筑波大学大学院博士課程
システム情報工学研究科修士論文
都市農地を活用した
小規模物質循環システムの構築に関する研究
広原 隆
(社会システム工学専攻)
指導教官 横張 真
2002年 3月
都市農地を活用した小規模物質循環システムに関する研究
目次 図表リスト 4 第1章 研究の背景と目的 6 第1項 研究の背景 6 1)都市農地の抱える課題とその可能性 6 2)安全・安心な農作物に対する希求とその対応・課題 10 3)物質循環型社会への希求と小規模物質循環システムの意義 11 4)都市農地を活用した小規模物質循環システムの意義 12 第2項 小規模物質循環システムに関連する取り組み 13 第3項 既往研究の整理 14 1)有機物のフローや需給量に関する研究 14 2)物質循環型農業の取り組みに関する研究 15 第4項 研究の目的 17 第5項 研究の構成 18 第2章 物質循環圏の設定・解明の考え方とその指標 19 第1項 本研究で想定する小規模物質循環システム 19 第2項 物質循環圏の設定方法の考え方 20 1)物質循環圏の設定条件 20 2)物質循環圏の設定過程およびその過程で用いる指標 22 第2項 物質循環圏の解明のための指標 23 第3項 物質循環圏の設定・解明手法 24 第3章 物質循環圏の規模と堆肥・農作物充足率の解明 25 第1項 事例対象地域 25 第2項 物質循環圏の設定過程 26 1)使用した空間データ 26 2)各農地での作付タイプの選定と堆肥要求量,農作物生産量の算定 27 3)各住宅での人口および堆肥生産量,農作物需要量の算定 29 4)物質循環圏の設定 31 5)農地連担率の算定 32 第3項 結果 331)堆肥充足率 32 2)農地・住宅間距離 39 3)農作物需給量 43 4)住民の協力率の考慮 44 第4項 農地の分布形態と堆肥充足率,農作物充足率,農地・住宅間距離 46 第4章 小規模物質循環システムの実現可能性 48 第1項 事例の概要 49 1)自治体単位での一括収集・一括処理型循環システムにかかわる事例 49 2)小規模物質循環システムを部分的に実践する事例 50 第2項 小規模物質循環システムの実現にともなう問題点 54 1)生ごみの堆肥化からみた問題点 54 2)安全・安心な農作物の供給からみた問題点 56 第3項 小規模物質循環システムの実現可能性 57 第5章 研究のまとめ 59 第1項 都市農地を活用した小規模物質循環システムの実現に向けて 59 1)小規模物質循環システムを軸とした地域循環システムの構築 61 2)小規模物質循環システムの構築からみた都市農地の計画的保全 62 3)多品目生産の推進 63 第2項 本研究の課題 65
図表リスト 第1章 研究の背景と目的 図 1-1 三大都市圏特定市の市街化区域内農地面積(国土交通省による) 図 1-2 農村地域の有機物フロー(松本ら,1990) 図 1-3 窒素投入量の空間分布(小林・宮本,2000) 第2章 物質循環圏の設定・解明の考え方とその指標 図 2-1 小規模物質循環システムおよび物質循環圏のイメージ 図 2-2 物質循環圏の設定にかかわる 5 つの条件 図 2-3 物質循環圏の設定過程で用いる指標 図 2-4 物質循環圏の解明にかかわる指標 図 2-5 物質循環圏の設定・解明過程 第3章 物質循環圏の規模と堆肥・農作物充足率の解明 図 3-1 事例地域の概況 図 3-2 東京都国分寺市における農地および住宅地の空間分布 表 3-1 各作付タイプの窒素要求量 表 3-2 各作付タイプの農作物生産量(東京都労働経済局,1998 をもとに作成) 表 3-3 東京都 GIS データでの住宅の数 表 3-4 国分寺市の住宅の建て方別人口(平成 7 年,総務庁統計局,1995 をもとに作成) 図 3-3 東京都一般世帯における 1 人 1 日あたりごみ排出量(環境庁,1993) 表 3-5 1 人あたり年間農作物購入量(総務庁統計局,1999 をもとに算定) 図 3-4 物質循環圏の設定過程 図 3-5 農地連担率の算定方法 図 3-6 農地連担率の算定結果 図 3-7 農地の堆肥充足率(低投入型の場合) 図 3-8 農地の堆肥充足率(多品目型の場合) 図 3-9 農地の堆肥充足率(高投入型の場合) 図 3-10 農地規模と堆肥充足率の関係(低投入型の場合) 図 3-11 農地規模と堆肥充足率の関係(多品目型の場合) 図 3-12 農地規模と堆肥充足率の関係(高投入型の場合) 図 3-13 農地規模と堆肥充足率の関係(多品目型,低連担型の場合) 図 3-14 農地規模と堆肥充足率の関係(多品目型,中連担型の場合) 図 3-15 農地規模と堆肥充足率の関係(多品目型,高連担型の場合)
表 3-6 堆肥充足率からみた農地の分類 図 3-16 3 分類に属する農地の空間分布 図 3-17 各住宅の物質循環圏内農地までの距離(低投入型の場合) 図 3-18 各住宅の物質循環圏内農地までの距離(多品目型の場合) 図 3-19 各住宅の物質循環圏内農地までの距離(高投入型の場合) 表 3-7 農地規模と農地住宅間距離(低投入型の場合) 表 3-8 農地規模と農地住宅間距離(多品目型の場合) 表 3-9 農地規模と農地住宅間距離(高投入型の場合) 表 3-10 農地規模・農地連担率と農地・住宅間距離(多品目型の場合) 表 3-11 物質循環圏内での農作物要求量と生産量(堆肥充足率 100%の場合) 表 3-12 住民の協力率と堆肥充足率 100%を満たす農地の割合(多品目型) 表 3-13 住民の協力率と農地・住宅間距離 第4章 小規模物質循環システムの実現可能性とその支援策 図 4-1 2 事例における堆肥化・農作物流通システム 図 4-2 若葉会における堆肥化・農作物流通システム 図 4-3 農家宅での直販施設 図 4-4 農地の状況 図 4-5 生ごみを大地に返す会における堆肥化・農作物流通システム 図 4-6 堆肥作り小屋 図 4-7 朝市の状況 第5章 研究のまとめ 図 5-1 小規模物質循環システムを軸とした地域循環システム 図 5-2 優先的に保全すべき農地 図 5-3 多品目生産適地図 図 5-4 市街地の分布状況
第1章 研究の背景と目的 第1項 研究の背景 1)都市農地の抱える課題とその可能性 わが国の都市近郊には,市街地と近接・混在するかたちで多くの農地が存在している。従来, これら都市農地は市街化の過渡的利用と見なされることが多かったが,わが国の社会情勢が変化 し,豊かで持続可能な都市環境のあり方が模索されるなか,都市農地に対する視点は変化しつつ ある。ここでは,本研究における都市農地の定義,および都市農地に関わる計画制度の変遷とそ の課題,期待される役割について整理する。 ①本研究における都市農地の定義 都市農地の形成は,高度経済成長期を中心とした大都市周辺地域での無秩序な市街化の進行と, 1968 年の改正都市計画法において制度化された区域区分制度に端を発するといえる。同制度は, 大都市周辺地域を市街化区域と市街化調整区域に区分することにより,無秩序な市街化を防ぐこ とを意図していた。しかし,実際には制度上の諸問題から,市街化の促進を図るべき市街化区域 に必要量以上の農地が組み込まれ,市街化区域内には多くの農地が残存する結果を招いた(田代, 1991)。わが国の市街化区域には現在でも多くの農地が残存しており,国土交通省(2000)の「三 大都市圏の市街化区域内農地の宅地化状況認識調査」によれば,平成 12 年 1 月現在,三大都市 圏の特定市には約 20,000ha の市街化区域内農地が存在するとされる(図 1-1)。特定市の周囲に 存在する自治体を考慮すれば,現状では相当量の市街化区域内農地が存在していると考えられる。 既往研究における都市農地の定義をみても,その多くは後藤(1992)や東(1999)などのように, 課税や営農面で問題の多い市街化区域内農地を議論の対象とし,市街化区域内農地を都市農地と 定義するものである。一方,石田(1990)は,市街化区域内農地と同様の立地特性をもつ農地が市 街化調整区域内にも存在することを指摘し,区域区分を問わず市街地と近接・混在する農地を都 市農地と定義している。田代(1991)は,市街化区域内に抜き打ち的に市街化調整区域を整備する 横浜市の取り組みを例に挙げながら,都市農地の問題について考える際に市街化区域と市街化調 図 1-1 三大都市圏特定市の市街化区域内農地面積(国土交通省による) 0 10000 20000 30000 40000 平成4年 平成5年 平成6年 平成7年 平成8年 平成9年 平成10年 平成11年 平成12年 近畿圏 中部圏 首都圏 (ha)
整区域の枠を越えて議論することの重要性について指摘している。都市化地域での農地の問題を 考える際に中心となるのは,確かに市街化区域内農地の問題であるが,都市部と近接して存在す る農地は市街化区域外にも存在しており,その計画的保全のための施策について検討する上では, 区域区分の再編も視野に入れることが重要となる。そこで,本研究においては,市街化区域内農 地を中心に市街地と近接・混在する農地を都市農地と定義する。 ②都市農地をめぐる計画制度の変遷とその課題 1968 年の改正都市計画法以降の都市農地をめぐる計画制度の変遷は以下のとおりである。 1974 年には生産緑地法が公布され,市街化区域内農地が当面のオープンスペース,将来の多目 的保留地としての役割を果たすことが期待され,その計画的保全のために先買い権の設定が図ら れた。1982 年には地方税法改正にともない長期営農継続農地制度が制度化され,10 年以上の営 農継続を条件に市街化区域内農地の宅地並み課税が猶予されることとなった(石田,1990)。 1980 年代半ばからは,全国的な地価高騰が進み土地問題が深刻化した。また,牛肉・オレンジ などの自由化が進み,米など他の農作物についても自由化が求められるなかで日本農業不要論が 唱えられた。こうした背景のもと,市街化区域内農地を宅地に転用することにより土地の供給不 足を解消しようとする動きが次第に高まり,1991 年に施行された改正生産緑地法により,三大 都市圏のすべての市街化区域内農地は,宅地化する農地(宅地化農地)と保全する農地(生産緑地) に区分された(波多野・石田,1994)。 改正生産緑地法における生産緑地は,一方で良好な都市環境の形成に寄与する存在として位置 づけられていたが,先に述べたとおり同法は宅地化の促進を図る性格が強く,都市環境形成のた めに生産緑地を計画的に整備するという観点からは多くの問題が指摘されている。第 1 には,生 産緑地の指定が農家の意向に完全に依存しており,生産緑地の指定基準やその配置に対する検討 が不足している点が挙げられる。生産緑地を指定する上では,500 ㎡という面積要件さえ満たせ ばどのような農地であっても生産緑地の指定が可能であった。このため,生産緑地の指定は都市 環境形成に貢献するかどうかの確認もなく,おこなわれる状況となった(波多野・石田,1994)。 また,農業生産の場としての農地保全を図る上では,農地を集団として保全することが重要とさ れるが,生産緑地の指定に際して宅地化農地と生産緑地が混在し,その配置が生産緑地の集団性 の維持に配慮したものでないことも問題点として指摘されている(岸ら,1997;渡辺・大村,1999)。 第 2 には,生産緑地に対する支援策が税制面での優遇措置に止まり,農業生産を支援するための 施策が十分ではないことが挙げられる。東(1992)は,ごみ投棄・日照面などからみた農業生産環 境維持のための施策の必要性について指摘している。後藤(1995)は,農地保全,経営対策,労働 支援などを柱とする農業振興策の必要性について指摘している。 従来の計画制度において,都市農地に対して都市環境形成上の役割が十分に検討されてこなか った背景としては,これまでわが国の社会情勢が右肩上がりの経済成長の時期にあり,農地は市 街地の過渡的利用として認識される側面が強かったことが挙げられる。近年,わが国の社会情勢 は安定成長の時代に入りつつあり,豊かで持続可能な都市環境を形成することの重要性が高まっ
ている。平成 12 年 2 月の都市計画中央審議会答申「今後の都市政策はいかにあるべきか」では, わが国の社会情勢が都市化社会から安定・成熟した都市型社会への移行の時期にあることを認め, 都市計画制度全体の見直しの必要性について言及している。こうした問題に対して,平成 13 年 5 月に施行された「都市計画法および建築基準法の一部を改正する法律」では,都市計画マスタ ープランの充実や,良好な環境の確保のための制度の充実などのかたちでの対応が図られている。 生活水準の向上にともない豊かな生活を望む都市住民が増加し,環境保全に対する意識が高ま るなかで,安定・成熟した都市型社会の形成のために都市農地に期待される役割は大きい。また, 図 1-1 に示したとおり,近年,市街化区域内農地の転用速度は低下する傾向にあり,都市農地は 今後も中長期的に存続していくことが予想されている。今後の都市計画においては,都市農地の 有効活用を視野に入れた計画的な整備を実現するとともに,都市農地の有効活用のためのシステ ムを構築することが重要な課題のひとつとして考えられる。 ③都市農地に期待される役割 安定・成熟した都市型社会の実現に向けて都市農地に期待される役割は多いが,それら役割は 農業生産面での役割と環境保全面での役割に大別される。 農業生産面からは,農作物の消費地である市街地と近接して立地する都市農地の特性を活かし て直販や契約栽培などの農作物流通方式を実現することにより,都市住民に新鮮・安心な農作物 を供給することが期待される。現実にも,都市農地を活用して上記の農作物流通方式を実現する 取り組みは多く確認されている。松木(1999)は,大都市における農作物直売システムについて整 理しており,農協の共同直売所や朝市,スーパーマーケットや外食産業への直接販売,個人経営 の直売所など,多様な経営形態があることを指摘している。後藤(1995)は,近年これらの農作物 流通形態をとる都市農家が増加していることを指摘している。また,これらの農作物流通形態が 発展したかたちとして,独自に先進的な取り組みをおこなう農家も確認されている(農村報知新 聞,2002)。東京都世田谷区の大平農園では,有機農作物の契約栽培がおこなわれているが,消 費者グループの代表者との間で頻繁な意見交換がおこなわれており,生産する農作物の品目など もその場で決定されている。東京都杉並区の馬橋リトルファームでは,有機堆肥を使用したさま ざまな品目の農作物の生産がおこなわれており,活動が発展した結果として四季に応じたイベン トの開催や小松菜の畝売りなどがおこなわれている。 環境保全面からも都市農地に対しては多くの役割が期待される。このことは,平成 11 年 7 月 に制定・施行された「食料・農業・農村基本法」のなかで,農林地のもつ環境保全機能が位置づけ られていることからも明らかである。とくに都市農地は,市街地に近接することから,都市住民 は機能の恩恵をより直接的に受けることが可能であり,受けられる恩恵も大きいと考えられる。 都市農地のもつ環境保全機能については,進士(1995)や鷹取(2000)など,多くの既往研究で指 摘されているが,その体系的な整理はなされていない。国土レベルで農林地の環境保全機能の系 統的整理をおこなった横張(1994)を参考に,都市農地のもつ諸機能を整理することを試みれば, 大きく以下の 3 機能に整理される。
<国土保全機能> 良好な国土環境の保全に寄与するための機能である。具体的には,都市農地は,緑地空間が不 足する都市部において貴重なオープンスペースとなる可能性をもつことから,災害発生時の避難 場所としての機能を果たすことが期待されている。また,とくに低地地域の水田に関しては,洪 水発生の防止のための機能を期待される。 神奈川県横浜市や東京都練馬区は,「横浜市防災協力農地登録制度」を制定しており,災害発 生時に市内の農地を応急仮設住宅建設の場や農産物供給の場として活用するための協定を結ん でいる。 <アメニティ保全機能> 人々の快適な居住環境を形成するための機能である。具体的には,人々に安らぎを与える景観 を提供することや,気温低減や日照・通風確保などの微気象緩和上の役割を果たすこと,都市住 民の「農」との関わりの場を提供することにより都市住民のレクリエーション利用に供すること, 子供の情操教育に貢献することなどの役割などが期待されている。 とくに 1990 年に制定された市民農園整備促進法を受けて,近年レクリエーションの場として の市民農園の整備促進が図られている。また,渡辺ら(1989)は,東京都国分寺市での野菜づくり や肥料づくりをとおした農家と都市住民との間での交流事例について紹介しており,これらの取 り組みが市民の環境教育・児童の情操教育の上で一定の効果を果たしていることを示している。 アメニティ保全上の機能に関しては,研究サイドからも一定の蓄積がなされている。横張ら (1996)は,都市近郊水田が,微気象緩和上の機能のうちとくに夏期の気温低減のために果たす役 割について検討している。渡辺ら(2001)は,都市農地が,景観保全上の機能のうちとくに解放性 発現のために果たす役割について検討している。 <生態系保全機能> 緑地の不足しがちな都市部において,地域生態系を保全するための機能である。具体的には, 都市内での物質循環を図る上で,生ごみをはじめとした有機性廃棄物を受け入れる場としての役 割を担うことや,農地との密接な関わりのもとに生息する生物相の保全に寄与することなどが期 待されている。
2)安全・安心な農作物に対する希求とその対応・課題 安全・安心な農作物にかかわるわが国の取り組みは,1971 年の日本有機農業研究会の設立に始 まるとされる。しかし,経済合理性を重視する当時の社会情勢においては,有機農業は近代科学 に逆行するものと見なされ,社会的に認められなかった。また,当時の農業政策においては生産 性向上や経営規模の拡大などが最大の目的とされており,有機農業はそれらの阻害要因になると 考えられ,農業サイドからも認められなかった(嘉田,1993)。 1980 年代に入ると,チェルノブイリ原子力発電所の事故による輸入食品の放射能汚染問題や 輸入農作物のポストハーベスト問題をはじめとする農作物の安全性にかかわる問題が顕在化し, 安全な農作物に対する消費者の要求が高まった。消費者の要求に応えるかたちで,有機農作物が 量販店などで販売されるようになった。しかし,当時の有機農作物の流通・販売の上では,有機 低農薬・完全有機などさまざまな表示がなされたり,農薬を使用しても若干の堆肥を施用しただ けで有機栽培と表示するなど,生産規準が統一されないことが問題であった(保田・小川,1999)。 こうした背景のもと,1992 年 10 月に「有機農産物に係る青果物等特別表示ガイドライン」が 施行された。同制度は 2 度の改訂を経て,1997 年 12 月にはすべての農産物の有機表示をガイド ラインにより規制することとなった。同制度により,有機・無農薬・無化学肥料・減農薬・減化学肥 料の 5 種類の生産規準が示され,規準を満たした農作物に対して認証が与えられることとなった。 農作物認証制度は,自治体や民間機関などでも導入されている。自治体では,宮崎県綾町が 1988 年に「自然生態系農業の推進に関する条例」を制定し,学識経験者・生産者・消費者などか らなる審議会により有機農作物の生産規準を設定している。民間機関では生協グループを中心に 導入が図られており,コープこうべや京都生協などが先駆的事例としてあげられる。 現行の有機農作物認証制度においては,法的規制力や十分な監視機関をもたないことから,有 機農作物の供給は農家や流通業者のモラルに依存する部分が大きく,まがい物の混入の可能性も 高い。また,表示が複雑であることから,生産規準と農作物の安全性が消費者に正しく理解され ない可能性も高く,安全・安心な農作物供給のための十分な制度とは言えない(保田・小川,1999)。 安全・安心な農作物の供給のための重要な方向性のひとつとして,消費者が農作物の生産者や その生産の様子を確認することにより,農作物の安全性を直接確認することが考えられる。それ を実現するための農作物流通方式は,①スーパーなどの量販店でみられるように,販売する農作 物に生産者の氏名や写真などを示すことにより安心感を担保する方式,②東京都国分寺市の「三 多摩たべもの研究会」などにみられるように,遠隔地の生産者と提携して生産者を確認すること により安全性を確認する方式,③消費者と生産者が近接するなかでの農作物直販により,農作物 の生産者と生産の様子を確認することで安全性を確認する方式,の 3 種類に大別される。安全・ 安心な農作物の供給のためには,農作物の生産者と生産の様子の両方を日常的に確認できる 3 つめの方式が最も有効であるといえる。 近年,健康な生活を志向し,安全・安心な農作物に求める消費者の声は従来にも増して高まり つつある。消費者が生産の様子を日常的に確認できる農地を活用して安全な農作物の生産・供給 をおこなうことは,消費者の要求に応えるための重要な方向性のひとつとして考えられる。
3)物質循環型社会への希求と小規模物質循環システムの意義 地球規模での資源・環境問題に対応するための方策として,大量生産・大量消費・大量廃棄型社 会から物質循環型社会への移行が緊急課題とされている(内藤,1999)。物質循環型社会への速や かな移行を目的として,平成 12 年 6 月に循環型社会形成推進基本法が制定されており,平成 13 年 4 月に施行された食品リサイクル法を始め,資源の再生利用を促進するための関連法制度の整 備が進められている。こうした流れを受け,全国各地において地域単位でのゼロエミッション型 の自立した物質循環システムを確立するための取り組みが展開されている(吉村,2000)。 このように,地域単位で自立した物質循環システムを構築することは,過度に拡大した資源・ 物資の流通システムを見直し,移動による負担の少ない低環境負荷型の物質循環システムを構築 する上で重要とされている。第 5 次全国総合開発計画「21 世紀の国土のグランドデザイン」に おいても,小規模分散型の物質循環システムの重要性が指摘されている。小規模物質循環システ ムを構築することには,おもに以下の 2 つの利点がある。 小規模物質循環システムを構築することの第 1 の利点は,移動による負担が少なく,省エネル ギー・低環境負荷型の物質循環が実現できる点にある。物質循環システムを構築する上では,環 境負荷の低減効果は再資源化や輸送の方法により大きく異なる。高橋・宿谷(1999)は,東京都の 堆肥化事業を対象に消費エネルギー量の計算をおこなっており,より小規模な圏域内で生ごみと 堆肥の輸送をおこなうことの重要性について指摘している。江見(1999)は,コープこうべでの食 品加工残さリサイクルの取り組みについて紹介しており,コンポスト化にかかる費用のうち運搬 にかかる費用が最も多いとしている。廃棄物が排出される場所と再資源化がおこなわれる場所, 再生資源が利用される場所が可能な限り近接した物質循環システムを構築することにより,移動 の負担は軽減すると考えられる。また,このとき人間の日常的な生活圏域のなかで成立し,自動 車などの輸送手段に依存しない物質循環システムを構築することができれば,より高い省エネル ギー効果を備えた持続可能な物質循環システムの実現につながるものと考えられる。 小規模物質循環システムを構築することの第 2 の利点は,資源の再生利用が比較的円滑に進む と考えられる点にある。東京都武蔵野市(1999)は集合住宅における生ごみの堆肥化に取り組んで いるが,堆肥化の上での問題点として,廃棄物の排出者側での分別の不徹底と堆肥の利用者側で の堆肥に対する不信感を挙げている。こうした問題の生じる背景としては,排出者側では堆肥の 利用者が確認できないことから分別が適当になり,利用者側では誰が出したかわからない生ごみ を使用することにする不安感から使用したがらないことが考えられる。小規模物質循環システム においては,生ごみの排出者と再生資源の利用者は近接して居住するため,相互の姿を確認しや すくなる。このことから,排出者側で生ごみの分別意識が高まる一方,利用者側の堆肥に対する 不安感が緩和され,比較的円滑な物質循環システムが実現可能となることが予想される。 小規模物質循環システムは,移動による負担が少ない低環境負荷型の循環システムであるとと もに,その円滑な稼働が期待される,持続可能な物質循環システムであると考えられる。今後は, 物質循環システムを構築する上では,可能な限り小規模な単位で物質循環システムを構築し,資 源や物資の過不足が生じた場合に,外部との流出入により補足する考え方が重要と考えられる。
4)都市農地を活用した小規模物質循環システムの意義 これまでに述べてきたとおり,わが国の社会情勢が変化するなかで,従来市街化の過渡的利用 とみなされることの多かった都市農地に対する視点は変化しつつある。一方,安全・安心な農作 物に対する希求が高まるなか,消費者が自らの目でその安全性を確認できる農作物が求められて いる。また,持続可能な物質循環システムの実現が求められるなか,小規模な物質循環システム を構築することの重要性が高まっている。こうした背景のもと,都市農地を有効活用するための 方向性のひとつとして,都市近郊に存在する各々の都市農地を核として,農地周囲の市街地から 発生する生ごみの堆肥化・農地還元と,生産された農作物の農地周囲の都市住民への供給にもと づく,人間の日常的な生活圏域のなかで成立する小規模物質循環システムを構築することが考え られる。 都市農地は市街地と近接・混在する性格上,都市住民は農地での農業生産の様子を日常的に確 認することが可能となり,また農作物の生産者と消費者のあいだで密接な関係を構築しやすい。 このことから,直売や契約栽培にもとづく安全・安心な農作物の供給をおこなう上では,農業生 産の様子を日常的に確認することが可能となり,農作物の安全性を直接的に確認できる,安心な 農作物の購入が可能となる。生ごみの堆肥化にもとづく小規模な物質循環システムを構築する上 では,両者に密接な関係が構築され,生ごみの分別意識の向上と製造された堆肥に対する不安感 の緩和につながる。また,人間の日常的な生活行動のなかで,ものの移動をすべて人間の徒歩に よりおこなうことにより,自動車などの輸送手段に頼らない省エネルギー・低環境負荷型の物質 循環システムを構築することが可能となる。 都市農地を活用した小規模物質循環システムを構築することにより,さらに以下の利点が得ら れると考えられる。第 1 に,有機資源の獲得しづらい都市において安定的に有機資源が確保でき る点が挙げられる。近年,化学肥料や農薬に過度に依存した農業による地力低下の深刻化を背景 として,家畜ふんや落ち葉をはじめとした有機物施用の重要性が高まっている。家畜ふんや落ち 葉は,畜産経営が成立しやすく,森林資源に恵まれた農村地域においては比較的安定的に確保で きるが,都市部ではそれらを安定的に獲保することは難しい(宮崎,2000)。こうした状況のなか, 有機資源が安定的に供給されることは農家にとっても大きな利点となると考えられる。 第 2 に,農作物直販が実現することにより農作物輸送にかかる負担が軽減することや,輸送に ともなう品質低下の心配が少なくなる点が挙げられる。また,篠原(2000)は,輸送の必要がなく なることにより,農作物保存のためのポストハーベスト農薬や添加物などの必要性が低下するこ とについて指摘しており,こうした点からも小規模物質循環システムの意義が指摘できる。 上に示したとおり,都市農地を活用して小規模物質循環システムを構築することにより,都市 住民の豊かな生活と持続可能な都市環境形成のための多くの利点が得られる。小規模物質循環シ ステムの構築は,安定・成熟した都市型社会を実現するための都市農地の活用の重要な方向性の ひとつとして考えられる。今後の都市計画においては,小規模物質循環システムの構築を視野に 入れた都市農地の計画的整備と,小規模物質循環システムの円滑な稼働を支援するための施策が 重要になると考えられる。
第2項 小規模物質循環システムに関連する取り組み 本研究で想定する,都市農地を活用した小規模物質循環システムに関連する取り組みとしては, 以下の取り組みが挙げられる。 山形県長井市では,「ながいレインボープラン(台所と農業をつなぐながい計画)」により家庭 生ごみの堆肥化にもとづく物質循環型農業を実践している。具体的には,市内都市部に居住する 5,000 世帯から排出される生ごみを 220 箇所に設置された生ごみ回収所において回収し,コンポ ストセンターで堆肥化している。製造された堆肥は農協を介して農家に販売され,それら堆肥を 使用して生産された農作物には,レインボープラン農作物の認証をおこなっている(飯沢,1999)。 宮崎県綾町では「自然生態系農業の推進に関する条例」が制定されており,家庭生ごみ・屎尿・ 家畜糞尿などの有機性廃棄物の堆肥化にもとづく有機農業を実践している。町内には有機性廃棄 物を堆肥化するための施設が設置され,農家に有機質堆肥の供給をはかるとともに,それら堆肥 をもとに生産される有機農作物の認証をおこなっている(向井,1999)。 廃棄物処理問題を背景として生ごみの堆肥化に取り組む自治体は多いが,堆肥利用者の確保や 生産農作物の地域住民への還元までを視野に入れて物質循環システムを構築している事例は少 ない。そうしたなか,これら 2 事例は有機性廃棄物の再生利用にもとづく物質循環型農業を実現 する数少ない事例である。しかし,これらは自治体単位での一括収集・処理にもとづく堆肥化と, 農作物認証制度にもとづく安全・安心な農作物の供給を図るものであり,本研究で理想とする人 間の日常的な生活圏域のなかで成立する小規模物質循環システムを実現するものではない。 東京都世田谷区の「大平農園」や東京都杉並区の「馬橋リトルファーム」では,農地周囲の都 市住民に対して,庭先販売や契約栽培により消費者の直接確認による安全・安心な農作物の供給 を実践している。しかし,これら事例は,農業生産に必要となる堆肥資材を外部からの流入に依 存する部分が大きいことから,本研究で理想とする小規模物質循環システムとは異なる。 一方,海外の事例では,小規模物質循環システムと同様の取り組みは多く見られる。雑誌ビオ シティ No.21 においては,特集「食べられる街づくり」のなかでアメリカ西海岸での新鮮・安心 な農作物供給と物質循環型農業に取り組む 2 事例が紹介されている。ロサンゼルスのエコビレッ ジでは,集合住宅の敷地内に農地が整備されており,居住する 37 名全員が野菜・果樹の生産や堆 肥づくりに関わるとともに,生産された農作物の消費にもとづいて生活している。カリフォルニ ア州デービスのNストリートでは,裏庭に野菜・果樹・ハーブなど植えられ,居住する 13 世帯が 有機農作物の生産をおこなっている。堆肥は刈り草などをもとに敷地内で製造されており,生産 された農作物は居住者により消費されている。また,雑誌ビオシティ No.17 においては,特集「都 市と農村の結婚」が組まれ,英国デボンの農村での生ごみと小枝をもとにした堆肥づくりの利用 にもとづく地域循環システムなどが紹介されている。 本研究で想定する小規模物質循環システムと同様の取り組みは,海外での先進的な一部の事例 においては確認されているが,国内においては現状では極めて少ない。しかし,大平農園や馬橋 リトルファームなどでの取り組みが,今後より持続可能性の高い方向への発展を求められた場合, 生ごみの堆肥化の導入により小規模物質循環システムが実現する可能性も考えられる。
第3項 既往研究の整理 本研究で想定する小規模物質循環システムに関連する既往研究は,以下の 2 種類に大別される。 ①地域単位の有機物のフローや需給量を解明するための手法の開発や,それらの解明にもとづく 物質循環システム構築のための指針の提示を目的とした研究 ②物質循環型農業の取り組みをおこなう自治体等の現状や問題点を解明し,他地域での循環シス テム構築のための知見の導出を目的とした研究 以下では,各分野における既往研究の成果およびその限界について説明する。 1)有機物のフローや需給量に関する研究 市町村や都道府県など地域単位での有機物フローに関する研究の代表的なものとして,松本 (1990)の研究が挙げられる。松本(1990)は官庁統計をもとにした有機物フローの把握手法を開発 し,同手法を事例地域に適用することにより有機物フローの現状とその問題点を明らかにした (図 1-2)。また,同手法を応用することにより,都市部と農村部における有機物フローの相違(松 本ら,1992a),農村部における有機物フローの時系列変化(松本ら,1992b),上流・中流・下流そ れぞれの有機物フローとその問題点(松本ら,1992c)について明らかにした。 これら一連の研究で用いられる手法は,地域単位での物質循環の概観を把握する上では優れた 手法であるといえる。しかし,解析対象とする物質の種類が多く,かつ評価の簡便性を追求した ことから,生ごみを中心とした一部の変数の推定精度が非常に低い点が問題点として指摘できる。 有機性廃棄物の再生利用をおこなう上での有機物の需給量について検討した研究としては,例 えば小林ら(1994)は,有機性廃棄物量および副資材量,還元農地面積をもとにして堆肥生産可能 量および農地還元容量を算出するための手法について考察した。小林ら(1996)は,この手法をも とに複数の集落での有機性廃棄物の農地還元容量を比較した。矢沢(1997)は,北海道の全市町村 図 1-2 農村地域の有機物フロー(松本ら,1990)
を対象として,農作物残さ・家畜糞尿・屎尿および生ごみの排出量と農地での作物吸収窒素量との 関係について考察した。荒巻ら(2000)は,愛知県の全市町村を対象として,畜ふんコンポスト・ 生ごみコンポスト・下水汚泥コンポストの供給可能量と農地での窒素受入可能量を比較した。 以上の研究は,市町村・都道府県などの行政単位での需給量算定とその応用を目的としており, 行政単位での有機性廃棄物の再生利用計画などについて検討する上では重要な資料となりうる。 しかし,行政単位内での廃棄物発生箇所と再生資源利用箇所である農地との空間的な位置関係に ついては十分な検討がなされておらず,これらの成果をもとに行政単位内で具体的にどのような 物質循環システムが実現できるかについて検討することは難しい。 一方,小林・宮本(1999),小林・宮本(2000)は,茨城県霞ヶ浦流域を対象としてリモートセンシ ング技術を活用した土地利用の把握をおこない,窒素の投入量および吸収量の空間分布を明らか にした(図 1-3)。また,小林・宮本(2001)は,同様の方法で窒素・リンの投入量および吸収量の空 間分布とその時間的相違について明らかにした。これら一連の研究は,再生資源利用箇所として の農地の空間分布を考慮している点に特徴があるが,窒素投入量および窒素吸収量の多い農地の 分布についての考察にとどまり,それをもとに地域全体でどのような循環システムが考えられる かについては十分な検討がされていない。 以上より,都市農地を活用した小規模物質循環システムの構築を考える上での問題点として, 既往研究の成果からでは,小規模物質循環システムを構築する際に,各々の都市農地を中心にど のような圏域で物質循環をおこなうことが可能であり,堆肥や農作物をどれくらい充足できるか を明らかにすることが難しいことが挙げられる。この問題に関しては,小林らの一連の方法で用 いられる手法を応用して,都市農地の堆肥要求量と住宅の堆肥生産量を,両者の空間的な位置関 係を考慮しながら比較することにより検討が可能と考えられる。 図 1-3 窒素投入量の空間分布(小林・宮本,2000)
2)物質循環型農業の取り組みに関する研究 物質循環型農業の取り組みに関する研究としては,例えば高橋・宿谷(1998)は,東京都庁舎の 生ごみ堆肥化事業を事例として物質およびエネルギーのフローについて明らかにした。三浦 (2000)は,山形県長井市における家庭生ごみ堆肥化の取り組みを対象に,生ごみ分別回収にとも なう市民の環境意識の変化について分析した。杉谷・萩原(2001)は,同じく山形県長井市での取 り組みの中で生ごみの堆肥化と有機農業に着目し,それに対する農家側の評価を明らかにした。 酒井・山路(2001)は,栃木県野木町での生ごみ堆肥化の取り組みに関する事例調査をおこない, 分別状況や堆肥化システム,堆肥化コストなどについて明らかにした。小林ら(1995)は,全国 5 箇所の堆肥化センターを対象として,有機性廃棄物の農地還元に関する経済性について分析した。 一方,海外の取り組みとしては,糸長(1997)がオーストラリアを事例対象として,糸長(2000) が英国・北欧を事例対象として,農業を軸とした物質循環型社会の実現を試みる海外の都市にお ける取り組みとその思想について紹介した。 国内での物質循環型農業の主流は,自治体単位で大規模な堆肥化センターを設置して一括収 集・一括処理型の堆肥化処理をおこなうものである。既往研究においても,これら取り組みをお こなう自治体のうちとくに先進的な事例を取り上げて,取り組みの概要や問題点を報告する立場 に立つものが多い。小規模物質循環システムを実現する上で生じる問題には,これら事例と共通 するものも多いと考えられるが,小規模物質循環システム特有の問題や,小規模な単位で実現し ようとすることにより深刻化する問題も存在することが予想される。小規模物質循環システムに 類似する取り組みは,一部の市民団体などを中心におこなわれているが,研究で扱われることは 少ない。小規模物質循環システムの構築に関わる知見を得るためには,これら団体を対象として 調査をおこなうことも重要と考えられる。
第4項 研究の目的 小規模物質循環システムの構築は,今後の都市農地の有効活用のための重要な方向性のひとつ として考えられ,都市計画側でも,都市農地を活用した小規模物質循環システムの構築にかかわ る施策を用意することが重要と考えられる。本研究は,以下の 2 点をとおして,小規模物質循環 システムの構築に向けての計画的知見を得ることを目的とした。 ①小規模物質循環システムの構築を想定した物質循環圏の設定 小規模物質循環システムの構築にかかわる施策について検討する上では,第 1 に,小規模物質 循環システムが空間的にどのように実現可能であるかについて検討する必要がある。具体的には, 小規模物質循環システムを構築する際,各農地と物質循環をおこなう市街地の圏域がどれくらい の規模になるか,圏域内で堆肥や農作物をどれくらい充足できるかを解明することが重要となる。 本研究においては,このとき物質循環をおこなう圏域を物質循環圏と呼ぶ。 本研究で想定する小規模物質循環システムの構築を考える場合,都市農地は人間の日常的な生 活圏域内という非常に限られた空間内に存在する住宅との間で物質循環をおこなうことになる。 物質循環圏内で堆肥および農作物の量に過不足が生じる場合,外部との物資の流出入により補う 必要がある。その前段階として,各物質循環圏の規模や堆肥充足率,農作物充足率を明らかにす ることが重要な課題となる。また,物質循環圏の規模を明らかにすることは,小規模物質循環シ ステムを実現する上で,移動にかかる負担の大きさがどれくらいになるか,農家・都市住民間に どれくらい密接な相互関係が期待できるか,を判断する上で重要となる。 また,物質循環圏の規模や堆肥充足率,農作物充足率は,物質循環圏をどのように設定するか に依存して変化すると考えられる。これら 3 指標は,各農地の規模や周囲の農地との位置関係, 作付品目などを考慮した適切な物質循環圏が設定された上で検討されることが必要である。 そこで本研究においては,小規模物質循環システムを実現する際の適切な物質循環圏を設定し, 設定された循環圏の堆肥充足率・農作物充足率,圏域規模を解明することを第1の目的とする。 ②小規模物質循環システムの実現可能性の検討 ①において設定された各物質循環圏の堆肥充足率や農作物充足率,圏域規模をもとに,都市農 地を活用した小規模物質循環システムの空間的な実現性を検討することが可能となる。しかし, 小規模物質循環システムを実現する際には,堆肥化や安全・安心な農作物の供給の上で,さまざ まな問題が発生することが予想される。関連事例の調査をとおして,小規模物質循環システムの 実現可能性を検討するとともに,実現にともない発生する問題とその克服のための施策について 検討することは,小規模物質循環システムの構築の上で重要と考えられる。 そこで本研究においては,①の結果にもとづき,関連事例の文献調査・ヒアリング調査をとお して小規模物質循環システムの実現可能性について検討することを第2の目的とする。
第5項 研究の構成 本研究における 2 つの目的を達成するために,以下のながれで研究を進める。 ①物質循環圏の設定の考え方の整理とその手法の作成(第2章) 小規模物質循環システムの実現性について検討する上では,小規模物質循環システムの構築を 想定する場合の各物質循環圏の規模や堆肥充足率,農作物充足率について解明することが重要と 考えられた。また,これら 3 指標の解明は,物質循環圏が適切に設定された上でおこなわれる必 要があると考えられた。 そこで第2章では,物質循環圏の設定の考え方について整理し,物質循環圏の設定手法を作成 する。具体的には,はじめに,物質循環圏を適切に設定するための条件について検討する。次に, その条件に従い物質循環圏を設定する上での物質循環圏の設定過程と,その過程で必要となる指 標について検討する。最後に,物質循環圏の規模や堆肥充足率,農作物充足率を解明する上で, どのような指標を用いることが妥当であるかについて検討する。以上のながれに従い,物質循環 圏の設定をおこなうための手法を作成する。 ②小規模物質循環システム構築の際の物質循環圏の設定(第3章) 第2章で作成された物質循環圏の設定手法を事例地域に適用し,小規模物質循環システムの構 築を想定した物質循環圏の設定をおこなう。設定された各物質循環圏について,その規模や堆肥 充足率,農作物充足率などを明らかにする。 ③小規模物質循環システムの実現可能性の検討(第4章) 既往研究や文献などをもとに,生ごみの堆肥化,安全・安心な農業に関連する取り組みをおこ なう事例について整理し,物質循環システムを構築する上でどのような問題が生じることが考え られるかを検討する。また,小規模物質循環システムに関連する取り組みを実践する市民団体に 対するヒアリング調査をもとに,小規模物質循環システム特有の問題点,小規模循環を実現する 際にとくに深刻化すると考えられる問題点について検討する。以上の検討と第3章での解析結果 をもとに,本研究で想定する小規模物質循環システムが実現可能であるか,その実現に際してど のような問題が発生することが予想され,その克服のためにどのような施策が必要になるかにつ いて検討する。 ④小規模物質循環システムの構築に向けての計画的整備指針(第5章) 第4章の結果をもとに,都市農地を活用した小規模物質循環システムの構築にかかわる施策や, 小規模物質循環システムの構築を視野に入れた農地保全のあり方などについて検討する。
第2章 物質循環圏の設定・解明の考え方とその指標 本章では,物質循環圏の規模および堆肥充足率,農作物充足率について解明する前段階として, 物質循環圏の設定の考え方と,設定のためにどのような指標・手続きが必要か,設定された物質 循環圏の実現性について検討する上でどのような指標が必要かについて検討する。これらの検討 をとおして,小規模物質循環システムの構築の上での物質循環圏の設定・解明手法を作成する。 第1項 本研究で想定する小規模物質循環システム 本研究で想定する小規模物質循環システムは,市街地と近接・混在して存在する都市農地の特 性を活かして,都市農地と農地周囲の住宅との間で,人間の日常的な行動範囲のなかで成立する 小規模な物質循環システムを構築するものである。都市農地の特性を活かして地域全体で農地・ 住宅地間の近接性を高めるために,物質循環圏は各農地を中心として形成されるものと考えた。 また,各々の都市農地の一角には,生ごみを収集・堆肥化するための施設(以下,堆肥化施設)が 設置され,地域内に存在する都市農地と等数だけ物質循環圏が形成されるものと考えた。 本研究で想定する小規模物質循環システムは,農地と住宅地が近接するなかで,人間の日常的 な行動範囲のなかで成立し,自動車などの輸送手段に依存しない省エネルギー・低環境負荷型の 持続可能な物質循環システムを実現するものである。そのため,物質循環圏内における生ごみ・ 堆肥・農作物の輸送,具体的には住宅から堆肥化施設への生ごみの輸送,堆肥化施設から農地へ の堆肥の輸送,農地から住宅への農作物の輸送,などはすべて物質循環圏内の都市住民および農 家の徒歩によりおこなわれることを想定した。 図 2-1 小規模物質循環システムおよび物質循環圏のイメージ 堆肥化施設 堆肥化施設堆肥化施設 堆肥化施設 物質循環圏 物質循環圏 物質循環圏 物質循環圏 生ごみ・堆肥・農作物などは徒歩での 輸送が原則 地域内の各農地を 中心に物質循環圏 が形成される
第2項 物質循環圏の設定方法の考え方 物質循環圏の設定方法について検討する上では,はじめに本研究で想定する小規模物質循環シ ステムを実現する上での適切な物質循環圏の設定条件について検討した。次に,検討された設定 条件を満たすためにどのような過程を経て物質循環圏を設定すればよいか,設定の過程でどのよ うな指標が必要になるか,について検討した。 1)物質循環圏の設定条件 本研究で想定する小規模物質循環システムは,市街地と近接・混在して存在する都市農地の特 性を活かして,都市農地と農地周囲の住宅との間で,人間の日常的な行動範囲のなかで成立する 小規模な物質循環システムを構築するものである。都市農地の特性を活かして地域全体で農地・ 住宅地間の近接性を高めるために,物質循環圏は各農地を中心として形成されるものと考えた。 各農地を中心に物質循環圏を形成する上では,農地と住宅は近接するほど多くの利点が得られ ると考えられる。第 1 に,生ごみや農作物の輸送にかかる負担が軽減される点が挙げられる。第 2 に,農家と都市住民のあいだにより密接な関わり合いが生じ,都市住民の農作物に対する安心 感や生ごみ分別意識の向上,農家の堆肥に対する安心感の高まりが期待される点が挙げられる。 このため,各農地はできる限り近接する住宅と,各住宅はできる限り近接する農地と物質循環圏 を構築するものと考えた。また,このとき物質循環圏相互は重なり合わないことを条件とし,農 地および住宅は複数の物質循環圏に属さないものとした。 本研究で想定する小規模物質循環システムにおいては,物質循環圏内における生ごみ・堆肥・ 農作物の輸送はすべて物質循環圏内の都市住民および農家の徒歩によりおこなわれる。このため, 物質循環圏は,都市住民が日常的に徒歩で移動できることを条件にその圏域の上限を設定する必 要がある。都市公園法においては,住民の日常的な利用に供する近隣公園の誘致圏は半径 500m 程度と設定されている。今回の解析においては,この値を参考として住民が徒歩により生ごみを 持参できる距離の上限を 500m 程度と判断し,物質循環圏域の上限を 500m と設定した。 物質循環圏を設定する上では,物質循環圏内で堆肥を可能な限り賄う立場,物質循環圏内で農 作物を可能な限り賄う立場,可能な限り多くの住宅を物質循環圏に取り込む立場など,さまざま な立場が考えられる。本研究においては,持続可能な農業生産のために必要な堆肥の安定確保を 最大の目的とし,農作物充足率はそれに従い決定されるものとした。 以上より,物質循環圏を設定する上で次の 5 条件を設定した(図 2-2)。 ①物質循環圏は,各農地を中心に形成される ②各農地はできる限り近接する住宅と,各住宅はできる限り近接する農地と物質循環圏を構築 ③農地および住宅は複数の物質循環圏に属さない ④物質循環圏域の上限は 500m とする ⑤物質循環圏の設定は,農地の堆肥要求量の充足を目的としておこなう
図 2-2 物質循環圏の設定にかかわる 5 つの条件 堆肥化施設 堆肥化施設堆肥化施設 堆肥化施設 物質循環圏 物質循環圏物質循環圏 物質循環圏 ① 物 質 循 環 圏 は 各 農 地 を 中 心 に形成される ②住宅(農地)はでき る限り近接する農 地(住宅)と物質循 環圏を構築する ③ 農 地 ・ 住 宅 は複 数 の物 質 循環 圏 に 属さない 500m 500m500m 500m≧≧≧ ≧ ④ 物 質 循 環 圏 域 の上限は 500m ⑤物質循環圏 の 設定は,農地の 堆 肥 需 要 量 の 充 足 を 目 的 と しておこなう
2)物質循環圏の設定過程およびその過程で用いる指標 物質循環圏を設定するための条件として,以下の 5 つを得た。 ①物質循環圏は農住混在地域内の各農地を中心に形成される ②各農地はできる限り近接する住宅と,各住宅はできる限り近接する農地と物質循環圏を構築 ③農地および住宅は複数の物質循環圏に属さない ④物質循環圏域の上限は 500m とする ⑤物質循環圏の設定は,農地の堆肥要求量の充足を目的としておこなう 上記 5 条件に従い物質循環圏を設定するための物質循環圏の設定過程,およびその設定の過程 で必要となる指標について検討した。はじめに,5 条件を満たすための物質循環圏の設定過程に ついて検討した。条件①,②,⑤から,物質循環圏の設定は,各農地からの検討対象領域を段階 的に広げながら,農地の堆肥要求量と物質循環圏内の住宅の生ごみ堆肥生産量を比較し,両者が 均衡した範囲を物質循環圏として同定することによりおこなうものとした。このとき,1 住宅が 複数の物質循環圏に含まれないよう考慮し(条件③),検討対象領域の上限を 500m として解析を 進めるものとした(条件④)。 次に,上記の過程に従い物質循環圏を設定する上で必要となる指標について検討した。条件⑤ から,物質循環圏を設定する過程では,物質循環圏内での堆肥生産量と要求量を比較することが 必要となるため,農地の堆肥要求量および住宅の堆肥生産量を指標として設定した。また,設定 された物質循環圏のなかで,住宅の農作物需要をどれだけ賄うことができるかを把握することは, 物質循環圏外との物資の流出入について検討する上で有用であると考えられたため,農地の農作 物生産量および住宅の農作物要求量を指標として設定した。 以上より,物質循環圏を設定する過程で使用する指標として,①農地の堆肥要求量,②農地の 農作物生産量,③住宅の堆肥生産量,④住宅の農作物要求量,の 4 つを設定した。 農地側の指標 ○堆肥要求量 ○農作物生産量 住宅側の指標 ○堆肥生産量 ○農作物要求量 図 2-3 物質循環圏の設定過程で用いる指標
第2項 小規模物質循環システムの実現性検討のための指標 設定された物質循環圏の実現性を検討するための指標として,以下の 3 つを設定した。 第 1 に,物質循環圏内での堆肥の充足状況を解明するための指標として,農地の堆肥充足率を 設定した。堆肥充足率は,物質循環圏内の住宅の堆肥生産量を農地の堆肥要求量で割ることによ り算定するものとした。物質循環圏を設定する上では,農地規模や周囲の農地との位置関係およ び農地周囲の住宅密度などの関係から,物質循環圏内の住宅から供給される堆肥により農業生産 に必要となる堆肥量を満たせない農地が発生すると考えられる。 第 2 に,物質循環圏内での農作物の充足状況を解明するための指標として,住宅の農作物充足 率を設定した。農作物充足率は,物質循環圏内の農地の農作物生産量を住宅の農作物要求量で割 ることにより算定するものとした。 第 3 に,物質循環圏の規模を解明するための指標として,物質循環圏内における農地・住宅間 距離を設定した。物質循環圏は農地の堆肥要求量と検討対象領域内の住宅での堆肥生産量とが均 衡する範囲により同定されるため,物質循環圏内での農地・住宅間の近接性は物質循環圏により 異なる。物質循環をおこなう上では,物質循環圏内の農地と住宅が近接するほど移動の負担が軽 減され,都市住民と農家の間により緊密な関係が形成され信頼関係も得やすくなると考えられる。 以上の 3 指標は,農地の分布形態と関係をもつことが予想される。例えば,農地規模の大きい 農地では農業生産に必要となる堆肥の量が多くなることから,物質循環圏内から必要な堆肥量を 賄うことが難しくなる。また,農地周囲に農地が多く存在する場合,それら農地との競合により 十分な量の住宅を物質循環圏内に取り込むことができず,物質循環圏内から必要な堆肥量を得る ことが難しくなる。そこで,小規模物質循環システムの実現性検討のための 3 指標と農地の分布 形態との関係を捉えるための指標として,農地規模と農地連担性の 2 つを設定した。 図 2-4 物質循環圏の解明にかかわる指標 3 指標と農地の空間分布の 関係を捉えるための指標 ○農地規模 ○農地連担性 小規模物質循環システムの 実現性検討にかかわる指標 ○堆肥充足率 ○農作物充足率 ○農地・住宅間距離
第3項 物質循環圏の設定・解明手法 これまでの検討結果をもとに,本研究においては以下の 4 段階の手続きにもとづき小規模物質 循環システムの実現のための物質循環圏の設定・解明をおこなうものとした。 ①各農地の作付タイプを設定して,堆肥要求量および農作物生産量を算定する。 ②各住宅に人口を設定して,堆肥生産量および農作物要求量を算定する。 ③各農地の堆肥要求量を満たす住宅地の範囲を,各農地を中心とした物質循環圏として設定する。 具体的には,各農地からの検討対象領域を段階的に広げながら,農地の堆肥要求量と市街地の 堆肥生産量が均衡する範囲を物質循環圏として設定する。このとき,圏域の上限は農地縁から 500m とし,物質循環圏相互は重なり合わないものとする。 ④設定された各物質循環圏の堆肥充足率および農地・住宅間距離を解明し,その結果と農地規模, 農地連担性との関係性をみることにより,3 指標と農地の分布形態との関係を解明する。この とき,農作物充足率の算定もおこなう。 図 2-5 物質循環圏の設定・評価過程 Step1 各農地の作付タイプの設定と 堆肥要求量・農作物生産量の算定 Step2 各住宅での人口の設定と 堆肥生産量・農作物需要量の算定 Step3 各農地を中心とした物質循環圏の 設定 Step4 物質循環圏の規模および堆肥充足 率,農作物充足率の把握 作付品目 ○○ 堆肥要求量 ○kg/y 農作物生産量 ○kg/y 人口 ○人 堆肥生産量 ○kg/y 農作物需要量 ○kg/y 堆肥充足率 ○% 農地住宅間距離 ○m 農作物自給率 ○% 農地規模 ○a 農地連担率 ○% 農作物充足率 ○%
第3章 物質循環圏の規模と堆肥・農作物充足率の解明 本章では,第2章で考察された物質循環圏の設定・解明手法を事例地域に適用し,物質循環圏 の規模や堆肥充足率,農作物充足率を解明する。 第1項 事例地域 事例地域には東京都国分寺市を選定した。国分寺市は東京都のほぼ中央に位置する総面積約 12km2,人口約 10 万人の都市であり,農地は約 200ha が存在している。JR中央線・武蔵野線, 西武国分寺線・多摩湖線が縦横に走り,とくに中央線沿線を中心に顕著な市街化の進行が確認で きる。市内にはさまざまな規模・形状の農地が存在しており,その住宅地との混在形態も多様で あることから,本研究の対象地域として適切と考えた。 国分寺市内に存在する農地約 200ha の多くは畑地であり,さといも,キャベツ,ブロッコリー などをはじめとした野菜の生産が盛んである。また,国分寺市では農作物直販を中心とした農業 にかかわるさまざまな取り組みがなされている(渡辺ら,1989)。 図 3-1 事例地域の概況
第2項 物質循環圏の設定過程 1)使用した空間データ 農地および住宅の空間データとしては,「東京都都市計画地理情報システム」(東京都都市計画 局作成)のデータ(以下,東京都 GIS データ)を使用した。農地に関しては,「平成 9 年土地利用(Ku)」 ファイルで「畑地」に区分されるものを抽出してその面積を算定した。住宅に関しては,「平成 9 年建物用途(Kv)」ファイルで独立住宅,集合住宅,住商併用建物,住居併用工場に区分される ものを抽出した。農地の同定に際しては,道路などにより区切られた領域を一区画の農地とした。 物質循環圏の設定・解明手法を適用する上で,市中央部に位置する農地と縁辺部に位置する農 地の周辺の宅地化条件をそろえるため,国分寺市の市域外約 1km の範囲も解析対象に含め,市内 と同様の条件のもとデータを算定した。 図 3-2 東京都国分寺市における農地および住宅地の空間分布
2)各農地での作付タイプの選定と堆肥要求量,農作物生産量の算定 設定される物質循環圏およびその堆肥充足率,農地・住宅間距離は,作付品目により変化する と考えられるため,解析は堆肥要求量の異なる数種類の作付タイプについておこなった。なお, 今回の解析では,堆肥充足率はリン酸やカリウムとならんで農業生産上もっとも重要な無機成分 のひとつである窒素に換算して算定した。 作付タイプの設定および堆肥要求量,農作物生産量の算定は以下の手続きに従った。はじめに, 作付を想定する品目として,「東京都農林水産統計年報」(関東農政局東京統計情報事務局,2000) から国分寺市で高い作付面積が確認でき,かつ家計調査(総務庁統計局,1999,以下「家計調査」) で高い購入量が確認できる 8 品目(キャベツ,ほうれんそう,だいこん,ばれいしょ,きゅうり, トマト,なす,はくさい)を選定した。次に,対象 8 品目を旬の時期に生産する作型と,その作 型のもとでの堆肥要求量を「農作物施肥基準」(東京都労働経済局,1998,以下「施肥基準」) をもとに把握し,各作型を春作(おおむね 2∼7 月に作付け)・秋作(同じく 8∼12 月)に区分した。 堆肥要求量の異なる作付タイプとして,①少品目低投入型(春・秋とも窒素要求量の少ない 2 品目を等面積ずつ生産),②少品目高投入型(同様に,窒素要求量の高い 2 品目を生産),③多品 目型(全品目を等面積ずつ生産)の 3 種類を設定し,それぞれ年間窒素要求量を算定した(表 3-1)。 また,各作付タイプの農作物生産量を,「施肥基準」に記載される各品目の基準収量をもとに算 定した(表 3-2)。なお,実際に各作付タイプでの生産が可能であることは,現地農業改良普及員 へのヒアリング調査により明らかにされている。 各農地の堆肥要求量および農作物生産量は,各作付タイプでの堆肥要求量,単位面積あたり農 作物生産量に農地面積を乗じて算定した。 表 3-1 各作付タイプの窒素要求量 品目別 合計 品目別 合計 きゅうり 5 18 だいこん 5 15 ばれいしょ 5 20 はくさい 5 16 トマト 5 22 ほうれんそう 5 16 なす 5 40 キャベツ 5 25 きゅうり 2.5 18 だいこん 2.5 15 ばれいしょ 2.5 20 はくさい 2.5 16 トマト 2.5 22 ほうれんそう 2.5 16 なす 2.5 40 キャベツ 2.5 25 窒素要求量(kg/10a) 品目 面積 (a) 年間窒素 要求量 (kg/10a) 窒素要求量(kg/10a) 品目 面積 (a) 多品目型 秋作 19 少品目 低投入型 少品目 高投入型
34.5
51.5
43
31 25 15.5 20.5 18 春作 東京都労働経済局(1998)をもとに作成東京都労働経済局(1998)をもとに作成
きゅうり
5
2500 だいこん
5
2500
ばれいしょ
5
1500 はくさい
5
2000
トマト
5
2750 ほうれんそう
5
700
なす
5
4000 キャベツ
5
2500
きゅうり
2.5
1250 だいこん
2.5
1250
ばれいしょ
2.5
750 はくさい
2.5
1000
トマト
2.5
1375 ほうれんそう
2.5
350
なす
2.5
2000 キャベツ
2.5
1250
多品目型
少品目
高投入型
少品目
低投入型
春作
秋作
品目
面積
(a)
品目
面積
(a)
農作物生産量
(kg/10a)
農作物生産量
(kg/10a)
表 3-2 各作付タイプの農作物生産量3)各住宅での人口および堆肥生産量,農作物要求量の算定 各住宅での人口は,東京都 GIS データでの各住宅区分(表 3-3)に対して,「国勢調査」(総務庁 統計局,1995)の住宅の建て方別人口(表 3-4)において相当する各分類での値をもとに算定した。 具体的には,以下の手続きに従った。 ○独立住宅は国勢調査の一戸建住宅に相当するものと判断し,各独立住宅に国勢調査での一世帯 あたり人員数(3.06 人)を設定した。 ○集合住宅は国勢調査の共同住宅に相当するものと判断し,1・2 階,3-5 階,6 階以上の 3 種類 に区分した。各区分での総世帯人員数をもとに,各集合住宅の階数に応じて人口を算定した。 ○住商併用建物は 1 建物が 1 住宅である場合と,階下が商店で 2 階以上に 2 つ以上の住宅が含ま れる場合が考えられる。今回の解析では,現地踏査をもとに階数が 1,2 階のものは前者として 考え,独立住宅の人口算定方法に従った。一方,階数が 3 階以上のものは後者として考え,集 合住宅の人口算定方法に従った。 ○住居併用工場は国勢調査のその他に相当するものと判断し,全住居併用工場に国勢調査での一 世帯あたり人員数(2.59 人)を設定した。 各住宅の堆肥生産量を算定する上では,まず東京都一般世帯での 1 人 1 日あたり生ごみ排出量 を,「環境白書」(環境庁,1995,図 3-3)をもとに約 240g と算定した。次に,生ごみに含まれる 窒素の重量比を,井上ら(1999)の指摘をもとに 0.5%と設定し,240g の生ごみに含まれる窒素の 世帯数 総世帯人員数 世帯あたり人員数 一戸建 18,009 54,919 3.06 長屋建 645 1,674 2.60 共同住宅(1・2階) 12,224 43,555 1.82 共同住宅(3-5階) 9,214 18,373 2.17 共同住宅(6階以上) 2,440 19,971 2.14 その他 66 171 2.59 総務庁統計局(1995)をもとに作成 表 3-4 国分寺市の住宅の建て方別人口(平成 7 年) 表 3-3 東京都 GIS データでの 住宅の数 厨芥 紙類 繊維 草木 金属類 ガラス陶磁器 プラスチック ゴム・皮革 その他 119.0g (23.1%) 243.1g (47.1%) 12.1g (2.3%) 26.4g (5.1%) 18.6g (3.6%) 39.3g (7.6%) 48.6g (9.4%) 図 3-3 東京都一般世帯における1人1日あたり ごみ排出量(環境庁,1993)