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産後1年未満の母親の産後家庭訪問に対するニーズ

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産後1年未満の母親の産後家庭訪問に対するニーズ

Expectations of mothers regarding postpartum

home visits within one year of delivery

田 村 知 子(Tomoko TAMURA)

* 抄  録 目 的 産後1年未満の母親を対象に産後家庭訪問のニーズ調査を行い,産後家庭訪問に何を求めているのか を明らかにする。 方 法 関東圏内の産後1年未満の母親594名に無記名自記式質問紙を用いて①属性,②分娩状況,③出生時 の児の状況,④退院後に受けたサポート,⑤産後家庭訪問に対するニーズ(時期・回数・時間・訪問者 ・ケア内容),⑥自由記載欄を質問した。 結 果 有効回答 271 名(45.6%)。分娩時平均年齢は 32.8(±5.0)歳,初産婦 176 名(64.9%),経産婦 95 名 (35.1%)。妊娠週数の平均は 39.0(±1.6)週,経腟分娩 86.0%,帝王切開 14.0%。訪問希望時期は産後 1~2か月が174名(64.4%),退院直後~産後1か月は114名(42.2%)。180名(67.7%)が産後1か月間に複 数回の家庭訪問を希望した。希望する職種は助産師237名(87.8%)と最多であり,174名(72.2%)が病 院・診療所の所属を望んでいた。希望するケアは児の体重測定228 名(84.1%),授乳に関すること198 名(73.1%),骨盤ケア 163 名(60.1%)等が上位にあがった。「骨盤管理」「尿失禁ケア」「自分の話をよく 聞いてもらうこと」「励ましてもらうこと」では,経腟分娩した者の方が帝王切開を受けた者より希望す ると回答した者の割合が高かった(p<.05)。 結 論 産後は精神的ストレスがある一方,母親達が希望するケアは授乳全般や児の体重測定等直接身体にア プローチするケアであった。今後,母親のニーズに沿った切れ目のない産後ケアを行うためには分娩様 式など対象の背景を考慮しながら,分娩した病院・診療所の助産師を活用し,産後2か月以内に訪問を 行うことが望ましく,さらには複数回訪問が行われることが可能となることが望まれる。 キーワード:産後ケア,家庭訪問,アウトリーチ型ケア,産後訪問 2017年9月11日受付 2018 年12月3日採用 2019年5月29日早期公開

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Abstract Purpose

This study aimed to investigate the expectations of mothers regarding postpartum home visits less than 1 year after childbirth and to clarify the needs of mothers during postpartum home visits.

Method

This study was based on a survey conducted among 594 postpartum women in Tokyo, Chiba, and Saitama prefectures in Japan. All participants were surveyed within one year of delivery. A major part of the questionnaire concerned the requirements for postpartum home visits and included items on (1) basic attributes, (2) situation and method of delivery, (3) condition of the newborn baby, (4) postpartum support, (5) mothers' expectations regarding postpartum home visits (scheduling, number of visits, time, occupation of visitor, type of care), and (6) a free space for any additional comments.

Results

A total of 271 (45.6%) postpartum women returned the questionnaire. Their average age at delivery was 32.8 (± 5.0) years. Of the respondents, 176 (64.9%) were primipara, and 95 (35.1%) were multipara. The average pregnancy duration was 39.0 (±1.6) weeks, with 86.0% having a vaginal delivery and 14.0% opting for a Caesarean section. A

total of 185 respondents (68.5%) had either“no reservations” or “few reservations” about home visits. Additionally,

174 respondents (64.4%) wanted home visits one to two months after delivery, and 114 (42.2%) wanted home visits immediately after leaving the hospital to one month after delivery; 180 respondents (67.7%) said they would like multiple home visits within one month of delivery, while 237 respondents (87.8%) wanted to be visited by a midwife, making this the most desired occupation, and 174 (72.2%) wanted to be visited by someone from a hospital or clinic. The most desired types of care included weighing the infant (228 respondents, 84.1%), breastfeeding-related concerns (198 respondents, 73.1%), and pelvic care (163 respondents, 60.1%).

Conclusion

Although the postpartum period includes mental stress, the most desired types of care involved breastfeeding, weighing the infant, and other direct physical approaches. Few mothers within the first year of delivery had strong reservations about home visits, and many wanted multiple visits within two months of delivery. Many respondents expressed a desire for both a midwife and someone affiliated with a hospital or clinic. Thus, in the future, it would be desirable for midwives from hospitals and clinics to provide outreach-style home visits for seamless care.

Key words: postpartum care, home visits, outreach care, postpartum home visits

Ⅰ.は じ め に

平成 21 年から児童福祉法に基づき乳児家庭全戸訪 問事業が開始され,平成 27 年の乳児家庭全戸訪問実 施率の全国平均は 97.8% となり,平成 24 年の 90.6%, 平成 25 年の 95.3% から年々上昇し健やか親子 21 の目 標値である実施率100%に近づいている(厚生労働省, 2017b)。産後家庭訪問の利点は,育児を行っている現 場に出向くことができるため総合的に育児環境の把握 ができるとともに,産後の体調管理をはじめ育児不安 などの問題が顕在化する前に介入できる。アウト リーチ型ケアとして近年,地域精神領域においても家 庭訪問が注目され,高木他(2011,pp.4-5)はアウト リーチ型ケアを「ケース発見から社会資源やサービス に連結させていく過程を扱う総論的なケアマネジメン トの過程」と説明し一連の過程であることを強調して いる。産後の母親は支援を求める余裕がないことが多 いため,支援者が自ら対象者のもとへ出向いて行くア ウトリーチ型ケアとしての産後家庭訪問は要支援 ケースの発見から産後サービスに連結させていくこと が可能であり産後ケアにおいて重要なアプローチ方法 の一つである。 石川他(2012,p.18)によると家庭訪問による育児 相談の効果として「楽な気持ちになれた」「子育てに肯 定的になれた」と訪問の利点が言われている。島田他 (2006)によれば,産後1か月以内の母親の24.6%が乳 房トラブルを経験し,退院後に乳房に関するケアが必 要とされている。産後のうつや育児困難感を測定した 研究では,産後 1 か月と産後 4 か月を比較し,産後 1 か月の方がうつ傾向や育児困難感は有意に高い結果で あった(松原他,2012)。このように産後 1 か月間は 心身両面のサポートが必要である。島田他(2006, p.758)によると「必要に応じて乳房マッサージもやっ てくれる家庭訪問」の希望は 22.1%と助産師の専門的

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技術が求められていることが示唆されたが,乳房管理 を得意とする助産師を乳児家庭全戸訪問事業で訪問者 としている市町村は 45.6% と半数以下(厚生労働省, 2017b)であった。孤立を防ぐために乳児家庭全戸訪 問事業を通じ子育ての情報提供が母親達にされている が,実際は情報提供を受ける他に乳房管理等の身体的 なケアも求めている可能性がある。新生児訪問指導で は,母乳栄養に関する指導が内容として含まれている が乳児家庭全戸訪問事業と新生児訪問を併せて実施し た市町村は全体の76.2%であり,新生児訪問指導は地 域によって実施率に差が生じている(厚生労働省, 2017b)。以上より,乳児家庭全戸訪問事業等で提供さ れるサービス以外にも産後家庭訪問に対する母親達の ニーズがあると考えた。そこで今回は産後1年未満の 母親を対象に産後家庭訪問のニーズ調査を行い,母親 達が何を求めているのかを明らかにしたうえで,今後 の産後ケアの在り方を考察する。

Ⅱ.方   法

1.対象 関東圏内の産後 1 年未満の母親 594 名。産科と小児 科の病院・診療所において産後 1か月健診,乳児1か 月健診を目的に受診した者,および乳児向け子育てイ ベントの来所者を対象とした。 対象除外例は日本語の読み書きができない者,37 週未満の早産や子どもがNICU入院など高い医療ケア を受けた者,継続したサポートを必要とした児をもつ 母親,また未婚の未成年とした。 2.期間 質問紙の配付および,回収期間は平成 27 年 1 月~5 月である。 3.調査方法・調査項目 研究者もしくは施設のスタッフから研究目的,内容 等を口頭で説明し質問紙を配付した。無記名自記式質 問紙を配付後,郵送による返信とした。調査内容は, ①母親の年齢などの属性,②分娩週数や分娩方法など の分娩状況,③出生時の児の状況,④退院後に受けた サポート,⑤産後家庭訪問に対するニーズ,⑥自由記 載欄とした。 ⑤産後家庭訪問に対するニーズは,先行研究におい て産後困ったこと,不安に思ったことの結果を参考に しながら独自に作成した(島田他,2006,pp.753-754)。 質問内容は,産後家庭訪問に対する抵抗と産後1か月間 の児との外出に対する心配,希望する家庭訪問の 方法(時期・回数・時間・訪問者等)と家庭訪問で受 けたいケア(母親,夫・パートナー,児,その他に対 して)とした。質問項目数は全部で26項目から構成さ れる。 4.倫理的配慮 研究対象者には口頭によって研究目的と内容を説明 した上で,研究協力は自由意思であること,研究協力 の拒否により受診やイベント参加の不利益がでないこ と,個人情報保護を保障する旨を説明した。質問紙の 返送をもって研究協力に同意したものとみなした。東 京医科大学医学部看護学科倫理審査委員会の承認を受 けた(承認番号26-10)。 5.分析 ①母親の年齢などの属性,②分娩週数や分娩方法な どの分娩状況,③出生時の児の状況,④退院後に受け たサポート,⑤産後家庭訪問に対するニーズに対し記 述統計を行った。分娩様式の違いや初産婦・経産婦に よる家庭訪問に対する希望や受けたいケアの回答の割 合の差の検定は Pearson の χ 二乗検定を用いた。家庭 訪問で受けたいケアと回答者の平均年齢の差に関して はt検定を用いた。分析はJMPver.13.2を使用し,有意 水準は5%,両側検定とした。

Ⅲ.結   果

1.属性 回収数は 292 名(49.2%),うち有効回答は 271 名 (45.6%)であった。分娩時の平均年齢は 32.8(±5.0) 歳,初産婦 176 名(64.9%),経産婦 95 名(35.1%)。対 象者の回答時期は退院後~1 か月健診までが 101 名 (37.8%), 1 か 月 健 診 終 了 後~産 後 4 か 月 が 66 名 (24.7%),産後 5~8 か月が 60 名(22.5%),産後 9~11 か月が40名(15.0%)であった。 2.分娩の状況 妊娠週数の平均は 39.0(±1.6)週,経腟分娩 233 名 (86.0%),帝王切開 38 名(14.0%),分娩場所は病院 197名(72.7%),診療所 69 名(25.5%),助産所は 5 名 (1.8%)であった(表1参照)。

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3.出生時の児の状況 出 生 時 の 児 の 体 重 は 3,500g 以 上 24 名(8.9%), 2,500g以 上 3,500g 未 満 が 231 名(85.2%)で あ り, 2,000g以上2,500g未満は16名(5.9%),2,000g未満は0 名であった。 4.産後に受けたサポート 病産院を退院後,本人の実家に戻った者は 130 名, 全体の 48.1% であった。初産婦のうち 100 名(56.9%) が実家へ戻ったのに対し,経産婦は 59 名(62.1%)が 自宅を退院後に過ごす場所としていた。退院後に育児 を主に手伝った人を1名だけ挙げもらうと,実母が最 も多く 157 名(61.8%),次いで夫・パートナー 75 名 (29.5%),義母 15 名(5.9%),きょうだいを含むその 他の者 7 名(2.8%)となった。主な産後の支援者は初 産,経産で回答の差はなかった。 5.産後家庭訪問に対するニーズ 1)産後家庭訪問に対する抵抗 育児支援者を「看護師などの国家資格等の有無にか かわらず育児に関する支援を行う者」と定義し,育児 支援者による家庭訪問に対して抵抗があるかどうかを かなり抵抗がある,やや抵抗がある,あまり抵抗がな い,全く抵抗がないの 4 件法で質問した。その結果, 「かなり抵抗がある」8名(3.0%),「やや抵抗がある」が 77名(28.5%),「あまり抵抗がない」113 名(41.8%), 「全く抵抗がない」72名(26.7%)であった。270名のう ち185 名(68.5%)が「全く抵抗がない」「あまり抵抗が ない」と答え,半数以上は家庭訪問への抵抗が少ない ことが分かった。 2)産後家庭訪問者の職種 どのような者が家庭訪問に来てほしいかを小児科 医,産科医,保健師,助産師,看護師,保育士,専門 職ではないが育児に詳しい者(育児経験者など),家 事ヘルパー,特に希望はない,よくわからない,その 他の 11 の選択肢を用意し複数回答で選択してもらっ た。結果,助産師を訪問者として希望する割合は237 名(87.8%)と高く,次いで小児科医 163 名(60.1%), 保健師 111 名(41.1%),保育士 84 名(31.1%)の順と なった。続いて,産科医 73 名(27.0%),看護師 62 名 (23.0%),家事ヘルパー 50 名(18.5%),非専門職だが 育児に詳しい者を希望した者は 39 名(14.4%)であっ た。特に希望はない,よくわからない,その他を選択 した者は各4名以下であった。 3)産後家庭訪問者の所属 家庭訪問を行う者にどのような所属から来てほしい かという質問に対し複数回答の結果,病院・診療所が 195名(72.2%),保健センターなどの公的機関 180 名 (66.7%)であった。一方,民間企業は 23 名(8.5%), 非営利団体22名(8.2%),フリーランス7名(2.6%)と 低い割合となった。特に家庭訪問を行う者の所属に対 し希望はないと答えたものは31名(11.5%)であった。 4)産後家庭訪問の時期 産後どの時期に家庭訪問を希望するかについては複 数回答の結果,174名(64.4%)が産後1~2か月に希望 し,114 名(42.2%)が退院直後~産後 1 か月未満の時 期に希望していた。産後 3~4 か月になると希望者が 減少し 48 名(17.7%),産後 5 か月以降となると 24 名 (8.9%)となった。他に家庭訪問自体受ける必要はな いと回答した者は12名(4.4%)であった。 5)産後家庭訪問の回数および所要時間 分娩施設の退院後,産後1か月までの間に育児支援 者の家庭訪問を無料と仮定し,何回利用したいかとい う問いに対し,1 回と答えたものは 75 名(28.3%),2 回を含め複数回と回答した者は180名(67.7%)であっ た。1回の家庭訪問の希望所要時間は 30 分~1 時間未 満と答えたのが133名(49.4%),1時間以上~1時間半 未満が86名(32.0%)であった。 表1 対象の分娩様式と分娩場所 全体 n=271 初産・経産 n=271 全体(人) 全体に占める割合% 初産婦(人) n=176% 経産婦(人) n=95% χ2値 p値 分娩様式 経腟分娩 232 (86.0) 149 (85.1) 83 (87.4) 0.26 n.s. 帝王切開 38 (14.0) 26 (14.9) 12 (12.6) 未回答 1 未回答 1 分娩場所 病院 197 (72.7) 135 (76.7) 62 (65.2) 4.12 n.s. 診療所 69 (25.5) 38 (21.6) 31 (32.6) 助産所 5 (1.8) 3 (1.7) 2 (2.2)

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6)産後家庭訪問で受けたいケア 産後1か月までの間に育児支援者による家庭訪問を 受ける際,どのようなケアを希望するかを①母親に対 して,②児に対して,③夫・パートナーに対して,④ 育児環境などの視点から質問をした。 (1)母親自身に対するケア 母親自身に対するケアとして授乳関連のケア,母親 の心身に関するケア等を合わせ計 15 の選択肢から複 数回答で希望するケアを選択してもらった(表 2, 3)。 結果,希望するケアは「授乳に関する全般的なこと」 が198名(73.1%)であった。次いで「骨盤管理」が163 名(60.1%),「母乳が足りているかどうかの判断」が 160名(59.0%),「全身のマッサージなどのリラクゼー ション」148 名(54.6%)「乳房マッサージ」が 147 名 (54.2%),「乳 腺 炎 な ど 乳 房 ト ラ ブ ル 対 応」131 名 (48.3%)と授乳に関することと産後の身体管理に集中 していた。 「骨盤管理」「尿失禁ケア」「自分の話をよく聞いても らうこと」「励ましてもらうこと」の4つのケアに対す る希望者のうち経腟分娩全体に占める希望者割合と帝 王切開全体に占める希望者の割合とに差が認められた (p<.05)。骨盤管理は,経腟分娩全体に占める希望割 合 63.1%(147 名)であり帝王切開では 42.1%(16 名) と差がみられた(p<.05)。同様に尿失禁ケアを希望し た者は 35 名で全体としての希望者数は下位であるが 希望した者は全員経腟分娩であった。 「授乳に関する全般的なこと」「乳腺炎など乳房トラ ブル対応」「育児技術指導」「ミルクの量や回数の判断」 は初産婦全体に占める希望者の割合と経産婦全体に占 める希望者の割合とで差があった(p<.05)。また,ケ アの希望の有無と年齢の差に関しては,「励ましても らう」ことを希望した者の平均年齢31.5歳(±0.7),希 望しなかった者の平均年齢は 33.1 歳(±0.3)であり, 励ましてもらうことを希望している者は希望していな い者より年齢が若かった(p<.05)。体重管理を希望す ると答えた者の平均年齢は 30.6(±0.8)歳,希望しな いと答えた者の平均年齢 33.1(±0.3)より若かった (p<.05)。その一方,ミルクの量や回数の判断を希望 した者の平均年齢は 33.8(±0.5)歳と希望しない者 32.1(±0.4 歳)より平均年齢が高く,同様に尿失禁ケ アを希望した者は 34.9±0.8 歳とそれぞれ希望しない 者(32.5±0.3歳)より平均年齢が高かった(p<.01)。 (2)児に対するケア 児に対し希望するケアを複数回答で選択しても 表2 母 親 自 身 に 対 する ケアの 希 望 ( 初 産 ・ 経 産 婦 /分 娩 方 式 別 ) 全 体 n=271 初 産 婦 ・ 経 産 婦 別 希 望 者 経 腟 分 娩 ・ 帝 王 切 開 別 希 望 者 希 望 者 ( 人 ) 全 体 に 占 める 割 合 % 初 産 婦 ( 人 ) n=176 % 経 産 婦 ( 人 ) n=95 % χ 2 値 p 値 経 腟 分 娩 ( 人 ) n=233 % 帝 王 切 開 ( 人 ) n=38 % χ 2 値 p 値 1 授 乳 に 関 する 全 般 的 なこと 198 (73.1) 142 (80.7) 56 (58.9) 14.81 ** 171 (73.4) 27 (71.1) 0.12 n.s. 2 骨 盤 管 理 163 (60.1) 106 (60.2) 57 (60.0) 0.00 n.s. 147 (63.1) 16 (42.1) 6.17 * 3 母 乳 が 足 りているかどうかの 判 断 160 (59.0) 107 (60.8) 53 (55.8) 0.64 n.s. 135 (57.9) 25 (65.8) 0.78 n.s. 4 全 身 のマッサージ 等 のリラクゼーション 148 (54.6) 91 (51.7) 57 (60.0) 1.71 n.s. 131 (56.2) 17 (44.7) 1.81 n.s. 5 乳 房 マッサージ 147 (54.2) 99 (56.3) 48 (50.5) 0.81 n.s. 128 (54.9) 18 (47.4) 0.80 n.s. 6 乳 腺 炎 など 乳 房 トラブル 対 応 131 (48.3) 93 (52.8) 38 (40.0) 4.07 * 115 (49.4) 16 (42.1) 0.73 n.s. 7 育 児 技 術 指 導 116 (42.8) 87 (49.4) 29 (30.5) 9.00 ** 101 (43.3) 15 (39.5) 0.22 n.s. 8 ミルクの 量 や 回 数 の 判 断 115 (42.4) 93 (52.8) 22 (23.2) 22.25 ** 98 (42.1) 17 (44.7) 0.08 n.s. 9 自 分 の 話 をよく 聞 いてもらうこと 80 (29.5) 56 (31.8) 24 (25.3) 1.27 n.s. 75 (32.2) 5 (13.2) 5.76 * 10 自 宅 で 行 う 産 後 1 か 月 健 診 77 (28.4) 47 (26.7) 30 (31.6) 0.72 n.s. 67 (28.8) 10 (26.3) 0.11 n.s. 11 励 ましてもらうこと 45 (16.6) 33 (18.8) 12 (12.6) 1.67 n.s. 43 (18.5) 2 (5.3) 4.14 * 12 仕事 やキャリアに 関 する 相 談 36 (13.3) 23 (13.1) 13 (13.7) 0.02 n.s. 33 (14.2) 3 (7.9) 1.13 n.s. 13 尿 失 禁 ケア 35 (13.0) 21 (11.9) 14 (14.7) 0.43 n.s. 35 (15.0) 0 (0.0) 6.59 * 14 体 重 管 理 33 (12.2) 23 (13.1) 10 (10.5) 0.37 n.s. 30 (12.9) 3 (7.9) 0.77 n.s. 15 その 他( 自 由 記 載 ) 12 (4.4) 7 (4.0) 5 (5.3) 0.24 n.s. 12 (5.2) 0 (0.0) 2.01 n.s. ( 複 数 回 答 ) Pearson's chi-square test *p < .05 **p < .01

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らったところ「体重測定」「発育状態の判断」「全身の 観察」と児の発育発達を確認する回答が上位を占めた (表 4)。泣いて いる時の 対応に 関しては 初産婦の 64.8%が希望した一方,経産婦の中で希望したのは 32.1%と初産婦と経産婦で希望する割合に差が認めら れた(p<.01)。全身の観察を希望する割合は初産婦の 方が経産婦より高く(p<.01),同様に小児科や予防接 種の情報提供を希望する割合も初産婦の方が経産婦よ り高かった(p<.05)。 (3)夫・パートナーに対するケア 夫・パートナーに対して行ってほしいケアで要望が 高かったものは「育児技術指導」158名(58.3%),次い で「沐浴指導」110名(40.6%)であった(表5)。初産婦 の半数以上が夫・パートナーに対する育児技術指導と 沐浴指導を希望したが経産婦で希望したものは半数以 下であった(複数回答)。 (4)育児環境等に対するケア 育児環境等全般に対しての希望は複数回答において 「育児情報の提供」が 156 名(57.6%)と一番多く,「家 庭内事故対策」104名(38.4%),「育児環境アドバイス」 102名(37.6%)となっていた。「上のこどもの相手」を 希望すると回答した経産婦が 42 名(44.2%)に対し初 産婦は11名(6.3%)と差が認められた(p<.01)(表6)。 育児情報の提供,家庭内事故対策,育児環境アドバイ スについては初産婦の中で希望する割合と経産婦全体 の中で希望する割合に差が認められた(p<.01)。 表3 母親自身に対するケアの希望と年齢 平均年齢 希望する (歳±SE) 希望しない(歳±SE) t値 p値 1 授乳に関する全般的なこと 33.0±0.4 32.3±0.6 1.00 n.s. 2 骨盤管理 32.3±0.4 33.6±0.5 2.19 ** 3 母乳が足りているかどうかの判断 33.1±0.4 32.5±0.5 0.85 n.s. 4 全身のマッサージ等のリラクゼーション 32.4±0.4 33.4±0.5 1.57 n.s. 5 乳房マッサージ 33.0±0.4 32.6±0.5 0.61 n.s. 6 乳腺炎など乳房トラブル対応 32.7±0.4 33.0±0.4 0.46 n.s. 7 育児技術指導 33.0±0.5 32.7±0.4 0.33 n.s. 8 ミルクの量や回数の判断 33.8±0.5 32.1±0.4 2.63 ** 9 自分の話をよく聞いてもらうこと 31.5±0.6 33.0±0.4 0.76 n.s. 10 自宅で行う産後1か月健診 33.0±0.6 32.8±0.4 0.29 n.s. 11 励ましてもらうこと 31.5±0.7 33.1±0.3 1.98 * 12 仕事やキャリアに関する相談 31.4±0.8 33.1±0.3 1.90 n.s. 13 尿失禁ケア 34.9±0.8 32.5±0.3 2.58 ** 14 体重管理 30.6±0.8 33.1±0.3 2.71 * 15 その他(自由記載) 32.9±1.5 32.8±0.3 0.06 n.s. (複数回答) n=271 t-test *p<.05 **p<.01 表4 児に対するケアの希望 全体 n=271 初産婦・経産婦別希望者 希望者 (人) % 初産婦(人) n=176% 経産婦(人) n=95% χ2値 p値 体重測定 228 (84.1) 148 (84.1) 80 (84.2) 0.00 n.s. 発育状態の判断 212 (78.2) 138 (78.4) 74 (77.9) 5.55 n.s. 全身の観察 188 (69.4) 130 (73.9) 58 (61.1) 4.77 ** 小児科や予防接種の情報提供 184 (67.9) 128 (72.7) 56 (58.9) 5.38 * おへそや皮膚の状態の観察 175 (64.6) 118 (67.0) 57 (60.0) 1.34 n.s. 泣いている時の対応 145 (53.5) 114 (64.8) 31 (32.6) 25.62 ** おしっこやうんちの状態や回数の確認 144 (53.1) 99 (56.3) 45 (47.4) 1.95 n.s. 自宅で行う小児1か月健診 92 (33.9) 61 (34.7) 31 (32.6) 0.11 n.s. ベビーマッサージ 78 (28.8) 56 (31.8) 22 (23.2) 2.26 n.s. 沐浴代行 50 (18.5) 33 (18.8) 17 (17.9) 0.03 n.s. その他 6 (2.2) 5 (2.8) 1 (1.1) 0.91 n.s.

(複数回答) Pearson's chi-square test *p<.05

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6.産後1か月間の児との外出に対する心配 産後 1 か月間の児との外出に対する心配の程度は 「少しあった」102 名(38.2%),「かなりあった」91 名 (34.1%),「ほとんどなかった」49 名(18.4%),「あまり なかった」25 名(9.4%)であった。「かなりあった」と 回答した91名のうち77名(84.6%)は初産婦であった。 実際に産後1か月間に児との外出時に気になったこ とを複数回答で選択してもらったところ「授乳に関す ること」が160名(59.0%),「移動に関すること」159名 (58.6%),「赤ちゃんが泣くこと」125 名(46.1%)と回 答していた。その他「自分自身の体調」が気になった のは 85 名(31.7%),「おむつ替えに関すること」81 名 (29.9%),「外出時に持っていく荷物について」は74名 (27.3%)であった。

Ⅳ.考   察

1.対象者の特性 平成26年の医療施設(静態・動態)調査の診療等の 状況(1)検査等,手術等,放射線治療の実施状況によ ると一般病院の帝王切開率は24.8%である(厚生労働 省,2015)。今回の対象は病院で分娩した割合が 7 割 以上にも関わらず,帝王切開率は14.0%であり,診療 所の13.0%に近い値であり,助産院での出産は平成28 年人口動態統計の0.7%と比較すると本調査は1.8%と 多く(厚生労働省,2017c),帝王切開率が低いローリ スクのサンプルであった。里帰り分娩の割合は,岩田 他(2016,p.141)の43.3%,島田他(2006,p.755)の全 国調査の 56.9% と比較し,本研究は 48.0% と中間で あった。初産婦の平均分娩時年齢は 32.2 歳と平成 25 年の全国平均の30.4歳より年齢が高く,今回は関東圏 という都市部の特徴を示していた。 2.産後家庭訪問に対するニーズ 1)産後家庭訪問に対する抵抗 今回のローリスクが多い母親の集団で家庭訪問を受 けるにあたり抵抗は「あまり抵抗がない」「全く抵抗が ない」を合わせると全体の 68.5%,約 7 割は家庭訪問 を受けることに抵抗が少ないことがわかった。一方, 「やや抵抗がある」と回答した者は2番目に多く約3割 となった。安永他(2015)は専門職による家庭訪問の ニーズは新生児訪問指導事業を受けたことのある者の 方が有意に高いと報告している。本調査では,調査時 点で自治体からの訪問を受けたかどうかを質問してい 表5 夫・パートナーに対するケアの希望 全体 n=271 初産婦・経産婦別希望者 希望者 (人) % 初産婦(人) n=176% 経産婦(人) n=95% χ2値 p値 夫・パートナーへ育児技術指導 158 (58.3) 112 (63.6) 46 (48.4) 5.88 * 夫・パートナーへ沐浴指導 110 (40.6) 90 (51.1) 20 (21.1) 23.16 ** 夫・パートナーの話を聞いてもらう 58 (21.4) 39 (22.2) 19 (20.0) 0.17 n.s. 夫・パートナーへマッサージ 56 (20.7) 33 (18.8) 23 (24.2) 1.12 n.s. 夫・パートナーへ励ましてもらう 28 (10.3) 18 (10.2) 10 (10.5) 0.01 n.s. その他 10 (3.7) 7 (4.0) 3 (3.2) 0.12 n.s.

(複数回答) Pearson's chi-square test *p<.05 n=271

**p<.01 表6 育児環境等に対するケアの希望 全体 n=271 初産婦・経産婦別希望者 希望者 (人) % 初産婦(人) n=176% 経産婦(人) n=95% χ2値 p値 育児情報の提供 156 (57.6) 115 (65.3) 41 (43.2) 12.43 ** 家庭内事故対策 104 (38.4) 80 (45.5) 24 (25.3) 10.66 ** 育児環境アドバイス 102 (37.6) 85 (48.3) 17 (17.9) 24.29 ** 食事作りのアドバイス 77 (28.4) 54 (30.7) 23 (24.2) 1.27 n.s. 家事代行 65 (24.0) 39 (22.2) 26 (27.4) 0.92 n.s. 上のこどもの相手 53 (19.6) 11 (6.3) 42 (44.2) 56.51 ** 買い物代行 48 (17.7) 28 (15.9) 20 (21.1) 1.12 n.s. その他 3 (1.1) 2 (1.1) 1 (1.1) 0.00 n.s.

(複数回答) Pearson's chi-square test *p<.05 n=271

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ないが,平成 27 年度新生児全戸訪問率は全国平均で 95.6%であり対象は生後 4か月までの乳児のいるすべ ての家庭である(厚生労働省,2017b)。今回は産後 1 年未満の母親を対象としていることからすでに乳児全 戸訪問を受けた者が一定数存在すると推測され,産後 家庭訪問の経験がある者にとっては家庭訪問を受けた 経験から訪問を受けることに抵抗が少なくなる理由と して考えられた。一方,「やや抵抗がある」「とても抵 抗がある」と回答した者も存在することは,自分の居 住スペースに知らない人が来る不安などが考えられ, このことが産後家庭訪問を行う者の所属先の希望とし て病院・診療所や公的機関が上位に挙がった理由の一 つと考えられる。 2)産後家庭訪問の時期・回数と内容 今回,産後家庭訪問の希望実施時期は産後 1~2 か 月が 64.4%,退院直後~1 か月未満は 42.2%であった。 そして,産後1 か月の間に 2回を含める複数回の訪問 希望は 67.7% ということから,産後 2ヶ月までの早期 に複数回希望している人が多い傾向があった。母親が 複数回の訪問を希望する理由として,児の体重測定, 発育状態の判断といった経時的に評価する必要がある ケアが上位であることも関係したと思われる。これ は,退院後の経過と現状のアセスメント,そして今後 の予測といった「経過は順調かどうか」という経時的 なケアを受けるには1回だけは不足と母親達も考えて いると思われる。 猿田(2015)の先行研究結果でも64.8%が産後1か月 までに家庭訪問を希望し,森他(2000)の報告では, 産後 1~2 週間で家庭訪問を行った結果,訪問を受け た97%が適切な時期に訪問を受けたと回答し,産後早 い時期の家庭訪問が求められている。塚本他(2001) によると育児の不安の出現時期は,退院後1週目から 2週目にかけての時期が約 7 割を占め,不安・心配事 の上位には「母乳の分泌に関して足りているか」があ げられた。本研究でも母親の73.1%が授乳に関する全 般的なケアを希望し,母乳が足りているかどうかの判 断も59.0%の母親が希望していた。このことから退院 後の母親にとって授乳・母乳分泌に関することは不安 を感じやすくニーズが高いケアであると考えられる。 その一方,平成 27 年度の乳児家庭全戸訪問の訪問時 期は生後 2 か月までに家庭訪問ができたのは全体の 49.9%である(厚生労働省,2017b)。そのため母親た ちが来てほしいという時期に訪問を受けることができ ていない可能性がある。この背景として里帰り分娩の 影響が考えられる。本研究結果では初産婦の56.9%が 実家に戻っており,家庭訪問に来てほしいと思う時期 に本来の居住区以外にいる可能性が高い。新生児全戸 訪問では原則住民票のある自治体内での訪問と限られ ていることから,居住区以外にも訪問が可能とするに は行政サービス以外の病院や助産所などが柔軟に対応 できる家庭訪問システムの構築が必要である。 産後家庭訪問の希望回数では約 7割の母親が 2回以 上の訪問を希望していた。森他(2000)の報告では,2 回以上の産後家庭訪問を母親たちが希望した理由とし て「どのくらい大きくなったのか体重が気になる」や 「ちょっと落ち着いた時に悩みも出てくるので聞いて ほしい」という意見があった。複数回の訪問を受ける ことで初回訪問の後にどのような変化があったか,経 過としては順調かどうかという経時的な評価を得られ る機会となるため,複数回の訪問のニーズが高かった と推測できる。アウトリーチの視点から複数回訪問す ることが事前に決まっていると仮定すれば,母親達は 「次回の訪問でこの心配事を確認できる」と育児に対 し次のマイルストーンを設定することができる。 現在,乳児家庭全戸訪問事業と新生児訪問指導と併 せることで2回の家庭訪問の機会が得られるが,新生 児訪問指導との併用を実施していない市町村は 1,702 市町村の 23.8% にあたる 405 市町村が存在する(厚生 労働省,2017b)。これにより,住んでいる場所に よって乳児家庭全戸訪問事業と新生児訪問指導の計2 回の訪問を受ける機会に差がでる可能性がある。 3.希望するケアと訪問者の職種 産後は精神的なストレスが高いと言われる一方,実 際に受けたいケアとしては授乳全般に関することや骨 盤ケアなど直接身体に触れるようなケアを望む声が多 く見られた。自治体での乳児家庭全戸訪問の事業目的 は「すべての乳児のいる家庭を訪問し,子育ての孤立 化を防ぐために,その居宅において様々な不安や悩み を聞き,子育て支援に関する必要な情報提供を行うと ともに,支援が必要な家庭に対しては適切なサービス 提供に結びつけることにより,地域の中で子どもが健 やかに育成できる環境整備を図ること」(厚生労働省, 2017a)とあり,母子の身体的ケアを第一の目的とし た事業ではなく,授乳や産後の身体の回復については 十分にカバーしきれていないと考えられる。今回の結 果では,初産・経産婦とも7割以上が児に対し体重測 定,発育状態の判断といった児の成長発育の確認への

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ニーズが高いことが分かった。さらに,小児科や予防 接種の情報提供,育児情報の提供といった情報提供も 初産婦の半数以上が希望していた。現行の自治体の サービスと照らし合わせると児の成長発育確認の ニーズに対しては新生児訪問指導として行われ,情報 提供を受けたいというニーズには乳児家庭全戸訪問事 業の内容で対応ができていると思われる。しかし,授 乳に対するケアなど母体ケアがやや手薄となって いる。 平成 27 年度の乳児家庭全戸訪問事業の実施状況調 査(厚生労働省,2017b,p.9)では,主たる訪問者と して保健師をあげた自治体が93.5%,次いで助産師は 45.6%である。産後家庭訪問を行う者の所属先の希望 として母親たちが病院・診療所を上位に挙げた理由と して,訪問者の身分が明らかであり安心感が持てるだ けでなく,病院・診療所で受けたケアの延長を求めて いると推測できる。妊娠から分娩,産褥早期までは病 院・診療所で継続したケアが提供されているものの, 退院後は1か月健診となりケアを受ける頻度が極端に 減少してしまう。約9割の母親たちが助産師を訪問者 として希望した理由として,授乳のケアをしてほしい ということと退院後間もない時期は病院・診療所の ケアの延長を求めていることが関係していたと思わ れる。 厚生労働省の健やか親子21(2次)の基盤課題Aとし て「妊娠期からの切れ目のない育児(厚生労働省, 2014,p.2)」を掲げているが,退院後はケアの「切れ 目」が発生しやすい。近年,産後 1 か月健診より早く に2週間健診や母乳外来,児の体重測定などの機会を 設ける施設が増えたが,産後の外出に対する心配は特 に初産婦の半数以上が体験している。本研究結果から 6割近くの母親が移動に関することが気になり外出の 困難さを感じていた。他にもおむつ替えや荷物など外 出にまつわる一連の行動が気がかりであることが分 かった。家庭訪問は外出の必要がなく,さまざまな産 後サービスに連結させる機会となるため,母親に とっても支援者が出向くアウトリーチ型の家庭訪問は 有益である。 産後家庭訪問の希望するケアとして経腟分娩の母親 だけが尿失禁ケアを希望していたという結果から,分 娩様式に応じて尿失禁や骨盤底筋群のリハビリテー ションの必要性を把握していく必要性があると思われ る。高岡(2013)によれば分娩後早期の尿失禁有症率 は 30.8%。産後 3 か月で 26.2% であり今回の調査で尿 失禁に関してケアしてほしいと答えた者は 13% で あった。羞恥心も感じやすいケアであるからこそ,家 庭訪問というプライベートが確保できた場所でケアを 行うメリットがあると考えられる。 「励ましてもらうこと」といったエモーショナルサ ポートに関しては経腟分娩した母親全体に占める希望 割合が帝王切開した母親全体のうち希望した割合より 高く,また希望した母親の平均年齢は希望しない者よ り1.6歳若いことから,分娩様式や年齢が産後の精神 面ケアのニーズに影響している可能性がある。育児技 術指導・ミルクの量や回数の判断の他,児の全身観察 ・泣いているときの対応・育児情報の提供・家庭内事 故対策・育児環境アドバイスは初産婦全体に占める希 望割合が経産婦全体に占める希望割合より高く,これ は育児経験の有無が影響していると考えられた。産後 家庭訪問の対象者の分娩様式・年齢・初産・経産と いった背景でニーズが違う可能性があることを理解 した上でそれぞれのニーズに合わせることが大切と考 える。 また,新道他(1990,p.122)は「褥婦は産褥早期に ケアを受けリラックスできるとそのゆとりで児に関心 が向けられ母子関係の促進につながるものと考えてい る」と産褥早期の母体ケアの有効性を述べている。授 乳に関することや新生児の成長発達の確認など身体的 ケアを得意とする助産師が支援者としてかかわるメ リットは大きい。また,妊娠期から妊婦健康診査を通 じた継続的なかかわりにも注目すると病院・診療所の 助産師が産後家庭訪問に出向くことで「切れ目のな い」産後ケアとなり得る。現行制度では分娩施設の退 院後は自治体に産後サポートが移行し乳児家庭全戸訪 問,新生児訪問指導に連結されるがローリスクの母親 であったとしても気軽に複数回の産後家庭訪問が受け られる選択肢が提供できることが望ましい。母親が助 けを求める前に支援者として助産師が育児の現場に出 向き,安心した産後の生活環境を整えることがアウト リーチ型の産後家庭訪問と言える。 4.研究の限界と今後の課題 今回は産後家庭訪問を受ける際に「無料」で受ける なら,と条件を付け質問した。そのため,どの程度の 金額を負担しても良いのかは今後さらに調査する必要 がある。松永(2009)によれば,女性たちが家庭訪問 で支払える金額は 2,000~3,000 円との結果であった。 しかし,平成21年9月に改定された助産師会助産師業

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務料金参考表によれば産褥訪問料金は 7,000円以上で かつ,出張料として合計金額の2割増以上の費用が目 安となっている(日本助産師会,2014)。母親たちが 負担してもよいと思う金額の2倍以上の料金が目安と して設定されている。また,行政の産後ケア支援の一 つとして自治体の訪問に加え産後の病院・診療所の助 産師による家庭訪問に対し,妊婦健診料助成制度のよ うな公費負担が適応されることも今後必要であろう。 本研究の課題として,今回の対象は正期産のローリ スクの母親であり,ハイリスクの母親や児の産後家庭 訪問のニーズに関してはさらに個別的な内容があると 予想される。今後はさらに調査対象を広げ,産後家庭 訪問の内容を検討する必要がある。加えて,調査対象 がすでに乳児家庭全戸訪問を受けた者とこれからの者 との区分が明確ではないため,家庭訪問の経験の有無 によるニーズの違いには言及できていない。

Ⅴ.結   語

産後1年未満の母親の産後家庭訪問に対するニーズと して産後2か月以内に複数回,助産師による家庭訪問 を希望していた。ケア内容は精神的なものより身体的 なケアに対するニーズが高かった。また,分娩様式や 年齢により望むケアを丁寧に確認していく必要がある。 今回の結果から母親のニーズに沿った切れ目のない 産後家庭訪問を展開するには分娩様式など対象の背景 を考慮し,分娩した病院・診療所の助産師の訪問や, 産後2か月以内に訪問を行うことが望ましく,さらに は複数回の訪問を可能にするなど一層きめ細かな サービスが必要と考える。今後自治体のみならず分娩 施設である病院・診療所の助産師が家庭に出向きさま ざまな産後サービスに連結させていくアウトリーチ型 のケアが普及することを期待したい。 謝 辞 本研究は科学研究費若手 B(課題番号 26870601)お よび文部科学省科学技術人材育成費補助事業「女性研 究者研究活動支援事業」の助成を受け実施したもので ある。本研究にご協力いただいた皆様に心より感謝申 し上げます。 利益相反 本論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はな い。 文 献 石川麻衣,小澤若菜,時長美希(2012).エンパワメント を意図した乳児家庭全戸訪問における支援の効果  自由回答式アンケートに記載された利用者の意見の 質的分析から.高知県立大学紀要(看護学部編), 61,13-24. 岩田裕子,森恵美,坂上明子,前原邦江,小澤治美,青木 恭子他(2016).産後 1 か月時に褥婦が認識するソー シャルサポートとうつ症状.母性衛生,57(1),138-146. 厚生労働省・健やか親子21 推進協議会(2014).健やか親 子 21(第 2 次), p.2 . http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku / 0000067539.pdf(2017.12.1) 厚生労働省(2015).平成 26 年(2014)医療施設(静態・動 態)調査・病院報告の概況 診療等の状況(1)検査等, 手術等,放射線治療の実施状況 http://www.mhlw.go.

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参照

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