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国際政治アナリスト菅原出のドキュメント レポート米国の対テロ戦争とインテリジェンス コミュニティの暗闘をカバーする Open Source Intelligence 2015 年 10 月 12 日号 (Vol. 206) 2015 年 10 月 12 日号 ロシア 参戦 で複雑さ増す中東の利害関係

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http://i-sugawara.jp/ ■ 第 2フェーズ に 突 入 した ロシ ア の 軍 事 作 戦 ロシアのシリアにおける軍事作戦がエスカレートしている。予想通り、ロシアが空爆作戦を行った地 域をシリアのアサド政府軍、レバノンのヒズボラとイラン軍による地上部隊が突入する連携作戦が本 格的に実施されるようになっている。 一方でアレッポの北部地域の村では、ロシアの空爆でライバルの反政府武装勢力が攻撃を受けて いる隙に、イスラム国(IS)がアレッポ近くの 6 つの村を占拠したことが伝えられている。トルコやサウ ジアラビアや米国の支援を受ける反政府武装勢力は、「ロシアが IS 以外の反政府勢力に攻撃を絞 っているため、IS が漁夫の利を得ている」としてロシアを非難している。 ロシアによる空爆は、平均すると一日当たり 20 回程度であり、9月30日から最初の一週間は、反政 府武装勢力の武器・弾薬庫、兵器工場や指揮所などを、主にシリア政府のインテリジェンスをもとに 攻撃した模様。また反政府派がアサド軍から奪った戦車、防護車両や砲台などを空爆で破壊した ようである。いずれも、イドリブやアレッポ周辺を拠点に活動していたヌスラ戦線とその同盟勢力、ま たホムスやハマ周辺では米国やサウジアラビアが支援する反政府武装勢力を主要なターゲットとし て攻撃をしたことが分かっている。 初期の攻撃では、アサド政権や同政権を支えるアラウィ派の基盤であるラタキアの防御を固めるた めに、その周辺にいる脅威を叩くのは軍事的な合理性がある。またラタキアやその南のタルトゥー スにはロシア軍が軍事拠点を築いているため、当然この地域の安全を確保することが優先となる。 シリアの東部に拠点を置く IS に対する攻撃が後回しになるのは、ロシア軍からすれば当然であろ う。 ロシア主導の軍事作戦は、現在は初期の空爆フェーズから、地上軍との連携による第2フェーズに 突入したと考えられる。 ■ ロシ ア とイラン が つ くる「新 しい 現 実 」 ロシアがシリアでの攻撃をエスカレートさせているのに対し、米国のオバマ政権は、口先ではロシア の行動を非難しているものの、具体的にそれに対抗したり、ロシアの行動を妨害するような対抗措 置はとっていない。ロシアがシリアでの軍事行動を開始してから一週間、米国はシリアで 34 回の空

2015 年 10 月 12 日号

ロシア「参戦」で複雑さ増す中東の利害関係とトルコの「大規模テロ」

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http://i-sugawara.jp/ 爆を実施して IS を攻撃したと報じられている。 米国は、ロシアとの偶発的な事故を避けることを優先しながら、淡々と対 IS 作戦を続けているだけ である。米軍とロシア軍は、衝突を回避するために 10 月 1 日、6 日にビデオ会議を実施して、お互 いの軍事作戦で使う空路や無線の周波数などの技術的な問題について情報を交換したことが伝 えられている。「米政府はロシア軍の軍事作戦に協力しているのではないか」との非難が米国内や アラブ諸国から挙がっているのに対し、米国防総省は、「あくまで安全確保のための技術的な協議 をしているだけだ」と説明している。 ホワイトハウスの高官によれば、「オバマ大統領はロシアの戦略はうまくいかず、必ず行き詰るはず だからそれまでじっくり待つ戦略的忍耐の原則をとっているのだ」と説明しているが、ロシアとぶつ かることを避けることだけを優先させてしまうと、結果としてロシアのイニシアチブで現状が変更され、 一度変更されてしまった現状を後から変えるのが非常に難しくなるのは、ウクライナ問題で証明さ れている。 ロシア軍が IS 以外の反政府勢力を攻撃し、米軍が IS を攻撃し続ければ、結果としてアサド政権が 優勢な戦略的情勢が出来ていく。ロシアとイランはシリアにおけるプレゼンスと影響力を強め、今後 いかなる和平交渉が行われ、ポスト・アサド体制についての政治プロセスが始まったとしても、もは やロシアやイランの意向を無視してはシリアの将来を決めることは出来ない「現実」が日々つくられ ている。こうして少しずつ米国の中東での覇権が失われていくのである。 ■ オバマ政 権 が 対 シリア政 策 を変 更 10 月 9 日、オバマ政権はシリアの「穏健派」の反政府勢力を訓練するという現在の政策を諦めるこ とを正式に発表した。この訓練プログラムが全く予定通りに進んでいないことは、すでに当レポート でも何度か触れてきた。オバマ政権は、反政府勢力を新たに訓練するのではなく、既存の反政府 組織の中から、実績に応じて適切な組織を選定した上で、必要な武器・弾薬を支援する政策に切 り替えるという。 これまで米軍が訓練した戦闘員の多くが、アルカイダ系のイスラム過激派組織に米軍から支給され た武器弾薬を手渡してしまったことから、米国が武器・弾薬を供与する組織は慎重に選定するとさ れている。 オバマ政権は、シリアで活動する反政府組織のうち、主にスンニ派アラブ系の戦闘員で構成される 「シリア系アラブ連合(Syrian Arab Coalition)」というグループに武器を提供する、と発表しているが、

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http://i-sugawara.jp/ それがどのようなグループなのか、全く明確な情報はない。 ■ 入 念 な 準 備 で 主 導 権 確 保 を狙 うロシ ア とイラン ロシア軍のシリアへの軍事介入は、すでに数か月前から、イランと共に綿密に計画を立ててきた上 で実施されたものだという。10 月 6 日にロイター通信が伝えている。それによると、今年 7 月にイラ ン革命防衛隊クッズ部隊のスレイマニ司令官がモスクワを訪問し、ロシアのカウンターパートにシリ アの地図を見せながら、「このまま敗退を続ければアサド政権は倒れる」という危機的な状況に追い 込まれていることを説明し、具体的なアサド支援策について協議したという。 実際にはスレイマニ司令官が送られる前から、イランとロシアのハイレベルな対話の中で、「ロシア が介入しない限りアサドはもたない」というコンセンサスがつくられ、ハメネイ・プーチン間でイラン・ ロシア合同作戦が決められていたようである。7 月にアサド大統領が初めてシリア軍のマンパワー 不足を指摘して弱気な演説をしていたが、ちょうどあの頃にロシアとイランの間で具体的なアサド支 援策に関する協議がスタートしていたのだろう。 スレイマニ司令官は、ロシア軍のカウンターパートに対し、アサド軍の敗戦と危機的な状況を地図 を使って説明しながら、「まだ間に合う。ロシア軍が支援してイランと共同でアサド軍を助ければ、十 分に挽回は可能だ」と説明したという。現在、このイラン・ロシア合同作戦の指揮所はダマスカスと バグダッドに置かれ、ダマスカスではスレイマニ司令官が指揮をとっているという。 ロシアとイランは、欧米諸国やアラブ諸国の懸念を余所に、とにかく一気呵成に先手をとってシリア 内戦における戦略的状況をアサド有利に逆転させ、その後の和平交渉における主導権を握ろうと 考えているのだろう。 ■ トル コで 大 規 模 テロ発 生 ロシアがアサド政権を支援してシリアへの軍事介入をエスカレートさせているのに対し、反政府勢 力を支援するサウジアラビアなど湾岸アラブ諸国は、反政府勢力に対する武器支援を強化して対 抗すると発言している。これまでは、イスラム国(IS)の手に渡ると困るという理由でシリアに送るのを 控えていた強力な兵器システムを、サウジやトルコは反政府勢力に送ることを検討しているようだ。 当然ロシア側はサウジやトルコが支援する反政府勢力に対する攻撃の手を強めることになるはず であり、サウジやトルコの代理勢力とロシア・イラン軍の衝突がエスカレートすることになる。ロシアが サウジやトルコの代理勢力に対する攻撃を強めるとして、自分たちが支援する勢力がどんどん叩か

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http://i-sugawara.jp/ れ、彼らの支配地域をアサド軍に奪還されるとしたら、サウジやトルコは次にどんな手を打ってくる のか。トルコ領空にはすでにロシア軍機が領空侵犯しているが、サウジやトルコにとっての「レッドラ イン」はあるのだろうか? このような中で、トルコの首都アンカラで大規模テロが発生したことになる。これまでも当レポートで 解説してきた通り、エルドアン大統領が最も問題視しているのは、「クルド人の勢力が強まっている こと」である。 クルド人はトルコ、シリア、イラク、イランにまたがって住んでいるが、特にシリアとイラクでは、それぞ れの内戦において「イスラム国(IS)」と勇敢に戦っており、そのために欧米諸国から強力な支援を受 けている。国際社会による対 IS 作戦が激化するに従い、クルド人たちの国境を越えた結束や協力 は強まり、その勢力はかつてなく強まり、独立の機運も強まっているのが現状である。 トルコ国内ではクルド系の政党が政治的にも強くなっており、前回の選挙では議席数を大幅に増 やした。エルドアン大統領にとっては、これ以上クルド勢力が強くなると困るため、「対 IS 作戦に乗り 出す」と称してクルド人武装組織「クルド労働者党(PKK)」との全面的な戦争を再開させ、クルド人 社会との緊張を高めている。トルコ軍は、トルコ南東部の PKK の拠点やイラク北部の PKK の拠点に 対し、過去 3 カ月、連日攻撃を加えている。シリアのクルドに対する露骨な攻撃はしていないものの、 欧米諸国がシリア・クルドを支援することには反対の姿勢を鮮明にしている。今回テロが起きたクル ド人たちのデモは、こうしたトルコ政府の政策に抗議するためのものであった。 トルコは基本的に対 IS 作戦には消極的だ。「IS を叩く」と言いながら、軍事作戦で攻撃しているの はほとんど PKK だけである。トルコはシリア内戦においては、「アサド政権を打倒すべき」と考えて おり反体制派を支援しているため、反体制派の一部である IS だけを弱体化させることは、トルコの 利益にはならないのである。当然アサド政権を支援して軍事介入をしてきたロシアとも利害は真っ 向からぶつかっている。 エルドアン大統領は、国内においてはクルド勢力の影響力を低下させたいと思っており、シリア情 勢ではアサド政権を弱体化させたいと思っている。そんな中でトルコの首都でクルドを狙った大規 模テロが起きてしまったのだ。エルドアン大統領は苦しい立場に追い込まれている。 このテロを受けて、国内のクルド人たちは、「エルドアンは人殺しだ。エルドアンはテロリストを野放し にしてクルド人を殺そうとしている」として一斉に政府に対する反発を強め、各地で反政府デモを展 開している。エルドアン政権は今回のテロも「IS の仕業」にしそうだが、本来「対 IS 作戦」はクルド対 策のための口実に過ぎなかったので、どうすべきか考えをめぐらしているのかもしれない。

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http://i-sugawara.jp/ 複雑に絡まる国内・国際的なパワーポリティクスの中で、エルドアン大統領がどこに「報復」の矛先 を向けるのか、今後のトルコの動向に注目である。 編集・発行人 菅原 出 発行日:2015 年 10 月 12 日(月)

参照

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