1 健診事後指導の意義 健診を受けても生活習慣改善や医療機関受診に至らない、または治療を開始しても中断 する人が多いことが糖尿病管理上の大きな問題であり、これらの治療中断者では合併症の 発症・重症化との関連が深いことが報告されている。反面、検査結果に不安を抱いて、手 っ取り早く健康食品等に頼る場合も少なくない。糖尿病は生活習慣改善によって予防・改 善できる病気であること、健康行動の継続や医療管理等によって合併症を予防することが できることを強調し、長期的な視点にたった事後指導のあり方を考えていく必要がある。 糖尿病の予防活動としては糖尿病一次予防としてのポピュレーション・アプローチと、 「要指導」「要医療」または「その他のハイリスク者」に対するハイリスク・アプロー チがあるが、ここでは後者に重点をおいて指導方法を述べていく。 2 健診結果と事後指導 (1) 糖尿病健診にて異常がない場合 糖尿病の検査に異常がないからといって、生活習慣を見直す必要性がないわけでは ない。肥満、高血圧や高脂血症・高尿酸血症の人、糖尿病の家族歴がある人に対して は、糖尿病発症のリスクが高いことを周知し、適正な体重コントロール、身体活動量 の増加、過食や高脂肪食の改善などを勧めるべきである。 また、基準範囲に入っていても、上限値に近い場合や年々値が悪化してきている場 合にも、注意を喚起する必要がある。健診データをグラフ表示することにより、経年 的な変化を視覚に訴えることができる。 (2) 糖尿病健診において異常が認められるが、すぐに薬物治療の必要性がない場合 基本健康診査の「要指導」もしくは「要医療」でもすぐに薬物治療を必要としない 場合が相当し、生活習慣改善指導が第一選択肢となる。生活習慣改善意欲を高めた上 で、具体的かつ実践的な指導をおこない、対象者自身が目標設定、行動変容するため の支援が必要である。指導後のフォローアップによりその継続を促す。 「要医療」の中で比較的軽症(めやす:HbA1c:6%台)の場合にも医療機関にお いて定期的に血糖検査を受けることを勧め、生活習慣改善のみで十分な効果が得られ ないと判断される場合には薬物治療を併用することもあると説明しておく。また、生 活環境などの変化により急に悪化する場合もあることから、継続管理の重要性につい て指導する。 (3)すぐに薬物治療の必要性であると考えられる場合 HbA1c が7%以上など血糖コントロール改善を急ぐ場合、糖尿病合併症予防のため の血糖管理の重要性について十分説明し、医療機関受診を強く勧める。この場合、血 糖を改善すれば確実に網膜症や腎症の発症リスクを低下させることができること (HbA1c を1%低下させると、細小血管症は30%低下(UKPDS データより))を 説明するなど、治療に対する動機づけを高める工夫が必要である。「要医療」者につい ては、医療機関受診の有無を医師からの回答書または本人の申告により確認しておく。 内科受診と合わせて眼科にも紹介状(依頼状)を発行するとよい。
しかしながら、この判定を受ける対象者は「以前から血糖値が高くても放置してい る」、「治療を中断している」人が多い。治療に対する抵抗感や糖尿病に対する思いを 確認し、受療行動に結び付けたい。 尿蛋白が陽性の場合には糖尿病性腎症(顕性腎症期:Ⅲ期以上)の合併が考えられ るため、血圧、血糖のコントロール、蛋白制限等の食事療法を強化する必要性を説明 し、未治療者に対しては受診・精査を勧める。 3 生活習慣指導の基本的な流れ 長年、無意識で行動してきた生活習慣を改善するためには、①自分の健康状態を客 観視すること、②生活習慣を意識的に修正すること、③将来の見通しをもって主体的 に目標設定すること、が重要である。また、指導者は、型どおりの一般論を振りかざ すのではなく、①本人のこれまでの生活習慣や準備度を考慮し、②立てた目標に無理 がないか、その目標によって所定の効果を期待できるかを考え、適切な目標設定がで きるよう促すこと、③適切な評価により自信を持たせ、継続意欲を高めることであろ う。 健康行動を促すためには、①健康行動をとることが、その人にとって有利であると 感じさせること、②健康行動は、その人にとって困難すぎる課題ではないこと、また は困難な理由を除去すること、③このままの生活習慣を続けると、重大な結果を引き 起こすであろうという危機感があること、④行動のきっかけやサポートを受けられる こと、などの要因が重要である(Health Brief Model)ため、生活習慣指導を企画す る場合にはこのプロセスを念頭におく。あくまでも生活習慣を変えるのは本人なので あり、支援者は本人の気持ちをいかに前向きにサポートしていくか、を考えるべきで ある。 本人の「思い」の確認 糖尿病に対する「思い」・健康観 生活習慣の問題点に関する認識 生活習慣改善についての準備度 結果説明:データの意味、将来予測 生活習慣の聞き取り・生活習慣調査 調査結果に基づく具体的な指針 病態に基づく効果的かつ効率的な 改善策の提案 本人による意思決定・優先順位の確認 目標確認・フォローアップ等の約束 行動サポートの約束
4 健診の結果をわかりやすく説明する 「HbA1c の結果が正常値よりもちょっと高いんです」という説明で、行動変容を 期待することは困難であろう。以下のポイントはぜひ押さえておきたい。 ① HbA1c とは、何を測定しているのか 糖と非酵素的に結合したヘモグロビンであり、血糖の長期的な指標として広く用 いられている。血糖はそのときの状況で絶えず変化しているが、HbA1c は1∼2 ヵ月の血糖値の平均を反映している。 ② あなたのデータは、どのくらい悪いのか (日本糖尿病学会ガイドラインを参考に改変) HbA1c コメント <5.5 今のところ糖尿病の可能性は低いか、糖尿病であってもコントロール良好 5.6∼6.0 糖尿病の予備軍(境界型)であるか、糖尿病であってもコントロールは良好 境界型でも、肥満・高脂血症・高血圧症合併例では、心筋梗塞や脳卒中など の危険は高まることに注意する。 本格的な糖尿病にならないよう、生活習慣の見直しが重要。 6.1∼6.5 糖尿病の可能性が高いが、いまのところ薬物治療は必要ない場合が多い。 治療中の患者では、コントロール良好であると判定される。 生活習慣改善目標をたて、定期的な検査で効果を確認すること。 6.6∼7.9 糖尿病と診断。コントロールはあまりよくない。 食事・運動療法を実行しても7%以上が継続する場合、薬物治療が必要とな ってくる。合併症の進行に血糖コントロールが影響する。 医療機関受診を確認する。 8.0∼ 糖尿病。コントロール不良であり、合併症進展の危険が高い。 薬物治療が必要な場合が多いが、食事・運動療法の改善も欠かせない。 治療によって必ず良くなり、合併症の予防効果が高いことを強調する。 治療コンプライアンスの低い人が含まれている。治療中断歴のある人ではフ ォローが欠かせない。 ③ このままいくと、どうなるのか:将来予測を客観的なデータで示すことが有用 合併症についての情報提供は必要であるが、いたずらに脅しにならないように注 意する。すでに知っていることを繰り返す愚を避け、科学的に説明した方が良い。 本人の合併症に対する知識を確認→細小血管症と大血管障害の頻度、その人のデ ータでの危険度などの疫学データを紹介→予防法があることを伝える。
山形県舟形町における血管 イベント死亡の生命表分析 JDCSにおける HbA1c 値と網膜症と 大血管合併症の相対危険率の関係 糖尿病コントロールの状態と罹病期間によって網 膜症発症率は異なる。糖尿病でも良好なコントロ ールであれば、網膜症発症リスクは低い。 境界型でも正常型と比較して脳卒中・心筋梗 塞のリスクは高い。肥満、高脂血症、高血圧 症の合併に注意する。 ④ 生活習慣を改善したら、糖尿病にならなくてすむのか。血糖を下げたら、合併症 を予防できるのか。 糖尿病型への移行率(JDPP) Kumamoto Study における強化療法と 従来療法の糖尿病網膜症の累積悪化率 ⑤ どうしたら、下げることができるのか 生活習慣改善指導(強力介入)により、糖尿病 の発症率が3年間で58%抑制された。 平均 HbA1c を約2%低下させると、細小血管症 は半減した。 糖尿病を悪化させる要因、改善させる要因についての説明し、本人の生活習慣の 振り返りを促す。2型糖尿病では肥満、運動不足によるインスリン抵抗性について 理解を深め、改善策を自分で見出せるように情報提供する。
5 対象者の準備度を測定する 対象者がどのくらいやる気になっているか、行動変容に対してどれくらい気持ちの準 備ができているか、どのステージにいるかによって有効な働きかけ(介入)の方法は異 なる。 維持期 無関心期 関心期 準備期 行動期 再発防止訓練 意識の高揚 感情的経験 環境の再評価 自己の評価 コミットメント 行動置換 援助関係の利用 強化マネジメント 刺激の統制 社会技術訓練
<支援> 1考えや感情を聞く。 食事療法や運動療法に取り組むのは当然であるという態度で 接したり、参加者の気持ちや思いを無視することはしないでくだ さい。まずは取り組もうとしない理由を知るための情報収集を行 いましょう。→セルフケア行動開始を妨げる原因を明らかにする 2情報提供 糖尿病に関して何も知らない参加者や、セルフケア行動の必要 性を知らされてない参加者には、必要性や有効性に関する一般知 識を提供する。→行動変化の引き金
無関心期 <特徴> ○認知・感情、考えや思い セルフケア行動は自分には必要ない。 ○行動、目に見える変化 セルフケア行動をする気はまったくない。 ※仮面の無関心期には要注意!! 「仮面の無関心期」とは「俺はいつもデータでひっかかるがどこも悪くない」や「生活を変える気がない」 と、一見病識がないような素振りに見える人をいいます。しかし、その言葉や態度に捕われてしまうと本当 の姿を見失ってしまうかもしれません。じっくり話しを聞いていくと、「薬を飲んだらもうお終いだ」という 病気に対する否定的な感情がみえてきたり、「以前に玉ねぎが糖尿病に良いと聞いたから、病気にならないよ うに毎日玉ねぎを2個すりおろして食べている」と自分なりに良くなりたいと行動を起こしていることがあ ります。「無関心期だから病識がない。だから治療の必要性や有効性に関する一般知識を提供する。」を実践 しても、既に十分熟知していることを言われるので参加者から受け入れられず、より良い関係を築くことが できません。まずは十分に参加者なりの現状の理由を聞き、理解することから始めましょう。
<支援> 1一歩を踏み出す支援。 行動が変わらないことに対して批判や非難をしたり、合併症の 怖さを強調して脅すことはしないでください。また、参加者の今 の行動を続けている利益を無視しないでください。教室参加を促 したり、他の参加者との交流の機会を作り、新しい行動を体験・ 見学する場面をつくりましょう。 2有益性と障害を知りバランスを考える。 無意識的であった問題行動の気づきを促し、この問題行動の利 益、不利益の中で何が変えやすいか、参加者とともに考えます。 →「セルフケア行動によって得られる利益」「セルフケア行動に よって失われる不利益(障害)」のシートを作成する。※
関心期 <特徴> ○認知・感情、考えや思い セルフケア行動は必要であると考えてい るが、抵抗も大きく迷っている。 ○行動、目に見える変化 家族にカロリー計算された食事を作って もらうのもいやである。 ※バランスシート ①今までの行動の利益と不利益を明らかにする。(短期・長期)問題行動の特定化 例)間食をすることで、あなたにとってよいことは何ですか。 ②新しい行動(望ましい行動)の利益と不利益を明らかにする。(短期・長期) 例)運動を開始することで、あなたにとってよいことは、何ですか。 ③何が変えやすいか、参加者とともに作戦を立てる。利益を強調、不利益を減少 明らかな誤解は訂正し、利益の証明や他の人がやっているのを見せる。
準備期 <特徴> ○認知・感情、考えや思い セルフケア行動を始める計画をしている。 すぐに始める気がある。 ○行動、目に見える変化 家族にカロリー計算された食事を作って もらっている。 セルフケア行動を開始した。
<支援> 1段階的目標設定 大まかな目標を立てたり、行動を過小評価しないでください。 また、参加者の達成度を無視して次々と課題を与えることはやめ てください。段階的に行動目標を設定することで、自身で行動変 化ができるという自信を育てていくことが重要です。 →8割方達成できる目標を設定する。 2行動強化
<支援> 1行動の強化 実践していることを褒めましょう。セルフケア行動を継続して いくため、体験実習を用いた教育を行ないます。行動が結果(血 糖値等)につながることを自身で確かめ、理解できるような援助 を行ないます。 →行動に対する自信持つ 2逸脱・再発予防と対策 この時期は次から次へと新たな目標を立てることも避けてく ださい。参加者は頑張ってやっているのに更に鞭打つようなこと になります。「あなたの健康はあなたが守る」というメッセージ を送り、また、逸脱しやすい時期でもあるので、逸脱が習慣化し ないように、あらかじめ想定して対策を立てます。 →再発防止プログラム
行動期 <特徴> ○認知・感情、考えや思い セルフケア行動を実践している。 気持ちは問わない。 ○行動、目に見える変化 セルフケア行動を実践している。 始めて6ヶ月以内。
<支援> 1QOL配慮 セルフケア行動が負担になっていないか確認し、問題があれば フィードバックします。 2ライフイベント対策 重大な家庭内の問題や事故、職場や近所の付き合いなどを想定 して対応策を考えておくが、逸脱防止に役立ちます。
維持期 <特徴> ○認知・感情、考えや思い セルフケア行動を実践している。 気持ちは問わない。 ○行動、目に見える変化 セルフケア行動を実践している。 始めて6ヶ月以上。 認知的および行動的方略 1.認知的方略 1)知識を増加させる(意識の高揚)。 2)リスクに注意を向けさせる(感情的経験):不活動になると非常に不健康であるというメッセージを与え、 感情的な面から経験すること(例:肥満、糖尿病と不活動の関係)。 3)他人への影響を気にかけさせる(環境の再評価):その人の病気や行動が、家族や友人にどのような影響 を与えるかを認識すること(例:子どもや孫への影響)。 4)恩恵を理解させる(自己の再評価):健康行動によって得る個人的恩恵について考える手助けを行うこと (例:減量の効果)。 5)健康的な機会を増加させる(社会的開放):社会の変化や活動の機会に気づくようにさせ、社会や環境の 変化を知ること(例:地域の散歩道の把握)。 2.行動的方略 1)別の手段を代用する(行動置換):CM の間に部屋の中を歩く、ジュースの代わりにお茶にする、など。 2)ソーシャルサポートを得る(援助関係の利用):仲間をつくる、家族に応援してもらう。 3)自己報酬を得る(強化マネジメント):自分自身や他人から褒美をもらうこと。あらかじめ、褒美の約束 をしておくこと。 4)自身でコミットする(コミットメント):行動変容することを自ら選び、決意し、それを表明することや、 行動変容する能力を信じること。 5)自身で思い出す(刺激の統制):問題行動のきっかけとなる刺激を避けることや、健康行動をとるきっか けになる刺激を増やすこと。(例えば、玄関の見えるところにシューズ)。 6 意欲を高める:セルフ・エフィカシー(self-efficacy) ある行動が望ましい結果をもたらすと思い、その行動をうまくやることができるとい う自信があるときに、その行動をとる可能性が高くなる。つまり、「見込み」があると思 えばその行動が継続できるのである。「見込み」を高めるための4つの方法がある。
結 果
人
結果予期行 動
効力予期 (自己効力感) (Bandura,1977) ① 自己の成功体験 うまくいったという体験を刷り込んでいく。できる、できたという感覚を自分で持 つ。「減量したら検査データが改善した」という体験を実感することが大切である。 ② 代理的体験 自分と同じような人(性・年齢・体型・置かれている状況など)が成功しているこ とによって、自分もできると思う場合である。集団型健康教育ではグループ内の誰か が行動を始めたこと、その結果が良かったことなどが他の参加者にとって大きな励み となる。 ③ 言語的説得 非常に影響力の強い人、説得力のある人から言われることで、なんとなくできそう な気になり、「やってみるか」という気持ちになる場合である。「あなたならできる」 と言ってくれる人自身が、成功している人であったり、たくさんの人がその行動をと ることを見てきた経験を持ち、客観的に判断できる場合に効果的である。 ④ 生理的および情動的喚起 自分が上達したという、生理的な気づきを積み重ねていく場合である。例えば、ウ ォーキングを続けたら気持ちが良い、体調がよいなどの感覚を意識することが継続に つながる。 7 目標設定 指導者は生活習慣上の多くの問題点を指摘しがちだが、多すぎ・高すぎる目標は明確 に意識されにくいだけでなく、自己効力感の低下をもたらすことも少なくない。目標は あくまで本人が立て、優先順位を明確にすること。支援者の役割は立てた目標に無理が ないか、所定の効果を期待できるかを考え、適切な目標設定ができるよう促すことであ ろう。 目標を立てる前に自分自身の生活を振り返ってベースライン値をとり、普段からかけ 離れた目標を掲げて失敗しないようする。短期(2週間∼3週間)、中期、長期と3種類 くらいの目標を立てるが、短期目標は80%以上達成できるように設定し、「できる」と いう感覚をそこで確かめる。うまくいかない場合「できなかった自分」を責めるのでは なく、「できなかった状況」「目標の立て方」に焦点をあてるよう促していく。 表やグラフを活用したセルフチェックを行い、支援者は必ずその状況を確認して前向 きに評価することによって継続につなげたい。8 食習慣改善支援のすすめ方 習慣化された食事は、その問題点を自覚することが難しい。糖尿病予防・改善のため の食事は、適切な食行動・食事量・バランスの3つが中心となるが、まずは普段の食生 活と健康的な食生活とのズレに気づくことから始まる。食行動調査や栄養分析で客観的 に評価したり、糖尿病予防食試食と普段の食事を比較する体験やバイキング実習等で修 正を受けたりする体験を通して、ズレを自覚することが「気づき」につながる。食事療 法はガマンを強いたり非難されたりするものではなく、長期に続けられる、楽しく豊か なものであることが理想である。実習のときの「おいしいね」「充分だね」という感想が 大切である。 (1)食行動 過食、欠食等を始めとする食行動の乱れは、血糖コントロールの乱れにつながりや すい。食行動の歪みについて、まず自覚してもらい改善を促す。 改善したい食行動 過 食 食 インスリンの処理能力以上の糖が血液中に流入し、高血糖をまねきやすい。 早食い 糖の吸収の早さにインスリン分泌が追いつかない。過食をまねきやすい。 ながら食べ つられ食べ 食事を食べているという実感が持ちにくいこと、無意識のうちにたくさん食べてしまうこ と、他のことに気をとられ満腹感がえられにくいなど、食べ過ぎにつながる。また空腹で ない摂食であるので、血液中へ追加として糖が流入し、高血糖をまねきやすい。 欠 次の食事での消化吸収が促進される。またインスリンや薬物療法中の場合は、低血糖 の原因となる。 不規則な食事 規則的な食事習慣は、食後血糖値の変動を少なくすることができ、著しい高血糖や低血 糖を避けることができる。(食事の間隔が長い場合は「欠食」の場合と同じ。短い場合は 「つられ食べ」の場合と同じ。) 夜遅い食事 夜間は副交感神経が有意となり、昼間に比べ吸収された糖がエネルギーとして利用 されにくくなるため、高血糖をまねきやすく、またその状態が持続しやすい。 嗜好食品・飲料の 摂取習慣 菓子、アルコールの習慣はいずれも血糖コントロールを乱す。できるだけ控える。(甘い 菓子・飲料は単糖類、2糖類という種類の糖が主に含まれ、これは血糖値を急激に上昇 させる。またアルコールは糖はわずかしか含まれないが、インスリン作用の低下・分泌 抑制の作用有りの報告有り。) 食事はゆっくり、時間を決めて。食べてすぐ寝ない。 食行動 ポイント (2)食事の量・質(バランス) 基礎代謝量と身体活動量に見合ったエネルギー量が適正となる。運動を実施すれば その分食べてもいいという考え方もあるが、実際には運動による消費エネルギーは思 ったほど多くないことに注意する。 逆に、安易に食事の全体量を減少させると、食事バランスは悪化しやすい。特に糖 尿病患者では、誤った理解から、栄養素の不足をきたしているケースも多くみられる。 次表に食事量の算出法とバランスのよい食事とするためのポイントを示した。
●1日の適正エネルギー量(kcal)の算出 主食:目安量は、1食量 ごはんで女性150∼200g、男性200∼250g程度である。高齢者や肥満者 は低い値を目安とする。安易に減らすと間食が増え、血糖のコントロールを乱すことがある。穀類は複 合糖質※1であり、吸収が緩慢で血糖値の急激な上昇はない。単品もの(丼等)は主食の摂り過ぎ、塩分 過剰につながりやすいのでなるべく控えたほうがよい。 主菜:毎食1品程度(多くても1.5品)とし、1日分として、肉(脂肪の少ない部位で薄切り肉2枚程度)、魚 (1切れ、青魚中心)、卵(1個)、豆類(納豆小1カップ又は木綿豆腐100g)の4種類を揃えて食べる。調 理法は自由だが、油での調理法はなるべく控える。摂りすぎは合併症の発症、増悪を促進するが、不足 もHDLコレステロール値の低下をはじめ、合併症の誘因となる。 ・毎食、生野菜なら軽く両手に1杯分、お浸しなら片手1杯分を、うす味、低油脂の調理法で工夫して食 べる。 ・海藻、きのこ類も毎日積極的に食べる。 とし、夕食後の過食は避ける。食物繊維の摂取のためにも、ジュースでの摂取は避ける。 ・牛乳もしくはヨーグルトで1日180mlを目安とする。チーズはたんぱく質源として考える。 ・ヨーグルトは無糖が好ましいが、加糖のものでは特に量に注意する。 ・薬物療法もしくは肝機能障害がある場合は禁止となる。血糖のコントロールが良好に保たれ、自制心 がある場合のみ、医師から1日1回量 日本酒1合、ビールなら中瓶1本程度の量が許可される。週に2 日は休肝日を設ける。 ・つまみとして、油脂料理は控える。 ・血糖を顕著に上昇させる単純糖質※2が多く含まれるため、摂取は控える。特に夕食後の摂取は控える。 ・洋菓子は砂糖と同時に脂質も含むため、特に注意する。 ※1,2:炭水化物(糖質)はその構造上の分類で、単純糖質と複合糖質に分けられる.。糖尿病の食事療法では、単 純糖質の摂取が制限される。 量 の 算 出 各 食 品 ︵ 群 ︶ の 摂 り 方 は果糖(単純糖質)を含むため、血糖値を上昇させやすい。決められた量(単位としては1本又は小1玉程度) を必ず摂取する。 コール ・ジュース を守り、過食を避ける。1日分をなるべく3食均等に配分し、夕食に比重が偏らないよう注意する。 (炭水化物)は適量、主菜(たんぱく質)は食べ過ぎない。 (副菜)は1日350g(そのうち色の濃い野菜を1/3程度)、毎食摂取する。 菜、副菜を揃えて食べる。 果物 乳類 アル 甘い菓子 適正量 主食 野菜 主食、主 きわめて軽い労作(座位が多い)20∼25kcal 軽い労作(事務職など) 25∼30kcal 普通の労作(立ち仕事が多い) 30∼35kcal 重労働に携わる者の場合 35kcal∼ 標準体重(kg)×標準体重1kgあたりのエネルギー量 ※医師の指示により決定される。通常1,200kcal以下は指示されない。 エネルギー制限をした中で、栄養バランスを良好に保つこと! 腹八分目を心がけ、毎食野菜を欠かさず、野菜から食べる。 ●1日の各食品の適正量の算出 各食品の算出は、1日の総エネルギー量に沿って決定される。食品交換表もしくは、栄養所要量で 示される食品構成表をもとに算出される。これらを利用して算出できないケースもあるため、下記に 食品の目安量も併せて記す。 ポイント 量・質(バランス)
(3)注意すべき支援のポイント ① 体型別 インスリンの分泌の程度によりポイントが異なる。表に体型別に食事のポイント を示す。 食 事 指 導 ポ イ ン ト 肥満によるインスリン抵抗性と過食のため、高血糖となっている。体重が減少すると血糖 コントロールが改善される場合が多いので、食事量を適量に留め、まずは減量を目指 す。肥満者では、油っこい物が好き、夕食が多すぎるなど、食行動に問題を持つ者も多い ため、その是正をはかる。 一般にインスリンの分泌自体が不足しており、肥満の糖尿病患者に比べ食事療法の効 果には限界がある。薬物療法が併用される場合も多く、この場合体重が除々に増加して くる。基本の食事療法を指導し、無理に体重を増やすような指導はしない。アルコール多 飲者にも注意を向ける。 分 類 肥満傾向の者 痩せの者 ② 合併症があるとき 糖尿病の患者は、健康人に比べ他の疾患に罹患しやすく、合併症の発症や進行を 防止することが重要となる。合併症別にその食事のポイントを示す。 合併症 食事の基本 追加される指導 糖尿病 +高コレスレロール 肉類や卵類を適量に制限し、大豆類、n-3系の油脂(青魚、シソ油)、食物繊維を積極 的に食べる。 ライド 穀類を適量に制限、砂糖などの単純糖質やアルコールを極力控える。n-3系の油脂 の割合を増加させる。夕食過多、夜遅い食事は極力避ける。 食塩を10g以下に制限する。野菜を積極的に食べ、カリウムの摂取を心がける。 前期・早期) 微量アルブミン尿出現程度の病期であれば、たんぱく質の摂り過ぎに注意し、基本は 糖尿病の食事療法とする。高血圧を合併している場合は7∼8g/日の食塩摂取量に 制限する。 +腎症(顕性以降) 糖尿病性腎 症の食事療 法 持続性たんぱく尿が確認される病期に移行した時点から、医師の指示のもと、塩分と たんぱく質制限が厳格となる。病期の進行に伴い、カリウム、水分も制限の対象とな る。基本の食事療法から糖尿病性腎症の食事療法に切り替える。 糖尿病の 食事療法 糖尿病 +高トリグリセ 糖尿病+高血圧 糖尿病 +腎症( 糖尿病 (4)食生活改善体験の実際 あいち健康プラザの糖尿病予防教室では、講義による栄養指導に先立ち、バイキン グ実習を行っている。並べられた料理を参加者が自由に選択し、その選択・摂取状況 から食事アドバイスを行うものである。この実習では、摂取状況や食べ方(食事のス ピード、咀嚼の程度、食事の順番など)の実態を把握できるだけでなく、実際の食品 (献立)を使って個別アドバイスを実施することにより、集団指導であっても参加者 それぞれにオーダーメイドの指導が可能となる。実習をとりいれたことにより、エネ ルギーや脂肪摂取量の減少のみならず、食物繊維の増加が観察され、体験型プログラ ムの効果が確認されている。
9 運動習慣改善支援のすすめ方 交通機関の発達や労働内容の変化に伴って身体活動量が減少したことが、糖尿病が増 加した一因であることは周知のことがらである。運動は筋肉での糖輸送担体(GLUT 4)のトランスロケーションを促進することにより筋肉への糖の取り込みを増やし、血 糖を低下させる(急性効果)。また、エネルギー消費を高め体脂肪量の減少をもたらし、 インスリン感受性を改善する(慢性効果)。 糖尿病をコントロールするためには運動が大切であることを知らない人はほとんどい ないと思われる。にも関わらず、著者らが行った糖尿病患者の運動実施状況に関する調 査では、とくに経口血糖降下剤服用者において運動実施状況が悪く、薬に依存している 患者像が浮かび上がる。 運動習慣獲得の可否は本人の意欲にかかっている。支援者はやる気を引き出し、主体 性を持って継続できるプログラムの提供とその積極的な評価をおこなうのがその役割で ある。 (1)運動習慣獲得のステップ 糖尿病コントロール状況や合併症状況を評価し、運動療法の適応かどうかを判断し た上で、運動実践プログラムを導入する。①教室前の身体活動量の評価、②運動の必 要性と効果的な方法の理解、③実践のためのプランニング④運動実施状況の確認・評 価、というステップで行なう。 ① 身体活動量の評価 生活習慣アンケート、歩数計やライフコーダを用いて、普段の生活時の歩数や運 動消費量を確認する。生活習慣アンケートでは、仕事、通勤方法など日常生活の状 況、定期的な運動の有無(種類、実施時間・頻度、継続年数)などを確認する。 すでに毎日30分以上、または平均歩数12,000歩以上、運動消費量が体重 の6倍以上の運動が実施できている場合、または週150分以上意識的な運動を実 施している場合は十分な身体活動量が得られていると考えられるのでこのまま継続 してもらうが、それ以下の場合、支援の対象となる。 ② 運動の必要性の理解と導入 運動がなぜ血糖コントロールに役立つかを理解してもらう。糖尿病患者が運動し たくない理由として「運動はつらい、苦手、時間がかかる、めんどう、苦痛」など、 運動に対する否定的な気持ちをあげる場合が多い。支援の第一歩としてこの気持ち を取り去る必要がある。以下に具体的な導入例を挙げる。 [例1]30分程度の運動の前後で血糖自己測定(SMBG)を行い、運動の急性効果を自分の目で 確かめる。「血糖は自分で管理することができる」という自信につなげることができる。 [例2]指導者がいっしょに運動し、「いま、太ももの大きな筋肉を使っています。糖が筋肉へとり こまれていますよ」などと声がけをし、運動中に使用している筋肉を意識してもらうととも に、筋肉がエネルギーを消費し、血糖が下がってくる様子をイメージさせる。 [例3]糖尿病のコントロールに有用な運動はハードな運動ではないことを知ってもらう。ハートレ ートモニターポラールなどを用いて、適切な運動強度を体験させ、「気持ちよかった」「この
くらいの運動だったら、楽にできるね。」という感覚を引き出す。ゲーム感覚のプログラム を用意し、知らず知らずのうちに歩数が伸びていたことを実感することも効果的である。 [例4]運動療法の効果は糖尿病の改善だけではない。高齢者になったときの自分(すでに高齢者の 場合は、今から5∼10年後の自分)を想像してもらい、運動を続けることが体力の維持、 老化の防止、QOLの向上につながることを再確認する。 ③ 運動処方と目標設定 運動処方として①運動の種類、②運動強度、③運動時間、④頻度、⑤時間帯に ついて具体的な処方を作成する。 運動の種類としては、ある程度持続時間の長い有酸素運動が基本になる。運動 強度の設定がしやすく、全身の筋肉を使用する、いつでも行える、安全であるな どを考慮すると、ウォーキングが第一の選択肢となる。筋力の低下を防ぎ基礎代 謝を高める目的で低強度の筋力トレーニングを加えたり、筋の柔軟性・関節可動 域の向上、けがや障害を予防する目的でストレッチングを加えたりするとよい。 種類 有酸素運動を主体 歩行・ジョギング・水泳・自転車エルゴメータなど 軽い筋力トレーニング、ストレッチングを併用 運動強度 40∼60%VO2maxからはじめる (気持ちよく汗が出る、ちょっともの足りない程度) 合併症のない場合、若い人では70%(ややきつい)程度まで可 心拍数のめやす (カルボーネンの式より) (220−年齢−安静時心拍数)×(0.4∼0.6)+安静時心拍数 時間と頻度 1回の運動時間20∼60分 (10分程度のものを繰り返してもよい) 週3∼5回 週に150分以上 時間帯 食後30∼60分後が効果的 インスリン、SU剤治療中はとくに食後が望ましい。 運動処方をもとに具体的な目標を設定する。性格、好みや生活状況にあわせて、 現実的で無理なく継続できる目標を本人がたてることが大切である。また、「毎日 の通勤時間に往復30分のウォーキング」、「平均歩数を2,000歩増やす」「週 150分の意識的な運動」「健康増進施設(ジム・プール)へ週2回通う」など、 客観的に評価できる指標を取り入れるとよい。 生活が比較的規則的で几帳面な人には毎日のウォーキングが向くが、やや依存的 な人、飽きっぽい人では家族の協力を得るか、健康増進施設、市町村保健センター
などの健康づくり教室などの利用をすすめる。仕事が忙しく、毎日決まった時間に 運動できない人では、「今日もできなかった・・・」という否定的な感情を積み重 ねやすいので、週単位での目標をもつことで、気持ちのゆとりができる。「週に 150 分の意識的な運動」という目標は勤労世代に受け入れられやすい。 ウォーキングは糖尿病の運動療法として最適ではあるが、単調になり飽きやすい という欠点もある。「いつでもできる」という安易な気持ちになりやすいのも欠点 である。したがって、時間を決める、歩数計やライフコーダなどをつけて目標を明 確にする、コースに変化を持たせるなどの工夫が必要である。ハイキングなどや好 きなスポーツに参加する体力をつけたいなど長期目標を持つことによって、毎日の 運動が楽しくなる。 ④ 運動療法の評価と継続への動機づけ 歩数計、運動記録などを活用し、運動を実施していることを積極的に評価するこ とにより、自己効力感を高めることができる。 また、運動そのものに楽しさを感じている場合の継続率は高い。「体が軽くなっ た」「充実感がある」など、運動療法の効果を明らかに自覚できる場合、その言葉 を記録しておく。この実践と評価のサイクルを継続することにより、脱落すること なく運動を生活の中に取り入れることができる。 運動の最終的な効果として、検査データでの確認をする。運動実施状況とHbA1c やトリグリセライド、体重などの検査値の変化を関連づけて提示する。 (2)期待した効果が出ない場合 なかには「運動をしっかりやっているが血糖コントロールが改善しない」場合があ る。そのような場合、本人とともにその原因や解決法を考えることになる。 ① 運動の状況を客観的に確認する ライフコーダ、歩数記録などを活用し、充分な身体活動量に達しているか検討す る。 ② 食事を確認する 運動しているから・・・といって食が進みすぎている場合がある。 ③ 薬物療法の導入、変更 糖尿病の悪化原因は生活習慣のみではない。膵β細胞のインスリン分泌能の低下 をきたしている可能性を考えて検査し、治療法を変更することもある。この際、薬 物開始とともに「運動はもう必要ない」と思ってしまう人もいるが、運動が薬物を 有効に作用させるために今後も必要であることを再確認する。 (3)実施にあたっての注意 ① 体調の確認 血糖が高い、食事が摂れない、血圧がいつもより高い、風邪気味、頭痛や熱、腹 痛や下痢、寝不足や二日酔いなどがある場合は、運動の実施を見合わせる。また運 動中、胸痛、動悸、めまいやふらつき、冷や汗、強い空腹感やふるえ、いつもと違
う強い疲れ、関節や筋肉の強い痛みなどの症状が起きた場合は、直ちに運動を中止 する。 ② シューズや服装 運動の継続によって膝や足首などの整形外科的障害を起こさないために、スポー ツシューズを着用する。また屋外で運動する場合、体温調節を考慮した服装が必要 である。夏は熱の放散を考えた服装であり、冬は重ね着をして体温の上昇に伴って 脱衣ができるようにする。 ③ 低血糖対策 インスリン及びダオニールやグリミクロンなどのSU薬(膵臓を刺激してインス リン分泌を促進する)治療中の場合は、低血糖を起こす可能性がある。運動開始に おける血糖値(空腹時は避け、食後の実施が有効)や運動量(強度や持続時間)を 考慮することが必要であり、症状を確認しながら運動を進めなくてはならない。ま た、SU薬は作用時間が長いため、運動後も注意を要する。 ④ 脱水症対策 血糖値のコントロールが良好でない場合は、脱水症のリスクが大きい。また、発 汗は脱水を助長し、血液循環の悪化や血栓を作りやすいなど循環器系への悪影響が 懸念される。したがって運動の前・中・後に水分を摂取する。水分の補完には1 日 を要するので運動終了後も余分な水分を摂る必要がある。 ⑤ 合併症対策 合併症を保有し薬物治療がある場合には、運動実施における安全域の低下が著し くなるため、運動の種類や種目の限定、厳格な運動強度管理、身体姿勢の考慮、水 分補給の徹底、準備運動や整理運動の実施時間延長など、運動指導上の留意点が増 大する。したがって、運動は、メディカルチェックの結果を十分に把握したうえで 慎重に進めるべきである。 10 その他の自己管理に関する指導 (1)フットケア 糖尿病では、神経障害、循環血流の減少による創傷の治癒の遅延、高血糖による易 感染性によって足病変へのリスクが高まる。運動療法としてウォーキングを始めると 足への負担が大きくなり、足のトラブルの原因となることに注意する。糖尿病予防の ためにせっかく運動量を増やし、運動を継続しようと思っても、足病変が原因で中断 することが少なくない。早期からフットケアを心がけたい。 ① 毎日足を観察する 爪 の 異 常 :角質の増殖、変色・変形、爪の肥厚、巻き爪 皮膚の異常:水疱、傷、火傷、潰瘍、水虫、タコ、ウオノメ、変色(赤み、黒み) ② 足を清潔に保つ 毎日、温かい(熱くない)水で足浴、シャワーなどで足を洗い、清潔にすることは、 白癬菌の感染予防にもつながる。 ③ 正しい爪の手入れをする 爪はのばしたままにしないこと、丸く切ったり、深爪にならないようにつま先の
自然なカーブに沿って切るかやすりをかける。 ④ 足に合った靴を選ぶ (2)たばこ 血圧の上昇、血液凝固能の亢進、末梢血管の収縮を来し、動脈硬化性疾患特に虚血 性心疾患や閉塞性動脈硬化症の重要な危険因子である。高血圧症や高脂血症など、多 く険因子を有する糖尿病患者では禁煙をぜひ勧めたい。 禁煙により体重増加がみられることがあるが一時的なものであることを説明する。 食事や運動療法をよりコントロールしていくことが重要で、喫煙を減量の手段としな いよう禁煙の継続を支援していく。 (3)アルコール 糖尿病だからといって安易に禁酒を指導しても抵抗感を増すだけで、治療や自己管 理の中断を招きかねない。その人にとって飲酒がどのような意味をもつものかを考え、 対応策をともに考える姿勢が必要である。 アルコール・飲酒の害 1.食事療法がおろそかになる⇒ 血糖コントロールの乱れ 2.中性脂肪の増加、高脂血症、肥満をもたらす 3.インスリン作用低下、インスリン分泌の抑制 4.アルコール性低血糖⇒酩酊と間違われ、放置 されやすい 5.肝障害、膵疾患 6.高尿酸血症 7.アルコール依存症 アルコール飲料を認める条件 1.血糖のコントロールが長期にわたって良好 2.経口血糖降下薬やインスリンを使用していな い 3.肥満がない 4.糖尿病の合併症がない 5.その他、慢性疾患がない(肝疾患、膵疾患、 心臓病、動脈硬化性疾患等) 6.自制心がある *適量飲酒指導のステップ ① 飲酒に問題がありそうか、推測する(γ-GTP、AST、ALT、TG、尿酸などを参考) ② 飲酒量の確認:調査票では過少申告の場合が少なくない 「よく飲める方ですか」「飲むときはどのくらいですか」など、気楽な雰囲気で問い かける。この時点ではすぐに指導しない。 ③ 過量飲酒が疑われる場合、アルコールに対する考え方を聞く 「アルコールを飲むとどんないいことがあるのか」を話してもらう。 「一生楽しく(Drストップがかからずに)お酒を楽しむためにはどうしたらよ いか」 「日本酒を焼酎に変えた」という場合、効果がないと否定するのではなく、なん とか糖尿病を改善したいという気持ちをまず受け止めることが必要。
④ 依存度を判定する。CAGEの質問票等を活用し、自己チェックをする C:あなたは酒の量を減らさなくてはまずいと思ったことがありますか。(Cut-off) A:あなたは自分の飲酒のことでほかの人から批判され、よけいなお世話だと内心思っ たことがありますか。(Annoyed) G:あなたは自分の飲酒のことで気がとがめたことがありますか。(Guilty) E:あなたは気持ちを落ち着かせるために朝起きると真っ先に酒を飲んだことがあり ますか。(Eye-opener) 3つ以上「はい」と答えればアルコール依存症の可能性が高い 1∼2 アルコール依存の可能性は否定できない 0 アルコール依存でない可能性が高い ⑤ アルコールの害についての情報提供;糖尿病の場合、神経障害などの合併症との 関連や飲酒後10時間は血糖調節機能を失うことなどに触れる ⑥ 目標設定:次回までの約束をする *依存症や合併症の重症例、肝硬変や膵炎などの合併例では節酒や禁酒(一時的にやめ る)ではなく、断酒が必要になるため、カウンセラーや断酒会との連携が必要になる 場合がある。 (4)口腔ケア ① 糖尿病の口腔状態 高血糖状態にあると歯科疾患は発生しやすく、重症化しやすい傾向にある。また、 歯科疾患の炎症は糖尿病を増悪させる因子にもなる。なぜ適切な口腔ケアをする必 要があるかを理解してもらい、ケアの定着につなげたい。 ② 糖尿病の歯科疾患の特徴 ア 歯周疾患:主な原因は歯周病菌による感染である。さらに高血糖状態にあると 感染への生態防御機構の低下、歯周組織への栄養・修復障害のため回復しにくく なる。自覚症状としては、出血、歯肉退縮(歯が伸びた、歯に物が挟まる)、歯の 動揺、噛みにくい、排膿、口臭、口腔乾燥など。しかし自覚症状が現れた時点で はすでに進行しているので、症状は無くても定期検診と適切な口腔清掃を実施し ておくことを勧める。 イ 齲蝕:主な原因はS.ミュータンス菌とその栄養源(ショ糖・ブドウ糖)の存在 である。高血糖状態にあると唾液や歯肉溝滲出液中の糖濃度も上昇するため細菌 の栄養源が増加し、唾液分泌量が減少するため歯垢がつきやすくなる。その上、 歯周病により歯肉の退縮や歯肉溝が深くなるため、ますます歯質の軟らかい歯根 が齲蝕になりやすくなる。 ③ 糖尿病の口腔ケアのポイント ア 定期健診(早期発見・早期治療):歯科疾患は自分では気付きにくいため、定期 的に(最低一年)、歯・口腔状態について専門家のチェックを受け、早目に対処す ることを勧める。受診の際には糖尿病であることを歯科医に必ず伝えること。
イ 食生活:食事療法により砂糖の摂取も少なく栄養バランスも取れるため、齲蝕 になりにくく口腔状態が改善する。ゆったりとよく咀嚼すると唾液の分泌量が増 加し、口腔内の自浄作用を高める。 ウ 口腔清掃(ブラッシング):歯科疾患は感染症なので、口腔内を清潔にすること で予防できること、そして「磨いている」のではなく「磨けている」必要がある ことを理解してもらう。また、食後に口腔清掃をすることで食生活にリズムを生 み、「だらだら食べ」を防ぐ。歯垢が付きやすい部分(歯の根元、歯と歯の間など) を食後と就寝前に清掃することが基本であるが、歯間清掃用具(デンタルフロス、 歯間ブラシ)を使用すると短時間で効果が高くなる。歯肉出血がある場合は清掃後、 消毒薬でゆすぐ。義歯は毎食後取り外して清掃する。 11 グループ活動 生活習慣は基本的に個人の問題であり、生活習慣改善への準備度や生活背景も異な るため個別対応が主体となる。しかし、グループ活動によって「代理的体験」(あの人 がうまくいくなら、私も・・・)を引き出したり、仲間同士励ましあう環境ができる ため、積極的に取り入れることが望ましい。ひとりで歩いているよりも、誰かと一緒 に運動していた方が楽しいと思う人が多いのである。 ただし、予防教室でグループワークをもつときには、単なる井戸端会議にならない ようにコントロールする必要がある。 グループワークのねらい 参加者自身が問題と解決法を見つけ出し、実行できる。 セルフケア行動の意欲が維持できる。 参加者同士が、お互いをモデルとする。孤立感や不安が減少する。 糖尿病予防教室参加者に目標を尋ねると、「血糖を下げたい」「体重を減らしたい」 などの言葉が出るが、グループワークではその背後にある大きな目標についても考え る時間を持ちたい。つまり血糖コントロールは「手段」にすぎず、真の目標は幸福な 生活を送る(QOL)ことであり、生きがいを感じたり、楽しみを分かち合ったり、 ゆとりの時間や夢を持つことや、病気への不安を少なくする、病気があっても病人と してではなく生活者としての人生を歩む、などがキーワードになる。大きな目標のた めには少しくらいの努力が必要であることが理解される。あらかじめグループワーク のシナリオを作成しておくと、話題が本題からずれることを防ぐことができる。 12 糖尿病予防教室の企画から評価まで 予防教室を企画するとき、カリキュラム等の内容の設定も大切であるが、あらかじ め評価法を設定し、改善計画を立てておく。充分な成果が得られない場合、カリキュ ラムに問題があると考えがちだが、対象者の募集法や指導者の選定などに問題がある 場合もある。プロセスごとに評価することによって次回の事業をよりよいものにする ことができる。
教室参加者に対しても、教室の目標やカリキュラムを示すことにより、見通しをも って主体的に参加してもらうことができる。 糖尿病対策の課題を整理 健診受診者の動向・ニーズを発見・把握 改善計画 関連する諸条件の確認 保健資源(保健サービス提供者・プログラム) 社会資源(予算、場所、広報・・・) 評価 教室参加者の評価 支援プログラムの評価 企画・広報・運営等の評価 新しい課題・ニーズの発見 教室の対象者・目標を設定 教室開催 情報(資料)収集、研修会資料等の確認 先進施設等のプログラムや成果を参考 キーパーソンによる助言 関係者の調整・広報 プログラム作成 内容・回数・日時・場所 評価法・指導者・教材
教室参加者に対する評価例 行動目標 領域 方法 対象者 測定者 時期 「糖尿病をなぜ予防管理しなくてはい けないか」を理解している 想起 知識チェック グループワーク 参加者 医師・ 保健婦 教室の前後 GW の回 自分の摂取エネルギーを理解し、 献立を組み立てることができる 問 題 解 決 ・ 技能 献立作成実習・ バイキング実習 参加者 栄養士 栄養指導の回 運動療法を実行できる 態度・習慣 行動記録・ライフ コーダ 参加者 運動指導員 保健婦 教室毎 見通しを持って意欲的に自己管理でき る 態度・習慣 観察・行動記録・ アンケート・GW 参加者 保健婦 教室毎 最終回 血糖コントロール(検査データ)が改善 する 知識・技能・ 態度 検査データの確認 参加者 医師・保健婦 等 教室の前後・ 1 年後 教室の企画・運営に対する評価例 行動目標 方法 対象者 測定者 時期 企画の目的に合った対象者を集める 観察 企画者・広報 担当 企画者・評価者 (上司・事務) 開始時 参加者のニーズにあった指導をする 観察 アンケート 支援者 (企画者) 指導者・企画者 参加者 毎回 参加者が楽しく安全に参加できる工夫をし ている 観察 アンケート 支援者 企画者 参加者・指導者 評価者 毎回 最終回 糖尿病予防効果がある 検査データの確 認 企画者 支援者 企画者・指導者 評価者 教室終了後 1 年後 地域(職場)の健康にとって教室が有効であ る 統計データ 参加者データ 企画者 企画者・評価者 数年後
13 糖尿病予防教室の目標(あいち健康プラザでの例) 1.教室の目標 (一般目標) 参加者が糖尿病の予防と改善に必要な知識を得、安全で効果的な運動、適切な食事の摂取、 自分に合ったストレス解消法を生活の中で実践できるようにする。 糖尿病の合併症に障害されることのない充実した人生を送ることができる。 ①現在の自分の健康状態について客観的に述べることができる。 ②自分自身の生活習慣上の問題点や血糖値の悪化する生活習慣を述べることがで きる。 ③血糖コントロールを改善するための健康行動(生活習慣改善)を実践、継続で きる。 ④肥満度を改善したり、適正体重を維持するための健康行動(生活習慣改善)を 実践、継続できる。 医 学 ⑤糖尿病予防、改善について前向きな意欲をもつことができる。 ①現在の自分の歯・口腔の健康状態について述べることができる。 ②糖尿病と歯・口腔状態の関連について述べることができる。 ③口腔内の問題点やそれから派生する問題点、改善方法やその効果を述べること ができる。 ④食事を意識してゆっくりよく噛んで摂ることを理解でき、実践できる。 歯 科 ⑤歯周病等の歯科疾患を予防(または進行抑制)できる。 ①自分の処方心拍数を述べることができる。 ②至適運動負荷強度で運動を実践できる。 ③日常の生活活動量(歩数)を客観的に把握できる。 ④生活活動量を増大させるための行動を惹起できる。 ⑤筋肉を意識して身体運動を実践できる。 ⑥運動中及び運動前後の留意点を理解し、実践できる。 運 動 ⑦糖尿病の予防や改善に対する運動効果を述べることができる。 ①総摂取エネルギーが適正(90∼110%)で留めることができる。 ②適正エネルギー、バランスを考えた食品の選択ができる。 ③血糖コントロールを乱す食行動を回避することができる。 栄 養 ④自分自身の食事量を週単位の評価、修正することができる。 ①血糖コントロールにより生じるストレスと上手くつきあうことができる。 ②ストレスや疲労を軽減するためのリラクセーション技法を実践できる。 2.小目標 (行動目標) 休 養 ③十分な睡眠、休養をとることができる。
あいち健康プラザ 糖尿病予防教室日程表
回 月日 時 間 カリキュラム 内 容 場所 担当 1 9:00 16:00 受 付 オリエンテーション 問診 健康度評価 終 了 オリエンテーション 問診 食習慣チェック 健康度評価総合コース 健康開発館受付 オリエンテーション室 検査室 医師・歯科医師 栄養士・保健師 運動指導員 臨床検査技師 X 線検査技師 2 6/19 ・ 11/27 13:00 13:15 14:30 15:30 オリエンテーション 結果説明・医師講義 移動・更衣 運動実技 終 了 担当者紹介・教室連絡 健康度評価結果説明 「なぜ血糖が上がるのでしょう」 ※希望者のみ個別相談 体調チェック 運動プログラムの実際① 「ちょっと体を動かしてみよう」 講義室 フィットネスルーム 担当者 医師 保健師 運動指導員 3 6/26 ・ 12/4 12:00 13:00 13:30 13:45 14:00 15:00 15:30 栄養実習 講義・検査 休憩・移動 運動講義 運動実技 医師講義 終 了 バイキング実習 「食事量は適量だったでしょうか?」 「糖尿病自己管理のための検査 食 前・食後・運動後の簡易血糖・尿糖 測定」(希望者) 「自分に合った運動」 体調チェック 運動プログラムの実際② 「簡単な運動の体験」 「血糖を改善するための工夫」 終了後アスレチックルームオリエン テーション ※希望者のみ クッキングルーム 講義室 フィットネスルーム ジョギングトラック 講義室 栄養士 検査技師 運動指導員 保健師 医師 運動指導員 4 7/10 ・ 12/18 13:00 14:10 14:25 15:30 運動実技 休憩・移動 栄養講義 終 了 体調チェック 運動プログラムの実際③ 「目標心拍で運動しよう」 「血糖を上げにくい食べ方」 フィットネスルーム 講義室 保健師 運動指導員 栄養士 5 7/24 ・ 1/8 13:00 14:10 14:25 15:30 運動実技 休憩・移動 栄養講義 終 了 体調チェック 運動プログラムの実際④ 「ウォーキングと家庭でできる筋力 トレーニング」 「血糖を上げにくい食事量を知ろ う!」 フィットネスルーム アスレチックルーム 講義室 保健師 運動指導員 栄養士6 8/7 ・ 1/22 13:00 14:10 14:25 15:30 運動実技 更衣・休憩・移動 グループワーク 終 了 体調チェック 運動プログラムの実際⑤ 「プールで歩こう」 「血糖をコントロールする本当の 目的」 フィットネスプール 講義室 保健師 運動指導員 保健師 医師 7 8/21 ・ 2/5 13:00 14:10 14:25 15:30 運動実技 休憩・移動 歯科講義 終 了 体調チェック 運動プログラムの実際⑥ 「筋トレマシンを使ったトレーニ ング」 「逃がせない!糖尿病口腔ケアの ポイント」 アスレチックルーム 講義室 保健師 運動指導員 歯科衛生士 8 9/4 ・ 2/19 9:00 10:15 11:15 11:30 12:30 検 査 運動実技 休憩・移動 講義・実技 終 了 採 血 食チェック 運動プログラムの実際⑦ 「総仕上げ!あなたも運動愛好家」 「糖尿病とうまく付き合うストレ ス管理」 2F 検査室 フィットネスルーム リラクセーションルーム 検査技師 運動指導員 保健師 9 効果測定 健康度評価総合コース(抜粋) オリエンテーション室 検査室 医師・歯科医師 栄養士・保健師 運動指導員 臨床検査技師 X 線検査技師 10 9/25 ・ 3/12 13:00 14:00 14:10 15:00 結果説明 休 憩 グループワーク 終 了 効果測定の結果説明 「これからの健康法」 講義室 医師 全スタッフ