ニンニク抽出物によるモモと甘果オウトウの発芽促進
片岡 郁雄・杉安 克之
ENHANCING BUD BREAKIN PEACH AND SWEET CHERRY
BY GARLIC EXTRACTS
Ikuo KATAOKA and KatsuyukiSuGIYASU
Effectiveness o董garlic extracts for enhancing bud break was evaluatedin peach ‘Hakuho’and sweet cherry‘satohnishiki’,COmpared with the supernatant of calcium
(Ca)cyanamide
In peach,When trees were heated from December12,nO flower bud break occurred evenwith garlic extractsor Cacyanamide treatments On the otherhand,in the trees which were heated董romJanuary10,garlic oil(10%)clearly enhanced bud break and flowering Ca cyanamide was also effective for enhancing bud break but the rate of bud break was slightlylowerinthe trees treatedwith Ca cyanamide than with garlic oilIn the trees which were heated from Februaryl,garlic oildid ndt alfected the beginning of the bud break butincreased the rate of bud break20% more than controIThe flowers on the treesheatedfromJanuarylOwereheavierthan those on the trees heated 董rom FebruarylThe garlic oiland Ca cyanamide
treatments tended to decrease the flower weight Garlic oiltreatment was effective
forleaf bud break as wellas flower budIn sweet cherry,it enhancedleaf bud breakmost effectivel−yinthe trees which were heated董romJanuarylO Garlic juicelittle affected on bud breakin both species
Key words:peaCh,SWeet Cherry,dormancy,bud break,garlic extracts
緒 早期出荷や品質向上などの利点から,モモや甘果オウトウなどの核果類においても施設下での加 温栽培が増加する債向にある.現在,これらの種類において,加温の開始は,自然条件下での自発 休眠の完了を待って行われているが,有効な自発休眠打破の方法が見出されれば,さらに収穫期を 前進させることが可儲となる 化学物質の処理ほ,果樹における自発休眠の打破の方法の一つとして古くから研究されてきた これまで,ベンジルアミノプリン(1),チヂアズロン(2),ジベレリン(3)などのホルモン類,チオ尿
素(1),硝酸カリ(1′4),カルシウムシアナミドやシアン化水素(56)など多くの化学物質に休眠打破の効果
があることが認められているい この内,カルシウムシアナミド(石灰窒素上澄液)は,発芽促進作 用が強く,多くの果樹について休眠打破の効果が認められている.しかし,ブドウにおいて指摘されているように,発芽の不揃いや花穂の退化などの障害が発生しやすくぐr),さらに,モモなどの核
果類では花芽の離脱や壊死などの薬害を生じやすいことが問題である(8) 本研究は平成3年度文部省科学研究費補助金(試験研究B,課題番号03556006)の交付を受け,平成4年庭園芸 学会春季大会にて成果の−部を発表した験的に用いられてきた(7).この事実をもとに,久保田らは,ブドウに対する休眠打破の効果を実験 的に調査し,ニンニクおよび近縁のアリウム属植物に強い休眠打破作用をもつ物質が含まれるこ と(910),また,その有効成分が硫化アリル化合物であること(11)を明らかにした 本実験では,モモおよび甘果オウトウの加温栽培における新たな発芽促進処理の方法を見出すこ とを目的として,ニンニク搾汁液およびその精油(オーリックオイル)が,低温遭遇畳の異なるモ モおよび甘果オウトウの幼木の発芽に及ぼす影響を石灰窒素上澄液と比較して調査した 材料および方法 実験は1991年12月から1992年3月にかけて香川大学農学部構内で行った、8号鉢植えの2年生モ モ‘白鳳’および10号鉢植えの2年生甘栗オウトウ‘佐藤錦’を用いた,用土には,花こう土と バー・ク堆肥を2:1の割合で混合したものを用い,11月下旬に植え付けたh植え付け時に,元肥と して,複合化成肥料(8−8−8)90gを施した処理前に1樹あたりの側枚数を3−4本に揃 え,モモについてほ,1樹あたり花芽を60芽,葉芽を20芽,甘果オ・ウトウは葉芽のみで,1樹あた り40−50芽を残した. ニンニク搾汁は,市販のニンニク(品種不詳)鱗片をすり下ろし,ガ・−ゼで濾したものを用い た..精油はか−リックオイル(理研化学工業株式会社製)を用い,蒸留水を加えて,所定の濃度に 希釈した後,0.05%Tween20を添加し,懸濁液を調製した石灰窒素上澄液は,所定の畳(w/v) の石灰窒素を蒸留水に懸濁し,4時間撹拝後静置し,上澄をろ過したものを用いた−1991年12月12 日,1992年1月10日,2月1日に,各々の処理区3個体について,塗布処理を行った−処理後,モ モについてほ20℃の人工気象室に,オウトウについては最低気温15℃に保ったガラス室に搬入し, その後の発芽および開花について経時的に調査した なお,1991年10月から1992年3月までの7.2℃以下の低温遭遇積算時間を構内の気象観測記録よ り算出した 結 果 1低温積算パターンと処理時の積算量 1991年10月から1992年3月にかけての低温積算のパタ1−ソを第1図に示した.10月の下旬から
7..2℃以下の低温の蓄積が始まり,処理時における7い2℃以下の積算時間および0℃以上7い2℃以下
の積算時間は各々,1991年12月12日で,292−7時間,292.7時間,1992年1月10日で,659い2時間と
6150時間,2月1日で,1052、5時間と916−5時間であった
2モモの休眠打破 花芽については,12月加温では対照区およびいずれの処理区の個体においても発芽は認められな かった.石灰窒素(20%上澄み液)処理した個体においては,著しい花芽の離脱が発生した..ま た,ガーリックオイル(2倍液)を処理した場合には,花芽の離脱は生じなかったが,ガーリック オイルの付着した芽の周辺部の枝組織粧障害が現れた∩ このため,1月以降の処理でむま,石灰窒素 は10%上澄み液を,ガ・−リックオイルは10倍および100倍液を処理した 1月加温では,石灰窒素(10%上澄み液)およびガーリックオイル(10倍液)で花芽の発芽促進 効果が認められ,対照区より1週間程度早まった.しかし最終的な発芽率は対照区に比べ低かった (第2図−A).2月加温においても,石灰窒素およびか−リックオイルの発芽促進効果が認められ0 0 5 ∽︼コ○エ¢>;d−n∈コ0 0 0 0 1 禦∵ ON 山L OL の L.﹂再∑ ∽N ON のL OL S L.q①山 SN ON SL ロー の L.Ud﹁ のN ON のL OL ∽ L.U¢凸 SN ON ∽L OL の ﹁>OZ のN ON Sr Or の L.1UO Date
Figl Chillingaccumulation below72℃fromOct199トMarch1992
た…最終的な発芽率は,石灰窒素処理では対照区とほぼ同程度の70%前後であったが,ガ・−リック オイルでは90%程度であった(第2図−B) 開花についてほ,全体として発芽とはぼ同様の傾向が認められ,開花までに要する日数は,処理 時期が遅くなるはど短縮された(第3図−A,B) 葉芽についても,加温時期が遅いほど発芽が早く,最終的な発芽率も高くなった,処理の効果に ついては,石灰窒素およびガー・リックオイル処理により1月および2月の処理で,対照区と比べ発
芽はほぼ1週間早まった(第4図−A,B)
開花した花の形質についてみると,対照区では,花重は1月加湿で最も大きく,処理時期が遅く なるほど小さくなる傾向があったい処理間でほ,全般に対照区とほぼ同程度かやや小さくなる傾向があった(第5図−A,B)
3甘果オウトウの休眠打破 対照区の菓芽の発芽は,12月加温および1月加温でほ処理2−3週間後に発芽が始まったが,2 月加温では1−2週間後に開始した“発芽率の上昇速度は加温開始時期が遅いほど急速で,最終的 な発芽率も高くなった(第6図A−C)小処理間では12月処理では石灰窒素(20%上澄み液)のみで わずかな初期の発芽促進効果が認められたが,最終的な発芽率は対照区よりも低かった(第6図− A)い1月処理でほ石灰窒素およびガーリックオイル(2倍液)処理により発芽促進効果が認められ たが,ニンニク搾汁液の効果は全く認められなかった(第6図−B).2月処理においても石灰窒素 およびガー・リックオイルは発芽促進効果を示したがニンニク搾汁液の効果はほとんどなかった(第 6図−C)︵ポ︶Ou〓○声○;¢ヱ一博て〓ヒコ0 0 0 0 0 0 4 2 ︵ポ︶一芸−q Pコqりヱl空コ∈コ0 ︵U 9 8 7 6 5 4 3 2 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 0 0 0 0 8 ムP 4 2 0 0 8 △○ 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Weeks after treatment
Fig2 Effects of garlic juice,garlic oiland Ca Cyanamide treatments on the flower bud br・eak of‘Hakuho’peach trees Treatments were done on(A)January lO and(B)Februaryl,1992
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 Weeks after treatment
Fig3 Effects of garlic juice,garlic oiland Ca Cyanamide treatments on the flowerlng Of LHakuho’peach trees
Treatments were done on(A)January lO and(B)Februaryl,1992
︵ボ︶よ付巴q Pコq O>;空コ∈コ0 0 0
4 2
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
80
Fig4 Effects of garlic juice,garlic oiland Ca C.yanamide treatments on theleaf bud break of‘Hakuho’peach trees
0 Treatments were done on(A)JanuarylO
and(B)Februaryl,1992
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 1 Week$ after treatrnent
︵辞︶トOuりコb巴−甲>〓ふニ○∝ 90110130150170190 210 230 250 270290 310330 0 0 ︵J 4 90110130150170190 210 230 250 270 290 310 330 F10Wer Welght(mg)
Fig5 Effects of garlic juice.garlic oiland Ca cyanamide treatments on the flower
Weight of‘Hakuho’peach trees
Treatmentswere doneon(A)JanuarylO and(B)Februaryl,1992
考 察 本実験に.おいて,モモ‘白鳳’および甘果オウトウ‘佐藤錦’の自発休眠期の末期において,ニ ンニクの精油であるガーリックオイルが発芽促進の効果をもつことが明かになった 久保田らによると,ガ∴・リックオイルは,ニンニク搾汁液と同じく,硫化メチル,2硫化メチ ル,硫化アリル,2硫化アリル,3硫化アリル,4硫化アリルなどを含み,とくに2硫化アリルを 高い割合で含有していることが示されている(11)いブドウの切り枝を用いた実験では,これらの化合 物のうち,2硫化アリルの休眠打破の効果が高いこと(9)が明かにされており,本実験で認められた モモや甘果オウトウの芽の休眠打破においても促進的に作用しているものと思われる..−・方,ブド ウにおける結果とは異なり,本実験では,モモおよび甘果オウトウの休眠打破に対してニンニク搾 汁液処理の効果はほとんど認められなかった..この原因については,ブドウで行われているような 結果枝の切口への塗布と異なり,本実験では芽に塗布処理を行ったため,有効成分の吸収量に違い が生じたことも考えられるが,モモや甘果オウトウの,アリル化合物に対する感受性そのものが, ブドウに比べて低いためかもしれない. モモおよび甘果オウトウの休眠打破におけるガ・−リックオイルの作用特性については,まず,低
80 60 40 20 0 100 0 1 2∼、3 4 5 6 7 8 91011121314 ︵辞︶よ巾巴q Pコq O>;空コ∈コ0 0 0 ▲U O 8 6 4 2 0 100 80 60 40 20 0 0 1 2.8 4 5、6 7 8 91011121314 0 1 2 3 4 5 6 7 8 91011121314 Weeks after treatment
Fig6 Effects of garlic juice,garlic oiland Ca cyanamide treatments on theleaf bud
break of‘satohnishiki’sweet cherry treesTreatments were doneon(A)December12,1991,(B)JanuarylO and(C)February
l,1992 温遭遇畳の少ない芽に対しては効果はなく,一足期間の低温に遭遇した自発休眠覚醒の末期の段階 にある芽に対してのみ有効であることがあげられる..甘果オウトウの菓芽においては,石灰窒素上 澄液の12月処理でも,発芽促進の効果が認められたことから,この時期におけるガーーリックオイル の休眠打破の作用は石灰窒素に比べて弱いものと思われた. 休眠覚醒期末期のか−リックオイルの発芽の前進効果は,石灰窒素上澄液とほぼ同程度とみられ たが,最終的な発芽率は,ガーリックオイル処理で,より高かった.自発休眠の末期において, 各々の芽は,同一・樹内にあっても,その生理状態にはかなりの変異があるものと考えられ,発芽の 刺激を与えても,一・部の芽はそれに反応せず,発芽過程に移行しないまま留まってしまうものと思 われる..この点で,ガーリックオイルは,石灰窒素上澄液と比べて,より広い範囲の生理状態の異 なる芽に対して,発芽過程への移行を促進させる効果をもつものとみられる
一方,花の発育は,ガー・リックオイルおよび石灰窒素上澄液のいずれの処理でも抑制される傾向
があった.このことについては,これらの物質が花わ器官の生長に対して何らかの抑制的な作用を
もつものとみられるが,1月処理に比べ2月処理では,全体に個々の花の発育におけるばらっきは
小さく,またいずれの処理についても,抑制程度は小さかったことなどからみると,発芽開始後の
花の発達ほ,休眠覚醒期における樹体全体の栄養的あるいはホルモン的な条件の変化の影響をより
強く受けているものと考えられた本実験の結果から,、モモや甘果オウトウにおいて,か−リックオイルの発芽促進作用が確認され
たが,最適な処理の方法や時期,あるいは品種間の効果の比較などについては,さらに検討する必
要がある.−・方,モモのように,発芽と同時に花器の発達が急速に進む,純正花芽を有する種撰に
っいては,休眠を芽のみではなく,樹体全体の問題としてとらえ,適切な打破技術を開発する必要
性がより大きいものと考えられた 摘 要 加温栽培条件下のモモ‘白鳳,および甘果オウナウ‘佐藤錦’に対する,ニンニク抽出 物の発芽促進効果を,石灰窒素上澄液の効果と比較して調査したいその結果,モモでは, 12月12日加湿開始樹ではニンニク抽出物あるいは石灰窒素上澄液処理を行っても花芽の発 芽は全く認められなかった−方,1月10日加温開始樹では,大トーリックオイル(10%) 処理により発芽および開花が促進された..石灰窒素についても同様に効果が認められた が,樹全体の発芽率ほガー・リックオイルに比べやや低かった.2月1日加温開始樹では, ガー・リックオイル処理は発芽の開始時期にほ影響しなかったが,樹全体の発芽率を対照区 に比べ20%増加させた一方,ニンニク搾汁液については発芽促進の効果はほとんど認め られなかった“開花した花の重盛は,2月処理に比べ1月処理で小さく,ガー・リックオイ ルおよび石灰.窒素上澄液処理により∴減少する傾向があったガーリックオイル処理は葉 芽の発芽に対しても促進的な作用があった ガーリックオイルは,甘果オウトウの菜芽に.対しても,発芽を促進し,1月10日加温樹 において,最も効果が大きかった引 用 文 献
release from dormancy of grape buds
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