphigus)  明らかな薬剤投与の既往の後に、天疱瘡様の所見を呈するものを言う。様々薬剤の関与が報 告されているが、D-ペニシラミン、カプトプリルが有名である。多くの症例では、薬剤中止後 に症状は軽快する。 5.治療  天疱瘡は自己免疫性疾患であることより、抗体産生を抑制するためのステロイド内服療法が 主体となり、これに感染予防とびらん面の保護、上皮化促進のため外用療法を併用する。ステ ロイド内服療法の併用療法として、免疫抑制剤 、血漿交換療法、γグロブリン大量静注療法が ある。初期治療が重要であり、治療の目標は、プレドニゾロン 10mg/日以下で臨床的に症状 を認めない寛解が少なくとも維持されることを目指す。詳細は治療指針参照。 6.予後  尋常性天疱瘡は、一般的に落葉状天疱瘡に比べ、難治性で、予後は悪く、特に口腔粘膜病変 は治療抵抗性であることが多い。ただし、紅皮症化した落葉状天疱瘡はこの限りではない。ス テロイド療法導入により、その予後は著しく向上したが、その副作用による合併症が問題とな る。  なお、臨床調査個人票の臨床的診断項目において、臨床的に皮膚・粘膜病変を認めず、治療 がステロイド並びに免疫抑制剤のいずれもが不要になり、1年以上経過した場合、軽快者と考 える。

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II 診断 1. 認定基準 以下の認定基準を用いる 表1 天疱瘡の認定基準 (1) 臨床的診断項目 ①  皮膚に多発する、破れやすい弛緩性水疱 ②  水疱に続発する進行性、難治性のびらん、あるいは鱗屑痂皮性局面 ③  口腔粘膜を含む可視粘膜部の非感染性水疱、あるいはびらん ④ Nikolsky 現象陽性 (2) 病理組織学的診断項目 ①  表皮細胞間接着障害(棘融解 acantholysis)による表皮内水疱を認める。 (3)免疫学的診断項目 ① 病変部ないし外見上正常な皮膚・粘膜部の細胞膜(間)部に IgG(ときに補体)の沈 着を直接蛍光抗体法により認める。 ② 血清中に抗表皮細胞膜(間)IgG 自己抗体(抗デスモグレイン IgG 自己抗体)を間 接蛍光抗体法あるいは ELISA 法により同定する。 [判定及び診断] ① (1)項目のうち少なくとも1項目と(2)項目を満たし、かつ(3)項目のうち少 なくとも1項目を満たす症例を天疱瘡とする。 ② (1)項目のうち2項目以上を満たし、(3)項目の①、②を満たす症例を天疱瘡と する。 2.天疱瘡の重症度判定基準  表1の認定基準により天疱瘡と診断された者のうち、「重症度判定基準」に従いスコアを算 定し重症度を判定する。

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表2 天疱瘡の重症度判定基準 (各項目に該当する所見のスコアを合計して、判定表に従い算定する) 天疱瘡抗体価   項目 スコア 皮 膚 病 変 部 の面積(*a) Nikolsky 現象 水疱の 新生数/日 間接蛍光抗体 法 ELISA 法 ( イ ン デ ッ ク ス 値) 口腔粘膜 病変(c*) スコア0 なし なし なし 検出されな い 正常値内 なし スコア1 5%まで 一部にわず か ときどき (b*) 40 倍未満 50 未満 5%以上 スコア2 5 15%程 度 陽性 1 5 個 40 320 倍 50 150 5 30% スコア3 15%以上 顕著 5 個以上 640 倍以上 150 以上 30%以上 合計スコア 該当スコア (   ) (   ) (   ) (   ) (   ) (   ) 5項目の合計スコアより算定 軽 症:5点以下 中等症:6 9点 重 症:10点以上 a:全体表面積に対する比率(%) b:毎日ではないが、一週間のうち時折新生水疱の見られるもの。 c:粘膜病変が主病変である尋常性天疱瘡では、重症度分類においてスコアを2倍とする。あるいは、明らかな摂食障害を認めるものはスコアにか かわらず重症と判断する。

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III 治療指針 1.治療方針  早期診断を心がけ、初期治療の重要性を認識する。本疾患の治療は皮膚科専門医によりなさ れるべきであり、一次医療機関において天疱瘡が疑われるか、あるいは診断された場合は、速 やかに二次、三次医療機関へ紹介し、加療すべきである。初期治療が不十分であるとステロイ ド減量中に再発を認めることがあるので、初期治療を十分に行うことが大切である。重症例に おいては、治療により水疱、びらんの出現が認められなくなるばかりでなく、ステロイド漸減 後、少量のステロイド(プレドニゾロン 10mg/日以下)による治療のみで寛解が維持されるこ とが必要である。 2.一次医療機関に対する治療指針  天疱瘡において病初期にその予後を予測するのは困難な場合が多い。また、病初期の適切な 治療が重要であるので、一次医療機関において天疱瘡が疑われるか、あるいは診断された場合 は、速やかに二次、三次医療機関へ紹介し、加療すべきである。天疱瘡では、病勢が強いと全 身に水疱、びらんが多発し、広範な熱傷のごとき臨床像を呈し厳重な全身管理を要する症例、 難治性・有痛性の口腔粘膜疹のため食餌摂取に困難をきたし低栄養状態に陥る症例等も少なく ない。従って、一次医療機関における治療は、軽症例ないしは寛解導入例を対象に行われるの が一般的である。以下軽症例を対象とした治療指針について述べる。 (1)ステロイド全身投与療法 不十分な治療にて治療が遷延することが多いので、二次、三次医療機関に紹介の上投与するこ とが望ましい。 (2)外用療法、局所療法  水疱、びらんの湿潤面には抗生物質含有軟膏、ステロイド軟膏を塗布する。口腔内のびらん、 潰瘍には口腔粘膜用ステロイド含有軟膏、噴霧剤などを使用する。強力なステロイド外用剤は、 落葉状天疱瘡の軽症例に有効なことがある。 3.二次、三次医療機関に対する治療指針  天疱瘡重症度判定基準に従い重症度スコアを算定し、重症度を的確に把握することが肝要で ある。 (1)ステロイド全身投与療法  一般的には、プレドニゾロン 0.5 1.0 mg/kg/日で開始し、皮疹の新生が止まったことを確 認後1週間程度して減量を開始する。2 週間で初期投与量の約 10%の割合で減量し、初期投与 量の 50%以下、あるいは 20mg/日以下ではさらに慎重に行う。再燃傾向を認めた場合は、そ の時のステロイド投与量の 1.5 2 倍に増量するとともに、免疫抑制剤の補助療法を併用する。 ステロイド増量のみでは減量の際、再燃する可能性が高い。ステロイド内服開始前に糖尿病、 高血圧、消化管潰瘍、感染症などの合併症の検索を十分に行う必要がある。 (2)免疫抑制剤  ステロイド内服が無効な場合や減量できない場合には、アザチオプリン(2 3 mg/kg/日)、 シクロスポリン(5 mg/kg/日)、シクロフォスファミド(1 2 mg/kg/日)、ミコフェノレ ート・モフェティル(2 3g/日)などの免疫抑制剤の併用療法を考える。いずれの免疫抑制剤 においても、肝臓、腎臓障害、骨髄抑制作用、感染症に注意する。 (3)血漿交換療法及びその他の治療法  血漿交換療法(週2回、2 3 ヶ月)が可能である施設では、積極的に導入を考慮すべきであ り、ステロイドの減量を速やかに行うことが可能である。また重症例においても即効性のある 治療法である。 (4)γグロブリン大量静注療法  ステロイド内服などの通常の治療法に反応しない場合、400mg/kg/日を5日間連続投与す る。全般的な免疫抑制を伴わない唯一の治療法である。 (5)その他の全身的治療法

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 ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 1 g/日、3日間)は、重症例において有用 性が報告されている。今後、抗 CD20 抗体療法などの生物学的製剤の有用性について検討する 必要がある。 (6)外用療法  外用療法として、水疱、びらんの湿潤面には抗生物質含有軟膏、ステロイド軟膏を塗布する。 口腔内のびらん、潰瘍には口腔粘膜用ステロイド含有軟膏、噴霧剤などを使用する。 具体例を以下に示す。 未治療症例  重症・中等症 第一選択 ① ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日) 第二選択 1 2週間投与して明らかな効果が見られなければ、② ⑦のいずれかを選択する。 ② ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日)+血漿交換療法 ③ ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日)+免疫抑制剤(アザチオプ リン 2 mg/kg/日) ④ ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日)+免疫抑制剤(シクロスポ リン 5 mg/kg/日) ⑤ ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日)+免疫抑制剤(シクロフォ スファミド 1 mg/kg/日) ⑥ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日)+免疫抑制剤(ミコフェノレ ート・モフェティル 40 mg/kg/日) ⑦ ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日)+γグロブリン大量静注療 法 第三選択 さらに、効果が明らかでない症例には、⑧、⑨のいずれかを選択する。 ⑧ ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン 1 g/日、3日間) ⑨ ステロイド内服(プレドニゾロン 1.0 mg/kg/日)+血漿交換療法+免疫抑制 剤(シクロフォスファミド 1 mg/kg/日)  軽症 ① ステロイド内服(プレドニゾロン 0.5 mg/kg/日) ② ステロイド外用 再燃症例  重症・中等症 再燃症例においては、前回初期治療により十分に抗体産生が抑制できていない事実を 考慮し、前回初期治療とは異なる治療プロトコールを上記第二選択、あるいは第三選 択より選択する。

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2,抗表皮基底膜部抗体疾患群 A:水疱性類天疱瘡 (bullous pemphigoid) I. 概 要 1. 定義  水疱性類天疱瘡は表皮基底膜部抗原(ヘミデスモソーム構成蛋白である BP230 と BP180)に 対する自己抗体(IgG)の関与により、表皮下水疱を生じる自己免疫性水疱症の代表的疾患で ある。臨床的には、皮膚に多発するそう痒性紅斑と緊満性水疱を特徴とする。通常、ニコルス キー現象は陰性で、口腔内病変を生じる場合もある。水疱性類天疱瘡の診断には、臨床症状、 病理組織学的所見、蛍光抗体法、免疫ブロット法、ELISA が用いられる。その他、特殊な病型 として、限局性類天疱瘡 、小水疱性類天疱瘡、結節型類天疱瘡、増殖性類天疱瘡、lichen planus pemphigoides、dyshidrosiform pemphigoid などが知られている。 2. 疫学  最も頻度の高い自己免疫性水疱症で、近年の高齢化に伴い急速に増加している。年齢的には 60-90 歳の高齢者に多く、まれに小児例もある。性差はない。 3. 病因  IgG 抗表皮基底膜部抗体による自己免疫性疾患である。BP180 は膜通過蛋白、BP230 は細胞 内接着板蛋白であり、抗 BP230 抗体には直接水疱を誘導する病原性はなく、抗 BP180 抗体が病 原性を有すると考えられている。主に BP180 の NC16a 部位(基底細胞の下面細胞膜に最も近 い細胞外部位)に存在するエピトープに対する抗体が病原性を有する。活動期の患者の 85%-90% が BP180 の NC16a 部位のリコンビナント蛋白に反応する。 4. 症状、検査所見  臨床的にはそう痒を伴う浮腫性紅斑・緊満性水疱を特徴とする。病理組織学的には表皮下水 疱と水疱内および真皮の好酸球浸潤を認める。蛍光抗体直接法で病変表皮基底膜部への IgG お よび C3 の沈着を認め、蛍光抗体間接法で血中 IgG 抗表皮基底膜部自己抗体を検出する。この IgG 抗表皮基底膜部自己抗体は 1M 食塩水剥離皮膚の表皮側に反応する。免疫電顕ではヘミデスモ ソームに反応する。免疫ブロット法・免疫沈降法で、BP230 と BP180 に様々なパターンで反応 する。BP180 と BP230 の ELISA が開発されており、今後、水疱性類天疱瘡の血清学的診断に 応用されると思われる。 5. 治療  尋常性天疱瘡より治療への反応性がよくコントロール容易であるが、慢性に経過することも ある。ときに治療に反応せず多量のステロイド内服ないし他の免疫抑制薬の内服を要すること もある。  治療はステロイド内服が主体であるが、軽症、中等症ではテトラサイクリン(あるいはミノ サイクリン)とニコチン酸アミドの併用内服が奏効する。また、テトラサイクリン(あるいは ミノサイクリン)とニコチン酸アミドの併用内服を併用することにより、20-30mg/日程度の少 量のステロイド内服でコントロールできることが多い。臨床的に限局性および非典型的な症例 では DDS 内服が奏効することもある。難治例ではステロイドパルス療法、各種免疫抑制薬、血 漿交換療法、γグロブリン大量静注療法、インターフェロンγ療法などを併用する。

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II. 診断 1 診断基準 表1 水疱性類天疱瘡の診断基準 (1) 臨床的診断項目 ① 皮膚に多発する、そう痒性紅斑と緊満性水疱 (2) 病理組織学的診断項目 ① 表皮下水疱と好酸球の浸潤 (3) 免疫学的診断項目 ① 蛍光抗体直接法により皮膚の表皮基底膜部に IgG あるいは補体の沈着が認めら れる ② 蛍光抗体間接法ないし ELISA 法により、流血中に抗表皮基底膜部抗体(水疱性 類天疱瘡抗体)(IgG)を検出する。 [判定及び診断] ① (1)項目と(2)項目を満たし、かつ(3)項目のうち少なくとも1項目を満たす症例を水疱性類天 疱瘡と診断する。 ② (1)項目を満たし、かつ(3)項目の①、②を満たす症例を水疱性類天疱瘡と診断する。 [鑑別すべき疾患]  粘膜類天疱瘡、後天性表皮水疱症などの他の抗表皮基底膜部抗体症候群の疾患を鑑別する必 要がある。粘膜類天疱瘡では、病変がほぼ口腔内や眼などの粘膜に限局していることから除外 できる。後天性表皮水疱症では、外力の当たる部位に好発し、瘢痕と稗粒腫を残すことから鑑 別されるが、最終的には 1M 食塩水剥離ヒト皮膚切片を用いた蛍光抗体間接法で真皮側に反応 することと、免疫ブロット法で VII 型コラーゲンに反応することで除外する。

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2 水疱性類天疱瘡の重症度判定基準  表1の認定基準により水疱性類天疱瘡と診断されたもののうち「重症度判定基準」に従いス コアを算定し重症度を判定する。 表2 水疱性類天疱瘡の重症度判定基準 (各項目に該当する所見のスコアを合計して、判定表に従い判定する)     皮膚病変部 水疱の 水疱性類天疱瘡抗体価      の面積 新生数 蛍光抗体   ELISA (*a) (/日) 間接法  BP180、BP230 (インデックス値) スコア0 なし なし 検出   正常値内 されない スコア1 5%未満 ときどき 40 倍未満   50 未満 (*b) スコア2 5%以上 1-5 個 40-    50 以上 15%未満 320 倍    150 未満 スコア3 15%以上 5 個以上 640 倍以上  150 以上 ( 点) ( 点) ( 点) 3項目の合計スコアより判定 軽 症:3点以下 中等症:4− 6点 重 症:7点以上 a: 全体の表面積に対する比率(%) b: 毎日ではないが、1週間のうちときおり水疱の新生が見られるもの。 Ⅲ 治療指針  水疱性類天疱瘡などの自己免疫性水疱症は皮膚・粘膜のみに病変を認める皮膚科特異的疾患 であり、間違った診断や不適切な治療により重篤な経過をとることがあるため、熟練した皮膚 科専門医による診療が必須である。 1  一次医療機関における治療指針  厚生労働省調査研究班の策定した重症度判定基準において、重症と判定される症例では、大 量のステロイド投与にもかかわらず、水疱の新生を繰り返す症例や、全身に水疱やびらん面が 多発して、広汎な熱傷のような臨床像を呈し厳重な全身管理を要する症例も少なくない。また、 中等症と判定された症例でも、中等量のステロイド投与では軽快しない症例がある。そのため、 水疱性類天疱瘡の一次医療機関における治療は、軽症例を対象に行われる場合が一般的である。 下記治療に対して軽快しない中等症—重症例は速やかに二次・三次医療機関に紹介し加療する ように要請する。したがって、本項では軽症例を対象とした治療方針について述べる。 (1) テトラサイクリン・ニコチン酸アミド併用療法  軽症例では、テトラサイクリン 750-1500 mg/日(あるいはミノサイクリン 100-200 mg/日)と ニコチン酸アミド 600-1500 mg/日の併用療法が奏効する。臨床症状の改善とともに投与量を漸

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(2) 局所療法  皮疹部にはベリーストロング、ストロングクラスのステロイド外用薬の外用が一般的である。 限局性の軽症例では抗生物質含有ステロイド軟膏の外用のみで治療効果の期待できる症例も存 在する。その他、抗生物質含有軟膏(ゲンタシン軟膏®など)、エキザルベ®、亜鉛華単軟膏の貼 付も用いられる。 (3) その他の療法  軽症例ではマクロライド系抗生物質のルリッド®の有効性も報告されている。 2 二次・三次医療機関における治療指針 まず、厚生労働省調査研究班の水疱性類天疱瘡重症度判定基準に従い重症度スコアを算定 し重症度を的確に把握することが肝要である。厚生労働省特定疾患稀少難治性皮膚疾患調 査研究班では水疱性類天疱瘡に対して以下のような治療指針を提唱している。 (4) テトラサイクリン(あるいはミノサイクリン)とニコチン酸アミドの併用療法に加え て、重症度判定基準によって中等症と判定された症例では、PSL 初回投与量 0.4-0.6 mg/kg/日、また、重症と判定された症例では、PSL 初回投与量 0.6-1 mg/kg/日とし、そ れ以上の過量投与は控える。臨床症状の改善とともにステロイドの量を漸減する。 (5) テトラサイクリン(あるいはミノサイクリン)とニコチン酸アミドの併用療法にステ ロイド内服を加えても十分な効果が得られない重症症例では、ステロイドパルス療法、 血漿交換療法、免疫抑制薬内服が行われる。ステロイドパルス療法としては、メチル プレドニソロン 0.5-1 g/日を3日間投与する。免疫抑制薬としては、シクロスポリン 3 mg/kg/日、アザチオプリン 50-100 mg/日、シクロフォスファミド 50-100 mg/日が投 与される。 (6) 今後は、免疫抑制薬としてはミコフェノール酸モフェチル内服(40 mg/kg/日、通常 2g/ 日)、γグロブリン大量静注療法、インターフェロンγ療法の臨床効果について症例を 集積して検討する必要がある。

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B: 妊娠性疱疹(herpes gestationis) 1 定義  妊娠ないし産褥期の女性に出現する水疱性類天疱瘡類似疾患と考えられる。血中の HG(herpes gestationis)因子は実際には補体結合能の高い IgG 抗表皮基底膜部抗体であり、水疱性類天疱瘡 同様、この抗体は BP180 の NC16a 部位に反応する。血中自己抗体の IgG サブクラスの検討で、 水疱性類天疱瘡では補体結合能のない IgG4 が主体をしめ、妊娠性疱疹では補体結合能のある IgG1,IgG3 が多いことが示されており、HG 因子の高度の補体結合性を裏付けるものと考えられ る。  妊娠・性ホルモンの関与については一定した見解はない。胎盤基底膜部に発現する BP180 と の交叉反応の可能性が示唆される一方、HLA-DR3, DR4(夫の HLA-DR2)が高頻度にみられる ことから特定の免疫遺伝学的機序が想定されている。ときに一過性に新生児に母親同様の皮疹 が見られることがあり、これは母親の血中 IgG が胎盤を通過して児に移行したためと考えられ、 皮疹は自然に消退する。これは自己抗体が病原性を有していることを示している。 2. 疫学  本邦報告例は約 60 例でまれな疾患と考えられる。 3. 症状、検査所見  激しいそう痒を伴う浮腫性紅斑として出現し遠心性に拡大する。全身にみられるが臍周囲に 初発することが多い。紅斑周辺に比較的小型の緊満性水疱が出現するがあまり著明でない。粘 膜疹は約 20%にみられる。発症時期は妊娠7カ月以降が多いが、約 20%は産褥期に初発する。  病理組織学的には表皮下水疱と水疱内および真皮の好酸球浸潤を認める。蛍光抗体直接法で 生検皮膚の表皮基底膜部に C3 の線状沈着を見る。30-40%では IgG の沈着も見る。蛍光抗体補 体法で、血中 HG 因子(補体結合性 IgG 抗表皮基底膜部抗体)を検出するが、通常の蛍光抗体 間接法で IgG 抗表皮基底膜部抗体を検出することもある。これらは 1M 食塩水剥離皮膚の表皮 側に反応する。表皮抽出液を基質とした免疫ブロット法で BP180 に反応し、BP180 NC16a 部位 のリコンビナント蛋白を基質とした免疫ブロット法で陽性を示す。

 Pruritic urticarial papules and plaques of pregnancy(PUPPP)、妊娠性痒疹、ジューリング疱疹 状皮膚炎、水疱性類天疱瘡との鑑別を要する。妊婦に見られること、臨床症状、蛍光抗体直接 法(表皮基底膜部の C3 の沈着)と血中 HG 因子の検出で診断する。

 多くの例で出産後軽快する。胎児に対しては早死産が多いという報告と多くはないという報 告があり一致していない。本邦では死産が1例のみで奇形の報告はない。

C: 粘膜類天疱瘡(mucous membrane pemphigoid) 1 定義  粘膜類天疱瘡では、主に口腔・眼粘膜に水疱・びらん性病変を生じ、瘢痕を残す。皮膚病変 は全く認めないか、ごくわずかである。多様性があり、異なった自己抗原を示す。大多数は BP180 に反応する IgG あるいは IgG/IgA 両方の抗表皮基底膜部抗体を示し、約 10%の症例ではラミニ ン 5(エピリグリン)に反応する IgG 抗体を示す。眼病変のみを示す症例では未知抗原に対す る IgA 抗体の検出が報告されている。 2 疫学  比較的まれで高齢者に好発する。性差はない。 3 病因、症状、検査成績 a.抗 BP180 型粘膜類天疱瘡  BP180 に反応する IgG あるいは IgG/IgA 抗体により生じる自己免疫性水疱症である。水疱性

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類天疱瘡が BP180 の表皮基底細胞の細胞膜に近い NC16a 部位に反応するのに対して、BP180 の深部の基底板に近い部位に反応するため異なった症状を示すと考えられている。  主として口腔・眼粘膜に水疱・びらん性病変を生じ、皮膚病変は全く認めないか、認めても ごくわずかである。外陰部、肛囲、鼻粘膜も侵される。口腔粘膜は歯肉部に好発するが、咽頭 部、喉頭部、食道にも生じる。重症例では、急速に眼病変が進行して眼球癒着のため失明に至 ったり、喉頭病変による呼吸困難で気管切開を要したり、重篤な食道病変を生じる。通常口腔 粘膜、皮膚には瘢痕を残すことはない。  病理組織学的には表皮下水疱を示す。水疱性類天疱瘡より炎症性細胞浸潤は少ない。蛍光抗 体直接法で表皮基底膜部に IgG あるいは IgG/IgA 両方および C3 の線状沈着をみる。蛍光抗体 間接法で血中にも IgG あるいは IgG/IgA の抗表皮基底膜部抗体を検出し、1M 食塩水剥離皮膚 の表皮側に反応するが、血中抗体の抗体価は低く約 30%程度に検出されるのみである。一部は 免疫ブロット法で BP180 と反応する IgG/IgA を検出し、BP180 の C 末端のリコンビナント蛋白 に反応する。 b. 抗ラミニン 5(エピリグリン)型粘膜類天疱瘡  IgG 抗ラミニン 5(エピリグリン)抗体による自己免疫性水疱症である。主として口腔・眼 粘膜に水疱・びらん性病変を生じ、ときに皮膚病変も認める。外陰部、肛囲、鼻粘膜も侵され る。口腔粘膜は歯肉部に出現するが、咽頭部、喉頭部、食道にも高率に生じる。重症例では、 急速に眼病変が進行して眼球癒着のため失明に至ったり、喉頭病変による呼吸困難で気管切開 を要したり、重篤な食道病変を生じる。通常口腔粘膜、皮膚には瘢痕を残すことはない。  病理組織学的には表皮下水疱である。水疱性類天疱瘡より炎症性細胞浸潤は少ない。蛍光抗 体直接法で表皮基底膜部に IgG および C3 の線状沈着をみる。蛍光抗体間接法で血中にも IgG の抗表皮基底膜部抗体を検出し、1M 食塩水剥離皮膚の真皮側に反応する。免疫沈降法、免疫 ブロット法でラミニン 5(エピリグリン)と反応する IgG を検出する。  予後は、抗 BP180 型粘膜類天疱瘡と同様であるが、一般により重症で、著明な眼病変・喉頭 病変を生じることが多い。 c. 眼型粘膜類天疱瘡   眼粘膜病変のみ生じる。眼瞼結膜、眼球結膜に疼痛を伴うびらん性病変がみられ、瘢痕・萎 縮・癒着を生じる。涙管の閉塞のために流涙が著明となることが多い。慢性に経過し、徐々に 進行し、高度な場合は失明に至る。  蛍光抗体間接法で、血清中に IgA 抗表皮基底膜部抗体を検出し、1M 食塩水剥離皮膚の表皮 側に反応する。抗体価は非常に低く検出率は低い。この抗体が反応する抗原は明らかではない。

D: ジューリング疱疹状皮膚炎(dermatitis herpetiformis Duhring) 1.定義

 消化管で形成された IgA 免疫複合体の皮膚への沈着が原因とされ、欧米では本症と高率に合 併するグルテン過敏性腸炎と関連が想定されている。皮膚抗原に対する自己抗体はない。 2.疫学

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が認められる。グルテン除去食および DDS(ダプソン)の投与により症状は軽快する。もともと I 型糖尿病を自然発生する系統のマウスにヒトの HLA 遺伝子を導入したことから、本症の病因 に遺伝的背景が重要であることが示唆された。なお、このマウスモデルでは腸管病変(セリア ック病)は観察されなかった。 4.症状と検査成績  全身、とくに肘頭・膝蓋・腰部などに、周辺に小水疱の環状配列を示す浮腫性紅斑を生じる。 そう痒が非常に強いため掻破により湿疹様変化を示す。粘膜疹はない。欧米の患者では高率に グルテン過敏性腸炎を合併するが本邦ではみられない。全身症状はない。  病理組織学的に真皮乳頭部の好中球性微小膿瘍を示し、それが進行した部位では表皮下水疱 を形成する。蛍光抗体直接法で真皮乳頭部への IgA の顆粒状あるいは細線維状の沈着を呈する。 補体 C3 も同時に沈着する。本邦では真皮乳頭部への IgA の細線維状沈着を呈する症例が多い。 血中抗皮膚自己抗体は存在しないが、欧米の症例ではグリアジン、レチクリン、エンドミシウ ム、トランスグルタミナーゼ 1 に対する血中 IgA 自己抗体が検出されジューリング疱疹状皮膚 炎の診断に有用である。欧米の患者では HLA-B8/DR3 ハプロタイプが高率に検出されるが本邦 では通常検出されない。

E: 線状 IgA 水疱性皮膚症(linear IgA bullous dermatosis) 1 定義  臨床的にジューリング疱疹状皮膚炎に類似するため以前はジューリング疱疹状皮膚炎の亜型 と考えられていた。しかし、IgA が表皮基底膜部に線状に沈着すること、血中自己抗体が検出 されること、グルテン過敏性腸炎や HLA-B8/DR3 ハプロタイプを示さないことなどから独立疾 患と考えられるようになった。血中の IgA 抗表皮基底膜部抗体が 1M 食塩水剥離皮膚の表皮側 と真皮側に反応するものがあり、それぞれ透明層型(lamina lucida 型)および基底板下部型 (sublamina densa 型)と呼ばれる。  透明層型の血清は、表皮抽出液の免疫ブロット法では 97 kDa 蛋白と、培養ケラチノサイト上 清の免疫ブロット法では 120 kDa 蛋白と反応する(LAD-1 とよばれる)。これらの抗原は BP180 から生じ、まず細胞膜近傍で切断され 120 kDa 蛋白になり、次いで C 末端で切断されて 97 kDa 蛋白となる。一部の基底板下部型の血清は VII 型コラーゲンと反応するが、多くの症例ではそ の抗原は不明である。 2.疫学  本邦で比較的多い。小児と成人の症例があり、本質的には同一疾患と考えられている。 3.病因  IgA 抗表皮基底膜部抗体が病因に関連していると考えられる。IgA 抗体の受動免疫マウスモ デルにおける皮膚病変の誘発の報告がある。 4. 症状と検査成績  ジューリング疱疹状皮膚炎類似の臨床像を示すが水疱性類天疱瘡に近い皮疹を示す場合もあ る。成人例では全身に浮腫性の環状紅斑を示し水疱は小型で少ないことが多い。小児では外陰 部周囲および殿部に好発する小水疱をみる。  病理組織学的にジューリング疱疹状皮膚炎と類似の水疱底から真皮乳頭部の好中球浸潤を示 す。蛍光抗体直接法では病変皮膚の表皮基底膜部への線状の IgA の沈着を示す。血中 IgA 抗表 皮基底膜部抗体は小児の症例には比較的多く、成人症例では殆ど検出されない。透明層型では 1M 食塩水剥離皮膚の表皮側に反応し、基底板下部型では真皮側に反応する。免疫電顕学的な 抗原の局在も異なる。  表皮基底膜部への IgA の線状沈着により古典的な疱疹状皮膚炎と鑑別する。慢性に経過する ことが多いが、ジューリング疱疹状皮膚炎ほどではない。

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F: 後天性表皮水疱症(epidermolysis bullosa acquisita) 1.定義  係留線維の主成分である VII 型コラーゲンと反応する IgG 抗表皮基底膜部抗体による自己免 疫水疱症である。 2 疫学  中高年に発症するが水疱性類天疱瘡より若い年齢に発症する。比較的まれで水疱性類天疱瘡 の 10 分の 1 以下である。性差はない。 3 症状、検査成績  栄養障害型先天性表皮水疱症類似の皮膚病変を示す。四肢を中心に外力の当る部位に水疱を 形成し治癒後に瘢痕と稗粒腫の形成をみる。爪変化が見られることもある。口腔内病変も多い。 古典型では炎症症状は少ないが、炎症型では著明な紅斑を示し、臨床的に水疱性類天疱瘡と鑑 別が困難である。通常極めて難治である。種々の治療法に抵抗し長期にわたって水疱の新生が 続くことが多い。  病理組織学的には表皮下水疱を示す。古典型では炎症所見は少ないが、炎症型では著明な炎 症性細胞浸潤を示す。  蛍光抗体直接法で表皮基底膜部への IgG、C3 の線状沈着をみる。蛍光抗体間接法で血中に IgG 抗表皮基底膜部抗体を認め、1M 食塩水剥離皮膚の真皮側に反応する。免疫電顕にて基底板あ るいは係留線維と反応し、真皮抽出液の 免疫ブロット法で VII 型コラーゲンと反応する。  臨床症状、蛍光抗体法所見で診断するが、最終診断には免疫電顕による抗原の局在ないし生 化学的な抗原の同定が必要である。

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3,膿疱性乾癬 Ⅰ. 概 要 1 定 義  膿疱性乾癬(汎発型)は、急激な発熟とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多発する 稀な疾患である。病理組織学的に Kogoj 海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成する。尋常 性乾癬皮疹が先行する例としない例があるが、再発を繰り返すことが本症の特徴である。経過 中に全身性炎症に伴う臨床検査異常を示し、しばしば粘膜症状、関節炎を合併するほか、まれ に眼症状、二次性アミロイドーシスを合併することがある。 2 疫 学  全国調査の結果から本邦の膿疱性乾癬(汎発型)の推定患者数は約 1,000 例であり、毎年、16.5 例の推定発症者がある。女性にやや多く(男 1: 女 1.2)、発症年齢は幼児から高齢者にわたるが、 小児期と 30 歳代にピークをもつ。小児期では女児の罹患が多い。 3 病 因  遺伝素因を基盤に何らかの誘因により発症するとされているが詳細は不明。病因として、免 疫学的炎症反応と表皮角化細胞増殖シグナルの異常という両面からの研究が進められている。 膿疱形成を特徴とする全身性炎症反応には、好中球の活性化と遊走、発熱を促すサイトカイン の関与、サイトカイン産生を規定する遺伝的背景が存在することが示唆されている。 4 臨床症状  膿疱性乾癬(汎発型)の病型には、急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch 型)小児汎発性膿 疱性乾癬、疱疹状膿痂疹と稽留性肢端皮膚炎の汎発化が含まれる。  急性期症状は、前駆症状なしに、あるいは尋常性乾癬皮疹が先行し、灼熱感とともに紅斑を 生じる。多くは悪寒・戦慄を伴って急激に発熱し、全身皮膚の潮紅、浮腫とともに無菌性膿疱 が全身に多発する(図1)。膿疱は 3 5mm 大で、容易に破れ融合し、環状・連環状配列をと り、ときに膿海を形成する(図2)。爪甲肥厚、爪甲下膿疱(爪甲剥離)、頬粘膜病変や地図状舌 などの口腔内病変がみられる。しばしば全身の浮腫、関節痛を伴い、ときに結膜炎、虹彩炎、 ぶどう膜炎などの眼症状、まれに呼吸不全、循環不全、悪液質や腎不全を併発することがある。  慢性期には、尋常性乾癬の皮疹や、手足の再発性膿疱のほか、非特異的紅斑・丘疹など多様 な症状を呈する。急性期皮膚症状が軽快しても、強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関 節炎が続くことがある。 5 誘 因  感染症(特に上気道感染)、紫外線曝露、薬剤(特に副腎皮質ホルモン薬など)、妊娠・月経、 低カルシウム血症、ストレスなどが知られている。抗生物質、鎮痛解熱薬によって誘発される こともあるが、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosis を含む)との鑑別が必要 である。また、尋常性乾癬に対する不適切な治療、ことに強カな副腎皮質ホルモン薬治療の中 止が発症の誘因になることがある。 6 検査所見  病理組織学所見は、表皮肥厚や表皮突起延長に加えて、表皮角層下に好中球性膿疱を認め、 その周囲の海綿状膿疱(Kogoj)がみられるのが特徴である(図3)。  血液検査所見として、白血球増多・核左方移動、血沈亢進・CRP 強陽性・ASLO 高値、IgG または IgA の上昇、低蛋白血症・低カルシウム血症などが認められる。 7 治 療 1)治療法の指針と現状 治療法は、急性期と慢性期で異なり、皮膚症状の改善を目的とするか関節症状などの合併症 を目的とするか、あるいは年齢や妊娠の有無を考慮して薬剤選択がなされている(表1)。EBM に基づく治療ガイドライン策定が進行中である。全国調査(1994 年)の結果(急性、慢性期を

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法(32.4%)、ステロイド内服(29.5%)、シクロスポリン内服(22.5%)、その他の療法(16.4%)、 メトトレキサート(16.2%)、扁摘(8.2%)、シクロスポリン以外の免疫抑制剤(2.9%)の順で 治療が選択されている。 2)各治療法の効果・副作用  全国調査において、著効、有効、やや有効、無効の4段階で各治療法の有効性を調査した結 果、エトレチナートが有効性 79.4%(著効+有効)と最も優れており、続いてステロイド、シ クロスポリン、メトトレキサートはほぼ同等の効果(60%)を示していた。副作用の頻度はエ トレチナートにおいて最も高く(38.8%)、続いてシクロスポリン(30.9%)、ステロイド(26.4%)、 メトトレキサート(20.4%)である。 8 合併症

 急性期の全身性炎症反応症候群(SIRS),capillary leak 症候群や急性呼吸窮迫症候群(ARDS) のほかに、本症の 15‐20%に関節炎を合併する。まれに結膜炎、ぶどう膜炎などの眼症状や、 長期に継続する炎症により二次性アミロイドーシスを合併することがある。また,長期の治療 に関連した重篤な合併症に注意を要する。 9 予 後  治癒あるいは膿疱出現が減少した軽快例は、43.0%の患者で認められる。しかし、膿疱出現 をくり返す例や、膿疱出現が増加した再発例も多く、これに尋常性乾癬に移行した例と死亡し た例を加えると、約半数の症例は同程度の再発をくり返すし、難治といわざるを得ない。2 回 の全国調査(1989 年、1994 年)において、208 例の汎発性膿疱性乾癬患者中 10 例(第 1 回目 調査)、244 例中 7 例(第 2 回目調査)の死亡患者の登録があり、稀ながら不幸な転帰をとる症 例が存在する。死亡統計では、4.2 例/年で、55 歳以上の男性に多い。海外の報告では、死因 として悪液質、心血管系異常、アミロイドーシス、メトトレキサート合併症などの報告がある。

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Ⅱ.診 断 1 膿疱性乾癬(汎発型)の認定基準(2006 年)         表1 膿疱性乾癬(汎発型)の認定基準(2006 年) 【定義】膿疱性乾癬(汎発型)は、急激な発熟とともに全身の皮膚が潮紅し、無菌性膿疱が多 発する稀な疾患である。病理組織学的に Kogoj 海綿状膿疱を特徴とする角層下膿疱を形成する。 尋常性乾癬皮疹が先行する例としない例があるが、再発を繰り返すことが本症の特徴である。 経過中に全身性炎症反応に伴う臨床検査異常を示し、しばしば粘膜症状、関節炎を合併するほ か、まれに眼症状、二次性アミロイドーシスを合併することがある。 1 主要項目 1)発熱あるいは全身倦怠感等の全身症状を伴う。 2)全身または広範囲の潮紅皮膚面に無菌性膿疱が多発し、ときに融合し膿海を形成する。 3)病理組織学的に Kogoj 海綿状膿疱を特徴とする好中球性角層下膿疱を証明する。 4)以上の臨床的、組織学的所見を繰り返し生じること。ただし、初発の場合には臨床経過から 下記の疾患を除外できること。 以上の 4 項目を満たす場合を膿疱性乾癬(汎発型)(確実例)と診断する。主要項目 2)と 3)を 満たす場合を疑い例と診断する。 2 参考事項 1)重症度判定および合併症検索に必要な臨床検査所見  (1)白血球増多、核左方移動  (2)赤沈亢進、CRP 陽性  (3)IgG 又は IgA 上昇  (4)低蛋白血症、低カルシウム血症  (5)扁桃炎、ASLO 高値、その他の感染病巣の検査  (6)強直性脊椎炎を含むリウマトイド因子陰性関節炎  (7)眼病変(角結膜炎、ぶどう膜炎、虹彩炎など)  (8)肝・腎・尿所見:治療選択と二次性アミロイドーシス評価 2)膿疱性乾癬(汎発型)に包括しうる疾患 (1) 急性汎発性膿疱性乾癬(von Zumbusch 型):膿疱性乾癬(汎発型)の典型例。 (2)疱疹状膿痂疹:妊娠、ホルモンなどの異常に伴う汎発性膿疱性乾癬。  (3)稽留性肢端皮膚炎の汎発化:厳密な意味での本症は稀であり、診断は慎重に行う。  (4)小児汎発性膿疱性乾癬:circinate annular form は除外する。

3)一過性に膿疱化した症例は原則として本症に包含されないが、治療が継続されているために 再発が抑えられている場合にはこの限りではない。 3 除外診断 1)尋常性乾癬が明らかに先行し、副腎皮質ホルモン剤などの治療により一過性に膿疱化した症 例は原則として除外するが、皮膚科専門医が一定期間注意深く観察した結果、繰り返し容易 に膿疱化する症例で、本症に含めた方がよいと判断した症例は、本症に含む。

2)circinate annular form は、通常全身症状が軽微なので対象外とするが、明らかに汎発性膿疱性 乾癬に移行した症例は、本症に含む。

3)一定期間の慎重な観察により角層下膿疱症、膿疱型薬疹(acute generalized exanthematous pustulosis を含む)と診断された症例は除く。

(厚生労働省特定疾患「稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班」平成 18 年度第 2 回総会、東 京、2007 年 2 月 23 日)

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2 重症度判定基準(2006 年) 皮膚症状(紅斑、膿疱、浮腫)および全身性炎症に伴う検査所見(発熱、白血球数、血清 CRP 値、血清アルブミン値)の評価をスコア化し、その点数を合計することにより軽症、中等症と 重症に分類する。 なお、軽快者とは、1)疾患特異的治療をしなくても皮膚症状の再燃を認めないか、尋常性 乾癬に移行したもので、2)急性期、慢性期の合併症(関節症、眼症状など)を認めず、3) 日常生活に支障ない状況が1年以上続いている者、と定義する。

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       表2 膿疱性乾癬(汎発型)の重症度分類診断基準 A 皮膚症状の評価: 紅斑、膿疱、浮腫(0− 9) B 全身症状・検査所見の評価: 発熱、白血球数、血清 CRP、血清アルブミン(0− 8) ○重症度分類  : 軽 症   中等症   重 症  (点数の合計)  (0− 6)  (7− 10) (11− 17) A. 皮膚症状の評価(0− 9)        高 度    中等度    軽 度    な し 紅斑面積(全体)* 3      2      1      0 膿疱を伴う紅斑面積** 3      2     1      0 浮腫性紅斑面積** 3      2     1      0 *体表面積に対する%(高度:75%以上、中等度 25 以上 75%未満、軽度:25%未満) **体表面積に対する% (高度:50%以上、中等度:10 以上 50%未満、軽度:10%未満)          B. 全身症状・検査所見の評価(0− 8) スコア     2      1      0 発熱(℃)    38.5 以上     37 以上 38.5 未満    37 未満白血球数(/μL)    15,000 以上 10,000 以上 15,000 未満 10,000 未満 CRP(mg/dl) 7.0 以上 0.3 以上-7.0 未満  0.3 未満 血清アルブミン(g/dl) 3.0 未満     3.0 以上-3.8 未満    3.8 以上 Ⅲ. 治療指針 膿疱性乾癬(汎発型)の治療は、急性期の全身症状に対する治療、急性皮膚症状に対する治 療および寛解維持療法、関節症状などの皮膚外合併症に対する治療が必要である。重症乾癬治 療には EBM に基づく系統的レヴューがなされているが、乾癬治療は必ずしも膿疱性乾癬(汎 発型)に適合するとはいえない。EBM に基づく膿疱性乾癬治療のガイドライン作成は準備中で あるが、以下にエキスパート オピニオン(表1)に基づき概説する。 1 一次医療機関に対する治療指針 1)診断・鑑別診断  急速に進行する発熱、全身皮膚の潮紅・膿疱を主徴とする皮膚疾患には種々のものが含まれ るので、確定診断のためには臨床症状と血液検査所見に加えて、組織学的検査が必要である。 全身性感染症や膿疱型薬疹の鑑別が重要であり、その的確な診断の可否によって治療・予後は 大きく異なる。 2) 一次医療機関では、まず患者の全身状態を把握し、全身性炎症反応や低蛋白血症、電解質 バランス異常による全身衰弱、循環不全、呼吸不全などに対するプライマリーケアを行い、二 次・三次医療機関に移送する。 2 二次・三次医療機関に対する治療指針 1)診断・鑑別診断  診断基準に準拠して行うが、薬剤により膿疱性乾癬(汎発型)が誘発されことがあるので、 患者の薬剤内服歴を厳密に聴取し、被疑薬剤は直ちに中止する。時機を逸することなく臨床検

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査(血液、尿、細菌学的検査など)および病理組織学的検査を施行し、感染症と膿疱型薬疹を 否定し、膿疱性乾癬(汎発型)の確定診断を得る。 2)全身管理  発熱、低蛋白血症、電解質バランスの破綻、急性呼吸不全や循環不全によって不幸な転帰を とることがあるので、疾患特異的治療が奏効するまでは全身管理を行う。 3)膿疱性乾癬(汎発型)の治療  稀少難治性皮膚疾患に関する調査研究班によって汎発性膿疱性乾癬治療ガイドライン 2002 (田上八朗ほか:厚生省特定疾患稀少難治性皮膚疾患調査研究班平成 13 年度研究報告書、25、 2002 年)が作成されており、これを参照するとよい。概要は以下の通りである。 (1)急性期の治療  確定診断を得た後、合併症(関節炎、眼合併症、肝機能障害、腎機能障害、糖尿病など)の 有無を検索した上で速やかに治療を決定する。通常は全身管理を実施しながら、尋常性乾癬の 治療法に準じた全身療法を行なう。エトレチナート(チガソン○R )内服、シクロスポリン(ネ オーラル○R )内服が用いられることが多い。これらが禁忌の患者では、第2選択薬として副腎 皮質ホルモン薬、メトトレキサートがある。 ①エトレチナート(チガソン○R )  急性期では、1mg/kg/日(50 ㎎/日)を 2 3 分服で投与開始する方法と、副作用を考慮に入れて 中等量(20‐30mg/日)から漸増する方法がある。重症度判定のスコアにより、チガソン○R の 用量設定(軽症:20mg/日以下、中等症:20‐40mg/日、重症:50mg/日以上)が班会議で提唱され ている。なお、チガソン○R の処方では、催奇形性などの副作用について十分な説明の上、同意 書の取得が推奨される。治療効果は 3 7 日以内に現れるが、肥満者などではその発現が遅れる ことがある。解熱、膿疱の消失をみたら、内服量の漸減をはかる。急速な減量は再発をきたし やすく、10mg/2 週を目安に減量する。妊婦へのチガソン○R 投与は禁忌であるが、疱疹状膿痂疹 (妊娠中の汎発性膿疱性乾癬)のため、患者・胎児双方の生命に危険が及ぶと判断され、第2 選択薬が無効のときは、患者と相談した上で妊娠の中絶、チガソン○R 内服に踏み切らざるを得 ない場合がある。 ②シクロスポリン(ネオーラル○R )  シクロスポリン(ネオーラル○R )の使用は、「ネオーラルによる乾癬治療のガイドライン」(中 川秀己ほか、日本皮膚科学会雑誌 114(6),1093-1105,2004)に準拠することが望ましい。 ③副腎皮質ホルモン薬:プレドニゾロン換算 10− 40mg/日が重症度に合わせて使用される。 ④メトトレキサート:7.5mg/週が標準的だが症状にあわせて増減される(リウマトレックス®(2 mg 錠)では、6mg/週も行われる。 (2)初期治療が無効な場合、または関節炎が重症のとき  ①プレドニゾロンなどの他薬剤を併用する。   例)チガソン○R → チガソン○R +プレドニゾロン     チガソン○R → チガソン○R +メトトレキサート     シクロスポリン(ネオーラル○R )→ ネオーラル○R +プレドニゾロン  ② チガソン○R は PUVA 療法、narrowband UVB の併用可能。

 ※PUVA 療法とシクロスポリン(ネオーラル○R )またはメトトレキサートの併用は相対禁忌。  ③他の治擦に切り替える

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注意が必要である。 また、長期の関節炎による不可逆性変形性関節症、強直性脊椎炎や、慢性炎症に伴う続発性 アミロイドーシスによる腎不全を合併した症例もあることから、長期的合併症や後遺症を念頭 においた上での経過観察と治療が必要である。 Ⅳ.治療のアウトカムと予防 (1)QOL 評価  SF-36V2 を用いた QOL 調査の結果では、患者群の過半数において、全体的健康観、社会生活 機能、日常役割機能の精神の項目において QOL 低下が認められる。また、標準偏差2倍以上 に低下がみられる項目として、身体機能、日常役割機能・身体、社会生活機能、全体的健康観 が挙げられる。これらの結果と重症度判定基準との相関について現在、調査が進められている。 (2)予防  膿疱性乾癬(汎発型)の誘因として、感染症(ことに上気道感染)、紫外線曝露、薬剤、妊娠・ 月経、低カルシウム血症、ストレスなどがあり、妊娠・月経を除きその予防に努める。疫学的 調査からは、①喫煙、②朝食を食べない、③干し魚を食べない、④ニンジンを食べない、など の食生活に偏りがある者に発症リスクが高いと報告されている。 表1 膿疱性乾癬(汎発型)治療の概要 1) 皮疹に対する疾患特異的治療 (1)内服療法:エトレチナート(チガソン○R)、シクロスポリン(ネオーラル○R)、副腎皮質ステロイド、 メトトレキサートなど。  (2)外用療法:副腎皮質ステロイド、活性型ビタミン D3 外用剤など。  (3)光線療法:PUVA 療法、narrowband UVB 療法など

 (4)その他:扁桃摘出、抗 TNF-α療法(本邦未承認)、他の生物製剤(未承認) 2) 他臓器合併症に対する治療 (1)関節炎:強直性脊椎炎をふくむリウマトイド因子陰性関節炎を合併する場合には、関節リウマチに 準じた治療が必要である。 (2)眼症状(結膜炎、ぶどう膜炎、虹彩炎):全身療法とともに眼科的治療を施行。 (3)続発性アミロイドーシス:慢性関節炎により、二次性アミロイドーシスを発症し、腎不全や心不全 をきたすことがある。漫然とした NSAID やシクロスポリン投与が腎不全を助長する可能性がある。  (4)その他:肝障害、呼吸器障害、腎不全への対応。

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4、表皮水疱症 表皮水疱症は病型及び重症度に従って治療方針が異なることがあり,初期の診断確定が重要 である。しかし,実際の医療現場において,初診時に各病型の診断を確定することは極めて困 難であり,重症度の決定にも原因遺伝子の同定やその変異の種類の決定が必要不可欠である。 以下に,一次医療機関に対する治療指針(病型確定前)と二次・三次医療機関に対する治療指 針(病型確定後)の 2 つに大きく分類し,更に後者を単純型,接合部型,栄養障害型に分けて, それぞれの治療指針(案)を記す。 一次医療機関に対する治療指針 臨床症状及び家族歴から病型診断を確定し得ない場合(多くは家系内孤発例の新生児)は, その重症度に従い治療内容を選択する。 軽症な症例 ① 水疱・びらん    上皮化促進,二次感染予防を主眼とした外用療法を行う。すなわち,新生水疱に対しては, 消毒後その内容液を十分に排出し,水疱蓋を破らずに非固着性のガーゼあるいは類似するドレ ッシング剤で保護した後,軽く圧迫固定する。明らかなびらんがある場合はワセリン基剤軟膏 をあらかじめ塗布した非固着性ガーゼを用いる。 ② 難治性潰瘍 難治性潰瘍が存在する場合は,創面より細菌ならびに真菌培養を行い,菌陽性の場合は感受 性のある抗生剤ないし抗真菌剤を外用し,非固着性ガーゼで保護する。抗生剤は耐性菌の出現 を予防するため, 1 2 週ごとに別種のものと交換する。 二次・三次医療機関に対する治療指針(病型確定後) 中等症あるいは重症な症例 上記の軽症な症例の症状に加え,以下の症状がある場合は,二次、三次医療機関での治療が 原則で、必要ならば入院の上、適切な治療を行う。表皮水疱症では、皮膚粘膜症状の他にも、 眼、歯、消化管、筋肉、泌尿器、心臓、肺、などの諸臓器にも症状をきたす症例が少ないため、 複数の診療科、コメディカルスタッフとのチーム医療も必要な場合がある。 ① 哺乳困難   経静脈的に高カロリー輸液を行う。 ② 体重減少 栄養評価を行いながら成分栄養剤,末梢高カロリー輸液,注射用脂肪乳剤などにより栄養管 理を行う。 ③ MRSA 感染(全身症状あり) 適切な抗生剤を選択し,全身的に投与する。 病型による対応: 表皮水疱症の治療方針を決定するうえで、正確な病型診断が必要不可欠である。基底膜の蛋 白の発現,電顕的検索,遺伝子診断により病型を確定した後,必要に応じて治療法を選択する。 臨床症状及び家族歴から病型診断を確定し得ない場合(多くは家系内孤発例の新生児)は,そ の重症度に従い治療内容を選択する。

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治療方針は,水疱・びらんに対する外用療法が基本である。局所感染を合併する場合は必ず 培養して菌を同定し,感受性のある適切な抗生剤,抗真菌剤を選択して局所的,あるいは全身 的に投与する. ② 重症(汎発型) 上記の外用療法に加え,明確な evidence のある治療法は無い。 ③ 筋ジストロフィー症 劣性遺伝形式をとり、生後数年 十数年後に筋ジストロフィー症状が出現する単純型の亜型。 治療は水疱に対する対症療法のみで、筋ジストロフィー症状に対する有効な治療法はない。 (2) 接合部型 接合部型は,表皮基底細胞層直下の電顕的透明層に水疱を形成し,治癒後に皮膚の萎縮を伴 う。ほとんどが劣性遺伝形式をとり,生命予後の比較的良好な軽症型(非 Herlitz 型)と生後数 カ月 1 年でほとんどの症例が死亡する重症型(Herlitz 型及び先天性幽門閉鎖症合併型)とに 分けられる。 ① 軽症(非 Herlitz 型)   単純型と同様の外用療法を主体とする。脱毛や,歯牙形成不全を伴うことが多く,後者に対 しては歯科医と連携して治療する。 ② 重症(Herlitz 型及び先天性幽門閉鎖症合併型)   有効な治療法はない。入院の上,局所及び全身管理を必要とするが,そのほとんどが予後不 良である。 (3) 栄養障害型 栄養障害型は,優性型・劣性型いずれも電顕的基底板直下で水疱が形成されるため,治癒後 に著明な瘢痕形成を見ることを特徴とする。家系内孤発例の場合は,症状の完成していない新 生児期,乳幼児期に臨床的所見だけで優性型・劣性型の鑑別は不可能である。患者及び両親の VII 型コラーゲン遺伝子変異を検索することによってのみ鑑別可能であるため,遺伝子診断が 可能な施設と連携して病型を確定させる必要がある。 優性型は加齢とともに軽快傾向を示し,指間癒着や食道狭窄をきたすことは稀なため,新生 水疱、難治性潰瘍,瘢痕形成に対する対症的治療が主体となる。 劣性型は、優性型と臨床的に鑑別困難な軽症例から,水疱新生や難治性潰瘍形成が著明で, 指間癒着,食道狭窄,低栄養,貧血,骨塩減少,全身感染症状,有棘細胞癌の合併などを伴う ことのある重症例までその臨床症状は極めて多彩である。 ① 水疱     (a)局所療法   栄養障害型の水疱は基底板直下に生じるため,水疱蓋を破らないようにしながら水疱内容液 を完全に排出し,圧迫固定すれば水疱蓋の再接着が可能である。この際,不十分な排液では, 数時間後に水疱内にフィブリン析出によると思われる白色凝固膜が生じ,水疱蓋と水疱底の生 着が妨げられ,その結果水疱蓋は壊死・脱落して潰瘍となる。また.水疱内容液排出後の軟膏 塗布は、基剤の水疱内への侵入が生着の妨げになることがあるので注意が必要である。重症型 の場合,生後数年間の丁寧な局所治療と水疱新生予防がその後の臨床的予後に影響する可能性 があることを家族に説明するとともに,必要に応じて短期入院による処置法の指導を行う。 (b)蛋白分解酵素阻害を目的とした全身療法(試) 蛋白分解酵素阻害剤、プラスミン活性阻害剤が有効であった症例報告もある。 ② 難治性潰瘍 難治性潰瘍に対する治療法として,外用療法と培養表皮シート移植法がある。 (a) 外用療法    創面より細菌培養を行い,菌陰性の場合はワセリン基剤の外用剤で創面を保護し,菌陽性の 場合は感受性のある抗生剤を含有した外用剤を塗布し,非固着性ガーゼで保護する。炎症症状

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皮化促進に有効である。 (b) 自己培養表皮シート移植法(試)  生検皮膚から角化細胞を培養し培養表皮シートを作製し、潰瘍面に移植する。切手大の生 検皮膚よりかなりの面積を被覆する表皮シートの作製が可能であり、繰り返し移植することで 潰瘍面積の縮小が期待できる。表皮シートの作製が可能な施設との連携を必要とする。他人の 細胞を用いた同種培養表皮シートも有効な場合もある。 (C)同種培養真皮移植法(試) 同種培養真皮線維芽細胞から真皮シートを作製し、潰瘍面に貼布する。自己の細胞ではなく、 同種の細胞であるため、正常Ⅶ型コラーゲン蛋白が供給される。本シートの作製可能な施設と の連携を 必要とする。 (d)三次元培養皮膚移植法(試) コラーゲンゲル内で線維芽細胞を培養し、その上に角化細胞を培養することにより三次元培 養皮膚を作製する。皮膚欠損部や指間癒着解離の際の皮膚欠損部への移植に有効な場合がある。 作製が可能な施設との連携を必要とする。 ③ 瘢痕形成   一般的な瘢痕治療に従う。 ④ 指間癒着 完成された指間癒着に対しては,外科的療法が有効な場合がある。上記三次元培養皮膚移植 法が有効であった症例報告もある。手術の成否と術後の臨床的予後は,栄養状態,麻酔方法及 び術式選択,術後処置と密接な関連があり,小児科医,麻酔科医,整形外科医及び皮膚科医の 術前・術後の連携が重要である。 ⑤ 食道狭窄 強い狭窄症状のある症例に対しては,バルーンカテーテルを用いた食道狭窄拡張術が有効で ある。  低栄養 難治性潰瘍を含む皮膚症状の改善には,栄養状態が良好であることが必須であるが,開口障 害,食道狭窄を有する重症例ではしばしば経口摂取不良による低栄養状態を伴うことが多い。 そのため,定期的に栄養状態を評価し,必要に応じて成分栄養,高カロリー経口飲料や輸液な どにより栄養状態の改善をはかる。  貧血 潰瘍部からの慢性出血に伴う鉄欠乏性(小球性)貧血を合併していることがあり,血清鉄低 値の場合は鉄剤を補給する。ただし,慢性炎症による鉄利用障害が原因の貧血では鉄剤は無効 であり,フェリチン値を測定して両者を鑑別しなくてはならない(鉄欠乏性貧血ではフェリチ ン値は低く,鉄利用障害ではフェリチン値は高い)。また,経口摂取不良による B12 や葉酸欠 乏に伴う(大球性)貧血では、B12 や葉酸の補給が必要である。高度な貧血に対してエリスロ ポエチンが有効との報告がある。  骨塩減少 慢性の低栄養状態をきたした症例では骨密度が低下し,続発性の骨粗鬆症を併発することが ある。骨塩の低下している症例に対しては,低栄養状態の改善をはかるとともに,活性型ビタ ミン D3 製剤を 1 日 1µg,乳酸カルシウムを 1 日 3g(成人量)投与する。  全身感染症 局所の感染から敗血症を併発することもあるため,常に感染症の有無に留意する。特に発熱

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て所属リンパ節廓清及び化学療法を併用する。

 その他の合併症

その他の重篤な合併症として、続発性の全身性アミロイドーシス、下垂体機能低下、高グロ ブリン血性紫斑病、拡張型心筋症などが生じることがある。関係各科との連携を密にして、適 切な処置を行う必要がある。

参照

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