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情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report Vol.2014-CLE-13 No /5/17 組み立てることによる学習におけるログデータからの手順分析 単文統合型作問課題における第 1 選択単文の分析 林雄介 ヌルハサナ 平嶋宗 タブレットコンピュータ上で

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組み立てることによる学習における

ログデータからの手順分析

〜単文統合型作問課題における第1選択単文の分析〜

林 雄介

ヌル ハサナ

平嶋 宗

† タブレットコンピュータ上で算数文章題の作問学習を行う環境としてモンサクンというソフトウェアが開発され ている.このシステムは学習者に文章題を作成させる際に自由な記述ではなく,単文統合型作問課題という,提供さ れた単文の中から3つの単文を選択し順序を決定させる方法によって文章題を作成させる.本研究では,単文統合型 作問演習における単文選択プロセスから作問プロセスを分析し,作問プロセスのモデルを精緻化し,個人適応的な支 援を行うことを目指している.本稿ではその最初のステップとして,学習者が各課題で最初に選択する単文を分析し, (1) 解法の違い,(2) 物語の違い,(3) 課題実施経験の違いの 3 つによって異なることが分かった.

Process Analysis from Log Data of Learning by Constructing

- Analysis of First Selected Sentence in Sentence Integration -

YUSUKE HAYASHI

NUR HASANAH

TSUKASA HIRASHIMA

† MONSAKUN is a tablet PC-based software for learning by posing arithmetical word problems where several sentences are integrated to pose a problem by a learner. This type of problem-posing is called “sentence integration”. This study analyzes users’ problem-posing process as the selection process of the sentences from data collected in the past experimental use. As the first step of this analysis, we found that the first sentence selected in the process were different in (1) type of solution, (2) type of story and (3) exercise experience. These results are important findings to elaborate process model of the problem-posing and adaptive support of the process.

1. は じ め に 【 *の 文 字 書 式 「 隠 し 文 字 」】

教育において学習対象の理解を深め,確認するための活 動として一般的に問題解決演習が行われている.問題解決 演習では学習者にとって既知の解法を適用することで解決 可能であることが前提であり,既知の解法と与えられた問 題とのマッチングが大きな課題となる.そして,当てはめ て解が得られてしまえば,なぜその解法が有効かを十分に 理解していなくても解けた,その問題で扱っている内容を 理解していると判断できてしまう.これに対して,問題を 解くのでは無く,問題を作ることが教育的に意義があるこ とも古くから知られている[1].ある解法で解ける問題を作 るためには,その解法が適用可能な問題の性質を十分に知 っている必要があり,そうでなければ不適切な問題が容易 にできてしまう.このような理由から問題を作る演習(以 下,作問演習)は問題解決演習よりも難易度が高いが,よ り高い学習効果が見込めるとされている[2].本研究が対象 としている算数の分野でも作問演習についての研究が行わ れ,その効果が示されている[3, 4].しかし,学習者,教授 者共に非常に負担の掛かる作業であるために,従来は実用 的な実施が困難とされてきた. そのような作問学習を授業などで行えるようにするた めの学習支援システムとしてモンサクンが開発されている † 広島大学大学院工学研究科

Graduate school of engineering, Hiroshima university

[5].これは小学校 1~2年生レベルの 2 項演算の加減算を 対象としたシステムで,学習者が作成した文章題を評価し て正誤や誤りに関するフィードバックを返す.この判定や フィードバックを可能にしているのが,モンサクン上では 作問が自由にできるのでは無く,学習者は提供された単文 を組み合わせて文章題を作る演習形式となっているからで ある.つまり,自由に文章題を構成するのではなく,部品 を与え,それで組み立てさせることで演習を実施する. 図1にモンサクンの動作画面を示している.学習者は右 側に配置されている単文を3 つ選び,課題の要求に合った 問題を組み立てる,各単文にはオブジェクトやその数量な どが含まれている.例えば,「りんごが5こあります」や「り んごを3こたべました」などである.提示される単文には 正解に使われる以外のものも含まれており,この中から要 求を満たす組み合わせを見つけることがモンサクンでの作 問の重要なタスクとなる.現状のモンサクンでは,学習者 に提示される単文は6 つであり,その組み合わせは 2 項演 算を対象とした文章題の解決の際の解候補の組み合わせよ りもかなり多くなり,試行錯誤的に行うことは難しい.こ のような提示された単文の中から学習者が3 つの単文を選 んで並べることで,要求された式を満たす文章題を作る形 式の作問演習を平嶋らは「単文統合型作問演習」とよんで いる.

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モンサクンでは学習者は問題を作成することを求めら れるが,その目標は作問できるようになることではなく, 問題の構造を理解するということである.ここでの問題の 構造とは文章と数式がどう関係しているかということであ り,この構造の原理が分かれば文章題を解くことも作るこ ともできると言える.このモンサクンは,実際に小学校で の授業での実践的利用が多く行われており,問題の解決と 作成の両方に効果があると同時に,問題の識別能力の向上 といった効果も報告されている[6].また,Android タブレ ット上で動作するため,コンピュータ室などの特殊な教室 で無くても,通常の教室で利用することができ,日常的な 授業の中での利用の実績もある[7]. 本研究の目的は,上記のような実験的,実践的利用を通 じて得られたデータを元に,単文統合型作問演習における 単文選択プロセスから作問プロセスを分析し,作問プロセ スのモデルを精緻化し,個人適応的な支援を行うことであ る.これまでの筆者らによるモンサクンの実践的利用の観 察から,学習者は決してランダムに単文を選択して並べて いるのでは無く,何らかの考えを持って行っているように 思われる.また,理解の違いに応じて異なった思考をして いるように思われる.本研究では,大学生が利用した際に 取得したモンサクンのログデータにある単文選択プロセス を分析し,文章題をきちんと解ける人が行う作問プロセス の特徴を抽出する.これはそのような作問プロセスのモデ ルを構築し,それを基準として個々の学習者の作問プロセ スと比較することで個別対応可能なフィードバックを行う ための判断が可能になるからである. 分析においては学習者が作った問題の正誤や誤りの種 類を調べるのでは無く,問題を作るプロセスを通じて学習 者の理解とそれに基づく思考の違いに注目する.単文統合 型作問演習では,前述のように,文の組合せで問題を作成 する.学習者は課題として,問題に関係する数式といくつ かの文が与えられる.自由な作問ではともすれば頭の中だ けで思考が進められ,作問途中の行為を観察することは難 しく,その背後にある思考を推定するための情報を得にく い.一方,モンサクンでは単文の選択として作問時のプロ セスをトレースすることができる.本研究では,これを学 習者の思考を推定するための情報として利用する.つまり, モンサクンのログデータとして得られた単文統合型作問演 習における単文選択プロセスを分析することで,学習者の 作問時の思考を調査する.そして,学習者はランダムに文 を選択しているのか,何らかの思考を持って選択している のかを明らかにすることを目指す.その最初のステップと して,本稿では学習者が各課題で一番最初に選択するカー ドに注目し,その傾向を分析する. 本稿は以下のような構成になっている.次節では,単文 統合型作問課題での文章題の定義と解法について説明する. 第3 節では,各課題における最初に選択されるカードの分 析結果とそれに基づく学習者の思考に関する考察を行う. 最後に第4 節でまとめと今後の課題について述べる.

2. 単 文 統 合 型 作 問 課 題 に お け る 問 題 の 分 類

ここでは単文統合型作問課題における文章題の定式 化とそれに基づく解法の違いを整理する. 2.1 加 減 算 に 関 す る 文 章 題 の 分 類 加減算に関する文章題には、物語の違いによって合併, 増加,減少,比較の4 種類に分類されている[8].単文統合 型作問演習では,これらを組み合わせる単文の違いによっ て表現する.単文の種類として,まず存在文と関係文とよ ばれる2 種類を定義している.存在文は単一種類のオブジ ェクトとその個数を表すものであり,「りんごが5こありま す」や「あめを3こもっています」といったものである. 図1 モンサクンの画面

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関係文は2 種類のオブジェクト間の数量関係や 1 種類のオ ブジェクトの数量の時間変化を表すもので,例えば,合併 なら「りんごとみかんがあわせて8こあります」や増加な ら「りんごを3こもらいました」といった単文になる.こ れらは物語の種類に応じて決まり,他の種類の物語では利 用できないのに対して,存在文は物語の種類には依存しな い.二項演算で計算できる文章題は,2つの存在文と1 つ の関係文の組み合わせ,いずれかの文の数値を未知とする ことで表現できる.例えば増加の問題であれば,以下の文 の組み合わせで作ることができる. 1. りんごが5こあります(存在文) 2. りんごを3こもらいました(関係文) 3. りんごが?こあります(存在文) このように文章題を単文の組み合わせとして定式化す ることによって,文章題の構造を明確にすると共に,診断 とフィードバックに関する処理を計算機上で実行すること が可能となる. 2.2 文 章 題 の 解 法 文章題を解くということは,文章から数量関係を導き未 知数を求めることである.一つの文章題から導ける数量関 係を表す数式には2 種類ある.それを問題式と求答式とよ んでいる.問題式は物語の流れに沿った式であり,例えば, 上記の例では5+3=?となる.一方,求答式は未知数を 求めるための式で,上記の例では問題式と同様に5+3 =?となる.このような問題は順思考問題とよばれている. しかし,問題式と求答式が異なることもある.例えば, 以下のような文章題を考える. 1. りんごが5こあります(存在文) 2. りんごを?こもらいました(関係文) 3. りんごが8こあります(存在文) この場合,問題式は5+?=8,求答式は8−5=?で あり,異なったものとなる.このように式が異なる場合は, 逆思考問題とよばれ,解くことが難しいと言われている[9]. これは,求答式が物語の時系列とは逆になる,物語の種類 から想定されるのと逆の演算子を使う(増加の問題なのに 減算をする,減少の問題なのに加算をするなど)といった ことになるためである.

3. モ ン サ ク ン の ロ グ デ ー タ の 分 析

3.1 実 験 形 式 ここでは,A 大学の教育系学部の 11 名の学生によるモン サクンの利用データを分析した結果を述べる.モンサクン は小学校1,2 年生を対象としたものであるが,今回はモン サクンの利用中の思考の変化を捉えるために大学生が利用 して得られたデータを利用した.大学生を被験者として利 用した理由は,大学生にとっては加減算に関する文章題は 既習項目であり,構造を明示的または暗黙的に既に理解し, 順思考問題も逆思考問題を解くこともできる点にある.小 学生はモンサクンの利用を通じて,文章題の構造を学びな がら解くことや作ることができるようになっていくと考え られる.モンサクンの利用を通じて小学生が学習すること は,構造事態を学ぶこととそれを作問に適用できるように することの二つである.これが一つ一つの課題で両方が 徐々に進められていると考えられ,分離することは難しい. また,作成した問題が間違っている場合に構造の理解の間 違いなのか,それを作問に適用できないのかが判断できな い. 今回の分析では,加減算に関する文章題が解ける人は, その構造を明示的または暗黙的に既に理解していると仮定 し,どのように作問するかを明らかにすることを目的とす る.そのような人が対象の場合でも,一般に作問の経験は が変化があるのは単文統合型作問に既に持ってる知識を適 応させることと言える.よって,大学生を被験者とするこ とによって,構造の理解と作問の対応付けが 本研究の目的は学習者の思考プロセスを推定するため の最初のステップとして,学習者が最初に選ぶ文を分析す ることである.今回はモンサクンの課題レベルとして6 レ ベルある内のレベル1とレベル5 でのログデータに基づく 分析を行う.レベル1は順思考問題を扱うものであり,レ ベル4 までは順思考問題のみで構成されている.一方,レ ベル5 は逆思考問題のみで構成されている.そして,最後 のレベル6 は順思考と逆思考の問題をランダムに提供する ものとなる.レベル1とレベル5 のデータを分析すること によって,順思考と逆思考の作問を行う際の構造を理解し た上での作問活動を調べることができると考えている.ま た,各レベルでは12 の課題が設定されており,合併,増加, 減少,比較の4 種類の物語がそれぞれ 3 つずつ含まれてい 表1 レベル1 とレベル 5 における最初に選択された文の分布 最初に選択された文の種類 レベル1 (%) Level 5 (%) 第1 数の単文 91.8 58.7 第2 数の単文 3.3 16.5 第3 数の単文 4.9 24.8

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る. 3.2 順 思 考 問 題 と 逆 思 考 問 題 で の 傾 向 の 分 析 モンサクンの各課題では,要求される数式に含まれる数 値を使った単文を提示する.例えば,課題が「5−3でけい さんできるあわせていくつのおはなしをつくろう」であれ ば,数式は5−3(=?)であり5と3,そして未知数を? として表した文が6 種類提示される.まず最初に,分析す るに当たって,カードは各課題でそれぞれ異なったものと なるために,共通して特徴付けるために数式と対応させて 分類する.ここでは,課題で提示される数式の何番目の数 値を含んでいるかだけで単文を区別する.例えば,1 番目 の数値を持った単文であれば,「第1 数の単文」となる.上 記の課題の例では,第1 数の単文は5,第 2 数の単文は3, 第3 数の単文は?を含む. 表1 にレベル 1 と 5 でそれぞれ,被験者が最初に選んだ 単文が第1数から第3数の単文のどれであったかを集計し た結果を示す.レベル1 では第 1 数の単文が圧倒的に多い 一方で,レベル5 では第 1 数が多いのは変わらないが,第 2 数と第 3 数の割合も増えており傾向が変わっている.ま ずここから言えることは,被験者はランダムに単文を選ん でいるわけでは無いと考えられることである.また,レベ ル1 とレベル 5 では考え方に変化があるとも考えられる. レベル1 では作問するに当たって,課題で示される数式は 問題式であり,その順番通りの数字を持った単文を選ぶこ とによって,物語として筋が通って正解となる問題を作成 することができる.よって,第1 数の単文が最初に選ばれ るのが当然であると考えられる.しかし,レベル5 では提 示される数式は求答式であり,その数値の順序に合わせて 物語として筋が通る単文を並べても正解とはならない.こ のことが影響してレベル5 では単純に第 1 数の単文を選ぶ ということが減少していると考えられる.次節ではこの仮 説に基づいて,レベル5 での最初に選択される単文につい てより詳細に分析する. 3.3 逆 思 考 問 題 の よ り 詳 細 な 分 析 ここでは,レベル5 において被験者が最初に選択した単 文がどのようなものなのかをより詳細に分析する.前節で は課題で提示される数式の中の数値の順番にのみ注目して いたが,それに加えて存在文か関係文のどちらかであるか を加えて,各課題毎に傾向を分析した. 表2 に分析結果を示す.ここでは,レベル 5 の各課題で 最初に選ばれた文の中で二項検定によって有意差もしくは 有意傾向があったものだけ取り上げている.この結果から, 被験者には以下のような傾向があると言える. (1) 物語の種類に関わらず最初の課題はレベル 1 と同様 に第1 数の文を選択している被験者が多い. (2) 各物語種類毎に 2 つ目の課題以降は一定の種類の文 が多く選ばれる. 前述のように,レベル5 の課題はレベル 1 の課題と同様 にしても要求にあった文章題を作成できない.提示されて いる数式は逆思考問題の求答式であり,そのままでは物語 の流れに合わないからである.しかし,レベル4 まではそ の方法で間違い無く要求される文章題を作ることができる ために,まずは基本方針として第1 数を持つ文を選択して いるようである.ただし,物語種類が比較の場合には特に 有意に選ばれる文が無い.また,増加の場合には2 つ目,3 つ目の課題に関しては,有意傾向しか無いことに加えて 3 つ目の課題では1 つ目の課題と同じように第 1 数を持つ存 在文が選択されている. この結果から,被験者が課題を進めていく中で考え方を 変えたと思われることについて,次の二つのことが考察で 表2 レベル5の分析結果 レベル内での 課題番号 物語種類 物語種類内の 課題番号 最初に選択された 文に含まれる数 最初に選択された 文の種類 p 値 1 1 第1 数 存在文 7.05*10-5 ** 2 合併 2 第1 数 関係文 1.88*10-7 ** 3 3 第1 数 関係文 1.97*10-3 ** 4 1 第1 数 存在文 1.89*10-5 ** 5 増加 2 第2 数 存在文 0.0504 + 6 3 第1 数 存在文 0.0504 + 7 1 第1 数 存在文 2.35*10-4 ** 8 減少 2 第3 数 存在文 2.35*10-4 ** 9 3 第3 数 存在文 2.35*10-4 ** 10 1 - - - 11 比較 2 第2 数 関係文 0.0266 * 12 3 第2 数 関係文 0.0266 * **: p<.01, *: p<.05, +: p<.1

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きる.一つ目の考察は,被験者は各物語種類の最初の課題 を通じて,課題の要求と問題の構造を対応付け,2 つ目の 課題以降は考え方を修正したために,各物語種類で2 つ目 の課題以降は選ばれる文に有意差または有意傾向が生じた と考えられる.2 つ目の考察は,この変化は被験者達がよ り早く正しい文章題を作成することに繋がっていると考え られることである.表3 には各物語種類において,1 つ目 の課題と残りの2 つ課題での被験者が文を選択して回答に 含めたもしくは回答から外した操作回数と,被験者が3 つ の文を選択した際に間違っていた誤り回数の平均を提示し ている.操作回数については,すべての物語種類において 減少している.また,間違いについても比較を除いて減少 している.被験者らは,一つ目の課題を通じて逆思考問題 を作成するときに求答式が提示された場合の作問について, 既に理解している文章題の構造と要求を合致させるための 方法に気がつき,それを実践したのでは無いかと考える. ここでは,レベル5 において被験者が最初に選択した単 文がどのようなものなのかをより詳細に分析する.前節で は課題で提示される数式の中の数値の順番にのみ注目して いたが,それに加えて存在文か関係文のどちらかであるか を加えて,各課題毎に傾向を分析した. 表2 に分析結果を示す.ここでは,レベル 5 の各課題に おいて各文について最初に選ばれた頻度とその種類の文の 課題内の割合で二項検定を行い,有意差もしくは有意傾向 があったものだけ取り上げている.この結果から,被験者 には以下のような傾向があると言える. (1) 物語の種類に関わらず最初の課題はレベル 1 と同様 に第1 数の文を選択している被験者が多い. (2) 各物語種類毎に 2 つ目の課題以降は一定の種類の文 が多く選ばれる. 前述のように,レベル5 の課題はレベル 1 の課題と同様 にしても要求にあった文章題を作成できない.提示されて いる数式は逆思考問題の求答式であり,そのままでは物語 の流れに合わないからである.しかし,レベル4 まではそ の方法で間違い無く要求される文章題を作ることができる ために,まずは基本方針として第1 数を持つ文を選択して いるようである.ただし,物語種類が比較の場合には特に 有意に選ばれる文が無い.また,増加の場合には2 つ目,3 つ目の課題に関しては,有意傾向しか無いことに加えて 3 つ目の課題では1 つ目の課題と同じように第 1 数を持つ存 在文が選択されている. この結果から,被験者が課題を進めていく中で考え方を 変えたと思われることについて,次の二つのことが考察で きる.一つ目の考察は,被験者は各物語種類の最初の課題 を通じて,課題の要求と問題の構造を対応付け,2 つ目の 課題以降は考え方を修正したために,各物語種類で2 つ目 の課題以降は選ばれる文に有意差または有意傾向が生じた と考えられる.二つ目の考察は,この変化は被験者達がよ り早く正しい文章題を作成することに繋がっていると考え られることである.表3 には各物語種類に対して正解に到 達するまでの単文の操作回数の平均を示している.ここで, 操作回数とは,被験者が文を選択して回答に含めた,もし くは回答から外した回数である.間違い無く回答して正解 した場合はこの回数が3 となる.それ以上の回数であれば, 学習者が間違った問題を作りシステムや自分の診断結果に 基づいて作り直しているということになる.これについて, 1 つ目の課題と残りの 2 つ課題で分けて平均値を示してい る.操作回数はすべての物語種類で減少している.ただし, 最初の課題とそれ以降については増加において最初と2 つ 目の課題との間にしか有意差は得られなかった.よって, 表2 で示した 1 つ目の課題とそれ以降での最初の選択の差 によって正解に到達しやすくなったとは言えない.また,1 番目の課題から2 番目の課題ではステップ数が減少してい るが,2 番目から 3 番目ではまた増加している.この原因 を明らかにについては更なるデータの収集と分析が必要と 考えられる.

4. お わ り に

本稿では,大学生がモンサクンを試験的に利用した際の ログデータを使って,彼らの思考がどう変わったのかを各 課題で最初に選択されるカードに注目することによって分 析した.その結果から,作成が要求される問題の性質によ って,被験者が最初に選択する文の種類が異なることが分 かった.順思考問題では,物語の種類に関わらず,要求さ れる式の最初の数字を含む文が有意に多く選ばれていた. 一方,逆思考問題では,物語の種類に応じて有意に多く選 ばれる文が異なっていた.このことから,本研究の最初で 仮定した単文統合型作問演習においてランダムでは無く, 表3 正解に到達するまでのステップ数の平均の変化 物語の種類 正解に到達するまでのステップ数の平均 最初の課題 2 番目の課題 3 番目の課題 合併 11.6 3.73 4.72 増加 45.5 12.9 20.1 減少 24.9 10.9 21.7 比較 10.0 6.64 12.9

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なんらかの考え方に基づいて文が選択され,文章題が作ら れることが分かった.また,考え方の傾向は求められる文 章題の性質に影響を受け,それが最初に選択する単文に現 れるということが示唆されている.このようなことを明ら かにすることによって,作問プロセスから学習者の理解を 確認することが可能であると考えられる. 今後の課題としては,データの分解能を上げて傾向につ いてより詳細な分析を行う事,本稿で示した大学生を被験 者として得られた傾向と同じような傾向がモンサクンの実 際の利用対象者である小学生においてもあるのかについて 検証することが挙げられる. 今回の分析では,課題で要求される問題式または求答式 の中の数値の順番と存在文,関係文という文の種類のみで 分析したが,問題式と求答式のそれぞれで区別して数値の 順番との関係,正解に含まれる文かどうか,数値の大小な ど他にもパラメータとして設定できるものがある.これら を考慮することで,より詳細な分析と傾向の抽出を行う. また,小学生のデータでも同様の分析を行い,理解した 後のプロセスだけでは無く,学習途中におけるプロセスの 変化についても検討していきたい.

参 考 文 献

1) Polya, G.: How to solve it: A new aspect of mathematical method, Princeton University Press (1957)

2) 平嶋宗:学習課題の内容分析とそれに基づく学習支援システ ムの設計・開発:算数を事例として,教育システム情報学会誌, Vol.30, No.1, pp.8-19 (2013)

3) Ellerton, N.F.: Children’s Made Up Mathematics Problems: A New Perspective on Talented Mathematicians. Educational Studies in Mathematics, Vol.17, 261-271 (1986)

4) Silver, E.A., Cai, J.: An Analysis of Arithmetic Problem Posing by Middle School Students, Journal of Research in Mathematics Education, vol.27, No.5, 521-539 (1996) 5) 横山 琢郎,平嶋 宗,岡本 真彦,竹内 章, "単文統合 としての 作問を対象とした学習支援システムの設計・開 発",教育システム 情報学会誌,Vol.23,No.4,pp.166-175 (2006). 6) 横山 琢郎,平嶋 宗,岡本 真彦,竹内 章, "単文統合 による作 問を対象とした学習支援システムの長期的利用とその効果",日本 教育工学会論文誌,Vol.30,No.4, pp.333-341(2007) 7) 山元翔,神戸健寛,吉田祐太,前田一誠,平嶋宗,"教室授業 との融合を目的とした単文統合型作問学習支援システムモンサク ンTouch の開発と実践利用", 電子情報通信学会論文誌 D, Vol.J96-D, No.10, pp.2440-2451(2013)

8) Riley, M.S., Greeno, J.G., Heller J.I.: Development of Children’s Problem-Solving Ability in Arithmetic. The Development of Mathematical Thinking, Ginsburg H. (ed.), Academic Press, 153-196 (1983)

9) 平井 安久:加法・減法の逆思考問題についての一考 察~テー プ図からの演算決定の難しさ~,岡山大学 教師教育開発センター 紀要, pp. 102-111, (2012).

参照

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