平成9年9月1日
在宅ホスピスケアにおける呼吸困難の対応
ふじ内科クリニック 内藤いづみ
キーワード・緩和ケア・在宅ホスピスケア 呼吸困難 呼吸努力感覚 モルヒネ投与 1.はじめに 1995年8月に小さなクリニックを開業して以来、緩和ケア・ホスピスケアの社会 への啓蒙と同時に16例の在宅ホスピスケアを実践した。関わった期間は2日間∼1年 半までと患者さんにより色々であった。関わり方も種々で、 ①総合病院と当院の在宅ケア ②当院の外来でのフォローアップから在宅へ、そしてホスピスまで ③全経過を在宅でみる などである。緩和ケアの理解は患者本人を含めた一般社会も既往の医療施設でも高いと は言えず患者の希望をかなえQOLを保つための医療機関との協力体制は整っていると は言いがたい。 ll.在宅ホスピスケアの実際 私達の体験した在宅ホスピスケアにおける不快症状は、1)淀川キリスト教病院元ホス ピス長の柏木哲夫氏がターミナルケア誌で述べているものとほぼ・一致した。 っまり ①がん性痔痛 ②呼吸困難 ③全身倦怠感 ④食欲不振 ⑤四肢のしびれ ⑥吐き気 ⑦不安 特に呼吸困難は死への不安や恐怖につながりやすく、患者にとって耐えがたい苦痛で ある。当院で経験した呼吸困難を強く訴える症例は2例あり、いずれも乳がんの全身転 移であった。 皿.症例11さん 48才 女性 乳がん 発症1992年 病名の告知あり(紹介時余命6W
∼3ヶ月)東京慶応大学病院放射線科からの紹介。手術、放射線等ほぼつくせる手段は つくしたと本人に前医より説明あり。 〈紹介時の状態〉 がん性リンパ管症、がん性胸膜炎、胸水貯留、気道狭窄、頸部リンパ節腫脹、 頸椎転移ADL:トイレ歩行可能
く在宅ケアの経過〉一100一
山梨肺癌研究会会誌 10巻2号 1997 ますほ訪問看護ステーションの協力により連日訪問した。ADLは週毎に低下し在宅 16日目にはほぼベット上の生活となり呼吸困難が増してきた。02投与とともにモル ヒネを呼吸困難の緩和目的に持続的皮下注法により投与した。
モルヒネ量 20mg/DAY →
30mg/DAY
呼吸回数 32回 →
14回
本人の呼吸困難の自覚症状は確実に呼吸回数の減少に伴って減り、在宅での看取りが可 能になった。関わって約6週後にお亡くなりになった。 IV.症例2Sさん 69才 女性 乳がん 発症1993年 手術1993年5月 山梨県内の
総合病院で治療を受けていた。告知もあった。本人と家族の希望により、当院で在宅ケ アを実施した。 症状は前症例と似ているが皮膚浸潤と痛みが1さんより強く胸水貯留が著明で呼吸困難 感も強かった。 モルヒネは、痛みに対してアンペック座薬を導入していたが、途中より持続皮下注法 により投与。呼吸困難が減り在宅で家族が付き添い続けることができた。モルヒネ量 50mg/DAY
呼吸回数 26回
外来フオロー 在宅ケア→ 200mg/DAY
→ iO∼12回
10週
8週 モルヒネの持続皮下ルートによる投与は約7週間にわたったが特に問題は生じなかった。 V.まとめ 呼吸困難はあくまでも自覚症状であり呼吸努力感覚である。呼吸努力による苦しさで ある。2)Twycrossらは末期がんの50%,肺がんで70%に呼吸困難が発生するとし
ている。 本邦では柏木らが末期がんの60%に出現すると報告している。 DATAにとらわれることなく患者の自覚症状の改善とDATA(血液02分圧、飽和度) が比例しないことが多く報告されている。 v【.対策 ①02投与 ②抗生物質(間質性肺炎など) ③ステロイド(特にがん性リンパ管症) ④気管支拡張薬 ⑤トランキライザー ⑥モルヒネ投与一101一
平成9年9月1日 特に当クリニックの症例ではモルヒネが痔痛緩和だけでなく呼吸困難の緩和にも有効で あったことを経験した。3)モルヒネの投与量は痔痛に用いるより通常は少量でよいとさ れている。 モルヒネの呼吸困難改善の作用機序は諸説があるが、中枢における呼吸困難感の感受性 の低下と呼吸数を減らし換気運動による酸素消費量を減らすことによるとされる。 モルヒネによる呼吸抑制は、強度の眠気の先行などに注意していれば問題となることは
;鑑』跳重誌蒜㌫ぎ麗璽窪〉㌶議が緩和しなかった症例
は極度に呼吸困難が強くなってからモルヒネを開始している。この様な場合には全身症 状の悪化も影響し、モルヒネの微量から増量へのコントロールがうまくいかず副作用が 出やすい。つまり医療者の呼吸困難感に対する査定の遅れが一つの原因だと報告してい る。 がん患者のQOLに貢献するために今後も研究実践を続けて行きたいと思っている。 参考文献1)ターミナルケア vol.7 suppl 1997年JUNE
2>TwycrossRG,LackSA:末期がん患者の診療マニアル 医学書院
P9∼39
3)呼吸困難を呈する末期がん患者の症状コントロール 国立がんセンター・丸ロミサエ 日本呼吸器理学会誌第4巻2号 1994年12月
一102一
山梨肺癌研究会会誌 10巻2号 1997