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YAKUGAKU ZASSHI 137(9) (2017) 2017 The Pharmaceutical Society of Japan 1147 Regular Article 不斉を有する違法薬物が代謝プロファイルに与える影響の NMR メタボローム解析 福原 潔, a

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a昭和大学薬学部,b国立医薬品食品衛生研究所有機化 学部,c国立医薬品食品衛生研究所生薬部 e-mail: ako-ohno@nihs.go.jp ―Regular Article―

不斉を有する違法薬物が代謝プロファイルに与える影響の NMR メタボローム解析

福 原 潔,a 大 野 彰 子,,b 花尻(木倉)瑠理c

A Metabolic Study on the Biochemical EŠects of Chiral Illegal

Drugs in Rats Using

1

H-NMR Spectroscopy

Kiyoshi Fukuhara,aAkiko Ohno,,band Ruri Kikura-Hanajiric

aSchool of Pharmaceutical Sciences, Showa University; 158 Hatanodai, Shinagawa-ku, Tokyo 1428555, Japan: bDivision of Organic Chemistry, National Institute of Health Sciences; 1181 Kamiyoga, Setagaya-ku,

Tokyo 1588501, Japan: andcDivision of Pharmacognosy, Phytochemistry and Narcotics, National

Institute of Health Sciences; 1181 Kamiyoga, Setagaya-ku, Tokyo 1588501, Japan. (Received February 25, 2017; Accepted May 8, 2017)

Considering the pharmacological eŠects of chiral drugs, enantiopure drugs may diŠer from their racemic mixture formulation in e‹cacy, potency, or adverse eŠects. Levomethorphan(LVM) and Dextromethorphan (DXM) act on the central nervous system and exhibit diŠerent pharmacological features. LVM, thel-stereoisomer of methorphan, shows many similarities to opiates such as heroin, morphine and codeine, including the potential for addiction, while the d-stereoisomer, DXM, does not have the same opioid eŠect. In the present study, NMR-based metabolomics were per-formed on the urine of rats treated with these stereoisomers, and showed signiˆcant diŠerences in metabolic proˆles. In urine within 24 h after treatment of these samples, levels of citrate, 2-oxoglutarate, creatine, and dimethylglycine were higher in LVM-treated rats than in DXM-treated rats. While urinary levels of hippurate and creatinine gradually in-creased over 72 h in DXM-treated rats, these metabolites were dein-creased in the urine by 4872 h after treatment with LVM. The levels of these changed metabolites may provide the ˆrst evidence for diŠerent cellular responses to the metabolism of stereoisomers.

Key words―metabolomics; Levomethorphan; Dextromethorphan; NMR

緒 言 疾病の治療や症状の緩和等を目的とする医薬品 は,期待される薬効の評価に加えて安全性について も様々な観点から検証が必要である.特にラセミ医 薬品の場合は,エナンチオマー間で薬理作用に差が あるように,副作用についてもそれぞれの光学活性 体を評価しなければならない,また,ラセミックス イッチによりラセミ医薬品から光学活性な医薬品を 申請する場合は,原則として申請薬物について基本 的な薬物動態試験を実施する.1)さらに,血中のエ ナンチオマーが分割定量されて薬物動態に大きな差 がみられる場合は,その機序について考察しなけれ ばならない.今後,光学活性医薬品やラセミ医薬品 の薬理作用と安全性の評価には,不斉に基づいた検 証の必要性がさらに高まってくる.2) 薬物が引き起こす細胞環境の変化に伴う代謝変動 は,体液中に含まれる組成に影響を及ぼし,これに 伴い尿や血漿中に含まれている化合物組成にも変化 が生じる.メタボローム解析では,尿や血漿中に含 まれる化合物を網羅的に検出し,プロファイリング を行うことによって薬物刺激に対する応答が分析で きる方法である.これまでわれわれは,1H-NMR を用いてアセトアミノフェン投与ラットの尿につい てメタボローム解析を行い薬物性肝障害の発症に よって特徴的に変動する内因性代謝物を明らかに し,さらに,酸化ストレスを伴う毒性発現機構につ いて詳細な解析を行った.3,4) 本研究では同一構造を有していながら異なる薬理 作用 を示 す 光学 異 性体 であ る レボ メト ル ファ ン (Levomethorphan; LVM)及びデキストロメトル ファン(Dextromethorphan; DXM)について,内

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Fig. 1. Chemical Structure of Levomethorphan (LVM) and Dextromethorphan (DXM)

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因性代謝物に及ぼす影響を1H-NMR を用いたメタ ボローム解析で検討した.Figure 1 に LVM 及び DXMの構造式を示す.LVM 及び DXM はともに 中枢神経系に作用し異なる薬理作用の特徴を示すこ とが知られている.L 体の LVM は強い鎮痛及び鎮 咳作用を有するが呼吸抑制作用や依存性形成作用が あるため麻薬として世界的に規制されている.また, LVMの O-脱メチル化されたれレボファノールは, オピオイド受容体に作用して強力な薬理効果を示す 麻薬性鎮痛剤として知られている.5)一方,D 体の DXM は,非麻薬性であり鎮咳作用を有することか ら一般用医薬品として利用されている.しかしなが ら, 高 用量 を摂 取 した 場合 に は, 脳内 に おい て NMDA 受容体中の NR1/NR2A 部位に非競合的拮 抗薬として作用し,解離性幻覚剤としてケタミンや フェンシクリジンと同様の効果を示すことが報告さ れている.6,7)さらに DXM は脳中枢のセロトニン濃 度を上昇させるため,多量に摂取すると多幸感や幻 覚等が発現することが指摘されており,8)米国では 本化合物の過剰摂取による死亡例も報告されてい る.9)日本においても違法ドラッグとしての流通が 認められており,現在は「専ら医薬品として使用さ れる成分本質」として,医薬品医療機器等法上での 規制の対象となっている. 本研究では,LVM と DXM を投与したラット尿 について1H-NMRを測定し,さらにスペクトルの 統計解析と代謝物の同定によるメタボローム解析を 行うことにより,両薬物による内因性代謝物への影 響を明らかにした.また,内因性代謝物質に及ぼす 光学活性体の影響の違いから,麻薬性 LVM に特徴 的な代謝変動についても検討を行った. 実 験 方 法

1. 試薬 LVM は Cerilliant 社(Round Rock) か ら 購 入 し た . DXM, imidazole 及 び sodium 3-(trimethylsilyl)-propionate-2,2,3,3,-d4(TSP)は Sigma-Aldrich社(St. Louis)から購入した.りん酸緩衝 剤粉末(1/15 mol, pH 7.2)及び塩酸(HCl)特級 は和光純薬(大阪)より購入した. 2. 尿試料 動物尿試料採取は過去の報告に示 した通り行った.10)LVM 及び DXM を Dark Agou-ti (DA)ラット(オス,5 週齢,日本 SLC)各 3 匹 に 5 mg/kg ずつ 10 日間連続して腹腔内投与した. 最終投与後,1 匹ずつ代謝ケージに入れて 024, 2448, 4872 hの尿を採取し,分析まで-20°Cで保 存した.動物実験は,国立医薬品食品衛生研究所動 物実験の適正な実施に関する規定に基づき実施され た.本規定は,厚生労働省の所管する実施機関にお ける動物実験等の実施に関する基本方針(平成 18 年 6 月 1 日厚生労働省通知)等の主旨に則り作成さ れた. 3. 試料調製 尿試料を解凍後,520 mL 分注

し Merck 社(Darmstadt)から購入した

Ultrafree-MC (0.45mm)にて不溶物を遠心濾過(10000 rpm, 4°C, 10 min)した.濾液 500 mL をミクロチューブ に採取し,0.285Mリン酸緩衝液(pH 7.2)を 123 mL(最終濃度 50 mM),1Mimidazole/D2O 溶液を 7mL(最終濃度 10 mM),5 mMTSP/D2O溶液を 70mL(最終濃度 0.5 mM)それぞれ添加し,700 mL になるように1H-NMR用サンプルを調製した. 4. 1H-NMR測定 NMR測定装置は1H-NMR 専用コールドプローブを装備した Varian 600 MHz NMR spectrometerを用いた.測定は Presaturation NOESY 法(one dementional 1H-NOESY spectra,

2.0 s relaxation delay, 100 ms mixing time, 298 K)に

より 128 回の積算で行った.11)測定後,TSP のシグ ナルを 0 ppm としてケミカルシフトの補正を行っ た. 5. 多変量解析 NMR Suite 7.5 software (Chenomx 社製)を用いて,1H-NMR スペクトル の 0.0410.0 ppm について軽水の観測領域(4.74 4.94 ppm)を除いた後,0.04 ppm の幅でバケット 積分を行い,ピークエリアリスト(Microsoft Excel format, .xlt)を作成した.縮約した NMR データ

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Fig. 2. Stack Plot of the 600 MHz1H-NMR Spectra of Whole Rat Urine from an Animal Administrated LVM or DXM

は SIMCA-P+(Umetrix 社製)で主成分分析を行 い,外れ値がないことを確認後,部分最小二乗法判 別解析(partial least squares discriminant analysis; PLS-DA)を行った.PLS-DA で変動を示す軸につ いては S プロット表示を行い,変動に寄与してい るケミカルシフトを解析した.ケミカルシフトから の内因性代謝物の同定は NMR Suite 7.5 で行った. 結 果 及 び 考 察 1. 1H-NMR 測定 と統計解 析 DA ラット に LVM及び DXM 投与後,024 h, 2448 h, 4872 h に採取した尿に,D2O (10%)及び,内部標準試料 として imidazole (10 mM)と TSP (0.5 mM)を加 えて調製し,1H-NMR を測定した.1H-NMR の測

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Fig. 3. PLS-DA Scores Plot Based on1H-NMR Spectra of Whole Rat Urine from an Animal Administrated Levomethorphan or

Dextromethorphan

Circles, 024 h post-dose; Triangle, 2448 h post-dose; Squares, 4872 h post-dose. Open and closed symbols represent LVM and DXM administrated rats, respectively.

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定は軽水のシグナルを消去するため,presaturation NOESYのパルスシークエンスを用いて行った.代 表的な尿の1H-NMR スペクトルを Fig. 2 に示す. 尿の1H-NMR スペクトルは様々な内因性代謝物に 由来するピークが確認された.ピークの同定は測定 データの FID を1H-NMR による代謝物解析ソフト ウェア(NMR Suite)にエクスポートした後,尿中 代謝物スペクトルのデータベースによるフィッティ ングを行うことによって解析した.その結果,クエ ン酸,コハク酸,2-オキソグルタル酸,クレアチン などのエネルギー代謝に関する代謝物,アラニンや スレオニンなどのアミノ酸及び尿素,タウリン,ト リメチルアミン N-オキシド(TMAO),アラント イン,馬尿酸,ギ酸,コレステロール,脂質などを 同定 す るこ とが で きた .一 方 ,ス ペク ト ルか ら LVM と DXM に由来するモルフィナン骨格の特徴 的なケミカルシフトのシグナルに対応する N-メチ ル基(2.26 ppm 付近)及びメトキシ基(3.83 ppm 付近),芳香環領域(6.46.8 ppm 付近)のピーク は,検出することができなかった. 次に両薬物投与による内因性代謝物の特徴的な変 動を明らかにするために,測定したすべての尿の 1H-NMRスペクトルデータを用いた統計解析を試 みた.1H-NMR スペクトルを 0.04 ppm 幅毎のケミ カルシフトと相当する積分値で縮約したデータにつ いて多変量解析を行った.その結果,部分最小二乗 法判別解析(PLS-DA)を行ったところ,Fig. 3 に 示すようにすべての尿の1H-NMRスペクトルは t[2] 軸と t[3] 軸による表示で分類することができ た.この PLS-DA 表示では,DXM 投与後の 24 48 hの尿と 4872 h の尿との分離が不十分ではある が t[2] 軸は負方向から正方向に尿採取の時間とほ ぼ相関した.また,t[3] 軸は DXM 投与尿が正方 向に,LVM 投与尿が負方向に示された.したがっ て,t[2] は両薬物投与後の時間経過を反映する軸, t[3] は光学異性体に特徴的な軸と考えられた. 2. 薬物に特徴的な内因性代謝物 測定した NMRスペクトルからそれぞれの薬物によって特徴 的に変動する内因性代謝物の経時変化を明らかにす るために,採取時間毎の PLS-DA とローディング S-プロットを行った.そして,LVM と DXM 投与 後,時間経過によって異なる変動を示す代謝物を特 定した.Figure 4 に採取時間毎の PLS-DA とロー ディング S-プロットの結果を示す.LVM と DXM を投与した尿はすべての採取時間で別々のグループ に分かれることから,尿中の代謝物パターンは両薬 物投与によって異なることが示された.そこでロー ディング S-プロットからこのグループ分離に寄与 しているスペクトルのケミカルシフトを特定し,採 時間毎に異なった変動を示す代謝物を明らかにし た.その結果,024 h ではジメチルグリシン(3.7 ppm),クエン酸(2.54 ppm),クレアチン(3.02

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Fig. 4. Series of Partial Least Squares Discriminant Analysis (PLSDA) of1H-NMR Data of Rat Urine at Various Time Points

fol-lowing the Administration of LVM or DXM

A) PLS-DA scores plot based on1H-NMR spectra of whole rat urine at 024, 2448, 4872 h post-dose, and B) loading S-plot for t[1] showing relative

contri-bution of bin/spectral variables to clustering of LVM and DXM administrated rats. Open and closed symbols represent LVM and DXM administrated group, respectively.

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Fig. 5. The Levels of the Representative Metabolites in Urine Contributing Segregation between LVM and DXM Administrated Rats All peak intensities were calculated in terms of actual integrated value of individual NMR spectral peaks normalized to total spectral intensity. Gray bar; DXM administrated rats, black bar; LVM administrated rats. Data are expressed as mean±S.E. p<0.05, p<0.01, p<0.001, compared to control as determined by Student's t-test.

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ppm),2-オキソグルタル酸(2.42 ppm)が LVM 投与尿に高濃度にみられ,タウリン(3.42 ppm) は DXM 投与尿に高濃度にみられた.2448 h でも ほぼ同様の傾向として,ジメチルグリシン(3.7 ppm),クレアチン(3.02 ppm)が LVM 投与尿で 高く,タウリン(3.42 ppm)が DXM 投与尿で高 くみられた.また,TMAO(3.26 ppm)は LVM に特徴的に増加することが示された.一方,薬物投 与後 4872 h では,024 h 及び 2448 h で変動がみ られた代謝物は,タウリンとクエン酸を除いて二群 への 分 離に 寄与 し てい ない こ とが ロー デ ィン グ S-プロットから示された.4872 h に変動を示す代 謝物としては,馬尿酸(7.54 ppm),アラントイン (5.38 ppm),クエン酸(2.54 ppm),クレアチニン (4.02 ppm),脂質(0.86 ppm)が DXM 投与尿で 高濃度を示した.また,タウリン(3.42 ppm)は 0 24 h 及び 2448 h では DXM 投与尿で高く,4872 h では LVM 投与尿で高濃度を示した. 3. 内因性代謝物の経時変化 PLS-DA とロー ディング S-プロットから,LVM と DXM 投与に よって異なる変動を示す代謝物を明らかにすること ができた.そこで次に,これらの代謝物の変動がそ れぞれの薬物に特徴的であることを,代謝物の経時 間変化から検証した.代謝物に由来する1H-NMR シグナルの高さの経時変化を Fig. 5 に示す.LVM と DXM を腹腔内投与すると,未変化体と抱合体 の血漿中濃度は約 30 min で最大値を示し,約 12 h で検出されなくなる.10)また,これらの代謝物は 24 h 以内に尿中へ排泄されることから,化合物に よる生体影響とそれに伴う内因性代謝物の変動は 024 h の尿で強く検出されることが予測される. 実際,024 h のローディング S-プロットで両化合 物による代謝の違いを特徴づけるジメチルグリシ ン,クレアチン,2-オキソグルタル酸の量は有意差 がみられ,LVM 投与尿で高濃度に検出された.こ れらの代謝物は両化合物による生体影響の違いを特 徴づけるバイオマーカーとして有効であることを示 唆している.2-オキソグルタル酸及びクレアチンは

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エネルギー代謝に関する代謝産物であり,また,ジ メチルグリシンはコリンの分解産物であることか ら,これらの代謝物濃度の差は LVM と DXM の細 胞機能への影響の違いが内因性代謝物濃度に影響を 与えた結果と考えられる. 同 条 件 下 で DA ラ ッ ト に LVM 及 び DXM を 5 mg/kg ずつ腹腔内投与し,尿中薬物分析を行った 結果,どちらの薬物も未変化体とその代謝物は,ほ とんどが摂取してから 24 h 以内に排泄されること が報告されている.10)しかし薬物の代謝様式は大き く異なり,LVM は O-脱メチル化を経て O-グルク ロン酸抱合体として排泄される.一方,DXM は O,N-脱メチル化体が O-グルクロン酸抱合を受けて 排泄される.10)このように LVM と DXM は薬理学 的な作用の違いに加えて光学選択的な代謝が認めら れることから,内因性代謝物への影響も光学異性体 間で大きいことが考えられる.特に 024 h の段階 で 2-オキソグルタル酸及びクレアチン,ジメチル グリシンが麻薬性 LVM で高値を示したことは,エ ナンチオマー間で異なる薬理作用を示した結果,内 因性代謝物濃度に差が現れたことを示唆している. これらの代謝物は,様々な神経障害においても尿中 で検出されることから,1214)今回の 2-オキソグルタ ル酸及びクレアチン等の変動は,LVM が神経障害 を引き起こした可能性を示しており,強い依存性形 成作用との関連性が考えられた.さらに,これらの 代謝物が高値でなかった DXM は,神経障害の一 種である仮性球情動の治療に使用されることから, これらの内因性代謝物の変化が,両異性体の薬理活 性と関連している可能性があるものと考えられた. また,4872 h 採取尿ではタウリンが DXM 投与と 比べて LVM 投与で高く,馬尿酸,脂質が DXM 投 与で高いことから,光学選択的な内因性代謝物への 影響は薬物が排泄された 24 h 以降も続いているこ とが明らかとなった.これらの特徴的な代謝変動の 原因は不明だが,光学異性体が生体に与える影響の 違いは細胞環境の変化として強く現れていることが 示唆された. ま と め 薬物は生体への直接作用のみならず,薬理作用及 びそれに伴うホメオスタシスによって一時的に生体 内の代謝系を大きく変動させる.これまでの研究 で,われわれは解熱作用を示すアセトアミノフェン が肝障害を誘発すると内因性代謝物の量が大きく変 動することを明らかにした.3)不斉を有する薬物の 場合,レセプターや代謝酵素など不斉を認識する生 体分子とエナンチオマー間で異なる相互作用を示す 場合があり,薬効や副作用に大きく影響する.そこ で本研究では,ラセミ医薬品や光学活性医薬品の不 斉に係わる代謝の違いを明らかにすることを目的と して,中枢神経系への作用が大きく異なる LVM と DXM について,ラットに投与し,1H-NMR による メタボローム解析を行った.さらに,解析結果を基 に,細胞環境の変化を伴う代謝変動に対する光学異 性体の影響について検討を行った. LVM及び DXM は 24 h 以内に両薬物の未変化体, O-脱メチル化体,N-脱メチル化体,また,それに 続く O-グルクロン酸抱合体が排泄される.10)しか し,024 h 採取尿の1H-NMRスペクトルからは薬 物由来のピークは検出できなかった.両薬物に由来 する代謝物の尿への総排泄量は約 400500 mg であ ることから,10)薬物の尿中濃度は本研究で使用した 600 MHz の NMR では検出限界以下であったと考 えられる.一方,エネルギー代謝に関する内因性代 謝物は NMR の検出感度でも尿や血清などの生体試 料からは十分測定可能である.LVM と DXM の投 与尿は類似した1H-NMRスペクトルを示したが, 多変量解析によって特徴的なスペクトル変化を特定 することで,薬物投与によって変動する内因性代謝 物を明らかにすることができた.両薬物の尿中の内 因性代謝物パターンに与える影響は,光学異性体で 大きく異なること,また,投与終了後,未変化体及 び薬物由来代謝物が排泄された 24 h 以降も内因性 代謝物の変動がみられることがわかった. 以上,光学異性体の LVM と DXM はラットに反 復投与することで尿中の内因性代謝物に異なる影響 を与えることが明らかとなった.麻薬性の LVM と 非麻薬性の DXM で内因性代謝物パターンに大き な違いがみられたことは,両薬物の有害作用の差異 を議論する上で有用な知見になることが考えられ る.また,これらの結果は光学活性体のメタボロー ム解析で,両者の安全性予測が行える可能性を示唆 するものである.今後はラセミックスイッチにより 開発された光学活性医薬品についてもメタボローム 解析を行い,医薬品の安全性予測評価法としての有

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1154 YAKUGAKU ZASSHI Vol. 137 No. 9 (2017)

用性について検証を行う予定である.

謝辞 本研究は,厚生労働省科学研究費補助金

で行われたものであり,関係各位に深謝いたします.

利益相反 開示すべき利益相反はない.

REFERENCES

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Fig. 1. Chemical Structure of Levomethorphan (LVM) and Dextromethorphan (DXM)
Fig. 2. Stack Plot of the 600 MHz 1 H-NMR Spectra of Whole Rat Urine from an Animal Administrated LVM or DXM
Fig. 3. PLS-DA Scores Plot Based on 1 H-NMR Spectra of Whole Rat Urine from an Animal Administrated Levomethorphan or Dextromethorphan
Fig. 4. Series of Partial Least Squares Discriminant Analysis (PLS DA) of 1 H-NMR Data of Rat Urine at Various Time Points fol- fol-lowing the Administration of LVM or DXM
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参照

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