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370 日補綴会誌 5 巻 4 号 (2013) j 広島大学大学院医歯薬学保健学研究院応用生命科学部門先端歯科補綴学研究室 k 九州大学大学院歯学研究院インプラント 義歯補綴学 l 神奈川県, 西川歯科医院 m 九州歯科大学顎口腔欠損再構築学 n 北海道大学病院高次口腔医療センター o 北海道医療

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369 a (公社)日本補綴歯科学会 診療ガイドライン委員会 b (公社)日本補綴歯科学会 咬合違和感エキスパートパネル c 神奈川歯科大学大学院歯学研究科顎咬合機能回復補綴医学講座 d 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座(歯科補綴学第一) e 鶴見大学歯学部クラウンブリッジ補綴学 f 鶴見大学歯学部高齢者歯科学 g 大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔機能学講座(口腔解剖学第二) h 昭和大学歯学部歯科補綴学 i 東京都,医療法人社団グリーンデンタルクリニック ポジションペーパー 抄 録  難症例の1つに咬み合わせ異常感や違和感があり,その訴えに対応する客観的所見が確認できない症例 に遭遇することがある.通常,咬合紙,ワックス,シリコーンなどを用いて確認はするものの,咬合接触 状態に特に異常は見つからない.さらに,患者の咬合に関する執拗な訴えに対して歯科医師が患者に問題 の部位を確認してもらい,患者の指示により咬合調整を行ってしまうといった患者の感覚主導型治療に 陥ってしまうことがある.その結果,患者の訴えは改善しないばかりか,逆に悪化することもさえもある. そして,患者と歯科医師の信頼関係が壊れ,思わぬ方向に陥ってしまうことも珍しくない.  このような患者が訴える咬合に関する違和感に対して,社団法人日本補綴歯科学会,診療ガイドライ ン委員会において,平成 23 年度「咬合感覚異常(症)」に関する診療ガイドラインの策定が検討された. 診療ガイドラインの策定に際し,委員会の作成パネルによるガイドライン策定を試みたが,咬合感覚異常 (症)に関する十分に質の高い論文は少なく,診療ガイドラインの作成には至らなかった.そこで,本委 員会のパネルで協議した結果,「咬合感覚異常(症)」に対する日本補綴歯科学会としてのコンセンサス・ ミーティングを開催して本疾患の適切な呼称の検討を行った.また事前のアンケート調査結果から,この ような病態を「咬合違和感症候群 (occlusal discomfort syndrome)」とした.

 今回のポジションペーパーは,今後の診療ガイドラインの作成とそれに対する研究活動の方向性を示す 目的で,過去の文献と咬合違和感症候群患者のこれまでの歯科治療の経過や現在の状況について実施した 多施設による患者の調査結果をもとに作成された. 和文キーワード 咬合接触,咬合違和感,咬合感覚異常(症),咬合違和感症候群

咬合違和感症候群

玉置 勝司a,c, 石垣 尚一b,d, 小川  匠b,e, 尾口 仁志b,f, 加藤 隆史b,g, 菅沼 岳史b,h, 島田  淳b,i, 貞森 紳丞b,j, 築山 能大b,k, 西川 洋二b,l, 鱒見 進一b,m, 山口 泰彦b,n,

會田 英紀a,o, 小野 高裕a,p, 近藤 尚知a,q, 塚崎 弘明a,h, 笛木 賢治a,r, 藤澤 政紀a,s,

松香 芳三a,t, 馬場 一美a,h, 古谷野 潔a,k

Occlusal discomfort syndrome

Katsushi Tamaki, DDS, PhDa,c, Shoichi Ishigaki, DDS, PhDb,d, Takumi Ogawa,DDS, PhDb,e,

Hitoshi Oguchi, DDS, PhDb,f, Takafumi Kato, DDS, PhDb,g, Takeshi Suganuma, DDS, PhDb,h,

Atsushi Shimada, DDS, PhDb,i, Shinsuke Sadamori, DDS, PhDb.j, Yoshihiro Tsukiyama, DDS, PhDb,k,

Youji Nishikawa, DDSb,l, Shin-ichi Masumi, DDS, PhDb,m, Taihiko Yamaguchi, DDS, PhDb,n,

Hideki Aita, DDS, PhDa,o, Takahiro Ono, DDS, PhDa,p, Hisatomo Kondo, DDS, PhDa,q,

Hiroaki, Tukasaki, DDS, PhDa,h, Kenji Fueki, DDS, PhDa,r, Masanori Fujisawa, DDS, PhDa,s,

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Ⅰ.緒  言  歯科臨床の中には“難症例”というものがある.例 えば,根管が極度に彎曲していてリーマーが到達しな い,歯根全周にわたる歯槽骨の吸収があり保存が困難, 臼歯部に補綴スペースがなく補綴治療が困難,下顎無 歯顎で顎堤に著しい吸収があり義歯の維持・安定が得 られないなど様々な症例がある.これらは確かに臨床 上,難症例の範疇にあたるが,その多くは当該部位に おける解剖学的形態が問題の主体であり,それは客観 的(他覚的所見として)に確認することができるもの である.また,これらは所見として明確で,対策は具 体的に設定することが可能なため,現在の歯科医学の 技術的,材料的な進歩や開発により,解決可能な状況 になっているのは周知の如くである.  一方,難症例の中に“咬み合わせに関する異常感や 違和感”のように,その訴えに対応する客観的所見が 確認できない症例を経験する.「歯の当り方がおかしい」 と患者が訴えると,歯科医師は咬合状態を観察し,通 常,咬合紙,ワックス,シリコーンなどを用いて確認 はするものの,咬合接触状態に特に異常は見つからな い.さらに,患者の咬合に関する執拗な訴えに対して 歯科医師が患者に問題の部位を確認してもらい,患者 の指示により咬合調整を行ってしまうといった「患者 の感覚主導型治療」に陥ってしまうことがある.その 結果,患者の訴えは改善しないばかりか,逆に悪化す ることもさえもある.そして,患者と歯科医師の信頼 関係が壊れ,思わぬ方向に陥ってしまうことも珍しく ない.  このような患者が訴える咬合に関する違和感に対し て,社団法人日本歯科補綴歯科学会,診療ガイドライ ン委員会において,平成 23 年度「咬合感覚異常(症)」 に関する診療ガイドラインの策定が検討された.診療 j 広島大学大学院医歯薬学保健学研究院応用生命科学部門先端歯科補綴学研究室 k 九州大学大学院歯学研究院インプラント・義歯補綴学 l 神奈川県,西川歯科医院 m 九州歯科大学顎口腔欠損再構築学 n 北海道大学病院高次口腔医療センター o 北海道医療大学歯学部咬合再建補綴学 p 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座(歯科補綴学第二) q 岩手医科大学補綴・インプラント学講座 r 東京医科歯科大学部分床義歯補綴学分野 s 明海大学歯学部歯科補綴学分野 t 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部咬合管理学分野 a Japan Prosthodontic Society, Clinical Guideline Committee

b Japan Prosthodontic Society, Non-metal Clasp Denture Expert Panel

c Department of Prosthodontic dentistry for function of TMJ and Occlusion, Kanagawa Dental University d Department of Fixed Prosthodontics, Osaka University Graduate School of Dentistry

e Department of Removable Prosthodontics, Tsurumi University School of Dental Medicine f Department of Removable Prosthodontics, Tsurumi University School of Dental Medicine g Department of Oral Anatomy and Neurobiology, Osaka University Graduate School of Dentistry h Department of Prosthodontics, Showa University

i Corp. Green Dental Clinic, Tokyo

j Department of Advanced Prosthodontics, Applied Life Sciences, Institute of Biomedical & Health Sciences, Hiroshima University

k Section of Implant and Rehabilitative Dentistry, Division of Oral Rehabilitation Faculty of Dental Science, Kyushu University

l Nishikawa Dental Clinic, Kanagawa

m Division of Occlusion & Maxillofacial Reconstruction, Department of Oral Function, School of Dentistry, Kyushu Dental University

n Department of Temporomandibular Disorders, Center for Advanced Oral Medicine, Hokkaido University Hospital o Division of Occlusion and Removable Prosthodontics, Health Sciences University of Hokkaido

p Department of Prosthodontics, Gerodontology and Oral Rehabilitation, Osaka University Graduate School of Dentistry q Department of Prosthodontics and Oral Implantology, Iwate Medical University

r Section of Removable Partial Denture Prosthodontics, Tokyo Medical and Dental University s Division of Fixed Prosthodontics, School of Dentistry, Meikai University

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ガイドラインの策定に際し,委員会の作成パネルによ るガイドライン策定を試みたが,咬合感覚異常(症) に関する十分に質の高い論文は少なく,診療ガイドラ インの作成には至らなかった.そこで,本委員会のパ ネルで協議した結果,「咬合感覚異常(症)」に対する 日本補綴歯科学会としてのコンセンサス・ミーティン グをパネル中心に開催して本疾患の適切な呼称の検討 を行い,また事前のアンケート調査結果から,このよ うな病態を「咬合違和感症候群(occlusal discomfort syndrome)」とした.   今回のポジションペーパーは,今後の診療ガイドラ インの作成とそれに対する研究活動の方向性を示す目 的で,過去の文献と咬合違和感症候群患者のこれまで の歯科治療の経過や現在の状況について実施した多施 設による患者の調査結果をもとに作成された. Ⅱ.咬合違和感  咬合違和感を理解する前に,「口腔異常感症」 を理解 しておく必要がある.これは「口腔周辺に異常感覚を 有するが,症状を説明できる明確な身体疾患が見出さ れない症例の総称」と定義され “oral paresthesia” と 英文表記されている.これは歯肉,舌,頬粘膜,顎骨 などの疼痛,麻痺感,掻痒感,灼熱感,触覚異常,知 覚過敏,異物感,違和感,そして“咬合の異常感”も 包め広義に定義されている1).また,口唇麻痺研究会 によれば,パレステジア(paresthesia)とは,特に刺 激が与えられていないにもかかわらず,自発性にチク チク,ビリビリ,熱感などを感じること.ジステジア (dysesthesia)とは,正常では痛みと感じない程度の 刺激に対し不快な,耐え難い痛みまたは異常感覚を感 じることとある2).“咬合違和感”は後者に該当するも のと思われる.  海外では古くから「咬合違和感」に相当する用語とし て,occlusal habit neurosis (Tishler, 1928), positive occlusal sense (Posselt, 1962), occlusal neurosis (Ramfjord, 1961), phantom bite syndrome (Marbach, 1976), positive occlusal awareness (Okeson, 1985), persistent uncomfortable occlusion (Harris et al, 1993), proprioception dysfunction (Green, Gelb, 1994) などが報告されている.国内では,窪木は咬合違 和感の診断樹を提唱し,明らかな咬合の不調和が認め られる場合と,認められない場合にまず分け,それぞれ において広義の咬合違和感(異常感)の存在を提示して いる.その中で明らかな咬合の不調和が認められず,特 発性のものとして“咬合感覚異常(症)”を提案してい る3).山口らは難治的な咬合違和感患者の臨床研究から

“persistent uncomfortable occlusion” と表現し4),玉

置らは咬合異常感を訴える患者の実態と対応について 報告している5)  最近では,咬合違和感に近い用語として,Clark ら による “occlusal dysesthesia” が提唱され,「歯髄疾患, 歯周疾患,咀嚼筋ならびに顎関節疾患のいずれも認め られず,臨床的に咬合異常が認められないにもかかわ らず 6 カ月以上持続する咬頭嵌合位の不快感」 と定義 され6),それに関するレビュー7)や心理社会的評価に関 する報告もある8)  これらの報告を考慮して,著者9)は本疾患概念をま ず幅広く捉えて「咬合違和感とは,明らかな咬合の不 調和が認められる場合,また明らかな咬合の不調和が 認められない場合も含めて,歯・歯周組織・咀嚼筋・ 顎関節・末梢神経(神経筋接合部),末梢-中枢神経の 問題によって惹起され,上下歯の接触,歯や歯列自体 に関する何らかの感覚や知覚の不具合をさす.」 と提案 している. Ⅲ.咬合違和感症候群の定義(広義と狭義)  このように,現在,咬合の違和感に対する歯科医学 的に用語の統一はなされておらず,定義も明確でない のが現状である.そこで,このような咬合に関連す る様々な違和感を訴える病態を「咬合違和感症候群 (occlusal discomfort syndrome)」として以下のごと

く仮分類した.  広義のもの:咬合の違和感を訴える病態の包括的症 候群で,明らかな咬合の不調和が認められる場合も, また明らかな咬合の不調和が認められない場合(いわ ゆる特発性)も含めたものをさす.  狭義のもの:咬合とは無関係に特発的に発症する3) あるいはClarkらが提案している“occlusal dysesthesia” の定義である「歯髄疾患,歯周疾患,咀嚼筋ならびに顎 関節疾患のいずれもが認められず,臨床的に咬合異常 が認められないにもかかわらず 6 カ月以上持続する咬 頭嵌合位での不快感」6)に該当するものをさす(特発性 という意味で,これが“咬合感覚異常(症)”にあたる であろう).  ここで,『明らかな咬合の不調和』をどのように定義 し,どのような場合をそれと判定するかが重要な問題 になる.『明らかな咬合の不調和』の中でさらに限定し た“咬合異常”としては,日本補綴歯科学会のガイド ラインの『咬合異常の診療ガイドライン』(補綴誌 46 巻 4 号,2002 年)の中で,「顔面・歯・歯周組織など

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が遺伝的もしくは環境的原因により,その発育・形態・ 機能に異常をきたし,咬合が正常でなくなった状態」, また咬合は,「上下顎の解剖学的対向関係,顎関節の構 造と下顎の生理学的運動メカニズムに基づいて生じる 歯と歯あるいは人工歯,または歯列相互間の,静的・ 動的な咬合面あるいは切縁部の位置関係」と定義し, 咬合異常を上下顎の歯の静的・動的な位置関係が正常 でなくなった異常な状態として,具体的に“対咬関係 の異常”,“咬合位の異常”,“咬合接触の異常”,“下顎 運動の異常”,“咬合を構成する要素の異常”などをあ げている.特に,臨床的に認められる咬合異常は“咬 合接触の異常”と捉え,1.早期接触,2.咬頭干渉,3. 無接触と分類し,検査項目としている.その診断基準 として,①咬頭嵌合位が顆頭安定位にあること.②咬 頭嵌合位への閉口時に早期接触がなく,安定した咬合 接触があること.(a.閉口時に複数の歯が同時に接触 する.b.両側にバランスのとれた咬合接触が存在する. c.接触数は,片側4点以上が必要である.d.弱いか みしめでの接触位置が強いかみしめでも変化しない.), ③偏心滑走運動時に咬頭干渉がなく,適正なガイドが あること.(a.作業側では犬歯あるいは犬歯と小臼歯 での接触が望ましい.b.非作業側では,弱い接触で あれば問題ないが,作業側の接触がなくなるような強 い接触は問題がある.c.咬合小面は,上顎の犬歯舌 側面や臼歯頰側咬頭内斜面の近心斜面(M型)が望ま しい.)としているが,咬合違和感症候群の患者を判定 するためには,これらの項目と,またそれ以外の項目, そしてその具体的な状態(新たな検査やその検査結果) については,今後の検討が必要になると考えられる. 1.狭義の「咬合違和感症候群」  1)患者の特徴:患者は以下のような特徴をもつが, 明らかな器質的異常は認めない10-14) (1)年齢は 20 ~ 80 歳である. (2)発症後の経過は長く,概ね 10 年以上である. (3)男女比はほぼ同じである. (4)歯科治療後の咬合の微妙な変化による顎の動き の変化を受け入れられない. (5)正常な咬合感覚を誤って,ないしは過度に認識 したりする. (6)必ずしも咬合に関する治療が行われていなくて も発症することがある. (7)全ての身体症状が咬合に起因していると信じて 疑わない. (8)ドクターショッピングを繰り返し,心理的,社 会的そして職業的損失をうけている. (9)頻繁に自分の咬合や顎位のチェックを行う. (10)他覚的にみて咬合に異常が認められない場合 でも「自分のかみあわせは異常である」と信じて 疑わず正常咬合へ執拗にこだわる. (11)新たな歯科医院を受診する時,過去の治療装 置(補綴装置やテンポラリークラウンなど),長 い手紙や自分で描いた絵などを持参する. (12)精神疾患を認める場合でも,精神科の受診を 強く拒否することが多い.薬も服用してくれない 場合が多い.  2)疾患の原因と考えられるもの(病態):その原因 はまだ不明な点も多いが,以下のようなことが考えら れている. (1)精神疾患に起因;主な原因として身体表現性障 害,気分障害,不安障害などによる身体化障害や, 人格障害,妄想性障害,統合失調症などが考えら れている10).また和気らによると「かみ合わせ外来」 で医療面接を実施した 182 例中 88 例(48%)に 咬合の違和感あり,その中で 74 例(84%)は精 神障害を有していた15) (2)末梢から中枢神経系における情報伝達・情報処 理機構に起因:まず口腔運動感覚能力の変化が考 えられている.これは,歯根膜,顎関節および咀 嚼筋などで感覚をつかさどる末梢感覚受容器(歯 根膜受容器,顎関節機械的受容器および閉口筋の 筋紡錘受容器)からの刺激入力系にゆがみが生じ, これら末梢から高次中枢までの情報伝達系や中枢 での情報処理機構に障害が起きている6,16,17).そ の 1 例として,窪木らは歯科治療で咬合を変化さ せた時 , 治療前の咬合イメージが患者の中枢神経 系に残存しており,そのため治療後の咬合感覚が 以前のようにはフィットしなくなると報告してい る3)  これらを裏付ける研究として,咬合の違和感を訴 える精神疾患患者は,咀嚼時大脳皮質での血流変 化量が,健常者と比べ低下していたとの報告があ る18).すなわちこれは患者の大脳皮質の活動性が 低下していることを示している.  3)治療法:鎮痛薬などの投与,スプリント療法, 補綴治療(咬合調整や咬合再構成など),矯正治療や 外科治療は,かえって症状を悪化させる可能性があ る10,12,19).そのため歯科医師は精神科医,臨床心理士お よび医科の他の身体科との連携が必要となる10,20).具 体的な治療法としてまず薬物療法がある.使用薬剤 としてクロナゼパム,ピモジド,ミルナシプラン,ア ミトリプチンなどの服用が勧められている6,10,19,21).ま

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た精神科医や臨床心理士による認知行動療法,簡易精 神療法なども大切である10,20).そして歯科医師が行う 治療は認知行動療法的対応が大切である.具体的に は(1)患者の咬合へのこだわりを変えるために咀嚼 筋のストレッチや,日中の上下歯列の接触癖(Tooth Contacting Habit)22)の是正などを指導して,咬合や 歯のチェックをしないよう教育する,(2)かみ合わせ の違和感がある部位の刺激の除去(例えば治療目的で はなく一時的なスプリントの使用により,上下の歯同 士が直接接触する感覚を是正する)などが有用である. 患者への説明としては,(1)症状のある部位が問題で はない,(2)口から脳へ感覚が伝わる経路が変化(過 敏化)していることが問題である,(3)かみ合わせを 治しても症状は良くならない,(4)症状を調整するこ とで,症状は耐えうるレベルまで改善することが可能 である,といったことを伝え,「気のせい」,「精神的な もの」と言わないようにする10,20).現在は精神科との リエゾン診療にて治療を行っている施設もあり,成果 が得られている15)ことから,今後の対応として有効な 選択肢となろう. 2.広義の「咬合違和感症候群」  上記のように咬合の異常の有無にかかわらず,あら ゆる咬合の違和感を訴える病態の包括的症候群として 定義した.したがって,その下位に存在するグループ 分け,そしてそれぞれのグループの病態,対応および 治療法などについてはまだ不明で統一されておらず, 各施設で個別に対応しているのが現状である.そこで, その実態を把握すべく,今回以下のような調査を行っ たのでその概要を報告する.  なお,この咬合違和感を訴える患者の多施設調査は, 『咬合異常感(違和感)の発症因子に関する多施設によ る実態調査』として,下記の全国の 20 大学,30 施設 に対して調査票を配布し,その内,回収できた下記の 17 施設の結果である.調査期間は平成 22 年 8 月~平 成 23 年 8 月,調査患者数は 179 名(男性 34 名,女 性 145 名)であった.  ①神奈川歯科大学咬み合わせリエゾン診療科,②九 州大学口腔機能修復学講座インプラント・義歯補綴科, ③九州歯科大学口腔欠損再構築学分野,④岡山大学イ ンプラント再生補綴学分野,⑤岡山大学咬合・有床義 歯補綴学分野,⑥広島大学顎口腔頸部医科学講座先端 歯科補綴学,⑦大阪大学顎口腔機能再建学講座顎口腔 咬合学分野,⑧明海大学機能保存回復学講座歯科補綴 学分野,⑨東京慈恵会医科大学歯科学教室,⑩日本大 学松戸歯学部顎関節・咬合科,口・顔・頭の痛み外来, ⑪日本歯科大学顎関節症治療センター,⑫昭和大学歯 科補綴科,⑬鶴見大学歯学部高齢者歯科学講座,⑭岩 手医科大学歯学部歯科補綴学講座冠橋義歯補綴学分 野,⑮北海道大学顎関節治療部門,⑯西川歯科,⑰塚 原デンタルクリニック 3.咬合違和感症候群の多施設調査  1)目的  古くから「咬合感覚異常 occlusal dysesthesia」を 呈する患者が,一般歯科を訪れる患者に含まれること はよく知られている.多くは特発的に,歯の接触や咬 合位の違和感,不安定感,歯列の歪み感等を生じ,機 能的にも精神的にも患者の苦痛は甚大である.これら の患者に対し,歯科では補綴専門医や顎関節症専門医 として,また最近では社会心理学的な側面からも対応 する場合が増加しているが,未だ本症に対する明確な 疾患概念が形成されておらず,長期におよぶ不可逆的 な咬合治療や口腔アプライアンス療法によっても症状 が軽減しない場合もある.何よりも,患者にとっては 本疾患の存在が歯科医はもとより,社会的に認知され ていないことが大きな問題である.現在,歯科領域で は本疾患に関する適切な疫学調査が未だに行われてい ないのが現状で,まず,その患者実態を把握すること が急務である(多施設調査に関する倫理委員会申請書 類からの抜粋).  そこで今回,咬合の違和感を持つ患者のこれまでの 歯科治療の経過や現在の状況についてのデータ収集を 多施設で行い,その実態を調査した. なお,この調査 の内容は,第 22 回日本歯科医学会総会(2012 年 11 月 10 日,大阪)において発表した.  2)調査対象患者 (1)あらゆる咬合の違和感を訴えている 20 歳以上 の患者とする. (2)咬合時の痛み,あるいは痛みのような感じ,重 い感じ,疲労感,接触不良感,不安定感などを主 訴としている. (3)明らかな咬合の不調和が認められる場合,また 明らかな咬合の不調和が認められない場合の両者 を含む. (4)歯周治療,修復治療,補綴治療,矯正治療,口 腔外科治療,インプラント治療などの歯科的処置 中に発症した咬合の違和感を訴える患者も含む. (5)未成年者,あるいは本人から同意が得られない 場合は対象から除外する.

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 3)調査内容 (1)咬合違和感に関する主訴とその分類 (2)術前の咬合違和感のカテゴリー(術者の主観) (3)病悩期間(登録日までの期間)と医療機関受診 数 (4)これまでに受けた治療法とその概要 (5)術者が発症の契機と思ったもの

(6)咬合違和感 visual analogue scale(VAS),生 活支障度 visual analogue scale(VAS)

(7)診療形態 (8)患者の治療意欲,患者の治療に対する期待度, 診断着手時の患者の歯科医師に対する信頼感 (9)調査対象施設で行った処置 (10)転帰  4)結果 (1)患者は,中高年の女性が多かった(図 1). (2)病悩期間は 10.5±30.0 ヶ月と長く,受診した歯 科医療機関は 1.9±1.8 ヶ所であった. (3)主訴は,「咬頭嵌合位での歯の接触状態」に関 する内容が多かった(図 2). (4)咬合違和感の起因として術者は「修復物・補綴 装置」,「顎関節症」のほかに,「精神疾患」や患 者の「パーソナリティ」を考えている場合も多かっ た(図 3). (5)すでに何らかの治療を受けた後に来院する患者 が多く,その中でも「補綴処置」が行われている 場合が多かった(図 4). (6)発症の契機は補綴治療が多かったが,不明な場 合も存在した(図 5). (7)各施設では小規模の補綴処置や顎関節症とし ての治療もある程度行われていたが,一般心理療 法など心身医学的処置も行う場合が多かった(図 6–8). (8)転帰は軽快していない症例も多かった(図 9).  5)考察  広義の咬合違和感症候群は咬合の不調和が認められ 男性:34名(19.5%) 女性:145名(80.5%) 総数:179名 平均年齢:52.9±15.3 歳 (53.2±14.2歳) (51.6±19.5歳) 「重複あり」 名 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 主訴① 主訴② 主訴③ 主訴④ 主訴⑤ 主訴⑥ 主訴⑦ 主訴⑧ 主訴⑨ 主訴①運動とは関係しない歯の違和感や痛み. 主訴②運動に伴なう歯の違和感や痛み. 主訴③運動とは関係しない歯や歯列の位置・形状の訴え. 主訴④咬頭嵌合位における歯の接触状態に関する訴え. 主訴⑤偏心運動時の歯の接触状態に関する訴え ・痛み,不安定感,異物感,動揺感,痺れ感. 主訴⑥機能運動時の歯の接触状態に関する訴え . 主訴⑦咬合高径に関する訴え. 主訴⑧運動時の脱力感,緊張感に関する訴え. 主訴⑨咀嚼,嚥下等の機能低下に関する訴え. 「重複あり」 名 0 20 40 60 80 100 120 「重複あり」 0 10 20 30 40 50 60 70 80 術前Ⅰ 術前Ⅱ 術前Ⅲ 術前Ⅳ 術前Ⅴ 術前Ⅵ 術前Ⅶ 術前Ⅷ 術前Ⅸ 術前Ⅹ 名 Ⅰ.修復物・補綴物に起因 Ⅱ.歯・歯列・歯周組織に起因 Ⅲ.顎関節症(関節,筋)に起因 Ⅳ.*TCHに起因 Ⅴ.歯根膜・咀嚼筋・顎関節感覚受容器の問題に起因 Ⅵ.高次中枢での問題(認知,感作など)に起因 Ⅶ.精神疾患に起因 Ⅷ.パーソナリティに起因 Ⅸ.不明 Ⅹ.その他

*Tooth Contacting Habit (TCH):日中の上下歯列の無意識な軽い接触癖.

図 1 結果1:Frequency and Sex of objects 調査対象の性別頻度

図 2 結果 2:Category of chief complaints 主訴の分類

図 3 結果3:Category of occlusal discomfort before treatment

術前の咬合違和感のカテゴリー

図 4 結果 4:Treatment technique これまで受けてきた治療法

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ない場合のみでなく,明らかな咬合の不調和が認めら れる場合も含まれる.元の疾患はう蝕や歯周病など 様々であるとは思われるが,患者に対して長い病悩期 間の間に何らかの治療,特に多くの補綴治療が行われ ていた.もちろん明らかな咬合の不調和を認めず特発 的に咬合の違和感が発症したケースもあると思われる が,これらの処置が原因で咬合違和感症候群を発症し た場合もあると考えられた.そのため患者の中には再 度の補綴治療や顎関節症の治療を行った結果,症状が 改善したケースも認められた.  しかしながら狭義の咬合違和感症候群と同様に,各 施設へ受診した時点では患者の愁訴に即応した一般的 な歯科治療ではなく,心理社会学的な対応が必要な患 者も多いと考えられた.このような患者は大学病院を 中心とする専門医療機関受診時おいても治療が困難で あり,その転帰は必ずしも良好ではないケースも多 かった.  このように本疾患には様々なケースが含まれている ため,今後詳細なグループ分けを行い,それぞれの病 態を明らかにした上でその診断・対応,治療法などに ついて継続して調査・検討していく必要性があるもの と考えられる. Ⅳ.まとめと今後の展望  咬合感覚異常(症)に関するアンケートの結果とコ ンセンサス・ミーティングによる協議から,当初診療 ガイドライン委員会で提案された「咬合感覚異常(症)」 は,患者の訴える咬合の違和感を幅広く捉え,それ 名 0 10 20 30 40 50 60 70 80 「重複あり」 名 0 10 20 30 40 50 60 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 「重複あり」 名 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 心身薬物 一般心理 自律訓練 行動療法 心身他 「重複あり」 名

図 5 結果5:Sideration of turning point 発症の契機と思われるもの

図 7 結果 7:Treatment 2(TMD approaches) 各施設で行われた処置2(顎関節症対応関連)

図 6 結果 6:Treatment 1(Prosthetic, Restorative, Orthodontic, Oral surgery)

各施設で行われた処置1(補綴,保存,矯正,口腔 外科関連)

図 8 結果 8:Treatment 3(Psychosomatic approaches) 各施設で行われた処置3(心身医学的処置関連)

中断:

49名

通院中:改善

41名

不変

11名

悪化

2名

軽快:

54名

図 9 結果9:Outcome 転帰

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を包含した「咬合違和感症候群 “occlusal discomfort syndrome”」という名称が提案された.この定義は, 「咬合の異常の有無にかかわらず,咬合の違和感を訴え る病態の包括的症候群」として広義と狭義に仮分類し, 現在までにある文献と多施設調査から上記のように本 疾患の特徴をある程度つかむことができた.  このように幅広く捉えた病態を包括した『咬合違和 感症候群』に対して,今後日本補綴歯科学会では,本 疾患に関連する各領域の専門家から構成する作業部会 を立ち上げて,下位のグループを分け,それぞれの病 態を明らかにしたうえでの本疾患の患者への診断・対 応,治療法および予防法などについての診療ガイドラ インを作成する予定である. Ⅴ.参考資料  咬合違和感を訴える具体的な患者情報と,このよう な患者を実際に体験されたパネルの意見を情報等して 共有するため下記に追記する. 1.咬合違和感を訴える症例  咬合違和感を訴え,それによる頭頸部症状を執拗に 訴える症例について示す.  症例:○見△×子,66 歳,女性.  初診:X年 11 月 30 日  主訴: の咬み合わせの違和感により右側頭 部,後頭部,頸部に腫れ,熱感がある.(図 10,11)  現病歴:X- 6 年前,A歯科病院を受診し, の新製を勧められ,治療を受けたが少し低い感じが した.担当医は反対側の修復物や天然歯の咬合調整を 行った.その直後から頭部全体や背中に痛みが現れる ようになった.他の疾患のため頭や背中が痛くなると 説明され,整形外科を 3 か所受診するが異常なしと診 断された.その後,B歯科大学,C開業歯科,D開業 歯科,E歯科大学を受診した.外来で問診,歯科的基 本検査を行い,X+1年 2 月に医療面接を受け,身体 表現性障害(心気症)の疑いと診断した.自覚症状と 他覚所見に乖離があるため,経過観察後,症状の安定 を確認し,補綴処置に移行することで患者の同意を得 たものの,経過観察中の患者の執拗な ⑥5④ の咬合接 触の改善希望があったため, ⑥5④ の製作(症状の消 失は約束できないインフォームドコンセントのもと) を試みることになった.X+2年 7 月, ⑥5④ (ブリッ ジ 1)を新製し,仮着した(図 12).第一大臼歯の咬 合接触が弱いと感じ(8μ のシムストックホイルで確認 したところ,患者の感覚は正しいことを確認),右側頭 部が疲れ,右側で咀嚼すると右下顎角から後頭部が凝

図 10 First visit(Right side view)

初診時(右側面観) 図 12 Bridge 1stブリッジ 1

図 11 First visit(Occlusal view)

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ると訴えた.そこで,X+2年 11 月,第一大臼歯部 の咬合接触を改善した ⑥5④ (ブリッジ 2)の再製を した(図 13).ここ数年間の中で最もよい状態になっ たものの,咬合違和感が原因で依然頭が張る,熟睡が できないなどの症状を訴えた.その後,2つのブリッ ジの仮着を繰り返しながら経過観察することになった が,症状の改善は認められず,多様な症状を訴え続け, 経過観察中に来院が中断した.その後の経過について, 図 14 questionnaire to panellist パネルへのアンケート 図 15 questionnaire ① アンケート① 『咬合感覚異常(症)』に関するポジション・ペーパー作成に向けたパネルへのアンケート 咬合に関して違和感を訴えて来院する患者さんがいます。例えば、「咬んだ時に違和感を感じ る」、「どこで咬んだらいいか分からない」、「咬んだ時の接触が弱い・咬み合わせが低い感じがす る」など。そのような患者さんに対して、現存する診査を行っても客観的所見(他覚的所見)は得ら れない場合があります。現在、この様な患者さんの診断名、治療法は確立しておらず、臨床では 歯科開業医、大学病院勤務医(主に補綴学や心身医学の専門医)および総合病院勤務医(歯 科・口腔外科)等の判断で様々な処置が行われているのが現状と思われます。これまで国外で は、「Occlusal dysesthesia」や「Phantom bite syndrome」等と呼ばれてきましたが、日本では病 名が存在しません。ここでは、このような咬合に関する違和感を訴える状態を仮に「咬合違和感 症候群」(仮称)と呼ばせて頂き、こうした症例の治療経験の多い先生方のご意見を集積し、整理 することにより、本疾患の実態およびアプローチの現状を把握することにより、本疾患に関するポ ジション・ペーパーを作成することになりました。上記の趣旨をご理解頂き、以下のアンケートにご 協力をお願いいたします。 日本補綴歯科学会診療ガイドライン委員会 ①「咬合違和感症候群」(仮称)と思われる患者を診たことはありますか。 a.診たことがある。:15名 b.診たことはない。:1名 コメント: 1.いわゆる「心療歯科」外来を行ってきているので,かなりの数を占めていると感じている。 2.企業の歯科診療所で経験した。 3.ただし、卒後数年の頃に2人ほど。臨床経験の少ない頃だったので、該当する患者かどう かはわからない。 4.色々な咬合違和感を持つ患者を診てきた。単純なものから、複雑なものまで様々な病態の 患者がいると思う。 ②「咬合違和感症候群」(仮称)と思われる患者を歯科的に治療したことはありますか。 a.歯科的に治療をしたことがある。:13名 (重複回答あり) b.歯科的に治療はしたことがない。:2名 c.歯科的治療以外で治療をしたことがある。2名(重複回答あり) コメント: 1.a.に関しては、すでに歯科治療介入が開始されていた場合。 2.歯科に関する訴えがある場合,歯科的な治療をせざるを得ない場合がある,と感じている。 3.企業の診療所において。 4.上下の歯を接触させないという生活指導、スプリント作製、ハリケイン処方、すでに暫間補 綴装置に置換されている部位の補綴装置作製などを行いました。 5.マニピュレーション、レーザーで対応したことはありますが、これは歯科的治療に入るので しょうか? 6.違和感を直接治療する形ではなかった。咬合治療ではなく、別部位の歯科治療は普通にし た。 7.症例数で61例あった。 8.歯科的な治療で咬合違和感が消失した場合と全くしない場合、軽減した場合があった。 図 16 questionnaire ② アンケート②

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電話で確認したところ,“咬み合わせ専門”という先 生を探し当て,その歯科医院で新たな硬質レジンのブ リッジを製作し,1 か月に 1 回,そのブリッジの咬合 面に即時重合レジンを添加して接触状態を毎回修正す る治療が約 3 年間続いているが,症状の改善はほとん どないとのことであった. 2.咬合感覚異常(症)に関するアンケート結果と コンセンサス・ミーティング協議内容  1)パネルによる咬合感覚異常(症)に関するアンケー トの回収結果  『咬合感覚異常(症)』に関するポジション・ペーパー 作成に当たり,パネルに対する『咬合感覚異常(症)』に 関するポジション・ペーパー作成に向けたパネルへの アンケートを行った(図 14).なお,アンケートは平成 23 年 11 月 12 日にパネル 14 名,外部評価者 6 名に対 してメールで配信され,回収は平成 23 年 11 月 14 日~ 29 日まで行われ,回収率はパネル 14/14 名(100%), 外部評価者 2/6 名(33%),計 16 名であった. 図 17 questionnaire ③ アンケート③ ③「咬合違和感症候群」(仮称)に対して歯科的治療した結果は、どうでしたか。 a.症状はほとんど消失した。:10名(重複回答あり) どのような歯科的治療を行ったか 1.歯冠補綴、咬合調整 (コメント:精神心理学的介入を伴う。) 2.上下の歯を接触させないという生活指導、スプリント作製、すでに暫間補綴装置に置換されている 部位の補綴装置作製 (コメント:一部の患者では精神科での診察を受けることにより、改善し、補 綴治療が可能でありました。) 3.咬合再構成 (コメント:うまくいったこともあります。) 4.認知行動療法のみ;認知行動療法&補綴治療 (コメント:病識を適切に理解し,治療内容に納得 してもらえた場合には治療がうまくいきやすいという印象がある。認知行動療法のみで症状が緩解 する場合も少なくないのかもしれない。) 5.カウンセリング,薬物療法(コメント:咬合や歯に全く問題がなく,補綴的介入の必要がなかった) 6.全顎的な補綴処置(コメント:心療内科との連携がうまくいったとき) 7.咬合調整、新義歯製作、リベ−ス、テンポラリーなど (コメント:確かに不適切な補綴治療もあるよ うです。) 8.スプリント,補綴,リラックスの指導 9.マニピレーション(患者自身の筋力応用、理学療法の併用)、ソフトスプリント(開口位ディスクの位 置を考慮して調整)咬合調整(築盛も含む)(コメント:ソフトスプリントの調整は開口路から左右的 バランスをとる) 10.補綴装置の調整、咬合調整でほとんど症状が消失する場合も経験した。 b.症状は改善したり、改善しなかったりを繰り返した(1人の患者において):12名(重複回答あり) どのような歯科的治療を行ったか 1.噛み合わせがおかしい,噛み合わせが安定しない,などにより,スプリントを作製,レジンによる暫 間補綴装置(テンポラリー)を作製など (コメント:注意してみると,歯科治療が関与する余地(歯 科的な不都合,不具合)がある患者さんが多いように思われる.その場合,治療をしないで,という ことは難しいと感じている.ただ,その不具合と訴えとの間には乖離があることが多い。 2.不良補綴物の撤去しテンポラリークラウンを装着後,長期間観察し,症状が改善した患者に対し て最終補綴を行った。 3.ハリケイン塗布 (コメント:食事中に歯がゴムのように軟らかくなるという数名の患者ではハリケ インを食事前に歯肉に塗布することにより、症状は軽減しましたが、しびれていることが気持ち悪 いということで継続できませんでした。) 4.咬合再構成、テンポラリー、咬合調整、スプリントなど (コメント:長期にわたり通院している患者 さんがいます。) 5.補綴治療および認知行動療法 (コメント:主に,他院で作製されたテンポラリークラウンを調整, 最終補綴装置に置換していく処置を行おうとしたが,認知行動療法が奏功せず,患者さんの形 態への執拗なこだわりがなかなか改善しなかった。) 6.感染根管処置と齲蝕処置、歯周治療 (コメント:違和感については、話のみしていた(カウンセリ ングというほどではない)) 7.スプリントやテンポラリーなどの可逆的方法 8.スプリント療法,テンポラリークラウン (コメント:他医院での歯科治療に対する不定愁訴に対す る後処置) 9.咬合調整 (コメント:患者とのラポール形成がうまくいかなかったとき) 10.咬合調整、3度の新義歯製作(コメント:13年かかりました。補綴学会雑誌に掲載しております。)

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 図 15 アンケート①  図 16 アンケート②  図 17 アンケート③  図 18 アンケート④  図 19 アンケート⑤  図 20 アンケート⑥  図 21 アンケート⑦  図 22 アンケート⑧  図 23 アンケート⑨   2)パネルによるコンセンサス・ミーティングにお いて  (1)『咬合異常感(症)』のポジション・ペーパー作 成のためのコンセンサスミーティング(パネル会議) が下記の要領で開催された.  開催日時:2011 年 12 月 16 日(金),13 時~ 17 時  開催場所:昭和大学歯科病院 2 号棟第一会議室       (大田区北千束 2-1-1)  参加者:小川 匠,尾口仁志,菅沼岳史,玉置勝司, 築山能大,西川洋二,藤澤政紀,鱒見進一の 8 名により, パネル会議の目的,アンケートの公開,アンケート項 目に関する協議・検討,疾患名称(咬合違和感症候群 について),疾患の定義について協議された.  (2)アンケート項目に関する協議,検討  上記のアンケートの各項目に関する協議,検討内容 は,各項目の最後に“(ミーティング時の追加項目)” として併記した.  (3)疾患名称について(咬合違和感症候群について)  上記のアンケートの項目“6.このような「咬合違 和感症候群」(仮称)に対して『咬合感覚異常(症)』 という診断名は適切だと思いますか”において,本ミー ティングでは,『咬合違和感症候群』の呼称は適切であ ると参加者全員の一致が得られた.なお,英文表記は, “Occlusal discomfort syndrome” が提案された.  (4)疾患の定義について  現段階では,『咬合違和感症候群』(Occlusal dis-comfort syndrome)を詳細に定義することは困難で あり,また適切ではないため,咬合違和感の状態を幅 広く捉え,下記のように定義した.  『咬合違和感症候群』とは,『咬合の異常の有無にか かわらず,咬合違和感を訴える病態の包括的症候群』 として提案する.  今後,幅広く捉えた病態を包括した『咬合違和感症 候群』に対して,本疾患に関連する領域の専門家から 構成する作業部会を立ち上げ,下位のグループ分け, それぞれの病態および対応,治療法などについて継続 して協議を行う必要性がある.  3)咬合違和感の計測方法  『咬合違和感症候群』の患者に対して,現在考えられ る咬合違和感の計測方法を形態的なものと感覚的なも のの一部を下記に挙げる. (1)形態的なもの(①) a 装置の名称:デンタルプレスケール-オクルー ザー,バイトアイ BE-I(GC 社製) b 装置の特徴(何を計測できるかなど):咬合接触状 ③「咬合違和感症候群」(仮称)に対して歯科的治療した結果は、どうでしたか。 c.症状はほとんど改善しなかった。:7名(重複回答あり) どのような歯科的治療を行ったか 1.上下の歯を接触させないという生活指導、スプリント作製 (コメント:精神科の症状が強い患者では改善し ていない場合もよくあります。) 2.主訴の歯をテンポラリーに置き換えた。 (コメント:何度行っても満足が得られない) 3.補綴治療;認知行動療法および補綴治療 (コメント:認知行動療法がまったく奏功せず,前医に対する不 満や形態への執拗なこだわりがほとんど改善しなかった。) 4.スプリント療法,薬物療法 (コメント:精神科に対診) 5.経過観察 6.主に咬合調整 (コメント:執着性気質、訴えるもので医師の言う事を全く受け入れないなど) 7.スプリント,テンポラリークラウン d.症状は逆に悪化した。:4名(重複回答あり) どのような歯科的治療を行ったか 1.咬合調整 (コメント:不用意に調整して悪化したことがあります。また咬合診断して調整したのに悪化した こともあります。) 2.補綴治療 (コメント:前医で作製されていたテンポラリークラウンの仮着を外し,新規テンポラリークラウン を仮着したところ,強烈な身体症状(左側半身の痺れ等)を訴えて元に戻すほかに打つ手がなかった。現 在も仮着すらできない状況である。) (コメント:悪化した症例はありませんでした。悪化というよりも、咬合 の違和感を繰り返し、終わりのない治療を続けていたように思います。現在は、そのような患者さんは、治 療意欲がないとみなし、説明後治療を断っています。そのような対応も決して悪い対応とは思っていませ ん)。 3.スプリント,テンポラリークラウン *無回答2名 図 17 questionnaire ③ アンケート③

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態(咬合接触および咬合圧) c 商品化:されている

d 装置に関する代表的な論文:

Matsui Y, Ohno K, Michi K, Suzuki Y, Yamagata K. A computerized method for evaluating balance of occlusal load. J Oral Rehabil 1996; 23: 530-535.

Takahashi M, Takahashi F, Morita O. Evaluation of the masticatory part and the habitual chewing side by wax cube and bite force measuring system (dental prescale). Nihon Hotetsu Shika Gakkai Zasshi 2008; 52: 513-520. 渡辺 誠,佐々木啓一,稲井哲司,田辺泰一,菊池 雅彦,許 重人,服部佳功,奥川博司,坪井明人, 目黒 修,平松伸一,佐藤郁夫.バイオフィード バックを用いた咬合治療による顎関節症の治癒経 過,日本補綴歯科学会雑誌 1994;38:352-362. 佐々木啓一,渡辺 誠 , 田辺泰一,菊池雅彦,稲井 哲司,許 重人,坪井明人,服部佳功,目黒 修, 佐藤郁夫,平松伸一,奥川博司.EMG バイオフィー ドバックを応用した咬合診査に基づく顎関節症 治療の臨床成績,日本補綴歯科学会雑誌 1994; 38:340-351. e コメント:計測方法を規格化すればかなり再現良 く計測ができる.  咬合接触状態を視覚化,定量化できる.  ただし,フィルムの自体の厚さのため何も介在させ ない咬合接触状態とは異なる.  バイトアイ BE-I に関しては,まだ論文はない. (1)形態的なもの(②) a 装置の名称:オクルーザルレジストレーションス トリップス(Artus アルタス) b 装置の特徴(何を計測できるかなど):咬合接触状 態(咬合接触の有無) ④「咬合違和感症候群」(仮称)の患者の特徴について、先生のご意見をご記入ください。 a.患者の訴えの表現について 1.かみ合わせが、高い、低い、ずれている。 2.歯が、前に出てくる、上に押し上げられる、横に拡がる、下に押し込まれる。 3.口が、拡がる、狭くなる、左右どちらかに押される。 4.息が苦しい、首が痛い、頭が痛い、手がしびれる、脚がしびれる。 5.一般的には大げさな感じがするし,些細なことにも反応が大きい。 6.咬みづらい,上手く咬めない,咬み合わせが低いまたは高いなど。 7.かみ合わせがおかしい、顎がずれていく、食事中に歯が軟らかくなる(咬合すると歯が軟らかい)など。 8.「しっくりしない」「・・・の気がする」 9.かみ合わせの不具合を執拗に訴える。 10.不快な身体症状がかみ合わせの不具合のせいで起きていること,またかみ合わせを修正することで身体症状 が治ること,修正が必要であることなどを執拗に訴える。 11.歯科の専門用語(歯式など)を用い,当該部位を指さししながら形態の不具合を切々と語る。 12.前医の治療が失敗だったことを蕩々と語る,また,そのような治療を許した自身を責める。 13.詳細な診療記録や日記を持参し,細かなところまで詳細に読み上げる。 14.素人だからわからないと言いつつも,治療方針(内容)を細かく注文する。 15.何かおかしい、歯が合わないような気がする。 15. 前医に対する不満.すべての不定愁訴は咬合から来ている。 16.様々でした。 17. 多様.大きく分けて,咬合不安定感,咬合違和感,咀嚼障害感の3つに大別。 18.ネガティブシンキングの傾向があり、悪い所探しをする、全ての症状を咬合由来と決めつける。 b.患者の受診医療機関について 1.数件,開業医を受診していることが多い。 2.本院(大学病院補綴科)受診までに、複数の医療機関の受診者が多い。 3.複数の医療機関を受診している。 4.歯科が主ですが、心療内科を受診している方もいらっしゃいます。 5.歯科医院を数件経由して来院。歯科だけの患者と整形、耳鼻科、神経内科など医科を同時にかかっている患 者がいる。 6.複数の医療機関(歯科,整形外科,耳鼻咽喉科,眼科等の他,精神神経科,心療内科,メンタルクリニック等) を受診しており,特に歯科については複数の診療所,病院を受診し同一部位に複数回の治療を繰り返し受け ている場合もある。 7.多数の施設で治療経験有り.著名な歯科医や大学病院も経験している。 8.一般歯科医院からの紹介で大学病院を受診するケースが多い。 9.一般歯科医院が最初で、そこでなかなか改善せず、または、トラブルになり二次医療機関に紹介され、来院す るケ−スが殆どです。 10.平均的には受診医療機関数は多いが,症例により異なる。 11.ネットで検索する方が多い。 図 18 questionnaire ④ アンケート④

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c 商品化:されている

d 装置に関する代表的な論文:

Caro AJ, Peraire M, Martinez-Gomis J, Anglada JM, Samsó J. Reproducibility of lateral excursive tooth contact in a semi-adjustable articulator depending on the type of lateral guidance. J Oral Rehabil 2005; 32: 174-9. e コメント:一般的に手に入るものの中で最も薄い ため,咬合接触を正確に調査可能.  偏心運動時の接触滑走部位(ガイド部位)等も正確 に調査可能.  ただし,具体的な咬合接触部位の明示ができない. (2)感覚的なもの(①) a 装置の名称:ステンレスブロックによる厚さ弁別 能試験 b 装置の特徴(何を計測できるかなど):厚さ弁別能 c 商品化:されていない d 装置に関する代表的な論文:

Okushi N, Tsukiyama Y, Koyano K. A Study Using the Interdental Thickness Discrimination Test at Three Different Degrees of Mouth Opening: Reproducibility and Gender Differences in Young Adults. Prosthodont Res Pract 2005; 4: 16-22.

Tsukiyama Y, Yamada A, Kuwatsuru R, Koyano K. Bio-psycho-social assessment of occlusal dysesthesia patients. J. Oral Rehabilitation 2012. 39; 623-629. (2)感覚的なもの(②) a 装置の名称:von Frey フィラメント ④「咬合違和感症候群」(仮称)の患者の特徴について、先生のご意見をご記入ください。 c.患者の症状の発症契機について 1.何らかの歯科治療(不適切なものも含む)が契機となっている場合が多いと感じる。 2.最初の状態が分からないことが多いが,患者の話では歯科治療が契機になっていることが多いようである。 3.歯科治療が契機になっている。 4.補綴装置装着が大半。 5.歯科治療後、すぐに発症する患者と数年たってから発症し、あの時の歯科治療が原因と思い込んでいる患者 がいる。 6.咬合の変化がない,もしくはあってもごくわずかと思われる治療(インレー,レジン充填など)。 7.クラウン1歯。 8.両側臼歯部の補綴治療(片側の治療が完了する前に反対側の治療を開始した) 9.全顎的補綴治療。 10.矯正治療の最終段階。 11.修復治療後の追加の咬合調整:当該歯の治療後咬合の違和感があり,当該歯だけでなく他の天然歯の調 整が行われた。 12.顎関節症の治療を目的とした咬合治療。 13.心療内科の受診歴あり。 14.本人の希望する治療とかけ離れたと感じた歯科治療。 15.離婚,退職,更年期障害,家族との関わり(身内の不幸事,いじめなど) 16.説明の足りない歯科治療からの歯科医師に対する不信感に起因するストレスが大きな原因ではないかと考 える。 17.患者の精神状態を無視した歯科治療。補綴治療後の歯科医師の不適切な対応。インフォ−ムドコンセントなし の補綴治療(インプラントも含みます)など。 18.補綴治療が契機の人が多い.特に多数歯補綴。 19.咬合調整、補綴物のセット後に多く見受けられる。全顎補綴のケースにも多い。(ミーティング時の追加項目) 20.睡眠時ブラキシズム 21.咬合接触を伴う悪習癖 22.TCH(tooth contacting habit) 23.顎関節症 24.咬合に対する関心や過度な意識 d.その他 1.歯科・口腔外科で受診しても異常がない、治療を受けても改善しないため、脳に病気があると心配して受診す る症例を数例経験しています。受診する心理的背景には違和感は何か異常な原因があるはずという思いが あり、そのため異常ないといわれても納得していないようです。 頭部CTやMRIを行い異常がないことを確認したうえで、検査しても異常が見つからない病気はたくさんあるこ と、その場合は時間と共によくなることが多いので心配しないように説明すると納得して帰ることが多いようで す。 2.神経質、こだわりが強い、全身的な症状が併存し、咬合と結び付けている。 3.身体表現性障害,統合失調症,うつ病,不安障害,強迫性障害,妄想性障害などの精神疾患やパーソナリ ティー障害の場合が少なくない。(ミーティング時の追加項目) 4.執拗に診察を要求する。 5.長時間、頻繁な電話対応を迫る。 図 18 questionnaire ④ アンケート④

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b 装置の特徴(何を計測できるかなど):三叉神経領 域の感覚(触覚,圧覚など) c 商品化:されている d 装置に関する代表的な論文:特になし. e コメント:咬合違和感との直接的な関連について はよくわかっていない.  4)精神疾患の判断  『咬合違和感症候群』の患者に対して,咬合に関す る診察および検査(Ⅰ軸:身体疾患)を行うにあたり, 同時に患者の精神疾患の有無や適切なコミュニケー ションの構築が可能かどうかを判断する検査(Ⅱ軸: 精神疾患)も必要不可欠であるため,パネルが臨床で 行っている方法の一部を下記に挙げる. (1)Axis Ⅱ(精神疾患)の診方 a 精神疾患の有無の診断あるいはスクリーニング 法:GHQ60 健 康 調 査 表,POMS 短 縮 版,CMI, HADS,Symptom Checklist-90-Revised (SCL-90-R) など ⑤「咬合違和感症候群」(仮称)の発症と関連があると思われるものを選んでください。 (複数回答可) a.現存する検査では検知されない器質的な歯自体、咬合自体の問題:8名 b.歯根膜感覚自体の問題:7名 c.末梢から中枢までの伝達経路上の問題:10名 d.中枢自体の問題:13名 e.これまでの経験や体験からの意識過剰の問題:16名 f.精神疾患の問題:14名 g.その他:2名 コメント: 1.メディアなどからの刷り込み。 2.歯科医師による刷り込み(必ずしも修正する必要がないにも拘わらず咬合に問題があることを指摘してしま う。さらに,咬合を修正する治療を施行してしまう),医科の医師が自身の専門分野については問題がなく, 歯科の問題であるので歯科で治してもらいなさいと患者にアドバイスする,など) 3.aは機能運動時の咬合干渉が検出・調整されていない場合に起こりうる。 dは質問の意味が正確に理解できませんでした。 eは、治療介入を受けた歯科医師に対する不信感や怒りの感情、自覚する症状に対する不安感が関与す ると思います。 (ミーティング時の追加項目) 4.ブラキシズムやTCHにより歯根膜感覚が通常(30μの判別能)より敏感になっている(17μ)。 5.神経節での神径障害性疼痛が起こっている可能性もある。 6.咬頭嵌合位の咬合のチェックは行われているが、側方運動時、機能運動時の平衡側での咬合接触チェック が行われていない場合がある。 7.補綴装置セット時に患者が違和感を訴えても、歯科医師がそのうち慣れますと安易に言ってしまう。 8.このような患者には咬合紙以上の精度のいい臨床的な検査方法が必要である。 ⑥このような「咬合違和感症候群」(仮称)に対して『咬合感覚異常(症)』という診断名は適切だと思いますか。 a.適切だと思う。:13名 b.不適切だと思う。:3名(別の言葉の方がいい。) (別の名称案:咬合違和感症候群) コメント: 1.異常よりも障害の方が病名として適切ではないかとも思いますが、下のように書いてみると、しっくり来ない 感じもします。咬合感覚異常(症)→咬合感覚障害 2.現在のところ,他によい名称が浮かびませんので,消極的な賛同です.診断でき,治療法が決まらなければ 意味がないのではないでしょうか。 3.『咬合感覚異常(症)』とすると単一の原因で起こる疾患のように誤解される恐れがありますので、「咬合違和 感症候群」のほうがより適切かと思います。 4.様々な病態があるので症候群でもいいのではないでしょうか。 5.症状を表現するのに「咬合感覚異常」は適切と思われるが、その症状に至る病態は多面的と思われるので、 「症候群」の方がよい気がする。 6.現段階では、まだ原因が明確ではないので、咬合感覚異常としてしまうより、患者の訴え方をそのまま表現 した咬合違和感症候群と幅広い名称の方が適切かと考える。(ミーティング時の追加項目) 7.顎関節症候群の時と同じように、まず『咬合違和感症候群』として、今後その中にⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型などの下 位分類(グループ分類)を行っていき疾患の定義、診断基準の作成を行っていくべきである。

8.『咬合違和感症候群』の英文表記は、”occlusal discomfort syndrome”と提案された。 9.咬合感覚異常(症)については、下位分類で明確にするべき疾患とする。

図 19 questionnaire ⑤ アンケート⑤

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b コメント:一般の患者においてもポジティブな結 果が得られることもあり,また,正確な診断には専 門の医師,臨床心理士の面接を経る必要があるとさ れている.ただし,得られた結果は臨床上参考とな り,医療面接(問診),患者への説明,インフォー ムドコンセントなどの際に有用である. (2)Axis Ⅱ(精神疾患)の診方 a うつ病,うつ状態(いわゆる気分障害)については, ⑦現状を踏まえ、『咬合感覚異常(症)』あるいはその他の診断名(上記7.の別の名称)に関する定義案(先生方のお 考えで結構です。)をお書きください。 定義案: 1.咬合感覚異常(症)とは、現時点で行いうる臨床的検査により実際の咬合異常が特定されない、咬合に関する 異常と関連して述べられる不快な感覚と情動体験である。(痛みの定義を一部参考にしています。) 2.まだ,お話しできるレベルに達しておりません.ただ,精神障害との関連をどうするか,が大きなポイントと思っ ています.狭義,広義に分けるのも実際的ですが,境界領域をどうするのかが,問題ではないでしょうか. それとも,身体表現性障害のような括りでしょうか.上記とも関係しますが,診断しても,治療法がないのでは。 3.咬合紙法などの現存する診査を行っても客観的所見(他覚的所見)が得られない,あるいはそれらが得られた としても通法では解決できない症例. 4.基本的にはクラークの説で良いと思います。不良補綴物装着や顎関節症などによるかみ合わせの異常などあ まり範囲を広げるよりは焦点を絞った方が良いのではないでしょうか。 5.咬合の違和感を訴えるが、器質的な異常が見られない疾患。 6.結局は患者の感覚の問題であり、そこに他覚的な所見があるかないかということと思います。定義といたしまし ては、「他覚的所見の有無にかかわらず、咬合に関しての患者の自覚的な訴えに対しての総称である。他覚的 所見がない、あるいはあっても自覚症状と他覚的所見の乖離がある場合は、時に精神疾患を伴うことがある。 また咀嚼筋、顎関節の問題からくる顎位の変化により引き起こされている場合もある。」 7.「歯髄、歯周、咀嚼筋ならびに顎関節疾患の可能性を除外したうえで、明らかな咬合の不調和がみられないに もかかわらず数か月以上持続する咬頭嵌合位の不快感(Clark et al., 2003)」[Clark GT, Simmons M. Occlusal dysesthesia and temporomandibular disorder: Is there a link? Alpha Omegan. 96:33-39, 2003.]

8.咬合検査では異常が見つからないにもかかわらず、咬頭嵌合位、偏心運動時、咀嚼時いずれかにおいて咬合 の異常感ないし違和感を訴えるもの。 9.咬合感覚異常症は,定義として,咬合に問題を認めない症例において,末梢感覚受容器の感覚異常を訴える 症例で咬合違和感とは別の疾患であると考える. 10.「咬んだ時に違和感を感じる」、「どこで咬んだらいいか分からない」、「咬んだ時の接触が弱い・咬み合わせが 低い感じがする」など、咬合の違和感を訴える症例群。 11.定義の中に「臨床的に咬合異常が認められないにもかかわらず・・・」という文言が入ることになると思います が,「臨床的に咬合異常が認められない」だけでなく,「訴えに見合うような咬合異常(あるいは,訴えを説明で きるような咬合異常)が認められない」といった身体表現性障害等の定義によく使うような表現を追加した方 がいいと思います.(ミーティング時の追加項目)

12.現段階では、『咬合違和感症候群』(Occlusal discomfort syndrome)を詳細に定義することは困難、また適切で

ないため、大きなくくりでまとめておく。 13.『咬合違和感症候群』とは、『咬合の異常の有無にかかわらず、咬合違和感を訴える病態の包括的症候群』 (案)として提案する。 14.『咬合違和感症候群』に対する下位のグループ分けは、作業部会を立ち上げて行うことを提案する。 図 19 questionnaire ⑤ アンケート⑤ 図 21 questionnaire ⑦ アンケート⑦ 図 20 questionnaire ⑥ アンケート⑥ ⑧『咬合感覚異常(症)』あるいはその他の診断名(上記6.の別の名称)に関して参考となる論文(海外論文、国内論文) 1:馬場一美,有留久美子,羽毛田匡,木野孔司,大山喬史.咬合感覚異常者の口腔運動感覚能力.日本補綴歯科 学会雑誌49(4): 599-607, 2005

2.Clark GT, Simmons M. Occlusal dysesthesia and temporomandibular disorder: Is there a link? Alpha Omegan. 96:33- 39, 2003.

3.津山治己、他、咬合の違和感から昏迷状態を呈した転換性障害の1例、日本歯科心身医学会誌,25巻2号 57- 60(2010.12)

4.ShibuyaToshihisa, et al,筋筋膜性疼痛と関節円板転位の顎関節症患者における咬合違和感の比較(Comparison of occlusal discomfort in patients with temporomandibular disorders between myofascial pain and disc displacement) Journal of Medical and Dental Sciences,56巻4号 Page139-147(2009.12)

5.Reeves JL II, Merrill RL. Diagnostic and treatment challenges in occlusal dysesthesia. Calif Dent Assoc J 35(3):198-207. 6.Miyachi H, Wake H, Tamaki K et al. Psych ClinNuerosci 61:313-319, 2007.

7.Reeves JL, Merrill RL: Diagnostic and treatment challenges in occlusal dysesthesia. CDA (2007.) 35, 198-207, 8.窪木拓男. 咬合違和感への対応―咬合感覚異常の疾患概念確立に向けて―. Dental Diamond (2009), 62-67. 9.Clark GT, Minakuchi H, Lotaif AC. : Orofacial pain and sensory disorders in the elderly. Dent Clin North Am. 2005

Apr;49(2):343-62.

10.IASP (International Association for the study of Pain)

11.Phantom bite : classification and treatment. Marbach JJ, Varoscak JR, Blank RT, Lund P J Prosthet Dent 49 556-559, 1983.

12.口腔顎顔面痛の最新ガイドライン 改訂第4版 -米国AAOP学会による評価,診断,管理の指針- Reny de

Leeuw編 杉崎正志,今村佳樹監訳 クインテッセンス出版,2009.

13.尾口仁志,中村善治,福島俊士,森戸光彦.義歯に対する執拗な訴えおよび口腔内の違和感に苦慮した口腔心身 症の一例 Case Report – Psychosomatic Disease with Oral Discomfort and Severe Denture-related Symptoms. 図 22 questionnaire ⑧ アンケート⑧

図 2  結果 2:Category of chief complaints  主訴の分類
図 8  結果 8:Treatment 3(Psychosomatic approaches)
図 11  First visit(Occlusal view)
図 19 questionnaire ⑤ アンケート⑤
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参照

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