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予防理学療法における老年学的アプローチ

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 805 ∼ 806運動療法の 頁(2015 年) 2 型糖尿病に対する効果とそのメカニズム. 805. 分科学会シンポジウム 9(日本予防理学療法学会). 予防理学療法における老年学的アプローチ* 渡辺修一郎**. はじめに. リスク状態であることが多く,より厳重なリスクマネジメント が必要となるが,身体的なリスクのみに目が奪われがちであ.  団塊世代がすべて 65 歳以上となった今日,広く予防にかか. る。精神的問題や社会的な問題のリスクへの配慮も忘れてはな. わる理学療法を研究し実践する予防理学療法に大きな期待が寄. らない 2)。. せられている。本稿では,高齢者の活動や参加を向上させ,生.  さらに,介護予防活動をより効果的に円滑に進めていくため. 活の質(以下,QOL)を向上させることを目標とする高齢期. には対象者,その家族や介護者,他職種との協働が必要となる。. の予防理学療法における老年学的アプローチの重要性を提言し. 特に医学,心理,栄養,教育,まちづくりなどの分野との協働. た い。. の余地が大きい。栄養についてみると,栄養改善はサルコペニ. 予防の概念. アの予防や改善にも重要で理学療法の効果をより高めるが,理 学療法の効果の交絡要因としての栄養について実践面のみなら.  レーベルとクラークが提唱した疾病の自然史に対応した予防. ず研究面でもしばしば見落とされている。. 手段の 5 段階 1) のうち,健康増進,特殊予防を 1 次予防,早.  このように介護予防活動を実際に進めるうえでは,専門職と. 期発見・早期治療を 2 次予防,障害の制限,リハビリテーショ. して単に機能評価を行い,評価に基づいた理学療法を施術する. ンを 3 次予防とする予防の概念は,保健施策や予防活動の理念. にとどまるのではなく,諸分野の統合により,人間とその老化. 教育に広く用いられている。生活機能低下予防にあてはめる. を理解し,高齢期の問題を幅広い視点から捉え解決方策を学際. と,1 次予防の健康増進としては活動的な時期からの就労支援. 的に樹立する老年学的アプローチが重要となる。. や環境整備などによる参加の確保や運動など,特異的予防とし ては転倒による骨折予防のためのヒッププロテクターなどが該. 老年学(Gerontology)とは. 当する。2 次予防の早期発見としては,高齢者総合的機能評価.  老年学という用語はロシアの生物学者メチニコフ(1903 年). (Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)や基本チェッ. によるギリシャ語の老人「geront」と研究「logia」からなる造. クリスト,早期対策としては福祉用具の利用などが該当する。. 語である 3)。. 3 次予防には急性期,回復期,維持期のリハビリテーションな.  老年学が扱うおもなテーマとしては,①加齢変化の科学的研. どが該当する。. 究,②人文学的研究(歴史,哲学,文学,宗教など) ,③高齢. 予防理学療法の実践場面で見落としがちな視点. 社会の問題の発見と解決のための研究,④上記の応用(産業老 年学,教育老年学など) ,⑤世代間問題などが挙げられる 4)。.  まず,対象は予防段階により区別されるのではなく,対象に. これらの高齢者や高齢社会の諸問題に関する幅広いテーマの解. 必要な予防は,すべての段階にわたることを見逃してはならな. 明と解決に取組む老年学の特徴は,その学際性にある。老年学. い。70 歳の元気な高齢者を例に挙げると,介護予防の面からは,. の教育,研究,実践を行う専門機関として 2002 年に我が国で. 就労,社会参加支援などの 1 次予防の取組みが重要である。一. はじめて開設された筆者が属する桜美林大学院の老年学専攻で. 方では,生活習慣病やがんなどの疾病に加え生活機能低下や老. は,表に示すような関連学問を修め,研究法,解析法,情報処. 年症候群のリスクの早期発見,早期治療という 2 次予防も欠か. 理法などの知識,研究能力を身につけ,超高齢社会が抱える課. せない。さらには,すでに慢性疾患を有しており,3 次予防に. 題を広い視野で解明・解決できるジェロントロジストを育成し. 該当する疾病の治療や管理の必要がある人がほとんどという特. ている。. 徴がある。  また,予防理学療法の対象は,高齢で慢性疾患を有するハイ *. Gerontological Approach in the Field of Preventive Physical Therapy ** 桜美林大学大学院老年学研究科 教授,医師 (〒 194‒0294 東京都町田市常盤町 3758) Shuichiro Watanabe, MD, PhD, Professor: Graduate School of Gerontology, J. F. Oberlin University キーワード:予防,理学療法,老年学. 予防理学療法に関連する老年学的アプローチの具体例 ―健康・医療・福祉のまちづくりの取組み  今日,健康づくりの重要な柱として「健康支援環境」の整備 が求められている。しかし,現状では,回復期リハビリテー ションを経た高齢者が自宅生活に戻った後,道路事情や住宅環 境,福祉用具の未整備などにより活動や参加が阻害され再び要 介護状態になることが少なくない。また,生活施設が郊外化し,.

(2) 806. 理学療法学 第 42 巻第 8 号 表 1 桜美林大学大学院老年学専攻博士前期課程の主な開講科目 【コア科目】  老年学特論. 老年心理学特論. 老年家族社会学特論.  老年医学特論. 老年社会学特論. 老年ヘルスプロモーション特論.  老年社会福祉学特論. 老年保健学特論. 【研究基礎科目】  老年社会学演習. 統計解析法特論. 老年学情報処理法特論.  老年保健学演習. 老年心理学演習. 老年社会科学研究法特論.  老年学文献講読. 老年学実習特論. 老年学実地実習.  質的研究法特論. 英語発表法特論. 【専門科目】  老年ケア特論. 回想心理学特論. 臨床回想心理学特論.  老年疫学特論. 現代社会と老年学. 老年ケアマネジメント特論.  死生学特論. 老年臨床心理学特論. 老年精神医学特論.  介護保険論. 老年政策科学特論. 老年学特殊講義.  老年発達学特論. 医療機関や食料品入手のためのアクセスが困難な高齢者が増加. 定されることが多いが,高齢期の予防がめざすものは,単に運. し,歩行が少なくなる一方,車を利用できない高齢者の日常生. 動機能や栄養状態などの個々の要素の改善にとどまらない。心. 活への影響が深刻になっている。. 身機能の改善や健康を資源とし,環境整備などを通じて高齢者.  そこで筆者らは国土交通省の健康・医療・福祉まちづくり研. の活動や参加を向上させ,QOL を向上させることにある。リ. 究会において,超高齢社会に対応したまちづくりのあり方を検. ハビリテーションの父と呼ばれる Howard Rusk 博士も,その. 討してきた。研究会での調査・検討の結果,高齢者が休憩しな. 師の George Morris Piersol 教授が遺した,to add life to years,. いで歩ける距離は概ね 700 m 以内であること,高齢者の徒歩. not just years to life(人生に歳月を加えるのではなく,生き生. での外出を支援する環境として,徒歩圏域に生活施設があるこ. きとした人生を歳月に加える)という言葉をしばしば取り上げ. と,サロンなどの高齢者の居場所があること,沿道の景観がよ. ている 7)。この箴言は対象に向ける私たちの視点のあり方の教. いこと,休憩施設やベンチやトイレなどの存在,道路横断等の. えであると同時に,私たち自身の生き方の道しるべでもある。. 安全性が高いこと,道路の凹凸や段差が少ないことなどが重要 であることが明らかとなった。これらの研究成果として「健 康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン」5)6)を策定 した。健康・医療・福祉のまちづくりに特に重要な取り組みと して,住民のセルフケア能力向上のための教育・支援,コミュ ニティ活動の活性化,参加の促進,概ね小学校区に相当する半 径 1 km 程度の徒歩圏域への生活拠点の集中的配置(コンパク トシティ化) ,街歩きを促す歩行空間の形成,公共交通の利用 環境を高めることを提唱している。このような取組みをすすめ るためには,他業種,異業種との協働が不可欠となる。いろい ろな分野を統合した学際的な老年学的アプローチが,予防理学 療法の実践のうえではますます必要になってくるものと考えら れる。. おわりに  予防理学療法のアウトカム指標として運動機能指標のみが設. 文  献 1) Leavell HR, Clark EG: Textbook of Preventive Medicine, McGrawHill, New York, 1953. 2) 渡辺修一郎:運動器の向上とリスク管理.GPnet, 2008; 55: 60‒65. 3) Kastenbaum R: Gerontology. In: Maddox GF, et al. (eds): The Encyclopedia of Aging, Springer, New York, 1987, pp. 288‒290. 4) 柴田 博:老年学の定義と内容,老年学要論―老いを理解する ―.柴田 博,長田久雄,杉澤秀博(編),建帛社,東京,2007, pp. 1‒18. 5) 国土交通省まちづくり推進課・都市計画課・街路交通施設課:健 康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン.http://www. mlit.go.jp/common/001087535.pdf(2015 年 7 月 1 日引用) 6) 国土交通省まちづくり推進課・都市計画課・街路交通施設課:健 康・医療・福祉のまちづくりの推進ガイドライン(技術的助言) 参 考 資 料.http://www.mlit.go.jp/common/001049457.pdf(2015 年 7 月 1 日引用) 7) Stanley FW: Low vision rehabilitation and rehabilitation medicine: A parable of parallels. In: Robert WM, Lorraine L (eds): Issues in low vision rehabilitation: Service Delivery, Policy, and Funding, Amer Foundation for the Blind, New York, 1999, p. 56..

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参照

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