C A NC ER 17 (2008), p.47-48
ホ ル ト ハ ウ ス 博 士 の 患 い 去
私 が ホ ル ト ハ ウ ス 博 士 (Prof.D r. Lipke B. Holthuis) に初 め て お 会 い し た の は1979年 の4月 28日で,場所はフィリピンのパナイ島にあるイロ イ口市した 。 当時,私はJICA ( 国際協力 機 構) の専門家として SEA D F D E C ( 東南アジア漁業開 発 セ ン タ ー ) のA q uaculture D epartment ( 養殖 部 局 ) で ウ シ エ ビ の 調 査 研 究 を し て い ま し た 。 その日,博士は F A O 関連の公務で阿部局をご訪 問されたのでした 。 当方には勤め先から事前に博 士の来訪は知らされていませんでした。 その頃, 勤め先ではホル トハウス博士が世界的に有名な甲 殻類学者であること,そして私が会いたいと思っ て る こ と な ど を 知 る 人 は い な か っ た の で す か ら 無理もありません。 で,当日私は野外調査に出て 不在で,帰ってから女性秘書に「本尾さん,ホル トハウス博士が来られたのを知ってる?J
と訊か れてピックリ 。即座に 「博士は今どこっ」と尋ね ると,空港に向かつてるとの返事。直ぐさまイロ イロ空港へ車を走らせた次第です。 そして運良く そこで出発前の博士にお会いでき,エピ ・カニ類 について幾っかご教示を頂いたのでした 。サイン (図1) はその時,博士から頂戴したもので,今 も私の“宝物" になっています。 そ れ 以 降, 博 士 は F A O か ら の 出 版 物 を は じ め と し て , エ ピ ・ カ ニ 類 に 関 す る 多 く の 御 高 著 を , 私 が 日 本 に 帰 国 後 も 送 つ て 下 さ い ま し た 。 大 著 のや“T he recent genera ぱ0f the C aridean and St句enoωO叩p仰odid配ea加n shrimps" (1993) などは, 学 術 的
な研究機関に所属していなかった私にはとても貴 重な文献で,今も頻繁に参照しています。 2回目にお会いしたのは2005年7月9 日で,場 所はライデン市にあるオランダ国立自然史博物館
本 尾
洋 でした 。 日本を発つ前に熊本大学の山口隆男先生 から,博物館への道順等 を教えていただいていま したので,初訪問の割には気持は楽でした。早め にアムステルサムのホテルを出て,電車に乗って ライデン駅に到 着し ました 。その日は晴れた好天 気で,初めて訪れるライデンの郊外風景を観なが ら,ゆっくり徒歩で博物館に向かいました。約 束 の10時 に 博 物 館 に 伺 い , 受 付 嬢 に 来 意 を 告 げ る と,来訪者カードが手渡され,博士に連絡してく れました 。事前にアポイントをとっており,程な く懐かしいお顔のホルトハウス博士が玄関口にい らっしゃいました 。 お年は百されていましたが, お元気ですらりとした長身は四半世紀前の初対面 の時のままでした。 にこやかな笑顔で握手の手を 差し伸べられた感激は今も忘れません。 ご挨拶しf
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図1 ホル トハウ ス博士のサイ ン (1979年4 月28日,フィリピ ンの イ口イ口 空港)48
た後,エレベー ターで博士の研究室に案内 されま した 。天井まで届 く書棚 にぎっしりと並んだ文献 や室 内に飾つで ある 数々のエピ ・カニグッズにし ばし見とれてし まいました。 この時,お名前のHolthuis
は「森の家」という意味であることや,日本 の蟹類の陶磁器の深みのある味わいが好きなこと などをざっくばらんにお話ししてくださった博士 の優しいお人柄が今懐かしく思い出されます。 勺方が探している 文献のリストをお見せする と,別階にある 広大な博士専用の図書室に案内 されました。そ こで博士は迷うことなく次々 と文 献を探し出してこられ,必要箇所を コピーして下 さったのです。世界的に超有名な博士が私のお願 いした文献のコピーを撮っておられるのを横で見 ていると,光栄な嬉しさと有り難さを通り越して 申し訳ない気持で恐縮の体でした。 丁度昼頃となり ,博物館の食堂で昼食をご馳走 していただいたことが昨日のように思い出されま す。 なお ,研究室でコエピ類を研究している D r.C. H .
]. M. Fransen
を紹介 されのもこの訪問の時 でした 。 3回目は2006年 6 月12日で ,私が西アフ リカ のギニアで食用エピ ・カニ類の調査をした帰路 にライデンのご研究室にお寄りした時でした (図 2)。 その時, ギニア産の小型エピ ・カニ類を持 参し,種の査定をお願いしました。アルコー ル標 本の中に,本来,インド -丙太平洋に分布するイ 図2 ホルトハウス博士と私 (2006年6月12日,博士の研究室) シガニ属のCharybdis helleri
(和名サツマイシガ ニ) がある ことを指摘され,ギニア沖の大西洋に いることにとても驚いておられました 。同種はス エズ運河を経由して東部地 中海に分布を拡げてい ることは既に知られていたのですが,遠く東大西 洋にまで、拡がっていることが持参した標本で明ら かになった次第です (この内容はCancer
誌16号, 2007年に掲載)。 この訪問の時,一般的な食用十脚甲殻類の属名 の意味 ・由来を幾っかお尋ねしました 。その中で, セ ミエピ科の2
属Ibacus
と 羽enus
( 共に Leach
,1815) は博士ご本人にとってもその意味が不可解 な属名とのことでした 。博士によると, Le
ach
は 多くの難解な属名を残しており,それらを Leach's
puzzles
だと 言っ て苦笑いされていました 。 その後, 階下にある博物館の甲殻類展示コー ナーを案内して下さい ました 。 日本からの雌雄一 対の立派なタカアシガニの標本の前で「これは小 田原利光先生が寄贈なさった標本だよ」と嬉しそ うに説明されていたのがついこの間のことのよう に思い出されます (図3)。 ホルトハウス博士のご冥福を 心 よりお祈りいた します。 (日本海甲殻類研究会Crustacean Society of the }apan Sea)
図3 小田原利光博士寄贈のタカアシガニ 標本を説明されるホルトハウス博士