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<総説>紫斑病性腎炎とその治療 : IgAN腎症と比較して 利用統計を見る

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I.はじめに  Henoch-Schönlein 紫 斑 病( 以 下 HSP) は, 全身性の血管炎で,幼児期学童早期に頻度が高 い。下腿に出現する触知可能な出血斑,腹部 症状,関節痛,腎症を主症状とする。組織学 的には,皮膚の白血球破砕型血管炎を特徴と し,蛍光抗体法では,腎臓・皮膚・腸管等の 病変部位に IgA の沈着を認める。多くの場合, self-limited な疾患であり,数週間で,自然寛 解することが多い。しかし,比較的良好と考 えられていた紫斑病性腎炎(HSPN:

Henoch-Schönlein purpura nephritis)の予後は,早期 に経過が良好と判断されていても,観察を中断 すると数年後には,血尿 + 蛋白尿が再燃した り或いは組織学的に腎炎が存続している症例が 高率(66.7%)に存在することが明らかにされ た1)。  HSPN は HSP に合併する腎炎で,腎炎症候 群と全ての腎炎としての臨床病型を呈する。蛍 光抗体法では,主に IgA > C3, IgG, IgM etc の 瀰漫性メサンギウムへの,時に末梢係蹄への沈 着を特徴とする。光顕では,IgA 腎症(IgAN) と同様に,メサンギウム増殖や血管内増殖を主 体とするが,分節性病変(半月体,糸球体硬化, ボウマン嚢との癒着)が存在する糸球体の割合 が,腎予後と相関することが知られている。組

紫斑病性腎炎とその治療

─ IgAN 腎症と比較して─

東 田 耕 輔

1)

,沢 登 恵 美

2)

,松 下 香 子

3)

小 林 杏 奈

4)

,金 井 宏 明

5) 1) 山梨大学医学部附属病院新生児集中治療部, 2) 市立甲府病院小児科,3)まつしたこどもクリニック 4) 山梨大学医学部小児科,5)山梨大学医学部小児科 要 旨:紫斑病性腎炎(HSPN)は,Henoch-Schönlein 紫斑病(HSP)に合併する腎炎で,全て の腎炎としての臨床病型を呈しうる。組織学的には,蛍光抗体法でメサンギウムに IgA 優位の沈 着を伴い,光顕ではメサンギウム増殖を特徴とする。臨床的記載が無ければ,IgA 腎症と鑑別は困 難である。両疾患の家族内発症や,同じ患者さんに時間を越えて発症する場合があり,同一疾患と 捉えている研究者も多い。病因として,IgA 腎症と同じく IgA1 分子ヒンジ部のO結合型糖鎖不全 が原因と考えられている。IgA 腎症に対しては,ステロイド療法,国内では扁摘パルス療法の有用 性が認められて来たが,紫斑病性腎炎での治療成績は乏しい。紫斑病性腎炎は,臨床的に高度であっ ても,無治療で改善する症例があり,治療開始時期の決定に迷う傾向にあるが,全体としての長期 予後は IgA 腎症と比較しても良好ではないことに留意する必要がある。紫斑病性腎炎の治療につ いて,組織学的重症度に基づいた治療を近縁疾患である IgA 腎症と対比して提案する。 キーワード 紫斑病性腎炎,HSPN,小児,扁摘パルス療法,長期予後,IgA 腎症

総  説

〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 番地 受付:2012 年 10 月 3 日 受理:2012 年 10 月 20 日

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織学的には,IgAN と極めて類似しており,皮 膚症状などの臨床的な情報がなければ,両者を 鑑別出来ない。IgAN は,従来良好と考えられ ていた長期予後が必ずしも良くないことが明 らかになった2–5)。腎生検後からの腎生存率は, 10 年後で 67-86%と報告されている3–5) 。IgAN と HSPN は,小児期の進行性腎炎の 1,2 位を 占めているが,小児期に末期腎不全に至る症例 は必ずしも多くない。しかし,進行腎炎である ため,小児期・思春期を越えて,青壮年期に末 期腎不全に至る例が少なからず存在すると推定 で き る。HSPN は 主 に 幼 児 期 に,IgAN は 10 歳以降発症が増加することから,早期発見・治 療により進行を抑制できれば,壮年期の慢性腎 臓病(CKD)増加を抑制できる可能性がある。  治療法については,重症者ではステロイドや 多剤併用療法が一般的に使用されることが多い が,IgAN と異なり,明らかに有益と結論が出 ている治療法は確認されていない。問題は,臨 床的に比較的重症であっても,無治療で改善す る症例が存在することであるが,逆に臨床的に 経過が良好と考えられても,その後腎炎が再燃 している症例も数多く存在する1,6)。どういっ た治療目標を設定するかは,患者さんと充分相 談して決定すべき事項と考えられる。  近年,末期腎不全の症例が増加傾向にあり, CKD 対策が重要視されてきている。小児期(15 歳未満)の年間透析導入患者は,15 歳未満で は年間 30 例に過ぎないが,30 − 45 歳の 15 年 では 2200 例まで急増する7)。就労 + 子育て年 齢である青壮年期での末期腎不全への進展は, 個人的にも社会的にも影響が大きく,可能な限 り回避すべきであり,より適切な治療法を検討 すべき時期に来ていると考えられる。進行性腎 炎は,早期治療により,その予後が改善できる 可能性がある。  HSPN を IgAN と比較して述べ,治療法に ついて自験例を含めて提案する。 II.疫  学  HSP は,小児期の発症が多いが,全ての年 齢を通して発症することが知られている。英国 における 17 歳未満の罹患率は,人口 10 万当 り 20.4 人で,男に多い(2:1)。年齢的には, 70.3%が4− 6 歳で発症している8–10) 。男女比 は,1.5 から 2:1。季節的には,冬季に多い傾 向がある。先行感染として,溶連菌,マイコプ ラズマ,サルモネラ,ウイルス疾患としては, 麻疹・風疹・水痘・伝染性紅斑などに続発する。 再発は,約 1/3 に認められる11)。 III.臨床徴候  HSP の臨床徴候は,紫斑が 100%,以下関節 炎 82%,腹痛 63%,腎症 40%と記載されてい る12)。紫斑は,下腿の触知可能な紫斑(palpable purpura)が特徴的で,下腿や臀部に好発す る12)。関節炎は,膝,足,肘等,四肢の関節 (下肢>上肢)が多く障害される。消化管合併 症は,colic pain で,消化管出血を伴う場合が ある。虚血性腸炎,消化管穿孔,腸重積の合併 も認められる。急性腹症が疑われ,試験開腹さ れる場合もある。腎炎12),関節炎,腹部症状 が先行する場合もあり,診断が困難となる。郭 らは,腎症を発症していない HSP 患者を長期 観察した成績を報告しているが13),1 ヶ月以上 の紫斑の持続,XIII 因子の低下或いは高度の 腹痛存在が,腎合併症の発症と関連していたと 報告している。   腎 炎(HSPN) は, 小 児 の 32 %, 成 人 の 59%に合併する。15%が血尿のみで,38%が血 尿+蛋白尿,15%が急性腎炎症候群,23%が腎 炎+ネフローゼ症候群,8%がネフローゼ症候 群で発症している14)。このうち,短期的には 腎炎+ネフローゼ群の予後が最も悪く,最低 2 年以上の経過観察で,20%が死亡或いは腎不全 となる9)。

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IV.組織学的所見 光顕:HSPN は,血管内増殖及びメサンギウ ム増殖を主体とする進行性腎炎である。重症例 では,好中球浸潤に加えて,核融解,糸球体基 底膜断裂,フィブリン析出といった,糸球体の 壊死性毛細血管炎の像を呈し,半月体が形成さ れる。半月体は,生検検体の 89%に存在し14), 通常細胞性半月体から細胞線維性,線維性半月 体へ進展する15,16)。光顕では,メサンギウム増 殖や血管内増殖を主体とするが,分節性病変(半 月体,糸球体硬化,ボウマン嚢との癒着)が存 在する糸球体の割合が,腎予後と相関するこ とが知られており16),成人においても国際小 児腎臓病研究グループ(ISKDC: International Study of Kidney Disease in Children)による 重症度分類が多く使用されている。ISKDC 分 類(表 1)では,VI(膜性増殖性腎炎様)を除 き,半月体(分節性病変)(%)の割合で,分 類されて(Grade I ∼ V)いる。小児の HSPN で, 50%以上の半月体形成を伴う場合(Gr.IV or V) は 18%で14),IgAN の 6-12%(但し,半月体 45%以上)より高い。急性期の糸球体への好中 球浸潤及び血管内増殖は,半月体形成と強く関 連しており14,17),長期的な予後とも関連してい る可能性がある。HSPN における間質性変化は, 糸球体周囲に存在し主に糸球体病変からの二次 的な変化を反映していると考えられる。  ISKDC 分類 VI 型は,頻度(3%)はそれほ

ど高くないが,PAS 染色で double track,電顕 でメサンギウム嵌入像を示し,膜性増殖性腎炎 様の組織像を呈する。 蛍光抗体・電顕:HSPN と IgAN は非常に組 織学的に近似している。IgAN は,メサンギウ ムへの IgA 優位の顆粒状沈着で定義18)されて いるが,HSPN でも同様に,メサンギウム IgA 沈着が,最も典型的な所見である。HSPN で は,IgAN と比べて係蹄壁への IgA 沈着が高頻 度にみられる19)。電顕でも両者は区別できな いが20),HSPN では,IgAN と比べて内皮下の dense deposit が高頻度に見られる14)。HSPN では,IgAN と比較して,より高頻度に半月体 形成を合併することを考え合わせると,係蹄壁 への IgA 沈着は HSPN や IgAN において,内 皮下への IgA 免疫複合体の沈着を意味し,係 蹄壊死から細胞性半月体形成を来し,重症化 に関連している可能性が高い。IgAN や HSPN などの免疫複合体型腎炎においては,免疫複合 体が内皮下に存在する場合は,通常,高度の炎 症や半月体形成と関連している21)。 V.病  因  HSP(N) の 病 因 は 未 だ 明 ら か で は な い が, IgA を含む免疫複合体の関与する全身疾患であ る。IgAN と同様に,IgA1 の糖鎖異常が指摘 されている22,23)。糖鎖は,蛋白や脂質はと結合 して,糖蛋白質や糖脂質となり,分子自体を 表 1.紫斑病性腎炎の ISKDC 分類 Gr.

I Minor glomerular abnormalities

II Pure mesangial proliferation(a focal, b diffuse)

III Minor glomerular abnormalities or mesangial proliferation with cresscents/segmental lesions in < 50% glomeruli(a focal, b diffuse) IV Minor glomerular abnormalities or mesangial proliferation with

cresscents/segmental lesions in 50-75% glomeruli(a focal, b diffuse) V Minor glomerular abnormalities or mesangial proliferation with cresscents/

segmental lesions in >glomeruli(75% a focal, b diffuse) VI Pseudomesangiocapillary

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安定化させる。水分を含ませ組織を保護した り,蛋白分解酵素に対して抵抗性を得たり,或 いは細胞表面に発現して細胞間の情報伝達に重 要な役割を果たす。免疫グロブリンにおいて は,四次構造そして抗体としての他の分子と の反応に糖鎖が重要である24,25)。IgA1 分子で は,ヒンジ部のうち特定の 5 カ所に O 結合型 糖鎖が存在している。IgAN 患者や HSPN で は,O 結合型糖鎖の N- アセチルガラクトサミ ン(Galnac) と 結 合 す る Galactose が 欠 損 し た IgA1(Gal-defi cient IgA1: Gd-IgA1)が血清 中で増加している23,26–28)。IgAN 患者の糸球体 から溶出された免疫沈着物には,かなりの含 量 の Gd-IgA1 が 存 在 す る29)。Gd-IgA1 で は, GalNAc 残基や sialated-GalNAc は,同部の抗 原性により,IgG 抗体や IgA 抗体により自然 に認識され,抗糖鎖異常 IgA 抗体が産生され, Circulating immune complexes(CIC) が 形 成される。これらの CIC のうちいくらかは, 代謝を免れ,メサンギウムに沈着すると考え られている30)。Gd-IgA1 は,構造的変化を来 し,通常の IgA1 より,polymeric になりやす く31,32),メサンギウム細胞の活性化を起こし やすい33,34)。鈴木らは,IgAN 患者では,これ らの異常に特異的な glycan-specifi c antibodies (IgG)が高率に存在し,抗体価の高値は蛋白 尿量と関連することを報告している35)。ヒン ジ部の糖鎖に異常を来すと,肝臓でのクリアラ ンスが遷延するため,結果として糸球体に沈着 する可能性が示唆される36)。IgAN 患者では, 多数の polymeric IgA1 産生形質細胞が骨髄に も存在するが37),IgAN 患者の扁桃に存在する B リンパ球は,糖鎖欠乏 IgA を産生すること も明らかになっている38)。IgAN 患者に,扁摘 を行うと,IgA1 値や polymericIgA1 が低下す ること,血尿や蛋白尿が改善することは結果と して明らかであり,扁桃で糖鎖異常 IgA1 が産 生されていることも明らかであるが,total の IgA 産生システムの中で扁摘がどの程度貢献し ているかの詳細は未だ不明である。  HSP 患 者22,23)で も,control と 比 較 し て,

IgA1 の O-linked glycosylation の異常が指摘さ れており,IgAN と同様のメカニズムが働いて いる可能性が示唆される。 VI.予後 /IgA 腎症との比較  HSPN では,組織学的に半月体形成(+ 分 節性病変)する糸球体の割合(%)が長期予 後と関連する。成書14)によれば,発症後平 均 5.8-6.5 年 の 時 点 で,ISKDC Gr. Ⅲ の 7 %, Gr. Ⅳの 21%が既に予後不良(腎不全 or 死亡) の状況に陥っている。腎不全の基準を< 40-60 ml/min/1.73m2 に設定しているため,この数字 には,CKD stage. Ⅱと一部 stage. Ⅲは含まれ ていない。予後良好とされる Gr. Ⅱでも,既に 4%が予後不良の状況であり,活動性病変が持 続する症例を含めると,15%が将来的に腎機 能障害を来す可能性がある。その時点で,尿 異常を認めない例は,Gr. Ⅱの 70%,Gr. Ⅲの 65%,Gr. Ⅳの 57%に過ぎない。成人の HSPN では,250 例,平均 14.8 年の経過観察で 38% に中等度以上の腎機能低下を (CrCl < 50 ml/ min) を 認 め, ま た, ① 血 尿 な し ② 蛋 白 尿 な し③腎機能正常で,定義した寛解率はわずか 20%に過ぎなかったと報告している39) 。HSPN の長期予後は決して良好とは言えない。半月体 と増殖性変化は,数週間で,硝子化と硬化性 病変を残す。但し,例外的に,肉眼的血尿の 間,半月体が細胞性半月体のみで構成される場 合は,半月体は殆ど瘢痕を残さず治癒する40)。 逆にいえば,細胞線維性半月体・線維性半月体, 分節性硬化の存在は,CKD への進展を予測さ せると考えられ,治療・予防的治療について充 分検討する必要があると考えられる。我々は, 50%の細胞性半月体を認め,瀰漫性半月体形成 性腎炎と診断し,扁摘パルス療法にシクロフォ スファミド大量静注(以下 IVCY)を併用した が,全く分節性変化を残さず改善した症例を経 験している(投稿中)。半月体が,完全に細胞 性半月体のみで構成される場合は,免疫抑制剤 使用の必要性の有無を再検討する必要があるか

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も知れない。  血尿の有無は,腎炎の存在を検知する上で重 要であるが,重症度や予後を考える上では重要 視されていない41)。紫斑病性腎炎の予後を考 える上で,最も重要である半月体は,通常,糸 球体係蹄の壊死や断裂42)から,血漿成分や単 核球,マクロファージなどの細胞成分がボウマ ン嚢腔へと流入し,細胞性半月体の形成が始ま ると考えられている。Bennett らは,腎生検時 に肉眼的血尿があった IgAN 患者では,100% (13/13)に半月体を,平均 18%(5-40%)の糸 球体に認め,肉眼的血尿でなくても,高度血尿 (1,000,000 red cells/ml)であれば,79%の症例 に半月体(平均 25%:0-100%)を認めたと報 告している42)。扁摘パルス療法で,HSPN や IgAN を治療すると,多くの場合,蛋白尿に加 えて血尿も消失する43,44)。即ち,治癒或いは完 全寛解(血尿消失,蛋白尿消失,腎機能正常, 血圧正常)を治療目標とすることが出来る。こ の場合,再発・再燃した場合,血尿の出現を指 標として利用することも出来る。蛋白尿消失に 加えて,血尿も存在しない場合,腎炎が少なく とも活動性でないことを予見させるため,治療 効果の判断基準としてより意味が大きい。血尿 は,膜性増殖性腎炎や IgAN,HSPN などのメ サンギウム領域や血管内皮下への免疫複合体沈 着が主体である腎炎の活動性の指標として本来 極めて重要であり45),その消失は,急性期の 治療指標として蛋白尿と同様に有用な可能性が ある。また,治療前の高度の血尿は,係蹄壊死・ 半月体合併と関連があるため,より重要視すべ きである42)。どの程度の血尿を重視すべきか? 或いは尿沈渣を含めて判断46,47)すべきか?容 易に実施可能な基準は明らかでないため,今後 の検討が必要である。  HSPN と IgA は,多くの研究者が,同一或 いは非常に近似した疾患と捉えている。疫学的 には,IgAN と診断された患者に,後に HSP が発症する場合がある48–50)。HSPN では,腎 炎のみの再発があることはよく知られている が,IgAN の新たな発症とは鑑別出来ない。両 者の家族内発症51)etc も数多く報告されている。  両者の予後を比較すると,成人の HSPN 患 者 で は, イ タ リ ア か ら の 報 告 で,10 年 後 に 15%が ESRF(end stage renal failure)に至り, IgAN とほぼ同様であった52)。小児においては, 2 年で 8%9) が,6.5 年以上の経過で 14%53)が ESRF に至り,活動性病変を併せると 27.6%が 予後不良と考えられた。これは,IgAN(ESRD: 10 年 13%,20 年 30%)54) より,むしろ悪い結 果と捉えられる。HSPN は,ISKDC 分類(表 1)による組織学的重症度に一致して,予後が 悪化する。ESRF 或いは腎炎が活動的な状態を, 予後不良群とすると,発症後平均 23.4 年の観 察期間で,ISKDC Gr. Ⅲでは 24%(5/21)が, Gr. Ⅳでは 55%,Gr. Ⅴでは 67%が予後不良群 に分類される55)。IgAN でも,HSPN と同様に 分節性病変の割合が,長期予後と関連するとの 報告が見られる56)。両疾患とも,長期的な腎 生存を確実に期待する場合は,組織学的重症例 (分節性病変が多い例)については,より強力 な治療を実施すべきと考えられる。成人でも, 両疾患の予後に差がないことが報告されてい る57)。IgAN でも,半月体 50%以上の症例は, 極めて予後不良であり58),平均 29 カ月で,半 数以上が ESRD 或いは高度腎機能障害(SCr ≧ 200 µmol/l)となる。但し,早期に治療を開 始出来た 5 例(SCr < 200 µmol/l)では,2 例 (40%)のみ高度腎機能障害となっているが, 治療が遅れた 10 例(SCr ≧ 200 µmol/l)では 7 例(70%)で高度腎機能障害或いは ESRD となっ ており,治療成績が異なる。腎機能の悪化を待 たず,早期の IVCY を含めた治療が,長期予 後の改善に必要であると考えられる。IgAN に 関するヨーロッパからの報告では,透析になる 患者年齢は若く,ほとんどが 25-55 歳で透析導 入され 30 歳以前が 22%を占めている59)。早期 の治療開始が重要かも知れない。 VII.発症予防  HSPN の発症予防については,ステロイド

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投与で,HSPN の発症が抑制されるか否かに ついて検討されている。イタリアからの報告 では,HSP 患者 168 名を対象とした経口ステ ロイド 2 週間投与が,コントロールと比較し て腎炎の発症が有意に抑制された60)。しかし, カナダの 40 例を対象とした RCT では,有用 性 が 見 い だ さ れ な か っ た61)。HSP 171 名 を, PSL 1 mg/kg の投与有無で 2 群に分けた RCT では,腎症の発症予防に有意差はなかったが, 関節痛や腹痛の改善は早かったと報告してい る62)。腹痛や関節痛の症例でも,通常ステロ イドが使用されるので,使用する場合は 2 週間 のトライアルを考慮すべきと思う。 VIII.治  療  HSPN の治療予後は14),ISKDC 分類(表 1) の Grade と一致しているため,この分類によ り治療計画を立てるのが最も簡便で理解しやす い63–65)。しかし,高度蛋白尿・ネフローゼ症候 群を呈する症例も多いため,臨床的重症度で検 討した報告も多い66–68)ことが治療方針決定を 複雑化している。 K D I G O : K i d n e y D i s e a s e : I m p r o v i n g Global Outcomes の根拠の 1 つとなっている Goldstein ら の 報 告55)で は, 小 児 の HSPN78 例の長期予後(治療開始後,平均 23.4 年後)は, 全体で 28.2%(22/78)が ESRD 或いは活動性 腎炎が存続していると報告している。最も予後 良好と考えられる血尿±蛋白尿群であっても, 7/39(17.9%)に尿異常所見があり,5/39(12.8%) が,活動性腎病変或いは腎死に陥っている。決 して予後良好の腎炎とは言えない。蛋白尿± 血尿陽性群(onset grade2)の 7 例は,改善が 得られず,死亡 1,腎不全 2,活動性腎病変 2, 尿異常の残存 2 と記載されているにも関わら ず,血尿のみ陽性群(onset grade1)と,血尿 + 蛋白尿群(onset grade2)が,区別されてい ないため,血尿 + 蛋白尿群の予後は,さらに 悪い可能性が否定できない。  HSPN では,高度蛋白尿であっても,自然 に改善する可能性が指摘されており,治療介入 の有用性が評価しにくい状況にあるが,逆に 組織学的に軽微であってもその後早期に組織 学的に悪化する症例があることも知られてい る69)。また,腎生検を実施した小児の HSPN で 1/5 以 上 が, 既 に ISKDC 分 類 Gr. Ⅳ or Ⅴ (半月体,或いは分節性病変 50%以上)に分類 される70–72)ことに留意する必要がある。腎生 検の待機は,さらに予後を悪化させ得策ではな い。また,重症化すれば,腎機能温存には経口 或いは IVCY 等の免疫抑制療法が必要となる ため,その後の妊孕性や発癌性等にも懸念を残 す。IgAN43)と同様に,早期に生検を行い,結 果に併せて適切に治療介入した方が44),予後 の改善と同時に将来的な合併症も軽減できる可 能性がある。  HSPN 治療を,簡便化するため,組織学的 分類に基づいて 3 群に分けて提案する。  軽症群(ISKDC Gr Ⅰ , Ⅱ):臨床的に軽症 の HSPN に対して,KDIGO68)では,エビデ ンスがないことを断った上で,IgAN において 有効だという理由でアンギオテンシン変換酵素 阻害剤(以下 ACEI)やアンギオテンシンⅡ受 容体阻害剤(以下 ARB)を推奨している。腎 生検の必要性は記載がなく,肉眼的血尿の有無 も問わず,尿蛋白(0.5 g-1.0 g/1.73 m2/ 日)の みで判断する。KDIGO は,発展途上国での治 療も想定しているため,腎生検が比較的容易に 適応できる先進国での治療方針とは状況が異な る可能性がある。ACEI や ARB の腎炎に関す る治療成績は,一般的に尿蛋白の改善や腎機能 の変化に終始しており,組織学的な改善につい て記載されたものが少ない。中等度の蛋白尿を 呈する IgAN を対象としたランダム化比較試験 (RCT:Randomized Controlled Trial) で は,

ACEI の投与により,無治療対照群と比較する と確かに腎機能の保持或いは尿蛋白の改善に優 れているが,尿蛋白が正常化したのは,治療 群で(3-4 年後で)約 20%に過ぎない。成人の HSPN では,ACEI や ARB 投与は無効との報 告もある39)。別の IgAN を対象とした RCT で

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は,ACEI+ ステロイド vs ACEI 単独では,治 療効果に著しく差があり73,74),完全寛解を目指 す場合は,HSPN においてもステロイド併用 が有利と考えられる。  以上より,ステロイドパルス療法と短期間ス テロイド投与で,高率に臨床的寛解(蛋白尿消 失に加えて血尿の消失)に至る可能性が高いと 推定される。分節性病変を伴わず,自然寛解も あるので,臨床的に改善傾向で家族や本人の希 望があれば,無治療で経過観察も可能である。 再発予防を目的として,扁摘も,IgA 腎症と同 様に試みる価値があると考える。  中等症群(ISKDC Gr. Ⅲ):半月体の割合が 高い場合は,積極的な治療を考慮すべきであ る。先述したように,発症後平均 23.4 年の観 察期間で,ISKDC Gr. Ⅲでは 24%(5/21)が 腎死に陥っている。ISKDC Gr. Ⅲ以上の患者 12 名(Gr. Ⅲ b 9 名 Gr. Ⅳ名)を対象としたス テロイドパルス + ミゾリビン + ウロキナーゼ 療法の検討では,途中で脱落させた Gr. Ⅳ 2 例 を除く,Gr. Ⅲb全例,Gr. Ⅳ 1 例で,3 か月後 の尿蛋白が改善,組織学的にも改善し,最終 観察時には,8 例が尿が臨床的寛解,2 例が微 細尿異常を伴うのみであった。Gr. Ⅲでは治療 効果が充分であるが,Gr. Ⅳでは不十分であっ た63)。Gr. Ⅲ b 8 名 + Gr. Ⅳ 1 名にプレドニゾ ロン(PSL 1.5 mg/kg,)+ シクロフォスファミ ド(CY 2 mg/kg, 8 wks)投与で,平均 78 カ月 観察した報告では,尿蛋白は平均 5.0 → 0.3 g/ 日,半月体は平均 23.3 → 1.6%に減少,腎機能 も全例保持されている64)。半月体の割合が高 い場合(25%以上?)は,ステロイドパルスに 加えて免疫抑制剤を併用した多剤併用療法を考 慮すべきかも知れない。   重 症 群(ISKDC Gr. Ⅳ , Ⅴ ):ISKDC 分 類 Gr. Ⅳ or V に進行すると,臨床的寛解を目指 した治療では,通常 IVCY 等強力な治療法が 必要となる。進行性腎炎は,活動性病変が残存 したまま,時間が経過すると,細胞性半月体か ら細胞線維性半月体,線維性半月体へ,或い は糸球体硬化へ,糸球体周囲の間質の細胞浸 潤から線維化へと,非可逆的な慢性病変へ進 展する。組織学的に半月体 50%以上の症例は, 本来予後不良なため躊躇せず早期な治療開始 が必要である75)。重症の HSPN に対する,治 療成績は限定されている。川崎ら63)は,37 名 の ISKDC Gr. Ⅳ以上の小児患者 37 名を対象と し て,A 群 MPSL+ ウ ロ キ ナ ー ゼ 群 と,B 群 MPSL+ 経 口 CY: cyclophosphamide(2.5 mg/ kg, 12 週)+ ウロキナーゼ群の 2 群に分けて検 討したところ,最終観察時(各々 7.4 ± 3.1, 6.2 ± 1.7 年後)で腎不全例はないが,A 群で は,4 例 20%に活動性腎病変,軽度の尿異常を 40%に認めた。B 群では,軽度の尿異常を 4 例 (24%)に認めたのみであり,CY 併用で治療 予後が明らかに異なっていた。別の報告では, Gr. Ⅲ以上の 56 名に,ステロイドパルス + ウ ロキナーゼ療法を実施したところ,9.7 ± 6.0 年後に,Gr. Ⅲでは,予後不良群(活動性腎炎 +ESRD)が 3%(1/31),Ⅳ + Ⅴ群では 20%(5/25) であり,改善率に明らかに差を認めたと報告し て い る65)。Shenoy M ら は,Gr. Ⅳ , Ⅴ 8 名 を 含む HSPN27 名に対し,長期の免疫抑制療法 PSL+(経口 CY → AZP: azathioprine)を行い, 良好な成績を得ている。Gr. Ⅳに対する扁摘の 効果も報告されている76)。   高 度 の 蛋 白 尿 を 伴 う HSPN に お い て は, PSL+AZP66), ミ コ フ ェ ノ ー ル 酸 モ フ ェ チ ル (MMF: mycophenolate mofetil)67,77,78)や シ ク ロスポリン(CYA: cyclosporine)79)が有用との 報告がある。組織学的に重症な患者に対しての 検討が期待される。KDIGO では,免疫抑制療 法の基準を,瀰漫性の半月体形成に加えて,急 速進行性であることを条件としているが,この 基準は,進行性腎炎である HSPN や IgAN の 治療時期を遅らせ,半月体や間質の線維化,癒 着に進展させる可能性がある。むしろ,予後不 良が疑われる場合,早期に腎生検を行い,少な くとも Gr. Ⅳ以上の場合は,ステロイドパルス 療法に免疫抑制剤を併用した多剤併用療法を早 期に決断すべきである。  我々は,HSPN 小児患者に対し,扁摘パル

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ス + 組織所見により決定する多剤併用療法44) を実施している(表 2,図 1)。組織学的重症度(分 節 性 病 変 の 割 合 0, 0-10, 10-25, 25-50, 50+ %) に基づいて,高度の場合,免疫抑制剤を併用し ている。ISKD Gr. Ⅱ 1 名,Gr. Ⅲ 6 名,Gr. Ⅳ 2 例を対象とした検討では,最終観察時(44 ± 8 ヶ月)で,89%の症例で蛋白尿が消失(< 0.2 g/ gCr),全例で血尿が消失した。Gr. ⅡからⅣ症 図 1. 治療開始後蛋白尿消失(尿 TP/Cr < 0.2 g/g Cr)までと血尿 消失までの期間

Nephron Extra. 2011 Jan-Dec; 1(1): 101–111. 表 2.治療前後の組織及び検査所見の変化

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例の 89%で臨床的寛解に至った。活動性腎炎 の治療において,臨床的寛解は,活動性の消失 を意味し,長期予後を考慮すべき小児の腎炎を 治療する上で,極めて意味が大きいと考えら れる。  IgAN では,近年ステロイド療法の有用性が 確立してきているが,糸球体硬化が進行した症 例では,根拠に乏しい80)。扁摘パルス療法が, 予後を改善することは明らかになってきたが, 既に腎機能低下した例での治療効果は低い。罹 病期間が長いほど,扁摘パルス療法の寛解率が 低下し,逆に早期ほど,扁摘パルス療法の治 療効果は高く,臨床的寛解に至る可能性が高 い81,82)。早期腎症での,ステロイドパルスを含 めた適切な治療の有無が予後を左右する可能性 が高い。  扁摘パルス療法は,堀田ら83–85)により IgAN で治療法が確立された。既にメタアナリシス86) でも,ステロイド単独療法と比較して,扁摘 + ステロイドパルス療法(或いはステロイド)の 有用性が示されたが,何らかの理由で国際的に は充分認知されてはいない87)。扁摘は,ステロ イドとは別の機序で,単独で IgAN の臨床的寛 解を促進し,腎機能低下を抑制することが示さ れている88)。このことは,扁摘自体が IgAN の 進展を予防する可能性を示唆している。  近年,HSPN でも扁摘 + ステロイドパルス 療法の有用性を示唆する文献が散見されるよう になった44,89-92)。また,扁摘単独で腎症が寛解 したとの報告が見られる93)。HSPN でも,扁 摘(或いは上気道疾患の治療94))を併せた免 疫学的な治療を早期に行うことにより,HSPN 長期的な腎予後を IgAN と同様に改善する可能 性が期待される。  小児の HSPN であっても,多くの場合,青 壮年期に腎機能低下が進展する。成人が末期腎 不全に陥った場合,献腎移植は少ないため,日 本では多くの場合透析療法が適応される。透析 は,通常週 3 日 4 時間にわたり実施されるため, 著しく生活や就労も制限される。社団法人全国 腎臓病協議会(全腎協)が 2006 年に全国の血 液透析患者を対象に行った調査では,「収入の ある仕事をしている」と回答した人の割合は, 男性で 41.0%,女性で 17.3%であった95)。社 会的にも,小児の腎炎治療は,退職年齢まで末 期腎不全に陥っていないこと(50 年以上)を 目標に治療すべきであると言える。 IX.おわりに  紫斑病性腎炎は,半月体或いは分節性病変の 割合が,治療予後を左右するため,組織学的重 症度により,治療方針を決定すべきである。重 症では,組織学的改善にステロイドに加えて, 免疫抑制剤の併用が必要である。IgA 腎症でも, 近年,分節性病変の予後に関する重要性が明ら かになってきた。組織学的重症度に基づいた同 一プロトコールによる治療を行うことにより, 両疾患の予後を改善させ,加えて長期予後の 差異も明らかにする可能性がある。HSPN で も,IgA1 の糖鎖異常が確認されており,扁摘 が IgAN と同様に有効と考えられる。治療によ り寛解が得られない場合は,予め時期を決めて 治療を追加することも考慮すべきである。近年, 膠原病の治療においても,完全寛解を目標とし て,長期予後を意識した治療が行われるように なってきた。進行性腎炎治療も,長期の血尿を 含めた臨床的寛解を,小児期の場合は 50 年後 の腎機能保持を目標として,治療目標に完全寛 解{血尿なし,蛋白尿< 100 mg /m2/day,血 圧正常,腎機能正常(≧ 90 ml/min/1.73 mn)} を掲げて,まず治療開始すべきであると考え る。HSPN は,再燃・再発例も多く問題になっ ている1,96)。移殖腎では,免疫抑制剤が使用さ れているにも関わらず,53%が組織学的に再発 しており,18%は,臨床的な再発も来してい る97)。紫斑病性腎炎においては,臨床的経過 に拘らず一生に亘る経過観察も必要である。 文  献

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