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中性子関連技術解説書 1. はじめに 中性子利用技術名 ; 粉末中性子線回折解説書作成者 ; 技術士氏名伊東亮一 粉末中性子線回折は試料に中性子を当て 散乱される中性子線を測定して試料中の原 子構造を調べる分析法です 粉末のままで結晶構造解析ができます 2. 概要 2.1 粉末中性子線回折従来 結晶

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中性子関連技術解説書 中性子利用技術名 ; 粉末中性子線回折 解説書作成者 ; 技術士 氏名 伊東 亮一 - 1 - 1.はじめに 粉末中性子線回折は試料に中性子を当て、散乱される中性子線を測定して試料中の原 子構造を調べる分析法です。粉末のままで結晶構造解析ができます。 2.概要 2.1 粉末中性子線回折 従来、結晶構造を調べる目的では中性子線回折装置はX 線回折法と同様に使われてき ました。この度、J-PARCに高性能の粉末中性子線回折装置が新設されて産業へのより 一層の応用が期待されています。 2.2 装置の概要 これまで粉末中性子線回折装置として、(独)日本原子力研究開発機構の原子炉JRR-3

に設置された HRPD(High Resolution Powder Diffractometer)が使用されてきま したが、J-PARCに設置された iMATERIA や Super HRPD は測定時間を大幅に短縮 できることが期待されています。粉末中性子線回折装置を図 1 に示します。 図1粉末中性子線回折装置 ( b ) H RPD(JRR3)2) ( a )i MATERIA1) 3.粉末中性子線回折の原理 粉末に入射した中性子線はX 線と同様に Bragg の回折条件を満たして回折します。 X 線の侵入深さは数μm~1mmですが、中性子の侵入深さは数 cm~数十cmとX 線 より大きくなります。このことから、中性子線回折法は粉末の分析に適しています。中 性子回折の概念を図23)に示します。図中の式2dsinθ=nλが Bragg の回折条件と 定義されています。図34)は粉末中性子回折の測定系の概略を示します。粉末試料 に中性子線を照射した場合に散乱される角度を計測して結晶構造を調べます。 図 2 中性 子線回折の原理(概念)3 ) 図3 中性 子回折測定系4)

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- 2 - 4.技術解説 4.1 中性子の特徴4) 中性子は原子核を構成する粒子の一つですが、物質・生命科学実験では、原子核反 応で生じた高エネルギー中性子を、水や液体水素にあてて冷やした「低エネルギー中 性子」を使用します。この「低エネルギー中性子」には以下の優れた特徴があります。 (1) 物を通り抜ける能力(途中で散乱の影響を受けない) (2) 同位体も見分ける能力(X 線回折では測定不可) (3) 中性子は最小の磁石(磁気構造の測定が可能。X 線では不可能) (4) 原子の並び方を見る(原子の配列決定) (5) 原子の動きを見る(結晶構造中で移動する軽元素の挙動を調べる上で有効) 4.2 X 線回折との比較 中性子線回折はX線回折と比べて産業用としてあまり利用されませんでした。中性子 線回折装置は中性子線を発生する施設に限られているうえ、測定に時間を要しますので、 普及しなかったことによります。しかし、中性子線回折装置はX 線回折装置にない特徴 をもつため、多方面から注目されています。表1は両者の比較を示します。 X線はナトリウムより重い元素の構造を調べるのに適していますが、中性子線は 重い元素ばかりでなく、水素、リチウム、酸素、フッ素等の軽い元素の挙動や構造の 解析に適しています。また、中性子は磁気を保有していますので、物質の磁気構造 表1 中性子線とX線の比較(*は予想値) 中性子 項目 iMATERIA HRPD X線 測定可能な元素 軽元素 重元素 ○ ○ × ○ 測定に必要な試料の量 ○ (1.5CC)* △ (4CC) ○ (0.5CC) 測定に要する時間 ○ (数分)* △(数 h~1 日) ○ (数分) 粒子の大きさ ナノレベル~ サブミクロン* 数 nm~数μm 数 nm~数μm 磁気構造測定 ○ ○ × 材質 セラミック、金属、 有機化合物 セラミック、金属 セラミック、金属 図3 元素の散乱能力の比較5) 図4 磁気散乱の模式図3)

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- 3 - を解析することができます。これらはX 線回折では不可能です。また、中性子線回 折では、原子量が同じで質量数が異なる同位元素の解析に適しています。例えば、水素 (質量数2)と重水素(質量数3)、鉄の同位体の構造を識別することが可能です。一方、X 線回折では同位元素の構造を識別することは不可能です。これらの挙動をX 線と比較 して図35)に示します。図43)には磁気散乱の模式図を示します。 5.産業応用の事例 当面は中性子回折でなければ測定できない用途において利用することが考えられます。 次に、いくつかの事例を紹介致します。 (1) 粉末原料中のリチウムの分布決定 (a) Li イオン電池材料 LiMn2O4の構造1)(b)イオン伝導体 La 2/3-xLi3xTiO3の構造6) 図5 Li イオンを含む材料の結晶構造 (2) 磁性体の磁気構造 中性子は磁気構造を調べるのに適しているばかりでなく、磁性体を構成している 鉄等の同位体も解析できます。図6は鉄スピネル BaFe12O19 磁性体の構造及び磁気 構造の解析結果を示します。X 線回折では同位体元素や磁気構造を測定できないので、 中性子回折によって可能になった事例といえます。 (a) 回折パターン (b) 磁気構造 図6 鉄スピネル磁性体 BaFe12O19の構造解析6) (3) ナノ粒子中の軽元素の挙動 フラーレンC60、カーボンボンナノチューブのナノ粒子及びそれに軽い金属を内蔵 した場合の構造を測定できます。図 7 はこれらの構造を示します2)、7)

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- 4 - (a) フラーレンの回折パターン7) (b) Li を吸蔵したハードカーボンの構造2) 図7 ナノカーボンの粉末中性子線回折結果 (4) メタンハイドレートの構造 メタンハイドレートは氷が形成するカゴの中にメタンガスが内蔵されている物質で 将来のエネルギー源として注目されています。粉末中性子線回折によって構造が明ら かにされました。図8は解析結果8)を表わしています。 図8 メタンハイドレートの構造8) 図9 その場観察装置の例2) 6.今後開発が必要な周辺機器・技術 粉末中性子線回折を産業界で活用するには周辺機器や技術の開発が必要です。 ① 極低温~高温まで可変できる恒温槽:高温酸化物超電導体物質を構成している酸素 の結合状態を決定するため、極低温~高温まで温度を変えてその場観察することによ って超伝導発現のメカニズムを明らかにするとともに新材料発見に貢献することが 期待できます。また、水素、酸素、真空、空気等の雰囲気に制御できる 装置が求められています。 ② 各種雰囲気で測定できる恒温槽:高温作動型の固体酸化物燃料電池SOFC

(SolidOxide Fuel Cell)は酸素原子を含む化合物ですので、酸素原子の位置や構造 を詳細に決定することが期待されます。固体電解質や電極材に水素や酸素が拡散反応 するメカニズムを解析することによって高性能化に貢献できます。 また、光触媒が環境浄化の材料として注目されていますが、可視光に対応するため酸 化チタンに窒素等をドープする研究が行われています。紫外線照射した場合の構造と 挙動を可視光と比較することで作用機構を解明できると考えられます。 更に、将来の水素社会において水素を貯蔵する水素吸蔵合金の水素を取り込む挙動及

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- 5 - び放出する挙動をその場観測によって解明することが期待されます。近年、セメント 成分から導電性物質を得ることが話題になっていますが、活性水素や活性酸素を閉じ 込める詳細な構造や挙動を明らかにすることに寄与できます。 ③ 磁場をかけながら磁気構造を測定する装置:高性能の磁気ヘッド等を開発するために磁 場を制御できる装置が必要となります。 粉末中性子回折測定に必要な周辺機器や技術は殆ど特注となりますので、新たな開発が 求められます。研究者と密接な連携をとるため、茨城県内の中小企業にとって大きなビ ジネスチャンスとなる可能性があります。その場観察用測定装置の代表的な事例を図 8 1)に示します。 また、粉末の回折に限らないが、平面や曲面を高精度に研磨する技術、異種金属材料を 接合する技術といった精密加工技術が必要とされます。その他、中性子検出技術、試料 交換ロボット技術も今後の課題です。 7.まとめ 粉末中性子線回折技術はiMATERIAの SuperHRPD の新設によって従来よりはる かに短時間で測定できるため、これまで利用されにくかった産業界でも手軽に活用す ることができるものと期待されます。 粉末中性子回折技術ではナノ粉末製品ばかりではなく、リチウムイオン電池のよう にX 線回折で測定できなかった製品の粉末原料について高性能化を図るための研究手 段として役立つものと考えられます。 8.参考文献 1) 茨城県中性子ビームラインの産業利用(茨城県企画課)HP http://www.sf21-ibaraki.jp 2) 中性子産業応用事例集 2006:茨城県企画部企画課(平成 18 年 1 月) 3) (独) 日本原子力研究開発機構量子ビーム応用研究部門(東海サイト)HP http://nsrc.tokai-sc.jaea.go.jp/what.html

4) 社本,他 5 名:パルス中性子を用いた構造解析の最前線:J. Plasma Fusion Res.,

Vol.84, No.6, p324 (2008) 5) 高エネルギー加速器研究機構HP http://www.kek.jp/ja/activity/immes/index.html 6) 中性子利用技術移転推進プログラム(文部科学省委託事業 平成 19 年度放射線利用技術・原子力 基盤技術に関する技術指導及び情報提供):(財)放射線利用振興協会 東海事業所 中性子利用推進 部 7) 高エネルギー加速器研究機構HP: http://www.j-parc.jp/MatLife/ja/instrumentation/bl08/BL08.html 8) たゆまざる探究の軌跡-研究活用と成果 2005:日本原子力研究[現 (独)日本原子力研究開発機 構)] HP http://jolisfukyu tokai-sc.jaea.go.jp/fukyu/ACT05J/Frame02.htm

参照

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