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ツノメガニ(スナガニ科)の日本海沿岸からの初記録

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Academic year: 2021

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(1)

Cαrcinological Socie砂0 1Japan

ツノメガニ( スナガニ科) の日本海沿岸からの初記録

A n e w record o f the tropical ghost c r a b

O c y p o d e ceratophthalma (Ocypodidae) f r o m the J a p a n S e a coast o f the H o n s h u Is.

高田宜武

l

ヘ 和田恵次

2

Yoshitake T a k a d a a n d Keiji W a d a

ABSTRACT: A specimen of the仕opica1 ghost crab, O cypode

ceratophthalma (Ocypodidae) was obtained on a sandy shore at Kashiwazaki, Niigata Prefecture. This is the first record of the species企o m the Japan Sea coast of the Honshu Is1and, Japan. Eco10gica1 significance of the occ町Tence of this

tropica1 species was discussed in the 1ight of the recent climate changes on the Japan Sea.

K e y Words: geogTaphic distribution, range extension, sandy beach, recruitment

. はじめに

ツノメガニ Ocypode ceratophthalma (P叫las,1772) はインドー太平洋地域に広く分布するスナガニ属の 一種である( 酒井, 1976) 日本沿岸において知ら れているスナガニ属 O cypode はツノメガニ以外に4 種( スナガニ O . stimpsoni,ナンヨウスナガニ0 . sinensis,ミナミスナガニO .cordimanus,ホンコン スナガニ 0. mortoni) あり( 淀ら, 2006),いずれ も砂浜の汀線域より上部に巣穴を掘って生息する そのうち,スナガニが温帯系稜,他は亜熱帯・熱帯 性の南方系種と見なされている( 淀ら, 2006;真野 ら, 2008) 1 ( 独) 水産総合研究センタ 一日本海区水産研究所 〒95ト8121 新潟県新潟市中央区水道町 1-5939-22 Japan Sea Nationa1 Fisheries Research Institute, Fisheries R esearch Agency, 卜5939-22 Suido-cho, Niigata 951-8121, Japan

E-mai1: yotak@affrc目go・.jp

奈良女子大学理学部

〒630-8506 奈良県奈良市北魚屋東町

Facu1ty of Science, Nara Women's University, Ki ta-uoyahigashi, Nara 630-8506, Japan

( 受付: 2010 年 11月26, 受理 2011 年3日 月16日) 近年,本州太平洋岸では南方系のスナガニ類の分 布が北上する可能性が示唆されている( 渡部 ・伊 藤, 2001 ). 和歌山県和歌川河 口の砂浜では温帯性 のスナガニとともに,南方系のツノメガニおよびナ ンヨウスナガニの出現が確認されている( 淀ら, 2006) . 一方,日本海産カニ類の出現記録をまとめ た本尾 (2003) によると,日本海側に分布するスナ ガニ属は 2 種で,スナガニは秋田県以南に普通に分 布し,ミナミスナガニの記録が富山県以南にある . しかしミナミスナガニの記録は古く (1960 年代以 前) ,ツノメガニ 等の他のスナガニ類について近年 の調査記録がないため,太平洋側と同様の南方系種 の分布北上の可能性があるのかどうか特定できな い そこで,新潟県内 2 カ所の砂浜においてスナガ ニ類の生息調査を行 ったところ,スナガニの複数個 体とともにツノメガニ l 個体を確認した. これは新 潟県内はもとより,本州・旧本海側での初記録となる ため,ここに報告する. なお,本報告の基となるツ ノメガニ の標本は大阪市立自然史博物館に保管して いる ( O M N H -A r8525).

降 互豆

調査は新潟県内の 2 カ所の砂浜,新潟市中央区関 屋の関屋浜海水浴場 (37055'16" N, 139001'18"E) よ び 柏 崎 市 西 港 町 の 柏 崎 中 央 海 岸 (370 22'22"N, 1380 31'48"E) で、行った (Figs. 1, 2) 柏崎中央海岸 は柏崎市内を流下する鵜

)11

の河口東側に位置し,突 堤と導流堤に固まれた閉鎖的な環境にある. 関屋浜 は信濃

)11

から分岐した関屋分水の河口東側にあり . 突堤と離岸堤に固まれている ともにリクリエー ションや養浜作業等の人間による活動の影響の強い

5

(2)

高邸定武・和由恵次

4

Kashiwazaki-chuou-kaigan

4タ

Fig. 1. Location of the sampling points.

Fig. 2. Sandy shor巴 at Kashiwazaki-chuou-kaigan in

Niigata Prefecture 浜である. 関屋浜では 20 10 年 10 月 19 日と 22 日の 2回,柏崎中央海岸では同年 10 月 20 日のl回,い ずれも正午過ぎの約4 0分 間 に 採 集 を 行 っ た 採 集 は,砂浜の打ち上げ帯の陸側を歩きながら目視にて 巣穴を探索し巣穴を確認したら移植ごてにて最大 約 30c m まで砂を掘 り起こし,スナガニ属のカニを 採集した。採集したカニは 70% エチルアルコール で固定した後,酒井( 1976) および渡部 (1976) を 参考に種の同定を行った . 珍 結果と考察 柏崎中央海岸で 20 日に採集されたのは7 個体で あり,そのうち'1個体がツノメガニ,残りの6個体 がスナガニ( 甲幅 6.45 - 11.20 m m) と同定された ツノメガニと同定された個体は,甲幅 10.15m mの 6 雌個体 (Fig. 3) であった. 渡部( 1976) の記載通 り,今回ツノメガニと同定された個体は,同時に採 集されたスナガニと比較して ,甲面の館、域の隆起が 弱く,はさみ脚の外形がより細長く (Fig. 4 A, B ), はさみ脚内面の穎粒列が下半分でより密に並ぶこと (Fig. 4C, 0 ),腹節の尾節の外形がより 三角形に近 い (Fig.4 E, F ),という形態的特徴より本種と確認 できた. 一方,関屋浜では 19 日に 6 個体( 甲幅 5.90- 8.80 m m), 22 日に 7 個 体 ( 甲幅 7.20- 9.55 m m) のスナガニ類が採集されたが,いずれもス ナ ガニであった. 淀ら (2006) の報告に よると,和歌山のツノメガ ニ個体群は, 6月- 8月にはその年に定着した小型 個体のみからなり, 10 月には甲幅 2 3 m m にまで成 長する個体が認められている 高知では夏期に定着 した個体が 10 月には甲幅 25m mまで成長したと推 測されている( 真野ら, 2008). これらの事例から, 柏崎で採集されたツノメガニは今年の夏期に加入し た個体だと思われる . 本尾 (2003) は,山口県以北の日本海側各県でツ ノメガニの出現を記録していない. 和田 (2009) は 鳥取県の砂浜にてスナガニ類の巣穴の分布について 報告したが,巣穴の宿主はスナガニだと見なしてい る このように,今回発見されたツノメカーニの加入 源となる親個体群は,本州、旧本海沿岸よりも南方に 存在する可能性がある 現在のところ,採集された ツノメガニのサイズから判断して,琉球列島と鹿児 島がツノメガニの越冬可能な地域だと考えられる ( 和田恵次ら,未発表) ツノメガニの幼生の浮遊期 間は知られていないが,同属のスナガニのゾエア期 が 25 日間( 飼育水温 23 .6- 2 7目5't) (寺田, 1979), および 27 日間( 水温不明) (福田, 1980) また, 種は不明ながらスナガニ属のメガロパが,約 lヶ月 の飼育で稚ガニとなる( 水温不明) (村岡, 1972) という報告がある 単純に合計した約2ヶ月間をツ ノメガニの浮遊期間だと見なした場合,対馬暖流は 対馬海峡域から約 lヶ月で新潟沖まで到達する( 長 泊, 2000) ので,鹿児島付近が幼生の供給源であっ た可能性は否定できない 2010 年 8 月 上 旬 の 新 潟 沿 岸 の 表 面 水 温 は 27- 28' t で平年よりやや 高め( 日本海区水産研究 所, 2010) であったので,南方系種であるツノメガ

(3)

ニの加入が,今年の夏期の高水温に対応する一過性

の現象だと考えることは可能である. し か し 日 本

海では長期的な水温のモニタリングによって. 1980

Fig.3. Ocypode cera仰 hthalma, female (0附 剖

-A r8525) sampled on the sandy shore at Kashiw a-zaki-chuou-kaigan

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年代末と 1990 年代末に段階的な水温の上昇傾向が 認められ( 加藤ら. 2006). それに対応して,水産 対象魚種の種組成が変化( 田. 20 10) し 新 た に 記 録される南方系甲殻類の種数が増加( 本尾・本間, 2008) している. 従って,今回のツノメガニの記録 は南方系種の分布が北上しつつある傾向の一例とみ なすことができる 汀線上部に生息する南方系種にとって,冬期の低 温と波浪は過酷な環境である ( 長沼. 2000). 比較 的温暖で、あ った 2008 年- 2 0 0 9 年冬期 (12 月から 3 月まで) の柏崎の積算温度を気象庁ホームページよ り求めると 8 2 t であり,真野ら (2008) が高知で 越冬個体の確認できなかった年の 3 8 2 t より遥かに 低い. 柏崎のツノメガニはおそらく冬期の環境に耐 えられず,越冬は不可能であろう.

1 m m : A

B

E

F

1 m m : C

0

F ig.4. A, C, E, Ocypode ceratophthalma, female; B, 0, F, 0. stimpsoni, female: A, B, chela, outer view; C, 0, granular ridge on palm o f m勾or chela; E, F, abdomen and telson.

(4)

E

梅田宜武・和田恵次

今回,日本海側でのツノメガニの加入が,本州日 本海側の中部にあたる柏崎にて初めて確認された 柏崎よりも西部の日本海沿岸の砂浜は,幼生供給源 となる親個体群により近いと考えられるので,より 高頻度に,より高密度の加入が起こっている可能性 がある 加入に成功したツノメガニは,たとえ越冬 が不可能であっても,生存中に摂餌や巣穴の掘削な どの活動をおこなう. ツノメガニは胃内容に昆虫 類・ヨコエピ類・十脚類等が認められるため( 真野 ら. 2008). 砂浜生態系内の高次捕食者と位置づけ られている 同所的に分布するスナガニ( 淀ら, 2006) や ナ ミ ノ コ ガ イ 類 (Smith,1975 ) の個 体 群 に,捕食者として影響を与えると考えられている これまでツノメガニの本州での記録は太平洋岸に限 られていたが,今後は日本海沿岸においても本種の 分布の変化 に注視してゆく必要がある.

隆 宣

J

本研究の遂行にあたり,日本海甲殻類研究会の本 尾 洋博士には,スナガニ類の日本海側での 出現記 録について貴重な情報を頂いた なお,著者の一人 ( 高田) は科研費( 基盤 (C ) 課 題 番 号 225 10252) による援助を受けた

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一 一

福 田 靖 . 1980 スナガニOcypode stimpsoni Ortrnann

の幼生 C alanus, 7: 1-8. 加 藤 修 ・ 中 川倫寿・松井繁明・山田東也・渡辺達 郎. 2006. 沿岸 ・沖合定線観測デー タから示さ れ 8

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糊 '20{創 刊 } る日本海及び対馬海峡における水温の長期変動. 沿岸海洋研究. 44: 19-24. 真 野 泉 ・堂

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甫 旭 ・大森浩 二 -柳沢康信. 2008.四 国太平洋岸に共存するスナガニ属3種の季節的な 分布パターンおよび食性. 日本ベントス学会誌, 63: 2-10 本 尾 洋 . 2003 .日本海産カニ類一1. 既 知 種 の と 海

i

羊ふれあいセンター研究報告. 9: 55-68. 本尾 洋・本間義治. 2008 日本海で近年採捕された 暖流系のいわゆる希少大型甲殻類 のと海洋ふれ あいセンター研究報告. 14・28-42 村岡健作. 197 2 . スナガニ科Ocypoda属のメガロパに ついて神奈川県立博物館研究報告 自然科学, 5: 11-19. 長沼光亮. 2000. 生物の生息環境としての日本海. 日 本海区水産研究所研究報告. 50・卜42 日本海区水産研究所. 2010.日本海漁場海況速報No. 660 (2010年8 月上旬) 日本海区水産研究所,新 潟. 10pp 酒 井 恒 . 1976 日本産蟹類講談社,東京 461 pp

Smith, D. A. S., 1975. Polymorphism and selective predation inDon即 faba Gmelin (Bivalvia: Tellinacea). Joumal of

Experimental Marine Biology and Ecology, 17 205-2 19. 寺田正之. 1979.スナガニ科5種の後期発生について. 動物学雑誌. 88: 57-72. 田永軍. 2010 日本海における漁業資源の長期変動と 環境要因一特に 1970年代の変化 について一. 月 刊海洋. 42: 437-448 和田年史.2009.鳥取県の砂浜海岸におけるスナガニ の分布 鳥取県立博物館研究報告. 46: 1-7 渡 部 孟 . 1976. 相模 湾産O cypode属 に つ い て Re-searches on Crustacea, 7: 170- 177 渡部哲也・伊藤 誠.2001. ツノメガニの大阪湾およ び,瀬戸内海東部における出現記録南紀生物, 43: 43-44. 淀 真 理 - 渡 部 哲 也 中 西 タ 香 酒 野 光 世 - 木邑聡 美 ・野元彰人・和田恵次. 2006 南方系種を含む スナガニ属3種の和歌 山市 における生息状況 2000-2003年. 日本ベン トス学会誌. 61: 2-7.

Fig. 2.  Sandy  shor 巴 at Kashiwazaki‑chuou‑kaigan  in  Niigata Prefecture   浜である. 関屋浜では 20 10 年 10 月 19 日と 22 日の 2 回,柏崎中央海岸では同年 10 月 20 日の l 回,い ずれも正午過ぎの約 4 0 分 間 に 採 集 を 行 っ た 採 集 は,砂浜の打ち上げ帯の陸側を歩きながら目視にて 巣穴を探索し巣穴を確認したら移植ごてにて最大 約 30 c m まで砂を掘 り起こし,スナガニ属のカ

参照

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