「災害時におけるペット救援」に関する予備的考察
─ 先行研究の概観及び新聞記事の量的分析より ─加藤 謙介
Preliminary considerations of animal rescue in disaster relief
─ Based on previous studies and quantitative analysis of newspaper articles ─
This study focused on the social issues surrounding the rescue of companion animals during disaster relief efforts. It (1) reviewed previous reports on this topic and applicable laws and (2) performed a quantitative analysis of newspaper articles related to animal rescue in times of disaster from 1985 to 2011. The review was based on three perspectives: self-help, mutual assistance and public assistance. -Based on this review, future responses to animal rescue during disaster were considered.
Key words : companion animals, disaster relief, newspaper analysis キーワード:ペット・災害救援・新聞記事分析 はじめに 日本は災害大国と言われている。過去 20 年間を振 り返っても、「未曾有」の災害と言われた阪神・淡路大 震災(1995 年)、有珠山噴火災害(2000 年)、三宅島 噴火災害(2000 年)、新潟県中越地震(2004 年)、新 潟県中越沖地震(2007 年)、そして、数多の「想定外」 を生み出した東日本大震災(2011 年)と、枚挙にいと まがない。 このような「未曾有」(未だかつて無かった)、「想定外」 の事態を引き起こす災害は、社会に新たな「問題」を 提起することがある。例えば、今では広く普及した概念・ 実践である「心のケア」は、阪神・淡路大震災を 1 つ の大きな契機として注目されるようになった(例えば、 城・杉万・渥美ほか 1996)。「心のケア」は、災害を機に、 「支援の対象」についての問題提起がなされ、新たな実 践が展開された例と言える。 このような「災害を契機とする問題の構築」の事例 九州保健福祉大学 社会福祉学部 臨床福祉学科 〒 882-8508 宮崎県延岡市吉野町 1714-1
Department of Clinical Welfare Service, School of Social Welfare, Kyushu University of Health and Welfare 1714-1 Yoshino-machi, Nobeoka-Shi, Miyazaki, 882-8508, Japan
の 1 つとして、災害時における「動物救援」を挙げる ことができる。本稿の結論を先取りして言えば、災害 時に「動物を助ける」ことは、かつては「当たり前の 事柄」ではなかった。それが、様々な被災経験を経る ことで、次第に、「当たり前の事柄」へと位置づけを変 えつつある。 本稿では、「災害時の動物救援」について取り上げ、 その「問題」の特徴と変容について検討を行った。第 1 に、特にペットに関する災害時の救援について、関 連する文献・諸資料を概観し、その動向・内容の特徴 を整理した。第 2 に、「問題」の長期的な変容過程を検 討する手法として、新聞記事を用いた言説分析を試み た。本稿では、特に量的な変化について検討を行った。 そして、それらの議論・結果を受けて、災害時におけ る動物救援の展望について、予備的な考察を試みた。 なお、動物「救援」ということばについて、若干の 補足を加える。「救援」という語は、災害発生直後の緊 Kensuke KATO Abstract
急救援期のみを指しているように思われるかもしれな い。しかし、災害は、発災直後の「救急救命期」だけ ではなく、避難所や仮設住宅での生活を含む「復旧期」、 被災後のまちづくりを考える「復興期」、そして、日々 の防災を含む新たな生活へとつながる、「災害サイクル」 として捉えることができる(矢守・渥美 2011:22-25)。本稿ではこれにならい、「動物救援」を、救急救命・ 復旧・復興・防災へとつながる一連の流れの中に位置 づけ、論を進める。 災害時における「ペット」救援の動向 本章では、災害時における「ペット」の救援に関す る先行研究・諸資料について、3 つの時期に分けて整 理する。なお、災害は、被災地に生きる全ての人間・ 生物に対して影響を及ぼすが、本稿では、家畜等の産 業動物・動物園等における展示動物・研究機関等にお ける実験動物・野生動物等への被害とその対応につい ては割愛し、主に家庭で飼育されるペットに焦点を絞っ て整理する。 1. 阪神・淡路大震災 災害被災地において、ペットをはじめとする動物の 救援が、初めて組織的かつ大規模に実施されたのは、 1995 年 1 月 17 日に発災した、阪神・淡路大震災であっ たと言われている。以下、兵庫県南部地震動物救援本 部による報告書(兵庫県南部地震動物救援本部活動の 記録編集委員会 1996)、及び、太田(2003)をもとに、 阪神・淡路大震災時の動物救援の概要を整理する。 阪神・淡路大震災は、死者 6,434 名・負傷者 43,792 名、 30 万人以上の避難者を生じさせた未曾有の災害であっ た。特に、阪神地域という大都市圏で発生したため、 人間とともに暮らすペットの数も多く、大きな被害を 受けることとなった。兵庫県保健環境部によれば、阪 神・淡路大震災では、兵庫県下だけでも、推計で犬 4,300 頭・猫 5,000 頭が被災したとされている。被災地では、 地元獣医師会等により発災直後から対応が協議された。 1995 年 1 月 21 日に、兵庫県・神戸市は、(株)兵庫 県獣医師会、(社)神戸市獣医師会、(社)日本動物愛 護協会阪神支部に、動物救護を要請し、「兵庫県南部地 震動物救援本部」が設置された。 同本部は、「被災地、避難所への餌の配給」「負傷動 物の収容、治療および保管」「飼育困難な動物の一時保 管」「放浪動物の一時保管」「所有者および里親探し」 「動物に関する各種相談」の 6 点を、当初の活動方針と していた。また、特に被災動物の収容場所の問題から、 神戸動物救護センター(1995 年 1 月 26 日~ 1996 年 5 月 29 日)・三田動物救護センター(1995 年 2 月 13 日~ 11 月 30 日)が設立され、被災動物の収容・一時 預かり・里親探しが進められた。神戸動物救護センター では、収容した 1,088 頭の被災動物のうち、犬 171 頭、 猫 43 頭およびその他 2 頭が、再び元の飼い主のもと に戻された。一方、三田動物救護センターでは、収容 総数 460 頭のうち、犬 97 頭、猫 13 頭が一時預かり であった。これら以外の 1,045 頭は、新たな飼い主の もとに譲渡された。 これらに加え、同報告書では、被災地内の動物病院 における被災動物への対応や、避難所におけるペット との同伴避難の状況についての調査結果が掲載されて いる。 兵庫県南部地震動物救援本部は、約 1 年 4 ヶ月にわ たって動物救護活動を継続し、1996 年 12 月 7 日に解 散した。同本部の活動に対して、国内外から様々な支 援が寄せられた。救援本部宛の義援金の総額は約 2 億 2 千万円にのぼり、動物救援のために、全国から、の べ 17,000 人のボランティアが参加した1)。 阪神・淡路大震災は、まさに未曾有の都市型災害で あった。しかし、その悲惨な経験が様々な教訓を生ん だように、災害時における動物救援という「問題」が 提起される重要な契機となったと言えるだろう。 2. 阪神・淡路大震災以降、東日本大震災まで 阪神・淡路大震災での経験を受けて、災害時におけ る動物救援について、組織的な対応・備えが進められ るようになった。例えば、巨大災害発生時には、環境 省所管の 4 団体((社)日本動物福祉協会、(財)日本 動物愛護協会、(社)日本愛玩動物協会、(社)日本動 物保護管理協会)、及び、(社)日本獣医師会が、緊急 災害時動物救援本部を組織し、東京を拠点として、各 地の行政・獣医師会と連携しながら、被災動物の救援 が行われる体制が構築された2)。また、個人ボランティ ア・愛護団体・NPO など、動物に関わる様々な立場の 人々も、災害時での活動に関与することとなった。 阪神・淡路大震災以降にも、大小様々な災害は発生 しているが、動物救援本部が関与する規模のものとし ては、有珠山噴火災害(2000 年 3 月)、三宅島噴火災 害(2000 年 6 月)、新潟県中越地震(2004 年 10 月 23 日)、新潟県中越沖地震(2007 年 7 月 16 日)が挙 げられる。以下、この 4 つの災害ごとに、この時期の 動物救援の事例内容を整理する。 有珠山噴火災害では、2000 年 3 月 31 日の噴火を 受けて、虻田町など 3 市町村で 16,000 人が避難する
こととなった。北海道獣医師会有珠山動物救護対策本 部が置かれ、動物救護センターが設置された(環境省 2006)。4 月 3 日の開設から、センターが閉鎖される 2000 年 8 月 31 日までの間に 348 頭の動物が収容され、 一般ボランティアのべ 4,553 名、獣医師ボランティア のべ、計 5,462 人が活動に関わった(内山 2000)。 三宅島噴火災害では、2000 年 9 月 1 日に、東京都 から全島避難指示が出され、島民の多くが、ペットを 伴って東京都区部・多摩地域へと避難することとなっ た。当初、東京都保護センターで 70 頭、獣医師会で 250 頭の犬猫が保護された3)。2000 年 12 月に、環境 省所管の 4 団体、及び、(社)東京都獣医師会が、三宅 島噴火災害動物救援本部を立ち上げた。また、東京都は、 東京都地域防災計画に基づき、2001 年 3 月に、日野 市に三宅島噴火災害動物救援センターを設置した。救 援センターでは約 1 年間の活動が行われ、獣医師・ボ ランティアらのべ約 7,000 人が活動に参加した(環境 省 2006)。ボランティアらが被災動物の世話にあたる 一方(月刊福祉 2002)、避難の長期化に伴い、被災者 から、センターに預けているペットの行く末に悩む声 も寄せられた(白石 2000)。 新潟県中越地震では、動物救援のために新潟県中越 地震動物救済仮本部が組織され(2004 年 10 月 27 日)、 翌年 1 月 19 日に新潟県中越大震災動物救済本部が設 置された。被災地では、発災直後から、行政・地元獣 医師会・新潟県動物愛護協会等が連携し、支援物資の 提供、被災動物の治療や相談受付、動物の一時預かり が進められ、犬 84 頭・猫 179 頭など、のべ計 267 頭 のペットが保護された(新潟県中越大震災動物救済本 部 2007)。また、全村避難が命じられた山古志村(現・ 長岡市山古志)では、村内に残されたペット等の動物 の救出活動が行われた4)。なお、山古志村でのペット のエピソード(桑原・大野 2005)が話題を呼び、後 に映画化されることともなった。この他、被災した小 千谷市・魚沼市・川口町などでも、地元の動物保護管 理センターが中心となり、物資配布や犬猫の一時預か り、動物相談などが行われた(関 2006)。動物救済本 部では、仮設住宅での動物飼育支援にも取り組み、市 町村災害対策本部への働きかけにより、全 13 市町村 の全ての仮設住宅でペット飼育が認められることに なった。 新潟県中越沖地震では、新潟県中越沖地震動物救済 本部が設置された。2007 年 7 月末から 2008 年 9 月 末までの活動状況については、ウェブサイトに掲載さ れ、現在でも閲覧することができる(新潟県生活衛生 課 2012)。同サイトでは、当時における仮設住宅での 動物飼育についての情報提供内容も見ることができる。 このように、それぞれの事例では、各地の被災状況 にあわせて、様々なかたちで動物救援が進められた。 特に、発災から比較的早い段階で動物救援の動きが生 まれるようになったこと、獣医師・ボランティアなど 様々な立場の人が支援に関わるようになったことが、 この時期の特徴であると言えるだろう。 3. 東日本大震災 阪神・淡路大震災以降の災害での経験を踏まえ、徐々 に災害時における動物救援についての蓄積が進みつつ ある中で発災したのが、東日本大震災であった。2011 年 3 月 11 日に発災したこの震災は、巨大地震、津波、 及び、それに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事 故により、岩手・宮城・福島の東北 3 県をはじめと し、東日本の広い範囲に甚大な被害をもたらした。死 者 15,869 名・行方不明者 2,847 名(2012 年 8 月 29 日時点)という戦後最悪の犠牲を生み出したこの災害 は、被災地のペットにも大きな影響を及ぼした。一般 社団法人ペットフード協会(2011)は、東日本大震災 において被災した犬・猫の推計頭数を、犬が約 6,500 頭、 猫が約 6,400 頭と報告している。 東日本大震災では、被災地域の広大さと、それぞれ の地域での被災状況の違いによって、動物救援の難し さが指摘されている。例えば、佐藤(2012)は、東北 3 県だけを見ても、複雑なリアス式海岸で平地の少な い岩手県、人口密集地が津波被害を受けた宮城県、原 発事故の影響を受けた福島県のそれぞれで、被災動物 の状況が大きく異なっていたと述べている。また、会 田(2012)は、東日本大震災における緊急災害時動物 救援本部の活動について、自治体間の格差など、様々 な困難に直面したことを報告している。 震災を受けて、獣医師や愛護団体等、民間組織や専 門家ら様々な立場の人々が、動物救援のために支援を 行っている。例えば、藤村(2012)は、非営利一般 社団法人日本動物虐待防止協会による、茨城県北部・ 宮城県・福島県での支援活動を報告するとともに、災 害に備えた飼い主の準備として「ペット防災学」を唱 えている。また、津波で甚大な被害を受けた宮城県石 巻市では、獣医師を中心とした石巻動物救護センター での支援活動(岩崎 2011)、阿部智子ら NPO 法人ア ニマルクラブ石巻による被災ペットの救援活動(阿部 2012)などが報告されている。岩手県では、岩手大学 農学部附属動物病院が、県内の避難所等への移動診療 に取り組んでいる(佐藤 2012)。
一方、地震・津波だけでなく、福島第一原発の事故 の影響を強く受けた福島県については、人間だけでな く、動物救援においても、より困難な状況が続いてい る(太田 2011; 2012)。環境省・福島県・福島県獣医 師会は、協働で警戒区域内に置き去りになったペット の保護・回収活動に取り組んでいる(西山 2012)。ま た、福島市(飯野シェルター:2001 年 4 月 27 日開設)、 及び三春町(三春シェルター:2011 年 10 月中旬開設) に、保護された動物を収容するためのシェルターが設 けられた(菊崎 2012)。こうした問題は、ペットの保 護だけでなく、ペットの飼い主たちの避難生活にも大 きな影響を及ぼした。特に、ペットとの「同伴避難」 を望む飼育者らの中には、ペットを持ち込める避難所・ 仮設住宅を探して全国各地を転々とする人々もあった。 児玉(2011)は、福島から新潟に避難した被災者ら 10 組にインタビューを行い、写真とともに、その避難 生活を伝えている。 こうした東日本大震災での経験を受け、獣医療にお いても新たな視点が必要であるとの議論が起こってい る。その 1 つが、「伴侶動物の群管理」(田中 2012a) に基づく獣医療(シェルターメディスン)である。被 災時には一時的に多数の動物(特にペット)が一箇所 に集められ、一定期間飼養されることがある。その際、 従来の「個体管理」ではなく、多くの動物を同時に管 理する「群管理」という発想が求められる。田中(2012a, b)は、アメリカの動物保護施設での実践を踏まえ、避 難所等での動物管理・獣医療にはシェルターメディス ンが求められると述べている。また、獣医師である阿 部俊範も、石巻動物救護センターでの経験から、群管 理獣医師・動物看護士の育成が急務であると主張して いる(阿部 2012)。 東日本大震災発災から 1 年半が経過したが、被災地 は、未だ様々なかたちでの支援を要していると考えら れる。被災地でのペット救援についても、引き続き状 況を注視する必要があると言えるだろう。 4. 小括 前項までで見てきたように、阪神・淡路大震災以降、 様々な災害場面で動物救援が進められてきた。これま での被災経験を踏まえての動物救援の「成果」につい て、防災対策における一般的な「役割分担」(例えば、 内閣府 2002)にならって『自助』『共助』『公助』の 3 つの側面から整理してみよう。 第 1 に、『自助』の側面である。これは、災害に備え た飼い主個々人の備えに関わるもので、特に阪神・淡 路大震災での経験を踏まえ、様々な指摘がなされるよ うになっている5)。例えば、香取(2002)は、阪神・ 淡路大震災から三宅島噴火災害までの経緯を踏まえ、 緊急避難・応急手当・同行避難・仮設住宅や復興住宅 での生活における動物への対応を詳述している。また、 児玉(2011)は、ペットと暮らす人のための防災マニュ アルとして、フードなどの「非常持ち出し用品」、「鑑札・ 狂犬病予防注射済票・迷子札・マイクロチップ」、クレー トに入ることや排泄を含めた「しつけ・トレーニング」、 「不妊去勢手術」、同伴避難に関する「情報収集」、「預 け先・連絡先」等の重要性を指摘している。また、藤 村(2012)は、ペットとの同行避難時に生じうるトラ ブルに対する法的な対応について、様々な事例をもと に紹介している。 これらに加えて、環境省も、東日本大震災を受けて、 ペット動物の災害対策について、一般飼い主向けのパ ンフレットを発行している(環境省 2011a)。同パン フレットでは、「日頃からの災害への備え」として、住 まいの防災対策・家族で話し合い・ご近所、飼い主仲 間との連携・地域情報の収集と避難訓練・迷子札とマ イクロチップ・健康管理としつけ・動物のための備蓄 品の用意を、「災害が発生したときの対応」として、人 の身の安全・動物の安全・避難の用意・避難方法、「避 難所や仮設住宅での注意点」として、周りの人への配慮・ 動物の健康管理、等がまとめられている。 このように、『自助』については、既に様々な意見 が示されている。特に、災害に備えたペットの「日頃 のしつけ」「適正飼育」の重要性については、動物関 係者をはじめ、多くの論者が揃って指摘しているもの である(例えば、中塚 2008; 矢崎・水越・関口ほか 2011)。 第 2 に、ペット救援をめぐる『共助』の側面である。 一般的に、『共助』は、地域での助け合いを指す言葉で あるが、ここでは、『自助』『公助』以外の取り組みに ついて整理する。民間の動きとしては、まず、緊急災 害時動物救援本部の組織化が挙げられる。本章 2 節で 紹介したように、阪神・淡路大震災時に、兵庫県南部 地震動物救援本部を設立・運営した経緯を踏まえ、巨 大災害発生時における動物救援に関して、被災地内外 からの支援を取りまとめる役割を担うようになってい る。また、NPO やボランティア団体等の民間組織の活 動・連携がある。これまでの災害においても、動物救 援本部と連携しながら、被災地内外の数多くの NPO、 ボランティア団体、個人ボランティアが動物救援にあ たってきた。 あわせて、(社)日本獣医師会は、「災害時動物救護
の地域活動マニュアル策定のガイドライン」を発刊し、 災害時における動物救援の備えについて記している(社 団法人日本獣医師会 2007)。同ガイドラインには、平 常時における連携、発災~ 24 時間の活動(初動体制)、 24 時間~ 48 時間の活動(前期救護体制)、48 時間~ 72 時間の活動(中期救護体制)、72 時間以降の活動(後 期救護体制)、復興時期の活動、終息期の活動、と、災 害後の各時期に合わせた、関係諸機関の連携と対応に ついて詳述されている。 加えて、防災計画に行政の動物救護の役割が明記さ れることで、自治体と獣医師会等との連携が進み、防 災訓練の際に動物救援についても取り入れたプログラ ムが行われる例も増えてきている。例えば、東京都板 橋区で行われた避難訓練では、動物を伴っての訓練を 実施することで、施設の暑さや避難先での動物の問題 行動、受け入れ体制など、様々な問題が見出された (Relatio 編集部 2002b)。また、東京日野市で行われ た避難訓練では、行政と獣医師会が協働で行うことで、 災害時における両者の役割分担について理解を深める ことができたとの意見が示された(進藤・池田・佐々 木ほか 2010)。 第 3 に、災害時の動物救援に関する『公助』の側面 である。これは、ペットを対象とした災害救援の組織化・ 制度化に関わるものである。現在、被災した動物を救 援するためのみの法制度は存在しない。しかし、防災 基本計画において、わずかではあるが、「災害時におけ る動物の管理(衛生を含む。)及び飼料の需給計画に関 する事項」が記されている(内閣府 2008:397)。 また、「動物の愛護及び管理に関する施策を総合的に 推進するための基本的な指針」(環境省 2006b)にお いて、災害時における動物救援に関して、自治体・関 係機関が講ずべき施策が示されている。具体的には、「地 域防災計画における動物の取り扱い等に関する位置づ けの明確化等を通じて、動物の救護等が適切に行うこ とができるような体制の整備を図ること」、「動物の救 護等が円滑に進むように、逸走防止や所有明示等の所 有者の責任の徹底に関する措置の実施を推進すること」 の 2 点である。 あわせて、「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」 (環境省 2007)には、緊急時における動物飼育者の責 務について記されている。具体的には、「所有者等は、 関係行政機関の指導、地域防災計画等を踏まえて、地 震、火災等の非常災害に際してとるべき緊急措置を定 めるとともに、移動用の容器、非常食の準備等、避難 に必要な準備を行うよう努めること」という文言に加 え、災害時における動物の保護・事故防止・避難場所 の確保に努めることが明記されている。 このように、既存の法制度・基準・指針において、 自治体・関係機関・動物飼育者が災害時の動物救援に 備えて果たすべき責務について、様々な記載がある。 特に近年の自治体の対応に関して、平成 22 年に環境 省が実施したアンケート調査がある(環境省 2011b, c)。それによれば、全国 107 自治体(都道府県・政令 市及び中核市)への調査の結果、81 の自治体が、地域 防災計画や動物愛護管理推進計画等の中で、災害時に おける愛玩動物の取り扱いについて明記されていた。 こうした防災計画を子細に見ると、過去に災害に見 舞われた自治体で、被災動物への対応が詳述されてい る例があるのが見受けられる。例えば、新潟県の地域 防災計画(震災対応編)には、第 3 章災害応急対策・ 第 33 節に「愛玩動物の保護対策」が盛り込まれ、発 災時の対応、関係機関の役割・連携等について記され ている(新潟県 2007:376-378)。これらの規定は、 東日本大震災において福島県からの避難者を受け入れ る際、避難所でのペットの同伴を円滑に進めるのに功 を奏したと言われている(児玉 2011)。 阪神・淡路大震災以降、災害ごとに、被災動物の救 援の位置づけは変化してきた。東日本大震災・南海ト ラフ巨大地震の想定を受けて、日本の防災計画が根幹 から見直される中、動物救援の位置づけもまた、変化 していくことと考えられる。これまでの経緯を踏まえ、 「災害時における人と動物の関係」について、今後も、 長期的な視点から分析を進める必要があると言えるだ ろう。 「災害時のペット救援」をめぐる言説の変容過程 ─新聞記事に基づく言説分析─ 1. 言説分析という視点 前章で整理したように、「災害時のペット救援」は、 これまでの災害時の出来事・被災経験を踏まえて顕在 化してきた「問題」・社会現象である。このような長期 的な変化の過程を検討する際に、新聞記事をはじめと するマスメディアの報道内容・言説の分析が、有効な 研究手法の 1 つとなると考えられる。本稿では、特に 新聞記事を題材として、「災害時のペット救援」の量的 な変容過程について検討を行った。 なお、社会問題の構築過程と、マスメディア等にお ける社会的言説との関係について正規に論じるには、 社会的表象理論(例えば、矢守 2001)等、社会構成
主義的な理論的枠組みが必要になる。紙幅の都合上、 本稿では理論についての記述は最小限に留め、社会問 題の長期的な変容過程を検討する際に、新聞記事に基 づく言説分析も有効な手段の 1 つであるとする前提か ら論を進める。以下では、八ッ塚(2007)に基づき、 新聞記事分析のメリット・デメリットに関する議論を 整理する。 新聞記事は、文字媒体という特性上、時間的・空間 的制約を大きく超え出た伝達可能性を有する。また、 原則として毎日発行されるため、その定時性と頻度も 大きな特徴である。さらに、記事自体の産出に多様な 人々が関与するとともに、幅広い読者へと言説がつな がっていく。こうした特徴を整理すると、新聞記事は、 広範にわたる膨大かつ多様な社会関係の、ひとつの結 節点をなしていると考えられる。多様な社会関係の産 物として新聞記事は顕在化するとともに、そのように して生み出された新聞記事自体が社会関係を活性化し、 新たな関係・言説を生みだしていくこととなる。記事 のデータベース化に伴い、相当の長期間にわたるデー タの収集が可能となっていることも踏まえると、社会 現象の長期的な変容過程を検討する際に、新聞記事は 好適な素材であると言える。 一方で、新聞記事を用いることに対する批判もある。 1 つは、社会に流布する様々な言説の中で、新聞記事 はごく一部にしか過ぎないという批判である。もう 1 つは、新聞が一企業体によって発行されている以上、 何らかのバイアスが作用するのではないか、とする批 判である。前者については、ごく当然の批判であり、 社会的言説の検討において、新聞記事以外を題材とす ることは必要なことである。後者については、言説に よって社会的現実が構成されることを踏まえて、次の ように答えられるだろう。新聞記事をはじめとする我々 の言説や談話は、何らかの「正規の現実」や「オリジ ナルの社会意義」の反映・コピーなどではない。そう ではなく、偏りやバイアスと見られる事柄も含めて、 新聞記事は言説を介して社会的現実の生成に寄与して いると考えなければならない。 以上を踏まえ、本稿では、「災害時のペット救援」を めぐる社会的言説の長期的変容過程について、新聞記 事を題材として検討した。 2. 「災害時のペット救援」に関する新聞記事分析 1)新聞記事の収集 本稿では、検討するマスメディアとして朝日新聞を 取り上げ、同社のオンラインデータベース(アサヒ・ コムパーフェクト)を用い、「災害」と「ペット」とが 関連する記事を収集した。なお、記事の収集は、2012 年 8 月・9 月に実施した。 2)関連記事の選定 1985 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 27 年間を対象に、広義の「災害」と「ペット」とが関連 づけられた記事を網羅的に検索した。 記事の選定に関しては、「ペット」という語と、「災害」 に関わる 23 個のキーワードのそれぞれとが共起する 条件を設けた。具体的には、『災害サイクル』に関連す る 7 語(「災害」「被災」「避難」「救援」「復興」「防災」 「減災」)、『地震災害』に関連する 3 語(「震災」「地震」 「津波」)、『火山災害』に関する 2 語(「噴火」「火山」)、 『風水害』に関する 5 語(「台風」「水害」「豪雨」「大雨」 「竜巻」)、『雪害』に関する 3 語(「豪雪」「雪害」「大雪」)、 そして、『原子力災害』に関連する 5 語(「原発」「放射能」 「放射性物質」「被曝」「被ばく」)である。 3)分析方法 選定した記事について定量的分析を行った。特に次 の 2 点について、単純集計をもとに量的推移を検討し た。第 1 に、「ペット」という語が含まれる記事件数 の推移、及び、記事中にあらわれた語「ペット」の出 現件数を年ごとに整理し、その推移の特徴を検討した。 第 2 に、「ペット」という語が含まれる記事全体の文字 数、及び、記事中で「災害」と「ペット」が関連づけ られている内容の文字数を測定し、「記事量」の変化と して、その推移を年ごとに整理して検討した。 4)分析結果 23 個のキーワードと「ペット」という語が共起した 記事のうち、重複及び無関係なものを除去し、広義の 「災害」と「ペット」とが関連づけられた記事のみを抽 出した。その結果、期間中で 682 件の記事が得られた。 また、収集した 27 年分の記事中に、「ペット」という 語は 2,205 件出現した。 a)記事件数、及び、記事中の語「ペット」の出現件 数の推移 「ペット」という語が含まれる記事の件数、 及び、記事中に含まれる語「ペット」の出現件数を、 年ごとに整理したものが、以下の図 1 である。
図 1 「災害とペット」に関連する記事件数、及び、 記事中における語「ペット」の出現件数の推移 記事中に「ペット」という語が含まれる記事の件数 については、1986 年に急増した後、しばらくは記事件 数が増加しない時期が続いた。その後、1995 年に急増 し、以後、2000 年、2004 年、2005 年、2011 年に大 幅な記事件数の増加が見られた。また、記事中におけ る語「ペット」の出現件数も、記事と同じ年に急増が 見られた。 記事件数・語「ペット」の出現件数ともに、急増 した年の翌年には減少する傾向が見られた。しかし、 1995 年以降は 0 件に近づくことはなく、一定の値を 保っての推移が見られた。 b)記事の総文字数、及び、ペット関連内容の文字数 の推移 収集した 682 件の記事の総文字量は 943,412 文字、「災害とペット」に関連する文字量は 224,230 文字となった。 記事の年間文字数(記事量)、及び、ペット関連記事 内容の年間文字数(ペット関連文字量)の推移につい てまとめたのが、次の図 2 である。 図 2 記事量、及び、ペット関連文字量の推移 記事量・ペット関連文字量ともに、記事件数・語「ペッ ト」の出現件数と同様に、1995 年・2000 年・2004 年・ 2005 年・2011 年に急増する傾向が見られた。特に記 事量は、1995 年及び 2011 年に極端な増加が見られた。 c)記事件数・語「ペット」出現件数、及び、記事中に おけるペット関連文字量の割合の推移 図 2 に示した 結果から、年間記事量におけるペット関連文字量の割 合(ペット関連文字量の割合)を算出し、記事件数・「ペッ ト」出現件数とあわせたものが、以下の図 3 である。 図 3 記事量におけるペット関連文字量の割合、及 び、記事件数・語「ペット」出現件数の推移
なお、記事量におけるペット関連文字量の割合は棒 グラフで、記事件数・「ペット」出現件数の推移は折れ 線グラフで、それぞれ示した。また、図 3 の Y 軸のうち、 左側(1 軸)が、記事件数・語「ペット」出現件数の 値を、右側(2 軸)が、ペット関連文字量の割合(%)を、 それぞれあらわしている。 年間記事量におけるペット関連文字量の割合は、記 事件数・語「ペット」の出現件数とはかなり異なる推 移を示した。特に、記事件数・「ペット」件数が増加し た 1995 年・2000 年・2004 年・2011 年では、逆に、 関連文字量の割合が減少する傾向が見受けられた。 3. 小括 前節で検討したように、「災害」と「ペット」に関す る新聞記事は、独特の量的変化を示すことが見出され た。ここでは、記事件数・語「ペット」出現件数の推移、 及び、記事件数・語「ペット」の出現件数とペット関 連文字量の割合の推移の違い、の 2 点から、その特徴 について論じる。 記事件数、及び、語「ペット」出現件数は、1986 年・ 1995 年・2000 年・2004 年・2005 年・2011 年 に 急 激な増加が見られた。これは、巨大災害が発生した年 と対応している。具体的には、1986 年の「伊豆大島・ 三原山噴火災害(1986 年 11 月)」、1995 年の「阪神・ 淡路大震災(1995 年 1 月 17 日)」、2000 年の「有珠 山噴火災害(2000 年 3 月)」・「三宅島噴火災害(2000 年 6 月)」・「東海豪雨(2000 年 9 月)」・「鳥取県西部 地震(2000 年 10 月 6 日)」、2004 年の「平成 16 年 7 月新潟・福島豪雨(7.13 水害)(2004 年 7 月)」・「新 潟県中越地震(2004 年 10 月 23 日)」、2005 年の「福 岡県西方沖地震(2005 年 3 月 20 日)」・「ハリケーン カトリーナ(2005 年 8 月)」、そして、2011 年の「東 日本大震災」及び「東京電力福島第一原子力発電所事故」 (2011 年 3 月 11 日)である。これら 5 つの時期にお ける変化は、全記事中でも特に顕著なものであったが、 阪神・淡路大震災以降は、これらの災害以外でも、発 災直後から、被災地における「ペット」への支援に関 する記事が出現・増加する傾向が見られるようになっ た。 このような、災害ごとにペットに関連する記事件数 が急増し、その後減少していく過程については、災害 の「風化」過程を検討した矢守(1996)の論考からも 解釈することができる。矢守は、災害に関する新聞記 事量の長期的な変化、特に記事の急増とその後の減少 が、単なる「風化」ではなく、新たな意味づけの活発 化と、その共有・自明化の過程として論じている。記 事の量的な変化もまた、「災害時のペット救援」をめぐ る新たな意味づけが活発化し、時とともに、それが共有・ 自明化されていく動態を、近似的に示しているものと して捉えることができるだろう。 一方、記事中におけるペット関連文字量の割合は、 必ずしも、記事件数・語「ペット」の出現件数の量的 推移とは対応が見られなかった。これについて、巨大 災害発生時に、ペット関連文字量の割合が増加しない 傾向があること、及び、文字量の増加と災害の発生時 期が必ずしも一致しないこと、の 2 点から論じる。 本稿での調査結果では、特に 1995 年・2011 年に、 他の年と比較して、関連文字量が増加しない傾向が見 られた。これは、特に 1995 年の阪神・淡路大震災、 2011 年の東日本大震災が、過去約 30 年の中で突出し た巨大災害であったことに起因すると考えられる。巨 大災害発生時には、「ペット」のことだけでなく、被災者・ 被災地支援のための膨大な情報が発信されることとな る。そのような状況下では、記事総量と比して、「ペット」 関連の記事内容の割合が減少するのは、自然な傾向で あるだろう。本稿で検討した記事においても、発災直 後の支援情報が、1 記事あたり 1 万字近くに達する中、 「ペット」に関する内容が 100 文字程度というものも しばしば見られた。多様なニーズに対応した記事が求 められる中、災害発生直後には、「ペット」に関する言 説が、他の内容に「埋もれる」傾向があることが示唆 されているとも言えるだろう。 一方、記事割合の増加が、災害発生時期と必ずしも 一致しないのは興味深い。これは、「災害」と「ペット」 との関連づけ・意味付けが、時間とともに変化してい くことを示唆していると考えられる。詳細に論じるた めには記事内容の分析を行わなければならない。ここ では、ごく簡単に、変化の一例を紹介するに留める。 例えば、1996 年には、阪神・淡路大震災の経験を踏ま えた防災計画の中に、ペット救援を盛り込むとの記事 が見られた。また、1997 年の記事には、阪神・淡路 大震災の復興公営住宅でのペット飼育問題についての 議論が紹介されているものがあった。こうした記事は、 ペットの「救援」が、発災から時を経て、「防災」や「復 興」と関連づけられた言説として生成されていること を示唆している。発災直後の膨大な支援情報の発信が 落ち着きを見せるようになると、このような、新たな 意味づけを伴った言説が見られるようになると言える かもしれない。 今回の分析結果は、記事量等の集計に基づく、比較 的単純な量的分析であった。特に、記事件数・語「ペット」
の出現件数の推移と、記事割合の推移の差異は、災害 時における「ペット」の意味づけの変化を示唆してい ると考えられる。今後は、これらの結果を踏まえ、記 事内容の質的分析をあわせて行い、災害時における「人 と動物の関係」の意味づけの変容過程について、検討 を深める必要があるだろう。 考察と展望 本研究の結果、「災害時のペット救援」をめぐって、 長期的な変容とその過程の特徴が見出された。先行研 究・諸資料の分析からは、災害時におけるペット救援 が、阪神・淡路大震災を契機として「社会問題」とし て提起され、『自助』『共助』『公助』の 3 側面に関わる 内容が整えられていったことが確認された。また、新 聞記事の分析からも、災害の発生ごとに「ペット救援」 に関する言説が生成されていく過程の量的な特徴が見 出された。 本稿での議論を踏まえ、最後に、災害時における動 物救援の展望について試論を述べる。これまでの災害 の経験を踏まえ、動物救援それ自体については、『自助』 『共助』『公助』の備えが進みつつあるように見受けら れる。東日本大震災で新たな課題が提起されたとは言 え、この動き自体は、今後も継続されることになるだ ろう。しかし、それに際して、現時点で十分な議論が 深められていないと考えられるのが、動物救援の、「人 間の防災・減災における意義・位置づけ」であると考 えられる。 これまでの論考の中で、しばしば、災害時に「『人 が優先』と伴侶動物の問題を先おくり」(香取 2002: 234)される事態があったことが、特に動物関係の専 門家等から指摘されている。また、「だから(私たちが) ペットを救わなければならない」との論調も見受けら れる。しかし、こうした議論は、ともすれば「被災者 の救援・支援」と「被災動物の救援・支援」を分離さ せてしまう傾向を生み出しかねない。より良い支援の ためには、両者を適切に関連づけた上で、まずは、「人 間の防災・減災における意義・位置づけ」という視点 から、動物救援の社会的意義について論じる必要があ るのではないだろうか。 この点について、実は、これまでの災害対応の中で、 既にいくつかの興味深い指摘がなされている。例えば、 阪神・淡路大震災での報告では、「この動物たちの救護 はただ単に動物の命を救っただけでなく、実は多くの 被災市民を救う活動につながっているのだということ」 が強調されている(兵庫県南部地震動物救援本部活動 の記録編集委員会 1996)。また、中越地震での報告に は、その冒頭に、「動物への救援は人への心のケアとし ても重要である」ことが記されている(新潟県中越大 震災動物救済本部 2007:15)。救援に参加した個人の 意見として、獣医師として東日本大震災の被災地で負 傷動物の救護にあたった佐々木は、被災者の中に「動 物と一緒にいることを心の支えにし、苦難に立ち向か う人も多い」(佐々木 2011:12)と述べ、だからこそ、 獣医師としての自らの活動を「人道的支援」として位 置づけていると強調している。また、これらとは別に、 災害時の避難行動という側面からの論考もある。アメ リカの災害動物救護専門家であるヒースは、災害時に おいて子どもがいない世帯が避難しなかった最も大き な理由の 1 つとして、ペットの飼育があったとの調査 報告を行っている(ヒース 2002)。ヒースは、災害時 における動物救援の対応を整えることで、飼育世帯の 避難率を向上させることができると論じている。これ らの指摘・知見は、「被災者の救援・支援」と「被災動 物の救援・支援」を結びつけて考える上で、重要な視 点をもたらすと言えるだろう。 災害時の動物救援について、現在進行中の東日本大 震災被災地での復興支援はもちろんのこと、今後発生 しうる災害への備えも含めて、議論を深める必要があ る。本稿は、そのための予備的な試みであった。本稿 での結果も踏まえつつ、今後も、様々な視点から検討 を進める必要があると言えるだろう。 謝辞 本研究を実施するにあたり、平成 24 年度九州保健 福祉大学 QOL 研究機構社会福祉学研究所「QOL 向上 に寄与するための研究、講演、研修、イベント等の募集」 より助成を賜りました。この場を借りて、厚くお礼申 し上げます。 註 1)同本部の活動について、救援・復旧・復興と続く被 災地での災害サイクルに即して、長期にわたって十 分に行われたかどうかには、一部で、批判も寄せら れた(例えば、香取 1997)。 2)現在は、政府認可の 3 団体((財)日本動物愛護協会、 (公社)日本動物福祉協会、(公社)日本愛玩動物協 会)、及び(社)日本獣医師会によって構成されて
いる(どうぶつ救援本部 2012)。 3)家庭で飼育されていた愛玩動物だけでなく、三宅島 内の 3 つの小学校で飼育されていたニワトリ・ウ サギなどの学校飼育動物も、区部の小学校で受け入 れられることとなった(Relatio 編集部 2002a)。 4)新潟県中越地震では、犬・猫などの愛玩動物だけで なく、中越地方の伝統的な闘牛「牛の角突き」のた めに飼育されていた牛なども被害にあった。これら の牛は、単なる家畜や愛玩動物とはまた違った独特 な関係を、飼い主・地域との間で結んでいたとされ ている(菅 2010)。 5)災害関連の専門書における動物の扱いについて、筆 者はまだ十分に吟味ができていないが、例えば、林 は、被災後にペットを連れて避難する場合と、どこ かに預ける場合の対応について整理を行っている (林 2011:72-73)。 引用文献一覧 阿部智子 (2012) 『動物たちの 3・11 ─被災地動 物支援ドキュメンタリー』エンターブレイン . 阿部俊範 (2012) 「災害時臨時シェルターを考える ─石巻動物救護センター立ち上げと運営で感じ た問題点」『ヒトと動物の関係学会誌』31, 23. 会田保彦 (2012) 「東日本大震災時緊急災害時動物救 援本部はどう動いたのか─動物救援本部の立ち 上げ・経過・展望」『JVM 獣医畜産新報』65(1), 9-12. どうぶつ救援本部 (2012) 「どうぶつ救援本部につい て」 (http://doubutsukyuen.org/main/index.php/ about, 2012 年 8 月 30 日). 藤村晃子 (2012) 『震災ペットを救う─ 3・11 か ら学ぶ「ペット防災学」』長崎出版 . 月間福祉 編 (2002) 「動物たちの安全を守って─ 三宅島噴火災害動物救援センター」『月間福祉』 85(7), 2-7. 林 春男 監修 (2011) 『災害のあと始末─東日本 大震災緊急改訂版』X-Knowledge. ヒース , S. E. (2012) 「災害時の飼い主の意識が周囲 と動物の健康におよぼす影響とは」『Relatio』14, 35-37. 兵庫県南部地震動物救援本部活動の活動記録編集員会 編 (1996) 「大地震の被災動物を救うために─ 兵庫県南部地震動物救援本部活動の記録」 (http://www.lib.kobe-u.ac.jp/directory/eqb/ book/7-156/, 2012 年 8 月 30 日). 一般社団法人ペットフード協会 (2011) 「平成 23 年 度全国犬・猫飼育実態調査 結果」 (http://www.petfood.or.jp/topics/111226. html,2012 年 8 月 29 日). 岩崎雅和 (2011) 「石巻動物救護センターの経緯とボ ランティア活動、そして復興とは」『ヒトと動物の 関係学会誌』30, 15-22. 城 仁士・杉万俊夫・渥美公秀ほか 編 (1996) 『心 理学者がみた阪神大震災──心のケアとボラン ティア』ナカニシヤ出版 . 環境省 (2006a) 「第 3 回動物の愛護管理のあり方検討 委員会─資料 4 災害時における動物の保護管理」 (http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/ arikata/h16_03/mat04.pdf, 2012 年 8 月 29 日). ─ (2006b) 「動物の愛護及び管理に関する施 策を総合的に推進するための基本的な指針」 (http://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/ laws/guideline_h181031.pdf, 2012 年 8 月 30 日). ─ (2007) 「家庭動物等の飼養及び保管に関 す る 基 準 」(http://www.env.go.jp/hourei/add/ r073.pdf, 2012 年 8 月 30 日). ─ (2011a) 『備えよう!いつもいっしょにい たいから─ペット動物の災害対策』環境省自然 環境局総務課動物愛護管理室 . ─ (2011b) 「中央環境審議会動物愛護部会 ─第 22 回動物愛護管理のあり方検討小委員会: 資料 3 災害対応について」 (http://www.env.go.jp/council/14animal/y143-22/mat03-1.pdf, 2012 年 8 月 30 日). ─ (2011c) 「中央環境審議会動物愛護部会 ─第 22 回動物愛護管理のあり方検討小委員会: 別添 2 平成 22 年度防災計画等における動物の愛 護管理の記載状況」 (http://www.env.go.jp/council/14animal/y143-22/mat03-2.pdf, 2012 年 8 月 30 日). 香取章子 (1997) 「阪神・淡路大震災から 2 年─ 動物たちは救済されたのか」『週刊金曜日』5(12), 50-52. ─ (2002) 『いざというとき役立つ犬と猫のた めの災害サバイバル』学習研究社 . 菊崎友隆 (2012) 「福島県における東日本大震災の傷 跡─震災直後の状況と警戒区域の犬・猫の救出」 『JVM 獣医畜産新報』65(1), 17-23.
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