【タイトル】 サケ白子由来塩基性タンパク質「プロタミン」の肥満予防効果に関する検証 論文タイトル①:サケ白子由来プロタミン塩酸塩のラットに対する脂質代謝への効果 論文タイトル②:サケ由来プロタミンの脂質吸収抑制効果 【概要】 プロタミンは、脂肪を分解する消化酵素である膵リパーゼ阻害活性が知られ、高脂肪の食事と 一緒に 0.5g を摂取すると、腸管からの脂肪吸収が抑えられ、血中の中性脂肪の上昇が抑制され ることをヒト臨床試験で確認しました。また、動物を使った反復投与試験では、高脂肪食を与え た時に過度な体重増加や内臓脂肪の蓄積が抑えられ、肥満予防に有効な素材と考えられます。 【機能性成分の説明】 ・ プロタミンは、最初にサケ精子頭部から発見され、その後、約 50 種類以上の魚類の白子から 存在が報告されている塩基性のタンパク質です。サケ白子由来のプロタミンは、アミノ酸配 列がよく似た 4 種の分子種の存在が知られており、いずれもアルギニンを多く含んでいます (図1)。 ・ 生体内では、白子に含まれる遺伝子(DNA:核酸)と結合して保護する機能を担っていると 考えられています。 【研究の背景】 ・ プロタミンは、微生物に対して幅広い抗菌活性を示すため、1980 年代前半から天然物由来の 食品保存料(既存添加物リストに収載)として利用されています。熱安定性が高く食品加工 時における加熱(120℃、30 分)でも安定で、タンパク質であるため消化管内で分解、吸収 されるなどの特徴が挙げられます。 ・ 安全性については、原料となるサケ白子は、石狩鍋などの鍋物用の具材として古くから食経 験があり、動物を用いた安全性試験を行って問題ないことが確認されています。また、プロ タミンはインスリンの作用持続効果やヘパリンの中和作用があるため、硫酸塩は医薬用製剤 としても利用されており、安全な天然素材です。 ・ さらに、プロタミンは 1993 年に脂肪を分解する消化酵素である膵リパーゼに対して強い阻 害作用を示すことが報告2)され、生活習慣病の根源となる肥満予防に効果が期待できると考 えられました。
配列 1: PRRRRRSSSRPIRRRRRPRASRRRRR-GGRRRR
配列 2: PRRRR-SSRRPVRRRRRPRVSRRRRRRGGRRRR
配列 3: PRRRR-SSSRPVRRRRRPRVSRRRRRRGGRRRR
配列 4: PRRRR-ASRR-IRRRRRPRVSRRRRR-GGRRRR
R:
アルギニンS:
セリン P:プロリン G:グリシンV:
バリン A:アラニン I:イソロイシン 図1:サケ由来プロタミンのアミノ酸配列1) ※本誌② 図 1 に基づき作成【研究の方法と結果】 1.動物試験による脂肪の吸収を抑制する効果の検証(論文①) サケ白子由来プロタミンの脂肪吸収抑制効果について、ラットを用いたコーン油負荷試験で検 証しました。 <方法> 雄性 SD ラットを 3 つのグループに分けて(n=7)、1つをコントロールとして他の 2 グループ に、それぞれプロタミン(500mg/kg)と脂肪の吸収を抑えることで知られる烏龍茶の乾燥物 (500mg/kg)を投与し、さらに続けてコーン油を与えました。採血は 0、1.5、3.0、4.5 時間 後に行い、血中中性脂肪を測定しました。 <結果>
試験開始時から 4.5 時間後までの血中中性脂肪濃度増加量の Area Under the Curve(AUC) 値(中性脂肪の吸収量に相当)は、プロタミンを投与した場合、烏龍茶乾燥物を投与した時と比 べても低値を示し、コントロールと比較すると統計的に有意な低値となりました(図2)。この結 果から、プロタミンは中性脂肪の吸収が抑えられると考えられました。 図2:ラットにおける血中中性脂肪の吸収抑制効果 2.ヒト臨床試験による脂肪の吸収を抑制する効果の検証(論文②) 動物試験で確認された脂肪吸収抑制効果について、ヒト臨床試験により検証しました。 <方法> 健常な男性(20~40 歳)13 名を無作為にコントロールとプロタミンの 2 つのグループに分け て試験を行いました。試験は、シングルブラインドで(被験者がどちらのグループに属するか分 からないように試験食をカプセルに入れて)実施しました。検査前日の 21 時から絶食とし、脂 質 56g を含む高脂肪食と同時に試験食(澱粉またはプロタミンを 0.5g)を摂取していただき、 経時的に採血を行いました。 <結果> コントロールと比較してプロタミンを摂取した場合、血中中性脂肪の増加量が有意に低下する ことを確認しました(図3)。また高脂肪食負荷後 6 時間までの血中中性脂肪の合計増加量は、コ ントロールに対して 40%以上少なく、顕著な脂肪吸収抑制効果が確認されました(図4)。これ らのことから、プロタミンを 0.5g 摂取することで、高脂肪食を食べた場合に脂肪の吸収が抑制 されると考えられ、メタボリックシンドロームの予防に対する有効な素材と考えられます。 ※本誌① table2 に基づき作成
図3(左):高脂肪食摂取後の血中中性脂肪濃度の推移 図4(右):血中中性脂肪の増加量の AUC(脂肪の吸収抑制効果) 3.動物試験による脂肪の蓄積を抑制する効果の検証(論文①) プロタミンを継続的に摂取した時の効果を検証するため、ラットを用いて高脂肪食を与えた 7 週間の反復投与試験により検証しました。 <方法> 雄性 SD ラットを 4 つのグループに分けてプロタミンを 1 日 1 回経口投与(0, 150, 500, 1500 mg/kg)して、高脂肪食(牛脂 40%配合)を自由摂取として 7 週間飼育しました。 <結果> 各グループ間で 7 週間の摂取カロリーに差は見られなかったのに対して、体重はプロタミンの 投与量に応じて増加抑制が認められました(図5)。また、プロタミンを投与したグループでは 7 週間後の肝臓重量や内臓脂肪にあたる睾丸周囲脂肪組織重量が有意に低下しました(図6)。 図5(左):プロタミン反復投与時の体重推移 # p<0.05, ## p<0.01 (Ryan 検定) 平均値±SE 図6(右):肝臓と睾丸周囲脂肪組織の重量 † p<0.1, # p<0.05 (Ryan 検定) 平均値±SE ※本誌② table2 に基づき作成 ※図 3,4 とも本誌② 図 3 に基づき作成 ※本誌② fig1 に基づき作成
さらに、血中コレステロール値がプロタミンの投与量に応じて低減することが確認されました (図7)。一般にコレステロールは長期的な血中脂質の推移を反映することが知られています。 また、血中コレステロールは、主に胆汁酸の再吸収が寄与すると考えられています。我々は、 プロタミンが胆汁酸と結合して難消化性の複合体を形成することを明らかにし、糞便中の脂質量 が増加することを確認しました(図8)。 図7(左):プロタミン反復投与時の血中コレステロールの濃度 # p<0.05, ## p<0.01 (Ryan 検定) 平均値±SE 図8(右):プロタミン反復投与時の糞便脂質排泄量 # p<0.05 (Ryan 検定) 平均値±SE 一方、複合体を形成しないプロタミンは消化酵素で分解されて小腸で吸収されると考えられま す。プロタミンはアルギニンを多く含むタンパク質であるため、体内に吸収されるとアルギニン と同様な生理機能が期待できます。アルギニンは体内で NO(一酸化窒素)を産生し、脂肪燃焼を促 進することが報告されており、プロタミンも継続して摂取することにより脂肪を燃焼しやすくな ると考えられます。 つまり、プロタミンはアルギニンでは見られないリパーゼ阻害活性を示し、また胆汁酸と結合 して難消化性の複合体を形成して脂肪吸収を抑制すると考えられます。また、一部は消化酵素の 分解を受けて吸収されアルギニンと同様の脂肪燃焼促進効果が期待できます。このようにプロタ ミンを継続して摂取することで脂肪の蓄積や体重増加が抑制できることから、抗肥満を期待した ダイエット食材として非常に有望であると考えられます。 【引用文献】
1) Protein Exp Purif. 1990, 1:127−133. 2) 愛媛医学. 1993, 13(1):57-56.
※本誌② table2 に基づき作成 ※本誌② table3に基づき作成
【原文タイトル①】
Effect of protamine hydrochloride from chum salmon milt on lipid metabolism in rats. 【掲載誌情報①】
Fisheries Science. 2011, 77(6):1045-1052. (DOI: 10.3136/nskkk.55.360)
【著者情報①】
高橋 義宣(a)、小西 達也(a)、江成 宏之(a)、リ・ホンシク(b)、リ・ウォンキョン(b)、リ・ヨン
ソン(b)、パク・ヨンコク(b)、山本 茂(c) (a) マルハニチロホールディングス 中央研究所 (b) LG 生活健康技術院 (c) 十文字学園女子大学 人間生活学部食物栄養学科 【原文タイトル②】 サケ由来プロタミンの脂質吸収抑制効果. 【掲載誌情報②】 日本食品科学工学会誌. 2008, 55(8):360-366. (DOI: 10.3136/nskkk.55.360) 【著者情報②】 星野 躍介(d)、高橋 義宣(d)、河原崎 正貴(d)、秋田 涼子(d)、江成 宏之(d)、山本 茂 (e) (d) ニチロ 中央研究所(現マルハニチロホールディングス) (e) お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究院 国際栄養学 【実施試験の情報】(ヒト介入試験について) ・試験デザイン:プラセボ対照・単盲検・ランダム化比較試験(2 群) ・対象者:健常成人男性(20~40 歳)13 名 ・試験食:プロタミン 0.5g/回 (1 錠あたりプロタミン 0.25g 含有を 2 錠摂取) 【実施済みの安全性試験の情報】 ・遺伝毒性試験:復帰突然変異試験(Ames 試験) ・遺伝毒性試験:染色体異常試験 ・単回投与毒性試験 ・反復摂取毒性試験 【本研究に関するお問い合わせ先】 株式会社マルハニチロ食品 化成バイオ事業部 バイオ事業課 東京都江東区豊洲 3-2-20 TEL: 03-6833-4178 株式会社マルハニチロホールディングス 中央研究所 管理企画課 茨城県つくば市和台 16-2 TEL: 029-864-6700 <平成 26 年 3 月 12 日作成>