Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
伝 統 的
工
芸
品
の
産
地
か
ら
Field
Report
from
aTraditional
Craft
Region
向平 節
石
川 県立 山中漆器産業技術
セ ンター
MUKAIHIRA
Misao
Foundation
ofYamanaka
Lacquerware
Technical
Center
1 .
は じ めに私は
、
地 元 高 校 卒、
民 間会社事
務を経て結 婚し、
出 産、
育 児を経て、
1974 年に、
現 在の職 場石川県立 山 中漆器産 業技術セ ン ター
の前 身である山 中 町漆 器 研 究 所事 務 職に就 きま し た。山 中町漆 器 研 究 所で は
、事
務職と は名
ばか り、
山 中 漆 器 業 界の 窓口 と して情 報の 調査提 供に は じ ま り、
食 品衛生法の 自主検 査、
ス ク リー
ン印 刷のた め の ポ ジづ く り、
情 報 誌 編 集、
後 継 者 育 成 事 業な ど、
ま さ に何 で も屋の 半生を 歩ん で きた と言っ て よい で しょ う。 資 格 無し、 師は山 中 漆 器の職人 さ ん た ち、
27 年間作 り手の方と対 座しなが ら職を歩ん で き ま し た。 「主婦を忘れず」が夫か ら与え ら れ た唯.
一
の資 格とい えば資格
です。
本 稿では、
伝 統 的T
一
芸 品 山 中 漆 器の産 地 にい て、
主 婦である私が一
職 員と してか か わりを もっ た事 例 をご紹 介させ てい ただきたい と思い ます。2 .
山 中 漆 器 産 業技 術センター
の役 割 山 中漆器 産 業の人材 育成・
産業振興の 中核施 設 と し て 石 川県立 山 中漆器 産 業技 術センター
が開設して5
年 目 を 迎えようと してい ます。 併せ て全国 に公募して挽 物 轆 轤 技 術 研 修生 を受
け 入 れ、
基 礎・
専 門各
コー
ス2
ヶ年の技術 者 養成を行っ てい ます。 木工芸挽 物で初 の人 間 国宝・
川 北良造所 長をは じ め とする諸 先生方が指導
さ れ る挽 物 技 術は、
山 中漆 器の 最 も特徴 とすると こ ろ で、
挽 物轆 轤 技術 研 修生の受
け入れ は その技術を 保 存し、
伝 えてい く目的 もあ ります。 既 に 専 門コー
ス で は二期 生 が巣 立 ち、
昨 年6
月に は一
期生 が都 内で なか ま展を開 催 し ま した。 これ は 石 川県が平 成11 (
1999
) 年 か ら取 り組ん でい る石 川 の 伝 統工芸 品 を全国に発 信 す る拠 点と し て都 内で借 り上げた ギャ ラ リー
で行
っ た もの です。
将 来 産 地 を 担 う若 手 作 り手たちの育 成 と、
伝 統 的技 法を用い な が ら、
現 代の暮ら しにもなじむ石川の伝 統 的工芸 品 をさま ざ まな角 度か ら提 案・
発 信 し よう
とする石 川 県の この 試みは、
長 く産 地 職 人と して作 り手にある 立 場の 人達に、今
ざわ ざわ と個 性 ある物 作 りへ の挑 戦を芽生 え させてい る ように思えま す。 私の勤 務 する こ の セ ン ター
の前 身は山中 町漆 器研 究 所で昭和32
(1957 )年に設立 されてい ます。 そしてま た明 治代より、
名 称を変えな が らも、
山中漆器の 産 業 振興と技術者
養 成の た め に指導
的機関 が常に存 在して い ま した。 そ れ ら は 社会の需 要 に合わせな が ら、
技術 の継 承・
練磨であっ たり、 デザ インの研修、 製 作 器 具 の 開発、
原材料
の調 査 確保 など、
常に産 地業界
と直結 し、 伝 統 的工芸品 に携わ る職人 さん たちの情報
交換
の 場と して現 在に至っ てい る ように思い ます。
セン ター
は山 中漆 器を展 示 販 売してい る山 中漆 器 伝 統 産 業 会 館 と併設 になっ てい る の で、
職 人さんた ち は、
セン ター
に納品 に来ると、
お茶 を飲み な が ら 他の職人 さん の作品 を手に取っ て観察 し た り、
お しゃべ りをして帰 り ます。 そんな さ さい なこ と が、
個 人で お仕事
を され てい る職 人さ んた ちにとっ て の 小 さ な情 報 交 換の 場に なっ て い る ようです。3 .
共 同の物 作り か ら学ぶ こ と 山中漆 器 業 界に は数々の組 合があ ります。 消 費 地 問屋 と結び付 く商人の 組合、素
地・
下 地・
塗 り・
加 飾な どの作り手
た ち 工部の 同種の組 合、
そ れ らすべ て を束 ねる連 合 組 合 など。 行政 との対応 も含め数々 の事業
を行
っ てい ます。
デザイ ナー
を招い ての研修
事 業もずい ぶ ん数を 重 ねて きてい ます。 県の工業 試 験 場の指 導 事 業 も含め れ ば、 業 界へ の影 響は計 り知 れ ない で しょう
。 過 去に10
年 くらい 続 けて山 中漆 器の 総 合 見本 市な る もの が 開催 さ れたこと が あ り ます。
消 費地 問 屋 を 招 待し、各
店舗を出して商取 引をする もの です。 そ の際、
イベ ン トの テー
マ の中で、各
工程の職人 さ ん 達の共 同の もの づ く りは トピックのひ とつ です。20 SPECIAL IssuE oF JssD vol
.
8 No.
2 2001 デ ザイン学 研 究 特 纂 号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
図 1 共 同 制 作の作 品
・
1600枚の銘々皿か ら な る 紅 白梅 図屏風完 成品 (現在、
ゆけむり健 康 村に展示。
写真は1990年 総 合 見 本 市に て) 図2
1600 枚の銘々皿 か らな る 紅白梅 図 屏 風 制作 風 景 (現 在、
ゆけむり健 康 村に展示。
写真は1990年総合見本 市 に て ) こ の共同で のものづ く り は、 .
.
一
年近 くの時 間を か け行わ れ ま した。 コー
ディネー
ター
は商人、 と き に は 外部の デ ザイ ナー、
作り 手 は 地 元の 職人 さ ん た ち です。
制作の 段 階で は、
あ一
だこ一
だと 意 見 が 分 か れるこ と も しばしばです。
山 中 漆 器 は家庭 内での 作 業が ほ と ん どです。
日 頃、
個 人 作業で椀 や 棗の制 作 を してい る職人 さ ん た ち が 大 き な 作品に取り組ん だ りするわけですから、
意 見が分か れる の も無埋はあ りま せ ん。
し か し、
な ぜ か その うちに統率 する人 が 自然に出てきて作品が 完 成して い きま す。
そ れ ら 1989年総 合 見本 市に て) 写真は 1989年総 合見本市 に て )デ ザ イ ン学 研 究 特 集 号 SPECIAL 「SSUE OF JSSD Vol
.
8 No,
2 200121Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
見」の 緊 張 のひと と き
。
な が ら。 月見の宴。
秋の味 覚が豪快に鉢に盛ら れ る。
は、 共 通の 目的のも とに、 共 同作
業を通 して、
それぞ
れの知 恵と産 業に対 する思い、
互い の技 術の結 晶 とし て生み出され る もの です,, 作品の い くつ か が、
現在、
山 中 町の施
設の 中に展 示さ れ、 そ れ ら が漆の 町 を表
現 してお りますが、
作品 を見ると、
改め て深 い 感 動と敬 意を覚え ます。 しか も、
現 在、
山 中 漆 器をしっ か り と担っ てい る メンバー
を見渡
す と、
こ の作
品の制 作 当 時、
深 夜ま で制作に関わっ て きた人 達だ というこ とに気づか さ れます。「仲間 にい れて も らっ て良かっ た」
「い い 勉 強になっ た」と、 後か ら職 人 さん達の声 を 聞 き ま し た。 知 らず 知らずの うちに
、
デ ザ イン につ い て も、
技 術につ い ても実践 を通 して学ばれ た と言うこ とで しょ うか。い ま
、
漆の現 場は、 小さい ものか ら、 大 きい も の、 手 元で使 う ものか ら、
イ ンテ リアと多岐 に 亘っ てい ます。 それ ら変 化する対象
に対応 して い く力 は、
この ときに共同での もの づ くりで養わ れ た部分 も大 きか っ たの で はない か と、
現 在 も厳 しい時 世の 中で頑 張っ てい る職人 さ ん たち を見 て感
じ ま す。4 .
これからの作り手 と なる若 者に向け て現在
、
セ ン ター
に はさ ま ざ ま な分野の研 修生 が学 ん でい ます。
挽 物 技術 研修 部門に学んで い るの は、
地 元 も含
め東北・
関 東・
関西方面 な ど か らの研 修生16
名、
産 業 振 興 部 門に学んでい る の は、
主に業 界対 象の夜 間 を 中心に した研 修 生30 名余
です。 昭和50
(五975
) 年に、 山 中漆 器が伝 統 的工芸 品 産 地と して の認 定 を受け、
後 継 者 育 成と し て継 続し て続け てき た技 術研修も満
26 歳とな り ま した。しか し
、
こ こへ きて若い 人 た ち を見て ふ と気 付 く こ と が あ ります。 それ は、
文 明の利 器によっ て伝 統 的工芸 品が生 活のなかか ら消 えてい くとい う危惧
の 念です。 挽 物 を や り たい、
漆でもの づ くりを し たい と希 望して や っ て くる若 者た ち が、
ナ ン トそ れ らの ものを日頃 使っ てい ない 。 そんな 馬 鹿な…
。22 sPECIAL ISSUE oF JSsD Vol
.
8 No.
2 200t デ ザ イ ン学研究特集号Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service Japanese Sooiety for the Soienoe of Design
みる。 う意 匠になっている。 コ ン ビニ で 求め たお 握 りに ば くつ く
、
菓 子は袋の 中に手
を 突っ 込んで食
べ る。
カ ッ プ 麺 しか り。
これ はい けない 。 ど こ か お か しい 。 そ こ で、
い ただき物があると、
拭 き漆 仕上 げの菓 子鉢
に 盛 り付
け て研 修生 た ちの談 話 室に届け る。 時 には試 験 用の椀に味 噌 汁を作っ て食しても らうとい うことをする ことも多々あ ります。そろそろ卒
業式
です。 専 門を学ぶ研 修生 には茶 道が 必修
になっ てお り、
そこで卒業茶
会 が催
さ れ ます。
昨 年か ら は、
すで に卒 業し た先輩の作 品を使っ た茶 会に する ことに しました。 今 年 も先 輩たちの作 品である食籠、
棗、
菓 子重、
水差しが使
わ れ ます (図5
)
。5 .
「月 見の宴」 産 地で作られてい るもの が どの 様に使わ れてい る か、
何 を盛 り付 けてもらい たい か、
作る 現場で使っ てみ たい 。 そ ん な 思い か ら.
.
一
昨 年は郷土料理家に ご 協 力を頂い て、
料 理を作っ て手 持 ちの器に盛 り付 け 食 する会 を開い てみ ました。 次い で 昨年9
月、
TALK
、
(食空間と生活文 化ラ ウ ン ドテー
ブ ル) 会貝の方々 が 山中漆 器、
九谷 焼の産 地 へ 研 修に集われ る機 会に合わせ て業界
の 奥 様 方 を誘 い、
そ れ ぞ れ 我 が家の 家庭料理 と使っ ても らい たい 器 を持 ち寄っ て の月見の宴を催 しました (図6
〜10
)。 盛 り合わ せな どの指導
を頂 きな が ら、
九谷 焼の業 界の 方と共に楽しい 会 を開催す るこ とがで き ま し た。「
家 族におい しく食事を して もらうこ と」。 女同 士、
共 通の話 題に花を咲か せなが ら、
九 谷 焼の業 界 の 方と も肩 肘を張ら ない 異 業 種 交 流・
勉 強 会を行 う こと ができ ました。 「作 り手 イコー
ル使い手であること」。
今、
産 地 に 問わ れてい るこ と は、
ま さ にこ の こ とで ない で しょ うか。 自分が作 り手の産 地に住み、
一
主婦と し て使い 手である ことに徹 してい たつ も りなの に、今
更 な が ら、
作り手
に そ ん な 問い か け をする 必要 性を 痛 感してお ります。 技術 研 修も今 年で満26
歳、
満26
歳とい え ば人間で い え ば独 立です。 独 立とい う事は 自分で 生 活するこ と、
技術を活か し てもの を作 り、
そ れ か ら収 入を得 て生活を す る とい うこ とです。 自分の力で歩み出せ るこ と、
それ が 真の産 地の 力である と 同時に、
これ か ら が真
価が問わ れ る と きだ と思い ま す。デ サイン学 研 究 特 集 号 sPEcIAL IssuEoF JssD vol