C A N C E R 13 (2004)
,
p.35-38滋賀県水産試験場の移入当初の北米産ザリガニ
川井唯史・ 宮崎光二
た北米産ザ リガニPacifastacus leniusculus
は,北 海道では分布を広げているが (蛭田, 1986),本 州ではわずかに滋賀 県淡海溜に生存するだ けであ る. この北米産ザリガニの分類学上の扱いは研究者 によ って異なり ,上田 (1961) や三宅 (1982) は 北海道に生息するものをウチダザ リガニ (三宅,1957)
P. trowbridgii,
淡海溜に生息するものをタ ンカイザリガニ (三 宅,1961)P. leniusculus
とし ている . 蛭田 (1986) は両種を形態で区別できな いとしながら, Mil1
er & Van Hyning (1970) に準 じてウチダザ リガニP. leniusculus trowbridgii
をタ ンカイザ リガニP. leniusculus leniusculus
の亜種と している . しかしわが国に分布するP. leniusculus
は,形態からは亜種に区分することが困難である (浜野ら, 1992; 川井ら, 2002a). 上田 (1961) は滋賀 ・鳥取 ・島根県水産試験場 が所蔵する輸入当時の北米産ザリガニの標本を調 べている. だが北海道に移入された直後の北米産 ザ リガニの標本は北海道大学等の研究機関に は残 されていない (川井 ら, 2002b). 移入当 初 の北 米産ザ リガニの形態に 関する情報はきわめて少な いので,滋賀県水産試験場の未発表資料について 報告する.調査方法
1971年 2月
15 日,彦根市松原町にあ った旧滋賀 県水産試験場で,宮崎が標本及び資料を調査して 写真撮影と計測を行ったTadashi K A W A I
&
Koji MIYAZAKI: Notes on thesig-nal crayfish,
Pacifastacus leniusculus
, in甘oduced toShiga Prefecture in 1926
結果と考察
液浸標本は「原種J
(日付は 無記入 ) と記され た雌 (抱卵) と雄各1
個体である. 標本はフォ ル マリンによ って石灰質が溶けて由 化 し, 雌は尖角 が欠落していた (図1 ). 標本の計測値 (単位m m) は,雄の全長 (尖角 の先端から尾節後端まで) : 141,全頭胸甲長 (尖 図1 滋賀県水産試験場所蔵の「原種J
の北米産ザリ ガニ A 雄. B :雌 (腹函)36 滋賀県水産試験場の移入当初の北米産ザ、リガニ 角の先端から頭胸甲正中線後端まで ) : 76,頭胸 甲長( [ 浪商後縁頭胸甲上から正中線背部中央後端 まで) : 54,頭胸甲幅 :36, 21,偲間域幅: 11,腹節幅 :32,雌の頭胸 甲長: 51,頭胸甲幅 :33,偲問域長 :21, 9, 腹節幅・
40
であった この個体が上田 (1961 : 138) の調べた「米国 より輸入当時の原種標本: 1 (抱卵 )(1)J
である ことは ,雄の全長が上田の計測値と 一致すること, 雌が抱卵していることから明らかである. 三宅 (1982 : 73)はタ ンカ イザリガニについて, 「輸入当時は右図に示した形であったが,今回採 取の標本は前種ウチダザリガニと区別が困難なく らいよく似ている j と, その形態が輸入後数十 年という短期間で変化 したともとれる記述をして いる. 大型甲殻類では数十年で分類のK e yとな 図2r
クローフィ ッシ体形調査J
(一部) る形質が変化するとは考えられず,北米産ザリガ ニの形態、が変化したことを立証するには,移入当 初と現在の標本をできるだけ多く比較観察するこ とが必要である. したがってこの標本は本種の形 態変化 の有無を検証するための貴重な材料である が,個体変異を考慮すると少数の移入当初標本か ら,種の識別に用いる形質について確実な情報を 得るのは困難である . 1926 (大正15) 年10月30日 の 「 ク ロ ー フ イ ツ シ 体形調査」は,雄5尾と雌7尾の全長・体重を測 定した記録である (図2 ). また体形調査の 一部 とみ られる雄背面の写生図には測定部位が示さ れ,雌雄各1
尾の全長と体重が記されている (図 3 ) . 水産増殖調査書 (農林省水産局, 1927) によれ ば,滋賀県水産試験場は1926年10月17日に到着し図3 北 米 産 ザ リ ガ ニPaci俗stacus leniusculus (♂) の写生図
37 長と体重は体形調査 の個体 よ り明らかに大きく, 雄の背面図は通常より大型の個体を選んで写生し たものと考えられる . 1926年に移入された北米 産 ザ リガニはオレゴン 州 ポー トランド原産で,長野県では20尾 の平均で 全 長11.8 c m, 体重5 2 g, 東 京 府 で は 体 重 の 最 小 7.0g,最 大134.0 g,平 均53.0 g,新 潟 県 で は 全 長 が 最 小3.3
寸
(10.0cm), 最 大4.4寸
(13.3 c m), 平均4.0寸 (12.1 c m),体重の最小6.5匁 (24.4 g), 最 大20.0匁 (75.0 g),平均12.4匁 (46.5g) で (農 林 省 水産局, 1927), 他 府 県 の 記 録 も 滋 賀 県 の 場 合とほぼ同じである. これらの記録から, 1926年 に移入された北米産ザリガニの一般的な体サイズ は概ね1 2 c m前後と思われる .P.
leniusculus
の原産地オ レゴンでは 全 長3.5- 4 インチ (8.9- 10.2 c m, 1イ ンチ= 2.54cmとして 換 算) を“、s m all",4インチ (仕10.7 c m)以上を“"la訂rg群e 5インチ (1ロ
2.7 c m) 以 上 は “"jumbo" と呼んでい る. 1958年4月 のTualatinRiverでの調査では, 食 用 と し て 商 業 用 に 捕 獲さ れたザリ ガニは 全 長 90- 1 4 0 m mの個体であり ,“small" の モ ー ド は 1 0 4 m m, “large" の モ ー ド は1 1 9 m mで あ っ た(Miller
&
Van Hyning, 1970).上記の滋賀県水産試験場などの記録は, 1926年 にわが国へ移入された北米産ザリガニもそのほと ん ど が全 長90- 1 4 0 m mの 個 体 で あ っ た こ と を 示 しており,商業目的で捕獲されたサイズが輸出さ れてい たことは明らかである. 川井唯史・宮崎光二 た北米 産 ザリガニ (150尾 ) を, 10月30日に石寺
内湖
(65尾 ),11月4日に淡海溜(30尾) ,翌1927 (昭 和2)年2月10日に大正溜(25尾) へ放流している. しかし淡海溜等へ放、流した個体の体サイズについ ては,一 次資料 (滋賀県水産試験場, 1926) には 述べ られていない. 体形調査は「大正十五年十月 三十 日 (本場供試用分)J とあるだけで (図2 ), 放流した個体を測定したのか,試験場で継続飼育 した個体を測定したのかは不明であるが,いずれ にせよこのデータから淡海溜へ放流した個体の体 サイズを推測 できる貴重な資料である . 体形調査と写生図に記された全長と体重 の 計測 値を 表1に 示 し た 1寸= 3.0 3 c m,1 匁 =3.75gと すれば,体形調査の雄は平均全長10.7 c m (10.0 c m - 11.7 c m),平均体重40.5 g (37.5 g-56.3 g ),雌 は平均全 長11.3 c m (9.7cm- 12.6cm),平均体重 48.5 g (30.0 g - 63.8 g ) となる. 写生図に記された 雌雄の全 長 ・体重を体形調査の最大個体と 比べる と,雄では3.5 c m . 56.2 g上回り ,雌 では 1.0 c m ' 20.6g上 回 っている( 表1 ). 写生図に記された全 北米産ザリガニの全長と体重 「クローフィ ッシ体形調査J
のデータを示した 表1 体重 (g)*
1 台帳1枚目刊に記述 考 備 全長(cm)*1辞
調査に協力いただいた元滋賀県水産試験場の故 伊東正夫氏, 未発表資料の公表にご理解いただい た滋賀県水産試験場の的場 洋次長 に深謝いたし ます.謝
-y f y y y y f f f f f f f r 11.8 10.3 11.5 12.6 11.7 10.01
1.5
10.9 10.8 10.3 11.2 9.7 性 。 ? 明 。 。 ナ 。 T 明 。 明 。 。 十 。 ? 0 十 明 。 例 。 。 ? i告之, 1992. 摩 甲殻類の研究, . 1台帳原本で用いら れた単位である寸を3.03cm,匁を3.75g に換算 して示した・
2台帳の一部は図1,添付図は図2に示した. 浜 野 龍 夫 ・ 林 健一 ・川井唯史・林 周湖に分布するザリガニについて. 21: 73-87. 姪団員一,1986. 北海道の大型ザリガニ. 採集と飼育, 48: 241-244. 上回常一,1961. 日本淡水エピ類の研究 pp.137-155, 園山書庖,松江. 川l井唯史・中田和義 ・小林弥吉,2002a. 日本におけ る 参考文献 ♂平均値 ♂範囲 早平均値 ♀範囲 42.8 37.5 - 56.3 48.5 30.0-63.8 10.7 10.0 - 11.7 11.3 9.7 - 12.6 52.5 37.5 48.8 63.8 56.3 37.5 56.3 46.9 41.3 37.5 45.0 30.0 添付図叫に記述 112.5 84.4 15.2 13.6 ♂ ♀38
滋賀県水産試験場の移入当初の北米産ザリガニ 北米産ザリガニ類 ( タンカイザ リガニとウチダザリ ガニ) の分類および移入状況に関する考察. 青森自 然誌研究, 7: 59-71. 川井口佐史 ・西村士郎・中田和義・小林弥吉, 2002b.ザリ ガニ類( ウチダザリガニ,メキシコザリガニ,マロ ン, レy ドクロー) の移入に関する考察. Cancer, 11: 15-21Miller, G. C. & Van H yt廿ng,]. M ., 1970.百1e com mercial fishery for fresh-water cray宣sh,Pacifastacus leniuscull俗
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