Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Society for the Science of Designあ
る
噺 家
の
エ
ン
タ
テ イ
ン
メ
ン
ト
デ
ザ
イ
ン
Entertainment
Design
of
A
Rakugo
Artist
野
村 亮 太
東 京大 学大 学院 教育 学
研究科
NOMURA
Ryota
The
University
ofTokyo
,
FacuIty
ofEducation
1 .
客
の懐
へ入 る落 語
市
川海
老蔵 氏の呼び か けで始まっ たJapan
Theater
は、
日本
の伝 統芸 能
をひ と ところ に集結
し、一
挙 に上演
し よ う とい う 大 胆 な 挑 戦であ る。 平 成26
年10
月ll
日〜
26
日 に は 東 京・
日 本 橋三井ホー
ルで、
ま た、
10
月29
日〜
11
月2
日には 京 都・
四條 南 座
にて上演
さ れ、
盛 況 の う ち に 幕 を 下 ろ した。
さ ら に、
日 本の伝 統 芸 能のオー
ルス ター
た ち は 海 外へ と飛 び 出し、
11
月14
日〜16
日 に は シンガ ポー
ル 公 演 まで実 現 して い る。
そ のJapan
Theater
に おいて江戸 噺
の担
い手の代
表 と して参
加 し たのが 古 今 亭 文 菊 氏である。
平成24
年、
文 菊 氏は実に28
人も の先 輩 噺 家 を 抜い て 真 打 に 昇 進 し た。
いま最 も将 来 を 嘱 望 さ れ る 若 手噺 家
の一
人であ る。
文 菊 氏 が 噺の マ ク ラで述
懐
し た とこ ろに よる と、
Japan
Theater
で他の演 芸 と一
緒にやっ て み て まず 驚い た の は、
共 演 者の観 客 に 対 する態 度の違いだっ た とい う。
他の芸 能 は まっ た く客 にこび ることが ない というのだ。
「今 か らやるか ら、
さ あ 見 てく れ」 とい う 構 えで観 客 と 向 き 合 う。
観 客の方 も 勝 手 知っ た る もの で、
それを特 段お か しいと感 じ ること はない。
「だ が落 語 は違
う」 と文菊
氏 は 言 う。
落
語では 客の懐 に入 り込 ま な くては ならない。
その た め に、
あ りとあらゆ る手 を 尽 くすというのだ。
こんな 落 語の特 徴 を
、
文 菊 氏 は 楽 屋内
に伝 わる言 葉 を 引い て 「噺 家 に 下 手 も 上 手 も な か り け り行 く先 々の水 に 合 わ ね ば 」 と 表 現 してい る。
つ ま り、
どこ へ行っ ても 観 客 に合 わ せて演 り方 を 変 え、
客 を 満 足 させ てい くことが 噺 家 稼 業の本 質 なのだ。
だ か ら、
そ の場で向き合う客を抜き に して、
上手いと か下 手と か いう一
様
の評価
を噺 家
に与
え るこ とな どできない と いうの であ る。 寄 席は あ く まで 興 行であ り、
儀 式や祭
典で は な い。 観客
を楽
し ま せ るこ とを志 向
した娯 楽
であ
る以
上、
木
戸銭 (
入場 料)
を払
っ て くれる観 客 抜
き に し て デザイ ン は考
え ら れ な い。 だか ら、
落
語 は噺
の聴
き手
を中心
に して楽
し さ を創 出
され
ゆくユー
ザ・
センター
ド・
デザインの先
駆けなの で あ る。本 稿
で は、
落
語と い う娯 楽 (
エ ン タ テ イ ン メ ン ト)
が どの よ う に デザ
インさ れて いるの かを紹 介
し、
それぞれの デザイ ン の 意 味を論 じて い き たい。
と はい っ ても、
落 語の演
出は噺 家
に よっ て大 き く異 なっ て いる。 そこ で本 稿
で は、
多
く の噺 家
を例
と して挙 げる よ り、
古 今 亭 文 菊 氏ひ と り の例を 示 す。一
つに 限 定 して演 出と して の 振る舞
いを細
や か に視
て い くこ とで、
そ こ に通 底 するエ ンタテインメン トデザ インの源 泉 が 見 出 さ れるか らで あ る。
2 .
コ トの デザ
イン と し て の落
語 同 じ噺 を 同 じ 噺 家 が 演っ ても、
同 じ に は な ら ない。
毎 回 観 客 が異 なっ て いるか ら だ。
文 菊 氏 はマク ラで よ く 「落 語っ て の は、
大 変 に 弱い芸 能 な んです」 と口 に す る。
「お 客 様のな か に は、
さ あ 笑 わせ て み ろ1
と おっ しゃる方 がい らっ しゃ い ま す が、
大 き な 勘 違いな んです」 と も。
噺 家 が一
生 懸 命 に 噺 を 演っ て みせても、
それ を聴
い て い る観 客
の方でもっ て 「そ ん なの知 り ま せ ん」 と非 協 力 的な構
え を と れば、
途 端に成 り立 た なく なっ てし ま う、
そういう性 質 を 落 語 は持っ て いる。
だ か ら、
噺 家 と観 客 が 協 力 して場 を 創っ てい くことに な る。
席
亭 や 劇 場関係
者 は、
視 覚
的 に は 噺 家の名 前 を 寄席
文 字 と 呼 ばれ る独特
の書 体で書 か れ た 看 板 や 提 灯 をぶ ら 下げて、
寄 席ら し い環 境 を 創っ て い る。
聴 覚 的 に も、
開 場・
開 演 を 知 ら せる の に一
番 太 鼓・
二番 太 鼓 と呼 ば れ る 音 楽 を 流 し、
終 演の時 に は追 い出 しの太 鼓 を 鳴 ら して寄 席 ら し さ を 出 す。
桟 敷 席 に 座 布 団 を 敷い て見 るという昔 なが らの客 席を準 備して い る とこ ろ も あ る。
多
目 的のホー
ルで落
語 が 行 わ れ る時
にでも、
広
い舞 台
の中
央に高 座を設え緋 毛 氈で覆うことで雰 囲気
を醸
し出して い る。 加 えて、
金 屏 風 を高 座
の後
ろ に置 けば普
段はダ
ン スや演劇
が行
わ れている 舞 台 に も、
落 語 ら し さ を演 出 す ること が で き る。
これ に 加 えて、
演 者で あ る 噺 家 が 行っ て いる デ ザ インに は、
大 き く分 けて 二 つあ る。一
つ 目は、
出演 前
に構 成
さ れ て いる (composed)
デ ザ イ ン と 口演中
に即興的に創
出さ れ る(
improvised
)
デザイ ン であ
る。出
演前
に構
成さ れ て い る デザイ ン は気 づ か れにくいが、
実 は様
々 な工夫
が行
わ れて い る。例
え ば、
演 目の選 択一
つ とっ てみ て も、
番組 (
出番
ご と の演目)
の流 れ やバ ラ ン ス (泥 棒の出る噺
、
子 ど もの出
る噺
が重
な ら ないよ う に するな ど)
を 考 え る し、
季 節
も 忘 れて はい け ない。
十
日興 行の寄席
な ら、
前 日の出 し物
と は変え る と い う心 配 りをし ている。
ま た、
真 打 昇 進 に後 ろ幕
や着物
を 送っ てく れ たひいぎ 衆 がい れ ば、
そこ では その着物
を着
て披露
す るな どと いっ たこ とも 行 わ れている。
逆 に 噺の内 容
に合
わ せて、
着 物
と帯
、
手 拭いを 決 め ること も あ る。
た と えば、
『芝 浜』 という 人 情 噺 を し よ うと思 え ば、
劇 中で棒 手 振 りの魚 売 りが 財 布 を 拾 うの で、
そ れ に 合 わせて手拭
い は地味
な42
デザイン学 研 究特 集号Special Lssue of Japanese Socie置y ferthe ScLence of Design
Vol
.
22・
3 No.
87 2015Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Society for the Science of Design色 に しておこう とい っ た 具 合であ る
。
もっ と一
般 的 なことで言 え ば、
簡 素 な 着 物 を 着て派 手 な 化粧
もせず、
小 ざっ ぱ り と し た髪
型 を しているとい っ たこ と か ら、
す で に事 前に構 成さ れ た デザイ ン の一
つ である。
噺 家 は一
人
で演
じる芸能
なの で、
複
数の登 場 人 物 を 瞬 時に転 換 す る。
こ のため、
能 や 歌 舞 伎のよ う に 面 や 化 粧、
衣 装 に よっ て人物
の特 徴
や 内 心 を 表 現 す ること は ない。
ど ん な 登 場 人 物 にでも な れるよ う、
噺 家 は あ ら か じ め 何 か 際 立っ た キャラ ク タと し て では な く、
素の演 者 と して高 座 に 上 が るの であ る。
現 代の 落 語の 口演 に は 定 まっ た 台 本 や 楽 譜 は な く、一
挙一
動の すべ てが決
め られて いる わ けでは ない。
だ か ら、
当 然 あ る 程 度 の制 約
はあるもの の、
ど ん な 登 場 人物
も 筋 書 きであっ ても、
噺 が 展 開 し て い く こと を 通し て初 めて実 現 さ れてい く。
だ か ら こ そ、
口演 中
に即 興
的 に創 出
さ れ るデザ インが 占 め る 割 合 は、
他の芸 能よ り も格段
に高
い。
つ ま り、
観 客の視 点 から見 れ ば、
噺 家
がそ の独 創 性
を 発揮
し、
数秒
か ら 数 十 秒の時 間スケー
ル で刻一
刻と生み出し て いく一
度 限 りの噺 を 味 わ うのが 落 語の醍 醐 味
なの である。3
.
即 興 的
に創 出
され
るデザ
インで は
、
これ を可能
に して い る 口演中
に即
興 的 に 創 出 さ れ る デザ
インに は、
どのよ
うな
ものがあ
るのか。多
くの場 面
に共
通 する最も代 表 的な も の と して マク ラ が挙
げら れ る。
マ ク ラ と は、
噺
の本 編
に入る前
に噺 家
が演 者 自 身
の言 葉
とし て話
す 短 い話の こ と で あ る。
頭に置か れ る の で マ ク ラ と呼 ば れるよ う になっ たようだ。 マクラ に は、演 者
の自
己紹 介
や噺
の前 置
き とし て の働 き が ある。
例 え ば、
子 ど も が 出て く る 噺 な ら 子 ど もの話
題 を 振っ てお く、
吝 嗇の人の噺 な ら ど れ だ け ケ チ な のか が 分 かる小 咄 を ポン と入れる の である。
近 年では、
時 代 や言 葉
の移
り変
わ り に よっ て噺
のオ チ が 分 か り に く く なっ て い る事 情
も あっ て、
あらか じ め言 葉
の意味
を補
う た め に 説 明 を し ておく と い う こ とも 多い。
いず れに し ても、
マクラ には 噺 という一
種の 夢 (フ ァ ンタジー
)の世 界へ と誘っ て い く と いう 導 入と して の 役割
があ る。
こ の た め、
江 戸落
語の伝 統
で は、
マ ク ラ と本 編 の 噺 と は 別 個 の もの として分断
さ れ るの で は な く、一
連の流 れ に なっ て い るこ とに 価 値が置かれて いる。
観 客 に気
取 ら れぬよ う にい つの間 にか噺
に 入っ て し ま うと い うのが、
落 語の粋 なのであ る。
マク ラのも う
一
つの重
要 な側
面と し て、
そ の 日の客層
を知
る プ ロー
ブ(
探
り針 )
と し て の働
きがあ る。
簡単
な小 咄や 洒落を言
っ て み て、観 客
が ど ん な とこ ろ に反 応 するかによっ て、
ダ ジャ レや冗談のようなシ ンプル に笑いを 求め て い る のか、
それ と も噺
を じっ く り聴 き たい のか を 探る のだ という。
実 際 に ある噺 家
は、
定
型の マクラと して5
、6
個
の小咄
を セットで準備
し て お い て、
どの 小咄
に観客
がよ く反 応し て い る か を そ の場で感 じ取っ て、
そ の組
み合
わ せ に基 づい て噺
の重 点 をス ライ ドさ せ て いくと述べ て いる。本 編の噺に入っ ても
、
噺家
は観客
の状
態に応じ て演じ る内 容 を 柔 軟 に 変 えて い く。 分かり や すい例
と しては 入れ事 (
いれご と)
をする こ と が挙
げら れ る。 入 れ事
と は、
そ の場で判 断し て、
時事
の話
題 を振
る といっ た よう に、
他
の ロ演では入れ ない セリフやしぐさ をする こ と である。 ま た、
落語
で は逆に、
セリ フやしぐさ を抜く こ と も多
い。出 演時
間 が十
五分程 度
に限
られ ている寄 席
で は、一
つの場
面全 体
を省 略す
る こ と も日常
的に行
わ れて いる。
だ か ら、
寄席
でばか り噺
を聴
い て い る人ほ ん の短 いと 思い込 ん でいた噺
が、
実
は 長い噺
の ごく一
部
を 取り出
した ものだっ た ということ も よくあ ること な の だ。
以 上のよ う に
、
落
語で は、
マ クラ か ら本 編
に至る まで、一
般
に 考 え ら れて い る よ りも多
くの即 興 的に創出
される デザイ ンが 見 ら れる。
このこと は、
落 語 が あ く まで 目の前
にいる 観客
を楽
し ませ ること に 立 脚 した 演 芸であ るこ とを よ く 示 して い る。
だ が、
即 興 的 に 創 出 され る デ ザ イン の真 骨 頂 は、
もっ と微 妙な差 異 に あ る。
有 態の表 現で言 え ば、
噺 家 は 場 の 空気
を察知
して セ リフや し ぐ さのわ ず か なニュ ア ン ス を 微 調 整 して いる。
そ れ は、
会 場 にいる 観 客の息 遣いを 感 じ取 りな が ら、
そ の 律 動 に 呼応
し た押
し引
き を する ことで、
い つの間
に か噺
の世 界
へ と 引 き 込 ん で い く熟 達し た技である。
4 .
古 今 亭 文 菊 氏
に見
る即 興 的 な
デ ザ イン こ こ で は、
そ のよ う な 「息の合 っ た」 即 興 的 なデザ インが ど のよ う な ものなのか を 具 体 的 に 紹 介 す る た め に、
古 今 亭 文 菊 氏 に よ る二 席 を 例に とっ て述べ て いく。
と はいっ て も、
こ こ で の 記 述 は、
あ く まで聴
き 手 に与
え る(
よ り正確
に 言 えば
、
筆 者
に 与 え る ) 印 象 や 感 触 を 事 例 と してい くつか 取 り上 げ る ものであ り、
実 証 的 な 議 論の水 準 に までは 達 していないものを 多 く 含 む こと を 予 め[’
承 知 お き 頂 き たい。
今 回 比 較 したのは
、
2013
年12
月6
日 に 東 京 大 学 におい て落
語 入 門 講座 な ら び に第二 回 実 験 寄 席と銘 打っ てロ演さ れ た古
典落
語 『二番煎
じ』 で ある。
そ れ ぞれ、
落 語
をほ と んど聴
いたこ とが ない初心 者
二十余 名
と落
語 をよ
く聞
くベテ ラ ン 三十 余 名
に 向けて演じ られた も ので あ る。
これをビデオ 撮 影し た も の を比較
し た。 いま 比較
す る二つ の 『二番 煎
じ』 は、一
人
の噺 家
に よっ て 同じ日に同じ高
座で 口演
さ れ た も のであ る。
し た が っ て、
事 前
に構 成
され
たデザイ ン につい て は、
実
現 可能
なレベ ル で は極限 ま で共通 し て い る と いっ て差し支えないだろ う。
そ し て、
も し2
つの 口演 に 差 が あ れ ば、
そこに は 観 客 に 合 わ せて変 えて い る演 じ 方に即 興 的に創 出 さ れ たデザイ ンが反映 さ れて い ると考 える ことができる。
口演の状
況の詳細
とそ の映像
を使
っ た 実験
は他
に紹介
したの で、
興 味
が あ れ ば参
照 していた だ き た い(
野村
・
岡田、
2014
)
。
瀚
欝
瀧 :
:
1
:
∴
[
Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Society for the Science of Designベテ ラ ン向け 口演 古 今 亭文 菊 氏 『二 番 煎 じ 』 T1月番 K1黒 川 T2月 番
K2
黒 川 丁3月 番K3
黒 川T4
月 番K4
黒 川 丁5月 番 (略)そ し た ら フ ク ベ の中身を そ の 土瓶に こ う入 れ なさ い。
いっ ぱい になった。
そ う か。
ち ょっ と こっ ち に。
ご苦労さ ん。
【土瓶を火に かけ な が ら】 先 生に も 困っ た も ん で す よ。
これから もあることです か らね。
気をつ けてく れ な く ちゃ 困ります よ。
【観 客 の 笑い声 が 続いている 】 /6.
0
!月 番 さ ん、
何 を な さってい るの で。
/T.
0
/何 を な さってい る、
って、
見 れ ば 分 か るでしょ。
火 の上 に酒 が あ るんで す。
燗 を 付 けてる んです よ。
/3
.
5
/【息 を 吸 う音】燗 を 付 けて、
ど う な さ る。
/0
.
5
/ど う な さ る、
冷で飲 む と 体 に 毒です か ら燗 を 付 けて る んです よ。
/3
.
01
いや 今 あ な た、
酒 を 飲 んではいけ ないと、
こう仰った。
そ りゃ いけ ま せ ん よ。
いけ ま せ ん よ。
フクベ から出る酒 を 飲 ん じゃ いけ ない。
【土 瓶 を 手で指 し な が ら】土 瓶 か ら 出 る11
,
01
煎 じ薬 なら構 わ ない で し ょ。
f4
.
O
/そ ういう そういうことな んです よ。
クックックッ、
実はあ たしも五 合ば か り持って来ま してね、
これ。
初心者向 け 口演 古 今 亭文菊 氏 『二番 煎じ 』 T1月 番 (略 )そ し た らフ クベ の中 身 を ちょっ と入 れ な さい よ。
い っ ぱいに なった。
そ う か。
ちょっ と こっち に。
はい、
ご苦 労Kl
黒 川T2
月 番K2
黒 川T3
月番K3
黒 川 T4月番 K4黒 川 τ5月番 さ ん。
ね。
【土 瓶 を 火 に か け な が ら】先 生 に も 困っ た も ん です よ、
ほ ん と に も う。
これ か ら も あ ることです か ら。
気 をつけてくれ な くちゃ困 り ま す よ。
14
.
5
/月 番 さ ん、
あ な た、
何 を な さってる。
/1
.
5
/何 を な さってる、
っ て、
火の上 に 酒 が あ る んです。
燗 を 付 けてる んです。
/2
.
0
/ 【息 を 吸 う音 】 お 燗 を 付 けて、
ど う な さ る。
/].
5
/ど う な さ る、
冷で飲む と体に毒だ か ら燗を付けてる んです よ、
あ た し。
/2
.
0
/いや あ な た 今、
酒 を 飲 んで はいけ ないと、
こう 仰っ た。
そりゃいけ ません よ、
いけ ま せ ん よ。
フクベ か ら 出る酒 は 飲 ん じゃいけ ない。
【土 瓶 を 手で指 しな が ら】土 瓶 か ら 出 る /1.
0/煎じ薬 なら構 わ ない で し ょ。
14
.
0
/そういう そ う い う こと な んです よ。
クックックッ、
実 は あ た し も 五 合ば か り持って来ま してね、
これ。
こ こ に
挙 げ
た のは、
火の見 廻 りの後
、
番 小 屋へ 戻っ てき た 面 々 が 燗 を 付 けて飲 も う と す る 場面であ る。
酒 を」
」
煎 じ薬1
と い う言い訳 を 付 けて飲 むの はオチ に関
わる重要
な部
分であ り、
『二番
煎じ 』 と い う噺
に は欠か せない部
分で あ る。
こ の書
き起 こ し で は、
セ リ フ と主 要 な所 作
を書
き出
し、
説
明の た め に、
各
言動 に便
宜的 に数
字を振っ た。2
つの ロ演書
き 起 こ し を 比較
し、
異
なる部 分
に下線
を入れて強
調して い る。 ま た、
発話 中
に ある/ ノに記 載 さ れ た 数 字は、
発話ま で の休 止の時間を0
.
5
秒 単 位で計 測 し た ものを 示 し た もの である。
セ 1丿フや 所 作の内 容 を 見てみ る と、2
つ の 口演 は 非 常 に 似 通っ てお り、
ほ ぼ 同 じである こと が 分 かる。
こ の場 面でセ リフ に最
も 大 き な 差 が見
ら れ たのは、
月番 (
T2
)
の 「見
れ ば 分 か る で しょ」 というもの で、
ベ テ ラ ン向 け口演に の み見られ た。
こ の発 言の有 無 は、
噺の登 場 人 物 に とっ ては さ ほ ど 意 味 は な い。
だ が、
実 物 が 目 に 見 えてはいない観 客 にとっ てみれ ば、
そ こに は 大 き な 意 味 的 な 違いが あ る。
この セ リフの 意 味 を あ り あ りと体 験 す る た め に は、
その場の視 覚 的 な イメー
ジを 共 有し ていること が 不 可 欠 だ か らであ る。
つ ま り、
「見 れば
分 か るで しょ」 というセリフは、
ベ テラン の観 客が想 像 力を働き か せて 視 覚 的 な イ メー
ジ
を 持っ ていること に 立 脚 し た表
現 なの であ る。
さら に こ の場 面では
、
ベテ ラン向 け口演と初 心 者 向 け口演
と のあいだで、
月 番 と 黒 川 先 生のや り と り に微 妙 な 違いが 見 出 さ れる。
二 人のや り と りでは、
番 小 屋で酒 を 飲んで はいけ ない と いっ て いた 月 番 が 燗 を 付 け る支度
を し始
め たのを 見て、
まず
黒 川 先 生 (KI
)は当惑 し な が ら 何 を して い る の か を 尋 ね る。
そ れに対し て、
月番
は支 度 を 進 め な がら、
燗 を 付 ける のだと飄々 と答
え る。
こ こ で、
酒を そ の ま ま飲ん で い て は役 人に 見つかる と お叱
りを受
け るが、
煎
じ薬
だと言
い訳す
れ ば大丈 夫
だ とい う 月番の考
え が 示 さ れ る。
こ れ は、
登場 人 物(
黒川 先 生 )に とっ て も観 客
に とっ て も一
種
の種
明 か しになっ て い る。
そ の証
拠 に、
ど ちら の 口演でも、
月番 (T5
) が 「実 は 私 も 五 合 ば か り 持っ て来てま してね」 と一
気 に 陽 気 な や り と りに 転 調 す る 発 言 では、
大 き な 笑い声 が 上 がっ ていた。
こ こ では
、
表 現 に あ る 細 や か な違
いを客
観的
に検 討
す る た め に、
最 も 単 純 に 発 話 まで の休 止の 時 間 (以 下、
発 話の 間と呼 ぶ)に着 目 した。
初 心 者 向 け口演
では、
二人の登 場 人物
のあい だで発 話の問の差 は比 較 的 小 さ かっ た。
登 場 人 物 は 互いに相
手 の 声 に 耳 を 傾 け、
ち ゃ ん と向き合お う と して いる よ う に見え る。
この初 心 者向
けの口演
は、
や りとりの一
つ一
つの発 言 が 丁 寧に展 開していく 印象
を与
え る。
そ れ に対
し て、
ベテ ラ ン向け ロ演
では、
初 心 者 向
け ロ演
に比
べ、
発話
の問
が黒川 先
生では よ り長く、
月 番では よ り短かっ た。
結
果 と し て、
二人の登 場 人 物 の発話
の間 に は、
大 きな 差
が見
られ
た。 こ のベテ ラ ン向
けの ロ 演は、
よ りダ
イ ナ ミック に 起伏に富
んだ 印象
を与え る。
し か し ながら
、
これ は観 客
の属 性 (
視
聴経
験の豊 富 さ ) に 基 づい て演
じ分
け た と い うもの で はな さそ うだ。
む しろ、
目の 前 の観 客が 示 す反 応に応じ て、
即 興的に構 成 さ れてい っ た よ う に44
デ ザ イ ン学研究特集号Specia[[ssueot JapaneseSeciety tor the Scienceof Deslgn
Vol
.
22・
3No
.
872015Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Society for the Science of Design思 わ れる