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組織構造のデザイン: 配置転換と共謀の比較分析-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

組織構造のデザイン:配置転換と共謀の比較分析本

康 植

I . は じ め に 日本の製造企業の高いパフォーマンスを裏付ける理由として,日本企業が従 業員を関連ある職場開の異動,配置転換をさせたことがあげられる。特に,日 本企業における職場聞の異動は,経済的な守景気がよいとき,従業員に様々な経 験をさせることができる。そして,普段と違った作業環境の変化が起こった場 合,よく対応できるといわれてきた(Koike,1988)。しかし,経済が不況になっ たり,企業が経営不振に陥った場合,日本ではまずできるだけ企業内で雇用調 整をし,企業内の雇用水準を調節する形をとり,最後に中年層の従業員を関連 会社への出向や希望退職などを行うことによって雇用調整を行っている。アメ リカでは雇用水準の調節の対象として選任権によるレイオフが利用されてい る。特に,マクロ的な労働市場における雇用調整は日米間で異なる。経済白書 (平成6年)の国際比較によると,日本の生産の変動が大きいにもかかわらず, 労働投入量の変動が小さい。これは他の国よりも配置転換が行われており,単 位時間当たりの労働の稼働の変動によって調整される場合が大きいことを意味 している。一方,アメリカで雇用量調整,雇用調整速度が大きいのは,レイオ フ制度により,人員調整を容易にしている側面があるからであろう。なぜ,日 本 本稿は,平成 9年9月,一橋大学で行った The 3rd Decentralization Conference in Japanに提出された報告を修正したものである。多くの参加者からの貴重なコメントを頂 いた。記して感謝する。

(2)

202 香川大学経済論叢 1258 本企業は景気の善し悪しによって,配置転換や出向という制度を用いるのかと いう説明を試みることが論文の目的である。 従来の標準的なエイジェンシー理論では,従業員の産出量間の相関関係が存 在すればその情報を利用し,ある従業員の努力水準を考慮して賃金に反映させ ている。ある従業員の業績評価の正確度が上昇すれば,他の従業員の賃金設定 にも影響を及ぽす。 そして, リスク回避的な従業員につい、て, リスクとインセ ンテイヴとの関係はトレード・オフ関係になることがよく知られている。通常, このような従業員の努力についてのインセンティヴは明示的契約によって提供 されている。 この明示的インセンティヴのアプローチは第三者が立証可能なす べての状況に基づいて契約を考慮している。従って,裁判所等の第三者によっ てその契約が実行可能である。 しかし,現実の世界では企業が設定す。る賃金の もとで明示的契約のみならず,暗黙的なインセンティヴの形態が存在する。暗 黙的なインセンティヴは従業員の現在の業績が次期の業績に役立つ場合や,企 業が従業員の業績についてどのように反応するかを事後的に自由裁量がなされ る場合,起こりうる。例えば,企業は現在の従業員の業績に基づいて従業員の 能力に関する beliefを改訂していく。そして,それに基づいて次期の業績の賃 金を設定する。一方,従業員は自分の業績を増加させ,企業のbeliefに影響を 与えようとする。しかし,企業はこのような従業員の行動を見込んで観察され た業績から従業員の能力を均衡において正確に推定する。また

2

期間モデル において,暗黙的なインセンティヴとしてよく指摘されているのがラチェット 効果の問題である。これは従業員の業績を企業が賃金契約についてコミットで きないとき発生する。つまり,今期の従業員の業績が高くなるとそれに基づい て次期から今期よりも高い業績標準が設定されがちである。それによって,従 業員はあえて今期の業績を下げるインセンティヴが働く。 Meyerand Vickers (1997)はモラル・ハザードの設定の2期間モデルを利用し,比較業績評価の情報 の問題を分析した。比較業績評価の情報のインセンティヴは暗黙的なインセン ティヴを通じてラチェット効果が生じる。Meyer(1995)はMeyerand Vickers (1997)のモデルを拡張し,従業員の競争と協力活動の比較分析を通じてラ

(3)

チェット効果を論じた。彼らがいう配置転換の意味はラチェット効果を防ぐこ とができるということを論じている。しかし,そこでの組織は従業員が配置転 換をしたにも関わらず,組織における情報の変化は無視されている。 本稿では異なるこつの組織(情報の変化が存在する組織)の中で暗黙的イン センティヴのモデルを構築する。そして,組織の相違を把握することと同時に 従業員聞の裏取引(sidetrade)によってリスクを減少させようとする共謀行動 (collusion)を各組織の比較から分析することが目的である。つまり,日本企業の ように従業員を職務間異動させて,従業員に多様な技能を身につけさせる構造 を持っている組織と,アメリカのように各従業員をあまり配置転換せずにその 職務に専念させるような専門化組織との比較を行う。すなわち,企業がどのよ うな組織構造を持って企業内の人材を異動,あるいは専門化し,昇進させるか は企業内の人の配置と密接に関係する。そして,各組織を所与して各従業員が 共謀活動に新たに契約を結ぶ、と企業は事前にこのような行動を阻止するため対 応策を講じなければならず,その阻止費用のために比較も含めて考慮する。 暗黙的なインセンティヴと共謀の問題を各組織の効率性に関連させながら比 較するために,簡単な複数エイジェント理論を分析対象とする。各組織構造に は

2

人の従業員が配置され

2

期間,企業で働くというフレームワークを用い る。各従業員は2期間働くので 1期目に自分の能力よりわざと業績を下げよ うとするインセンティヴが生じてしまう。そして,その間,従業員聞の裏取引 の契約を結ぶ。企業は賃金契約についてコミットできないから, 2期目に入っ てまた従業員聞の裏取引が発生する。このとき,組織の違いからくる情報の相 違によって共謀活動のための共謀契約の金額は異なる。このような共謀活動に 関 す る 理 論 は か な り 蓄 積 さ れ て い る 。 ま ずTirole(1986, 1996)をはじめ,

Acemoglue (1994), Felli (1993), Kofman and Lawanee (1993, 1996a, b),

Olson and Torsvik (1998)などが挙げられる。これらはadverseselectionモ デルを用いて,企業一上司一従業員という 3階層の組織の中で,上司と従業員 は企業が観察できない情報を隠しながら準レントを獲得しようとする。企業は このような活動を予想して,事前に共謀が起こったときの費用より賃金を等し

(4)

-204 香川大学経済論叢 1260

くまたは高く設定することによって,共謀を防ぐということに焦点を当ててい る。また, Holmstrδm and Milgrom (1990),

I

t

oh (1992, 1993)は従業員聞のリ スクを減少させようとする行動からくるリスクを再配分する意味として従業員 の共謀を分析した。しかし,上記の議論には常に固定された一つの組織構造の 中で,いかに共謀を防ぐかという分析であった。我々の分析モデルは既存の共 謀モデルを応用しながらも,異なるこつの組織構造でのモラル・ハザ}ドにお ける共謀阻止の費用を考えていく。 第3節では 2期間を考慮したモデルで従業員聞の努力水準は何らかの問題で 観察することができないものとし 2人の従業員間で能力またはその生産量に 関連する外生変数について相関関係が存在する場合を想定する。専門化組織に は

2

人の従業員聞で能力については独立関係であるが,生産量聞に相関関係が 存在する職務聞の異動組織を比較する。その中で,従業員の賃金はどのような 原因によって差が生じるかを分析する。その結果

1

期間だけを考えた場合, 従業員の生産量の分散値と能力の分散値の比率に関しである臨界点が存在し て,その臨界点よりも能力または生産量に関連する外生変数についての相関係 数が高ければ高いほど,専門化組織が有利になる(逆は逆)。しかし

2

期聞に 拡張した場合には,ある条件の下では職務間異動によって従業員の努力水準に 関するラチェット効果が減少するので,職務間異動するジョブ・ローテーショ ン組織の方が望ましくなる。さらに,来期のことも考えている

1

期目の従業員 の努力水準が,組織構造の形態の違いによりどちらが大きくなるかという問題 については,はっきりした答えがだせなくなる。なぜなら,職務間異動させら れることを知っていて同時にラチェット効果まで予想する従業員は,専門化組 織に属する従業員の

1

期日の努力水準に比べ,相対的に努力レベルを低く押さ える可能性が存在するからである。通常,職務聞の異動によってラチェット効 果を押さえることができると指摘しているが,来期を考慮するジョブ・ローテー ( 1) Laffont and Martimort(1997)のロジックを用いながら, Laffont and Martimort (1998), Macho-Stadler and P吾rez-Castri11o(1998)が,コミュニケーションとしての集 権化組織と分権化組織との共謀問題の比較について論じている。

(5)

ション組織の従業員は,ラチエツト効果が高くなることもあり得る。Ic

k

sand

Samuelson (

1

9

8

7

)

と異なる含意として,企業は従業員の中で,誰が職務間異動 されるのかをコミットしない方がいいかもしれないということである。このよ うな場合においては,ラチェット効果が高くなることもあり得る見方である。 第4節では, 2, 3節の最適化問題に基づいて,従業員が共謀活動を行った とき,各組織において共謀阻止の費用の大きさを分析する。ここで,

Holmstrδm

and Milgrom (

1

9

9

0

)

に従って,共謀契約は線形関数で表されると仮定する。結 果からいうと,事前的な共謀は社会的に見て厚生を減少させることが分かる。 そして,共謀姐止の費用は,各組織に属する従業員聞の能力に対する相関関係, または,生産量聞の相関関係が存在するので

1

期間モデルのある条件ではいず れかの組織で共謀防止のコストが増加する。その共謀防止コストの増加は努力 水準を減少させる。なぜなら,共謀が発生しないように企業が賃金設定するこ とによって,従業員の努力水準が観察できる

JRM

組織では,従業員聞で努力水 準が互いに観察できないVOM組織に比べて共謀阻止の費用が少なくて済む 可能性がある。しかし, 2期間モデルにすると,最終期に入ってむしろ, VOM 組織の方が共謀阻止の費用が少なくて済む可能性がある。これは日本の企業の 管理職が関連会社に出向されるケースとして説明される。なぜなら,本社と異 なる子会社などに出向・転職させた方が費用がかからないからである。すなわ ち,出向を利用して,本社における私的関係を断ち切るのも,共謀が起こりに くくする。 以上のことを踏まえて,最後に結論を導く。 II.モ デ ノ レ この節では組織設計の観点から,ある望ましい行動様式を持ったこつの組織 構造について考えることにする。そのために利用するフレームワークは,企業 が従業員の業績について序列的な情報に基づいて

p

i

e

c

e

-

r

a

t

e

契約をオファー するモデJレが設定される。 各組織モードにおいて危険回避的であるこ人の従業員k

=i

, jが存在すると

(6)

206 香川大学経済論叢 1262 する。その従業員が1期(若年期)から 2期(中年期)まで働く 2期間モデル を考える。各組織における2人の従業員は同じ生産関数と対称的な効用関数を 持っているとしよう。企業にかかわる問題として,組織構造をどのように設定 し,従業員へのインセンティヴをいかに与えるかについて考慮する。企業が考 える車邸哉構造の問題は,垂直的組織モード

(

V

e

r

t

i

c

a

lO

r

g

a

n

i

z

a

t

i

o

n

Mode

,以 下,

VOM

と呼ぶ)とジョブ・ローテーションモード(.J

o

b

R

o

t

a

t

i

o

n

Mode :

JRM

と呼ぶ)の選択があるとする。ここでいう

VOM

とは,労働者が最初にあ る職場A (B) に若年期のジュニアとして配置され,同じ職場 A (B) に中年 期になってとどまり,職務を遂行することを指す。一方,

JRM

というのは,最 初にある職場

A

(B)に若年期のジュニアとして配置されるのは

VOM

と同じ であるが,中年期の職務は他の職場

B (

A

)

に異動して行われることを意味す る。企業は各従業員の努力レベルを調べるが,外生的変数が存在するため,生 産量しか観察できない。従業員に与えられる各外生的変数は,生産活動過程に おける不確実性のみならず,生産量の評価にかかわる不確実性の性質も持って いる。 まず,従業員k=i, jの生産量は期間

t

=1

2

の生産活動に関わり,次のよう に与えられる。 Xら=etk+ak+Utk (1) (1)式で,etkは

k

の従業員が t期において企業に観察されない場合に選択する努 力レベルとし ,akは期間にかまわず不変である能力を意味し Utkは

t

期に生 産量に関わる外生変数とする。さらに,各々の期間に各従業員にかかる努力コ (2) ストは

C(e)=1762

とする。 1

=

v

r

.

の添え字の

V

VOM

を意味し, .Jは

JRM

である。確率変数akとU帥は誰にも実際の値が知られなくて,次のような 事前的な正規分布を従っていると仮定しよう。 (2 ) 配置転換によって,従業員にかかるコストは高くなる。しかし,配霞転換される従業員 の評価には適切な賃金の調節がなされる(浅沼1997,石田他1997)。従って,両組織の従 業員のコストが等しく設定されても分析には差し支えない。

(7)

向~ N (0, ro2), Utk~ N (0,

(1-

r)02), k = z, j (2) さらに,仇と Utkの間の相対的分散の有用な測度として rε[0, 1]は のように定義することができる。 rの値が増加すればするほど,従業員の能力, akに関する生産量の観察という点で能力の確率変数のシグナノレ率

(

s

i

g

n

a

l t

o

n

o

i

s

e

r

a

t

i

o

)

が増加する。 aiとUtiとの間,ajとUtjとの聞はゼロ共分散である 独立関係とし U帥聞にも期間的な共分散が存在しないとする。

VOM

JRM

の区別をするために,各期間における生産量を設定する。

VOM

における情報構造は次のように与えられる。 XL = eli+αi+Uli, X

i

;

= ejj十αy十Uij X{i

=

e2i十ai十Uli, X{;

=

e2;十 め 十UZj corr(αi, aj) ,;r corr(Uti

utj)= O. (3)

(

3

)

式での corr(Uti,utj)

=

0

という意味はアメリカ企業のように能力を重視す る専門化された組織形態のことであり,そのため各職場聞において生産量間で は独立関係の傾向が強いことを反映している。また ,corr(ai, a;)

=

甲の関係 は,組織を専門化させることによって,従業員聞の能力比較で相関関係が存在 することを指している。例えば,アメリカ企業で専門的職業についての資格制 度における昇格の仕組みを実証分析した

Abrahamand Medoff (

1

9

8

5

)

による と,アメリカ企業における昇格はあくまで従業員の能力の差によって決まると いうことを指摘している。 一方,

JRM

での生産量は (3 ) 例えば,大学の労働市場を考えて見ょう。特にアメリカの主要な経済学部において

t

e

n

-ure資格を与えるためには少なくとも6つの論文が厳密に審査される専門雑誌に掲載さ れなければならない。その論文の中,一つが必ずいわゆる

t

o

p

fiveの専門雑誌に掲載さ れるべきである。また他のケースはその学科の中心になる専門雑誌への掲載が点数を決 め計算して評価する場合もある。そして総合点数が賃金上昇の基準で使う。このようなシ ステムはある特定の人にえこひいきを阻止するだけではなく,能力をある基準の専門雑 誌に出版されたかどうかによって相対的に測る。

(8)

-208- 香川大学経済論叢 1264

X

{

i

=

e

l

i

a

i

+

U

l

i, Xも

=

e

!j

+a;+U

I; X~i

=

e2i+ai+U

,i2 X~;

=

e

2,;

+a;+U2;

c

o

r

r

(

αi

a

;

)

=

0

c

o

r

r

(

U

t

i

U

t

j

)

=ρ (4) のように与えられる。(4)式は,能力重視よりは各従業員を関連ある各職場に異 動させることによって,生産量開の相対評価を重視することを表している。そ のため従業員聞の能力には corr

(

a

i

a

;

)

=

0

のように独立関係とする。また, 生産量聞には相関関係,

c

o

r

r

(

U

出,

U

t

j

)

=ρを持っていることにする。通常の日 本企業では,入社時点から長い間従業員の能力を公表せずに誰でもかなりのラ ンクまで昇進させるといわれてい

2

。この意味で

c

o

r

r(

a

;

)

=

0

になること を仮定する。 さらに ,kl = cOrr(X~i , X~) をいかなる期間であっても 2 人の従業員の生産 量聞の相関関係とする:

k

V

=

corr(XL

XL)

となり ,

k

J

=

c

O

r

r

(

X

{

i

X1)

(l-r)

である。 I Iし従業員聞の競争システム 従業員間で互いの努力レベルが観察されにくい状況で,従業員を競争させる という意味で努力レベル選択はそれぞれ非協力的に行われる。そして,インセ ンティヴに関わるリスクを最小化する。このような状況で各組織モードの生産 量と確率変数の仮定から以下のような分散値が得られる: Var (Xtk) =σ Var

(

X

t

i

!

X

t

j

)

= [1一

(

k

l

)

2

]

o

2

=

=

vi

(

k

V

)

2

=

(

r

;

r

)

2,

(

k

i

)

2

=

[

(

ρ

(1-

r

)

)

2

]

Var

(X

!

X

l

i

)

=

(1一戸)

σ

.

2

V

a

r

V

(X!i!X

I;,

Xl

i

X

2

;

)

=

(

1

+

)

'

)

(

1

-

r

)

(

l

ーが

)

0

2

=

=

v

!

i

n

VOM VarJ (X~;!Xl;,

X1

i,

Xム

)

= (1

+

8

1

)(1-r)(l 一 ρ2)σ2 三 v~

i

n

.JR M

(

5

)

(5)式の

r

,8

1

は期待値(E

(X!i!X

1;,

Xl

i

X2

;

)

, E (X~;!Xt;,

Xl

i

X

ム))におけ ( 4 ) Prendergast(1992)を参考されたい。

(9)

る,

X

1i,

X

uの係数である。この係数は

r

=

r(1+2(1-

)ε[0

1

]

WhereA =

-r/

B

=

(1+r)-2(

1J

r

)

2

>

0 δ1=

r(1+2(

トイ

)ε[0,1

]

(

6

)

Where C

=

(1一ρ2)(1

+

r)+2r

ρ2> 0 , のように与えられる。 以下では,各従業員は絶対的な危険回避度,r

>

0

を持つ

CARA

効用関数

U

(

肌 ) = 一 位p(-r(

T

i

V

i

k -

~

eik

+

V

V

2

kーをふ))を持っていると仮定する。企 業は危険中立的であり,従業員の努力レベルと条件付きの業績評価による賃金 のインセンティヴ契約を特定化する。ここで各組織モードでの賃金と業績の関 係は線形関数で表される。企業の方では各労働者の努力に対するインセンティ ヴ契約(e;W)をデザ、インし,労働者の産出量のみ依存し,賃金を支払う。賃金 の形態はHolmstrδmand Milgrom (1987)のように労働者の産出量に依存する 線形関数であると仮定する。特に重要な仮定として企業は2期目に入って何ら かの理由で再交渉しないことについてコミットすることができない。その賃金 形態は W

XL,

Xh)

= α~X~i 十 αLXL+α'0,

Wti(X~i, XL) =β ~Xíi+ β hXh+ß'O, (7)

のようになる。企業は各従業員kの産出量に依存した各々の αtk,β枕の変動賃 金と, Q''O,

s

,。という固定賃金を支払う。企業はリスク中立的であるから,上記の ような期待生産量を最大化する:

X

1k+

X

2k-

T

i

V

i

k-W2k。 各生産量に関わる確率変数は,正規分布と賃金形態を所与として,従業員の 期待賃金は確実値等価という形態で表すことができる。 1 1

E(Wlk)ーすelk+E(肌k)ーすe2kーすrVar{

T

i

V

i

k

+

院斗 (8)

次に企業と従業員間でのタイミングを定めよう。第1期の契約 (α'lk,slk,α',0

(10)

210ー 香川大学経済論叢 1266 β。)を企業が設定する。そうすると各従業員の努力レベルが私的に選択される。 それによって,各生産量と賃金が決まる。第

2

期の契約

α

(

2k,s2k,偽,sO)がまた 設定される。同様に各従業員の努力レベルが私的に選択される。それによって, 2期目の生産量と賃金が決まる。 ここで賃金の支払いと各組織モードの産出量の関係において,企業における 実行問題

(

i

m

p

l

e

m

e

n

t

a

t

i

o

np

r

o

b

l

e

m

)

は,次のような問題に直面する。 1期間当 たり各従業員の最低レベルの保留効用(ここではゼロとする)を保証する参加 制約条件

(

p

a

r

t

i

c

i

p

a

t

i

o

nc

o

n

s

t

r

a

i

n

t

)

が外生的に与えられる。第

2

期での従業員 の生産量は1期目の生産量によって変化される。従業員の効用を最大化する努 力レベル

(

i

n

c

e

n

t

i

v

ec

o

m

p

a

t

i

b

i

l

i

t

y

c

o

n

s

t

r

a

i

n

t

:

I

C

)

条件の下で,企業と従業員 両方の確実値等価 (CE)を最大化することになる。第 2期のはじめに,企業は第

1

期から得られた情報の下で企業の期待利潤を最大化するような賃金契約をオ ファーしなければならない,

t

i

m

e

-

c

o

n

s

i

s

t

e

n

c

y

制約が存在する。 線形賃金関数と外生的変数の正規分布を所与として,従業員の CEの表現が 可能になる。従業員

k

のCE1の ゲ =

(

a

i

必), β1= (s

i

β

D

Z

は,撹乱項 の和における共分散の行列を意味する。注意すべき点として,

J

.

R Mでの撹乱項 の和における共分散の行列は相関関係を持っていることがあげられる。 3,,1 期間モデルにおける最適インセンティヴ この節ではベンチマークとして

1

期間のモデルを考えることによって

2

期間 のモデルの拡張への意味を考えることにする。

1

期間モデルでの従業員の留保 賃金は外生的に与えられるので最適インセンティヴ、契約

ω

,んには何の影響 もない。 企業にとって最適契約のプログラムは,次のような

TCE

I

1

=

v

.

T

を考慮 する。

TCE

I

max }

;

(

e

l

i

-

~ e

l

i

)

-

~ r

LVar(

V

V

i

;

)

(11)

(9)式 のVOMで の 分 散 値 はVar(Wli)=

a

1

Nar(XIX)=

a

1

i[l一(r;r

)

2

]

σ2にな り, JRMで分散値はVar(fVli)

=

a

1

Nar(XIX;)

=

α

[

1

(

ρ

(

1

-

r)

)

2

]

02である。 ある α

f

d

直に対して, Var(

W

i

i)を最小化する最適値, α1;はα¥.i=一α1likl(kV =r;rork'=ρ(1-r))であり,これを使う最大化の問題を各々の組織モードで解 いた結果は下式で表される。 αH__

1

1i

1

r

o

2[1一(r;

r

)

2

J'

d z 1

"1<=

l+r

[

1

-

(

ρ

(1-r))2J'

仇 M l ( (10),

ω

式から,従業員tのインセンティヴ、強度が各組織モードにおける相関関係 によって,ちょうど分散値

[

1

一(肝

)

2

, [

]

1

ρ

(

(1-

r

)

)

2

]

分まで増加されることに なる。これを各相関関係から分かる保険効果として解釈することができる。つ まり,企業は従業員の能力,生産量についてのシステマティックな不確実性を 減少させ,従業員に提供されるインセンティヴをリスク・シェアリングする。 次に,各々組織の最適{直

α

a

i

t

を比較する。もし

r

己 Oになる場合,

α

<

a{

t

になる。一方,もし

r

=

1

となると αゲ>

a

i

t

ということになる。従って, 最適な

TCE

Vは rの増加関数で,

TCE'

は rの減少関数になる。これをまとめ ると次の補題が得られる。 補 題 も し

r<

什=、ー阜でま

t

:

:

.

は ρ >甘 笠 二γなら JRMが選好さ V r;

+

ρ ー (1-r) れる。 補題1が示唆する点は,企業がどのような rを観察するかによって各組織 モードの便益が変化するということである。従業員の努力レベル選択が全体の

TCE

を最大化しようとするインセンティヴから,さらなるシステマティック なリスクが減少されるということである。その結果,企業は一層関連ある職場 に従業員を異動させることによって.JR Mにおいて高い努力レベルを得ること ( 6 ) Itoh (1996, 1994)はチーム生産の時, 2人の従業員間のコストに十分小さい代替関係で あれば,従業員に職務を委譲できると指摘している。すなわち,十分大きい相関関係であ れば,我々のモデルでも ,pの値によって職務を委譲できる領域が存在することになる。

(12)

-212ー 香川大学経済論叢 1268 ができる。これに関連した実証分析として中村(1

9

9

5

)

がある。彼女は,本社 が関西にある日本の企業規模

1

0

0

以上

1

1

8

5

社の人事部へのアンケート調査か ら,

70-80%

の企業で,入社15年目ぐらいまでの男子ホワイトカラーの異動は, 「主に機能職能内」という意味でよく使われていることが結果として得られた と報告している。しかし,幅広い職務聞の異動が生産性に及ぽす効果を確かめ る実証研究は数多くない。最近の小池(1

9

9

7

,p..

3

7)では,工場管理という専門 雑誌を引用しながら,日本企業における職務聞の異動による生産性向上を指摘 している。つまり,

1

9

8

6

年と一年後を比べ,個々の労働者の操作可能作業数で 示した。それによると,一人平均7.5%から 14..7%に操作可能作業数が増大し た。 3.2 2期間モデルにおける最適インセンティヴ この節では従業員が

2

期間,企業で働いて

2

期間にわたる

TCE

を最大化し ようとする。企業は各期間当たりの従業員の

CE

を保証しながら契約をオ ファーする。企業が考える

2

期のインセンティヴ強度は

1

期のモデルから得ら れた追加情報に基づく(time-consistency制約)。

(

5

)

式で計算された各組織モードの条件付き分散値VarV(XふIX1;,Xli, X

)

=(1十1')(1-r)(1-rl

)

o

2とVarJ(X2;IX1;

Xli

X

ム)=(1

+δ1)(1-r)

(

1

一ρ2)02 から企業は賃金契約を決定する。

2

期目の企業は,従業員 jの最適努力水準,吟 とリスク・プレミアムを最小化する。そして,それを所与して従業員iの最適努 力レベルを考える。従って a~; は

min Var(α.~iXム +α'~;X2;・IXli, XU)

α2',j

によって決められる。これにより各組織構造での従業員 jの最適努力水準 αV2;

=8fα

'

f

i,

c

1

z

;

= 8~c1zi を求めることができる。 Appendix で定義された δ之必か

2期自の従業 員

t

の最適努力レベルは

(13)

) O F U l ( V* _

1

α2i - -'-1 -~T=tI 一、~干一一士宮τ , U3)

α i f = 1

l+r

σ2(1十

o

l

)

(

l

-r

)

(1-ρ2) のように計算できる。

ω

式の yと伯)式の Olによって,ラチェット効果が各組織

2

期目の従業員の努力が減少することになる。 この

r

<

Ôl によって, α~t

<

α

'

f

l

になる。 に存、在するので, 結果,直ちに以下の補題が成り立つ。 補題2:もし甲 =ρ ならば, 証明 :

r

く ふ は

(

5

)

式の分散値を参照。 その分, この補題

2

が意味するのは,

]RM

で各従業員を職務聞を異動させることに 一貫した情報を得ることができないので,従業員の生産量を観察する よって, のに分散値が大きくなっている。 これから

2

期目の最適努力水準を所与して

1

期目の努力水準を考える。すな わち, 2期目の最適努力レベルから逆向き推論法(backwardinduction)で1期 日の従業員の努力レベルを分析する。 明示的なインセンティヴ強度

α

i

t

に加え,各生産量Xli,

X

t;を所与して

l

期 の従業員の留保賃金の制約を満たすような固定賃金を設定する。つまり ,Q'o, so の調整からの暗黙的なインセンティヴも存在する。その暗黙的インセンティヴ には 2 期の生産量 X~i の増加に対する従業員の reputation 効果が存在する。そ の効果の便益は分析の簡単化のために従業員に帰属するとする。すなわち,従 業員のbargainingpowerを1と仮定し2期目の期待値

E(X

I

x

li,Xu)の増 加分が存在する。その

1

期の生産量の係数は以下の式で表される。

V

=

(

r

)

U

4) 2期日の線形賃金はα

+E(

αUIXli,Xl;) その

r

,Olは2期 の 業 2期 目 の 賃 金 協zがVOMではγαL

l l /

ー 一

f ' t 1 1

、 、

T -, J A V さらに,ラチェット効果を考慮して,

+

(Xu-E(X

IXli,X1,;

X

:

¥

;

)

)

の形態を持っており, 績標準における X1i,Xl;の係数である。 ( 7 ) Gibbons andMurphy (1992)のようにキャリア・コンサーンとしてとらえることができ る。また,キャリア・コンサーンについてHolmstrδm(1982)も参考されたい。

(14)

-214- 香川大学経済論議 1270

JRMでは

8

1

c

r

l

分減少する。その全体の暗黙的インセンテイヴのため 1期のイ

ンセンティヴ係数は,次のようになる。

FL=αI

i+φV

α

f

i

Y

a

L

=

a{;+

グ-

c

r

l

i

8

1 (15)

この結果, 1期目の従業員の (IC),

e

l

i

=よ

7

1

2

が満たされるようになる。つま り,逆向き推論法によって

2

期目の従業員のインセンティヴまで考慮した企 業は,よ

7

i

a

を目的関数に入れて従業員に適切なインセンティヴ契約を設定する。 従って 1期の最適努力レベノレ,占

i

z

値は次の最大化式によって決められる。

問.r(

e

u

)

-

.

r

(

c

(

e

t

i

)

+

c(eu))-tr均r[(ιL+α~,F)2ví+(必)2肘(ん+α~Z;F)2Ví+(吟)2vn

where

F

=y

8

1 (16) $"

t

.

e

l

i

=ιL

e

2i=よ

7L(IC2)

1期目の企業は

αL

,すなわち,リスク・プレミアムを最小化することを所与 して従業員

i

の最適努力レベルを考える。従って,よ

f

i

j

は ~inVar[(ãL+ ゅう xli+(ãL+ ゅうX

1

;]

αL

であり,よr-f;=

-e

よr-

Y

i

aL

=

-

e

ι

{

i

を求めることができる。また,

1

期の賃 金の分散値,

V

a

r

(

w

i

汁 院

i

)

5

1

z

の項で表すことができる。 Var(W1i+院

i

)

=

V

a

r

(

ん+ぬ,F

)(X

l

i-

E(XliIXu))

+

Var(a

2i

)(X

-E(X

Ix

u,X

l

i

X2;))

=(

a

l

i

+

a2iF)2Var(XliIXu)

+

c

l

i

V

a

r

(

X

I

X

l

j

,Xli, X2;) 仰)

その結果,それぞれの組織における分散値は

V

a

r

(

Wi.+院

i)V

=

[(a

I

i

+afiy)2(1一(r;7:)2)

+

(afi)2(1

+

y)(l-7:)(1-r;2)]

σ

2

Var(Wli+

院i)J

=

[

(

ι

+

a

f

i81)2(1一

(ρ(1-

7:

)

)

2

)

+

(

α

)

2

(

1

8

1

)

(

1

-

7:

)

(

1

-

ρ2

)

]

02

(18)

(15)

のように表すことができる。これを利用して最大化式捌から一階条件を求める。 つまり, 1-ro2

[

1

一ρ

(1-

r

)

2

J

δ

l

c

f

z

α{1' -'-, ',

U

_L~2r , I-'¥J>, < / S2~U2i (19)

l+r

σ2[1-ρ(1-,

r

Y

J

になる。側式での各組織の最適努力水準(よ

FP

,副

n

aLy

α

fiO¥の項が増加 すればするほど 1期のインセンティヴの与え方はさらにコストがかかること を意味する。両組織構造でのラチェット効果の大きさは

aLy

,cfziO'lに依存する 形になる。この最適化の結果 2期を予想した1期目のラチェット効果を考慮 すると,どちらの組織モードで努力レベルが大きくなるかの比較は簡単ではな い。すなわち,

JRM

における従業員は

2

期自に職務異動を予想して,

2

期目の 努力が

VOM

より小さくなることが分かる(補題

2

が成立するなら)。しかし, 側式から,企業はその努力に関わるラチェット効果が

y<

δ1になることを理解 しているので,

1

期目の最終的な努力(

a

{

,'1

a

Y

;

*

)

の比較が暖昧になる)。一般的 にジョブ・ローテーションがラチェット効果の防止のために利用されることを 指摘している。同一の従業員が2期間同じ職務に就く場合には,同じ努力水準 を毎期引き出すように契約に最初からコミットした方が望ましい。現在の業績 が将来の基準に影響を及ぽすという関係を従業員が予想したらこのようなコ ミットが不可能になる。しかし,ジョブ・ローテーションをさせられることを 知っている従業員の場合にも,同様に企業は組織デザインの際に,ラチェット 効果を考慮すべきである。もし

JRM

組織で企業が各従業員に対して職務間異 動をはっきりせずに確率的に従業員を異動させるということにコミットができ れば,各々の従業員へのラチェット効果の現象が減少する可能性がある。

I

V

.

従業員間の水平的共謀 この節では3節の分析に基づいて,各組織の共謀分析の比較を行う。その従

( 9 ) Meyer and Vickers (1997)は両組織でも同じωrr(ai, aj)=甲,corr (UtiJ Uu) =ρ 関係が存在する場合,ジョブ・ローテーションの方のラチエツト効果が小さいことを分析 した。彼らは組織構造にかかわらずに,よ

f

i

?

値は同じになっている。

(16)

-216- 香川大学経済論叢 1272 業員聞の裏取引による彼ら同士の再契約は,各組織モードにどのような影響を 及ぽすかを分析する。この裏取引は,従業員聞の観察した生産量によって共謀 契約を結ぶ、と推測される。一般的なモデルの設定では,従業員の努力レベルを 正確ではないが互いに観察する。特に,企業が観察する生産量のみを従業員間 も観察するケースに限定する。もし従業員が互いに努力レベルを観察できる場 合,共謀契約は企業に常に有益なケースとして考えられている。これに関連す る命題は 命題

1(

I

t

o

h

1

9

9

2

Holmstrom a

n

d

M

i

l

g

r

o

m

1

9

9

0

)

:

生産量間で独立的 関係があって,従業員同士の努力レベルが完全に観察されるとしよう。そ うなると,従業員間の裏取引は常に企業にとって有益になる。 この命題の直感的な証明は次の通りである。各生産量の独立関係が存在する場 合,従業員にとって賃金の配分ルールが決まる。そして,裏取引の段階では相 互的な保険という意味でリスク・シェアリングだけが残る。企業にとって何の コストもかけずに,そのリスク・シェアリングにのみ考慮した契約を最初から 提示する。その結果,従業員の努力レベルが完全に観察されるので個人的イン センティヴよりは全体の従業員のインセンティヴを考慮している。よって,リ スクを負担するコストが低下することによってリスク・プレミアムが小さくな るのである。このような意味で従業員の裏取引は協力活動を促すことができる という点で日本企業への合意を持つ。 この節で取り扱う裏取引は従業員の努力レベルを設定したのちに,生産量に 依存した共謀契約を分析する。企業にとって共謀防止のためのかかるコストが どう異なるかを分析することによって,共謀が行われでも防止コストがいかに 小さくかかるかを比較しようとする狙いである。つまり,裏取引は常に社会的 に見て厚生を減少させる要因として見なし,防止コストを以下で考えることに しよう。 次に企業と従業員聞でタイミングを定める。第1期の契約((7):αhβli,ぬ, so)を企業が設定する。モデノレで扱う従業員は企業内で同じランク職位を持っ ているので互いの能力を報告することができない。従って,企業からの賃金オ

(17)

ファーを各従業員は観察して,努力レベルを選択した後で予想される生産量に ついて裏取引を結ぶ。各生産量と賃金が決まる。第2期で企業は再交渉するこ とにコミットすることができないから,契約(佑,s2,i

α

0, so)を設定する。企業 からの賃金オファーを各従業員は観察して,努力レベルを選択した後で予想さ れる生産量について2期目の裏取引を結ぶ。裏取引の際,かかる費用は簡単化 のために,割引率はないとする。それによって,

2

期目の生産量と賃金が決ま る。 4.1 期間モデルの共謀問題 まず,従業員間の共謀がなかった前節と同様に

1

期間における従業員聞の共 謀をベンチマークとして見ることにする。 従業員聞の裏取引の契約でも賃金契約のように線形関数を仮定する。従業員 1が従業員2に移転する裏取引の契約形態は r(x) =

π

;

t

X

it十

π

;

t

X

i

t

十 局 側 と考える。各従業員 k は産出量に依存した各々の π ~t , 7r

t

j

の変動共謀費用と, ぬという固定の共謀費用を支払う。さらに,共謀の前に従業員間での努力レベ ルについて外生的な理由で裏取引契約がなされる状況を考える。線形賃金関数 と外生的変数の正規分布を所与として,従業員の

CE

の表現が可能になる。一般 に 従 業 員kの

CEk

(

a

l

π)=(

-7l' I,

α

t

-

7l'2),

(β1+π)=(β

t

+

π

1', ß~+ 7l'2) と

Z

は,撹乱項の共分散の行列を意味する。 従業員聞の裏取引が成立した後,各従業員がすでに選択された努力レベルゲz

=(α?-π)

β;=(

β

j

*

π

)

を考える。共謀による最終的に各従業員がもらえ る期待賃金は以下のように与えられる。

α

i

= (

α

i-m)Xi+(

α

i

-

J[

j

)

X

J

+

偽-7l'

o-Ci

[

(

α

V

π

)

2

7

(

α

V

π

)

]

C

E

.

i=

ω

(

s

i

μ

廿矧

+

π

mg

α

f

=

(

ω

d

m

)X幻

H

(

c

!

;

ω)X

H

7l'o-

C{

T

[

μ

d

(

M

π

)

Z

(

ω

d

)

]

(18)

-218 香川大学経済論叢 1274

CE{= (

ω

β

f

件+廿旬

π

m)X

VOMでのリスク.プレミアムは

r

(

α

v

-1C)~(αV ー π)= ト[

(α[-1C

;

)

2

+

(

a

'

Y-

π

2

(

11'[-1C

;

)

(

a

Y

-1C

i

)

1

7

r

]

σ2

になり, ]RMでのリスク・プレミアムは

十(αf ー π)~(a' - ←~

r[(a{-1C

Y+(

a{一ゎ

)

2

+

2(a{-m)(a{-1C

i

)

ρ(l-r)]σ2

となる(従業員 jのリスク・プレミアムの形態も同様)。

ω

式の各従業員の

CEi

を所与として,従業員聞の最適共謀の契約は彼らのリスク・プレミアムを最小 化するように (1C;, 1C

j

)

を選択することになる。つまり,

miサr[(αt 一 π)~(alー π)+(βt十 π)~(ßI+ π)

]

(22)

その結果,それぞれの組織モードにおける従業員聞の共謀のためにかかる費用 は

πJ-α

(1+ηr

2

L

1C{=a{

{

O

ρ

(

1

-

r

)

) ω I<i -

2

が得られる。これを予想する企業は,

ω

のように従業員の行動を考慮して,

α

(

, β)を最大化する個人の契約が選択されることになる。従って,企業にとっての 最大化式は次のように与えられる。

ma

s

u

b, 同 ,j怜

e

c

tt

ω

o

(ω2忽22) 式 この計算の結果,次のような補題を得ることができる。 補題3: JRM, VOMにおける共謀契約は企業にとって利潤を減少させ る。 証 明 :(制式で裏取引の

π

の値が決められる。それぞれの

π

についての微分 の値は

r

a

i

0'2

>

0

r

;

βjσ2

<

0

であることが得られる。従って,共謀の最適契 約の解では 1Ci

>

0,尽く Oになることが分かる。 αj==α

i

-

1Ci

<

αク, βj==

(19)

β

j

+

ゎ< β Mになるから,共謀下での各従業員の努力レベルは減少する。 このような努力レベルの減少現象は従業員聞におけるリスク・シェアリングに よって生じる。従って,企業から見れば,従業員聞の事前的な共謀活動は企業 の便益の減少を招いてしまう。しかし,裏取引にかかる金額を企業が従業員に 保証する形で設定することができればそのような共謀はなくなる。補題3から 共謀防止のコストの大きさによる Propertyを考える。 Property:共謀防止のコストが大きくなる場合,企業は事前にそれを防止 するためのコスト負担は大きくなれ企業の効率性の観点からも望ましく ない。 この Propertyの意味は従業員にとって裏取引にかかる費用が大きくなると共 謀契約を結ぽうとするインセンティヴが弱まることなく,企業の観点からも効 率性の損失が存在するという見解である。つまり,裏取引にかかる共謀のコス トは各従業員の賃金の範囲で十分賄うことができると考える。次に, (24)式と Propertyから命題 2を得忍ことができる。 命題2 もしラチエツト効果を考えない1期間のモデルで, JRM, VOM において次のような条件を満たすと 7r

Y>

πf-

一 花 ま た は

ρ>

ぽ寄

倒 従業員聞の共謀の防止のためかかる費用はVOM組織の方が大きい(逆は 逆)。 命題2は 1期間モデノレで共謀活動が行わない場合と同じ条件で組織モードの 選好が決められることを意味する。従業員の能力と努力に関する能力の観察 (r 値)が難しくなると, JRM組織の方が望ましくなる。つまり,企業は各従業員 (10) 例えば, 2人の従業員を同時に報告をさせて真の報告がなされた従業員にはぬを従業 員に対するボーナスと考え,嘘の報告をした従業員には厄を罰金として設定する。そう すると,従業員が共謀からもらった金額をボーナスとして与えることができれば,企業は 何のコストもかからずに共謀を防止することが可能である(Felli(1993), Demski and Sappington (1984), Ma, Tumbull and Moore (1984))。しかし,我々の分析は組織の相 違による共謀コストの比較にある。

(20)

-220ー 香川大学経済論叢 1276 に現在の職務から関連ある職場に異動させることに信じたるコミットが可能で あるということである。この企業のコミットに対して,各従業員には裏取引の ためのコストがより高まることがわかる。しかし,このような企業の対応によっ て,共謀活動が防ぐことができたとしても,企業にとってその対策を実施する ためにはコストがかかることになる。 以上の

1

期間のモデノレ分析においてのインプリケーションを考えることにす る。

JRM

では関連ある職場開の異動をすればするほど従業員間の共謀活動の阻 止費用は小さくかかる。補題

5

が示したようにたとえ共謀が阻止できても,そ の従業員の努力レベルは,共謀が行われないときの努力レベルより低くなるか ら社会的に見て厚生は減少する。

T

i

r

o

l

e(

1

9

8

6

)

が論じたように,企業は共謀の 可能性を事前に防ぐため,ルールによる従業員の評価システムを行う。こうい う観点、から官僚主義メカニズムが発生しているという。さらに,我々の分析で はルールによる官僚主義のみならず,実際の従業員の努力レベルが連続的に低 下する可能性があることを指摘しておく。それによって,共謀阻止の費用は従 業員の努力レベルについて減少関数になる。 4..2 2期間モデルの共謀分析 この節では, 2期目の努力を考えた1期目の従業員に対する各組織モードの 共謀閉止の費用を比較する。同様な手順で

2

期間モデルに拡張すると,従業員 の努力レベルの観察が不可能な場合 3節の2期間を考える l期で共謀がない 場合のように,組織構造の選好が暖昧になる。しかし,最終期で,共謀にかか る費用の計算は

1

期間モデルと同様にできる。つまり,

m

r

[

α

(

1 _7r

)

X

(

α

t

π

)

+

(

β

1 +

市 (

β

t

π

)]

(26) その共謀活動における従業員聞の最適な裏取引の金額から,企業は

TCE

を 最大化する。その結果,次のような命題を得ることができる。 命題

3

もし

ρ=η

であり,かっ必

=δJ

ならば

(21)

1277 組織構造のデザイン:配置転換と共謀の比較分析

221ー

2

一 一 V2

π

<

π

一 一

o

三 2 司i 一 ム 胃 - z

必 一

的) になり,

VOM

での共謀防止の費用が多くかかる。 証明:3..2節の(12),1(3)から

α

泣く

αP

になる。 これは従業員のラチェット効果がなくなるので共謀防止コストが明らかに

VOM

で大きくなる。もし共謀のために裏取引額が大きくなればなるほど,従業 員は共謀によって努力水準を小さくしたまま以前の賃金水準を維持することが できる。特に最終期になればなるほど

VOM

では裏取り引きのためのかかる費 用が高くなり,企業にとって共謀を防止するためのコストが高くなる。 Remark ::日本の企業では従業員聞の共謀活動を阻止する仕組みとして,従 業員か様々な職務に配置されるので,平均すれば一人の従業員はより多くの上 司によって査定される (Aoki,1988)。ただし,ここで忘れてはならないのは,共 謀活動の阻止のためコストがかかっている (Propertyが満たされる場合)。例え ば,日本のように複数の上司による従業員の査定で,もし各上司のえこひいき が強くなれば共謀防止のコストも一層高くなる可能性がある。しかし,日本の 企業では, Aoki (1988)の指摘によれば,管理職だけではなく,普通の労働者で も子会社や関連会社に出向に出されることが多い。我々の分析モデルから言え ば,

2

期自の

JRM

では共謀阻止にかかる費用が一層低くなる。それは組織自体 が共謀防止のため組織設定を利用している。日本の大企業での出向のかなりの 部分が中堅社員の雇用を押さえたり,選別したりするために利用されているこ とが分かる。つまり,本社はスリム化しながら従業員を配置転換や出向などの 暗黙的な共謀防止に対応している。浅沼 (1997)の実証研究によると,会社の 中での職業的生涯の途中で,別の課に所属が移るケースも決して無視できない ほどの数で存在していることを指摘している。例えば,プレス職場から車体組 立職場への移動や,生産労働者から事務員への移動もある。また,ある工場で 労働力の余剰が生じ,車両組立、工場の車体組立職場への配置転換を行った例も あれこれが職種の変更を伴う配置転換の例であると指摘している。特に,出 向に関する日本の実証研究は数少ないが, Brunello(1988)によると,第l次オ

(22)

-222- 香川大学経済論叢 1278 イJレショック以降,企業のサイズや余剰従業員の管理という項目が出向(転籍 を含む)利用と相関関係があると指摘している。そして,雇用調整の目的のた め重要な役割を果たしてきた。 46%は定められた期聞を終えて,本来の部門に 呼び戻される。しかし,その残りは雇用の調整のために戻されなかった。この 効果の解釈の一環として,長期雇用が慣行として利用されている日本の企業は, 職場聞の異動のみならず,中年期の従業員を出向という制度を用いて,私的関 係を断ち切るようにするのに有効であるかもしれない。このように,配置転換 をはじめ,出向は日本企業の人事政策において大企業を中心に一般的な制度と して受け入れられている。

V

.

結びにかえて ラチェット効果を考慮した

2

期間モデルから情報の相違として各組織の比較 を行った。さらに,各従業員聞の水平的な共謀活動の分析で組織の効率性を検 討した。本章での主な結論は,明示的に異なる組織比較の分析に通じて

1

期 間だけを考えるモデルにおける従業員聞の努力水準が互いに観察されない場合 には,生産量にかかわる外生変数の相関関係が増加すればするほど,従業員を ローテ}ションさせ,様々な経験をさせることが望ましい。一方,能力にかか わる外生変数の相関関係が増加すればするほど,従業員をある特定な仕事に専 門化させた方がいい。しかし 2期間まで考えるモデノレでの2期目の従業員の 努力水準の比較は暖昧になる。なぜならば,もしある従業員が職務間異動させ られることを知っていれば 2期目に入って,自分の努力水準は,ある臨界点 の下で努力水準が高くなる可能性を予測して

1

期目に専門化されている組織 に属する従業員の努力水準に比べ,配置転換された従業員は相対的に努力レベ ルを低く押さえることが可能となるからである。 各組織において共謀阻止の費用を大きさの分析では,ラチェット効果を考え ない

1

期間のみの比較では生産量にかかわる外生変数に相関関係が増加すれば するほど,ジョブ・ローテーションさせる組織が共謀阻止の費用は小さくなり, 企業にとって望ましい。しかし,最終期の共謀阻止の費用の比較には,専門化

(23)

させる組織の方がそのコストが小さくなる。最終期の分析から,従業員を関連 ある職場聞の異動がよく行われる日本の企業は制度的にこれを防ぐために,数 量調整である雇用水準を子会社への出向や希望退職という調節を行う点で理解 できる。これは日本の長期雇用慣行の観点、から従業員への訓練,配置転換,出 向,昇進などの企業内の制度,慣行によって労働力の配分,労働需給の調整が 行われ,従業員聞の競争条件が作り出される。 本稿で主に取り扱ってきた議論は,異なる組織構造から典型的な日本企業と アメリカ企業の比較であった。しかし,これらの分析は組織構造の比較のみで 制限されている。国によって異なるのは組織構造だけではなく,外部の環境と いう観点からも相違が存在するはずである。例えば,労働市場や金融市場の環 境をあげられる。特に外部労働市場の相違による内部組織の分析は拡張される べきである。すなわち,外部労働市場と組織構造の相互的な枠組みを同時に分 析することによって,より的確な比較分析が明らかになるであろう。 Appendix Var値の計算

各 組 織 モ ー ド で の 条 件 付 き 期 待 値E(Xlilx[,;X[i, X

i

'

i), E(X~iIX{i , X~i ,

X~i) は線形関数の形態で表した。

E(Xl;!X[i, X[;, X!i)

= e叶 y(Xli-e li)

+

δ

lXli-e1i)+

o

'

l

(X2i

)

(2。 E(X~iIX~i , X{i

X~i)

= 九 十y(Xli-eli)+ふ(Xli-e1i)+

(X2i-e2i)

そうすると, Var(X~iIXL, X

L

X~i) , Var(X~iIX~i , X,;IX~i) と y, d1, ð~ は

以下の問題の最小化である。

min r,81.8~ E[X~i or 2i-e2ior2i-Y(Xli-eli)一

δl(X

li-eli)

-ð~(X:幻・ or2i-e2.ior

)

)

2

]

=

minr.81.8~ E[l

+

y2+δ[-2kl

(

-yd1)

-2r(y-d1dU-2苧r(ふ -yd

D

)

]

02 y, d1, dl2に関する一階条件をそれぞれ求めると,

(24)

-224- 香川大学経済論叢ー 1280

0=

r+k

l

δ

1 -

r+

1

7

r

8

f

0=8

1十

k

1

r+r8f-17r

0=

-k

l

+8

1

r

+

1

7

r

'

r

品 切 竹 H H 品 川 吋

3

3

3

である。これを

r

or

8

1について連立方程式を解くと (5)式が成り立つ。その yor

8

1を最大化式に代入すれば Varlが求められる。 参 考 文 献 [1] 浅沼寓皇 (1997): '日本の企業拡織 革新的適応のメカニズム』東洋経済新報社。 [ 2 ] 石田光男・藤村博之・久本憲夫・村松文人 (1997):,日本のリーン生産方式』中央経 済社。 [ 3 ] 小池和男 (1997):'日本企業の人材形成』中央公論社。 [ 4 ] 中村恵 (1995):rホワイトカラーの異動」猪木武徳・樋口美雄(編) r日本の雇用シス テムと労働市場』第6章,日本経済新聞社。

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