はじめに この総説では,この 10 年間の産業理学療法がたどってきた 道のりを著者の知る限り紹介し,その経験と反省を活かし,産 業理学療法を志す者が現時点で,あるいは近い将来にやるべき ことを記す。 アメリカ,オランダ,オーストラリアなどの諸外国では,理 学療法士(以下,PT)が産業保健分野において,おもに筋骨 格系の障害予防・改善を目的として人間工学・行動科学アプ ローチを主体とした理学療法介入を行い,その成果が国民に認 知されている。翻って本邦の産業理学療法の PT は認知されて いるだろうか。現在,本邦の就業者数は 6,280 万人であり,彼 らの健康を守るために産業医,安全衛生管理者などの産業保健 スタッフが活躍している。法律で企業に雇用義務がある彼らに 対してその義務がない PT が企業から仕事を依頼されるために は我々にしかできないことを提案し実践して,疾病の発生率を 低下させ,それによる休業や医療費を少なくし,そして生産性 をアップさせるという成果をださなくてはならない。 これまでの産業理学療法 10 年前,著者らが産業理学療法をはじめた頃,どこの企業 も産業医も保健師も PT のことを認識していなかった。企業 を相手に仕事をする PT が想像できなかったのである。当時, PT はリハビリテーション医療のひとつの歯車として捉えられ, PT の知識と技術は障害者に適応されるものであり,PT は二 次予防以降にかかわる職種であるといった概念が浸透してい た。そんな中,全国 9 ヵ所の労災病院に勤労者予防医療セン ターが設置され,9 人の PT が積極的に産業理学療法を展開し てきた。 現在,企業における PT の日常業務の内容は,腰痛予防, VDT 障害予防,メタボリックシンドローム予防,メンタルヘ ルス改善の講習会や個別指導,体力測定や健康測定,作業環境 や作業方法そして作業姿勢を評価するための職場巡視などであ る。また,数は少ないが,女性勤労者の女性特有の問題や増え 続ける高齢労働者の雇用延長に絡む安全性の問題などにまで及 んでいる(図 1)。 これまでにかかわった企業から,腰痛で悩む者が減った,健 診のデータが改善したなどと好評を博し,依頼件数も右肩上が りで増えてきた。3 年前の資料となるが,かかわった事業所数 と対象者数は,平成 18 年度 107 事業所,7,704 名であったが, 5 年後の平成 23 年度には 253 事業所,16,074 名と 2 倍以上に 増えていた(図 2)。 現在はその倍以上あると予想している。 依頼が増えてきた理由として,腰痛,VDT 障害そしてメタボ リックシンドロームは高齢化もあいまって高い割合で企業内に 存在していること,これらの専門家である PT が医療機関を離
日本のこれからと理学療法(企業で働く理学療法士)
*
高野賢一郎
**日本のこれからと理学療法
* Industrial Physiotherapy ** 独立行政法人労働者健康福祉機構 関西労災病院治療就労両立支援セ ンター(一般社団法人産業理学療法研究会) (〒 660‒8511 兵庫県尼崎市稲葉荘 3‒1‒69)Kenichiro Takano, PT: Japan Labour Health and Welfare Organization KANSAI ROSAI Hospital Center for Preventive Medicine キーワード:産業理学療法,集団指導,費用対効果 図 1 依頼内容 図 2 介入事業者数と対象者数の推移 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 300 250 200 150 100 50 0 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
れて当該企業に赴き予防に携わるということ,そして介入によ る改善のエビデンスが示されているということが考えられる。 また産業理学療法を世に広げていくには企業へのアプローチ だけでは不十分である。 企業で働く産業医や保健師などを対象としたセミナーや関連 学会で積極的に発表し,産業理学療法の成果を示すことが肝要 である。 先の資料から,5 年間の関連学会への活動成果について, 2012 世界理学療法学会 1 件,日本理学療法学術大会計 35 件, 日本産業衛生学会計 10 件,日本職業・災害医学会計 65 件で あった。発表内容は,メタボ予防のための運動の行動変容に関 するもの,企業における腰痛予防等が主であり,メンタルヘル ス改善の運動効果に関する報告もあった。 これらのセミナーや関連学会への発表・報告,そして産業保 健スタッフとの共同事業を通じて,産業医や保健師,安全衛生 管理者からも認知されるようになった。紆余曲折はあったが, 活動を通していえることは,働く人がいる限り,そこには産業 理学療法が必要ということである。そして PT がかかわる意義 についてまとめると,以下のようになる。 ①目的達成のために産業医など専門職との連携ができる ②疾病や障害を予防・改善する運動指導ができる ③個人や集団に合わせた運動指導ができる ④作業時の動作分析から安全な作業方法の指導ができる ⑤機器導入など作業環境改善の提示ができる ⑥統計的手法を使って介入効果の説明ができる そしてなによりこれらを総合的に実施することができることが 産業保健分野に PT がかかわる意義といえよう。 産業理学療法を展開する方法論 1.マーケティング 地域企業のマーケティングで労働者の作業の内容,傷害の傾 向などを知り,それに応じた予防プログラムを作成し,ネット を通じて広報する。 ・マーケティング PT 自身が産業理学療法を実施したいと願っても,対象とな る企業がどのような業種で,どんな危険があり,労災事故はど れくらいか,傷害予防ができているか,そして労働者の年代, 性別,悩んでいる疾患を知らなければ適切なサービスを提供で きない。アンケート調査でも聴き取り調査でも構わないが,ま ず自身でアポイントを取り,出かけていって話を聞くことが必 要である。できれば作業現場を案内してもらい,作業状況を確 認するとよい。危険な作業姿勢や作業方法がきっと見つかるは ずだ。アポイントの相手に関して,従業員 50 人以上の事業所 (企業の事業を行う施設が存在するところ)には労働安全衛生 管理者(労働者の危険または健康障害を防止するための措置等 の業務を統括管理する者),および産業医をおくことが法律で 義務づけられている。また大きな事業所では保健師,産業看護 師が配置されている。従業員の健康保持に奔走している彼らこ そ我々がアポイントを取るのにふさわしい相手である。 ・ICT の活用(Information communication technology) 産業理学療法の PT はもっと ICT を活用するべきである。(IT と ICT は同義語であるが,ICT は人間相手の場合に使われる。) 今の世の中,ICT なしでは成り立たない。最近の当方への依頼 も ICT であるインターネットの検索で見つけたというケース が増えてきた。ホームページを整備し,自分たちは何者で,な にができるか,企業にどのような効果をもたらすかをわかりや すく示すことが大切である。 ・各種疾病予防プログラムの整備 腰痛,肩こり,メタボリックシンドローム,メンタルヘルス などの予防プログラムをつくり上げなければならない。またこ れらに関連する健康の実態調査・体力測定・講習会・個別指 導・運動実技・作業方法や作業環境の改善指導,各種資料など を単独で,あるいはセットとして整備しておくことが必要であ る。実際には企業の実態や予算に応じてプログラムを組み合わ せて提供していくことになるだろう。それぞれの価格設定も必 要である。 ・企業の作業形態に応じた体操プログラムの作成 職種によって作業の動作は異なり,酷使される部位も異な る。それに応じた体操が必要であろうということで職種別体 操プログラム(図 3)を作成し,事業所の始業時や作業の合間 に DVD やパンフレットの形で提供している。著者が実施した 1,152 名の調査により始業時体操,合間の体操,終業時体操の それぞれが腰痛や VDT 障害,ストレスなど心身の症状を改善 させることがわかった。また体操の定着には,1 回の集団指導 では効果が薄く,体操指導者を育成することが継続のカギとい うことが示された1)。 2.産業理学療法における指導方法 まず産業理学療法の対象となる勤労者のモチベーションは けっして高くないということを認識しておくべきである。治療 現場では,患者は理学療法士の指導に従ってくれるが,企業の 中で,病気でもない勤労者を,いつ発症するともしれない疾病 予防のために従わせるのはけっして簡単なことではない。 ・心理社会学的技法や認知行動療法を利用した指導 民間機関の関東に住む 30 ∼ 69 歳の男女 1,382 名を対象と した調査によると,健康で長生きをしたいと答えた方が平均 84%であり,30 代でも 78%であったと報告している。若い世 図 3 職種別体操プリベンション
代でも健康に関心を寄せているのは間違いない。加えて腰痛や 肩こりはすべての世代で上位を占めており,腰痛や肩こりを起 こしたくない,慢性化させたくないと思っている者は少なくは ないだろう。そんな彼らを指導するのに心理社会学的技法や認 知行動療法が有効である。特に行動変容のステージモデルを利 用した介入方法は学んでおきたいものである。 行動変容ステージモデルとは,活動習慣や習慣を変えたいと いう気持ちで以下に示す段階(ステージ)に分類し,それぞれ に合った考え方や方法でステージアップをめざすことが有効で あるという考えから生まれた枠組みである。行動変容の意欲が どのくらいあるか,行動変容を妨げる障害となっているものは なにか,行動変容を促進するための方法はなにかを把握し,そ れぞれのステージにあった方法で指導するというものである。 行動変容ステージ 前熟考期・・・行動を変えようとまったく思っていない 熟 考 期・・・行動を変えようと思っている 準 備 期・・・行動を少し変えた 実 行 期・・・行動を変えたがその期間が十分でない 維 持 期・・・ 行動を変えて十分な期間が経過して習慣化し ている たとえば,前熟考期と実行期で指導者のかかわり方が同じで あれば,効果的とはいえない。それぞれのステージに応じた介 入方法がある。 またいきなり高い目標を立てても達成は難しく,途中でド ロップアウトするのが目に見えるが,自分自身が十分にできる 行動目標を具体的に 3 つ立て,どれか 1 つを毎日クリアするよ うにすると目標達成しやすく,自分でもできるという自信(セ ルフエフィカシー)が高まり,行動変容が継続する。これを少 しずつステップアップしていく。そして指導者は行動したこと を十分に称賛する。これらは心理学的手法を利用した指導法で あり,ぜひ学んでいただきたい2)。 以下に行動変容を促す心理社会的方法を簡単に示す。 現状がよくないことを理解する→情報提供(認知的アプローチ) 好意をもつ方から誉められる→オペラント強化 減量することを誰かに宣言する→コミットメント 同じ体格の人が運動でやせた→モデリング 運動しやすい服装,運動しやすい環境をつくる→刺激統制法 可能な目標設定→行動形成(スモールステップ) 運動によって改善したことを認知する→無力感の防止 運動したことや体重を記録する→セルフモニタリング ・集団指導 集団指導のテクニックを磨き,集団としての健康度を上げる ことが求められている。より効率的に指導するには集団指導が 有効であるが,個別指導の得意な理学療法士にとって集団を相 手に指導することは頭の痛い話である。 一般に産業保健の世界では,1 人の勤労者の健康度を 100% に近づけるよりも 100 人の勤労者の健康度を 10%でも上げる ことの方が重要とされている(1 人× 100%より 100 人× 10% の方が多い)。 また個別指導を 20 分で 8 時間実施した場合,1 日 24 人,1 ヵ 月(20 日)480 名,1 年間 5,760 名であるのに対し,集団指導 では,指導を 90 分程,1 日何人でも(例:100 名),1 ヵ月(20 日)2,000 名,1 年間 24,000 名と個別指導の 4 倍にもなる。 集団だから,指導内容が理解されづらいという声もあるだろ うが,多くの文献から集団指導の方が個別指導より体重や生 化学データの改善,運動の行動変容が起きると報告されてい る3‒6)。 特に日本人の特性として,集団親和的,集団内では歩調を合 わせて行動する,ルールからはみ出ないように終始気を使うと されている。つまり日本人は集団指導に向いているといえるの である。したがって産業理学療法で成功するには集団を動かす 術を身につけ,磨かなくてはならない。これはけっして難しい ことではない。これまでに学ぶ機会のなかったプレゼンテー ションの技術や人を動かす心理学の基礎を学び,理学療法をわ かりやすく伝えればよいだけのことである。 ・指導における ICT の活用 指導においても ICT を使った理学療法を展開できるのでは ないだろうか。50 代,60 代のネット利用率は高く,今後,国 民のネット利用率は 100%に近づく。PT がこれを利用しない 手はない。スマホのアプリ制作にもかかわることができれば理 学療法の幅も広がるだろう。餅は餅屋,我々にない知恵がある 専門業者と連携してサービスをつくっていくのもよいだろう。 ・費用対効果を考える 今の時代,企業に財布を開かせるのは簡単なことではない。 費用対効果を示さないと企業の事務方は動かない。厚生労働省 が進める「データヘルス計画」では,膨大なレセプトデータや 健康診断のデータを活用して,健康管理を進めようとしてい る。これを活用して産業理学療法の介入効果を貨幣価値に直し て提示できれば企業,健康保険組合の事務方の財布は緩むかも しれない。一般に病気で医療機関を受診すると本人と健康保険 組合が医療費を負担するが,病気の従業員が多ければその額は けっして小さくない。また腰痛やメタボリックシンドロームな どがあれば労働者の生産性は低下する。つまり単位時間に生み だす富が減るのである。そのような労働者が何十人,何百人, 何千人といて,その状態が続けば,富の損金は数千万円以上に も及ぶことがある。PT の使命として労働者の辛さを軽減させ, 健康度をあげていくことは第一義であるが,企業の生産性を高 めることに寄与することも大きな使命である。そしてそれが 我々の収益につながるのである。 今後,レセプトデータは集団ごとにしか開示されないだろう が,健診データも含めて数は膨大であり,費用対効果を調査す るうえでエビデンスの高い介入研究も可能となるだろう。 そして一番大切なことは費用対効果を示したうえで,サービ スの対価を生みだすことである。無償のサービスだけでは産業 理学療法は成り立たないのである。しかし金額交渉,契約,会 計等の手続きは PT の苦手なところであり,専門知識のある事 務方がほしいところである。 産業理学療法の問題点 現状の問題点は以下のとおりである。 ①この分野で活動する理学療法士が少ないこと ②関連学会への報告数が多くないこと
③産業理学療法の認知が十分とはいえないこと 今後,産業理学療法の実践・研究を推進すること,他の産業 保健スタッフと連携した活動や研究を実施すること,そしてこ の分野にかかわる理学療法士を増やすことで産業理学療法のエ ビデンスを蓄積し,専門性を高めると同時に理学療法士の社会 的活動基盤の確立,他の産業保健スタッフとの連携強化を行う ことができるのではないかと期待している。これらの活動を通 じて本邦の勤労者がより健康で快適に働けることを願ってい る7‒9)。 今後の日本と産業理学療法 今,日本は「健康寿命延伸」の方向へ大きく舵を切ろうとし ている。公的保険では患者を治療することが主であり,医療・ 介護費用を抑制することは困難である。国民の生活の質を向上 させ,医療・介護費用の増大を抑制するためには,病気になら ない・改善させる・再発しないという切り口での公的保険外の 医療・介護周辺サービス産業を創設することが必要である。政 府は現在の慢性期医療を中心とした 3 次予防から疾病予防とし ての 1 次予防,重症化予防としての 2 次予防に大胆なシフトを しようとしている。 これにより年間 1 兆円の医療費削減効果が見こまれている。 平成 25(2013)年 6 月 14 日に閣議決定されたアベノミクスの 第 3 の矢である成長戦略に国民の健康寿命の延伸(ヘルスケア 関連市場の創造)が示された。成果目標は,健康増進(疾病予 防),介護関連産業の市場規模を 2020 年に 10 兆円(現状 4 兆円) に拡大し,医薬品・医療機器・再生医療の医療関連産業の市場 規模を 2020 年に 16 兆円(現状,12 兆円)に拡大するという ものである。これに呼応して総務省から「スマートプラチナ社 会構築事業」,厚生労働省から「データヘルス計画」,そして経 済産業省から「健康寿命延伸産業創出推進事業」とそれぞれの 省から新規産業創出の動きがある。 ・一般社団法人産業理学療法研究会の設立 企業を舞台に活躍する PT がこの好機に指をくわえて見てい るだけでは他の職種に仕事を奪われてしまう。平成 23(2011) 年に我々は理学療法士が企業を舞台に活躍できるようになるた めの研究会を発足した。この会では,産業保健に関する情報交 換,相互理解のためのメーリングリストの整備,自由に使える 指導用ファイルの共有,知識と自信をアップさせる研修会,大 規模な産業理学療法の共同研究や共同事業,海外の文献の紹介 などを提供している。 産業理学療法の確立のために以下の方針の基,活動をして いる。 1. 産業保健分野の理学療法効果のエビデンスを提示(関連 学会への積極的な発表) 2. 関連職種,大学や病院,理学療法士協会と連携(情報交換, 大規模研究など) 3.費用対効果を示し必要十分で安定した収入の定着 4.産業保健分野の教育と理学療法士協会の認定制度 5. 産業理学療法士制度の法制化(事業所への理学療法士配 置・産業理学療法の開業) ・研究会による共同研究 平成 25 年にこの会を活用して,経済産業省の研究事業に勤 労者の腰痛予防を目的として「いつでもどこでもフィジカルコ ンサルティング」という名称の事業で応募し,採択された。内 容は,理学療法士が企業に出向いて,最新のコンセプトに基づ いた腰痛予防の講演を行い,その後,研究会に在籍する全国の 意欲ある PT が ICT システムを活用して個別指導を実施する というものである。半年間の取り組みの結果,新規腰痛発生が 有意に低下し,痛みの程度も有意に減少した。この研究事業の 報告会では多くの企業,健康保険組合,政府機関から産業理学 療法についての質問があり,産業理学療法への関心の高さがう かがえた。今回の研究では腰痛予防をテーマとしたが,このシ ステムを使えば,他にも VDT 障害,メタボリックシンドロー ムなどの予防に応用できるであろうし,骨関節疾患,心疾患, DM,中枢性疾患などのリハ後の勤労者の復職支援などにも活 用可能だと考えている。また産休で家庭にいるお母さん PT で も,定年退職した PT でも指導することができる。英語・中国 語など外国語に堪能であれば,海外へも展開できる。 今後とも共同研究,協働事業を進めていく予定である。興味 のある方はご参加いただきたい。産業理学療法研究会(http:// sangyopt.kenkyuukai.jp/special/?id=10048) ・産業理学療法部門と日本予防理学療法学会 平成 26(2014)年,日本理学療法士協会に産業理学療法部 門ができた。日本の産業理学療法分野の研究発表や産業理学療 法事業を推進していく部門であり,すでに多くの理学療法士が 籍をおいている。またこれに先んじて予防理学療法学会もでき た。これは 3 次予防から 1 次予防 2 次予防まで予防活動を広く 扱う学会であり,職種を問わず,多くの研究者が集まっている。 今後,乳幼児から高齢者まで年齢を問わず疾病予防,健康寿命 を長くするための方策などの研究発表や討論がなされることだ ろう。 今後,このふたつの学術団体の動向に注意を払っていただき たい。これからの仕事に役立つはずである。そしてぜひ成果を 発表してほしい。 自身でできる産業理学療法を探す 今できる産業理学療法は自分自身の周りにある。一番近い同 僚への腰痛予防として毎日のストレッチの実践はいかがだろう か。ストレッチの大切さをプレゼンでアピールして,職場に根 づかせるのだ。次に近い職場,たとえば事務系の職員,看護介 護系の職員,彼らは腰痛で悩んでいることが多い。PC 操作を される方は VDT 障害に悩んでいる。作業の方法や作業姿勢, イスや机などの作業環境に問題がないだろうか,人間の動作を 評価する理学療法士の腕の見せどころである。看護介護系の方 の腰痛の原因の 1 番は移乗動作である。現場では腰に負担の大 きい移乗動作をしている方をよく見かける。PT の得意分野の 移乗動作の指導をするだけでかなり腰の負担が軽くなるようで ある。 介入効果を知るために,前後でなんらかの評価をすることが 大切である。そしてそれを勤務している施設の安全衛生委員会 で発表させていただこう。一連の産業理学療法を経験したら,
次は近隣の事業所を探そう。施設に出入りの清掃の会社,タク シー会社,バス会社などは比較的協力的かもしれない。このよ うに産業理学療法を成功させるには自分自身を高め,周りを納 得させる準備が必要である。 その先は,対価を得ることも目的に入れた介入となるだろう が,これは所属施設ときちんと話をすることが必要であろう。 すでに介護事業などで起業している理学療法士にはスケ ジュールが管理しやすくチャンスが多いかもしれない。本業に 影響しない空いた時間に産業理学療法を実施できるであろう し,対価も得やすいのではないだろうか。 志を同じくする人脈をつくる 日本全国,働く環境は違っても,産業理学療法を志す熱い理 学療法士が増えてきた。同じ志をもった理学療法士が連携すれ ば,大きな仕事,有意義な仕事,エビデンスの高い研究ができ る。SNS など情報を伝える媒体が増え,地理的・時間的な壁を 乗り越え,連携しやすい環境である。また,企業により勤労者 の数は様々だが,多くの人数を相手にするのにはひとりの理学 療法士だけでは困難かもしれない。その際に地域に産業理学療 法のグループがあるとそのような問題もクリアできるかもしれ ない。 文 献
1) Takano K: Effect of the preventive exercises according to the actual situation and the type of job of stiff shoulder and the low back pain according to the type of job in the worker. JJOMT. 2014; 62: 32‒37.
2) Marcus BH,Forsyth LH:行動科学を活かした身体活動・運動支 援─活動的なライフスタイルへの動機付け.下光輝一,中村好男, 他(監訳),大修館書店,東京,2006.
3) Yates T, Davies M, et al.: Eff ectiveness of a pragmatic education program designed to promote walking activity in individuals with impaired glucose tolerance: a randomized controlled trial. Diabetes Care. 2009; 32: 1404‒1410.
4) Scain SF, Friedman R, et al.: A structured educational program improves metabolic control in patients with type 2 diabetes: a randomized controlled trial. Diabetes Educ. 2009; 35: 603‒611. 5) Renjilian DA, Perri MG, et al.: Individual versus group therapy
for obesity: effects of matching participants to their treatment preferences. J Consult Clin Psychol. 2001; 69(4): 717‒721. 6) Trento M, Gamba S, et al.: ROMEO Investigators. Rethink
Organization to iMprove Education and Outcomes (ROMEO): a multicenter randomized trial of lifestyle intervention by group care to manage type 2 diabetes. Diabetes Care. 2010; 33: 745‒757. 7) 高野賢一郎:ヘルスプロフェッションとしての理学療法士の可能 性─勤労者の健康を守る産業保健分野への関わり─.理学療法学. 2012; 39: 474‒476. 8) 高野賢一郎:新しい職域の中でいかに理学療法アプローチを確立 するか─理学療法士の専門性とは 産業保健分野.理学療法学. 2011; 38: 229‒230. 9) 高野賢一郎:産業保健領域における予防と理学療法.理学療法 ジャーナル.2013; 47; 288‒294, 1431‒1438.