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神経症過食症と診断された、無職の20代女性に対する認知行動療法―生活リズム改善と将来への目標設定が奏功した一例―

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Academic year: 2021

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 114

-神経症過食症と診断された、無職の20代女性に対する認知行動療法

―生活リズム改善と将来への目標設定が奏功した一例―

○木内 彩乃1,2)、西川 公平1) 1 )CBTセンター、 2 )仙台青葉学院短期大学学生相談室 【はじめに】 神経性過食症は、ストレスへの身近な解消法やダイ エットの反動として起こりやすいが、過食行動がひと たび形成されると、望ましい食習慣の形成は困難とな ることが多い。 本事例で紹介する A さんの場合も、過食行動の定着 から部屋に閉じこもる時間が増え、生活の幅が縮小し ていた。 本事例を通して、過食への介入方法や目標設定につ いて検討したい。なお、本事例の発表については、ク ライエント本人より、口頭及び書面にて同意を得てい る。 【事例概要】 Cl: A さん 20代女性 無職 家族構成:父、母、姉(別居) 主訴:過食衝動への対処ができない、長時間物事に集 中することができない、自分の思考が分からない。 診断名:# 1 .強迫思考と強迫行為が混合するもの、 # 2 :神経症過食症 現病歴:小学校までは、学級委員や生徒会に選ばれる 優等生だったが、あがり症で人前は苦手だった。中学 時、ストレスによる過食で約20kg増加した。大学入学 後は、過食はありつつ充実した日々を送っていた。就 職後、忙しさで体重は6kgほど減少したが、異性から 馬鹿にされたと感じ、過度な運動と食事制限、自己誘 発 嘔 吐 な ど に よ り、 1 年 で 約15kg落 と し た(BMI: 18)。過食嘔吐が習慣化していたため、 X -1年 2 月に 心療内科を受診したが、「気にしすぎ」と言われ診断 はつかなかった。心身の不調により、休職を経て X 年 3 月に退職。 食への興味関心から、 X 年 4 月に料理業界に転職す るが、対人関係上のストレスにより 3 ヶ月で退職。そ の後過食はエスカレートし、体重は増加した(BMI: 24)。 X 年10月、別の心療内科を受診したところ、認 知行動療法を勧められ、同月、当センターに来所と なった。 投薬:無し 【面接経過】 #1:初回時には、食への執着や、中学時からストレ スによる過食があることが語られた。「食に関するこ とを考え始めると、食べたい衝動を制御できなくな る」と話し、カロリーや栄養素の計算にかなりの時間 を費やしているが、それが逆効果になると話した。 また、家族のストレスが多く、生活を乱されること の苛立ちが大きいことが語られた。両親は仲が悪く、 自分の居場所がなく、特に母に対して、気を使いつつ イライラするようであった。 <困りごとがすべてなくなったとしたら>という質 問に対し、「興味のある仕事がしたい」と答えるが、 「それが何かはまだ分からず、将来が見えない」との こ と で あ っ た。 初 回 時BDI-II( 抑 う つ 症 状 ):35、 Padua Scale(強迫症状):99、SIAS- J(社会的相互作 用不安):32、SPS- J(社会恐怖):34、ASI(外見スキー マ):54。生活リズムの乱れと活動性低下が伺えたた め、時間毎に活動と摂食衝動を記録するHWを出した。 #2:HWから、摂食衝動は在宅時に多く、外出時に少 ないことが判明した。本人なりに衝動への対処を心掛 けていたが、空腹時にはどうにもならないと話した。 <空腹時に食べ物のことを考えないのは普通の人でも 難しい>とノーマライズし、嘔吐しないことが衝動の 低減につながると説明した。衝動低減には、「散歩」 「自然に触れる」「お菓子作り」「英語の勉強をする」 などを挙げたため、それらをリスト化し、生活に取り 入れていくこととした。 過食嘔吐は、家族不在時の昼〜夕食前が多く、 1 人 だと制御困難な様子で、家族不在時の過食嘔吐がパ ターン化していることが伺えた。こうしたパターンを 共有した上で、対処方法を試しつつ、『夕方までに食 べたものに関しては嘔吐しない』目標を定めた。 また、家族への苛立ちを客観的に把握するための ツールとして、苛立ちを感じた状況やその対処を記録 するHWも導入した。 #3:記録表から、家族がマイペースにしていること や、食事に干渉してくることに苛立ちを覚え、しばら く我慢するが次第に苛立ちが増強し、八つ当たり又は 過食するというパターンが多いことが確認された。そ のため、<嫌だと思う行為をされたときは、気付いて もらうため、言葉で表現することが必要>と説明し、 言い方について検討した。 自由にできるお金がなくなってきたため、アルバイ トの面接を受け、採用が決定。プレッシャーから過食 は増加したが、夕方までは嘔吐せず、夜間の嘔吐も週 1 〜 2 回程度に留めていた。「目標に向かっている充 実感があること」が、過食を軽減していたため、今後 ケーススタディ 1

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日本認知・行動療法学会 第44回大会 115 -の目標を改めて確認したが、未だに漠然としていて先 が見えないと語った。しかし、生活の質を向上させる ための短期目標として、「毎朝の散歩」「本を読む時間 を増やす」ことを挙げ、アクションプランを作成した。 #4:アクションプランの達成率は半分程度。しかし、 目標を立て、達成率を振り返ることが励みになると振 り返った。食べ過ぎることはあるものの過食嘔吐はな く、苛立ちへの対処のレパートリーが増えていること で、食への執着も薄らいだ。 また、「まだぼんやりとしているが、海外で生活し たい」と語った。かつて英語を専攻しており、知人が 海外在住ということで、その生活にリアリティと憧れ を抱いていたようである。家族の了解が課題ではある ものの、短期留学を視野に入れ、資金調達と勉強に励 みたいと話した。 短期目標:規則正しい生活、自主勉強。 中期目標:安定した仕事(アルバイト可)、食生活 改善。 長期目標:海外で働き、やりがいのある仕事をする。 #5:アルバイトが本格的に始まり、ストレスの種は 増えたが、「資金調達のために頑張っている」と自己 評価し、休まずに取り組んでいた。行動範囲が広がっ たことで、家族への苛立ちや食への執着が薄らぎ、母 への過度な気遣いも減り、良い意味で「家族も他人」 と割り切るようになった。 #6〜 8 :アルバイトが忙しくなるにつれ、「自分のや りたいこととは違う」「続けられる仕事がしたい」と いう想いを強くした。そんななか、社会人向けの留学 説明会に参加し、奨学金制度や働きながら学べる制度 について情報収集を開始した。この間、過食嘔吐が出 ることもあったが、以前のような強い罪悪感や抑うつ 気分はないと話した。留学を検討していることについ て、家族への伝え方を検討し、ロールプレイを行った。 #9〜10:留学は家族から反対されたが、「想定内のこ と」と捉え、着々と手続きを済ませ、家族も徐々に応 援する姿勢になっていった。疎遠になっていた友人や 家族と一緒に食事をすることも増え、「誰かと一緒の 方が楽しく食事できる」と語り、初回時の主訴がほと んど解決していることを確認した。留学への日が迫っ ていることもあり#10で終結となった。 #その後:終結から 2 年後、本人から近況報告を受け た。留学後は海外で仕事を見つけ、継続中とのことで あった。 【結果】 初回時は毎日のように過食があり、食関連に費やす 時間はおよそ「生活時間の約 7 〜 9 割」と話していた が、終結時は月 1 回程度の過食に留まり、食関連に費 やす時間は、「食事時間以外はほとんどない」と話し た。初回時には、家族とも友人とも接触を避けていた が、終結時には交流時間が増え、共に過ごす時間を楽 しむようになった。また、心理検査上の数値の改善も 確認された(終結時、BDI-II: 1 、Padua Scale:26、 SAIS- J :21、SPS- J : 8 、ASI:37)。 【考察】 A さんは、幼少時から対人関係の苦手さや衝動コン トロールの不得手さがあり、中学〜大学までの過食 は、ストレスからの一時的な回避の手段であったと思 われる。社会人になってからはやせ願望が加わり、体 重コントロールのために過食嘔吐やカロリー計算を行 うようになり、それに伴う食べ物への強迫観念や抑う つ気分などを強めていったことが推測される。そのた め、鬱に対する行動活性化と過食症の治療を並行して 行う必要があると考えられた。 初回時、 A さんは仕事をしておらず、生活リズムの 乱れや過食嘔吐が維持されやすい条件下にあり、家族 間のストレスも過食嘔吐の一因となっていた。そこ で、HWによって過食嘔吐のパターンと気分の波を自覚 し、家族への不満とその対処方法の検討を行った。ま た、「夕方までに食べたものは嘔吐しない」という時 間限定的な嘔吐の禁止を取り入れたことで異常な空腹 感に襲われる頻度は減り、対処のレパートリーの増加 ともあいまって、過食衝動を抑えることができるよう になったと思われる。 また、具体的な目標に向かって動き始めるように なってからは、将来のことが中心的課題となり、家族 へのアサーションを通して、自分の意見を他者に伝え ることへの自信を高めていった。食関連のことが生活 の中心ではなくなったことから、過食衝動を感じるこ とも大幅に減少し、将来につながる行動に取り組んで いるという実績が、望ましい行動の連鎖、生活の質の 向上につながっていったと考えられる。 ケーススタディ 1

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