糖尿病
佐藤病院 リハビリテーション科 工藤、増田、櫻井、安原、碇屋はじめに
• 担当させていただいている患者様で,既往に糖尿病を患っている方 を多く経験する • 現在,糖尿病を患っている可能性のある方は950万人ほどいる 糖尿病予備軍を合わせると2050万人(国民の5人に1人が該当)と 言われている • 今後の臨床場面で活用できるよう,勉強し発表する機会を得たため 報告する糖尿病とは?
血糖を降下させる唯一の生体内ホルモン インスリン分泌障害 →インスリンが分泌されない インスリン抵抗性亢進 →インスリンが分泌されるが効かない または 細胞に糖が正常に取り込めなくなり, 慢性の高血糖となる糖尿病の病型分類
1型糖尿病 2型糖尿病 β細胞 インスリン 筋肉 肝臓 ウイルス 自己免疫 β細胞 インスリン 筋肉 肝臓インスリン抵抗性(インスリン感受性低下)
• 細胞組織におけるインスリン感受性が低下し, インスリンが効きにくくなっている状態を指す • 主な標的器官として, 肝臓・筋・脂肪組織が挙げられる • 原因として,過食や運動不足などの 生活習慣による内臓脂肪蓄積が挙げられる 糖の取り込み可能 …インスリン …インスリン抵抗性診断について
血糖測定時間 判定区分 空腹時 負荷後2時間値 血糖値 126㎎/dL以上 または 200㎎/dL以上 糖尿病型 糖尿病型にも正常型にも属さないもの 境界型 110㎎/dL未満 および 140㎎/dL未満 正常型 上記の黄色い部位+HbA1cが6.5%以上にて,糖尿病型と判定 ※HbA1cとは? ・長期間(約2か月)の平均血糖コントロール状態を推定する指標 (正常:4.3~5.8%) 他にもグリコアルブミン(2週間前)などがある(正常:11.4~15.8%)症状
※その他に消化器症状(悪心・嘔吐・腹痛),クスマール呼吸,アセトン臭などが挙げられる 血漿浸透圧 上昇 1型糖尿病 体重減少 全身倦怠感 高血糖 ケトン体過剰産生 多飲 脱水 電解質× 多尿 口渇 糖尿病性 ケトアシドーシス 昏睡 高血糖症状 自覚症状出現 2型糖尿病 ・飛蚊症 ・足のしびれ ・胸の痛み etc... 無症状 ・多飲 ・口渇 ・多尿 長期間 経過 合併症症状合併症
急性合併症 大血管障害 細小血管障害 慢性合併症 低血糖 による昏睡 高血糖性 高浸透圧昏睡 糖尿病性 ケトアシドーシス 閉塞性動脈硬化症 冠動脈硬化症 脳血管障害 神経障害 腎症 網膜症治療法について
糖尿病 治療 運動 療法 食事 療法 薬物 療法 患者 教育患者教育
• 運動療法→理学療法士が直接的に関わることができる また,患者様自ら関わる事が出来る • 食事療法→カロリー計算など栄養士の関りが大きい • 薬物療法→医師や薬剤師の関りが大きい *生活の中で活動性をあげるためのアドバイス+結果に 対するフィードバック *本人が実感できる視覚的・客観的評価の導入 (万歩計の記録とHbA1cを照らし合わせるなど)運動療法
運動の目的
原因 • 過食(肥満) • 運動不足 • ストレス • 妊娠 etc… 糖尿病 インスリン抵抗性 (インスリンによる糖を細胞 内へ取り込む働きの低下)運動によってインスリン抵抗性が改善する
運動の効果
長期
効果
その他
の効果
短期
効果
・筋活動による ブドウ糖消費 ⇒血糖の降下 ・インスリン抵抗性の改善 ・インスリン分泌改善(インクレチン様効果) ・インスリン感受性の向上 ・生活習慣病の改善 ・筋肉の減少や萎縮 ・骨粗鬆症の予防 ・ストレスの解消 etc…運動の効果
筋肉細胞内エ ネルギー消費 短期的な運動効果 (運動の即時効果) 長期的な運動効果 (運動の持続) 血管から筋肉へブ ドウ糖の取り込み 血糖の低下 糖輸送担体の 増加(GLUT) インスリンに依存 しない糖の輸送 インスリン抵抗性の改善 脂肪の燃焼 肥満の解消 ・内臓脂肪の減少 脂質代謝の改善・血圧の改善、抗動脈硬化作用、心肺機能向上どんな運動をすればいいの?
有酸素運動 • 筋が疲れづらく,継続しやすい運 動. • 全身運動を全力の60%ほどの力で 行う. • 散歩,ジョギング,水泳,自転車… レジスタンス運動(無酸素運動) • 筋肉に軽い負荷をかけて筋肉 をつける運動 • ダンベル,チューブを利用した 運動など… 2つを合わせて行うと効果的!!いつ,どれくらい運動すればいいの?
• 運動の強度:中等度(最高酸素摂取量の50%~60%) • 継続時間 :1回15分~30分 • 頻度 :少なくとも3回/週(本当は毎日が好ましい) • 時間帯 :血糖値が最も上昇する食後1~2時間が最適!! ※薬を飲んでいるときは低血糖になる恐れがある. →空腹時は行わないように! • インスリン感受性は運動後2~3日は継続する ➡体調や天候により休止日を設けても大丈夫!運動指標の種類
①METsを使う方法 •METs(Metabolic equivalents)とは? 活動・運動を行った際に安静状態の何倍の代謝(カロリー消費)を しているかを表したもの. •消費エネルギーをカロリー表示して,運動強度の指標とする. •消費カロリー(kcal)=1.05×METs×時間(時)×体重(kg) •Ex)60kgの人が3METsの運動を20分行った場合 •1.05×3×(20/60)×60=62kcal ②歩数を使う方法 1日1万歩を目標に!運動指標の種類
③カルボーネン法 • 最大心拍数と安静時の心拍数の差に運動強度をかけ(運動負荷心 拍数),目標心拍数とする. • 目標心拍数 ={(220-年齢)ー安静時心拍数}×運動強度+安静時心拍数 例)70歳,安静時心拍数が65,運動強度を60%とすると… {(220-70)ー65}×0.6(60%)+65=116 →目標心拍数は116拍/分となる!RPE 強度の 割合 強度の 感じ方 1分間当たりの脈拍数 その他の感覚 60代 50代 40代 30代 20 代 19 100% 最高にきつい 155 165 175 185 190 体全体が苦しい 17 90% 非常にきつい 145 155 165 170 175 無理.若干言葉が出る. 息が詰まる. 15 80% きつい 135 145 150 160 165 続かない.やめたい. のどが渇く.頑張るのみ 13 70% ややきつい 125 135 140 145 150 どこまで続くか不安, 緊張,汗びっしょり 11 60% やや楽 120 125 130 135 135 いつまでも続く,充実感, 汗が出る 9 50% 楽 110 110 115 120 125 汗が出るか出ないか, フォームが気になる 7 40% 非常に楽 100 100 105 110 110 楽しく気持ちよいが物足り ない 5 30% 最高に楽 90 90 90 90 90 動いたほうが楽
最大酸素摂取(Vo2)の40%から60%の運動をする!
運動療法をする時の注意点!!①
• 低血糖に注意! インスリン注射や服薬をしている時,空腹時の運動は低血糖症状を 引き起こす可能性がある. • 必ず主治医の指示を仰ぐ! 1型糖尿病では激しい運動が低血糖や高血糖の原因となる 可能性あり • 高齢者になると,個人差が大きくなる. →実際の負荷量はスタッフと試行錯誤して決める!. • 高血糖・低血糖になり状態が急変した時のために 「インスリン注射使用中」などのカード 「糖尿病健康手帳」を持ち歩く習慣をつける! • シックデイに注意! 糖尿病治療中に他の疾患によって.発熱,下痢,嘔吐をしたり食欲 不振の為食事ができない日などがある.運動療法をする時の注意点!!②
運動療法を禁止・制限した方がいい場合
• 糖尿病の代謝コントロールが極端に悪い (空腹時血糖250mg/dl以上または尿ケトン体中等度以上陽性) • 心肺機能に障害がある場合 • 増殖網膜症による新鮮な眼底出血がある. • 高度の糖尿病自律神経障害がある. • 腎不全がある 運動療法を始める前には十分な検査が必要!!低血糖症状
○低血糖症状は【中枢神経症状】と【交感神経症状】に分けられる 【中枢神経症状】 ・脳のエネルギー源の殆どはブドウ糖⇒低血糖によって脳の機能低下 ・血糖値が50mg/dl以下になると脳機能が低下し,最終的に昏睡状態になる ・生体には血糖が下がり過ぎない機能も備わっている 【交感神経症状】 ・血糖値が下がるとインスリンの分泌が減少し,血糖値を上昇させるホルモン の分泌が増加⇒血糖が下がり過ぎないよう調整される ・この交感神経系のホルモン(カテコールアミン)により現れるのが,動悸冷汗 震えなどの症状で,中枢神経の機能が低下しているという警告症状でもある低血糖症状
70mg/dl以下 空腹感 あくび 悪心 不安感 50mg/dl以下 無気力 倦怠感 計算力減退 40mg/dl以下 冷感 動悸 頻脈 震え 顔面蒼白 紅潮 30mg/dl以下 意識消失 異常行動 20mg/dl以下 痙攣 昏睡低
血
糖
発
作
症状を放置することで 死に至ることも!低血糖の原因・誘因
• 食事量減少による低血糖。また下痢や嘔吐によって食 事が十分に摂取吸収されていない際も低血糖を起こす 不適切な食事摂取 • 普段より激しい運動をした際や、労働量が多い際に低血 糖を起こす。運動や労働によりインスリンの効きがよくな るため、時間が経ってから低血糖を起こす場合もある 運動過多 • 不適切な量の投与により低血糖を起こす 経口血糖降下剤 ・インスリン注射低血糖症状の対処
○意識がある場合
• 意識があり経口摂取が可能な場合は砂糖15g~20gを飲む • 糖分を含む缶ジュース・缶コーヒーでも可 • 10~15分で回復されない際は,再度同量摂取する○意識がない場合
• 意識がない場合は砂糖・ブドウ糖を歯茎と唇の間に擦り込む • グルカゴン注射 • 病院に搬送する食事療法
食事療法とは…
正しい食習慣とともに、過食を避け偏食せず規則正しい食生活をする 1日3食規則正しくバランスよく摂取する 運動療法とともに糖尿病において基本となる治療 代謝状態を正常に近づけ,インスリン分泌異常およびインスリン抵抗性 を是正し合併症の発症・進展を防ぐ食事療法のポイント①
適切なエネルギー量の食事 男性 : 1,600~2,000kcal 女性 : 1,400~1,800kcal 【身体活動量の目安(体重1kgあたり)】 軽労作 デスクワーク,主婦 : 25~30kcal 普通の労作 立ち仕事 : 30~35kcal エネルギー摂取量算出の目安=標準体重×身体活動量 ※標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22食事療法のポイント②
1日3食規則正しい食事 血糖値安定のために,食事の時間と量をできるだけ毎日一定にする 1日2食の場合… →1回当たりの食事量が増え、食後の急激な血糖上昇につながる 空腹時間が長くなると栄養素の吸収が増加し,脂肪がつきやすい食事療法のポイント③
栄養のバランス 過不足のないバランスのとれた食事 たんぱく質 : 15~18% 脂質 : 20~25% 炭水化物 : 50~60% ビタミン ミネラル 食物繊維 糖尿病食事療法のための 食品交換表「糖尿病食事療法のための食品交換表」とは…
• どのような栄養素が含まれている かによって6つに分かれている • 食品を1単位(80kcal)とし,その目 安を示している 栄養バランスのよい食事 が手軽にできる食事療法の効果
新糖生の材料↓ 糖放出率↓ 肥満解消 急激な糖吸収を抑制 インスリン分泌量↓ 脂質・たんぱく質 摂取制限 炭水化物摂取制限 食物繊維の 多い食品の摂取インスリン抵抗性改善
インスリン分泌能改善
肝臓 脂肪細胞 腸薬物療法
Step1 運動療法
Step2 食事療法
Step3 薬物療法
〈経口摂取〉 ・インクレチン関連薬 ・スルフォニル尿素薬 ・α-グルコシダーゼ阻害薬 ・ビグアナイド薬(BG薬) ・チアゾリジン薬 ・速効型インスリン分泌促進薬 〈インスリン療法〉 ・超速効型 ・速効型 ・中間型 ・混合型 ・持効型糖尿病の薬物療法とは?
・正常では血中に少量のインスリン(基礎分泌)と食後の大量のインス リン分泌(追加分泌)により一定の血糖値がコントロールされている ・糖尿病の薬物療法では各臓器に作用し血糖コントロールを行う経口 摂取薬療法と,外部からインスリンを注入し血糖値を下げるインス リン製剤療法があるチアゾリジン 速効性インスリン分泌薬 スルホ二ル尿素薬 αーグルコシターゼ 阻害薬 インスリン分泌を 増加させる 炭水化物の分解・吸収を 遅延させ高血糖を防ぐ ビグアナイド ・肝臓で糖の作成を抑制 ・インスリン抵抗性を改善 ・ブドウ糖取り込み促進 ・インスリン抵抗性改善 ・ブドウ糖の取り込み促進 肝臓 筋肉 内臓脂肪 小腸 膵臓