132. ミトコンドリアを介した炎症誘導機構の解明
齊藤 達哉
Key words:自然免疫,炎症,サイトカイン, ミトコンドリア,痛風大阪大学
免疫学フロンティア研究センター
自然免疫学
緒 言
自然免疫は,病原体の構成成分を認識して炎症性サイトカインやI型インターフェロンの産生を誘導することによ り,感染から身を守る役割を担う1).しかしながら,自然免疫には過度に活性化し,炎症性疾患を発症させる“負”の 側面もあることが近年の研究から明らかになっている.自然免疫は,過栄養摂取により蓄積する代謝物に反応して慢性 の炎症を引き起こすため,現代病の代表格といえる生活習慣病の発症要因となる.特に,尿酸塩結晶やコレステロール 結晶などの代謝物により活性化する自然免疫関連受容体である NLRP3 は,炎症性サイトカインである IL-1β/IL-18 の 産生に関わることから,痛風や動脈硬化などの生活習慣病の治療標的として注目されている2). NLRP3 は,シグナル伝達因子 ASC と共に NLRP3 インフラマソームと呼ばれるタンパク質複合体を形成してプロテ アーゼ Caspase-1 を活性化することにより,IL-1β/IL-18 の産生を誘導する(図 1).尿酸塩結晶などの刺激性粒子を貪 食したマクロファージにおいては,リソソームの膜が損傷し,NLRP3 インフラマソームの活性化が誘導される.マク ロファージから産生された IL-1β/IL-18 は,周囲の細胞からのケモカインの産生を促して好中球などのエフェクター 細胞の流入を誘導するため,強い炎症を伴う組織傷害を引き起こす.そこで我々は,NLRP3 インフラマソームの過度 な活性化に起因する炎症性疾患の理解と治療法の開発を進めるために,NLRP3 インフラマソームを阻害する化合物の 同定とその作用機序の解明に取り組んだ. 上原記念生命科学財団研究報告集, 28 (2014)図 1. 尿酸塩結晶による痛風の発症. 関節腔内に蓄積した尿酸塩結晶は,マクロファージなどの自然免疫担当細胞に貪食された際に,NLRP3 インフ ラマソームを介した炎症性サイトカイン IL-1β の産生を誘導する.IL-1β は周囲の細胞を刺激し,転写因子 NF-κB 依存的にケモカインの産生を誘導する.ケモカインは,関節腔内への好中球などのエフェクター細胞の 流入を誘導し,炎症による組織損傷を惹起する.(齊藤達哉ら著 高尿酸血症と痛風 21 : 14-18, 2013 より抜粋・ 改変)
方 法
1.細胞の単離:主な実験には,C57BL/6 マウスの骨髄から分化誘導したマクロファージを用いた.RNA 干渉法の実 験には,J774 マウスマクロファージ細胞株を用いた. 2.NLRP3 インフラマソーム阻害剤の探索:理化学研究所 NPDepo から分与された化合物ライブラリーを用いて, NLRP3 インフラマソームを介した IL-1β の産生を抑制する化合物を同定した.3.Proximity ligation assay:内在性 NLRP3 と内在性 ASC の近接は,Duolink® in situ proximity ligation assay kit
結 果
我々は,カリウムイオンイオノフォアである Nigericin による NLRP3 インフラマソーム活性化を抑制する化合物の 探索を行い,微小管の重合阻害作用を有するコルヒチンを同定した3).興味深いことに,コルヒチンは尿酸塩結晶によ り惹起される痛風の治療に古くから用いられている.また,微小管は,細胞骨格の重要な構成因子であり,細胞形態の 変容・維持において中心的な役割を担うと共に細胞内物資輸送を制御してミトコンドリアや小胞体など様々なオルガネ ラの局在を規定する役割も担う.そこで,微小管およびオルガネラの役割に着目し,コルヒチンが尿酸塩結晶による NLRP3 インフラマソームの活性化を抑制する機序の解明に取り組んだ. マウスのプライマリーマクロファージにおいては,NLRP3 インフラマソームの構成因子である NLRP3 と ASC は, それぞれ小胞体とミトコンドリアの膜上に局在する.未刺激状態のマクロファージでは,小胞体とミトコンドリアは, すなわち NLRP3 と ASC は低頻度で近接している.一方で,尿酸塩結晶で刺激したマクロファージでは,ミトコンド リアの局在が大きく変動して微小管中心方向へと移動・集積する.ミトコンドリアほど大きな変動ではないが,小胞体 に関しても微小管形成中心付近への集積を認める.この局在変化は,小胞体とミトコンドリアが近接する頻度,すなわ ち NLRP3 と ASC の近接する頻度を高める.微小管は,NLRP3 と ASC 間の近接を仲介することにより,インフラマ ソームの活性化を促進する(図2 A,B).この結果に一致するように,コルヒチンは尿酸塩結晶で刺激したマクロフ ァージからの NLRP3 インフラマソームを介した IL-1β の産生を抑制する(図3 A).さらに,コルヒチンは尿酸塩結 晶の腹腔内投与により誘発される急性腹膜炎の症状を緩和する(図3 B). 図 2. 微小管を介した NLRP3 と ASC の近接.(A) コルヒチンは NLRP3 と ASC の近接を阻害する.PLA 法と蛍光染色法によりサンプルを調製した後,共焦 点レーザー顕微鏡で観察.グリーンシグナルは β アクチン,ブルーシグナルは DNA,レッドシグナルは NLRP3 と ASC の近接部位を示している.(B) 微小管に添った部位における NLRP3 と ASC の近接.PLA 法と 蛍光染色法によりサンプルを調製した後,超高解像蛍光顕微鏡で観察.グリーンシグナルは α チューブリン, ブルーシグナルは DNA,レッドシグナルは NLRP3 と ASC の近接部位を示している.(Misawa et al, Nat Immunol, 14 : 454-460, 2013 より抜粋・改変)
図 3. コルヒチンによる NLRP3 インフラマソームを介した IL-1β の産生阻害.
A) マクロファージにおいて,NLRP3 インフラマソーム依存的な IL-1β の産生をコルヒチンは阻害する.尿酸 塩結晶,Nigericin,ATP,シリカは,NLRP3 インフラマソームの活性化を誘導する物質.Flagellin と DNA は,それぞれ NLRC4 インフラマソームと AIM2 インフラマソームの活性化を誘導する物質.IL-1β は,ELISA 法により測定した.B) 尿酸塩結晶の腹腔内投与による急性腹膜炎誘発モデルにおいて,NLRP3 インフラマソー ム依存的な IL-1β の産生をコルヒチンは阻害する.(Misawa et al, Nat Immunol, 14 : 454-460, 2013 より抜粋・ 改変) 細胞骨格を介した細胞内物資輸送は,キネシン,ダイニン,ミオシンといったモータータンパク質により行われる. 微小管中心方向への物資輸送には,ダイニンが関わる.ダイニンに対する特異的阻害剤を用いた解析から,ダイニンが 尿酸塩結晶刺激に応じた NLRP3-ASC 間の近接を仲介することが明らかとなった.ダイニンの阻害剤は,尿酸塩結晶 で刺激したマクロファージからの NLRP3 インフラマソームを介した IL-1β の産生を抑制し,尿酸塩結晶の腹腔内投与 により誘発される急性腹膜炎の症状を緩和する. α チューブリンの翻訳後修飾は,微小管を介した物資輸送に深く関わっている.α チューブリンの様々な翻訳後修 飾の中でもアセチル化は,ダイニン依存的な物資輸送やオルガネラの局在変化を促進する.尿酸塩結晶で刺激したマク ロファージにおいては,アセチル化された α チューブリンの量が顕著に増加する.α チューブリンに対するアセチル 基転移酵素は MEC17 であり,脱アセチル化酵素は SIRT2 である.MEC17 の発現量を RNA 干渉法により減少させる と NLRP3-ASC 間の近接が阻害されることから,アセチル化 α チューブリンは NLRP3 インフラマソームの活性化を 促進すると考えられる.また,SIRT2 の活性を特異的な阻害剤により抑制すると IL-1β の産生が促進される.尿酸塩 結晶で刺激したマクロファージにおいては,SIRT2 の補酵素である Nicotinamide adenine dinucleotide (NAD) の量が 減少していることから,SIRT2 の失活がアセチル化 α チューブリンの蓄積を引き起こし,ミトコンドリアの局在変化 を介して NLRP3-ASC 間の近接を促進すると考えられる.NAD 量の減少は,尿酸塩結晶刺激により損傷したリソソー ムから漏出した内容物が,ミトコンドリアの損傷を惹起することに起因すると予想される.損傷したミトコンドリアか ら産生された活性酸素種は,NLRP3 インフラマソームの活性化に必要ではあるが,微小管を介した NLRP3 と ASC の 近接には関わっていない.
考 察
(要旨の説明図を参照).コルヒチンは NLRP3 インフラマソームの活性化を抑制することにより,尿酸塩結晶に起因す る痛風の炎症症状を緩和すると考えられる.
コルヒチンは,痛風だけでなく,家族性地中海熱やベーチェット病の治療にも用いられている.家族性地中海熱やベ ーチェット病は,Mediterranean fever (MEFV) 遺伝子の変異による当該遺伝子産物のアミノ酸置換に起因し,IL-1β をはじめとした炎症性サイトカインの高産生を伴う炎症性疾患である4,5).また,MEFV の遺伝子変異が炎症性腸疾患 の発症を惹起し,その治療にはコルヒチンが有効であることも最近明らかになっている6).MEFV の遺伝子変異が NLRP3 インフラマソームの過剰な活性化につながるとの報告もなされているが7),これらの炎症性疾患を発症した患 者の自然免疫担当細胞においてミトコンドリアや微小管がどのような状態にあるのかについてはほとんど分かってい ない.今後も NLRP3 インフラマソームの研究に取り組み,生活習慣病に加えて,家族性地中海熱,ベーチェット病や 炎症性腸疾患をはじめとした炎症性疾患の発症要因の解明と効果的な治療法の開発を進めて行きたい.
共同研究者
本研究は,大阪大学免疫学フロンティア研究センターの審良静男教授の研究室(自然免疫学)において行われた.本研 究に関する原著論文の筆頭著者である三澤拓馬氏をはじめとした研究室員の協力に,深く感謝する.また,本研究をご 支援いただいた上原記念生命科学財団に深く感謝する.文 献
1) Kawai, T. & Akira, S. : The roles of TLRs, RLRs and NLRs in pathogen recognition. Int. Immunol., 21 : 317-337, 2009.
2) Strowig, T., Henao-Mejia, J., Elinav, E. & Flavell, R. : Inflammasomes in health and disease. Nature, 481 : 278-286, 2012.
3) Misawa, T., Takahama, M., Kozaki, T., Lee, H., Zou, J., Saitoh, T. & Akira, S. : Microtubule-driven spatial arrangement of mitochondria promotes activation of the NLRP3 inflammasome. Nat. Immunol., 14 : 454-460, 2013.
4) Migita, K., Uehara, R., Nakamura, Y., Yasunami, M., Tsuchiya-Suzuki, A., Yazaki, M., Nakamura, A., Masumoto, J., Yachie, A., Furukawa, H., Ishibashi, H., Ida, H., Yamazaki, K., Kawakami, A. & Agematsu, K. : Familial Mediterranean fever in Japan. Medicine (Baltimore), 91 : 337-343, 2012.
5) Kirino, Y., Zhou, Q., Ishigatsubo, Y., Mizuki, N., Tugal-Tutkun, I., Seyahi, E., Özyazgan, Y., Ugurlu, S., Erer, B., Abaci, N., Ustek, D., Meguro, A., Ueda, A., Takeno, M., Inoko, H., Ombrello, M. J., Satorius, C. L., Maskeri, B., Mullikin, J. C., Sun, H. W., Gutierrez-Cruz, G., Kim, Y., Wilson, A. F., Kastner, D. L., Gül, A. & Remmers, E. F. : Targeted resequencing implicates the familial Mediterranean fever gene MEFV and the toll-like receptor 4 gene TLR4 in Behçet disease. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 110 : 8134-8139, 2013.
6) Arasawa, S., Nakase, H., Ozaki, Y., Uza, N., Matsuura, M. & Chiba, T. : Mediterranean mimicker. Lancet, 380 : 2052, 2012.
7) Omenetti, A., Carta, S., Delfino, L., Martini, A., Gattorno, M. & Rubartelli, A. : Increased NLRP3-dependent interleukin 1β secretion in patients with familial Mediterranean fever: correlation with MEFV genotype. Ann. Rheum. Dis., 73 : 462-469, 2014.