FOREX WEEKLY
市場営業統括部
チーフ・エコノミスト 山下えつ子
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(1)米国の年末商戦
23 日は米国の感謝祭後のブラック・フライデーと呼ばれる年末商戦のスタート日である。だが過去 数年間、セールの開始時刻が前倒しとなり、多くの大手小売店は感謝祭の休日(木)の午後からスタ ートするようになった(以前は感謝祭の日は閉店だった)。筆者は年末商戦の動向を見るため、ニュ ーヨークの大手家電量販店および大手デパートを毎年訪れて定点観測している。今年は午後 5 時の開 店前に家電量販店では 300 人近くが行列を作り、大手デパートでも約 500 人が開店を待っていた。感 謝祭の夜、気温はマイナス 8 度と感謝祭の日としては 100 年来の極寒になったが(1 週間前の天気予 報ではプラス 5 度だったのだが)、幸い天気は晴れ。人々は防寒具に身を包んで行列し、家電量販店 は昨年と同程度、デパートは昨年よりも客数が多かった。 米国の小売店の売上高の約 3 割がブラック・フライデーからクリスマスまでの時期に集中する。小 売店の年末商戦にかける意気込みは当然強く、毎年様々な戦略が試みられている。具体的には、大幅 割引(20%~30%ではなく、40%~50%オフ)、ブラック・フライデー前のセール開始、オンライン・ ショッピングとの組み合わせ、また昨年からは無料配送や翌日配送サービス、店舗ピックアップ(= 事前予約・店舗受取り)といったものも増えた。今年もブラック・フライデー前から Early Black Friday などと称するセールが 11 月初旬から散見されたほか、無料配送、店舗ピックアップなどが昨年同様 オファーされている。だが、新たな戦略は見当たらず、値引き回帰となったことが一つの特徴と言え る。雇用拡大によって値引きによる消費喚起は不要に思えるが、実際には、小売店は早期セール期間 中も含めて、40%引きなど大幅な値引き販売で消費者を惹きつけようとしている。 全米小売業協会のサーベイ分析では、消費者は値引きに最大の関心を寄せており、その傾向は所得 階層によらず存在するという。そして、消費者は安価だから買うというだけではなく、どれだけ安く 買うかを楽しんでもいる。この事は小売業者にとって低価格戦略は、オンライン・ショッピングの普 及の中で止むを得ないというネガティブな理由だけではなく、売上を伸ばすために有効な戦略である ことも示唆する。今年は景気が良好であるにも関わらず、このデパートで値引きされた商品は 40%オ フ、場合によっては 65%オフといった大幅な値引きだった(昨年は 20%程度だった)。来客者は眼 の色を変えて商品を取り合っていた。 だが、全く値引きしていない高級ブランドの香水やバッグ等にも客が殺到する光景もあった。全米 小売業協会のサーベイでは、稀少商品は値引きなしでも購入するとの回答が約 30%を占める。4K テレビやパソコン、寝具、アパレルなどを対象とする大幅な値引きは購買意欲を掻き立てる役割を果 たすが、一方で、観光客を中心に、ニューヨークの有名デパートで購入する高級ブランド香水は稀少 であり、値引きの有無は無関係だ、と説明できる。 今回の実地調査で気づいた点が他に 2 点ある。一つは人手不足の影響、もう一つは低価格戦略の裏 側でのコスト削減である。昨年は年末商戦の臨時雇いが 50 万人~55 万人だったと推定されているが、 今年は 80 万人程度となると見込まれている(レジ係、売り場販売員、トラックからの荷降ろし係な どを含む)。もともと人手不足であるところに、小売業界だけで臨時雇用者に対する需要がこの規模 で集中的に増加すれば、確保は困難となる。全くの素人と思われるレジ係が多数。そのために会計に 長蛇の列が出来る、といった具合である。小売業者は時給引き上げの他に、ギフト券や旅行券などの 特典を付けるといった方法で対処した、と報じられているが、雇用・所得増に寄与しても小売業のコ ストは嵩む。一方、今年はデパートの内装が昨年と同じだった。雇用コスト増と値引き販売を相殺す る方策の一つが内装コストの削減であるようだ。少数の例をもってすべてを語ることは出来ないもの(2)重要イベントが多数控える
来週は重要なイベントが多い。すべて通過後はリスクオンかもしれないが、マーケットは大きく上 下する可能性がある。最も注目されるのは 30 日にアルゼンチンで開催される G20 会合に合わせて行 なわれる予定の米中首脳会談である。閣僚級の事前会合はないと見られており、トランプ大統領と習 主席による頂上対決が前哨戦なしに行われる。先般のトランプ大統領によるツィートによれば、中国 は対米貿易黒字縮小のための対応リストを米国に提示していると思われるが、それが米中の間の通商 対立を緩和に向かわせるに十分であるのか、物別れとなるリスクはないのか、不透明である。ただ、 貿易黒字縮小のための枠組みに合意があり、米国は中国に対する追加関税を留保し、中国は自国の経 済と政治の安定を維持する時間を確保する、というシナリオが最もありそうだと思えるのに対して、 これまでの対立関係が解消される可能性よりも長期化する可能性を中期的には見ておくべきだろう。 G20 会合についても、APEC 首脳会議で共同声明の発表が見送りとなったように、G20 会合の声明に 保護主義や自国第一主義への警戒が盛り込まれる可能性は低く、まとまりに欠ける会合となると予想 される。米中首脳会談の結果がマーケットに安堵感を与える可能性はあるが、リスクオンがどれだけ 長持ちするかは不確実である。 次の重要イベントが米国の金融政策に関するもので、日程は G20 会合や米中首脳会談よりも先であ る。27 日にクラリダ FRB 副議長のスピーチ、28 日にパウエル議長のスピーチ、および FRB の初の金 融システムレポートの公表、29 日に 8 日に行われた FOMC の議事録公表、と連日、予定がある。先週 は、パウエル議長とクラリダ副議長のスピーチがハト寄りだ、とマーケットは評価し、来年以降の利 上げ期待が大きく後退した。9 月 FOMC では FF ターゲット金利は「Longer run の 3%を超えて、2020 年に入っても利上げが続く」との見通しが示され、パウエル議長の記者会見でも同様のイメージが示 唆された。先週の議長スピーチでは 2020 年まで利上げが続くイメージはなくなり、代わって、グロ ーバル経済の減速がリスク要因として明示されたことで、マーケットの利上げに対する目線も変わっ たのである。ただし、米国株式相場は 11 月上旬に一旦持ち直したが、再び下落し、足元でもダウは 23 日まで 4 営業日続落して越週した。金利先高観の後退やグローバル経済に配慮する議長等の発言が マーケットの安心感を促すとの見方も出来るが、今のところマーケットはリスクオフのままである。 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 2 01 0 2 01 1 2 01 2 2 01 3 2 01 4 2 01 5 2 01 6 2 01 7 2 01 8 長短金利 10年債利回り FFターゲット金利 % 10年債利回り -FFターゲット金利 (データ)Bloomberg 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 3 9 3 9 3 9 3 9 3 9 3 9 3 9 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 % FFターゲット金利 見通し 9月FOMC FF予想中央値 9月FOMC Longer run (資料)FRB 現行ペース サブシナリオそれでは、利上げはどこまで続くのだろうか。現行の年間 4 回 1%の利上げというペース(前ペー ジ右図の赤点線)は可能性が低いと考えられるが、9 月 FOMC での見通しのような(青実線)マイルド な利上げ継続よりも一段とマイルドな利上げ、あるいは 2020 年には利下げに転じるといったシナリ オ(緑点線、FOMC のシナリオではなく筆者が入れたもの)の蓋然性をどう考えればよいだろうか。筆 者はその可能性を見ておいた方がよいと考えている。米国経済にも多少のダウンサイドリスクはある が、それよりも、エマージング市場や金融不均衡といったリスクがいずれ米国経済にも強い下方圧力 をもたらすことになる、と考えるからである。 米国の国内経済には、金利上昇の影響が住宅市場に出始めているほか、関税によるコスト上昇や人 手不足等による供給の遅延など、企業セクターにも先行き不安がある。だが、一方、個人消費は雇用・ 所得環境の改善に支えられて底固い。コストの価格転嫁や労働需給逼迫から来るインフレ上昇圧力に 対して、政策金利にも上昇バイアスがある。しかし、米国の金利上昇を一因とするエマージング市場 やコモディティ市場の軟化、また中国経済のスローダウン、といった海外要因は米国にとっても海外 経済のスローダウンという外需の弱まりとして影響を及ぼす他、金融不均衡による金融資本市場の脆 弱性にも一定の警戒が必要だ。国内経済のみを見れば、利上げ継続は正当化され、また必要となろう が、後段の海外要因や金融要因を加味すると、利上げには慎重とならざるを得ない。こうしたことが 現在のパウエル議長を始めとする FRB の頭の中にあることだろう。28 日に発表される予定の金融シス テムレポートには家計や企業のバランスシート、金融資産のバリュエーション、金融セクターのレバ レッジ、といった事項の分析が記される。これまで、景気に主眼のある Fed 高官スピーチが多かった が、このレポートの発表を機に、金融不均衡についての発言も増えるのではないだろう。 中立金利は推計方法によって異なるが、2.5%~3.0%と考えられる。また前ページ左図のように、 長短金利差は縮まっており、長期金利が 3.0%近辺から大きく上昇しなければ、利上げを継続すると 近いうちに逆イールドとなってしまう。FRB が利上げについて慎重になっている背景には、こうした 金利水準に関する議論もあるからだと推測される。29 日には 8 日に行なわれた FOMC の議事録も公表 されるため、27 日、28 日のクラリダ副議長、パウエル議長のスピーチとともに注目される。 最後に、英国の Brexit についても更なる展開があったので、記しておきたい。スペインが合意案 を支持しない可能性が出ている。英領ながらスペインの南端にあるジブラルタルの処遇を巡り、スペ インが異議を申し立てたのである。25 日に行なわれる EU 臨時首脳会議でスムーズに合意案が採択さ れるかどうか、不確実性が加わった。ジブラルタルが英領となったのは 1713 年のことだが、当時、 英国とスペインは数世紀に亘って海戦を繰り広げていた。長い歴史のしがらみが思わぬところで障害 となって現れた。Brexit は単なる手続き問題に留まらない、複雑な背景を有している。