日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-48 392
-ソーシャルスキルの現実―理想自己の差異と否定的評価懸念の対人不安への影響
○中村 小海1)、本岡 寛子2)、佐藤 健二3) 1 )徳島大学総合科学教育部、 2 )近畿大学総社会学部総合社会学科、 3 )徳島大学大学院社会産業理工学研究部 目 的 高校生から大学生へと環境が変化するとともに,コ ミュニケーションの形にも大きな変化が訪れる。しか し,大学生のコミュニケーションにおいて大きな障壁 となっているものとして,対人不安がある。対人不安 とは,自分が他者にどう見られ,どのように評価され ているかについての不安である。本研究では,対人不 安に関連する要因としてソーシャルスキルにおける自 己受容と否定的評価懸念に注目した。ソーシャルスキ ルとは,相川(2000)の定義によると,「対人場面に おいて適切かつ効果的に反応するために用いられる言 語的・非言語的対人行動と,そのような対人行動の実 現を可能にする認知過程との両方を包含する概念」と されており,ソーシャルスキルの自己評価が低い人ほ ど対人不安を感じやすいと報告されている(原田・島 田,2002)。自己受容とは,ありのままの自分をその まま受け入れることと定義されており,理想自己と現 実自己の差異が大きい人ほど対人不安が大きいと報告 されている(松井,1990)。しかし,対人不安の発生・ 維持過程を表したモデルによると,対人不安者は「他 者の評価が重要である」という信念をもつ(Rapee & Heimberg,1997)。このことから,現実―理想自己の 差異が大きいことだけではなく,他者からの否定的評 価懸念(以下FNE)が働くことによって,対人不安が 発生している可能性があると考えられる。よって,本 研究では,ソーシャルスキルにおける現実―理想自己 の差異が大きいとき,否定的評価懸念が高い人は低い 人より,対人不安が高くなるという仮説の下,調査・ 分析を行った。 方 法 対象者 近畿大学総合社会学部に通う大学生158名 調査日時 2017年 6 月 5 日〜 6 月30日 調査手続き 心理学研究参加システム(PRPS)を用い て調査参加者を募集した。下記の質問紙を配布し,無 記名回答を求め,その場で回収した。 質問紙 1.相川・藤田(2005)のソーシャルスキルの 自己評価尺度を一部改変したものを,現実自己と理想 自 己 に つ い て そ れ ぞ れ 5 件 法 で 回 答 を 求 め た。2. Watson & Friend(1969)によるFear of Negative Evaluation Scale(FNE)の日本語版(石川・佐々木・ 福井,1992)を使用し, 5 件法で回答を求めた。3. 堀井・小川(1997)による対人恐怖心性尺度を一部改 変したものを, 5 件法で回答を求めた。 倫理的配慮 配布した質問紙のフェイスシートに,研 究内容・個人情報の取り扱い・結果の公表についての 説明,また,研究参加・質問紙への回答は参加者の自 由であり強制でないこと,回答し提出することをもっ て同意とみなす説明書きを記載し,研究参加者には フェイスシートを熟読したうえで回答するよう求め た。 結 果 ソーシャルスキル尺度と対人不安尺度の因子分析を 行った結果,ソーシャルスキル尺度は,に「解読」因 子,「関係開始」因子,「主張性」因子,「感情統制」 因子が抽出された。対人不安尺度は,<目が気にな る>悩み因子,<集団に溶け込めない>悩み因子, <社会的場面で当惑する>悩み因子,<自分や他人が 気になる>悩み因子が抽出された。 全尺度項目を用いて,差異の大きさ(大・小)と FNE(高・低)を独立変数,対人不安を従属変数とした 2 要因分散分析の結果,Table 1の結果が得られた。 続いて,各尺度の因子を用いて,同様な分散分析を 行った。また,差異の質(現実=理想・現実<理想・ 現実>理想)とFNE(高・低)を独立変数,対人不安を 従属変数とする 2 要因分散分析も行った。これらの結 果の一部がTable 2, 3 である。 考 察 ソーシャルスキルにおける現実―理想自己の差異 と,FNEはそれぞれ対人不安に影響を与えており,差 異が大きくなるほど対人不安が高く,FNEが高くなる ほど対人不安が高くなることがわかった。よって,本 研究の仮説は支持されなかった。 各尺度の因子を用いた分散分析では,差異の質は対 人不安に直接的な影響を与えていないことが明らかに なった。また,全体の特徴を見ると,関係開始スキル と主張性スキルにおいては,スキルをどのくらい持っ ているかにかかわらず,FNEが低い人まで対人不安が 高くなっていた。このことから,スキルを用いる場面 やその性質が,FNEやFNE以外の要因を働かせ,対人不 安を生じやすくさせている可能性があると考えられ る。よって,スキルをどのくらい持っているかより も,スキルを使うことをどのようにとらえるかという 観点が重要であると思われる。 対人不安や,社交不安障害への有効な介入法の 1 つ としてソーシャルスキルトレーニング(SST)が挙げ られているが,本研究の結果によって,ソーシャルス日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P2-48 393 -キルの自己評価と理想との関係をアセスメントし,こ れらを考慮したうえでトレーニングを行っていく介入 法が妥当である可能性が示唆された。その際,ソー シャルスキルを用いる場面によっては(例えば関係開 始場面など),SSTによってスキルを身に着けるだけで なく,スキルを使う状況をどのようにとらえるかにつ いて,認知再構成法等による介入が必要となると考え られる。 本研究で測定したソーシャルスキルにおける現実自 己は自己評価によるものであり,実際にどのくらい ソーシャルスキルを持っているのかは測定していな い。このことによって,自己評価と実際のスキルとの 間に存在する差異について考慮することができていな い。よって今後の課題として,客観的指標によって, 実際のソーシャルスキルを測定し,現実自己(自己評 価)・理想自己・実際のスキルの関係性を明らかにす る必要がある。 引用文献 相川充 (2000). ―人づきあいの技術―ソーシャルス キルの心理学 サイエンス社 相川充・藤田正美 (2005). 成人用ソーシャルスキル 自己評定尺度の構成 東京学芸大学紀要 第 1 部門 教 育科学, 56, 87-93. 原田朋枝・島田修 (2002). 社会的スキルの自己評価 と対人不安の関連 川崎医療福祉学会誌, 12 ( 1 ), 75-81. 堀井俊章・小川捷之 (1997). 対人恐怖心性尺度の作 成 上智大学心理学年報, 20, 55-65. 石井利江・佐々木和義・福井至 (1992). 社会的不安 尺度FNE-SMの日本語版標準化の試み, 行動療法研究, 18, 10-17.
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