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<特集 私と大学体育>アスリートが「語る」ということ

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Academic year: 2021

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(1)19 特集:私と大学体育. アスリートが「語る」ということ 津田 忠雄 1.物語ることができるということ . 2.ある語り. 真摯な体験をもつアスリートは、自分自身を生. ここで、一人のアスリート(受講生)のレポー. き生きと語り、その心の成長を物語る。ここでい. トの一部を紹介する。A4 で 10 枚になるレポー. う真摯な体験とは、「勝った、負けた」といった. トの最後の部分である。. 競技成績・結果に焦点づけられたものではなく、 その競技プロセスにおいて直向きに努力・創意工. 今回、『自分物語』として自分自身について振り返っ. 夫し、また、大げさかもしれないが全身全霊を競. て、なんだか照れくさくて、上手く表現できなかった. 技に傾けることができたかということである。. かもしれないが、少なくとも、自分の過去をみつめる. アスリートの多くは、自己のスポーツ体験を言. ことによって、自分の中での僅かな変化や成長が再確. 葉巧みに生き生きと表現し、物語る。語ることに. 認できて、今まで私の中に漠然とあった、過去の自分. よって自己を確認し、語りの中に生新しい自己を. とはまた違う自分を確認できたと思う。読み返してみ. 感取しているかのようにも感じることができる。. ると、私のバレーボールオタク振りが相当伝わってき. イチローが語り、松井秀喜が語る。プロ、アマ. て、少し苦笑いになってしまう。さらに、エピソード. を問わず、アスリートたちの言葉には物語があ. は私の人生の極一部ではあるが、熟読すると恥ずかし. る。たとえそれが、短い言葉であっても、そこに. いほどに私の性格がすこしずつちらちらと垣間見えて. は私たちの心に響く物語があることに気づき、私. しまう。. たちもまた自己の心の裡で物語ることができる。. また『自己物語』は、初め長い文章を書くな、と. 問題を抱えたアスリートとの心理臨床の場でこ. 思っていたが、これだけでは、まだまだ全く書ききれ. んなことがあった。心の袋小路に迷い込み競技が. ないほど、たくさんのことがあった。辛い経験もして、. 続けられなくなった A は、沈黙も多く、自己を. 挫折も何度も味わって成長して強くなれる。偶然かも. 表現する言葉を探しながらも物語ることができな. しれないが、私は成長前には小さな挫折や、後悔を味. かった。また、競技場面からの離脱を考えるア. わってきた。これから何度かくじけることがあったと. スリートの B は、初期の面接段階では、言葉も. しても、必死に諦めずに頑張っていきたいと思う。そ. ぎこちなく、ぎくしゃくし、応答も曖昧であっ. してこれからも、この『自分物語』を1日1日未来へ. た。両者に共通することは、自己を語る言葉を見. と積み上げていこうと思う。. 失い、語ることができないといった状況に陥って いた。しかし、何回かのカウンセリングで、ぽつ り、ぽつりと言葉がこぼれ落ち、ある時期から言 葉は洪水のごとく溢れだした。溢れだす言葉は、 スポーツ体験を通じての自己物語が語り直される がごとく、何度も何度も修正され、瑞々しいそれ ぞれの物語が生成されるようになった。. 近畿大学健康スポーツ教育センター 〒 577-8502 大阪府東大阪市小若江 3-4-1. レポートを書く作業の中で、語り直され、明日 への一歩を力強く語り続ける。.

(2) 20 近畿大学健康スポーツ教育センター研究紀要 9 巻 1 号(2010). 3.物語−文を綴り、紡ぐということ. た」、「親にはもちろん、友達や他人に対しても出 会いを大切にし、良い人間関係を作りたい」、「ス. 物語には、他者に「語る行為」と「書く行為」. ポーツはただ身体の鍛錬だけでなく、私たちが生. があり、生きる時空間で語られる言葉(音声). 活していく上で大切なことを教えてくれる 」と. と、記される言葉(文字)がある。もちろん、他. いった意味合いの言葉が散りばめられ、語られ. 者との関係性において同質ではないが、読むほど. る。. に、受講生である書き手の多くは、常に読み手で ある私との関係性の中で物語ることに気づく。書. 5.ドミナント・ストーリーと心の成長. く行為によって、私に語りかけ、自らの現実を再 構成し、生きてきた自分、支えられた自分に気づ. アストリートは、スポーツをする中でさまざ. き、生新しい自分、これからの自分を実感する。. まな経験を語る多くの場合、その経験は取り込.  それはまさに、書き手の手の内に語りがあり、. まれ自己の物語となり、ライフスキルの獲得や. 言葉(文字)は語り、客体化され、他者との生き た語りの中で、自己の物語が書き直される。 綴ることは、単純な事実のつなぎ合わせに近い. 心の成長の軌跡として自分自身のドミナント・ (dominant: 優勢、支配)ストーリーとして語ら れる。. 作業であるが、物語ることは、繭や綿の繊維を引. 物語論的接近(ナラティヴ・アプローチ:. き出し、寄り合わせ、糸を縒るといった<紡ぐ>. narrative approach) は、ドミナント・ストーリー. という作業にも似る。都合のいいことを引き出. をネガティブなものとして捉える。そして、問題. し、書き換え、書き直す。記憶の再生には後先が. を背負うクライエントの現実を構成するストー. ない。細切れのように、区切られ、闇の中から、. リーでもある。. 意識の中に浮かび上がってくる。それは放縦的で. ところが、スポーツを続ける上で、ライフスキ. あり、恣意的でもある。それゆえに、新たな自己. ルの獲得や心の成長というドミナント・ストー. の物語が創生される。. リーは、けっしてネガティブなストーリーとして 焦点づけられるものではない。ある意味で、アス. 4.ライフスキルの獲得. リートがアスリートであること自体、これらのド ミナント・ストーリーとともに歩むことである。. 紡がれるレポートの多くは、スポーツとの関わ りにおいて自己の心の成長として語られる。彼ら の語りを、ライフスキル(Life Skill)との関連. 私たちは、多様なドミナント・ストーリーを背負 いつつ、四苦八苦しながら競技を続けている。 また、社会、メディア、親などよって圧倒的. に焦点をあてたとき、驚くほど、監督、コーチ、. に課せられ、与えられるネガティブなドミナン. 顧問の先生、先輩、後輩、集団といった人間関. ト・ストーリーも、それぞれの試合、練習、他. 係、あるいは練習、競技の体験の中で、よりよく. 者(監督・コーチ・アスリートなど)との濃密な. 生きていくための幅広い心理的スキルを習得して. 出合いなどによって、「問題の外在化」がおこな. いる。スポーツ体験それ自体が、ライフスキルの. われ、オルタナティヴ(代わりの)・ストーリー. さまざまな構成要素(意志決定、問題解決、創造. (Alternative story)の重要なプロットとして語. 思考、効果的コミュニケーション、対人関係スキ. り直され、取り込まれる。そして、心の成長に意. ル、自己意識、共感性、情動への対処、ストレス. 味ある自己物語として書き換えられ、より豊かな. への対処など)と連鎖する。. 自己物語として創生される。. 数あるレポートの中に「交友関係、礼儀、協力. ただ、個々人のスポーツ体験が千差万別である. する事の大切さや難しさ、人間形成、努力する. ように、そこには個人差があり、けっして一律に. 事、感謝の気持ち、人としての筋道などを習得し. そして同質に心の成長として書き換えられるもの.

(3) 21 アスリートが「語る」ということ. ではない。時には、社会やマスメディアが作り出 す物語や近しい人々の物語に巻き込まれ、自己の 物語が他者の物語であることに気づくことなく、 他者の物語に組み込まれ、翻弄されることもあ る。 スポーツ体験がすべてのアスリートに意義ある ものとして影響を与えるものではない。それは両 刃の剣のようなものであり、常に私たちは、傷つ くことを恐れることなく、自己に「問い」続け、 他者に語り続けなければならないものかも知れな い。.

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参照

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