日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 22, No. 2, 124-135, 2008
*名古屋市立大学看護学部(School of Nursing, Nagoya City University)
2008年1月21日受付 2008年8月6日採用
原 著
母親の出産に参加した子どもの体験とその意味
Children present at the birth of a younger sibling,
and the meaning of this experience
藏 本 直 子(Naoko KURAMOTO)
* 抄 録 目 的 本研究の目的は,母親の出産に参加した際に子ども自身の中に芽生えた意識や感情の様相を明らかに し,子どもにとっての出産体験の持つ意味を探究することである。 対象と方法 助産院または自宅で第2子及び第3子を出産した経産婦とその子ども8組を対象に,分娩第1期から第 4期までの母子相互作用について参加観察法によりデータを収集した。また,産褥早期に出産場面で観 察したことを母に対して半構造化面接で確認した。得られた有意な場面から現象を解釈した後,カテゴ リーの抽出を行った。そして,場面毎に類似性と相違性を比較しながら,現象のパターンを整理し,子 どもの出産体験の意味を引き出した。 結 果 母親の出産に立ち会った子どもの体験は,1)さまざまな感情のゆらぎを引き起こす体験,2)生・性へ の豊かな感性をはぐくむ体験,3)出産への参加から思いやりを高める体験,4)自我を脅かすストレス フルな体験,5)親密な他者の存在を実感する体験,6)母子の関係性をゆるがされる危機体験,7)新たな きょうだい関係を構築する体験であった。カテゴリーは,子ども自身の内面に由来する「内なる自我を 育てる体験」と他者との関係性の中で生じた「他者との関係性を確認する体験」の2つに大別された。 結 論 出産は子どもの好奇心を湧き立たせ,いのちへの興味やつながりを感じさせる体験であったが,子ど ものこころを脅かす危機的要素も孕んでいた。子どもがこの体験を乗り越え,価値のある成長体験とす るためには,子どもを支える家族の役割や助産師の援助が重要である。 キーワード:立ち会い出産,子どもの体験,母子相互作用,助産ケア,参加観察法 Abstract PurposeThe aim of the present study was to clarify the meaning of children's experience of being present at the birth of a younger sibling.
Methods
The study participants were eight pairs of children and their mothers who gave birth to a second or third child in a maternity clinic or at home. The survey of mother-child interactions in the first through fourth stages of labor was conducted using a participant-observer method. The observations made in the delivery setting were confirmed in a semi-structured interview of the mother during the puerperal period. Categories were extracted after interpret-ing phenomena obtained from settinterpret-ings considered to be significant. While comparinterpret-ing the similarities and differenc-es in each setting, the patterns of the phenomena were arranged and the significance of the childbirth experience of the sibling was derived.
Results
Seven categories were extracted for childbirth experience of the siblings: 1) experience causing swings of vari-ous emotions, 2) experience that nurtures a rich sensibility of life and sexuality, 3) experience that raises empathy from participation in childbirth, 4) stressful experience that threatens the self, 5) experience that makes one feel the closeness of others, 6) crisis experience that shakes the mother-child relationship, and 7) experience that builds a new sibling relationship. The categories were broadly divided into those related to internal aspects of the child, and those related to the child's relationships with people around him or her.
Conclusion
Childbirth for the elder siblings was an experience that aroused curiosity and led to an interest in life. However, the childbirth experience also includes critical elements that threaten a child's mental state. For the child to get through this experience and have it be a valuable growth experience, the role of family in supporting the child and the assistance of midwifes are important.
Key words: present at birth, child's experience, mother-child interaction, midwifery care, participant-observer method
Ⅰ.は じ め に
WHO(1996/1997)は「Care in Normal Birth: a practi-cal guide」の中で,産婦が出産前後に家族や友人と充 分な接触を持つことは家族全員が心理的・社会的によ い状態を得るために重要であると指摘している。近年, わが国でも母子ともに安全な分娩が保障されるのはも ちろんのこと,産婦や家族が精神的にも満足できる出 産を求めて,多くの施設で立ち会い出産が行われてい る。 最近では,出産施設選択の理由に夫だけでなく,子 どもを含めた家族や身近な人などの信頼できる人々 の参加を希望する女性もいる(谷川,2000;佐々木ら, 2000;野口,2002;伊藤ら,2005)。これらの子どもを 含めた家族の出産への参加を経験した女性は,概し て出産の満足度が高く(佐々木ら,2000;月僧,2003), 上の子どもに関しても同胞のスムーズな受け入れや 命・性の教育への効果などに肯定的な認識を持ってい る(河谷ら;2003)。また,子どもの存在が家族に強 い結びつきを与えたと評価し,両親ともに子どもの存 在をプラスに受け止めている(Christina, 1985)。この ように,家族にとって出産に参加することは,皆で生 命の誕生を迎えるという一体感を味わえ,前にも増し て家族のきずなを深める機会となり,新たな家族形成 やその後の生活にも良い影響を及ぼすことが示唆され る。しかしながら,わが国における子どもの参加を含 めた家族の出産に関する研究は,母親の立ち会い出産 に向けた意思決定や認識に関するものが多く,子ども の観点から出産体験を捉えた研究はほとんどなされて いない。そのため,子どもがどのように出産に参加し, 出産を体験しているかについては明らかにされていな い。 そこで,本研究では,母親の出産に参加した際に子 ども自身の中に芽生えた意識や感情の様相を明らかに し,子どもにとっての出産体験の持つ意味を探求する ことを目的とした。
Ⅱ.研 究 方 法
1.研究参加者 研究参加者は,助産院または自宅で出産予定の経産 婦とその子ども(長子もしくは次子)であり,妊娠経 過が正常で,出産に子どもを参加させることを希望し ているものとした。 2.データ収集期間 データ収集期間は,2004年12月から2005年5月まで の6ヶ月間であった。3.データ収集方法 1 )出産場面における参加観察法 本研究は,出産場面での子どもの生き生きとした体 験を捉えるために,分娩第1期から第4期までの母子 相互作用を中心に参加観察した。研究参加者とは妊娠 中から健診や面会などのインフォーマルな場面を通じ て関わり,信頼関係の確立に努めた。その際,特に子 ども達とは遊びを中心に関わった。出産場面では自然 な母子の営みを壊すことなく,日常に近い形での観察 を行うために,助産業務の補助や物品の準備,片付け などの役割を担いながらフィールドに参与した。その 際,母子相互作用に介入したり,直接的に働きかけた りすることはなかった。 観察記録はメモに記載するとともに,研究参加者の 承諾を得て,ビデオカメラを用いて撮影した。ビデオ 撮影は,研究者がフィールドに参与してから持続的に 行った。精神的圧迫感を最小限に抑えるため,母子の やりとりが分かる範囲を広角で,三脚を用いて撮影を 行った。カメラの存在によって子どもの動きが制限さ れることを懸念したが,家族が撮影している場合も多 く,子ども達はカメラの存在に比較的慣れていた。さ らに,時間が経過し,何かに没頭するようになるとカ メラの存在を忘れているようであった。観察項目は, 母子のやりとりを中心に,会話,行動,表情,態度な どであった。さらに,父,祖母などの他の家族成員や 助産師などに関しても,母子相互作用に影響しうるも のはすべて記録した。 2 )出産後の半構造化面接法 出産後,研究者が出産場面で観察したことや研究者 自身の気づきを,主として母親に対して半構造化面接 で確認した。質問項目は,母(もしくは父,祖母)か ら見た出産時の子どもの様子や反応,またそのときの 子どもの情動などについてであった。面接時にはその 時の子どもの様子をリアルに思い起こせるようにビデ オデータを用いた。面接は研究参加者の自宅や助産院 で行い,面接記録は研究参加者の承諾を得てICレコー ダーとメモに記録した。 4.データ分析方法 本研究は,フィールドワークの技法を用いた質的記 述的研究である。分析は次の手順で行った。;1)出産 場面において収集した観察データ(ビデオ記録とメモ) を基にしたフィールドノートと面接データを書き起こ した逐語録を作成した;2)母子の相互作用に関係す る有意味な場面を抽出し整理した;3)得られた場面 を解釈し,カテゴリーの抽出を行った;4)場面毎に 類似性と相違性を比較しながらカテゴリーを整理し た;5)観察データ及びフィールドノートに戻って,1) ∼4)のプロセスを繰り返し,子どもの出産体験の意 味を引き出した。 データの分析過程では,質的研究法を実践している 助産学の専門家からのスーパーバイズを受け,解釈の 信頼性と妥当性を高めた。 5.倫理的配慮 本研究は,名古屋市立大学看護学部研究倫理委員会 にて承認を得た後(承認番号0416),A助産院長に対し て許可を求めた。そして,A助産院長に研究参加者の 条件を提示し,選定された対象者に対して調査協力の 依頼を口頭と文書で説明し,研究参加への同意を得た。 その際,研究参加者に対して研究の趣旨や方法,研究 参加者の権利に関すること,研究参加の利益と不利益 について説明した。また,研究参加は自由意志であ り,いつでも中断や取り消しができることを確認した。 データ収集や分析にあたっては,匿名性に留意し,研 究参加者から知り得た個人的な情報については守秘性 を厳守することを保証した。子どもに対しては年齢や 理解力を考慮して,可能な限り説明を行い,主として 母親からの承諾を得た。 6.用語の定義 本研究の「母子相互作用」とは,生得的に組み込ま れたものであり,互いに交流しあうリズムを保持し, 感覚レベルで密接に関連し合いながら,母から子へ, 子から母へと働く情緒的・行動的反応のやりとりのこ とと定義した(Klaus & Kennell, 1976/1979)。
Ⅲ.結 果
1.研究参加者の概要 研究参加者の背景については表1に示す。研究参加 に同意が得られた母子10組のうち,急速分娩事例と 骨盤位のため他院で出産となった事例を除く,8組を 分析対象とした。研究参加者は1回経産婦6名(幼児6 名,そのうち3歳以下は4名),2回経産婦が2名(幼児1 名,児童3名)であった。分娩所要時間の平均は5時間 25分で,全員が正期産の自然分娩であり,母子とも に異常がなく経過が良好だった。また,参加観察におけるビデオ撮影の所要時間は平均150 63.6分であり, 産後の面接の所要時間は平均40.3 13.2分であった。 2.母親の出産に参加した子どもの体験 出産場面での8組の母子の体験から,子どもに芽生 えた意識や感情がどのようなものであるかを明らかに することができた。得られたデータから有意味な56 場面を抽出し,解釈・分析した結果,表2に示す7つ のカテゴリーと25のサブカテゴリーを抽出するに至っ た。母親の出産に参加した子どもの体験を構成するカ テゴリーは,《さまざまな感情のゆらぎを引き起こす 体験》,《生・性への豊かな感性をはぐくむ体験》,《出 産への参加から思いやりを高める体験》,《自我を脅か すストレスフルな体験》,《親密な他者の存在を実感 する体験》,《母子の関係性を揺るがされる危機体験》, 《新たなきょうだい関係を構築する体験》が抽出され た。以下にこれらのカテゴリーの内容を示す特徴的な サブカテゴリーとともに,代表場面に立ち返りながら, 意味内容を説明する。カテゴリーは《 》,サブカテ リーは〈 〉で示し,事例名及び人名にはアルファベッ トを用いて記号化した。 表1 研究参加者の概要 事例 子どもの名前 性別 年齢 分娩第2期の参加の有無 その他の出産の参加者 出産場所 分娩所要時間 A I君 男 2歳11ヶ月 有 父 助産院 13時間35分 B J君 男 4歳8ヶ月 無 祖母 自宅 5時間8分 C K君 男 2歳0ヶ月 有 父,祖母 自宅 5時間22分 D L君 男 2歳10ヶ月 有 父,祖母 助産院 5時間22分 E NちゃんM君 男女 6歳6ヶ月4歳1ヶ月 無有 父,祖母 自宅 2時間53分 F O君 男 2歳7ヶ月 有 父 自宅 2時間46分 G Pちゃん 女 3歳5ヶ月 有 祖母 自宅 3時間5分 H QちゃんR君 女男 9歳7歳 有有 父,祖母,母の友人 自宅 5時間10分 表2 子どもの出産体験に含まれるカテゴリー一覧 カテゴリ サブカテゴリー ①さまざまな感情のゆらぎを引き起こす体験 出 生 前 ・不安の情動の喚起 ・欲求不満の高まり ・困惑の情動の喚起 ・楽しみの情動の喚起 出 生 後 ・生命の誕生に対する驚き ・喜びの情動の喚起 ・母の無事に対する安堵感 ・母に対する欲求不満 ②生・性への豊かな感性をはぐくむ体験 ・出産に対する興味と探索行動 ・排泄に対する興味 ・赤ん坊に対する興味 ・参加できることによる有能感 ③出産への参加から思いやりを高める体験 ・思いやり行動・母への能動的な愛 ④自我を脅かすストレスフルな体験 ・出産場所からの逃避・自分への注意を引く行動 ・行動への転化による感情の抑圧 ⑤親密な他者の存在を実感する体験 ・安全基地としての母・安全基地としての親的人間の存在 ⑥母子の関係性を揺るがされる危機体験 ・母との関係性の変化を察知・母との心理的な距離の自覚 ・母との親密な情緒的きずなの確認 ⑦新たなきょうだい関係を構築する体験 ・赤ん坊の受け入れ・赤ん坊の存在を実感 ・成長的行動
1 )《さまざまな感情のゆらぎを引き起こす体験》 子どもは,出産場面においてさまざまな感情を喚起 させられ,自己の中で大小の感情の波に揺られていた。 赤ん坊出生前に関しては,母の産痛が増強するに従い, 母子相互作用の減少や中断が影響し,〈不安の情動の 喚起〉が引き起こされていた。不安の種類には,母と の分離不安や葛藤による不安,母への同一視的反応か ら生じている不安などがあった。また,胎児心音を 聴取する際に,胎児の存在に対して不安を示していた 子どももおり,感情の表出の仕方はさまざまであった。 次の場面のF事例のO君は,母の陣痛が増強していく につれ,不安を表出していった。 [場面F-1-4] O君は両親の傍らに座わり,おもちゃ を触りながら一人で遊んでいた。しかし,陣痛が始ま り,母が辛そうな声を出すと,母の方を見たり,おも ちゃを触ったりと落ち着きのない様子であった。O君 は母を呼ぶような感じで軽く叩き,母の脇の辺りを触 れながら,「えっえっえっ……」と悲しい表情で泣き出 しそうになった。そして,母に擦り寄るように額を押 し付けると,母の頭を2∼3回叩き,床にしゃがみこ んだ。母はO君のことを気にかけず,下を向いたまま であった。助産師や父がO君に声をかけたが,O君は 変わらず,母を見つめて今にも泣き出しそうになって いた。 さらに,母子相互作用の減少や周囲の人々の関心が 自分から出産に向かうことによって,〈欲求不満の高 まり〉を引き起こしていた。これには,ことばを用い て自己の感情を正確に表現できないことも関与してい た。またさらには,幼児期の思考の特徴である自己中 心性が表れ,客観的,論理的に物事を捉えることがで きない場面も認められた。特に,幼児期前期の子ども は,出産の状況を十分に認知することができず,状況 に即して自己の行動をコントロールすることができな かった。次のA事例のI君の場面からもその様子を読 み取ることができる。 [場面A-5-8] 母は下を向いたまま,陣痛に耐えてい た。父や助産師は,「ママ,がんばってるよー。もう ちょっと待っててねー」とI君に話しかけていたが, I君は,「おうちかえろー」と何度も言い出すように なった。助産師が「遊んでくるー?」と言うと,「パパ とー,パパとー」とかんしゃくを起こし,体全体で訴 えた。母はI君の様子をちらりと見るが,再びうつむ いてしまった。父はI君をなだめていたが,I君は「パ パとー,パパとあそぶー」と泣き顔で何度も訴えてい た。そのため,父はI君とともに部屋から退室した。 出産後には,赤ん坊という未知なる存在の出現が 〈生命の誕生に対する驚き〉として子どもの情動を喚 起させていた。しかし,驚きは,長期間に渡って生じ るものではなく一過的な感情であった。この感情を他 の感情,特に〈喜びの情動の喚起〉といった快の感情 へと転化するときに重要な役割を果たすのが,母との 相互作用の再開であった。次の場面のA事例のI君か らも母との相互作用の再開が肯定的な感情の転化への 鍵となっていたことが理解できる。 [場面A-9-14] 助産師から「赤ちゃん出てきたよー」と 言われると,I君は体を緊張させ,チラリ,チラリと 目だけで助産師の方を見た。そして,目を離さず,恐 る恐る体を動かし,膝立ちになりながら,股間を覗き 込んだ。母が「うーん」と最後にいきむと,赤ん坊が 産まれ出た。赤ん坊は大きな声で「ギャー」と産声を 上げた。I君は少し後ろに退き,口を開けたまま顔を こわばらせ,ぎこちなく辺りを見回した。そして,赤 ん坊から目を離さず,ゆっくりと膝立ちになった。I 君は「でてきたー」と赤ん坊を凝視し言葉を発した。 母は,赤ん坊の股間を見て性別を確認すると,笑顔に なり,「妹だった,あたりー」とI君に話しかけた。す ると,I君は,「へへへへ,なんでー」とうれしそうに 笑い,それから,「あかちゃん,あかちゃん」と小声で 繰り返し言っていた。 2 )《生・性への豊かな感性をはぐくむ体験》 子どもは出産場面において出産や赤ん坊に対して興 味を喚起させられ,生・性への豊かな感性を高める 体験をしていた。〈出産に対する興味と探索行動〉とは, 子どもが出産や赤ん坊の存在から好奇心や興味を刺激 させられ,能動的に探索行動していたことを示してい る。幼児後期以降の子どもは,周囲の世界に対する興 味が強く,好奇心に溢れており,積極的に探索行動を 行っていた。また,幼児前期の子どもは出産の状況に 巻き込まれる傾向があるが,遊びや周囲の人々の受容 的かかわりが興味の増進に関与していた。次の場面の A事例のI君からは,父を安全基地としながら積極的 に探索行動をしていた様子が伺える。
[場面A-6-20] I君は父の隣に座って,出産の様子を 見ていた。陣痛が始まり,母が苦しそうに痛みを訴え ると,母の腹部を見てから,ゆっくりと股間を覗き込 み,「どこ?どこがいたいの?」と母に向かって言った。 そして,再び少し離れたところから股間や助産師が介 助している手元を数秒見てから,ゆっくりと父の側に 戻り,父の腕を掴んでぴったりと体を寄せていた。I 君は,父に呼び止められるものの,父の言葉を聞かず, 何度も母の足側に回り,股間を凝視していた。 また,子どもは,母の出産時の体勢や助産師の介助 する姿に排泄場面を重ね合わせており,〈排泄に対す る興味〉を喚起させられていた。これには,子どもの 発達時期に適した自己の身体的発達が関与していた。 しかし,興味だけにとどまらず,便などの汚染物や血 液に関しては嫌悪感も示す場面も認められた。C事例 のK君の場面からは,母の姿から排泄場面をイメージ していた様子が見受けられる。 [場面C-7-25] 母は父に寄りかかって四つん這いの体 勢をとっており,助産師は母の背後に回り介助してい た。K君は助産師の側に立ったまま,手元をじっと見 ていた。そして,母に近寄ってから,再度お尻を覗き 込み,「あっ,うんちだ」とうれしそうに言った。助産 師が血液の付着したパットを交換すると,それを見た K君は,「あっ,うんち。かあちゃん,うーんち」と言っ た。K君は助産師の手元が気になり,近づいて見てい た。その後,母の背中を父と一緒に擦っていたときに, K君の手が助産師の手に触れてしまった。K君はすぐ に手を引っ込め,気まずそうに自分の手を触っていた。 それから,母の臀部を見て,嫌そうに左手で顔を押さ えながら,「ぴちゃ,ぴちゃ……」とつぶやいた。そし て,K君は,母の背中に触れている父の手をよけ,母 の肩の辺りに顔をうずめた。 しかし,特に血液の露出に関しては,子どもに怪我 をして痛かった体験を思い起こさせ,実際に傷ついて いなくても子ども自身に大きな苦痛が呼び起こされる ようであった。事例Gの母は,出産後のPちゃんの様 子を振り返り,次のように語っていた。 [面接G] お産の日から1∼2日空けてか,とにかく 何か質問攻めっていうか,『何で血が出たの?』っ ていうコメントが先ず,一番多いんですけど。(中 略)自分でもほんとちょっと切ったりとかすると, 『うぁー!血が出た!』って言うぐらい,何か血に対 してすごく恐怖心持ってるんで大丈夫かなと思って ……。 出産後,母との相互作用が再開されると,子どもは 赤ん坊誕生の喜びを母と共有していた。次の場面のE 事例のM君は,好奇心に導かれ,母に対してさまざ まな質問を投げかけていた。そして,赤ん坊を受け入 れ,さらに赤ん坊を知りたい,関与したいという欲求 が喚起されていたようであった。 [場面E-6-27] 母は仰向きで横になったまま,裸の 赤ん坊を胸に抱いていた。M君は,母の側に近寄る と,赤ん坊の頭をうれしそうに撫でた。母が「おてて, ギューっと握るかなあ」と赤ん坊の手を触ると,M君 は母と同じように赤ん坊の顔に近づき,手のひらを 触った。そして,「あかちゃん,パーとグーしかだせ ん」と言った。母が「まだチョキは出せんでしょう」と 答えると,M君は,「チョキ出せる」と自分の手でチョ キの形を作って母に見せた。母は,「Mはねー,だっ て,6歳だもん。赤ちゃんはまだ生まれたばっかりだ から0歳だよ」と言った。そして,赤ん坊が泣き出すと, M君は顔を近づけ,人差し指で肩の周辺を触り,次に 頭を触った。母が「つるつる?つるつるだね」と言うと, 「なんかいろがちがーう」と答えた。母は,「お腹の中 でさー。羊水っていうお水の中にプカプカしとったか らさー。Mもお風呂はいるとしわしわになるでしょう。 おててがさー。そんな感じかなー」と説明し,笑顔を 見せた。M君は,ふと母の前髪を2∼3回かきあげた。 それから,M君は,「あかちゃんのおふろ,どういう おふろ?」とか「ママんとこ,おへそきったの?」など と母に質問し,「おなかみせてー,おーなーかー」と母 に頼み,凹んだ腹を見せてもらっていた。 M君の様子は,小さくかわいらしい〈赤ん坊に対す る興味〉を持ち,もっと知りたいという欲求が湧き起 こっているようであった。子どもは,実際の赤ん坊と 対面し,母とのやりとりを通じて赤ん坊への興味が いっそう喚起されていた。 3 )《出産への参加から思いやりを高める体験》 子どもは,出産に参加することによって,〈思いや り行動〉や〈母への能動的愛〉を引き起こされていた。 次の場面のE事例のNちゃんは,母の苦痛や不快さに
対して共感的な反応を示し,思いやり行動を動機づけ られた。 [場面E-1-31] 陣痛が始まると,Nちゃんは母に近寄 り,右手でいたわるように軽く背中を叩き,母の顔が 見える位置に移動した。母が思わず,「痛いー」と声を 出すと,Nちゃんは父に体を寄せながら母の頭を撫で た。そして,Nちゃんは母の横に座り,母をじっと見 ていた。祖母がNちゃんに「(お母さん)がんばってっ て,がんばってって」と声をかけると,Nちゃんは母 の顔を見て微笑んだ。 〈思いやり行動〉の生起には,母の痛みに共感する という子ども自身の共感性の発達が重要となっていた。 またさらに,周囲の人々から行動を認められたり,賞 賛されたりすることによって,子どもは自信を持ち, より自律性が促進されていた。 4 )《自我を脅かすストレスフルな体験》 子どもの中には出産場面をストレスフルな体験とし て捉え,ストレス反応として対処行動をとる子もいた。 母との相互作用の減少や中断に伴って,不安や緊張感, 欲求不満が高まり,その結果,〈出産場所からの逃避〉 という自己防衛的反応を示した。特に,現実認識が高 まってくる幼児後期以降になると,出産に立ち会うか どうかは自らの意思によって選択していた。次の場面 のE事例のM君は,母を心配する心とは裏腹に母の 側で出産に立ち会うことができなかった。 [場面E-3-36] M君は,母のいる出産部屋への出入り を繰り返していたが,次第に入室するのをためらって 居間にいることが多くなった。居間では,M君はコ タツに入り,考え込むような表情でおもちゃのカード を眺めていた。部屋ではもう一息のところで赤ん坊が 誕生しようとしており,その空気が居間にいるM君 のところまで伝わってきていた。しばらくして,再び, M君は母のいる部屋に顔を覗かせた。その時,助産 師は声をかけたが,M君は「やだ」と拒否し,すぐに 居間に戻ってしまった。 M君は,母の感情を理解する認知的な側面が発達し ているものの,切迫した部屋の雰囲気に圧倒され,父 や助産師等と同じ空間に身を投じることができなかっ た。それは,M君の心に不安や不快な感情がより意 識されるため,自己防衛的反応を引き起こしたのでは ないかと解釈できる。また,B事例のJ君は,出産に 際し,母の様子がいつもとは違うことに気づきながら も保育園やお稽古事に出かけた。そして,J君は出産 後に立ち会わなかったことを理由付け(この場合は保 育園やお稽古事)することによって,自己の行動を正 当化しようとしていた。母は,出産後の様子を振り返 り,J君の様子を次のように語っていた。 [面接B] やっぱり,現実を目の前にして,逃げたん だと思いますね。(中略)それで,それをうまく受け入 れられなくって,たまたま保育園もいけるし,保育園 行くって言って逃げれますよね。一回。プールもある んだって言って,プールもあるから行って。終わった 後に人に話しているのを聞いてると,『ぼくねーみれ なかったんだ』って。見れなかったんじゃなくて,見 なかったんじゃないのって(夫と)言ってるんですけ ど……。 5 )《親密な他者の存在を実感する体験》 子どもは,出産場面において安全基地としての母や 家族,友人などの親的人間の存在から安心感を得てい た。日常的な母との相互交渉が保たれており,安心で きる空間としての環境要因も整っている場合には,子 どもは〈安全基地としての母〉を実感しながら,遊ん だり,探索したりと自由に行動していた。しかし,分 娩経過が長時間に及ぶ場合やコントロールを失った母 の粗雑な対応などによって母子相互作用が中断する場 合には,母以外の家族成員やその存在に代わりうる他 者,つまり二次的愛着対象を〈安全基地としての親的 人間の存在〉として子どもは安心感を得ていた。また, 出産場面だけでなく,赤ん坊出生後の母に対するアン ビバレントな感情の喚起においても親的人間の存在が 重要な役割を果たしていた。次の場面のB事例のJ君は, 赤ん坊出生後の複雑な心境を祖母の存在によって癒さ れていた。 [場面B-4-44] 母は赤ん坊に添い乳していた。J君は 母の側に近寄らず,祖母の膝に座って,お菓子を食べ ていた。J君は表情を曇らせ,面白くないような表情 をしていた。またこの時,母の友人とその子ども達が 面会に訪れた。母は,「かわいいねー,これ」と赤ん坊 の手を見せ,J君に向かって声をかけた。しかし,母 と友人が話し始めたため,母との会話は中断してし まった。祖母は,「Jちゃんもあの通りだった。Jちゃん,
こんなおおきなったけど,あんなててだったんだよ」 とJ君の手をとり,手のひらを人差し指で触った。J 君は,母の方を見てから,自分の手を広げてまじまじ と見ていた。祖母は,「赤ちゃん,おっぱい飲んどるっ て。Jちゃんもよく飲んだもん,いっぱい飲んだもん」 とやさしく声をかけ,J君を背後から抱き寄せ,体を 前後に揺すった。 6 )《母子の関係性を揺るがされる危機体験》 出産後,子どもは,赤ん坊の存在から喜びといった 快の感情だけでなく,戸惑いやアンビバレントな感情 を喚起させられていた。また,特に幼児期後期の子ど もでは,母に対して甘え,依存したい気持ちと自立し たい気持ちとの間で葛藤を抱いていた。そのため,こ れらが要因となり,〈母との関係性の変化を察知〉して いた。また,出産に立ち会えなかった子どもの中には, 母の希望に応えられなかったという後ろめたさから罪 悪感を抱き,〈母との心理的な距離の自覚〉をしている 子もいた。次の場面のE事例のNちゃんは,出産場面 に参加したものの,出産後は母に接近することができ なかった。 [場面E-7-45] 出産後すぐに,兄のM君が部屋に入っ てくると,Nちゃんも兄の後を追い,やってきた。し かし,Nちゃんは入り口のところで立ち止まって,遠 巻きに母の様子をうかがっていた。母が「Nちゃん, おいでよ」と満面の笑顔で手を振ったが,Nちゃんは 母に呼ばれても近寄れず,手を後ろに組んだまま,戸 惑っている様子だった。そして,母は「へへへへ,N ちゃん,見てくれたからさ。ありがとね。妹だね。N ちゃんのね。お姉ちゃんになったね。」と話しかけた。 Nちゃんは,壁にもたれボールを触りながら,母のこ とばを聞き,小さくうなずいた。そして,ドアから出 て行った。それから,Nちゃんはしばらく居間で父の 膝に座り,静かにテレビを見ていた。 Nちゃんは,今までの自分と母との関係性が変化す ることや家族内において末子から次子へ立場の変化を 迫られるようになることを敏感に感じている様子で あった。そして,Nちゃんは退室後,母の代わりに二 次的愛着対象の父を安全基地としていた。子どもは 親密な他者から手を握ることや抱きしめることなどの 身体的接触によって,出産場面で抱いた不安・困惑と いった負の感情や関係性の変化から感じ取った寂しさ を解消しようとしていた。 母の状態が一段落すると,〈母との親密な情緒的き ずなの確認〉といった意味を持つ身体的接触によって, 母子は今までの変わらない愛情を確認していた。次 の場面において,Nちゃんと母のやりとりは短時間で あったが,母子間に揺るぎない信頼感が築かれている のを感じることができた。 [場面E-9-49] 出産後,約1時間半経過した。父は赤 ん坊を抱き,Nちゃんと母の近くに座っていた。赤ん 坊が泣き始めると,Nちゃんは頭を何度も撫でた。そ して,赤ん坊が一時泣き止むと,母の方を振り返って 笑った。母も「えへへへへ」とNちゃんに向って笑い かけた。そして,Nちゃんは母の顔を見ると,そっと 母の肩に触れ,それから手を握った。二人はひとと き見つめ合い,母も笑顔でNちゃんの手を握り返した。 それから,Nちゃんは,母に甘えるように腕に抱きつ き,母としっかり手を握り合った。 7 )《新たなきょうだい関係を構築する体験》 出産が終了し,母子相互作用が再開すると,子ども は,「見る」,「触れる」,「感じる」といった五感を通し て赤ん坊の存在を実感していた。〈赤ん坊の受け入れ〉 には,母や周囲の人々の受容的なかかわりが促進的に 作用していた。次の場面のG事例のPちゃんは,助産 師の声かけや母の見守りによって,赤ん坊に触れるこ とができた。 [場面G-2-53] 母は赤ん坊を胸に抱きながら,笑顔で Pちゃんの顔を見た。助産師は赤ん坊の手に触れなが ら,「いいよ,触って,パーしたよ。グーもするかな」 とPちゃんに話しかけたが,Pちゃんは首を2,3回横 に振った。もう一度,助産師が「赤ちゃんも握手した いって言ってるよ」と促すと,Pちゃんはうなずいて, 赤ん坊におそるおそる手を差し出した。しかし,赤ん 坊の手に触れるとすぐに手を引っ込めた。母は「よかっ たね。妹が良かったんだもんね」とPちゃんに微笑み かけた。すると,Pちゃんは胸に抱かれた赤ん坊を見 たままうなずいた。母は「お名前は? Pが決めたんだ よね」とPちゃんに言い,「何だっけ。お名前,何だっけ」 とうれしそうに優しく話しかけた。Pちゃんは,微笑 み,体を揺らしながら,「わかんない」と答えた。「あれ, 忘れちゃった?」と母が聞くと,Pちゃんはうなずき, 舌をペロリと出した。
さらに,子どもは,赤ん坊と握手や抱っこをするこ とによって,より赤ん坊への接近や接触が促され,〈赤 ん坊の存在を実感〉していた。また,E事例のように 二人きょうだいの場合には,長子は〈成長的行動〉を し,次子が赤ん坊を受け入れられるように配慮してい た。次の場面からは,逆境にこそ互いに支えあう,きょ うだいの結びつきの強さを垣間見ることができた。 [場面E-8-55] 部屋の入り口で,Nちゃんは指をく わえたまま,遠巻きに母を見ていた。母が「Nちゃ ん,来た。抱っこしてみる?」と笑いかけると,N ちゃんは頬を緩ませながらも戸惑いの表情を見せてい た。すると,M君が「だっこするー」と言い,母に近 づいてきた。再び,助産師が「M君,上手に抱っこし たよ。見てみる?」とNちゃんに声をかけた。母も「見 とこうか。お兄ちゃんの抱っこの仕方」と笑顔で言っ た。助産師がM君の膝に赤ん坊をのせて抱かせると, M君はうれしそうに赤ん坊の顔に顔を近づけ,そして, Nちゃんに「してみたい?」と誇らしげに言った。さ らに助産師が促すと,Nちゃんは笑顔になった。そし て,首を傾け,ためらいながらも,兄の側に座って小 さくうなずいた。Nちゃんは真剣な表情で赤ん坊を抱 き,母の方をちらちらと見ていた。母が「重かった?」 と聞くと,Nちゃんは満面の笑顔でうなずいた。
Ⅳ.考 察
本研究では,出産場面における子ども達の自然な姿 に出会うことができた。そして,母親の出産に参加し た子どもが,出産から何を感じ,何を得たか,子ども の一側面を垣間見ることができた。今回の研究結果か ら,①∼④のカテゴリーは自己の内面に由来する「内 なる自我を育てる体験」として,また⑤∼⑦のカテゴ リーは他者との関係性の中で生じた「他者との関係性 を確認する体験」として,考察の視点が大きく2つに 分類できると考えられた。したがって,これら2点に 焦点を当て,子どもの出産体験の意味について検討し たい。 1.内なる自我を育てる体験 内なる自我を育てる体験とは,子どもが出産場面で 自己成長につながる体験をしていたことを示してい る。子どもは,具体的な事物や体験を通じて感じた り,考えたりしながら,自分と自分を取り巻く外界の 現実とのかかわりを認識していく。出産場面で喚起す る感情は,喜びや楽しみといった快の感情ばかりでは なく,不安や恐れ,悲しみ,戸惑いといった不快な感 情もあった。しかし,不快な感情が喚起されるからと いって,子どもにとってマイナスの要因になるとは限 らない。子どもは母が苦痛に耐えている姿を目にする ことによって,母の感情や痛みを感じとり,共感的反 応を引き起こしていた。そして,母への共感的反応 が,思いやり,あるいは援助行動に導いていた。この ことから,出産場面では,快,不快に限らず,さまざ まな感情体験ができ,他者との感情的なコミュニケー ションを発達させていくことができると考える。また, Carson(1984/1996)は,「知る」ことよりも「感じる」こ との重要性を述べており,センス・オブ・ワンダー (the sense of wonder)が人間の幼児期にもっとも強く 発達すると考えていた。これは,世界に触れ,その不 思議に深い驚きや畏怖の念や喜びや感動を覚えるとい う感覚で,これは世界を知識や理論的枠組みで眺める 前の幼児期にもっとも鋭いという。まさに出産体験は, 子ども達にとって「感じる」体験であった。子どもは, 自分の目で物を見ること,自分で世界を感じることを 通して,生・性の世界とかかわる主観的体験をしてい る。子どもは,母から生まれ出て愛おしそうに抱かれ ている赤ん坊,そして周囲の大人が赤ん坊の存在をあ りのまま無条件に受け入れる姿を見て,いのちは支え, 支えられ,育み,育まれてきたことを感じる。また, 母をはじめとした周囲の人々から幼かった日のことを 語られたとき,子どもは自らのいのちについて思いを 馳せることができる。出産後,自らの臍の緒を見たい と願ったり,自らの赤ん坊の頃のことを知りたがった りする子どももいたが,これらからもいのちに対する 好奇心をうかがうことができる。生まれた赤ん坊から いのちのきらめきを感じることによって,自己のいの ちを実感でき,このようにしていのちが生まれ,自分 達も後につなげていくのだということを体験すること ができるのではないかと考える。 しかし,出産は,子どもにとって,ストレスフルな 体験になる要素を孕んでいた。本研究でも,事例Bの J君と事例EのM君のように,出産に参加しないこと を自ら選択し,その場から立ち去るといった対処行動 を取る事例もあった。出産の参加に対して過剰に期待 せず,出産に参加しなかったとしても,子どもの選択 を尊重することが重要である。そして,子どもの抱え ている落胆や罪悪感を推察し,自尊感情を傷つけないように配慮しなければならないと考える。また,出産 時には子宮口の開大に伴う血性分泌物や児頭の下降に 伴う排便,または破水などの血液や排泄物の流出が認 められる。排泄物,その中でもとりわけ血液を目の当 たりにした子どもは,一時,嫌悪感を示しており,好 奇心を阻害するおそれがあった。特に血液を目にする ことについては,母と赤ん坊が両方とも死んだと勘違 いした3歳の女児を例に挙げ,血液にショックを受け る子どもがいること(Sandra, 1979)また,6∼10歳の 子ども達が出産に長く興味を持つものの,少量の血液 でさえも気にかけていること(Lewisら,1977)が指摘 されている。このことからも,出産はストレスフルな 体験になる可能性があることを認識し,子ども立ち会 い出産に対しては,ストレス状況を最小限にし,危機 体験へと移行しないように調整することが重要である。 子どもの生活は遊びと密接に結びついており,本研 究においても出産に参加する傍らで遊びをしている子 どもが見受けられた。子どもは遊びの中に精神的安定 を求め,遊びを対処行動としていることもあった。遊 びは,自由な活動であり,子どもにとって魅力的で楽 しい活動である。しかし,Caillois(1970)は,遊びは 虚構的活動であり,現実世界と対立する第二の現実, あるいは全くの非現実という特有の意識を伴うと述べ ている。このことからも,子どもは,現実から逃れ, 自己防衛する場合,遊びの世界に没頭する可能性もあ る。そして,遊ぶことによって現実から離れ,自己の 中に喚起された不快な感情をコントロールすることが できると考える。そのため,ストレスフルな状況下に おいては,遊びは不可欠であり,自由に遊びが行える 環境を提供することも重要である。 2.他者との関係性を確認する体験 他者との関係性を確認する体験とは,母や父,祖母 などとのかかわりを通じて,家族が相互に支えあって いることに気づく体験であるともいえる。出産場面に おいて,子どもは,愛着対象としての母や家族,友人 などの親的人間の存在から安心感を得る体験をして いた。子どもは母親への愛着行動を基礎に,二次的 愛着対象(父親や同胞,祖父母など)へと対人関係を 拡大していく(Bowlby, 1969/1991)。本研究において も,父や祖母,または友人などの親的人間の存在が二 次的愛着対象としての重要な役割を果たしていた。特 に,親的人間が安全基地となる場合,抱擁といった 「タッチング」が子どもの精神的安定に深く関与して いた。それは,母との心理的分離を癒し,出産場面で は得られない安らかな気持ちを与えてくれる。そして, タッチングによって,不快な感情を緩和できるととも に,親的人間からの深い愛情と信頼のきずなを確認す ることができると考える。このときの触れ合いによっ て,自分が理解されたことが感覚として経験されたな らば,親的人間に対して愛着を深めるとともに,より 深く安心感を得ることができる。これらのことから, 出産場面では,親的人間が母の代わりに安全基地の役 割を担い,子どもの側でいつでも受容可能な姿勢を示 すことが重要となる。 また,子どもは,赤ん坊の登場によって,自分と母 との関係性の変化を感じとっていた。明確に嫉妬心を 認知してなくても,母をはじめとする周囲の人々の注 意が赤ん坊に向かい,もはや自分だけが愛や関心を独 占的に受ける権利を持っていないと感覚的に気づくの ではないかと考える。さらに,赤ん坊出生後すぐに周 囲から「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」という新しい役割 を荷わされることは,さらに自我の奥へ依存欲求を抑 圧するとともに母を失う脅威を感じる。このことから, 母からの愛を失うこと,愛が意味する安全と保護を失 うことを強く感じるならば,赤ん坊の誕生は,子ども にとって母との関係性や心理状態に危機を生じさせる 出来事となると考える。そのため,子どもの出産体験 が危機へと移行しないような働きかけ,特に母との心 理的なきずなを具体的に確かめられるような援助や配 慮の必要性が示唆された。 さらに,きょうだい関係の構築にとって,母との 相互作用は不可欠であると考える。子どもは母との 相互作用を通じて,赤ん坊の存在を受け入れていっ た。大人が早い時期からきょうだいとのかかわりを促 し,きょうだい間のコミュニケーションの仲介役を果 たすことは,後の親和的なきょうだい関係につなが り,退行現象が出現しにくいということが指摘されて いる(小島,2003)。また,きょうだい間のライバル意 識が少ないことや世話をしたり,保護したりといった 行動が多く表れることなども指摘されている(Lewisら, 1977;Georgeanne, 1986)。本研究においても,母が 子どもに対して,赤ん坊の意図や気持ち,体の状態な どを積極的に説明する場面が認められた。このことが, 子どもの赤ん坊に対する興味をかきたて,赤ん坊への 探索行動につながっていた。そして,赤ん坊との握手, 頭や体に触れる,抱っこへと段階を経ることによって, 子どもは赤ん坊を確固たる存在として認識し,愛着を
より深めていった。そのため,このような母子のかか わりを支援することが,新しいきょうだいと初めて出 会う場面において子どもの心の安定性を高めると考え る。 3.助産ケアへの示唆 本研究より,母親の出産に子どもが参加する際の助 産ケアを行うにあたり,以下の示唆を得た。 1 ) 母から子どもに対して,妊娠中の日常生活で出産 や赤ん坊にまつわる話を意識的に行うようにする。 2 ) 子どもの情緒の安定には,母との相互作用が重要 な意味を持つ。そのため,分娩進行中の母子相互作 用に着目し,それに伴う子どもの感情の変化を認知 する。また,母子相互作用の中断を最小限にするよ うに,効果的な産痛緩和をして痛みのコントロール を行う。出産後には速やかに母子相互作用が再開す るように調整し,そのときには母との親密な身体接 触ができるように配慮する。 3 ) 出産への参加を強要せず,子どもの感情や行動を 尊重する。また,子どもが自由に行き来でき,自由 に遊べる空間の確保をする。 4 ) 分娩時には胎児心音聴取や物品の準備,呼吸法や マッサージなど,子どもにも可能な役割を与えて一 緒に行う。しかし,幼児が出産に参加する場合は自 己中心性という特徴を踏まえ,切迫した場面では子 どもの欲求を調整する必要がある。 5 ) 排泄物や血液を目にすることによって,子どもの 好奇心が減退するおそれがある。そのため,血液や 排泄物が露出することに注意を払い,排泄された場 合には速やかに拭い取り,処理する。 6 ) 分娩進行に伴って母子相互作用が中断したり,ま た速やかに再開されない場合には,父や祖父母など の親密な他者が母に代わり,愛情を持った「タッチ ング」を行い,安心感を与えられるように配慮する。 7 ) 子どもを取り巻く人々は,子どもに対して受容的 ・共感的にかかわる。
Ⅴ.研究の限界と今後の課題
本研究では,出産場面の参加観察から生き生きとし た子ども達の姿や母とのやりとりを観察することがで きた。しかし,出産後の面接は主に母親の語りであり, 子ども達の心の内を探るのには限界があった。また, 出産場面での子ども達の反応には,子どもの年齢や気 質,パーソナリティ,さらには出産当日の体調や環境 の変化などの影響も考えられ,出産に立ち会うことで 現れた反応とするには限界がある。今後の課題として は,さらにデータを積み重ねて研究を継続し,より確 実性の高い研究成果を提示していく必要がある。また, 出産後の母子関係や家族関係,きょうだい関係を含め た子どもの成長発達への影響に関してもさらなる研究 が求められる。Ⅵ.結 論
本研究結果より母親の出産に立ち会った子どもの体 験として,《さまざまな感情のゆらぎを引き起こす体 験》,《生・性への豊かな感性をはぐくむ体験》,《出産 への参加から思いやりを高める体験》,《自我を脅かす ストレスフルな体験》,《親密な他者の存在を実感する 体験》,《母子の関係性を揺るがされる危機体験》,《新 たなきょうだい関係を構築する体験》の7つのカテゴ リーが抽出された。子どもにとっての出産とは,好奇 心を湧き立たせ,いのちへの興味やつながりを感じさ せる体験であった。しかし,出産体験は子どものここ ろを脅かす危機的要素を孕んでいた。特に,子どもの 情緒の安定には母との相互作用が重要な意味を持つた め,分娩進行中の母子相互作用に着目し,それに伴う 子どもの感情の変化を認知することが重要であった。 また,子どもを支える家族の役割や助産師の援助の重 要性が示唆された。 謝 辞 本研究の遂行にあたり,ご理解,ご協力いただきま したお母様方ならびに子ども達,家族の方々,また助 産院院長及びスタッフに心から感謝申し上げます。ま た,研究をご指導くださいました名古屋市立大学大学 院の北川眞理子教授,中嶋律子准教授に深く感謝いた します。 なお本研究は,名古屋市立大学大学院看護学研究科 に提出した修士論文の一部に加筆修正したものである。 また,内容の一部は,第21回日本助産学会学術集会 で発表した。 文 献 Bowlby J. (1969)/黒田実郎,大羽蓁,岡田洋子他訳(1991). 母子関係の理論 愛着行動,215-411,東京:岩崎学 術出版社.Caillois, R./清水幾太郎,霧生和夫訳(1970).遊びと人間, 東京:岩波書店.
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