学習方法の違いに関する
fMRI 解析
fMRI Analysis about Difference of Learning Method○三谷 慶太
1,星野 孝総
1,三浦 直樹
2,田邊 宏樹
3○Keita Mitani
1, Yukinobu Hoshino
1, Naoki Miura
2, Hiroki C. Tanabe
3 1高知工科大学,
2東北工業大学,
3名古屋大学
1
Kochi University of Technology,
2Tohoku Institute of Technology,
3Nagoya University
Abstract: In this research, social learning and individual learning are focused as learning methods
for task execution. Our purpose is to analyze brain activity difference of each learning method. Subjects belongs individual learning group, social and individual learning group and non-learning group to compare difference by learning methods. In addition, these 3 groups were measured brain activity while performing the Tower of Hanoi in MRI. In this report, we explain fMRI analysis results and performance results on task execution.
1. はじめに
近 年 , 脳 に 関 す る デ ー タ 取 得 が 可 能 な fMRI(functional Magnetic Resonance Imaging)な どの計測機器が普及してきた.それに伴い,人間の 認知機能に含まれる「遂行機能」を解明すべく様々 な研究が行われている[1].遂行機能とは「将来の目 標達成のために適切な構えを維持する能力」と定義 され,1)目標設定,2)計画立案,3)計画実行,4)効 果的遂行の4 段階により成り立っている[2][3].また, 遂行機能は単一の脳機能でなく,分割注意,複数課 題の処理能力,思考セットの変換能力,思考スピー ド,帰納的推測といった下位脳機能から成り立つと されている[3]. 本研究では遂行機能を量る課題として,Tower of Hanoi を選定し,課題遂行時の脳活動を fMRI を用 いて測定した.また,各被験者は課題について異な る方法で学習を行った.本稿では学習方法の違いに よる脳活動・パフォーマンスの比較結果について述 べる.
2. 実験方法
2.1. 実験課題 本実験では,Tower of Hanoi 課題を用いて遂行機 能の下位脳機能である帰納的推測の脳賦活の観測を 試みた.帰納的推測とは個別的・部分的・特殊な事 象から,一般的・普遍的な規則・法則を見出す推測 法である[3].Tower of Hanoi は以下のルールに従 って行われる(図 1 参照). l 3 本の杭と,大きさの異なる複数の disk(円盤) から構成される. l 初期位置では全ての disk が,左の杭に小さい ものが上になるように順番に積み重ねられて いる. l disk の移動は一手につき一枚ずつである. l 小さなdisk の上にそれより大きな disk を乗せ ることは出来ない. l 全てのdisk を右の杭に移動すれば完成となる. 図1 Tower of Hanoi の初期位置と完成位置 (disk3 枚の場合) n 枚の disk における完成までの最短手数は 2n-1 である.Tower of Hanoi では,試行錯誤的に disk を 移動して展開される個々の状態(個別的事象)に基づ いて,完成形を再現させる最終的方法(一般的方法) を編み出していく過程において帰納的推測が必要と される[3]. 本研究では,前述のように試行錯誤的に一般的方 法を編み出していく場合と,個別的事象に基づく一 般的方法を教師役から教わった上で完成形を再現さ せていく場合の脳活動差の観測を試みた.
2.2. 被験者 右利きの健常成人男性3 名(平均年齢 21.7 歳)を対 象とした.内 2 名は眼鏡(コンタクトレンズ)を使用 しているが,視覚に異常はない.被験者には書面に よる実験概要の説明を行い,実験参加の同意を得た 後,実験を実施した.2.4.で述べる実験手順におい て,学習方法の差を測るため被験者3 名を,それぞ れ「無学習者」,「個体学習者」,「社会+個体学習者」 として実験を行った.本研究では,個体学習を「試 行錯誤などを経て個体が単独で成し遂げる学習」,社 会学習を「他個体からの教示もしくは他個体の行動 の模倣による学習」と定義する[4][5].被験者に対し, 実験開始前にTower of Hanoi の知識と経験につい ての調査を行ったところ,「無学習者」は知識・経験 と共になかった.「個体学習者」は多少の知識と数回 の経験を有していた.「社会+個体学習者」は経験は ないが,多少の知識を有していた. 2.3. 装置と撮像方法 本実験では,MR 画像の撮像に SIEMENS 社製の MAGNETOM Verio 3T を用いた.撮像パラメータ
はTR/TE = 2500/30ms, FoV = 192mm^2, Voxel
size = 3.0mm^3, slice thickness = 3.0mm であり, 1 セッションにつき 360 スキャン撮像した.撮像開 始時の6 スキャンは組織の縦磁化が非定常であるた め解析では除外した.さらに,位置情報を得るため に,1.0mm^3 の解像度の解剖画像を T1強調画像で 撮 像 し た . 実 験 課 題 お よ び 反 応 取 得 は ,Math Works 社製のソフトウェア,Matlab R2013b を用 いて実験プログラムを作成および実行し制御した. 実験課題映像は,MRI 室外に設置したプロジェクタ から望遠レンズを通して,MRI 装置の頭部側開口部 に設置した樹脂製スクリーン上に投射した.被験者 は頭部上方のヘッドコイル外部に固定した鏡を介し てスクリーン上の映像を視認した.MRI 装置内にて 操作可能な片手用4 ボタンコントローラ(内 3 ボタン のみ使用)を右手親指で操作することにより課題を 遂行した. 2.4. 実験手順 被験者はMRI 装置に仰向けに横たわった状態で, 右 手 に 持 っ た コ ン ト ロ ー ラ を 用 い て Tower of Hanoi 課題を遂行した.本実験では 3〜6 枚の円盤 によるTower of Hanoi 課題を行った.コントロー ラに配置された上下左右のボタンの,左・上・右の ボタンがそれぞれTower of Hanoi の左・中央・右 の柱に対応しており,下に配置されたボタンは使用 しなかった.操作方法として,柱に対応するボタン を一回押すと,その柱の最上段のdisk を持ち上げた 状態になる.その状態から,各柱に対応するボタン を押すと持ち上げた disk が移動する仕様となって いる(図 2 参照).完成した場合,disk は初期状態に 戻る. 図2 Tower of Hanoi の操作方法 実験は「休みと課題を交互に行う形式」と,「2 つ の課題間の引き算をする形式」を組み合わせたブロ ックデザインを採用した[6].実験は 2 回のセッショ ンに分けて行った.1 セッションは 8 回の Task ブ
ロ ッ ク(Task1&Task2 × 3~6disk: 各 40sec) と
Repeat ブロック(Repeat1&Repeat2×3~6disk:各 40sec),各課題間の rest ブロック(各 15sec)で構成
した.また,各セッション前に3 分程度の操作練習 を行った.1 セッションの詳細なタイムシーケンス を図3 に示す. 図 3 1 セッションのタイムシーケンス Total:14min55sec Repeat.1 Repeat.1 Repeat.1 Repeat.1 Repeat.2 Repeat.2 Repeat.2 Repeat.2 rest Task.2 Task.2 Task.2 Task.2 Task.1 Task.1 Task.1 Task.1 3disk: 4disk: 5disk: 6disk: rest rest rest rest rest rest rest rest rest rest rest rest rest rest rest rest 10sec 40sec 15sec 40sec 15sec 40sec 15sec 40sec 15sec
Task ブロックと Repeat ブロックでは 3〜6 枚の disk による Tower of Hanoi 課題を 2 ブロックずつ 行った.各ブロックの内容について以下に述べる. 「Task ブロック」
Task ブロックでは前述した Tower of Hanoi 課題 を実施した.被験者には課題が完成しても時間内で あれば何度でも解くよう教示した.各Task1 ブロッ クでは初期状態(左の柱に全ての disk が重なった状 態)から開始し,Task2 ブロックでは 1 ブロック目終 了時の状態から課題を開始した. 「Repeat ブロック」 Repeat ブロックでは,被験者が Task ブロックで 実際に動かした課題再現映像を投影し,その動きに 合わせてコントローラのボタンを押すよう教示した. この時のボタン押下は課題に影響しない.Repeat ブロックは,実験後の画像解析において,帰納的推 測による脳賦活のみを観測するためにデザインした. つまり,Task ブロックから Repeat ブロックの差分 をとることにより,課題目視による視覚情報と,コ ントローラ操作による運動情報を取り除くことが目 的である. 「rest ブロック」 rest ブロックではスクリーン中央に表示される十 字記号を注視するよう教示した. 被験者3 名をそれぞれ「無学習者」,「個体学習者」, 「社会+個体学習者」グループに分けて実験を行っ た.各グループでは各セッション間の行動が異なる. 本実験における各グループのタイムスケジュールを 図4 に示す. 図 4 各グループの実験タイムスケジュール 無学習者はセッション間で学習行動を行わない. セッション間では課題について想起しないよう教示 し,課題とは無関係の本を読んでもらった. 個体学習者はセッション間で個体学習を行った. 個体学習の内容としては,別室においてPC 上でセ ッション時と同等の課題を実施した.室内には監視 役と被験者の二人のみで,監視役は操作方法の説明 以外の発言は行わなかった. 社会+個体学習者はセッション間で個体学習に加 えて社会学習を行った.社会+個体学習の内容とし ては,個体学習者とは違う別室で,個体学習者と同 様にPC 上での課題を実施した.室内には教師役と 被験者の二人のみで,教師役は学習の初めにTower of Hanoi の解き方のコツを教授し,課題学習中も被 験者に迷いが見られた時に再度教授した. 2.5. 画像解析 fMRI データに対して,時間的・空間的な前処理を 施した後,各被験者の個人解析を行った.前処理, 個人解析に関して,Matlab 上で動作する解析ソフ ト SPM8 (http://www.fil.ion.ucl.ac.uk/spm/) を用 いた.有意な活動領域は p<0.001(uncorrected) を 満たすものとした.
3. 実験結果
3.1. fMRI 解析結果個人解析結果について述べる.解析にあたり,セ ッション1,セッション2それぞれにおける,各 Task
時のfMRI データから,対応する Repeat 時の fMRI
データを引いた結果を総和した.各被験者における セッション2の総和したデータからセッション1の 総和したデータを引いた結果を図5に示す. 図 5 各被験者の主な活動領域 a:無学習者, b:個体学習者, c:社会+個体学習者 + " 2 2 2 + " + " 40min + " M1 PoG Cb a b c
画像解析結果より,無学習者・個体学習者には, ほぼ有意な活動は見られなかった(図 5a,b 参照).こ れに対し,社会+個体学習者の解析結果では,左一 次運動野(M1)から左中心後回(PoG)にかけて,また 右小脳(Cb)に有意な活動が見られた(図 5c 参照). 3.2. パフォーマンス結果
課題遂行時のパフォーマンス結果について述べ る.なお無学習者の結果について,セッション2の 3disk 時において,実験に不備があったため結果を 除外する.本実験では課題中のボタン押下回数と押 下平均時間,課題完成回数を測定した.表1 に各被 験者における各セッション・各disk 枚数時の課題完 成回数を示す.表の値はTask1 と Task2 の合計で ある. 表1 各課題時の課題完成回数 各被験者の傾向について述べる. l 無学習者 Ø セッション2_4disk においてのみ 1 回の課 題完成が見られた l 個体学習者 Ø セッション1 の時点で 3,4,5disk の課題完成 が数回見られた Ø セッション2 の 3,4,5disk ではセッション 1 の約2 倍の課題完成が見られた Ø セッション1,セッション 2 ともに,6disk で の課題完成は見られなかった l 社会+個体学習者 Ø セッション1 の時点で 3,4disk の課題完成が 数回見られた Ø セッション 2 の 3,4disk ではセッション 1 よりも課題完成回数の増加が見られ,5disk においても課題完成が数回見られた Ø セッション1,セッション 2 ともに,6disk で の課題完成は見られなかった 次に各被験者における各セッション・各disk 枚数時 のボタン押下回数を図 6 に示す.グラフの値は Task1 と Task2 の平均値であり,各被験者の課題完 成回数は異なる. 図 6 各課題時のボタン押下回数 各被験者の傾向について述べる. l 無学習者 Ø セッション1,セッション 2 間で押下回数に 大きな差は見られなかった l 個体学習者 Ø セッション1に比べ,セッション 2 で押下 回数の増加が見られた 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 3 4 Disk 5 6 Session1 Session2 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 3 4 Disk 5 6 Session1 Session2 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 3 4 Disk 5 6 + Session1 Session2
l 社会+個体学習者 Ø 3,4,5disk において,セッション 2 で押下回 数が増加しているが,6disk においては増加 が見られなかった Ø セッション2 において 3,4,5disk と進むにつ れ押下回数の増加が見られた 次に各被験者における各セッション・各disk 枚数 時のボタン押下平均時間を図7に示す.グラフの値 はTask1 と Task2 の平均値である. 図7 各課題時のボタン押下平均時間 各被験者の傾向について述べる. l 無学習者 Ø セッション1,セッション 2 において大きな 操作時間の変動はなく,一定の間隔で操作 を行っていたことが分かる l 個体学習者 Ø セッション1 に比べ,セッション 2 で押下 平 均 時 間 は 減 少 し て お り , 全 課 題 で 約 0.5[sec]と一定の間隔で押下している. Ø セッション 1_3,4,5disk では 0.6〜0.8[sec] と一定だった押下平均時間が,6disk のみ約 1.2[sec]と 2 倍程度の時間を要している. l 社会+個体学習者 Ø 3,4,5disk においてセッション 1 よりセッシ ョン 2 の押下平均時間は減少しているが, 6disk のみ増加が見られた 3.3. 考察
fMRI 解析結果より,「無学習者」,「個体学習者」 にはセッション2 からセッション 1 の差分から有意 な脳活動は見られなかった.「無学習者」については, セッション間の学習を行っていないため,脳活動に 有意な差が見られなかったと考えられる.しかし「個 体学習者」についてはセッション間で個体学習を行 ったにも関わらず脳活動に有意な差は見られなかっ た.パフォーマンス結果では,セッション間でパフ ォーマンスが上がっているため,学習が進んでいる と考えられる.これは,学習が進むにしたがって有 意 な 脳 活 動 が 少 な く な る と い う 報 告 さ れ て お り [7][8],それが原因と考えられる.「社会+個体学習 者」の fMRI 解析結果から,左 M1 と左 PoG,右 Cb に有意な賦活が見られた.またパフォーマンス結 果より,セッション2_6disk において 3,4,5disk 時 よりも押下回数が減り,平均時間が長くなる結果が 見られた.これは,試行錯誤ではなく,セッション 間で学習した完成までの「最終的方法(一般的方法)」 を想起・計画しながら課題遂行したための結果だと 考えられる.また,計画時には Cb が賦活するとい う報告から[9],fMRI 解析結果とパフォーマンス結 果が一致する. 今回の課題デザインでは帰納的推測の脳活動のみ を観測するために, Task ブロックから Repeat ブ ロックの差分をとり解析を行った.しかし被験者が Repeat ブロック時に多少なりとも課題についての 0.00 0.30 0.60 0.90 1.20 1.50 1.80 3 4 Disk 5 6 Session1 Session2 0.00 0.30 0.60 0.90 1.20 1.50 1.80 3 4 Disk 5 6 Session1 Session2 0.00 0.30 0.60 0.90 1.20 1.50 1.80 3 4 Disk 5 6 Session1 Session2
思考を行った可能性が考えられる.その為に実際は 賦活した脳活動が解析結果として観測できなかった と考えられる.
4. おわりに
今回の実験では,各学習グループ 1 名ずつの被験 者であったため賦活の差を特定するには不十分であ る.しかし,fMRI 解析結果・パフォーマンス結果 より各グループ間には差がある可能性が示された. 今後の課題として,実験デザインを再考した上で, 更なる被験者による測定を行う.参考文献
[1] Grafman Jordan, et al: Cognitive planning deficit in patients with cerebellar atrophy, Neurology, Vol.42, pp.1493-1496, 1992
[2] Lezak Muriel D: The problem of assessing executive functions, International Journal Psychology, Vol.17, No.1-4, pp.281-297, 1982 [3] 福井俊哉: 遂行(実行)機能をめぐって, 認知神経 科学会, Vol.12, No.3-4, pp.156-164 2010 [4] 寺嶋秀明, 早木仁成, 林耕次: 狩猟採集民の調査 に基づくヒトの学習行動の特性の実証的研究― 環 境 ・ 学 習 ・ 進 化, 生 態 人 類 学 会 , No.17, pp.33-35 2011 [5] 高橋伸幸: 創造性、試行錯誤、模倣能力の間の関 係 を 探 る, Replacement of Neanderthals by
Modern Humans, Vol.5, pp.54-55 2012
[6] 杉下守弘: 機能的 MRI における心理的課題, 認 知神経科学会, Vol.1, No.1, pp.56-59 1999 [7] Imamizu H, Miyauchi S, Tamada T, et al:
Human cerebellar activity reflecting an acquired internal model of a novel tool, Nature, Vol.403, pp.192-195 2000
[8] Tamada T, Miyauchi S, Imamizu H, et al: Cerebro-serebellar functional connectivity revealed by the laterality index in tool-use learning, Neuroreport, Vol.10, pp.325-331 1999 [9] 大沢愛子, 前島伸一郎: 小脳を中心としたテン ト下病変の高次脳機能, 高次脳機能研究, Vol.28, No.2, pp.192-205 2008