⑲図書館司書専門講座
講 義 レ ジ ュ メ
薬 袋 秀 樹
図書館における指定管理者制度をめぐって
6 月 12 日(火)11:15∼12:45
───────────────────────────────────────────── 1.指定管理者制度の概要
[1](1)改正の特徴
2003 年に地方自治法が改正され(6 月成立,9 月施行),第 244 条の 2 第 3 項∼第 11 項で指定管理者 制度が定められた。公立図書館にかかわる具体的な問題点は下記の5点である。 ①管理を委ねることができる団体の範囲が従来の「公共団体又は公共的団体」等から営利法人(民間企 業)を含む「法人その他の団体」に拡張された(第3項)。 ②指定管理者制度を適用するための要件は従来と同様「公の施設の設置の目的を効果的に達成するため 必要があると認めるとき」である(第3項)。 ③指定手続等は条例で定めること,指定に際しては議会で議決することが必要で,議会によるチェック が重視された(第4,6 項)。 ④管理を委ねる団体(指定管理者)に対するチェック・監督制度が強化・拡充された。従来の報告徴収, 実地調査,必要な指示に事業報告書の提出と指定の取消が加わった(第7,10∼11 項)。 ⑤従来,PFI事業者は管理受託ができなかったが,施設の建設から管理までを行えるようになった(第 3項)。 上記の①と④の関係は「受託主体の公共性に着目してきた従来の考え方を転換し,管理の受託主体を 法律上制限することとせずに,必要な仕組みを整えた上で,その適正な管理を確保しつつ,住民サービ スの質の向上にも寄与するよう」改正した,と説明されている。①を強調し,④にはあまり触れない文 献もあるが,この5点を把握しないと,正しい理解は困難である。(2)改正条文の趣旨
条文の趣旨を要約すると次のようになる。第8項と第9項は図書館には関係が薄いため省略する。 ・地方公共団体は,公の施設の設置目的を効果的に達成するため必要と認めるときは,条例の定めると ころにより,法人その他の団体で,当該地方公共団体が指定するもの(指定管理者)に,当該公の施 設の管理を行わせることができる(第3項)。 ・条例には,指定管理者の指定の手続,指定管理者が行う管理の基準及び業務の範囲その他必要な事項 を定めるものとする(第4項)。指定管理者の指定は期間を定めて行うものとする(第5項)。 ・指定管理者を指定しようとするときは,あらかじめ議会の議決を経なければならない(第6項)。 ・指定管理者は,毎年度終了後,管理業務に関する事業報告書を作成し,地方公共団体に提出しなけれ ばならない(第7項)。 ・地方公共団体の長または委員会は,管理の適正を期するため,指定管理者に対して,当該管理の業務 または経理の状況に関して報告を求め,実地調査し,必要な指示をすることができる(第10 項)。 ・地方公共団体は,指定管理者が指示に従わないとき等指定管理者による管理の継続が適当でないと認 めるときは,指定を取り消し,期間を定めて管理業務の停止を命ずること ができる(第 11 項)。(3)総務省自治行政局長通知
昨年7月「地方自治法の一部を改正する法律の公布について」(平成15 年 7 月 17 日総行 行第 87 号 総務省自治行政局長通知)(http://www.pficenter.jp/shiryou/link02.html/)が出されている(以下,通知 という)。 「2 条例で規定すべき事項」で,指定の手続,管理の基準,業務の範囲に関する具体的な 指針を示している。指定の手続では,複数の申請者に事業計画書を提出させることとし,選定の基準と しては,次のような事項を定めて置くことが望ましいとしている。 ア 住民の平等利用が確保されること。 イ 事業計画書の内容が,施設の効用を最大限に発揮するとともに管理経費の縮減が図られるものであ ること。 ウ 事業計画書に沿った管理を安定して行う物的能力,人的能力を有していること。 この通知は公平性や専門性を確保する上で非常に重要である。選定は事業計画書によって行われるた め,その内容がきわめて重要になる。(4)指定管理者による業務の一部への限定
[2] 最近,指定管理者に任せる施設管理の範囲を限定する考え方が示されており,注目される。業務委託 と似ており,業務委託を指定管理者制度の枠組みを用いて行うことと考えられるのではないか。 Q47 公の施設の「管理」とは施設を包括的に管理することのみを指すのですか。それとも,施設管 理の一部分のみを指定管理者に行わせることも可能なのでしょうか。 指定管理者制度は,基本的には,対象となる公の施設の管理を包括的に指定管理者に行わせること を想定しています。しかしながら,施設の形状や地方公共団体の諸事情を踏まえ,条例で業務の範囲 を定めることにより,施設の管理の一部分のみを指定管理者に行わせることも考えられるところです。 Q48 ハード面の施設の管理については指定管理者に行わせ,ソフト面の企画等の事業については地 方公共団体の責任において行うとすることは可能なのですか。 公の施設において行われるソフト面の企画等の事業についても,自治法第244 の2第 3 項に規定す る「公の施設の管理」に含まれます。また,自治法第244 の2第 4 項に規定する「業務の範囲」は, 指定管理者が行う管理の業務について,条例でその具体的範囲を規定するものであるため,指定管理 者が行う管理の業務の範囲については,地方公共団体の裁量で定めることができます。 したがって,ハード面の施設の管理を指定管理者が行う業務の範囲の中に入れ,ソフト面の企画等 の事業については指定管理者が行う事業の範囲から外すことで,地方公共団体が直接ソフト面の企画 等の事業を行うことも可能です。 Q57 公の施設の管理業務の全般については指定管理者に委託し,管理業務の一部について,直接職 員を配属して行わせることはできますか。 条例で定めることとされている「業務の範囲」とは,指定管理者が行う管理の業務について,その 具体的範囲を規定するものであり,施設の維持管理等の範囲を各施設の目的や態様に応じて設定する ものです。この「業務の範囲」に係る規定の方法によっては,公の施設の管理業務の大半については 指定管理者に行わせることとしつつ,その一部については直接職員を配属して行う,とすることも可 能と考えられます。2.指定管理者制度の考え方
(1)公共施設の管理の考え方の転換
考え方の「180 度転換」,管理者の「事実上の自由化」 受託団体の民間企業,民間団体への拡大とチェック機能の強化 行政の役割のサービスの生産者から購入者への転換 サービスのノウハウは自治体に残るのか?(2)主体論から関係論へ
[3] 主体論 何らかの主体の機能を事実確認に基づき特定化する。 「行政は公共サービスを担うところである」 実態の変化 NPM,PPM →「行政だけが公共サービスを担う機関ではなく,企業や住民も担うべき」 公私の中間領域 → 官民パートナーシップ,NPO 関係論 主体間の契約・取り決めによって権利義務を明確にし,公共性の機能を追求する。 問題点 関係を形成する価値観を今まで以上に強く形成し共有することが必要になる。 ☆図書館サービスは契約で確保できるのか(3)厚生経済アプローチと公共選択アプローチ
[3] 厚生経済アプローチ 住民と企業は自己利益を徹底して追求する主体である。 政府は無私の行動主体であり,公共性を担う主体は政府のみである。 公共選択アプローチ 政府も自らの利益を追求する主体であり,公共性は,政府・企業・住民が担い手であり,一定 の価値観で支えられたネットワークによって担われる。3.指定管理者制度の長短
(1)長所
[4∼6ほか] ・民間のノウハウの活用 民間サービスが行われている演劇ホール,体育館の場合 ・運営コストの低下 職員の給与の切り下げ,短時間労働者と若年労働者の増加 ・競争原理の導入 職員間の競争による努力(民間企業の人事管理) 企業間競争:複数団体への受託が必要・機動的な行動 予算制度に制約されない支出 ・運営組織の規模の拡大(複数の自治体の業務を受託した場合) 人事異動の範囲の拡大,ノウハウの共有化 ・範囲の経済性 異業種のノウハウの活用
(2)短所
[4∼6ほか] ① 自治体行政一般 ・自治体側における業務ノウハウの流出・喪失 自治体には図書館業務の内容がわからなくなる。図書館の政策立案も困難になる。 ・職員配置の形骸化 職員の給与の切り下げ,短時間労働者と若年労働者の増加の可能性 ・首長,議員の関係者が経営する企業・団体の参入 これを禁止する条例が必要である。 ・自治体の社会的責任の形骸化 地域経済の活性化,福祉・雇用政策などの行政分野を担っており,様々な社会的価値を実現 する責任がある → 安定的雇用,男女共同参画,障害者雇用,環境 ② 図書館関連 ・企業・NPO側の運営能力の証明の困難 民間サービスがないため,新規機関による実績証明は困難である。 ・特定企業・NPOへの依存の永続化 民間サービスがないため,受託者の変更が実際には困難になり,競争がなくなる。 ・行政との意思疎通の困難 民間組織であるため,行政の政策動向を把握しにくく,意思疎通が困難である。 ・業務内容の限定 新しいニーズへの迅速な対応は困難である。 ・サービスの量の強調 サービスが量のみによって測定され,サービスの質が評価されにくくなるのではないか。 ・現場における課題解決の理解 新しいサービスの試験的実施,利用者の反応の把握,担当者によるニーズの理解と評価が困難に なる。③ 結果としての影響 ・司書の低賃金労働者化 市場原理により,希望者が多くなれば,待遇が悪化し,職員の交代が激しくなる。 図書館勤務希望者,司書有資格者が非常に多い。司書養成基準が低い。 ・司書の専門的業務の形骸化 職員の交代が激しくなれば,経験の蓄積が必要な専門的サービスは困難になる。
(3)指定管理者制度の問題点
・図書館サービスが「本の貸出」だけであるならば,自治体がノウハウを持つ必要は低いが,『これ からの図書館像』のような役割を持つなら, ノウハウを失うことによって,地域や自治体の活性化 の手段を失うことになる。 ・図書館分野では純粋の民間サービスが存在しない。民間の企業や団体は行政サービスの委託や指定 管理に依存せざるを得ず,同一地域での日常的なサービスによる競争は存在せず,指定管理者の交 代も困難であり,業務ノウハウの開発も限られる。4.図書館の専門的業務の分析
(1)A 市立図書館の例
委託の動きに対応するために,「図書館業務の性格と委託のメリット・デメリット」という資料を作 成している。図書館業務を大まかに分類し,それぞれの業務の性格を示し,業務の現状,委託のメ リット,委託のデメリットを述べ,今後の課題を挙げている。 業務の性格について カウンター業務 「定型的な業務であり,的確に指導すれば誰でもできる」 予約・リクエスト対応業務 「定型業務の部分が多い」「司書としての経験と知識が必要な部分もある」「業務全体の管理者に は,電算システムを含め広範な知識が必要」 委託の場合,「図書館システム全体を知悉した者が責任を持たないと,エラーの連鎖が発生し, 利用者に迷惑がかかる可能性がある」 カウンターでの資料相談 「一般書・児童書・参考図書の全てを知悉した司書が行うべき業務」 委託では「ベテラン司書が確保できない可能性がある」「選書する職員に利用者ニーズが届かな い可能性がある」 選書・蔵書管理 「出版社・著者・各テーマ・利用者ニーズや自館の蔵書についての知識が必要」 「責任者には 10 年以上の経験が必要」 調査相談 「参考図書・郷土資料についての知識とともに,一般書・児童書についての知識が必要」 「一人前になるためには 10 年程度は要する」 委託では「関係機関との連携が困難」「知識と技術の蓄積が困難」 児童サービス 「児童書についての知識を土台としたブックトークやストーリーテリングの技術などが必要」「一人前になるには 10 年は必要」 委託では「関係機関との連携が困難」「知識と技術の蓄積が困難」 課題 「マニュアル整備」 「業務の切り分け必要」 「業務の整理が必要」 「効率化する必要がある」
(2)B 県立図書館の例
指定管理者制度の適用の動きに対応するために,県立図書館の基本的な役割である①レファレンス サービス,②資料の収集,③市町村支援等について,それぞれ業務内容を詳細に分析し,定性的か つ定量的に評価し,論点整理を行っている。そのほか,④今後取り組む改善策を具体的に示し,論 点の明確化を図っている。 (1)その業務の必要性,(2)県立図書館の実施形態,(3)指定管理者制度導入による弊害の3点に分け て解説している。(2)では,業務の実施状況について解説し,内容を6∼8項目に分け,1∼5段 階のレベルに分類している。 実施形態 「経験に基づいて蓄積された知識や・・・専門的なノウハウが必要であり」 「図書館事情や地域特性を踏まえ,これまで培ってきた各機関との連携・協力,人とのネットワーク 等を生かし」 指定管理者制度導入の弊害 レファレンス 「4年サイクルの指定管理者においては,レベル1∼2は対応できたとしても」「高度に専門的な 調査は困難である」レベル3∼5では「長年の経験と蓄積によって的確な回答が可能となる」 資料の収集 「レベル1∼2の選書は, 図書館経験やマニュアルに基づき実施可能である」 「レベル3以上の選書は・・組織としての図書館司書が長年に渡り・・把握し評価できる態勢の 下で可能となる」 「4年サイクルの指定管理者では・・職員を養成し,そのノウハウを次の世代に伝えて継続性を 図ることは困難であり」 市町村支援 「レベル1∼2・・については一般的な図書館及び資料の知識により可能である」 「レベル3∼4・・については」「図書館活動の状況を継続的に調査研究し長期的な視点に立った 図書館司書が不可欠である」 「指定管理者では」「図書館等の状況を把握し長期的な計画を作成し,・・・継続的な協力関係を 迅速に進めることは不可能である」 まとめ 「4年サイクルの指定管理者では,初歩的な対応は可能であったとしても, 高度で専門的な人 材の育成と確保が困難であり」 説明 「IT社会を背景とした「電子図書館」といった新たな機能への対応が求められており」 「さらなる業務の見直しによる改善や職員数の適正化を図るなど,経費の削減に努める」(3)
『これからの図書館像』における図書館の効用
[8∼10] ・このような図書館は,読書のための資料を求める人々だけでなく,医療,福祉,就職などの生活上 の課題をかかえた人々や,自治体行政,学校教育,地場産業,社会福祉などに携わる人々などすべ ての成人や勤労者に必要な情報を提供することができる。 ・このような図書館があれば,地域の人々は必要な情報を迅速かつ的確に入手することができ,学習 や調査研究を迅速かつ効率的に行うことができる。情報入手に必要な時間と費用も節約できる。必 要な情報が提供されることによって,適切な状況判断や意思決定が行われ,地域社会の様々な課題 の解決ひいては地域の改革や振興に役立つ。 ・これからの図書館は,このようなサービスを行うことによって,豊かな地域社会の創造に貢献する ことができる。5.指定管理者制度の評価基準
(1)これからの図書館の在り方検討協力者会議『これからの図書館像』
[8] 管理運営形態に関する評価基準 ・図書館の管理運営形態を検討する際には,具体的な評価基準を作成する必要がある。 ・図書館の設置目的に照らして,図書館サービスの目標や達成度をどう設定するか。 ・図書館サービスをどのような内容・計画で実施するか。 ・サービスの質と量をどのような方法によって確保し水準の維持を図るか。 ・資料の計画的・長期的な収集をどのようにして行うか。 ・運営コストの効率性や運営の中立性・公共性をどう確保するか。 ・関係機関等との連携・支援の体制をどう確保するか。 ・住民や地域からの情報収集・提供体制をどう整備するか。 ・運営における責任の所在は明確かどうか。 ・専門的な職員をどう確保するか。 ・専門的な知識・技術をどのように継続的に蓄積するか。 ・職員の研修及び計画的な人材育成をどう実施するか。 ・設置者と住民による点検・評価をどう実施するか。 これらについて十分に比較検討し,どのような管理運営形態が,当該地域の実情に照らして,当該 図書館の設置目的を最も効果的に達成することができるかを十分検討した上で各地方公共団体が自ら 判断するべきである。(2)日本図書館協会
[11] 検討の視点・基準 ①公の施設の管理に対して指定管理者制度を適用するかどうかは,その施設の目的を効果的に達成する ために必要か, また住民サービスの向上に資するかどうかがまず検討されなければならない。 ②公立図書館は公の施設であるだけではなく, 教育機関としての位置付けがされている。教育機関の設 置者は管理者や必要な職員を任命するとともに, その事業を継続して行うことを求めている。蔵書の 構築, レファレンス, 他機関との連携などのサービスでは継続性, 蓄積性, 安定性が必要とされる。 ③公立図書館のサービスは他の公の施設とは異なり, 他の図書館等との連携, 協力を不可欠としている。 「望ましい基準」では館種をこえた図書館や社会教育施設, 研究機関等との連携に努めることを求めている。図書館は相互の連携・協力を基盤にしてそのサービス活動を伸張させることを本質としてお り, これは今後の公立図書館運営の効率性やサービスの向上からも一層強化すべき課題である。 ④指定管理者に委ねる「業務の範囲」について, 法は限定することは可能であるとしている。業務範囲 の限定は, その管理体系が二元化し, それが事業の効果的な達成を妨げることにならないか, 慎重な 検討が必要である。 ⑤図書館利用の「無料の原則」については, 公立図書館の指定管理者制度実施により, 経済的な利益を 期待することは難しいことを示している。 指定管理者制度は公共図書館にはなじまない ①自らが直接管理するよりも「設置の目的を効果的に達成」できることを客観的に示す必要がある。開 館日や開館時間を拡大することや司書率の向上などをその理由にあげている場合があるが, それは直 営でも可能なことであり, 合理的な根拠とは言えない。 ②住民等が NPO 法人を設立して, その団体を指定管理者にして図書館の管理を代行しようとする場合 は, 相当の期間にわたる公立図書館としての事業の安定した継続性についての見通しを確認すること が重要である。 ③民間企業者を指定管理者とすることは, 以下のことから避けるべきである。 ・図書館サービスの発展には図書館間の連携・協力やネットワーク化の整備が不可欠であるが, 競争関 係に立つ民間企業者間で, このことを効果的に達成することは難しいと考える。 ・県立図書館は市区町村立図書館に対して, 協力事業や県域の図書館振興策の立案などを行っている。 市区町村立図書館では, 学校に対する出張サービス, 地域との繋がりによる読書普及活動, 地域資料 の発掘収集などが行われている。これらのサービスを民間企業者が行うことは, 適切であるか疑問が 残るところである。 ・公共図書館事業はいわゆる事業収益が見込みにくい公共サービスであり, 営利を目的とする団体が管 理を行うことには自ずと無理がある。 ④指定管理者の「業務の範囲」を限定する際は, 業務委託との違いを明確にする必要がある。業務の委 託による処理との違い, 業務管理の複線化によるマイナスが生じないか検討の余地がある。 問題点 ・指定管理者制度のメリット,デメリットの認識が不十分である。 ・今後の図書館がどうあるべきかについて述べていない。 ・コスト削減のための合理化への対応について述べていない。 ・全般的に説明不足である。
6. 指定管理者制度に関する仮説
指定管理者制度の評価の基準 ・施設の目的を効果的に達成できるか, 住民サービスの向上に役立つか。 ・蔵書構築, レファレンスサービス, 連携・協力等における継続性, 蓄積性, 安定性が得られるか。 ・管理に必要な人的・物的能力を持っているか。 指定管理者制度の変化 ・最初は「公の施設の管理を包括的に指定管理者に行わせる」ことを意図していたが,途中から,業務 の範囲を限定して適用できるという考え方が前面に出てきた。この結果,業務委託と同様の運営方法 を指定管理者制度の枠組みを用いて行えることが明らかになってきた。この場合,根幹的業務は公務員 が行うことになる。 ・これは,施設の管理全体を民間企業等に任せることにはさまざまな問題があるからであろう。図書館側の考え方* ・「図書館の専門的サービスの実現と確保,生産性の向上を進めるために,単純業務の委託を進めるべき である」という考え方に立つならば,「指定管理者制度を適用する場合,単純業務に限って適用し,図 書館の専門的サービスの実現と確保及び生産性の向上を進めるべきである」という考え方が成り立つ。 *なお,単純業務を担当する職員の配置方法として,次の4つの方法が考えられる。①非常勤職員, 臨時職員の配置,②派遣職員の配置,③業務の委託,④指定管理者による受託。それぞれ長所・ 短所があるので,比較検討した上で,適切な方法を採用することが望ましい。しばしば短期的な 観点から判断が行われがちであるが,長期的な観点からの評価が必要である。 それに必要な条件 ・ただし,上記の考え方には次の四つの条件が必要である。 ①公務員と指定管理者の業務の区分(切り分け)が適切であり,その上で, 両者の連携・協力ができる ようになっていること。 ②一定の人数の正規職員の司書が既に存在すること。司書の欠員補充や増員と比べて,新らたな採用は 非常に難しい。 ③図書館サービスの質を評価する方法を開発し, 実施主体を作り, 評価を実施すること。 ④日本の社会には,図書館の専門的サービスに対する認識は希薄であるため,図書館の専門的サービス に対する認識を深めるために,図書館関係者が努力すること。 司書の確保 ・このうち②への対応が非常に難しい。正規職員の司書が存在しない場合や少ない場合,常勤職員の司 書の確保を指定管理者に求めようとする場合があるためである。これに対しては,現存の司書有資格 者を最大限に動員・配置すること,司書の新たな採用を求めて働きかけること,非常勤職員を活用す ること, 無理のない業務の区分を行い,今後,直営部分の拡大を展望することが考えられる。 指定管理者の専門的サービス改善への誘因 ・図書館の管理全体を指定管理者が行う場合,専門的サービスの利用の増加,質の向上を進めるには, 専門的サービスの利用の増加,質の向上があった場合に,指定管理者の収入が増加する契約になって いる必要がある。
7.公立図書館の改革
(1)公立図書館の課題
[7] ・直営でなければ達成困難な政策目的を明示する。 ・直営でなければできないサービスとは何か? 市民サービスの改善の例として,開館日や開館時間 の拡大や接遇の向上が挙げられ,それに対して,市民サービスはそれだけではないという反論が行 われるが,別のサービスが対置されることは少なく,それが実行されることは,さらに少なかった。 ・サービスの量の面では民間が優位に立つため,サービスの質で争う方が有効である。 ・地域社会の発展や活性化の観点から必要な政策立案,呼びかけを行う。 例:子どもの読書推進,自治体の政策立案支援 ・直営のサービスに対する広範囲な市民の支持を得る。 ・直営のサービスは必ずしも支持を得られなかった。直営が優れていることは自明ではなかった。・サービスに対する不満,批判を受入れ,改革を行う。 ・サービスの量的拡大だけでなく,サービスの質的向上をめざす。 ・直営の高いコストに対する有効な反論に努める。 ・高いコストの説明には直営でなければできないサービスが必要である。 ・それだけに頼らず,直営のもとでコストを下げることが必要である。 ・コストの削減に努める。司書の業務とそれ以外の業務の切り分けを徹底化する。 ・行政サービスの自己革新を提案する。 ・思いきった改革案の提起によってアピールする(薬袋)。
(2)図書館サービスの評価
・これまでは,委託反対運動が行われても,委託後の図書館サービスの評価は行われてこなかった。 その理由として,図書館サービスの評価の基準がない,直営の図書館も十分よい運営を行ってい ない,直営の図書館の問題点の批判を避ける傾向がある,の3点があった。 ・今後の評価の基準としては「望ましい基準」と『これからの図書館像』がある。 ・直営の図書館であれ,委託や指定管理者制度の図書館であれ,サービスがよくなければ率直に批判 し,サービスがよければ評価する。サービスがよくない場合,その原因を明らかにして,設置者に 是正を求める。これによって直営の図書館の改善に努めることができる。(3)行政と民間の競争
・指定管理者側の課題[12] 公共施設の指定管理者にふさわしい人物とは ①施設のビジネスプラン(事業計画書)を作成でき,実行,評価できる。 PDCAサイクルを実行する。 ②施設のステイクホルダー(利害関係者)を理解し,高いコミュニケーションスキルを有し,全員 の利益の最大化を考慮できる。 利害関係者が多い。利用者のほか,行政,学校,地域の各種団体がある。 利用者(お客)の満足だけではなく,納税者の理解,満足を得る。 ③地域のスポーツ施設設置の法的根拠や最新のスポーツ政策の潮流を理解している。 なぜ公共施設が作られているのかを理解する。関係法令と基本計画を理解する。 ④自治体の政策目的を理解し,自らの利益を多少は逸したとしても,政策目標達成に向けて 自治体と協働できる。 公共性に対する理解がある。 延べ利用者だけでなく,実利用者を増加させ,満足度を上げる。 潜在的な需要を顕在化させ,民業を圧迫せずに利用者を増加させる。 ⑤地域住民の活動を理解し,奨励し,自らの利益を多少は逸したとしても,地域住民とも協働でき る。 公共施設のミッション(使命)やビジョン(将来像)を自治体と共有する。 ☆公務員は上記の能力を備えていなければならない。 ・自治体職員側の課題 横浜市役所職員の名詞を参考にしよう 市民の皆さんに宣言!私は,1 常に皆さんの立場に立って,親切な対応をします。 2 積極的な情報提供を公開,わかりやすい説明を心がけます。 3 時間と経費を無駄にせず,コスト意識を持って行動します。 民間の優れている点に学ぼう 仕事のマニュアルを作ろう 仕事の「カイゼン」を提案しよう
(4)図書館サービスの改革
[13∼16] ① 企画・政策立案・経営改善業務に取り組もう ・まず,「日常業務で忙しく,疲労困憊状態で,将来を考える余裕がない」状態から脱出する。 図書館の自主的なサービス改善によって業務量が過剰となり,企画・政策立案を行う余裕がなく なっている。したがって,新たなサービス改善の前に,図書館の企画・政策立案業務のための労 力を確保することが絶対的に必要である。そのためには,業務の合理化や省力化を行うか,ある いは,少なくとも一時的に,業務量,必要であれば,サービスを削減する必要がある。 ② 職員の意識を改革しよう ・「職員に危機感がなく,改革の必要性が認識されず,現状認識がバラバラで,考え方が一致してい ない」状態から脱出する。 ・企画・政策立案業務担当者が,必要な資料や情報を配付・提供し,それをもとに討論を行う。 ・個々の職員がさまざまな研修に参加するのではなく,全職員が同じ内容の研修を受け,質疑応答 と討論の上,意思一致することが重要である。 ・新任図書館長研修の録画ビデオの利用が効果的である−都道府県教育委員会事務局で録画,貸出 している。 ③ 新しいレファレンスサービスに取り組もう ・図書館の入口に近い場所に相談デスク,各フロアに相談デスクを設ける。 ・相談デスクの業務には,司書,ベテラン職員が専念する。業務の合理化に努める。 ・事実調査への回答よりも,文献探索・情報探索方法,情報活用能力の提供を優先する。 パスファインダ−の活用:東京都立図書館,東京学芸大学図書館 レファレンス講座,インターネット講座の開催;パスファインダーによる案内 ・雑誌記事索引の案内を徹底し,国立国会図書館等からの取り寄せを行う。 ・インターネット上のデータベースをフルに活用する。 ・十分な人手がない場合,曜日・時間を限定した取り組みでもよい。 ・地域の組織・団体を通じてPRを行う。 ④ 地域支援サービスに取り組もう ・行政支援,学校教育支援,子育て支援,ビジネス(地場産業支援)支援,医療情報の提供,法律 情報の提供等の中から,ニーズの多いもの,効果の高いものを選ぶ。 ・関係資料が分散している場合,図書館内から資料を集めたコーナーを作る。 雑誌のバックナンバー,行政資料,パンフレットなども展示する。 ・教育委員会関係だけでなく,地域の広範な機関・団体発行の各種のパンフレットを展示し,利用 者が持ち帰れるようにする。 ・他機関主催のセミナーや講座を,図書館との共催とし,図書館を会場として開催する。関連図書・ 雑誌を展示し,資料リストを配布する。 ・関係機関・団体を通じてPRを行う。⑤ 今後の図書館機能の拡大を構想する ・地域のポータルサイト拡大 図書館のホームページを通じて,地域の情報,調査研究に必要な情報を案内する。 ・デジタル情報の保存 県行政機関,関係機関のウエブ情報を保存する。 ・情報リテラシーの教育 レファレンス,インターネットの利用方法を案内・教育する。 利用できる資料・情報が多様化し,資料・情報に関する情報が重要になってきた。 インターネット利用環境,インターネット利用方法,情報探索能力,図書館利用方法,文献探 索方法の知識の有無が,情報収集,生活と仕事の能率と成果に大きく影響する。
結論
・これまでの図書館像では社会の支持は得られない。『これからの図書館像』が必要である。 ・『これからの図書館像』の実現を公務員と指定管理者が競争し,よりよく実現した方が社会の支持を 得ることができる。 ・『これからの図書館像』を実現するには,根幹的業務は公務員が担当すべきである。 ・分業と一部業務の委託による公務員の生産性の向上とコスト削減が必要である。 ・民間企業・団体は公務員に学ぼうとしており,公務員は民間の優れた点を学ぶ必要がある。 ・図書館の発展の最大の障害は社会に浸透した古い図書館のイメージである。 ・古い図書館のイメージを打破するには,すべての図書館が『これからの図書館像』に一歩でも近付 く必要がある。 参考文献 1) 薬袋秀樹「指定管理者制度の概要と参考文献<北から南から>」『図書館雑誌』98(11), 2004. 11,p.858-859. 2)成田頼明ほか『指定管理者制度のすべて−制度詳解と実務の手引』第一法規, 2005, 272p. 3)宮脇淳「指定管理者制度と公共選択アプローチ」『月刊自治フォーラム』539, 2004.8, p.4- 8. 4)文化政策提言ネットワーク編『指定管理者制度で何が変わるのか』水曜社,2004, 221p. 5)地域協働型マネジメント研究会『指定管理者制度ハンドブック』ぎょうせい,2004, 217p. 6)三野靖『指定管理者制度−自治体施設を条例で変える』公人社,2005,159p. 7)西尾勝『行政の活動』有斐閣,2000, 198p. 8)これからの図書館の在り方検討協力者会議『これからの図書館像−地域を支える情報拠点をめざし て−(報告)』(http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/18/04/06032701.htm) 9)薬袋秀樹「『これからの図書館像』がめざすもの」『図書館雑誌』100(8), 2006.8, p.483-485. 10)薬袋秀樹「レポート紹介:これからの図書館像−地域を支える情報拠点をめざして(報告)」『情報 管理』49(8), 2006.11, p.454-459.(情報管理 Web → 2006 年 11 月号 → ) 11)日本図書館協会「公立図書館の指定管理者制度について」『図書館雑誌』99(9),2005.9,p.667-669. 12)間野義之「どのような事業者が指定管理者にふさわしいか,その人的要件」『月刊体育施設』33(14), 2004.12, p.46-49. 13)薬袋秀樹「公立図書館職員の奮起を!−指定管理者制度への対応の準備を進めよう」『図書館雑誌』 98(12), 2004.12, p.912-913. 14)薬袋秀樹「新しい時代における図書館の役割」『第 55 回北日本図書館大会 秋田県図書館大会 記 録』第55 回北日本図書館大会実行委員会, 2004.12, p.7-19. 15)薬袋秀樹「図書館のレファレンスはどうあるべきか:−レファレンスサービスの理念」『沖縄県図 書館協会誌』9, 2005.12, p.82-103.16)薬袋秀樹「これからの図書館像−地域を支える情報拠点をめざして−」(未発表)