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製造業におけるデジタルトランスフォーメーションの盲点

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製造業における

デジタルトランスフォーメーションの盲点

働き方改革トピック

KPMG

Insight

KPMG Newsletter

Vol.

26

September 2017

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製造業における

デジタルトランスフォーメーションの盲点

      

KPMG コンサルティング株式会社 Advanced Innovative Technology シニアマネジャー 山本 直人 マネジャー Hyun Baro コンサルタント 村上 まり子 近年製造業ではIoT(Internet of Things)の推進による効率化が注目され、製造業に おいては製品や機械をインターネットに繋げることでデジタルトランスフォーメー ションに取り組んでいます。IoTによってモノの情報は整形されたデータ(形式知化 されたデータ)として自動収集され、データ分析を行うことによってコストやリード タイムの削減といった効率化に寄与していますが、改善の流れから取り残された重 要な要素として、「人」の存在があります。人の経験則で行われているケースを分析 可能な形式知に変換し、データ分析の高度化を進めることが重要です。また、次世代 のユーザー・インターフェース、あるいはユーザー体験型インターフェースとして期 待される、AR(拡張現実)/MR(複合現実)/VR(仮想現実)を搭載したウェアラブ ル・デバイス(以下「次世代UI/UXデバイス」という)を用いることで、形式知化した 情報(データ)をさらに高度に活用することが可能となり、製造現場の働き方や経営 者の意思決定スタイルの変革に寄与すると考えます。 本稿では、製造業におけるデジタルトランスフォーメーションの盲点と、さらなる 高度化のための方策について解説します。 【ポイント】 − 現状の製造業におけるデジタルトランスフォーメーション施策としてIoT への取組み事例が増えているが、製造プロセスの「製造」領域内(主に工 場)のデジタル化に留まっており、さらなる高度化の余地を残している。 − 企画業務はもとより、研究や製品の設計・開発、品質管理等の領域といっ た、人の暗黙知によって業務が推進されている領域にも目を向けるべき である。 − 暗黙知を形式知として転換したうえで、次世代UI/UXデバイスやAIを活 用し、データ活用の高度化に取り組んでいくことが、真のデジタルトラン スフォーメーション実現にあたってのポイントである。

山本 直人

やまもと なおと

Hyun Baro

ヒョン・バロ

村上 まり子

むらかみ まりこ ウェブサイトからもPDFファイルをダウンロードいただけます。 QRコードをご利用ください。

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© 2017 KPMG Consulting Co., Ltd., a company established under the Japan Company Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

2 KPMG Insight Vol. 26 Sep. 2017

Ⅰ. 製造業におけるデジタルトラン

スフォーメーションの実態

1. IoTによる工場の稼働率や生産性が向上 インダストリアルインターネットやインダストリー4.0に代表 される欧米のデジタルトランスフォーメーションの波に押され、 日本においてもIoT導入の波が押し寄せています。特に、製造 業においてはマスカスタマイゼーションやデジタル・ファクト リーを実現するため、IoTへの取組みの事例が増加しています。 IoTは、設置されたセンサーにより、工場の機器の稼働状況を 継続的に把握し、障害発生を未然防止することで稼働率を向上 させ、また機器類を高度に制御し、生産性を大幅に引き上げる ことに寄与します。また、そこから得られた情報を分析基盤に 蓄積することにより、さらなる製造現場の運用高度化や、製造 における競争力向上のデジタル戦略の立案に繋げることが可能 と言えます。 2. 人の知が集約されていない点がIoT導入にあたっての 盲点 一方で、俯瞰した視点で製造業における製造プロセス全体を 見てみると、現状、IoTが導入されている領域は、製造プロセス の「製造」領域内(主に工場)に留まっていることがわかります (図表1参照)。「製造」領域におけるデジタル化により機器の稼働 ログは蓄積され、それを分析することによって機器を高度に制 御でき、工場の稼働率や生産性向上に寄与しますが、「製造」の 周辺業務を行う、人の知が集約されていないという点は、大き な課題と言えます。筆者はこれを製造業におけるIoT導入にあ たっての盲点であると考えます。

Ⅱ. 暗黙知を形式知化

1. 人の経験則に頼った業務に起因する潜在的リスク ITの導入、普及に伴い、企業において業務を実行するうえで ITシステムは基盤の役割を担いますが、人に依存した仕事もい まだに多く存在しています。たとえば、製品設計・開発のなか での部品の組み合わせや、取り付け角度、素材を変更した際の リスク要因の洗い出しは、いまだに人の経験則で行われている ケースが非常に多く見受けられます。従業員の経験に頼った判 断をしているということは、仮に担当者の経験範囲外のことが 発生した場合は、潜在的な不具合としてそのまま製造ラインに 不具合が潜り込んでしまう可能性があるということを意味しま す。市場に出回った後の製品不具合の発生は、企業にとって死 活問題であることは言うまでもありません。現状のIoTの導入 の進め方では、上記のような潜在的なリスクに対応できません。 2. 暗黙知を形式知化して企業資産として活用 また、企画業務、研究や製品の設計・開発等といったクリエ イティブな領域においても、暗黙知を中心として仕事がまわっ ていることが散見されます。こうした暗黙知を企業の資産とし て活かすことこそIoT導入により効果を享受すべき対象として 取り組むべきです。企業のさらなる成長のためには暗黙知を重 要な企業資産として位置付け、蓄積し、高度な分析処理を行う 【図表1 製造周辺プロセス内におけるIoTの適用箇所】 流通・ アフターサービス 調達購買・ サプライチェーン 商品開発・ 製品設計 販売・ マーケティング 生産技術情報 生産管理情報 製品設計情報 設備設計情報 機械・装置 作業者 制度・法律 基準・標準 出典:一般社団法人日本機械学会の「製造オペレーション管理のフレームワーク」を基に    筆者が作成 工程 設計 生産技術 生産準備 IoTがデジタル化している分野 製造 製造オペレーション管理 人員計画 人材育成 保全計画 設備診断 品質管理 トレーサビリティ 生産計画 スケジューリング 【次世代 UI / UX デバイス】

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ことにより大きな成果に結びつけることが可能です。そのため には、暗黙知を形式知に転換する必要がありますが、大きな労 力を要することは想像に難くありません(図表2参照)。

Ⅲ. 真のデジタルトランスフォー

メーションに向けた次世代UI/

UXデバイスの活用

1. 暗黙知を形式知に転換しデータ活用を高度化させる 次世代UI / UXデバイス では、暗黙知を効率的に形式知に転換するには、どのような 取組みをすればよいのでしょうか。1つの答えとして、製造現場 における次世代UI/UXデバイスの活用を挙げることができま す。たとえば、マイクロソフト社の「Microsoft HoloLens」は、セ ンサーやカメラ、マイクを備えていて、製造現場で起こってい ることを音声、画像、各種センサーデータとして収集すること が可能です。通常、人が情報を収集する際は収集をする人のバ イアスが入り、また報告書に記載するなど文字情報に変換する 際には情報量が欠落してしまいます。次世代UI/UXデバイス を用いることで、音声、画像、各種センサーデータとして人の バイアスが入ることなく高精度な情報を手に入れることができ ます。 多くの製造現場では、製品の品質のチェックを技術者が目視 で行っている場合がありますが、技術者が次世代UI/UXデバ イスを装着して作業を進めることにより、品質のチェックをし た作業の一部始終を画像や音声、センサーデータとして収集す ることが可能になります。これまで暗黙知として熟練の技術者 に属人的に蓄積されてきた情報を誰もが利用可能な形式知とし て、特に人工知能(AI)の学習用データ(教師データ)として活 用することができることは注目すべきです。 次世代UI/UXデバイスを活用して作業の一部始終を形式知 として保存することで、製造現場での属人的な経験則に基づく 判断からデータに基づく客観的な判断に変革することができま す。その結果、製品の品質がより向上し、前述の問題は解決さ れます。さらに音声、画像、センサーデータの蓄積がされると、 AIに学習させることで熟練ではない若手の技術者であっても、 次世代UI/UXデバイスにレコメンドとして点検すべきポイン トを表示させ、効率的に品質チェックの作業を進めることがで きるようになります。その適用範囲は、自然言語、画像からの製 品状態、部品の組み合わせとマニュアル照合、作業指示、想定 される不具合予測など、幅広く多岐にわたります。また、設計・ 開発時の手戻りの工数も大幅に削減され、製品の市場投入にか かる時間も短縮されることになり、製造現場の競争力の向上に 繋がります。 2. 現場作業におけるデータ活用高度化 人が作業を実施した結果をデータとして収集する手段は、次 世代UI/UXデバイスに限定されるものではありませんが、クラ ウドサービスとして提供される分析基盤と連動させることでさ らに大きな効果を創出することが可能です。たとえば、現場作 【図表2 暗黙知である経験則の形式知化】 過去の知見を 網羅的に全量分析/ それに基づくレコメンド 個人の経験に 基づいた知識活用 経験外の知識は 発見できず 活用不可 経験外の領域 では誤判断の リスクあり 個々人の経験則に頼った作業の場合 暗黙知である経験則の形式知化 出典:KPMG ? 経 験 知 識 経 験 知 識 経 験 知 識 経 験 知 識 経 験 知 識 経 験 知 識 人の経験・ 知見を集約 経 験 知 識 経験 知 識 経 験 知 識

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© 2017 KPMG Consulting Co., Ltd., a company established under the Japan Company Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved.

4 KPMG Insight Vol. 26 Sep. 2017

業において、不明な点があれば、Skype等の通信ツールを利用 することで、遠隔地にいる熟練技術者にリアルタイムで指示を 仰ぎながら作業を進めることが可能です。間違いが発生しやす い作業に限定して、作業の進み具合を遠隔から常時モニタリン グしてもらうことで、若手の技術者が分厚いマニュアルやタブ レットを片手に視線を行き来させ、経験と勘を頼りに実施して いた作業状況を劇的に変化させ、熟練者が見守る安心、安全な 状況下で間違いを防ぎながら迅速に作業を進めることが可能と なります。 3. データ活用の高度化による経営者の意思決定改革 また日々収集した音声、画像、センサーデータから経営者が 意思決定に必要とする情報をリアルタイムに整えることも可能 【図表4 業務適用を考えるうえでのフレームワーク】 HoloLens モノを見る 関連情報表示 AI・分析システム連携 基幹システム連携 視野の共有 情報・指示伝達 状態検知・識別 情報の記録 オペレーション マニュアル・指示 モノの状態を 知る HoloLens クラウド(Azure) 出典:KPMG 正確かつ迅速な分析による意思決定を実現 潤沢な、質の高いデータが欠如なく自動でバックエンドに収集 バックエンドシステム連携 ヒトとのコラボレーション 情報分析 意思決定 意味要約 情報可視化 特徴抽出 Point 傾向・相関抽出 【図表3 製造業におけるデータ活用の高度化の全体像】 高精度な 情報取得 クラウド連携 高精度な 経営意思 決定材料整理 迅速・高精度な 経営意思決定 分析基盤 経営 本部機能(管理・分析) 現場 Real Digital による現場作業の効率化 情報の欠落なく現場の情報を記録 管理層との高度なコラボレーション 高精度な情報の分析・情報可視化・考察 • ビッグデータ解析 • 画像データ解析 • リアルタイムデータ解析 MR(複合現実)型の直感的な経営会議 現場に対する適切な指示 多角的にドリルダウン可能な Dashboard 同時参加型マルチリージョン経営会議 Visualize Learn store Analyze Cognitive Cloud 出典:KPMG

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です。従来、経営者の意思決定には、経営企画部門等が処理・ 加工した分かりやすい資料が使用されていますが、作成に時間 を要することや、経営企画部門の判断が入り込んでしまうとい う課題がありました。特徴量を抽出する等のアルゴリズムを活 用して音声、画像、センサーデータから経営者が意思決定に必 要とする情報をリアルタイムに整える試みは先進的な企業にお いて始まっています(図表3参照)。

Ⅳ. 実現のためのリファレンス

アーキテクチャ

筆者が進める前述の先進的な取組みは、リファレンスアー キテクチャを定義し、実証実験を進めています。図表4に示す のは、透過型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)により現実 世界とデジタル世界の融合を可能にするマイクロソフト社の 「Microsoft HoloLens」とクラウドコンピューティングプラット フォームの「Microsoft Azure」をベースとしたアーキテクチャ モデルです。 また、本稿で述べたメリットを享受するため、HoloLensで見 た画像をAIによって処理し、その結果から知見を得るために は、画像処理技術が必須となります。これらを用いることで、図 表5に示すようなユースケースの開発を進めています。

Ⅴ. 最後に

暗黙知を形式知に転換したうえで次世代UI/UXデバイスや AIを活用し、さらなるデータ活用の高度化に取り組んでいくこ とが、企業における真のデジタルトランスフォーメーションを 実現するうえで必須です。 日本の製造業は、今後熟練の技術者が定年退職を迎え、熟 練技術者が有している知識の継承が課題となります。また高 品質な製品は、日本の競争力の源泉でもあります。こうした社 会背景を踏まえ、次世代UI/UXデバイス×AI×クラウドのソ リューションが、日本の社会を支える一助となるのではないで しょうか。 ※ 文中の社名、商品名等は各社の商標または登録商標である場合があり ます。 本文中では、Copyright、TM、Rマークなどは省略しています。 本稿に関するご質問等は、以下の担当者までお願いいたします。     KPMG コンサルティング株式会社 TEL:03-3548-5111(代表番号) シニアマネジャー 山本 直人  naoto.yamamoto@jp.kpmg.com マネジャー Hyun Baro(ヒョン・バロ) baro.hyun@jp.kpmg.com コンサルタント 村上 まり子  mariko.murakami@jp.kpmg.com 【図表5  HoloLensを活用したユースケース】 出典:KPMG 画像からモノに対応する設計書情報を取得 • 大規模な機械装置や船舶等の製造の過程では、様々な部 品を正しい仕様で組み合わせていく必要がある • 部品を画像識別し、部品に対応する設計情報を表示する ことで正しい作業を支援 • 大規模な建造物や機械装置の整備・保全業務のなかで、 モノの劣化状況を画像識別することで、状態を判定 • 必要に応じて、熟練技術者との画面共有によりリアルタイ ムかつ高度な判定を可能とする 画像からモノの異常・状態を判別

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監査法人のガバナンス・コードへの

あずさ監査法人の取組

収益認識に関する会計基準(案)の公表

~基準概説~

kpmg.com/ jp

特集1-1

収益認識に関する会計基準の適用による影響

特集1-2

KPMGグローバルCEO調査2017

~破壊、そして成長へ~(日本企業の分析)

特集2

KPMG

Insight

KPMG Newsletter

巻頭

Vol.

26

September 2017

KPMGジャパン marketing@jp.kpmg.com www.kpmg.com/jp 本書の全部または一部の複写・複製・転訳載および磁気または光記録媒体への入力等を禁じます。 ここに記載されている情報はあくまで一般的なものであり、特定の個人や組織が置かれている状況に対応するものではありません。私たちは、 的確な情報をタイムリーに提供するよう努めておりますが、情報を受け取られた時点及びそれ以降においての正確さは保証の限りではありま せん。何らかの行動を取られる場合は、ここにある情報のみを根拠とせず、プロフェッショナルが特定の状況を綿密に調査した上で提案する 適切なアドバイスをもとにご判断ください。

© 2017 KPMG AZSA LLC, a limited liability audit corporation incorporated under the Japanese Certified Public Accountants Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved. Printed in Japan.

© 2017 KPMG Tax Corporation, a tax corporation incorporated under the Japanese CPTA Law and a member firm of the KPMG network of independent member firms affiliated with KPMG International Cooperative (“KPMG International”), a Swiss entity. All rights reserved. Printed in Japan.

The KPMG name and logo are registered trademarks or trademarks of KPMG International. FSC マークをこちらに入れてください。 V o l.26 September 2 01 7

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