*Hisayo SADAMOTO, 徳島文理大学香川薬学部(〒769-2193 香川県さぬき市志度1314-1) 軟体動物腹足類(Gastropoda)は,神経細胞サイズが大 きく,中枢神経系に含まれる細胞数も少ない。このため, 古くから特定行動に関わる神経回路研究に利用されてきた。 本総説では,長期記憶の基となるシナプス可塑性に関わる 分子メカニズムについて,ヨーロッパモノアラガイ(Lym-naea stagnalis)の味覚嫌悪学習におけるこれまでに得ら れた結果をまとめた。 学習による長期記憶形成では,遺伝子発現をともなう新 しいタンパク質合成が起こり,転写調節因子 CREB1を含 むスイッチングメカニズムが働くことが示されている。ま ず,筆者らはモノアラガイの味覚嫌悪学習で鍵となる ニューロンにおいて CREB1依存性のシナプス可塑性メカ ニズムが存在することを生理学実験により確認した。次に, モノアラガイ中枢神経系内において,遺伝子発現を促進す る CREB1とともに,抑制因子として働く CREB2および 抑制型 CREB1アイソフォームが常に存在することを示し, 各 CREB1アイソフォーム間相互作用についてリアルタイ ム解析に成功した。さらに,味覚嫌悪学習の鍵となる ニューロンにおいて CREB2遺伝子発現が学習後に変化す ることを明らかにした。本稿では,他の動物門でも保存さ れているであろう転写調節機構を中心として報告をまとめ, CREBによる伝達物質放出量の調節メカニズムに関して現 在得られている結果,また軟体動物における遺伝子情報の 整備状況について紹介する。 1.はじめに 軟体動物腹足類(Gastropoda)の中枢神経系は,神経細 胞サイズが大きく,含まれる神経細胞数も哺乳類に比べて 格段に少ない。このため,電気生理学的,組織学的な手法 による神経細胞の同定が容易であり,古くから特定行動に 関わる神経回路研究に利用されてきた。例をあげると, ヨーロッパモノアラガイ(Lymnaea stagnalis)における そしゃく行動7), 30)および呼吸リズム38)の central pattern generator (CPG),アメフラシ(Aplysia californica)に お け る 水 管・ エ ラ 引 き 込 み 反 射10), そ し ゃ く 行 動 の CPG11),ホクヨウウミウシ(Tritonia diomedea)の逃避行 動に関わる CPG15)などがある。これらの系は,神経回路研 究とともにシナプス結合の複雑な仕組みを調べる上での有 用なシステムとして利用されてきた。 また,軟体動物の神経回路研究は長期記憶形成に関わる 分子機構の研究を可能にした。特にアメフラシでは水管・ エラ引き込み反射を利用した古典的条件付けに関して,行 動と対応したシナプス可塑性モデルを培養細胞実験系で再 現することに成功した25)。このため,単一シナプスにおけ
る長期促通(long term facilitation, LTF)モデルを利用し て分子レベルの研究が急速に進んだ2), 5), 6), 26)。また,得られ た結果はショウジョウバエ,哺乳類における研究結果8), 41), 42) とも良い一致を見せ,長期記憶に関係する基本的な分子機構 が種間を通して保存されていることを明らかにした。 本総説では,モノアラガイの味覚を用いた古典的条件付 けを例にあげながら,行動変化の基となるシナプス変化に 関係する分子メカニズムについて,筆者らがこれまでに得 た結果をまとめてみる。 2. モノアラガイの味覚嫌悪学習とその鍵となるニュー ロン 淡水棲巻貝ヨーロッパモノアラガイ(Lymnaea stagna-lis)は,味覚による古典的条件付けを習得する22)。モノア ラガイは,嗜好性の味覚刺激であるショ糖溶液に対してそ しゃく行動を示し,忌避性の味覚刺激 KClに対しては殻引 き込み行動を示す。味覚嫌悪学習では,ショ糖溶液を条件 刺激(conditioned stimulus, CS),KCl 溶液を無条件刺激 (unconditioned stimulus, US)として組み合わせてトレー ニングを行い,その学習行動はショ糖溶液に対するそしゃ く回数という観察しやすい行動で評価することが出来る(図 1A)。モノアラガイは,学習後にはショ糖溶液に対するそ しゃく反応を有意に低下させ,この行動変化は一ヶ月以上 にわたって“長期記憶”として保持される。 また,モノアラガイの味覚嫌悪学習に関係するそしゃく 行動の CPGは古くから調べられてきた7), 30)。ショ糖溶液の 味覚入力がそしゃく行動を引き起こすまでに関わる神経回 路と,忌避性の KCl 溶液を感受して殻引き込み行動を引き 起こす神経回路が統合される部分に,大きなセロトニン分 泌細胞である cerebral giant cell (CGC)が存在する(図1 B)。CGCはそしゃく行動の CPGより上位にあるが40),味 覚嫌悪学習時にはそしゃく行動の CPG 駆動ニューロンに対 する CGCからの抑制性シナプス入力の増大が起こることが 明らかにされている22)。筆者らは,これらの結果を基に味 覚嫌悪学習の鍵となるニューロンとして CGCに着目して研 究を進めてきた。 3.モノアラガイ味覚嫌悪学習に関わる分子メカニズム
3-1)転写調節因子 cAMP responsive element binding protein 1 (CREB1) 動物種を問わず,記憶はその持続時間によって短期記憶, 長期記憶に大きく分類されている。短期記憶は分単位しか 持続せず,新規遺伝子発現を伴わない。これに対し,長期
軟体動物腹足類の長期記憶形成に関わる分子メカニズム
定 本 久 世*総説
記憶は24時間以上持続し,その成立には新規の遺伝子発現 とタンパク質合成を必要とする。この新規遺伝子発現にお いて転写調節因子 CREB1はスイッチングに働く。また, CREB1は2量体を形成し,標的 DNA 配列である CRE (cAMP responsive element: TGACGTCA)に結合し,PKA
によるリン酸化依存的に転写を促進する12), 21)。 筆者らは,まずモノアラガイ中枢神経系において発現し ている CREB1遺伝子を同定し,中枢神経系における発現 を確認した32), 33)。次に,味覚嫌悪学習の鍵となるニューロ ン CGC 内のシナプス可塑性における CREB1の働きを証明 するため,標的配列 CREを用いた機能阻害実験を行った (図2)。CGCに cAMPを注入すると,CGCから唾液腺運 動ニューロン B1細胞に対するシナプス入力の増強が起こ る28)。この際,cAMP 注入とともに,CREB1の標的配列 CREを注入するとこのシナプス増強が阻害された。つまり, CREB1タンパク質が標的配列 CREによって“吸収”され, CREB1依存性の遺伝子発現とそれに続くシナプス増強が阻 害されたことが示された。コントロール実験として,ラン ダムな塩基配列を持つオリゴヌクレオチド(random CRE) を用いた場合,この効果は見られなかった。この実験によ り,味覚嫌悪学習の鍵となるニューロンにおいて cAMP 経 路,CREB1を介したシナプス可塑性メカニズムが働いてい ることを明らかにした32)(図2)。 また,モノアラガイの CREB1の遺伝子転写産物にはス プライシングによる7種類のアイソフォームが存在した。 これらがコードする CREB1タンパク質には二種類のアイ ソフォームの存在が予想され,うち一つは転写活性に必要 な PKAによるリン酸化部位を持たない短いものであった。 他動物における報告から,短い CREB1アイソフォームは 遺伝子発現において抑制性に働くことが示されている6)。 筆者らは,モノアラガイの中枢神経系における各 CREB1 アイソフォームの遺伝子発現をリアルタイム PCR 法で定量 した結果,促進型とともに抑制型アイソフォームが恒常的 に発現していることが分かった。 次に,モノアラガイ CREB1アイソフォーム間相互作用 の解析を行った。各 CREB1アイソフォームを異なる蛍光 タンパク質で標識し,蛍光相互相関顕微鏡法(fluorescence cross-correlation spectroscopy, FCCS)により,タンパク 質間相互作用を観察した。同方法は蛍光タンパク質同士の 近接が重要な FRETとは異なり,蛍光タンパク質同士の距 離がある程度離れていても,タンパク質の挙動の相関を もって相互作用を観察することが出来る。つまり、CREB1 の二量体形成部分から離れた末端を蛍光タンパク質でラベ ルすることで、目的タンパク質間の相互作用を妨げること なく、リアルタイムにタンパク質の挙動を観察できる。こ の実験により,遺伝子発現促進型,抑制型 CREB1アイソ フォーム間の相互作用を生細胞内において初めて示した。 以 上 の 結 果 か ら, モ ノ ア ラ ガ イ CNSに お い て 同 じ CREB1遺伝子からスプライシングによる抑制型 CREB1ア イソフォームが常に発現しており,促進型 CREB1と相互
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CS US US CS Feeding CPG N2B
(Sucrose)CS そしゃく行動 Muscles N1M N2 N3 SNs INs MNs CGC Cerebral Giant CellUS (KCl) SNs INs MNs CGC Cerebral Giant Cell Muscles 殻引き込み (KCl) 殻引き込み Kojima et al., 1999 図1 モノアラガイの味覚嫌悪学習 A:味覚嫌悪学習トレーニング。ショ糖溶液(CS)と KCl 溶液(US)を組み合わせて繰り返し提示する。コントロール群とし ては CS・USの提示順序を逆転させる backward conditioning,蒸留水のみを与える naïveを用いている。
B:モノアラガイ味覚嫌悪学習による行動変化と神経回路の模式図。味覚嫌悪学習後は CSに対するそしゃく反応が低下する。 味覚嫌悪学習に関わる神経回路では,セロトニン分泌細胞 cerebral giant cell(CGC)が CS,US 刺激入力の統合部分で働い ており,学習後にはそしゃく行動 CPGに対する IPSP 増強が起こる(SN:感覚神経細胞,MN:運動神経細胞,IN:介在神経 細胞)(点線部分,論文22より改変)。
作用することで転写調節における抑制性メカニズムが恒常 的に存在していることが示された。(投稿準備中)
3-2)転写調節因子 cAMP responsive element binding protein 2 (CREB2) 学習に関わる CREB タンパク質には, PKAのリン酸化を 受けて転写を活性化する CREB1の他に CREB2がある。 CREB2は CREB1とヘテロダイマーを形成することで cAMP 依存性の転写活性を抑制する5)。 筆者らは,モノアラガイ CREB2遺伝子のクローニング を行い,in situ ハイブリダイゼーション法,定量性 RT-PCR 法により中枢神経系内の CREB2遺伝子発現を解析し た。その結果,全てのニューロンで CREB2遺伝子が発現 しており,遺伝子発現量も CREB1に比べて多いことがわ かった32)。つまり,モノアラガイ CNSにおいて転写抑制に 働く CREB2が恒常的に発現し,CREB1による遺伝子発現 を抑制していることが示された。 さらに, モノアラガイの神経細胞を用いて単一細胞レベ ルの定量性 RT-PCR 法を開発し39),味覚嫌悪学習の鍵とな るニューロン CGCにおける CREB1および CREB2遺伝子 発現の定量解析を行った。残念ながら CREB1遺伝子は発 現量が少なく,単一細胞レベルの解析は不可能であったが, CREB2遺伝子発現量は学習個体で低下しているという結果 が得られた。また,神経節を用いた遺伝子発現量解析では CREB1遺伝子発現は naïve 群と学習群では変化しなかっ た。これらの実験により,味覚嫌悪学習後に CREB2の発 現量が減少することで,CREB2による抑制が解除される可 能性が示された。 ここまでに得られた結果から,1)CREB1による遺伝子 発現には抑制型 CREB1アイソフォーム,CREB2などの阻 害システムが常に存在していること,2)学習後に CREB2 遺伝子発現量が変化することで CREB1依存性の遺伝子発 現の抑制が解かれ,長期記憶形成に働く可能性が示された。 � �� � s
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B:B1ニューロンにおける記録。CGC 内への cAMP 注入によるシナプス増強と,CRE 配列によるその抑制。コントロールと してランダム配列を持つオリゴヌクレオチド(random CRE)を使用すると,この抑制効果はない。(*: p<0.05,**: p<0.001)(論 文32)より改変)
3-3)CREBによって遺伝子発現が促進される分子 筆者らは,モノアラガイの味覚嫌悪学習でセロトニン分 泌細胞である CGCにおいて,CREB 依存的に変化する遺伝 子としてセロトニントランスポーター(SERT)に着目して いる(図3)。SERTはシナプス間隙のセロトニンを再取り 込みすることで、シナプス間隙のセロトニン量を直接的に 調節する分子である34)。モノアラガイ SERT プロモーター 領域には複数の CREB 認識配列が存在し,培養細胞を用い たプロモーターアッセイでは PKA 依存性に SERT 遺伝子 発現が活性化された。また,モノアラガイの味覚嫌悪学習 後に,CGCを含む神経節を用いて定量性 RT-PCRを行うと, 学習後には SERT 遺伝子発現が増加していた。つまり, CREBによる遺伝子発現がシナプス間隙に放出される伝達 物質量減少に働くメカニズムを明らかにした。さらに生理 学実験において,CGCから唾液腺運動ニューロン B1細胞 に対するシナプス出力が学習後に減少していることも確認 された。 この結果は,先に得られた cAMP 注入によるシナプス増 強と反対の結果になる。しかしながら,学習後はそしゃく 反応も低下するため,唾液腺運動ニューロンへの入力が減 少するという意味で,行動レベルと一致した結果を示した (投稿準備中)。学習の結果起こったシナプス変化と,先に 行った cAMP 注入実験の結果32)が異なったという点も興味 深い。CGCはそしゃく行動を変化させる重要な細胞であり, in vivoでは PKAだけでなく複数のシグナリングカスケード が働き,ゲノム修飾を含む複雑な転写調節が行われている はずである。この細胞からのシナプス出力を変化させる分 子である SERTの発現には,最適な cAMP 濃度変化や,抑 制性シグナリングカスケードの解除など複数の要因が必要 なのかもしれない。 アメフラシの長期促通モデルでは CREB1によって遺伝 子発現が促進される分子は,複数見つかっている。特に最 初期遺伝子として CCAAT enhancer binding protein(C/ EBP)が同定されており2),哺乳類の Fosと同じく刺激後30 分程で発現し,自身が転写調節因子として後期発現遺伝子 群の転写促進に働く。また,C/EBPは MAPKによる調節 を 受 け, 他 の 転 写 調 節 因 子 Aplysia activating factor (ApAF)や CREB2と相互作用することも示された。この ため,一度始まった遺伝子発現の流れは,C/EBPと他の転 写調節因子との組み合わせによって標的配列のバリエー ションを一気に広げることができる。 しかし,モノアラガイの味覚嫌悪学習時には CGCにおけ る C/EBPの発現誘導は見られなかった19)。現在,軟体動 物で同定されている最初期遺伝子は C/EBPだけであるが, 他の最初期遺伝子が働く可能性も考えられる。 3-4)シナプス抑制に関わる分子メカニズム モノアラガイの味覚嫌悪学習では,行動実験のコント ロールとして backward conditioning(図1A)を用いてき た。モノアラガイでは、CSと USの提示順序を反転させる と,刺激提示回数は同じであってもそしゃく反応は低下せ ず古典的条件付けは成立しない。しかしながら,backward conditioning 後には味覚嫌悪学習の記憶形成が成立しなく なることが明らかになった37) 。つまり,同じ刺激条件を用 いても,それらを提示するタイミングによって味覚嫌悪学 習の記憶形成に対する抑制機構が働くことが示された。 また,アメフラシ培養細胞系では Phe-Met-Arg-Phe-amide(FMRF アミド)投与による長期抑制(long-term synaptic depression, LTD)の誘導が成立する26)。LTF 誘 導刺激と LTD 誘導刺激では,LTD 刺激による抑制効果が 優勢となり,CREB1依存性の遺伝子発現と LTFは起こら ない。これには,ヒストンアセチル化を含むエピジェネ ティックな調節機構17)や,MAPK ファミリータンパク質間 の相互作用が関係する13),18)。また,LTDの際にユビキチ ン C 末 端 加 水 分 解 酵 素(Aplysia ubiquitin C-terminal hydrolase, ap-uch)の発現が促進され,シナプス小胞タン パク質である synapsinを分解することで LTD 成立を促進 するという報告が出ている14)。ap-uchは LTFの際にも PKAの調節サブユニットの分解に働くことが示されている ため20),両メカニズムで同じ分子が利用されていることに なる。 これらの報告からも,刺激の種類が同じであっても,そ れらのタイミングや順序によって全く逆のシナプス変化が 起こることがわかる。シグナルカスケード間の相互作用や, タンパク質の分解機構によってシナプス変化が精密に制御 されていることを示しており,興味深い。 4. 軟体動物のシナプス可塑性に関わるシナプス前細胞 以外の要因について 4-1)体液性調節機構 摂食行動やそしゃく行動に関わる学習では,動物の飢餓 状態が影響を及ぼすため,インシュリンやグルコース濃度 による体液性調節などの影響も視野に入れるべきであろう。 モノアラガイでは,個体の飢餓状態によってそしゃく CPG ニューロン群の自発的な応答が変化する36)。また,体液内 グルコース濃度が神経細胞の膜電位を変化させるという直 接的な作用も報告されている1)。さらに,近年モノアラガ イの味覚嫌悪学習の成績別に網羅的な遺伝子発現解析がな され,その中でインシュリン様遺伝子(molluscan insulin-related peptide, MIP)発現との関連が報告され4),中枢神 経系全体の状態を左右する体液性調節機構が,学習・記憶 形成と関係することが示されている。 4-2)シナプス後細胞の関与 最近のアメフラシを用いた研究では,シナプス後細胞の 関与が認められるようになってきた。初期の学習・記憶モ デルは,LTFにシナプス後細胞は関係しないとした論文9) が基になっていたため,シナプス後細胞側が関係するとし た研究内容16), 31)と長い間矛盾が生じていた。その後,in vivoにおける古典的条件付けとの関連付けも証明され3), シナプス後細胞における細胞接着因子 Dscamが長期促通に おいて AMPA 型受容体のクラスタリングとシナプス形成 に関わるという報告も出された24)。また,Tritoniaの逃避 行動に関わる CPGにおいては,受け手側の神経細胞の活動 状態によってセロトニンによる神経修飾効果が変わること が示されている35)。これらの結果は単一シナプスにあって も可塑性に関わる分子メカニズムが複雑かつ巧妙であるこ とを表しており,モノアラガイにおいても今後調べていく 必要がある。
5.軟体動物に関する遺伝子情報整備 学習・記憶行動に関わる研究分野においても分子レベル の解析が進み,遺伝子情報整備が求められている。現在で は,簡便なキットやプロトコルの確立により,分子生物学 的技術は身近になった。最初の軟体動物の網羅的な遺伝子 解析として,アメフラシの expressed sequence tag(EST) プロジェクトが行われた27)。現在はフロリダ大のホーム ページなど(http://genomics.biotech.ufl.edu/aplysia/)か ら,ゲノム情報も公開されている。しかし,既に登録され ている cDNA 配列にもミスが多く,公開中のデータベース も解析が不十分で検索設定も変わるなど,部外者には利用 しにくい。また,アメフラシの長期記憶形成ではセロトニ ンによる PKA カスケードの活性化が鍵であるというス トーリーが前提であるが,アデニル酸シクラーゼを活性化 するセロトニン受容体は先日ようやく見つかったばかりで あり23),まだ遺伝子情報が整ったとは言えない状態にある。 しかしながら,近年はモノアラガイの複数グループによる 中枢神経系の EST プロジェクトも走り始めた。軟体動物で も哺乳類と類似したトランスポゾンの報告が出されてお り29),研究成果が蓄積しつつある。今後は遺伝子改変技術 への応用,新しい実験系の誕生が期待されている。 おわりに 本稿では,筆者の研究をベースに現在軟体動物で調べら れている長期記憶形成の基となる分子メカニズムについて 紹介した。軟体動物においてここまで長期記憶に関する研 究が進んだのは,実験動物の利点である細胞同定の容易さ を生かし,生理学実験による神経回路研究が先行して進ん でいためである。また,シナプス後細胞の関与の有無につ いての一連の報告は,たとえ培養細胞のような単純な系で 解析を行っていても,常に神経回路や個体という他の生物 学的なレベルとの対応に気を配る必要性を考えさせられる。 今後は,遺伝子情報の整備,遺伝子改変等の技術も利用で きるようになるとともに,さらに研究者が増えて研究が進 んでいくことを望んでいる。 謝辞 本稿で用いた CGC 細胞の染色図は当研究室に所属する博 士研究員川合亮氏に提供いただきました。また,このよう な寄稿の機会をいただいたことに,多くの関係者の方々に 対して改めて感謝申し上げます。 参考文献
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The molecular mechanism for long-term memory for-mation in gastropod mollusks.
The learning abilities and the relatively simple central nervous system of gastropod mollusks have provided us with insight into the richness of cellular correlates of
learning behavior, such as a classical conditioning. In the pond snail Lymnaea stagnalis, conditioned taste aversion (CTA) learning can be acquired and stored as long term memory, and the neurons involved in this behavioral plas-ticity are identified. Using the identified neurons, we here discuss the neuronal and molecular substrates for memory formation of associative learning at a single cell level.
Cyclic AMP-responsive element binding protein (CREB) is universally accepted to be necessary for specific tran-scription in long-term memory formation. In the key neuron of CTA learning in Lymnaea, we first showed the inhibition of CREB function blocked the expression of cAMP-induced synaptic plasticity. We then character-ized the CREB genes in Lymnaea central nervous sys-tem (CNS), including transcriptional activator CREB1 and repressor CREB2. Interestingly, CREB1 transcripts in-cluded the repressor isoforms as well as the activator ones. The interaction between the activator and the re-pressor CREB1 proteins was demonstrated in co-trans-fected HeLa cells using dual color fluorescence cross-cor-relation spectroscopy (FCCS). Quantitative RT-PCR experiments showed the transcriptional repressor CREB1 isoforms and CREB2 were constitutively expressed at large amount, as well as activator CREB1. The copy number of CREB2 mRNA was changed according to training paradigm and their behavior, at a single cell lev-el. These results suggest that the transcriptional ability of CREB is regulated by altering the ratio between the transcriptional activator and repressor proteins, and thereby changing the synaptic plasticity. In this review, we also introduce the recent reports for learning behav-ior and its molecular mechanism for the gill withdrawal reflex in Aplysia, and the EST (expressed sequence tag) projects in gastropods.
Keywords: gastropod mollusks, long-term memory, synap-tic plassynap-ticity, molecular mechanism, CREB, signal cascade, gene expression