消化器疾患 食道
1 胃食道逆流症
(gastro-esophageal reflux disease;GERD)
欧米では以前から多くの胃食道逆流症患者がいることが知られており、そ の有病率は10~20%とされてきた。国内では、1990年代には16%と報告 されており、増加傾向にある。 [疾病の概念 ] 胃内容物の食道への逆流によって不快な症状や合併症を起こしている状態 を胃食道逆流症(GERD)と呼んでいる。 [病態] 食道裂孔ヘルニア、加齢、過食などにより生じ、食道噴門部切除術・胃全 摘術などの外科的治療後にも起こる。妊娠・肥満・便秘・運動・円背など による腹腔内圧の上昇、高脂肪食・喫煙・ストレスなどの生活習慣などが 要因となっている。
[発症機序] 嚥下を伴わずに下部食道括約筋の弛緩が起こった場合、胃酸を中心と した胃内容物が食道に逆流し、胃食道逆流症の主な要因となる。 [症状] 胸やけと*呑酸が特徴的な症状で、狭心症様の胸痛、咽頭の不快感、慢 性の咳嗽、気管支喘息などを起こすことがある。 *呑酸:逆流した胃内容物が口腔・下咽頭まで上がり、苦みを伴う 酸っぱい味覚を感じる状態 [合併症] 食道粘膜傷害による逆流性食道炎が重要で、逆流性食道炎の繰り返 しによって、下部食道の扁平上皮が化生円柱上皮に置き換わってくる。 これはバレット上皮と呼ばれ、食道腺癌の発生母地となる。
[診断] 自覚症状を定量的に評価するためにQUEST問診票、Fスケール問診票などを用 いる。症状が食後、特に脂肪食摂取後に起こりやすい。 逆流性食道炎の診断には内視鏡検査が必須であり、重症度の評価にはロサンゼ ルス分類を用いる。 [治療] 胃酸の抑制が主眼となる。 *PPIのfull dose(総量)投与が第一選択の治療法となる。 *プロトポンプ阻害薬(PPI最も強力な胃酸分泌抑制薬) [ナーシングチェックポイント] 生活療法について指導を行う。腹圧の上昇を抑えるために肥満や便秘を解消。 長時間にわたる前かがみの姿勢や食直後の臥位・前屈も避けるよう指導する。 高脂肪食や難消化性炭水化物(豆類など)などを控え、カフェインの摂取、飲 酒、喫煙も逆流を増加させる。
2 食道癌
(esophageal carcinoma) [疾病の概念] 男女比は5:1と圧倒的に男性に多い。平均発症年齢は65歳であり、高齢にな るほど頻度が高くなる傾向がある。 本来の食道上皮である重層扁平上皮から発生したものが扁平上皮癌であり 95%以上、腺癌はバレット上皮から発生する。胃癌と比べてリンパ節転移を きたしやすく、悪性度もより高い。アルコール摂取、喫煙、刺激物の摂取、 低栄養が危険因子として挙げられる。胸部中部食道に発生するものが最も多 い。[診断] ①臨床症状 早期の癌ではほとんどが無症状。時に食道にしみる感じや違和感を訴 えることがある。進行した癌では、嚥下困難やつかえ感などの食物の 通過障害を訴え、体重減少もみられる。 ②存在診断 バリウムによる造影検査と内視鏡検査があるが、造影検査で早期の癌 を発見することは困難であり、内視鏡検査が重要である。粘膜癌の場 合には内視鏡を用いても病変の指摘が困難であり、特殊光である狭帯 域光(narrow band imaging;NBI)を用いた観察が粘膜癌の発見に有 用である。
③深達度診断 癌の食道壁への浸潤の程度(深達度)がリンパ節転移の頻度と相関する ため、その診断は治療方針の決定や予後を推定する上で重要である。 ④進行度分類 深達度とリンパ転移、臓器転移の有無により、食道癌取り扱い規約に基 づいて進行度(stage)の分類を行う。
[治療] 食道癌の治療法には ①内視鏡的治療法 ②外科的根治的療法 ③放射線療法 ④化学療法 などがある。
①内視鏡的治療
絶対的適応は深達度がM2までの病変で、3cm以下、食道 径の2/3周以内の病変が適応。治療法として、従来は内視 鏡的粘膜切除術(endoscopic mucosal resection;EMR)が 主体。最近では内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)が第一選択。
②外科的根治的療法 最も頻度が高い胸部食道癌に対する定型的手術は、右開胸と開腹により 食道切除と頸部・縦隔・上腹部の3領域のリンパ節郭清が行われるのが一 般的である。再建臓器としては胃管が、再建経路としては胸骨後が最も 多い。手術は大きな侵襲を伴い、肺炎、循環不全、縫合不全、反回神経 麻痺など術後の合併症も少なくない。
③放射線療法 主病巣を中心にリニアックで60Gy(グレイ)程度の照射が行われる。全身状 態があまり良くない症例にも施行可能である。 ④化学療法 シスプラチン+フルオロウラシルが標準的治療法。治療成績も向上し、外科 切除に匹敵する成績も示されている。すべての進行度の症例が対象となる。
[ナーシングチェックポイント] 外科手術前の注意として、禁煙、口腔ケア、呼吸訓練など の指導が重要となる。術後は体位変換やタッピングによる喀 痰排出の促進が、合併症の予防に極めて重要である。早期離 床を進める。 化学・射線療法中の注意として、抗癌薬による口内炎、嘔 気、放射線による食道炎などの有害反応により摂食障害が生 じ、栄養状態が悪くなるため、症状の緩和や食べやすい食事 を工夫するなどのケアが大切である。
3 食道アカラシア
(esophageal achalasia) [病態] 食道の蠕動運動が障害され、下部食道が弛緩しないため、食物が胃内に流れ込 みにくい状態となる。 [症状] 食物が食道内にとどまることによる嚥下障害、嘔吐、胸痛、背部痛がみられる。 [診断] X線造影検査 食道下部から食道胃接合部にかけて狭窄像(くちばし状変形)を呈する。 [治療] 非観血的拡張術 内視鏡下にバルーンカテーテルを挿入して強制的に下部食道括約筋を進展させ る方法で、食道アカラシアの第1選択の治療法である。問30 胃食道逆流症について正しいのはどれか。2つ選べ。 1.食道の扁平上皮化生を起こす。 2.上部食道括約筋の弛緩によって生じる。 3.食道炎の程度と症状の強さが一致する。 4.プロトンポンプ阻害薬が第一選択の治療法である。 5.Barrett(バレット)上皮は腺癌の発生リスクが高い。
問30解説 (1) × 胃食道逆流症により胃液の逆流が長期間繰り返し行われ、胃酸の刺 激を受けつづけた食道の扁平上皮は胃の円柱上皮化することがある。 この上皮は、バレット上皮とよばれる。 (2) × 下部食道括約筋の弛緩が要因の1つである。 (3) × 自覚症状と内視鏡による炎症所見は必ずしも一致しない。 (4) ○ 薬物療法の第一選択としては、H₂受容体拮抗薬(H₂ブロッカー) とプロトポンプ阻害薬(PPI)が選ばれることが多い。 (5) ○ 日本人では食道がんの約90%が扁平上皮がんで、2~3%が腺がんと いわれているが、腺がんのほとんどは(1)で述べたバレット上皮か ら発生する。欧米では腺がんが食道がんの半数以上を占める。
問6 食道がん 食道癌について正しいのはどれか。2つ選べ。 1.頸部食道に好発する。 2.放射線感受性は低い。 3.アルコール飲料は危険因子である。 4.日本では扁平上皮癌に比べて腺癌が多い。 5.ヨードを用いた内視鏡検査は早期診断に有効である。
問6解説 (1)× 食道がんの占居部位別の発生頻度は、胸部中部食道が約 50%で最も多く、次に胸部下部食道が約30%、胸部上部食 道が約10%となっている。頸部食道は約6%である。 (2)× 細胞分裂の頻度が高い食道上皮は、放射線の感受性が高い。 (3)○ 食道がんの危険因子には、喫煙や飲酒、熱いものの飲食、 家族性因子などがある。 (4)× 食道がんの約90%が扁平上皮がんである。 (5)○ がん細胞はヨウ素(ヨード)に染色されないため、染色され る正常の組織と区別ができる。内視鏡では確認が困難な小 さながん病変を発見することができるため、早期診断に有 効である。
問7 食道がんの放射線治療 食道癌に対する放射線治療で正しいのはどれか。 1.脊髄の障害は起こらない。 2.治療期間は1週間である。 3.治療期間中は隔離できる個室で管理する。 4.化学療法と併用すると治療の効果が高まる。
問7解説 (1)× 食道がんに対する放射線治療ではまれではあるが、四肢の感 覚障害、運動障害などの放射線脊髄炎が発生する可能性があ る。 (2)× 食道癌に対する放射線治療では総量で50~60Gy照射する。 1回2Gy、週5回照射すると10~12週の治療期間となる。 (3)× 放射線治療により好中球が減少して易感染性になれば、無菌 室などに隔離するが、それまでは一般病棟または外来で管理 する。 (4)○ 放射線治療と化学療法の併用は、単独治療より効果が高いこ とが臨床的に証明されている。
【問題8】全身麻酔下で食道再建術を受ける患者への術前オ リエンテーションで適切なのはどれか。 1.「口から息を吸って鼻から吐く練習をしてください」 2.「手術の直前に下剤を飲んでもらいます」 3.「手術中はコンタクトレンズをつけたままで良いです」 4.「麻酔の際は喉に呼吸用の管を入れます」
正解:4 1.× 食道癌の手術では開胸・開腹となり生体に対する侵襲が大きく、 創部痛などにより呼吸運動が制限されるため呼吸器合併症を引 き起こすリスクが高い。術後は挿管チューブを挿入し、酸素管 理をおこなうが、呼吸器合併症を予防するためできるだけ早く から深呼吸・含漱・気道吸引・体位変換などを効果的におこな う。深呼吸では鼻から吸って口から吐くように説明する。 2.× 術直前ではなく前日に下剤を内服し、腸管内を清浄化する。 3.× 手術中は熟眠状態になるため、コンタクトレンズを着用したま まだと目に負担がかかる。また紛失の恐れもあるため術前に外す。 4.○ 1と同じ。