1
2010 年 3 月 6 日 12 時~18 時開催 (東京・主婦会館プラザエフ)
1第 1 回「産婦人科診療ガイドライン-婦人科外来編」コンセンサスミ
2ーティング用資料
3 4 資料全体に関する注意点 5 6 1. 本書の構成 7この資料には 26 項目の Clinical Questions(CQ)が設定され、それに対する Answer
8 が示されている。各 Answer 末尾( )内には推奨レベル(A,B あるいは C)が記載 9 されている。解説中には Answer 内容にいたった経緯等が文献番号とともに記載され、 10 最後にそれら解説の根拠となった文献が示されている。各文献末尾にはそれら文献の 11 エビデンスレベル(Ⅰ、Ⅱ、あるいはⅢ)が示されている。 12 2. ガイドラインの目的 13 現時点でコンセンサスが得られ、適正と考えられる標準的婦人科外来での診断・治療 14 法を示すこと。本書の浸透により、以下の 4 点が期待される。 15 1) いずれの婦人科医療施設においても適正な医療水準が確保される。 16 2) 婦人科医療安全性の向上 17 3) 人的ならびに経済的負担の軽減 18 4) 医療従事者・患者の相互理解助長 19 3. 本書の対象 20 日常、婦人科外来診療に従事する医師、看護師を対象とした。1 次施設、2 次施設、3 21 次施設別の推奨は行っていない。理由は 1 次施設であっても技術的に高度な検査・治 22 療が可能な施設が多数存在しているからである。「7.自施設で対応困難な検査・治療等 23 が推奨されている場合の解釈」で記載したように自施設では実施困難と考えられる検 24 査・治療が推奨されている場合は「それらに対応できる施設に相談・紹介・搬送する」 25 ことが推奨されていると解釈する。本書はしばしば患者から受ける質問に対し適切に 26 答えられるよう工夫されている。また、ある合併症を想定する時、どのような事を考 27 慮すべきかについてわかりやすく解説してあるので看護師にも利用しやすい書となっ 28 ている。 29 4. 責任の帰属 30 本書の記述内容に関しては日本産科婦人科学会ならびに日本産婦人科医会が責任を負 31 うものとする。しかし、本書の推奨を実際に実践するか否かの最終判断は利用者が行 32 うべきものである。したがって、治療結果に対する責任は利用者に帰属する。 33 5. 作成の基本方針 34 2009 年末までの内外の論文を検討し、現時点では患者に及ぼす利益が不利益を相当程 35 度上回り、80%以上の地域で実施可能と判断された検査法・治療法を推奨することと 36 した。 37 6. 推奨レベルの解釈 38 Answer 末尾の(A,B,C)は推奨レベル(強度)を示している。これら推奨レベルは推 39 奨されている検査法・治療法の臨床的有用性、エビデンス、浸透度、医療経済的観点 40 等を総合的に勘案し、作成委員の 8 割以上の賛成を得て決定されたものであり必ずし 41
2 もエビデンスレベルとは一致していない。推奨レベルは以下のように解釈する。 1 A:(実施すること等を)強く勧める 2 B:(実施すること等が)勧められる 3 C:(実施すること等が)考慮される(考慮の対象となる、という意味) 4 5 Answer 末尾動詞が「 を行う。(A)」となっている場合、「 を行うことが強 6 く勧められている」と解釈する。「 を行う。(C)」となっている場合、「 を 7 行うことは考慮の対象となる」と解釈する。(B)は A と C の中間的な強さで勧められ 8 ていると解釈する。 9 7. 自施設で対応困難な検査・治療等が推奨されている場合の解釈 10 Answer の中には、自施設では実施困難と考えられる検査・治療等が勧められている場 11 合がある。その場合には「それらに対して対応可能な施設に相談・紹介・搬送する」 12 という意味合いが含められている。具体的には以下のような解釈となる。 13 A:自院で対応不能であれば、可能な施設への相談・紹介又は搬送を「強く勧める」 14 B:自院で対応不能であれば、可能な施設への相談・紹介又は搬送を「勧める」 15 C:自院で対応不能であれば、可能な施設への相談・紹介又は搬送を「考慮する」 16 以下に解釈例を示す。 17 18 例 「組織診で確認された CIN1(軽度異形成)は 6 か月ごとに細胞診と必要があればコ 19 ルポスコピーでフォローする。(B)」 20 解釈:コルポスコピーをおこなうことが困難な施設では、必要が生じた際には対応可能 21 な施設への相談・紹介が必要であり、それを勧められていると解釈する。 22 23 8. 保険適用がない薬剤等について 24 保険適用がない薬剤等の使用が勧められている場合がある。その薬剤は効果的であり、 25 利益が不利益を上回り、かつ実践できるとの判断から、その使用が勧められている。 26 これら薬剤の使用にあたっては informed consent 後に行うことが望ましい。 27 学会・医会としては今後、これら薬剤の保険適用を求めていくことになる。 28 9. 文献 29 文献検索にかける時間を軽減できるように配慮してある。文献末尾の数字はエビデン 30 スレベルを示しており、数字が少ないほどしっかりとした研究に裏打ちされているこ 31 とを示している。数字の意味するところはおおむね以下のようになっている。 32 Ⅰ:よく検討されたランダム化比較試験成績 33 Ⅱ:症例対照研究成績あるいは繰り返して観察されている事象 34 Ⅲ:ⅠⅡ以外、多くは観察記録や臨床的印象、又は権威者の意見 35 10. 改訂 36 今後、3 年ごとに見直し・改訂作業を行う予定である。また、本書では会員諸氏の期 37 待に十分応えるだけの Clinical Questions(CQ)を網羅できなかった懸念がある。改訂 38 時には、CQ の追加と本邦からの論文を十分引用したいと考えている。必要と思われる 39 CQ 案やガイドラインに資すると考えられる論文を執筆された場合、あるいはそのよう 40 な論文を目にされた場合は学会事務局までご一報いただければ幸いである。 41 42
3 CQ1-01 性器ヘルペスの診断と治療は? 1 2 Answer 3 1. 典型例では病歴と臨床症状で診断可能である。(B) 4 2. 検査を行う場合は、ウイルス抗原の検出(蛍光抗体法)、血清抗体価測定法 5 (ELISA、IgG・IgM)、細胞診から選択する。(B) 6 3. 治療にはアシクロビルまたはバラシクロビルを使用する。(A) 7 4. 軽症例ではアシクロビルやビダラビン軟膏を使用する。(C) 8 5. 再発を繰り返す場合や再発時の症状が重い場合は、再発抑制療法を行う。(B) 9 10 主な処方例 11 一般名 商品名 使用法 12 初発・再発 13 軽中等症 アシクロビル錠 ゾビラックス(200mg) 5T 分 5 5 日間経口 14 バラシクロビル錠 バルトレックス(500mg) 2T 分 2 5 日間経口 15 (初発では 10 日間まで) 16 重症 注射用アシクロビル ゾビラックス 5mg/kg/回 8 時間毎 7 日間点滴静注 17 再発抑制 バラシクロビル錠 バルトレックス(500mg) 1T 分 1 1 年間経口 18 19 解説 20
1.性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus : HSV)1 型 21 (HSV-1)または 2 型(HSV-2)の感染により、性器に潰瘍性または水疱性病変を 22 形成する、性感染症の1つである。欧米では大多数が HSV-2 によるが、日本では 23 女性の初感染では HSV-1 と HSV-2 が同程度か HSV-1 が多いが、再発例のほとんど 24 からは HSV-2 が検出される(1)。性器ヘルペスは全 STD の中で男性 6.7%、女性 11.2%、 25 全体で 9.2%を占め、女性/男性比が 1.91 と女性優位となっている(2)。 26 外陰部に潰瘍性または水疱性病変を認めた場合には、性器ヘルペスを第一に疑 27 う。初感染初発典型例では、性的接触後 2-10 日間の潜伏期をおいて、突然発症し 28 38 度以上の発熱を伴うこともある。大陰唇・小陰唇から腟前庭部・会陰部にかけ 29 て、浅い潰瘍性または水疱性病変が多発する。疼痛が強く、排尿が困難で、時に 30 歩行困難になり、ほとんどの症例で鼠径リンパ節の腫脹と圧痛がみられる。とき 31 に強い頭痛・項部硬直などの髄膜刺激症状を伴うことがあり、排尿困難や便秘な 32 どの末梢神経麻痺を伴うこともある。非初感染初発例では、症状は軽いことが多 33 い。再発例の症状は軽く、性器または殿部や大腿部に小さい潰瘍性または水疱性 34 病変を数個形成するだけのことが多い。再発する前に外陰部の違和感や、大腿か 35 ら下肢にかけて神経痛様の疼痛などの前兆などを訴えることもある。 36 2.非典型例では、病原診断により性器ヘルペスであることを確認し、HSV の型を 37
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
4 特定した後、血清抗体価測定により初感染か再発かを診断する。検査としては、 1 HSV の分離培養が最も確実だが、時間と費用がかかり、保険診療適用外である。塗 2 抹標本の蛍光抗体法による HSV 抗原検査が実用的で保険診療適用であるが、感度 3 は低い(ウイルス分離に対し、60-70%の陽性率)。血清抗体価による診断は、IgG ・ 4 IgM を測定することにより初発・再発を診断することが可能である(3)。また病変 5 の擦過標本をパパニコロー染色し、ウイルス性巨細胞を証明する方法もある。 6 3.治療としては HSV の増殖を抑制する抗ウイルス薬が有効で、HSV の増殖を抑制 7 し治癒までの期間が短縮するが、排除することはできない。アシクロビルまたは、 8 その経口吸収率を改善したプロドラッグであるバラシクロビルを使用する。性器 9 ヘルペスを発症した 531 例の RCT では、バラシクロビル(500mg)2T 分 2 投与 3 日間 10 群と 5 日間群で病変の持続期間や消失に差がなく、発症後 6 時間以内の投与開始 11 がそれ以上より 2 倍有効であった(4)。 12 4.軽症例では 5%アシクロビルや 3%ビタラビン軟膏を 1 日数回、5-10 日間塗布す 13 る方法もあるが、ウイルス排泄を完全に抑制できず、病期も短縮させないといわ 14 れている(5)。 15 5.性器ヘルペス患者においては、症状が出現していない場合にもウイルスの排 16 泄が持続していることから、バルトレックス 1 回 500mg の 1 日 1 回継続投与(1 年 17 間)による再発抑制療法が考案され、その有用性が報告されている。年間再発回 18 数が 6 回以上の頻回に再発を繰り返す免疫正常な性器ヘルペス患者を対象とした 19 二重盲検法により、バルトレックス投与群とプラセボ群で比較したところ、再発 20 リスクはバルトレックス群で 71%有意に低下した。試験期間である 1 年間に一度 21 も再発が認められなかった患者の割合は、プラセボ群では 5%であったのに対し、 22 バルトレックス群では 40%の患者が 1 年間1度も再発を認めなかった (6)。また、 23 1 年間の再発頻度が 9 回以下の抗 HSV-2 抗体陽性者と、抗 HSV-2 抗体陰性であるパ 24 ートナーからなる 1484 組の免疫正常カップルを対象に、HSV-2 抗体が陽性である 25 患者にバラシクロビル 1 回 500mg、1 日 1 回投与し、8 ヶ月間にわたり、パートナ 26 ーが HSV-2 による性器ヘルペスを発症するかどうか検証した。試験終了時までに 27 HSV-2 による性器ヘルペスを発症したパートナーは、バルトレックスで 743 例中 4 28 例(0.5%)、プラセボ群で 741 例中 16 例(2.2%)と、プラセボ群に比較してバ 29 ルトレックス群では有意にパートナーの性器ヘルペス発症率の低下が認められた 30 (7)。 31 なお妊婦の性器ヘルペスの取り扱いに関しては、産婦人科診療ガイドライン産 32 科編を参照されたい。 33 34 文献 35
1. Kawana T, Kawagoe K, Takizawa K, Chen JT, Kawaguchi T, Sakamoto S. 36
Clinical and virologic studies on female genital herpes. Obstet Gynecol. 1982 37
5 Oct;60(4):456-61.(III) 1 2. 熊本悦明, 塚本泰司, 杉山徹, 赤座英之, 野口昌良, 納谷敦夫, et al. 2 【日本における性感染症サーベイランス 2002 年度調査報告】. 日本性感染症学 3 会誌. 2004 2004.06;15(1):17-45.(III) 4 3. 小泉佳男, 川名尚. 女性性器の単純ヘルペスウイルス初感染における抗 5 体 推 移 に 関 す る 研 究 . 日 本 産 科 婦 人 科 学 会 雑 誌 . 1999 6 1999.02;51(2):65-72.(III) 7
4. Strand A, Patel R, Wulf HC, Coates KM. Aborted genital herpes simplex 8
virus lesions: findings from a randomised controlled trial with valaciclovir. 9
Sex Transm Infect. 2002 Dec;78(6):435-9.(I) 10
5. 日本性感染症学会. 性感染症 診断・治療ガイドライン2008 性器ヘルペス. 11
日本性感染症学会誌 2008;19(1 Suppl):62-66.(guideline) 12
6. Reitano M, Tyring S, Lang W, Thoming C, Worm AM, Borelli S, et al. 13
Valaciclovir for the suppression of recurrent genital herpes simplex virus 14
infection: a large-scale dose range-finding study. International 15
Valaciclovir HSV Study Group. J Infect Dis. 1998 Sep;178(3):603-10.(I) 16
7. Corey L, Wald A, Patel R, Sacks SL, Tyring SK, Warren T, et al. 17
Once-daily valacyclovir to reduce the risk of transmission of genital herpes. 18
N Engl J Med. 2004 Jan 1;350(1):11-20.(I) 19
20 21
6 CQ1-02 クラミジア子宮頸管炎の診断と治療は? 1 2 Answer 3 1. 診断には、核酸同定法、核酸増幅法または酵素抗体法(Enzyme immunoassay 4 法:EIA 法)で子宮頸管擦過検体よりクラミジア菌体を検出する。(A) 5 2. 核酸増幅法で淋菌の同時検査を行う。(B) 6 3. 治療はマクロライド系またはキノロン系の経口抗菌薬により行う。(A) 7 4. 上行感染による PID や Fitz-Hugh-Curtis 症候群には軽症では経口薬を選択 8 し重症ではミノサイクリンの点滴静注を行う。(B) 9 5. 治療開始後 2 週間以上あけて治癒判定を行う。(B) 10 6. パートナーに検査、治療を勧める。(B) 11 12 主な処方例 13 14 一般名 商品名 含有量 使用方法 経口薬 アジスロマイシン ジスロマック 250mg/錠 1000mg 単回投与 2g/ドライシ ロップ 2000mg 単回投与 クラリスロマイシン クラリス、クラリシッド 200mg/錠 200mg×2/day 7 日間 レボフラキサシン クラビット 100mg/錠 または 500mg/錠 100mg×3/day 7 日間 500mg×1/day 7 日間 注射薬 ミノサイクリン ミノマイシン 100mg/バイアル 100mg×2/day 点滴投与 3~5 日間 15 解説 16 1. クラミジア診断は、妊婦を含め子宮頸管擦過検体を専用スワブで採取し、核酸 17 同定法、核酸増幅法、または酵素抗体法により行う。クラミジア抗体検査(IgG、 18 IgA)は、既往感染を反映し、かつ治療後も陽性が一定期間持続するため現行感 19 染の診断や治癒判定には適さない。しかし、菌体検査が陰性であっても IgA, 20 IgG が共に陽性で臨床的にクラミジア感染を疑う症例については、微量な卵管 21 または腹腔内感染を想定し治療を考慮する。一方で、IgA 陽性で IgG 陰性の場 22 合、活動性の感染が疑わしく、IgA 陰性で IgG 陽性の場合には既往感染が考え 23 られ、現時点での活動性の感染の可能性はないと推測される。また、治癒後も 24
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
7
IgA は相当の期間陽性が持続する事があり、IgA 陽性が持続するという理由で 1
抗生剤投与を継続する必要はない。IgA, IgG 共に抗体価(Cut off index)が高 2 値になると骨盤内癒着の頻度が高くなるため不妊症のスクリーニング検査と 3 しては有用である1) 。 4 2. クラミジア陽性者の約 10%が淋菌感染症を合併する為、特に有症状例では、 5 クラミジアと淋菌の同時検査を行うことが望ましい2)。核酸増幅法は、酵素抗 6 体法に比べ感受性が高く、また 1 本のスワブ検体からクラミジアと淋菌の同時 7 検出が可能である。 8 3. クラミジア子宮頸管炎は、経口抗菌薬であるアジスロマイシン、クラリスロ 9 マイシン、レボフロキサシンによりほぼ確実に治療が可能である3)。 10 妊婦のクラミジア感染症の治療については産婦人科診療ガイドライン産科編 11 を参照されたい。 12 4. Chlamydia trachomatis は、性行為により子宮頸管腺細胞に感染し子宮頸管炎の 13 原因となる。上行感染すると、子宮内膜炎、卵管炎、付属器炎を引き起こす。 14 しかし、子宮頸管炎のほとんどが、自覚症状に乏しく無治療のまま放置される 15 ことが多い。このため、感染が、卵管を通じて腹腔内へ移行すると PID や右上 16 腹部に激烈な痛みを伴う肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis 症候群)を発症する4)。腹 17 腔内感染の重症例には、ミノサイクリン 100mg×2 5 日間の点滴静注が奏功 18 する。 19 5. 核酸増幅法は、高感度であるため早期に治癒判定が行われると偽陽性になるこ 20 とがある。治癒判定は、投薬開始2週間以上あけて行うことが望ましい。5) 21 6. クラミジアによる卵管炎や付属器炎を長期間放置すると卵管障害を引き起 22 こし難治性卵管不妊や卵管妊娠の原因になる。このため、若年者では、早期発 23 見、早期治療、再感染の防止が極めて重要である。性器クラミジア感染症のわ 24 が国における報告数は、2004 年から減少に転じたものの、性感染の中では最 25 も発生頻度が高い6)。特に、罹患者は、10~20 歳代に集中しており、本邦の性 26 交経験がある女子高校生 13%に無症候感染者を認めたという報告も存在する。 27 このため、性交渉を経験した若年者を診察する場合には本疾患を念頭におく必 28 要がある7)。また、米 CDC は、特に症状を認めなくても 25 歳以下の性活動を 29 持つ女性、25~30 歳でパートナーが変わった人、複数のパートナーのある人 30 を対象としてクラミジアスクリーニングの実施を推奨している8)。なお、近年 31 oral sex によるクラミジア咽頭感染例が報告されているので、感染リスクがあ 32 る場合には核酸増幅法(SDA法またはTMA法)による咽頭検索が重要とな 33 る。 34 35
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
8 文献 1 2 1. 中部健、野口昌良、岡本俊充、内田聡、保條説彦、野口靖之ら. Chlamydia 3 trachomatis 感 染 症 と 妊 孕 性 障 害 に 関 す る 検 討 . 日 性 感 染 雑 1995; 4 6(1):30-34(Ⅲ) 5 2. 松 田 静 治 , 佐 藤 郁 夫 , 山 田 哲 夫 , 菅 生 元 康 , 野 口 昌 良 , 塚 本 泰 司 ほ 6
か :Transcription Mediated Amplification 法 を 用 い た RNA 増 幅 に よ る 7
Chlamydia trachomatis 及び Neisseria gonorrhoeae の同時検出:産婦人科およ 8 び泌尿器科における臨床評価.日本性感染症学会誌 2004;15:116-126(Ⅲ) 9 3. 日本性感染症学会:性感染症診断・治療ガイドライン 2008,第 2 部,性器 10 クラミジア感染症.日性感染症会誌 2008;19(1,supple):57-61 (Guideline) 11
4. Wang SP, Eschenbach DA, Holmes KK, Wager G, Grayston JT.:Chlamydia 12
trachomatis infection in Fitz-Hugh-Curtis syndrome.Am J Obstet Gynecol. 1980 13
Dec 1;138(7 Pt 2):1034-8. (Ⅲ) 14
5. Mikamo H, Ninomiya M, Tamaya T: Clinical efficacy of clarithromycin 15
against uterine cervical and pharyngeal Chlamydia trachomatis and the 16
sensitivity of polymerase chain reaction to detect C. trachomatis at 17
various time points after treatment.J Infect Chemother.2003 18 Sep;9(3):282-3. (Ⅲ) 19 6. 岡部信彦、多田有希.感染症発生動向調査から見たわが国の STD の動向.性 20 感 染 症 に 関 す る 特 定 感 染 症 予 防 指 針 の 推 進 に 関 す る 研 究 2008 21 Mar:29-43(Ⅲ) 22 7. 今井 博久, 小野寺昭一. 高校生の無症候性クラミジア感染症の大規模ス 23 クリーニング調査研究.性感染症の効果的な蔓延防止に関する研究 2005 24 Apr:35-37(Ⅲ) 25
8. CDC : Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2006. MMWR 26
Recommendations and Reports 2006;55 (RR-11): 38-42 (Guideline) 27
28
9 1 CQ1-03 外陰尖圭コンジローマの診断と治療は? 2 3 Answer 4 1.臨床症状・所見により診断は可能であるが、症例によっては組織診により確 5 定診断する。(B) 6 2.イミキモド 5%クリームで治療する。(B) 7 3.80-90%三塩化酢酸または二塩化酢酸による薬物療法や、冷凍療法・電気焼灼・ 8 レーザー蒸散による外科的療法を行う。(C) 9 10 解説 11 1.尖圭コンジローマ(condyloma acuminatum)は、主に 6 型または 11 型のヒト 12 乳頭腫ウイルス(human papillomavirus : HPV)による性感染症である。女性で 13 は、大小陰唇・会陰・腟前庭・腟・子宮頸部・肛囲・肛門内や尿道口に好発する。 14 乳頭状・鶏冠状の外観を呈し、淡紅色ないし褐色で、時に巨大化する。診断は臨 15 床症状・所見により可能であるが、診断が不確実な場合や治療抵抗性のとき、免 16 疫不全者のとき、色素沈着があるとき、硬結・出血・潰瘍がある場合は生検して 17 組織診断を行う。また HPV の型別検出が可能であれば、診断に役立つ場合がある。 18 鑑別診断として HPV16 型感染によるボーエン樣丘疹、性器 Bowen 病、腟前庭部乳 19 頭腫、扁平コンジローマ、老人性疣贅、外陰癌が挙げられる。 20 2.治療法は、病変の大きさ、数、場所、形状、患者の希望、費用、簡便性、副 21 作用、担当医の治療経験などにより決定する。一般的に外陰部病変には、イミキ 22 モドクリームを使用するのが世界的には第一選択である。その適応は広く、患者 23 にとっては侵襲が少なく、医師にとっても簡便な方法である。また再発率が低く、 24 瘢痕などの後遺症を残す懸念も少ないなど、外科的治療法に比べ優れた点が多い。 25 イミキモド 5%クリーム、1%クリーム、プラセボを使用した RCT では、完全消失率・ 26 疣贅面積減少率ともに有意な用量反応性が認められた(1)。その他にもイミキモド 27 クリームの有効性を示す RCT が報告されている(2-4)。 28 3.その他の治療法として、冷凍療法、80-90%三塩化酢酸または二塩化酢酸、外 29 科切除、インターフェロンの局所注射、レーザー蒸散がある。治療法の比較とし 30 て、凍結療法がトリクロル酢酸より治療効果が高いとする報告(5)や、電気焼灼・ 31 レーザー蒸散の有用性を示す報告がある(6)。視診上は治癒しても 3 ヶ月以内に約 32 25%が再発するため、治療後 3 ヶ月間のフォローアップは必要である。 33 諸外国では 10-25%のポドフィリンアルコール溶液および、0.5%ポドフィロックス 34 溶液またはゲルの外用薬が用いられているが、日本では発売されていない。 35 妊娠中に尖圭コンジローマの病変を認めた場合、帝王切開術が新生児の喉頭乳頭 36 腫症を予防できるかは不明であるが、病変が大きく産道狭窄や大出血の原因にな 37
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
10 ると考えられる場合は、帝王切開を考慮する(7)。イミキモド 5%クリームは妊婦に 1 対して、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ使用する。 2 3 文献 4 1. 中川秀己. 尖圭コンジローマ患者に対するイミキモドクリームのランダ 5 ム 化 二 重 盲 検 用 量 反 応 試 験 . 日 本 性 感 染 症 学 会 誌 . 2007 6 2007.06;18(1):134-44.(I) 7
2. Beutner KR, Spruance SL, Hougham AJ, Fox TL, Owens ML, Douglas JM, 8
Jr. Treatment of genital warts with an immune-response modifier (imiquimod). 9
J Am Acad Dermatol. 1998 Feb;38(2 Pt 1):230-9.(III) 10
3. Edwards L, Ferenczy A, Eron L, Baker D, Owens ML, Fox TL, et al. 11
Self-administered topical 5% imiquimod cream for external anogenital warts. 12
HPV Study Group. Human PapillomaVirus. Arch Dermatol. 1998 13
Jan;134(1):25-30.(I) 14
4. Garland SM, Sellors JW, Wikstrom A, Petersen CS, Aranda C, Aractingi 15
S, et al. Imiquimod 5% cream is a safe and effective self-applied treatment 16
for anogenital warts--results of an open-label, multicentre Phase IIIB trial. 17
Int J STD AIDS. 2001 Nov;12(11):722-9.(I) 18
5. Abdullah AN, Walzman M, Wade A. Treatment of external genital warts 19
comparing cryotherapy (liquid nitrogen) and trichloroacetic acid. Sex Transm 20
Dis. 1993 Nov-Dec;20(6):344-5.(II) 21
6. Ferenczy A, Behelak Y, Haber G, Wright TC, Jr., Richart RM. Treating 22
vaginal and external anogenital condylomas with electrosurgery vs CO2 laser 23
ablation. J Gynecol Surg. 1995 Spring;11(1):41-50.(II) 24
7. Workowski KA, Berman SM. Sexually transmitted diseases treatment 25
guidelines, 2006. MMWR Recomm Rep. 2006 Aug 4;55(RR-11):1-94.(guideline) 26
27 28
11 CQ1-04 淋菌感染症の診断と治療は? 1 2 Answer 3 1. 性器感染の診断には、分離培養法または核酸増幅法で子宮 頸管擦過検体より 4 病原体を検出する。(A) 5 2. 咽頭感染を疑う場合は、咽頭擦過検体を採取し、上記の方法で検査する。(C) 6 3. 核酸増幅法でクラミジアの同時検査を行う。(B) 7 4. 治療は、セフトリアキソン静注、セフォジジム静注、スペクチノマイシン筋注 8 (B)、またはジスロマックSRドライシロップ内服(C)のいずれかを単回 9 投与する。 10 5. パートナーに検査、治療を勧める。(B) 11 12 一般名 商品名 含有量 使用方法 注射薬 セフトリアキソン ロセフィン 1.0g/バイアル 1.0g 静注・単回投与 セフォジジム ケニセフ,ノイセ フ 1.0g/バイアル 1.0g 静注・単回投与 スペクチノマイシン トロビシン 2.0g/バイアル 2.0g 筋注(臀部)・単回投与 内服薬 アジスロマ イシン ジスロマ ックSR 2.0g/ボトル 2.0g単回投与 13 解説 14 1.グラム陰性双球菌である Neisseria gonorrhoeae は、性交渉によりヒトからヒ 15 トへ感染し子宮頸管炎、子宮内膜炎、卵管炎、付属器炎、PID、時に結膜炎、咽頭 16 感染、直腸感染を発症する。また、妊婦が感染すると産道感染により新生児結膜 17 炎を引き起こす。性器淋菌感染症の自覚症状は、男性尿道炎では灼熱感のある排 18 尿痛が特徴的であるが、子宮頸管炎は軽度の帯下増加のみで無症状のことが多い。 19 診断は、スワブにて子宮頸管擦過検体を採取しグラム染色標本の検鏡、New York 20
City 培地, Modified Thayer Martin 培地を用いた分離培養法または核酸増幅法により 21 病原体を検出し行う1)。しかし、分離培養法の感度は、淋菌が高温、低温に弱く炭 22 酸ガス要求性であるため検体の搬送にかかる時間や環境で低下する。一方で、核 23 酸増幅法は、薬剤感受性を確認できないが感度が高く正確な診断や治療効果の判 24 定に有用である。 25 2.近年、oral sex が一般化し、性器淋菌感染を持つ症例の 10~30%に咽頭から 26 淋菌が検出されている2)。咽頭感染は、咽頭炎症状を認めることもあるが多くは無 27 症状である。しかし、これらは、oral sex を介して新たな感染源になるため治療が 28
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
12 必要である。診断は、上咽頭を中心にスワブによる擦過検体を採取し培養法また 1 は核酸増幅法(SDA法、またはTMA法)により病原体を検出し行う 3,4)。検体 2 は、スワブを口腔から咽頭へ挿入し、咽頭後壁、扁桃、扁桃陰窩を出血しない程 3 度に拭い採取する。また、同じ核酸増幅法である AMPLICOR STD-1(PCR 法)は、 4 口腔内の常在菌と淋菌が交叉反応するため用いるべきでない。治療は、セフトリ 5 アキソン静注 1.0g 単回投与が推奨される5)。 6 3.性器及び咽頭にクラミジアを混合感染することがあるので、淋菌だけでな 7 く同時にクラミジア検査を行うことが望ましい。無症候女性(性産業従事者・1 8 54例)から咽頭擦過検体と子宮頸管擦過検体を採取しクラミジア及び淋菌の陽 9 性率を比較したところ咽頭のクラミジア陽性率が 8.4%、淋菌陽性率が 13.6%であ 10 り、子宮頸管におけるクラミジア陽性率が 15.6%で淋菌陽性率は 3.2%であった。 11 このように同一集団を対象にした検討によると、子宮頸管においては、淋菌に比 12 べてクラミジアの陽性率が高く、咽頭では逆に淋菌の検出頻度が高い傾向を認め 13 る3)。 14 4.治療は、静注、筋注剤としてセフトリアキソン、セフォジジムとスペクチノ 15 マイシンの 3 剤のみが耐性菌を持たず第一選択となる。子宮頸管炎であれば、ほ 16 ぼ 100%の効果が得られるため治療後検査は、必須でない。但し、腹膜炎を伴う 17 PID や Fitz-Hugh-Curtis 症候群は、投与期間を延長(1~7 日間)し、治癒判定を行 18 う。現在、淋菌の多剤耐性化が問題視されており、ペニシリンおよびテトラサイ 19 クリンだけでなく、これまで特効薬とされていたオフロキサシン、シプロフロキ 20 サシンなどニューキノロン系抗菌薬への耐性が 80%近くに達している。さらに 21 1999 年には第3世代経口セフェムに対する耐性淋菌が分離され今後もさらなる多 22 剤耐性菌の蔓延が懸念される6)。なお最近、アジスロマイシンのドライシロップ剤 23 の単回内服法が淋菌感染症に適用追加され外来患者にとって治療法の選択肢が増 24 えた。ただし副作用として下痢や軟便が16.4%の頻度で報告されている。 25 5.本邦における性器淋菌感染症の定点あたりの報告数は、2004 年から減少傾向 26 に転じているが、罹患者のほとんどが 10~20 歳代の若年者である7)。本疾患は、 27 クラミジア感染症と同様に、卵管炎を発症するため子宮外妊娠や卵管性不妊症の 28 原因になる。さらに、子宮頸管炎を無治療のまま放置すると PID や Fitz-Hugh-Curtis 29 症候群を引き起こす。稀であるが、淋菌の菌血症が、播種性淋菌感染症を引き起 30 こすことがあり、早期に治療し再感染の予防に努める。 31 32 33 34 35 36 37
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
13 文献 1 1. 日本性感染症学会:性感染症診断・治療ガイドライン 2008,第 2 部,性器 2 淋菌感染症.日性感染症会誌 2008;19(1,supple):49-56 (Guideline) 3
2. 保科眞二、保田仁介:性産業従事者 Commercial Sex Workers (CSW)におけ 4 る咽頭と子宮頸管の淋菌、Chlamydia trachomatis 検査、陽性率の比較検討. 5 日本性感染症学会雑誌 2004;15:127-134(Ⅲ) 6 3. 野口靖之、本藤 徹、菅生元康、保田人介、藤原道久、保科眞二ら:子宮 7 頸管および咽頭擦過検体、尿検体に対する SDA 法を原理とする新しい核 8
酸増幅法を用いた Chlamydia trachomatis および Neisseria gonorrhoeae の検 9 出.感染症学雑誌 2006;80:251-256(Ⅲ) 10 4. 藤原道久、河本義之、中田敬一:子宮頚管および咽頭でのクラミジア・ト 11 ラコマティスと淋菌同時検索におけるTMA法を用いた核酸象増幅同定 12 検査法の有用性.日本性感染症学会雑誌 2009;20:117-121. 13
5. CDC : Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2006. MMWR 14
Recommendations and Reports 2006;55 (RR-11): 42-49 (Guideline) 15
6. Muratani T, Akasaka S, Kobayashi T, Yamada Y, Inatomi H, Takahashi K et al: 16
Outbreak of cefozopran (penicillin, oral cephems, and aztreonam)-resistant 17
Neisseria gonorrhoeae in Japan. Antimicrob Agents Chemother. 2001 18 Dec;45(12):3603-6 (Ⅲ) 19 7. 岡部信彦、多田有希:感染症発生動向調査から見たわが国の STD の動向. 20 性 感 染 症 に 関 す る 特 定 感 染 症 予 防 指 針 の 推 進 に 関 す る 研 究 2008 21 Mar:29-43(Ⅲ) 22 23 24 25
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
14 CQ1-5 梅毒の診断と治療は? 1 2 Answer 3 1.STS 法定性と、TPHA 法定性または FTA-ABS 法定性の併用により診断を確定 4 させ、病期診断を行う。(A) 5
2.治療は、合成経口ペニシリン(AMPC, ABPC)を 1st choice とし、第 1 期では 6 2~4 週間、第 2 期では 4~8 週間、第 3 期では 8 週~12 週間内服する。(A)表 7 1 8 3.治癒効果は STS 法定量によって判定する。(A) 9 10 表 1 第1選択薬 同一薬剤でも剤型の違い、後発品に保険適応のない ものもある 一般名 略号 商品名 1 日用量 用 法 投与期間 アモキシリン AMPC サワシリン、パ セトシン 1.5g 分 3 第 1 期 2~4 週 間 アンピシリン ABPC ビクシリン、ソ ルシリン 2.0g 分 4 第 2 期 4~8 週間 ベンジルペニシ リン PCG バイシリン G 180 万単位 分 3 第 3 期 8~12 週 間 11 解説 12 1.現在産婦人科領域において、梅毒患者(疑い例や陳旧性梅毒を含む)は、そ 13 の大半が妊婦健診や手術前検査などで STS 法が陽性を示したことから発見され、 14 第 3 期、第 4 期梅毒にまで進行してから受診する患者はまれである。その診断は、 15 パーカーインク法による直接検鏡にて梅毒スピロヘータを確認する方法と、 16
Treponema pallidum(T.p)を抗原とする TPHA 法または FTA-ABS 法定性による血清 17 診断がある。現在の日常診療における確定診断法は後者の血清診断が主流になっ 18 ているが、血清反応がまだ陽性を示さない初期硬結や硬性下疳期に行える直接検 19 鏡法も有用である1) 。一般細菌検査のような培養法による診断はできない2) 。血液 20 検体として適切なのは血清であって、血漿は不適当であり、血漿分離後に追加オ 21 ーダーで調べることはできない(例外として RPR カードテスト法のみ血漿でも検 22 査可能)。また乳糜血清や強い溶血検体も不適当である3) 。なお多くのラボでガラ 23 ス板法の検査受注を中止する方向に動いている。 24 梅毒第 1 期は梅毒トレポネーマが感染局所とその所属リンパ節に留まっている段 25 階である。第 1 期に見られる初期硬結、硬性下疳やそれに引き続く無痛性横痃、 26 第 2 期の特徴的な皮膚・粘膜所見は重要である。しかし、第 1 期の初期症状は男 27
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
15 性に比べ女性では出現頻度が低く、小さな擦過傷や裂傷として上皮がわずかに剥 1 離している程度のことが多いので注意が必要である(しかしながら感染力は非常 2 に強い)このような場合、所属リンパ節の腫脹の有無にかかわらず、梅毒を疑う。 3 また、梅毒であれば数週間後に鼠径部リンパ節の腫脹が現れることが多い(無痛 4 性横痃)。 5 第 2 期梅毒は、梅毒トレポネーマが血行性に全身に散布される時期である。第 2 6 期には梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹、梅毒性乾癬、扁平コンジローマ、梅毒性ア 7 ンギーナ、梅毒性脱毛、膿疱性梅毒疹などの多彩な所見が 3 か月~3 年にわたり混 8 在して出現する。 9 梅毒性バラ疹、丘疹性梅毒疹は全身性に、梅毒性乾癬は手掌、足底に、扁平コン 10 ジローマは肛門部、外陰部に、梅毒性アンギーナは口腔内に見られる。血清診断 11 のみでは梅毒の進行期の診断ができないので、臨床経過の確認は重要である。晩 12 期梅毒では梅毒血清反応は弱陽性、または陰性となることもある。 13 TPHA 法定性または FTA-ABS 法定性で陽性となった場合は、再び STS 法に戻って 14 定量を行う。STS 法陽性で TPHA 法または FTA-ABS 法陰性の場合は生物学的偽陽 15 性反応であり、自己免疫疾患などの検索を行う必要がある。 感染後約 4 週間は 16 梅毒血清反応(STS 法)が陽性を示さないので、感染後 4 週以内と思われる症例 17 には STS 法の再検査が必要である。STS 法に続いて FTA-ABS 法が、さらに遅れて 18 TPHA 法が陽性化する。この間約 2~3 週間である。感染のステージがこの間にあ 19 ると思われる症例に関しても同法の再検査が必要である4)。 20 無症候性梅毒は、臨床症状は認められないが梅毒血清反応が陽性を示すもので 21 ある。これには陳旧性梅毒や初感染後の無症状の時期の他に、第 1 期から第 2 期 22 への移行期、第 3 期の皮膚症状消退後の時期も含まれる。(梅毒感染後の臨床症状 23 と血清反応の典型的経過を図 1 に示す) 24 梅毒の診断が確定した場合、感染症法に基づき、無症状病原体保有者、先天梅毒 25 も含め、7 日以内に所轄の保健所を通じ都道府県知事宛てに届けなければならない 26 5)。無症状病原体保有者の場合も、陳旧性梅毒とみなされるものを除き、届けなけ 27 ればならない。なお、届け出基準は平成18年の厚生労働省健康局長通達により 28 カルジオリピンを抗原とする検査が16倍以上で無症状病原体保有者とみなされ 29 る者とされた。このほか先天梅毒や感染症死亡者の死体から検出された場合も届 30 け出義務を有する5)。 31 32 33
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
16 図 1 1 2 3 4 2.古典的にはペニシリン G(注射用ペニシリン G カリウム)の筋注であるが、 5 診療所での常備は困難であること、ショックの頻度が比較的高いなどの理由で、 6
合成経口ペニシリン(AMPC, ABPC)を 1st choice とすることを推奨する。ただし 7 神経梅毒の場合はペニシリンGが奨され、3000 万単位/日を 10 日間静注する 6)。 8 なお無症候性梅毒では臨床症状から何期に当たるかを推定しその期に準じた期間 9 投与するが、不明な場合や 1 年以上経過したと考えられる症例では 8~12 週間投 10 与する。ペニシリン系にアレルギーがある場合の治療薬を表 2 に示す。 11 3.治癒効果は STS 法定量によって判定する。定量値が 8 倍以下を継続すること 12 と、臨床症状がなくなったことで判定する。治療の目的は梅毒の病原体を死滅さ 13 せることであって、梅毒血清反応を陰性化させることではない1)。所定の治療終了 14 後 6 カ月以上して 16 倍以上を示す場合は治療が不十分であるか、再感染或いは 15 HIV の重感染例が考えられるので、HIV 検査を行った上で、再治療を行う。なお、 16 治癒判定に用いる STS 法のうちでは RPR カードテスト法が、他の 2 法よりも STS 17 抗原に対する IgM 抗体をより反映するため、同法による判定が推奨される。 18 妊婦では、経胎盤感染による児の先天梅毒を防ぐ必要がある。治療は非妊娠時に 19 準ずる。妊娠中に治療が完了した場合は、新生児の治療は必要ない。ただし、新 20 生児の血中 STS 法は4か月まで、TPHA 法、FTA-ABS 法は8か月までは検出され 21 ることに留意する。先天梅毒は母体の血清抗体価に比して、児の血清抗体価が著 22 しく高い場合、移行抗体の推移から予想される値を高く超えて持続する場合、児 23
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
17 の TPHA-IgM 抗体陽性を示し、出生時に肝脾腫、黄疸や発育不良を認める場合に 1 疑う。治療はペニシリン G の点滴静注である。先天梅毒の詳細は小児科成書に譲 2 る。 3 表 2 ペニシリン系にアレルギーがある場合の治療薬 4 アセチルスピラマイ シン* アセチルスピラマイ シン 1.2g 分 4 エリスロマイシン* EM エリスロシン 2.0g 分 4 テトラサイクリン** TC アクロマイシン 2.0g 分 4 ミノサイクリン** MINO ミノマイシン 200mg 分 2 ドキシサイクリン** DOXY ビブラマイシン 200mg 分 2 * 妊婦でペニシリンアレルギーのある場合に使用 ** 妊婦には使用し 5 ない 6 7 文献 8 9 1.日本産婦人科医会:梅毒. 感染とパートナーシップ. 研修ノート№69. 10 2002;79-83(Ⅲ) 11 2.横田健:梅毒トレポネーマと梅毒. 標準微生物学 1981;184-187 (Ⅲ) 12 3.水岡慶二:梅毒血清反応. 臨床医 1993; 19: 519-521(Ⅲ) 13 4.福岡良男:TPHA, FTA-ABS,STS その数値をどう読むか. 日本臨床 1976; 14 34: 2647-2652(Ⅲ) 15 5.伊東文行:梅毒. 感染症の診断ガイドライン 2004. 日本医師会雑誌 2004; 16 12: 216-219 17
6.Serragui S,et al.Therapie 1999;54(5):613-621(Ⅲ) 18
19
18 CQ1-06 細菌性腟症の診断と治療は? 1 2 Answer 3 1.帯下のグラム染色標本を用いた Nugent score、または帯下生食標本を用いた 4
Lactobacillary grade、または Amsel の臨床的診断基準のいずれかにより客 5 観的に診断する。(C) 6 2.治療の基本は局所療法または内服療法で、クロラムフェニコールまたはメト 7 ロニダゾールを使用する。(B) 8 9 クロラムフェニコール腟錠 クロマイ腟錠 100mg 1 回/日 6日間腟内投与 10 メトロニダゾール腟錠 フラジール腟錠 250mg 1 回/日 6日間腟内投与 11 メトロニダゾール錠 フラジール錠 250mg 2T 分 2 7日間経口投与 12 (投与期間は適宜延長。メトロニダゾール製剤は保険適用外) 13 解説 14
細菌性腟症(bacterial vaginosis : BV)とは、腟内の Latobacillus sp.が 15 減少し種々の好気性菌や嫌気性菌が異常増殖した病的状態である。従来はカンジ 16 ダ・トリコモナス・淋菌などの特定の原因微生物が検出されない非特異性腟炎と 17 呼ばれていた。BV の約半数は無症状で、局所所見では帯下は灰色・漿液性・均 18 質性である。明らかな炎症所見はなく、帯下の鏡検でも炎症細胞が少ないのが、 19 腟炎ではなく腟症と称される理由である。BV で異常増殖した病原細菌が上行す 20 ると、子宮内膜炎や卵管炎・骨盤腹膜炎などが起こる(1, 2)。また BV と性感染 21 症との関連を示す報告も多数ある(3, 4)。 22 1.診断について、Nugent score(表 1)(5)はグラム染色標本による細菌の形 23
態による診断で、BV 診断の gold standard である。しかし Gram 染色は染色法と 24 しては簡便であるが、実際の外来診療中に医師が自ら行うには手間がかかること 25 や鏡検に習熟が必要で検者間の差が見られるなどの問題がある。Lactobacillary 26 grade(表 2)(6)は帯下生食標本の鏡検により細菌の形態をみる診断法で、長桿 27 菌である Lactobacillus sp.とその他の細菌との割合で診断をつける。慣れれば 28 Lactobacillus sp.とその他の細菌との区別は容易で、その簡便さから考えても 29 非常に有用である。Amsel の診断基準(表 3)(7)は簡便で実用的であるが、客観 30 性に乏しい。 31 2.治療の基本は局所療法であり、腟洗浄と抗菌薬の使用である。治療期間は米 32 国 CDC のガイドライン(8)ではメトロニダゾールかクリンダマイシンを推奨して 33 いるが、日本で保険診療適用があるのはクロラムフェニコールのみである。ただ 34 し無症状の症例は必ずしも治療の必要はない。 35 妊婦の BV については産婦人科診療ガイドライン産科編を参照されたい。 36 37
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
19 1
表 1.Nugent score 2
Type Lactobacillus type Gardnerella type Mobiluncus type 合計 菌数/視 野 0 <1 1-4 5-30 >3 0 0 <1 1-4 5-30 >3 0 0 <1 1-4 5-30 >3 0 スコア 4 3 2 1 0 0 1 2 3 4 0 1 1 2 2 判定-合計スコア:0-3(正常群)、4-6(中間群)、7-10(BV 群) 3 4 表 2.Lactobacillary grade 5
Lactobacillus sp. only : grade I(正常群) 6
Lactobacillus sp. > others : grade IIa(中間群) 7
Lactobacillus sp. < others : grade IIb(中間群) 8
others only. : grade III(BV 群) 9 10 表 3.Amsel の診断基準 11 以下の4項目のうち少なくとも3項目が満たされた場合に、BV と診断する。 12 1.腟分泌物の性状は、薄く均一である。 13 2.腟分泌物の生食標本で、顆粒状細胞質を有する clue cell が存在する。 14 3.腟分泌物に 10%KOH を1滴加えた時に、アミン臭がする。 15 4.腟分泌物の pH が 4.5 以上である。 16 17 文献 18
1. Hillier SL, Kiviat NB, Hawes SE, Hasselquist MB, Hanssen PW, 19
Eschenbach DA, et al. Role of bacterial vaginosis-associated microorganisms 20
in endometritis. Am J Obstet Gynecol. 1996 Aug;175(2):435-41.(III) 21
2. Sweet RL. Role of bacterial vaginosis in pelvic inflammatory disease. 22
Clin Infect Dis. 1995 Jun;20 Suppl 2:S271-5.(III) 23
3. Yoshimura K, Yoshimura M, Kobayashi T, Kubo T, Hachisuga T, Kashimura 24
M. Can bacterial vaginosis help to find sexually transmitted diseases, 25
especially chlamydial cervicitis? Int J STD AIDS. 2009 26 Feb;20(2):108-11.(III) 27 4. 吉村和晃, 吉村誠, 安藤由起子, 小林とも子, 柏村正道. 【女性診療のた 28 めの感染症のすべて】 性感染症 性感染症と細菌性腟症. 産婦人科治療. 2005 29 2005.04;90(増刊):764-7.(III) 30
5. Nugent RP, Krohn MA, Hillier SL. Reliability of diagnosing bacterial 31
vaginosis is improved by a standardized method of gram stain interpretation. 32
J Clin Microbiol. 1991 Feb;29(2):297-301.(III) 33
20
6. Donders GG, Vereecken A, Dekeersmaecker A, Van Bulck B, Spitz B. Wet 1
mount microscopy reflects functional vaginal lactobacillary flora better 2
than Gram stain. J Clin Pathol. 2000 Apr;53(4):308-13.(III) 3
7. Amsel R, Totten PA, Spiegel CA, Chen KC, Eschenbach D, Holmes KK. 4
Nonspecific vaginitis. Diagnostic criteria and microbial and epidemiologic 5
associations. Am J Med. 1983 Jan;74(1):14-22.(III) 6
8. Workowski KA, Berman SM. Sexually transmitted diseases treatment 7
guidelines, 2006. MMWR Recomm Rep. 2006 Aug 4;55(RR-11):1-94.(guideline) 8
9 10
21 CQ 01-07・トリコモナス腟炎の診断と治療は? 1 2 Answer 3 1.腟分泌物の鏡検にて,腟トリコモナス原虫を確認する(B)。 4 2.鏡検法で原虫が確認できない場合には,培養法を行う(C)。 5 3.治療には尿路への感染も考慮して経口剤による全身投与を原則とし,メト 6 ロニダゾールもしくはチニダゾールを用いる(B)。 7 4.パートナーにも同時期に同様の治療(内服)を行うのが原則である(B)。 8 9 トリコモナス治療薬 10 11 解説 12 泡末状黄白色帯下の増量,腟壁の発赤や子宮腟部の溢血性点状出血などがあれ 13 ば本症を疑うが,約 10~20%は無症候性感染であるといわれている1)。腟トリコモ 14 ナスは性感染以外の感染経路があることが知られており性交経験のない女性や幼 15 児にも感染者が見られる2)。患者に説明する場合には、その点も十分考慮する必要 16 がある。 17 1.採取した腟分泌物をスライドグラス上で生理食塩水1滴と混和し,顕微鏡 18 下でトリコモナス原虫の活動を観察する方法は,最も一般的に行われている方法 19 であるが,診断率は約 60~70%である3)。 20 2.トリコモナス専用培地を用いた培養法では,その診断率は約 90%といわれて 21 いる4)。 22 3.トリコモナス腟炎の治療に使用される薬剤は5-ニトロイミダゾール系の 23 薬剤であり,メトロニダゾールとチニダゾールがあるが,前者が一般的であり, 24 経口剤による全身投与が選択される 2), 5)。腟剤による局所投与を併用することに 25 より再発率の低下が期待でき6),トリコモナス腟炎では併用されることが多い。 26 なお,パートナーとのピンポン感染を防ぐため,パートナーにも同時期に同様の 27 治療(内服)を行うのが原則である1),2)。 28 抗トリコモナス薬 商品名 1錠中含有量 使用方法 経口薬 メトロニダゾール フラジール 250mg 500mg/日,分2,10 日間 チニダゾール ハイシジン 200mg, 500mg 400mg/日,分2,7日間 2000mg,単回投与 腟錠 メトロニダゾール チニダゾール フラジール腟錠 ハイシジン腟錠 250mg 200mg 1日1錠,10-14 日間 1日1錠,7日間 トリコモナスが消失しない場 合は 1 週間あけ再投与
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
22 本邦での使用頻度が比較的少ないチニダゾールであるが,メトロニダゾールと 1 同等の治療成績が報告されており 3),6),2006 年の CDC のガイドラインでも非妊婦 2 のトリコモナス治療の選択薬に採用している。なお,チニダゾールは 2000mg の単 3 回投与が保険適応となっている。 4 ニトロイミダゾール系薬剤内服治療中の飲酒により,腹痛,嘔吐,潮紅などの 5 アンタビュース様作用が現れることがあるので,投与中および投与後3日間の飲 6 酒をさける様に指導する1),2)。また,本剤の内服投与により胎盤関門を通過して胎 7 児へ移行することが知られているので,妊娠 12 週未満の投与は行わない。 8 9 文献 10 1)日本産婦人科医会:感染とパートナーシップ,腟トリコモナス症.研修ノート 11 2002;No69:83-85(Ⅲ) 12 2)日本性感染症学会:性感染症診断・治療ガイドライン 2008,腟トリコモナス 13 症.日性感染症会誌 2008;19 (1,supple):74-76 (Guideline) 14
3)CDC: Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2006. MMWR 15
Recommendations and Reports 2006;55 (RR-11):52-54 (Guideline) 16
4)Krieger JN, Alderete JF: Trichomonas vaginalis and trichomoniasis. 17
Sexually Transmitted Diseases 3rd ed (ed by Holmes KK et al) 1999; 18
578-604, McGraw-Hill, New york (Ⅱ) 19
5)Tidwell BH, Lushbaugh WB, Laughlin MD, Cleary JD, Finley RW: A 20
double-blind placebo-controlled trial of single-dose intravaginal versus 21
single-dose oral metronidazole in the treatment of trichomonal vaginitis. 22 JID 1994; 170: 242-246(Ⅱ) 23 6)松田静治,安藤三郎,王 欣輝,川又千珠子:腟トリコモナス症の疫学的特徴 24 と臨床効果の検討.日性感染症会誌 1995;6:101-107(Ⅱ) 25 26 27
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
23 CQ1-08 カンジダ外陰腟炎の診断と治療は? 1 2 Answer 3 1 外陰部および腟内から直接検鏡にて菌体の確認、または培養(専用の簡易培地 4 を用いてもよい)によりカンジダの存在を確認し、臨床症状と併せて診断する。 5 (A) 6 2 治療は腟内を洗浄後、抗真菌薬(腟錠)を挿入する。外陰部には部位によりク 7 リームまたは軟膏を塗擦する。(A) 8 3 治療により自覚症状の消失と帯下所見の改善をみたものを治癒とする。カンジ 9 ダ菌が少量残存している場合でも上記症状、所見に改善が認められれば治癒と 10 してよい。(A) 11 解説 12
1.カンジダ外陰腟炎の原因菌の大部分は Candia albicans で、他に、Candia glabrata 13 などがある。これらは消化管や皮膚などの常在菌である。したがって、カンジダ 14 が検出されたのみでカンジダ症と診断できない。自他覚所見が出現して初めてカ 15 ンジダ症ということができる1)。カッテージチーズ様、酒粕様の特有な帯下で概ね 16 診断可能であるが、他の原因菌でも紛らわしい所見を呈する場合や混合感染であ 17 ることもあるので注意する。 18 カンジダ外陰腟炎は、上述の常在菌が菌交代現象として繁殖し、症状を発現させ 19 ることによって起こる2)。誘因としては、抗生剤服用後が最も多く、その他に妊娠、 20 糖尿病、その他消耗性疾患罹患、化学療法、免疫抑制剤投与、放射線療法、通気 21 性の悪い下着の着用、不適切な自己洗浄などがある2)3)。しかし臨床の場では、感 22 冒、過労、睡眠不足、体調不良などの後に症状が出現したと訴えてくるケースも 23 あり、因果関係を突き止めることができないことも多い。性感染症としてカンジ 24 ダ菌は女性から男性に対してはしばしば原因となるが、男性から女性への感染頻 25 度は低いとされている2)。 26 2.治療については別表に記した4)5)。腟錠は腟円蓋部になるべく深く挿入し落下 27 を防ぐ。硝酸オキシコナゾール 600mg(オキナゾール V600Ⓡ)を使用の場合、徐 28 放性に作用するが、落下により早期に腟外に放出されてしまうと効果が得られな 29 いので注意を要する。 30 外陰部には別表のクリームを塗擦する。大陰唇より外側にも炎症が波及してい 31 る場合はラノコラゾール系軟膏(アスタット軟膏Ⓡ)も有効である。患者は強い 32 掻痒感のため、外陰部を清潔に保とうと石鹸を頻用する傾向にあるが、皮膚や粘 33 膜を刺激し、炎症を悪化させることが多いため、注意を喚起する。外陰の炎症症 34 状が強い場合、クリームまたは軟膏を塗擦で症状が軽快しない場合がある。この 35 ような場合、石鹸の使用を疑うが、それでも炎症が続く場合は消炎のため weak 36 group のステロイド薬を 2~3 回併用すると治まることもある。ただし漫然と使用 37
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
24 するとカンジダの治癒を遅らせることになる。また、外陰ヘルペスの初期にも掻 1 痒感を訴えることがあるので注意すべきである。 2 カンジダ外陰膣炎の 85~95%は初回治療により治癒に至る。少数は再発を繰り返 3
す。年間 4 回以上再発を繰り返す例を recurrent vulvovaginal candidasis という。再 4 発性、治療抵抗性のカンジダ外陰腟炎では、先に述べた誘因が持続的に存在して 5 いるか否かを調べる必要性があるが、誘因不明のことも多い。再発例では C.glabrata 6 が原因菌となっていることが多いという指摘がある。C.glabrata と C.albicans では 7 治療法が異なるという報告があり、また C.glabrata の治療法は確立されていない1、 8 2)ので、初回使用薬と異なる薬剤に変えるか、投与期間を長目にしてみる。またカ 9 ンジダの主たる侵入経路である消化管における増殖を抑制する目的でアムホテリ 10 シンB(ハリゾン錠Ⓡ)の内服法もあるが、これに対しては一定の見解がない6)。 11 外国では再発例に対して、フルコナゾ-ル、イトラコナゾールの治験例が報告さ 12 れているが、日本では未承認である。これら薬剤は妊婦には禁忌である。また他 13 剤との相互作用が多いことや耐性菌の出現などの問題がある。 14 3.小児のカンジダ外陰炎はおむつの使用時期には時々見られるが、それ以降は 15 まれである。 16 17
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
25 主な処方例 1 連日投与法 一般名 商品名 用量 用法 投与期間 クロトリマゾール エンペシド膣錠Ⓡ 1個/日 6日間 硝酸ミコナゾール フロリード膣錠Ⓡ 1個/日 6日間 硝酸イソコナゾール アデスタン G100Ⓡ 1個/日 6日間 硝酸オキシコナゾー ル オキナゾール膣錠Ⓡ 1個/日 6日間 適宜延長 通院困難例 一般名 商品名 用量 用法 投与回数 硝酸イソコナゾール アデスタン G300Ⓡ 2個/回 1回 硝酸オキシコナゾー ル オキナゾール膣錠Ⓡ 1 個/回 1回 適宜追加 局所塗布剤 一般名 商品名 用量 用法 投与期間 クロトリマゾール エンペシドクリーム Ⓡ 2~3 回/日 5~7日間 ミコナゾール フロリードクリーム Ⓡ 2~3 回/日 5~7日間 硝酸イソコナゾール アデスタンクリーム Ⓡ 2~3 回/日 5~7日間 硝酸オキシコナゾー ル オキナゾールクリー ムⓇ 2~3 回/日 5~7日間 適宜延長 2 3 文献 4 5 1.久保田武美:外陰・腟真菌症と腟トリコモナス症. 産婦人科の実際, 1984; 6 33: 559-567(Ⅲ) 7 2.松田静治:外陰・腟の感染症. 産婦人科領域感染症, 医薬ジャーナル社, 8 1988(Ⅲ) 9 3.木村好秀:外陰の感染症チェックポイント真菌感染症. 産婦人科の実際, 10 1997; 46: 661-667(Ⅲ) 11 4.日本産婦人科医会:外陰・腟カンジダ症. 感染とパートナーシップ. 研修 12 ノート№69. 2002;85-87(Ⅲ) 13
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
26
5.Centers for Disease Control and Prevention. Sexually transmitted diseases 1
treatment guidelines 2006. MMWR 55(No.RR-11):1-100.2006 (Guideline) 2 6.久保田武美:治療抵抗性外陰腟真菌症. Jpn. J. Med. Mycol., 1988; 39: 213-218 3 (Ⅲ) 4 5
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
27 Q1-09 膀胱炎の診断と治療 1 2 Answer 3 1 頻尿、排尿痛、残尿感のいずれかの臨床症状・経過と尿所見で診断する。(A) 4 尿定量培養法で 105 個/ ml 以上を原因菌とする。(C) 5 2 治療はセフェム系、ぺニシリン系、ニューキノロン系抗生剤の内服を基本とす 6 る。(A) 7 3 膀胱刺激症状を呈する他の疾患も念頭におく。(B) 8 9 解説 10 女性の尿路感染症において、いわゆる膀胱炎と呼んでいる病態は、急性単純性 11 膀胱炎のことである1)。急性単純性膀胱炎は膀胱粘膜の急性炎症で、原因菌は大腸 12 菌が最も多く、次いでブドウ球菌、連鎖球菌などである。感染経路は経尿道的に 13 外部から菌が侵入する上行性感染が殆どである。 14 誘因としては尿の停滞、骨盤腔内の充血や鬱血、血尿や糖尿などの細菌の繁殖 15 に適した条件、結石・異物による機械的刺激があり、これらが複合的要因となっ 16 ておこる1)。 17 日常遭遇するケースで最も多いのは、尿意を我慢することで尿の停滞が起こり、 18 そ こ に 上 行 性 に 細 菌 が 感 染 す る 場 合 で あ る 。 性 交 後 に 起 こ る 膀 胱 炎 と し て 19 honeymoon cystitis が知られているが、性交時の骨盤腔内の充血・鬱血、尿意の我 20 慢、外陰部への物理的刺激が原因となって起こるもので、honeymoon に限らず2 21 0歳代を中心とした性的活動期に多い。性交前後の入浴やシャワー浴の他、性交 22 後の排尿により上行した(しかけた)菌を wash out するよう指導することで、発 23 症頻度を下げられる1)2)。カテーテルの挿入、留置も原因となるので注意を要する。 24 1.確定診断は尿路に感染があることを確認することであり、膿尿と細菌尿の有 25 無で判定する。膀胱底に圧痛を認めることが多く、内診は婦人科的には有用な診 26 断法である。検査法としては、1)尿中白血球排泄率の算定 2)白血球濃度の算 27 定 3)検鏡法 4)尿定量培養法 5)エステターゼ反応 6)簡易尿定量培養法 28 などが用いられる 1)3)。このうち 1)は手技が煩雑であること、2)は尿量の影響 29 を受けやすいことなどの理由であまり用いられない。3)の検鏡法は尿沈渣を顕微 30 鏡で検鏡し、多数の白血球とともに細菌、赤血球や炎症で剥離した上皮細胞を認 31 める方法である。400 倍視野で1視野に 5 個以上の白血球をカウントされれば尿路 32 感染であるとされる。しかし、ばらつきが多いのが欠点である。4)の尿定量培養 33 法では、105 個/ ml 以上を有意の細菌尿とするのが一般的であるが、頻回の排尿 34 時など条件によっては感染があるにもかかわらず 105 個/ ml 以下の場合もある。 35 5)エステラーゼ反応は簡便で迅速に行える検査法であるが、定性反応であり検診 36 などのスクリーニングに適した検査法である。 6)簡易尿定量培養法には 37
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
28 TTC(triphenyltetrazolium chloride)試験、亜硝酸塩試験、ディップスライド法などが 1 ある。このうち亜硝酸塩試験は、食物の代謝産物として尿中に排泄される硝酸塩 2 を感染で繁殖した細菌が還元して亜硝酸塩を生成する原理を利用したもので、1 3 分ほどで判定可能である。食事の内容や膀胱内の尿貯留時間の影響を受けたり、 4 ビタミン C の摂取により反応性が低下したりするため判定には注意を要する。簡 5 易検査法には限界があるが、妊婦が膀胱炎様症状を訴えて来院し、妊娠子宮によ 6 る膀胱圧迫症状か初期膀胱炎の症状かが紛らわしく、放置すれば腎盂炎に至る可 7 能性がある場合などの迅速診断には役に立つ検査である。 8 患者は市販薬や以前に処方された残薬を服用している場合もあり、臨床症状や 9 検査所見がマスクされている場合もあるので、臨床経過の聴取は欠かせない。教 10 科書的には外陰部からのコンタミネーションを防止するため、カテーテルで採尿 11 するのが原則とされているが、日常診療で全例にカテーテルで採尿することは困 12 難であり、症例の背景を十分考慮し、インフォームドコンセントのもとに症例を 13 選択して行うことが望ましい。なお、カテーテル以外で採尿する場合は中間尿を 14 用いることが重要で、出来れば採尿前に尿道口の自己消毒が望ましい。 15 2.治療はぺニシリン系、セフェム系、ニューキノロン系(妊婦における安全 16 性は確立されていない)を症状に応じて 3~5 日間投与する。ペニシリン系剤は 17 、大腸菌の 5%、肺炎桿菌の 80%以上がペニシリナーゼ産生菌であることより、 18 β-ラクタマーゼ阻害薬との合剤を処方する1)4)。 19 妊婦の場合は腎盂炎への進展を防止することが重要であるので、内服の必要性 20 を説明し、自己判断で服薬を中止することのないように指導する。38℃を超える 21 発熱があった場合は腎盂腎炎である可能性が高い。内服困難な場合や腎盂炎への 22 進展が疑われる場合は、セフェム系の点滴静注やアミノグリコシド系剤の筋注を 23 行う。アミノグリコシド系剤は腎組織への移行性に優れるが長期使用により腎毒 24 性が発現するため漫然と使うべきではない(妊婦への投与も禁忌である)。また、 25 マクロライド系は腎からの排泄が少ないため、尿路系感染症には適さない。 26 治療中は安静を保ち、多めの水分の摂取を心がけるように指導する。刺激物や 27 アルコールの摂取、性交は禁止する。抗生剤の投与により除菌されても、膀胱刺 28 激症状が残ることがある。このような場合は、抗コリン剤、フェナゾピリジン系 29 の薬で症状を和らげるが、合併症により禁忌となることもあるので注意を要する。 30 3.膀胱刺激症状を呈する他の疾患も念頭におく。腟トリコモナス症が膀胱炎様 31 症状を呈することがある。以下に代表的疾患または病因を示す。また2に示す治 32 療を行っても症状の改善を認めない場合は、基礎疾患の存在を疑う4)。 33 感染症 クラミディア頸管炎(尿道炎を合併)、腟トリコモナス症、 膀胱結核 非感染性疾患 萎縮性腟炎、骨盤臓器脱、尿道カルンクラ、間質性膀胱炎、 膀胱腫瘍、過活動膀胱
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
29 1 文献 2 1.尿路の非特異的感染症の診断と治療 新図説泌尿器科学講座 2(Ⅲ) 3
2.Stapleton A, et al; Postcoital antimicrobial prophylaxis for recurrent urinary tract 4
infection. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial. JAMA 1990; 264: 5 703-706(Ⅲ) 6 3.女性における尿路感染症 新図説泌尿器科学講座 5(Ⅲ) 7 4. 清田浩:臓器感染症の特性と抗菌化学療法―尿路感染症 日本内科学会 8 雑誌 2006; 95: 74-81(Ⅲ) 9 10 11
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
30 CQ 01-10(1) 骨盤内炎症性疾患(PID)の診断 1 2 Answer 3 以下のような基準で診断する。 4 〔必須診断基準〕(A) 5 1.下腹痛,下腹部圧痛 6 2.子宮/付属器の圧痛 7 〔付加診断基準〕(B) 8 1.体温 ≧38.0℃ 9 2.白血球増加 10 3.CRP の上昇 11 〔特異的診断基準〕(C) 12 1.経腟超音波や MRI による膿瘍像確認 13 2.ダグラス窩穿刺による膿汁の吸引 14 3.腹腔鏡による炎症の確認 15 16 解説 17 PID とは子宮頸管より上部の生殖器に発症する上行性感染で,子宮内膜炎,付属 18 器炎,卵管卵巣膿瘍,骨盤腹膜炎が含まれ1),2),骨盤内感染症とほぼ同義語として 19 使用されている。 20 PID の診断基準として,わが国では松田1)が 1989 年簡便な PID の診断基準を定 21 め,日本産科婦人科学会雑誌研修コーナーで発表し,臨床の現場では広く利用さ 22 れている(表1)。 23 一方,米国では CDC の診断基準2)が有名である(表2)。それによると若年女性 24 や性感染症既往を有するハイリスク女性が,子宮頸部移動痛や子宮圧痛または付 25 属器圧痛があれば,PID として治療を開始することを勧めている。 26 PID と鑑別を要する疾患は多いので,鑑別診断のためのフローチャートを示す 27 (図1)3)。 28 29 文献 30 1)松田静治:PID の診断と治療.日産婦誌 1989;41:N82-N85(Ⅲ) 31
2)CDC:Sexually transmitted diseases treatment guidelines, 2006. MMWR 32
Recommendations and Reports 2006;55 (RR-11): 56-61 (Guideline) 33 3)日本性感染症学会:性感染症治療ガイドライン 2008,第1部,症状とその鑑別 34 診断,7下腹痛.日性感染症会誌 2008;19(1,supple):32-34 (Guideline) 35 36 37
産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編(案)
31 表1 PID の診断基準(松田1),1989 年) 1 〔必須診断基準〕 1.下腹痛,下腹部圧痛(触診) 2.子宮付属器部圧痛(内診) 〔付加診断基準〕 1.体温≧38.0℃ 2.体温≧37.0℃ 白血球数≧8,000 3.白血球数≧10,000 4.ダグラス窩穿刺または腹腔鏡により滲出液 (混濁,漿液性,膿性など)または炎症の確認 2 表2 PID の診断基準(CDC2),2006 年) 3 4 〔必須診断基準〕 1.子宮頸部可動痛 2.子宮圧痛 3.付属器圧痛 〔付加診断基準〕 1.口腔体温>38.3℃ 2.異常な頸管や腟内の粘稠膿性帯下 3.腟分泌物の過剰な白血球数の存在 4.ESR の上昇 5.CRP の上昇 6.淋菌またはクラミジアの子宮頸部感染の存在 〔特異的診断基準〕 1.子宮内膜組織診による子宮内膜炎の組織学的根拠 2.経腟超音波や MRI により,卵管肥厚や卵管留水腫の所見が 認められた場合 3.ドップラーにより,卵管の血流増加が認められた場合 4.腹腔鏡での PID と一致した所見(卵巣卵管膿瘍の存在) 5 6 7 8 9 10