.はじめに 自発報告は市販後の医薬品安全性監視において 重要な情報源の 1 つであり,医薬品の市場撤退な ど の 重 要 な 措 置 の 根 拠 と し て も 用 い ら れ て き た1� .自発報告の集積により大規模な自発報告 データベースが構築されるに伴って,1990 年代後 半 よ り 統 計 学 的 デ ー タ マ イ ニ ン グ 手 法 が 登 場 し2� ,各国の規制当局や製薬企業においてスク リーニングに利用されている.規制当局などで構 築された自発報告データベースが公開されている 場合には,自発報告を収集している規制当局や製 薬企業に属さない者でも解析を実施することが可 64 薬剤疫学 Jpn J Pharmacoepidemiol, 25�2� July 2020 著者連絡先:〒 468-8503 名古屋市天白区八事山 150 名城大学薬学部医薬品情報学研究室 酒井隆全
TEL:052-832-1151(代表) FAX:052-832-8904 E-mail:[email protected]
名城大学薬学部 医薬品情報学研究室
酒井 隆全
.JADER を用いた研究発表の際に留意すべき
チェックリストの提案
●企画/自発報告データベース活用の可能性と留意点 <抄録>自発報告は市販後の医薬品安全性監視において重要な情報源である.日本では2012 年に Japanese Adverse Drug Event Report database(JADER)が公開されており, 以来,データマイニング手法を用いた数多くの学会発表,論文投稿が行われている.自発 報告は,一般的に過少報告,分母情報の欠如,報告バイアスの影響など種々の限界点を有 しており,これらは JADER にも当てはまる.また,JADER では主に重篤な症例が集積 されていることや,依頼に基づく報告も含まれていることなど,自発報告が収集されてい る制度的背景も影響をもたらす.統計学的に検出されたシグナルは必ずしも医薬品と有害 事象に因果関係があることを意味するものではなく,検出されたシグナルには慎重な解釈 が必要となる.しかしながら,留意すべき限界点について考えずに用いられているという 指摘の声があがっている. 企業の医薬品安全性監視活動におけるシグナルの取扱いについては,EU における Guide-line on Good Pharmacovigilance Practices(GVP)Module Ⅸ,米国における Guidance for Industry - Good Pharmacovigilance Practices and Pharmacoepidemiologic Assessment な どが参考となる資料として存在している.一方,研究者が自発報告データベースを利用し て得られた科学的知見を報告する際に向けたガイダンスなどはほとんど整備されていな い.そこで,我々は主に JADER を用いて研究発表を行う研究者の視点から,一般社団法 人 日本医薬品情報学会 平成 29 年度課題研究班において「JADER を用いたデータマイニ ング(主に不均衡分析によるシグナル検出)の研究発表の際に留意すべきチェックリスト」 を作成した.本稿では,このチェックリストの項目について,チェックリスト作成にあた り参考とした�CIOMS Working Group Ⅷ報告 ファーマコビジランスにおけるシグナル検
出の実践�を参照しつつ概説する. (薬剤疫学 2020;25(2):64-73)
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能である.日本においても医薬品医療機器総合機構(PMDA)から Japanese Adverse Drug Event Report database(JADER�3� が公開されたことに より,多くの研究者,医療従事者が扱えるように なり,データマイニング手法を用いた学会発表, 論文投稿が盛んに行われている.しかしながら, これらの研究の中には,留意すべき限界点につい て考えずに行われているものがあるという指摘の 声があがっている. 企業の医薬品安全性監視活動におけるシグナル の取扱いについては,EU における Guideline on Good Pharmacovigilance Practices(GVP)Mod-ule Ⅸ4�
,米国における Guidance for Industry -Good Pharmacovigilance Practices and Pharma-coepidemiologic Assessment5�などが参考となる 資料として存在している.一方,研究者が自発報 告データベースを利用して得られた科学的知見を 報告する際に向けたガイダンスはほとんど整備さ れていない.無作為化比較試験の報告における CONSORT 声 明6�や 観 察 研 究 の 報 告 に お け る STROBE 声明7� のように,自発報告データベース を用いた研究について報告する際の留意点が端的 にまとまったチェックリストが存在すれば研究者 にとって有用であり,報告の質の向上に寄与でき る可能性がある.そこで,我々は主に JADER を 用いて研究発表を行う研究者の視点から,一般社 団法人 日本医薬品情報学会 平成 29 年度課題研 究班において「JADER を用いたデータマイニン グ(主に不均衡分析によるシグナル検出)の研究 発表の際に留意すべきチェックリスト」を作成し た8�.本 チ ェ ッ ク リ ス ト は,�CIOMS Working Group Ⅷ報告 ファーマコビジランスにおけるシ グナル検出の実践�2� (以後,CIOMS Ⅷ)を参照し て素案を作成し,パイロットテスト,エキスパー トレビューを経て作成したものである.作成した チェックリストを図に示す.本稿では,CIOMS Ⅷを参照しつつ,作成したチェックリストの各項 目に関する事項を概説する. .研究材料としての妥当性に関連する項目 2.1 JADER 妥当性,シグナル検出位置づけ シグナルは「単一あるいは複数の情報源(観察 および実験)から得られた情報であり,それらは, 介入と事象の関係,あるいは有害もしくは有用な 事象の中での新たな潜在的な因果関係や,すでに 知られていた関係での新たな側面を示すものであ り,検証するに足りる十分な可能性があると判断 されたもの」と定義される2� .また,統計学的に 検出されたシグナルは必ずしも医薬品と有害事象 に因果関係があることを意味するものではない. データマイニング手法を利用したシグナル検出 は,規制当局や製薬企業において膨大に蓄積され た報告事例の中から,どの検討課題から注力すべ き か を 見 出 す も の と し て 開 発 さ れ た も の で あ る2�9�.こうした経緯に基づいて考えれば,規制当 局や製薬企業の業務において,データマイニング 手法によってシグナルが検出されたというだけで その情報が周知されることは恐らくないであろ う.一方で,研究者が自発報告データベースを解 析し,検出されたシグナルについて学会で発表し たり論文投稿したりした場合には,その内容が広 く社会に発信されることとなる.このように,規 制当局や製薬企業の業務における活用と研究発表 とではやや性質が異なる点を有すると考える.研 究成果の報告にあたっては,報告内容を参照した 者が正確に得られた知見について理解できるよ う,JADER を用いることの妥当性やその研究の 位 置 づ け を 適 切 に 示 す 必 要 が あ る と 考 え て, チェックリストにこれらの項目を設定した.もと もと,研究成果について報告する際には科学的背 景や目的・仮説を説明することが必要とされてお り,他の研究成果の報告に関するチェックリスト にもそうした項目が設けられている6�7� .この原 則は,自発報告データベースを用いた研究の場合 にも適用されるべきであろう.STROBE 声明を 拡張する形で作成された RECORD 声明では更に 詳細な言及があり,研究目的がデータの新しい関 係を発見すること(例えばデータマイニングや仮 説生成など)か,仮説検証なのか明確にすべきと ある10� .このことを考慮すると,自発報告データ
66 企画/自発報告データベース活用の可能性と留意点 図 作成したチェックリスト JADER を用いたデータマイニング(主に不均衡分析によるシグナル検出)の 研究発表の際に留意すべきチェックリスト 研究発表にあたって, ・データマイニング自身について,その意義,限界を十分理解しておくこと. シグナル管理は,シグナルの検出,検証,解析と優先順位付け,評価,措置の勧告,情報の交換といった一連のステッ プからなる.シグナル検出は最初の段階でその後のステップに移行する事象に単に優先順位をつけることである ・シグナルの一般的な定義は,「単一あるいは複数の情報源(観察及び実験)から得られた情報であり,それらは,介入 と事象の関係,あるいは有害もしくは有用な事象の中での新たな潜在的な因果関係や,すでに知られていた関係での 新たな側面を示すものであり,検証するに足りる十分な可能性があると判断されたもの」と示されている.結果とし て得られる「シグナル」の意味について,十分に理解しておくこと. ・基本となる自発報告についての限界を十分に理解しておくこと. ・日本における自発報告の収集制度および JADER の特徴を理解しておくこと. ・JADER の注意事項および利用規約を理解しておくこと. (文末に示した参考文献が上記の事項を理解するうえで有用である) 以下のチェックリストは,上記を満たしたうえでご活用ください. 研究材料としての妥当性 □ JADER 妥当性: 本邦における研究材料として,JADER を用いる妥当性について言及していること.医療現場におけるデータ等の既 存の情報源では質の高い検討が困難な場合に用いるべきである. □シグナル検出位置づけ: 検討課題に関する現状を記述し,検討課題が未知の医薬品-有害事象の関連性である旨が示されていること.仮説生 成がシグナル検出の本来の主たる目的である.既知の医薬品-有害事象の関連性における新たな側面を検討するもの や既知の医薬品-有害事象の関連性を題材にデータマイニングの手法について検討したものである場合は,その旨が 明記されていること. 解析の妥当性 ・適切な対象有害事象の設定 □有害事象定義: 研究仮説に対して適切な有害事象のグループを設定していること.例えば,ICH 国際医薬用語集(MedDRA)の適切 な基本語(PT)あるいは標準検索式(SMQ)を用いていること. □適切な MedDRA: 使用した MedDRA のバージョンが使用したデータセットと一致していること. ・統計解析手法 □不均衡値を比較しない:
複数の医薬品の不均衡計算値(Reporting Odds Ratio;ROR など)について,計算値の大きさのみによって単純な比 較を行っていないこと. □件数を比較しない: 報告症例数または件数で,単純に医薬品の安全性の評価または比較を行っていないこと. ・再現性の確保 □ MedDRA の記載: 使用した MedDRA のバージョンが報告に記載されていること. 結果の解釈の妥当性 ・解析結果の臨床への適用 □リスク定量化でない: リスクの定量化を行っていないこと.通常,自発報告データから見出されるのは仮説である. □他のデータからの検討: シグナルが検出された後は,アクセス可能なその他の安全性データソースを用いて因果関係の確からしさを検討し ていること. 例:薬品毒物学あるいは毒物センターのデータベース,非臨床試験,すべての関連する文献など
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図 作成したチェックリスト(つづき) ・自発報告データベース(自発報告 DB)の欠点について □交絡・バイアスの影響: 自発報告 DB を用いることによる交絡・バイアスのもたらす影響について考察されていること. 例 1 報告行動やその結果観察される報告傾向にも影響を与える因子,すなわち誘発された報告(意識の高まり)市販直 後調査(詳細は後述),緊急安全性情報や安全性速報を含む注意喚起や,社会問題化など. 例 2 販売期間:販売開始直後の薬剤をすでに長期間販売されている薬剤と比較してはならない.分析に際して適切な 時間枠を選択すること.(Weber 効果) □自発報告データの限界: 重複報告,過小報告,詳細なデータの不足など自発報告データの持つ欠点について考察されていること. JADER の特徴の考慮 □重篤有害事象: 対象となる有害事象は一般的に重篤なものであること.または,一般的に重篤と考えにくい有害事象を対象とした 場合,論文中にて本データベースが重篤症例を収集したものであることに言及していること. 必ずしも全ての研究発表で実施されていたり,本文中に明確に記載されている必要はないが,考慮することが望ましい 項目 ・解析手法 □分母情報の代用: 不均衡分析に加え絶対リスクを考える場合,分母情報が必要であるが,例えば販売量からの推定使用患者数,調剤処 方数などが代用できる.ただし,これらを分母としたとしても正確な絶対リスクを示すものではないことに留意す るべきである. □シグナル評価: 検出したシグナルについて,エビデンスの強固さ,公衆衛生にもたらす影響などの観点から総合的に考察を行う.例 えば,英国 医薬品・医療製品規制庁のインパクト分析や世界保健機関の triage などが参考となる. □アドホック分析: 特定のグループ(薬効群,有害事象,原疾患,性別,年齢など)を絞り込んだアドホック分析等を考慮する. ・JADER の特徴の考慮 □市販直後調査: 対象が報告収集期間に発売された新医薬品の場合,市販直後調査による報告の集中を考慮していること. □依頼に基づく報告: 日本には再審査制度により,本来の自発報告以外である使用成績調査や全例調査からの「依頼に基づく」副作用報告 も JADER に含まれている.そのため,これらに該当する医薬品をターゲットとする場合は,その報告プロファイル が一般的な自発報告と異なる可能性があることを言及していること. 参考文献1) Practical Aspects of Signal Detection in Pharmacovigilance:Report of CIOMS Working Group Ⅷ. Geneva, World Health Organization, 2010
(和訳:くすりの適正使用協議会 薬剤疫学部会 海外情報研究会 監訳,ファーマコビジランスにおけるシグナル検出の実践―
CIOMS Working Group Ⅷ報告,東京,レーダー出版センター,2011)
2) European medical agency, Guideline on good pharmacovigilance practices(GVP)Module Ⅸ-Signal management(Rev 1) URL:http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/Scientific_guideline/2017/10/WC500236408.pdf 3) 前田 玲,企画/PMDA の自発報告データベースの新たな活用と今後の課題 5.医薬品安全性監視の観点から JADER について 考える.薬剤疫学,19(1):51-56(2014) 4) 医薬品医療機器総合機構,医薬品副作用データベース 利用規約 URL:https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/adr-info/suspected-adr/0003.html 5) 医薬品医療機器総合機構,「データセットのダウンロードページ」で提供する情報について URL:https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/adr-info/suspected-adr/0004.html 6) 医薬品医療機器総合機構,データマイニング手法の安全対策業務への導入 URL:https://www.pmda.go.jp/safety/surveillance-analysis/0015.html
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ベースを用いたシグナル検出の結果を報告する際 には,主に仮説生成を目的として実施されている 研究であることを明記すべきかもしれない. また,筆者らがチェックリスト作成とあわせて 実施した JADER を用いた学術論文の実態調査で は,科学的背景や目的・仮説が不明確なものや, シグナル検出の位置づけを理解せずに検討課題が 設 定 さ れ て い る と 考 え ら れ る も の が 散 見 さ れ た8) .本項目は,JADER を用いたデータマイニン グの研究発表の際には特に留意すべき項目の 1 つ と考える. .解析の妥当性に関連する項目 3.1 適切な対象有害事象の設定 3.1.1 有害事象定義 検討対象とする有害事象の用語選択はデータマ イニングの結果に影響を与えうるものであり, CIOMS Ⅷでも,不均衡計算値の解釈において考 慮すべき要因に医学用語の選択があげられてい る2).IMI PROTECT プロジェクトにおける検討 結果では,適時性(timeliness)の観点からは ICH 国際医薬用語集(MedDRA)の階層レベルとして 基本語(Preferred Term;PT)を使用することが 推奨されている11).ただし,臨床的に非常に近し いと考えられる PT をまとめた場合に,より早期 にシグナルを検出できていた例も存在したことか ら,PT をまとめることについては更なる研究が 必要としている.この他,PMDA において公表 されているデータマイニング手法の検討を行うた めの支援業務報告書では,PT をまとめることで, PT のみでは累積件数が少ないために検出できな いシグナルを早期に検出できる可能性があるとす る一方で,逆にシグナルを埋もれさせてしまう危 険性も指摘されている12) .したがって,チェック リストには PT を用いることと,PT をまとめて 扱う標準 MedDRA 検索式(SMQ)を用いること のいずれも例示として記載した. 3.1.2 適切な MedDRA MedDRA は定期的にアップデートが行われて おり,JADER においても対応する ICH 国際医薬 用語集日本語版(MedDRA/J)のバージョンも合 わせて更新が行われている3).MedDRA のアッ プデートの中には,次のような変更も含まれる. 以前は「急性腎不全」と表記されていた PT が, 疾患概念とそれに対応する医学用語の見直しに よって変更となり,現在では「急性腎障害」へと 更新されている.このような例が存在するため, 不適切なバージョンの MedDRA を解析に用いる ことで,データベース中の有害事象名と Med-DRA 間で不一致が起こり,これにより解析結果 に影響を与える可能性が考えられる.実際にアッ プデートによる影響を確認するため,JADER の 2020 年 7 月公開データ(MedDRA/J バージョン 23.0 に対応)を用いて,5 年前にあたるバージョ ン 18.0 の MedDRA/J を用いた場合に,有害事象 フィールドの PT においてどの程度 MedDRA/J と不一致が発生するかをテストした.その結果, 副作用情報テーブル(reac ファイル)における 1,013,290 件のうち 39,528 件(3.9%)のレコー ドで不一致が起こり,PT の種類数でカウントす るとデータセット中に使用されていた 9,366 用語 のうち 690 用語(7.4%)に相当した.一方,本来 用いるべき MedDRA/J バージョン 23.0 を用い た場合にはすべて一致した.このように,用いる 辞書とデータセットとの不一致により,解析過程 で不一致データの欠損などが起こり不適切な解析 が行われる可能性があるため注意すべきといえ る.チェックリストの作成とともに行った JAD-ER を用いた学術論文の実態調査では,研究に使 用された JADER と MedDRA/J のバージョンが 不一致と考えられる報告が多く認められ8) ,適切 な理解が求められる. 3.2 統計解析手法 3.2.1 不均衡値を比較しない CIOMS Ⅷでは,複数の医薬品の不均衡計算値 を比較することに注意が必要とあり,例えば,薬 剤のライフサイクルがどの段階にあるか,stimu-lated reporting,全体的な安全性プロファイルの 違いなどによるバイアスによって信頼できる結論 が得られないかもしれないと記載されており2), その大小を比較することは一般的に不適切とされ ている13)14) .野口らは JADER を用いて非ステロ 68 企画/自発報告データベース活用の可能性と留意点
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イド性抗炎症薬(NSAIDs)における消化器障害の Reporting Odds Ratio を計算した結果,COX2 選択性の高い NSAIDs で特に高い値を示したこ とから,不均衡計算値の大小が実際の発現率の大 小 を 反 映 す る と は 限 ら な い こ と を 報 告 し て い る15� . 3.2.2 件数を比較しない 後述するように,自発報告は種々の要因によっ て影響を受けるため,件数のみによって安全性の 評価や比較を行うことは一般的に困難とされる. JADER をダウンロードした際に付属されている 「初めにお読みください.txt」においても「csv ファイルに含まれる報告症例数又は件数をもっ て,単純に医薬品の安全性を評価又は比較するこ とはできません.」と明記されている3�. 3.3 再現性の確保 3.3.1 MedDRA の記載 科学的知見を報告する際に再現性の確保は必須 であり,再現に必要な情報の 1 つとして Med-DRA のバージョンの記載は必要である.CIOMS Ⅷでも,シグナルを文書化することとなる最終の シグナル評価報告書には,使用した辞書と辞書の バージョンを含めるべきと記載されている2�. .結果の解釈の妥当性に関連する項目 4.1 解析結果の臨床への適用 4.1.1 リスク定量化でない 2×2 分割表に基づく不均衡分析には,以下の仮 定に基づき行われている16� . ① ある薬剤が特定の有害反応を起こすならば,他 の薬剤と比べて,この有害反応が多く報告され る ② 同じ有害反応について,(過少)報告の程度は 異なる薬剤間で同じである ③ 種々の有害反応の報告割合や報告パターンは, 異なる薬剤間で類似している しかしながら,これらの仮定は弱く,成り立た ない場合が多いものである.データマイニング手 法でも検定統計量や区間推定などが用いられる が,単なるスクリーニングの目安として用いてい るに過ぎず16� ,得られた不均衡計算値をリスクの 大きさであるかのように取り扱うことに警鐘が鳴 らされている13� .CIOMS Ⅷにおいても,自発報 告で集められたデータについては,リスクの定量 化に用いることはできないと記載されている2�. なお,IMI PROTECT プロジェクトの一環とし て行われた研究において,EudraVigilance で算出 された Proportional Reporting Ratio(PRR)が既 報の相対リスク比と相関したという報告17�もある が,対象とした医薬品-有害事象の組み合わせが 15 ペアと少ないことなどが限界点としてあげら れている.また,この相関が他の自発報告データ ベースを用いた検討に適用できるかも確認されて いない.したがって,自発報告データベースを用 いた PRR の算出が formal epidemiological study に取って代わったり,その実施を遅らせたりすべ きではないと述べられている11�. 4.1.2 他のデータからの検討 EU の Guideline on GVP Module Ⅸに示されて いるシグナル管理プロセスにおいて,シグナル検 出はその最初の段階であり,その後にシグナル検 証,シグナル確認,シグナル分析および優先順位 付け,シグナル評価,措置の勧告と続く4�9� .シグ ナル管理の在り方として,統計学的にシグナルが 検出されたとしても単に次のステップへ移行する 際の優先順位付けに過ぎないとされている9� .学 術論文においても,シグナルが検出されたことの みをもって医薬品と有害事象の間に因果関係があ ると判断するのではなく,その他のデータとあわ せて薬剤と有害事象の因果関係の確からしさにつ いて適切な考察が行われるべきである.しかしな がら,十分な検討が行われず,シグナルが検出さ れたことのみによって医薬品と有害事象の関連性 が明らかであるかのように報告されている事例も 散見されている8� . 4.2 自発報告データベースの欠点について 4.2.1 交絡・バイアスの影響,自発報告データの限界 自発報告は,緊急安全性情報や安全性速報を含 む注意喚起,社会問題化などによるその医薬品の 注目度の変動,有害事象を発見する診断技術の向 上など種々の要因によって影響を受ける.実際, JADER において緊急安全性情報や安全性速報の
発出前後の報告を比較し,注意喚起された有害事 象の報告数が大きく増加したことが示されてい る18) .他にも,CIOMS Ⅷにおいて販売期間も交 絡となりうるという記載があり,販売開始直後の 薬剤をすでに長期間販売されている薬剤と比較し てはならないとされている2) . その他にも,自発報告データにはさまざまな限 界点が存在している2).まず,患者に発生した有 害事象のすべてが報告されているわけではないと いう過少報告の問題がある.実際に生じた有害事 象に対する報告数の割合は,非重篤な有害事象で 0.1%から 4%,重篤な有害事象で 10%から 20% 程度とする推計19) も存在する.また,同一の患者 について複数の報告が行われるという重複報告の 問 題 も あ り,そ の 対 処 方 法 も 議 論 さ れ て い る が2)11),この問題を完全に克服できるわけではな い. 更には,個々の自発報告データにおいて,情報 の欠損や不整合,誤入力などが存在する可能性も ある.土屋らは,JADER における各情報の欠損 について調査し,年齢で 7.9%,性別で 5.0%,医 薬品の用量 31.2%,医薬品の適応症 13.4%,有害 事象の転帰 22.9%で情報が欠けており,医薬品の 使用開始日と有害事象の発現日から Time to on-set が計算できなかったのは 40.7%であったと報 告している20) . 以上のような限界点が存在しうることを記載 し,研究結果における影響などを考察するべきで ある. .JADER の特徴の考慮に関連する項目 5.1 重篤有害事象 JADER には主に重篤な有害事象が集積されて おり21) ,非重篤な有害事象は二次的に合併したも のなどとして集積されている可能性がある22).例 えば,一般的に重篤な転帰をたどると考えにくい 有害事象について解析する際には,解析対象とし た報告事例における有害事象の重篤性や発生機序 が一般的な発生例と異なる可能性があることに留 意すべきである.収集されている有害事象の重篤 性は,利用する自発報告データベースについて理 解すべき特性の 1 つとしてあげられている23).こ の他,6.4 市販直後調査,依頼に基づく報告も JADER の特徴の考慮に関する項目として設けて いる. .その他の項目 ここまでは,JADER を用いたデータマイニン グの研究発表の際に一般的に留意すべきと考えて 作成した項目について記載した.チェックリスト には,更に,「必ずしも全ての研究発表で実施され ていたり,本文中に明確に記載されている必要は ないが,考慮することが望ましい項目」として, 以下の項目を設けている. 6.1 分母情報の代用 自発報告データの本質的な限界点の 1 つとし て,曝露データが不足していることがあげられる. そのため,自発報告データ単独では有害事象の発 生率などの絶対リスクを算出することはできな い.ただし,例えば販売量からの推定使用患者数, 調剤処方数などが分母情報として代用できる可能 性がある.この場合でも,必ずしも計算された指 標が実数と一致するとは限らないことには留意す べきである.CIOMS Ⅷにおいて,曝露データの 利用は有害事象報告の時間的傾向を評価するのに 役立つものとして記載されている2) . 6.2 シグナル評価 シグナル管理プロセスにおいて,シグナルが検 出されてから措置が行われるまでの間には,さま ざまな観点からシグナルについて評価が行われ る2) .特にシグナルの優先順位付けのプロセスに おいては具体的な項目やスコアリングなどが示さ れており9) ,(研究の中ですべての項目について検 討可能とは限らないが)これらを参考とすること で検出されたシグナルの考察の質的向上をもたら す可能性があると考えて,本項目を設けることと した. 6.3 アドホック分析 CIOMS Ⅷにおいて,共変量(例えば性別,年 齢,地域,発現までの期間)を補正することによっ て統計解析の感度か特異度が共に(または一方が) 改善しそうな場合には層別化やその他の調整を考 70 企画/自発報告データベース活用の可能性と留意点
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慮すべきとある2�.IMI PROTECT プロジェクトにおいても種々のサブグループ解析,層別解析に ついて検討され,その結果がまとめられている11�
. また,European Medicines Agency では特殊集団 におけるシグナル検出として,小児と高齢者にお ける不均衡分析手法が示されている24� .しかしな がら,同クラスの医薬品を投与した患者にのみ限 定したサブグループ解析を実施する場合に,クラ スエフェクトによって生じる副作用は相互に打ち 消しあってシグナルが検出されなくなることがあ るなど,調整を行う意義を慎重に考える必要があ る13�. 6.4 市販直後調査,依頼に基づく報告 日本では,ほぼすべての新医薬品に市販直後調 査および使用成績調査が課せられることで,デー タベースに集積される報告に以下のような影響が あることが指摘されている21� .市販直後調査中 は,医師などによる報告を積極的に促す(stimu-lated reporting)ことから,期間中の曝露量あた りの報告割合はその後の期間と比べて高くなる傾 向がある.また,使用成績調査や全例調査によっ て,依頼に基づく非自発的な安全性報告(solicit-ed report)の情報も含まれることとなる.した がって,特に新医薬品を検討対象とする場合には, これらの影響を受けている可能性も考慮すべきで あろう. .おわりに 我々の作成した「JADER を用いたデータマイ ニング(主に不均衡分析によるシグナル検出)の 研究発表の際に留意すべきチェックリスト」につ いて概説した.新たな自発報告データベースの解 析手法として,有害事象発現までの時間を用いた 解析25� なども提案されていることなどから,今後 も適宜改訂が必要と考えている.いずれにして も,自発報告データベースの不適切な利用や研究 発表の誤解釈によって,医療現場における意思決 定に誤った影響を与え,患者に不利益が生じるこ とは避けなくてはならず,本チェックリストがそ の一端を少しでも担うことができればと考えてい る. 謝辞 本稿は,一般社団法人 日本医薬品情報学会 平成 29 年 度課題研究班として助成を受けて実施した研究の成果に基 づき作成されたものである. 文 献
1� Paludetto MN, Olivier-Abbal P, Montastruc JL. Is spontaneous reporting always the most important information supporting drug withdrawals for phar-macovigilance reasons in France? Pharmacoepide-miol Drug Saf 2012;21:1289-94. doi:10.1002/pds. 3333.
2� CIOMS Working Group Ⅷ. Practical aspects of signal detection in pharmacovigilance. CIOMS, 2010.[CIOMS Working Group Ⅷ.くすりの適正使 用協議会 薬剤疫学部会 海外情報研究会 監訳.
ファーマコビジランスにおけるシグナル検出の実
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Spontaneous reporting is an important source of information in pharmacovigilance. In Japan, the Japanese Adverse Drug Event Report database(JADER)was released in 2012, and this has led to numerous conference presentations and academic research papers that have reported the detection of signals based on the use of data mining methods. However, spontaneous reporting generally has certain limitations, including under-reporting, a lack of denominator information, and the effects of reporting bias, and these problems apply equally to JADER. The system of collecting spontaneous reports also influences the results obtained based on JADER analysis, as JADER in principle comprises serious adverse drug event reports and includes solicited reports. The detection of signals showing statistical significance does not necessarily imply a causal relationship between a particular drug and adverse events, and consequently, the cause of the signals detected requires careful interpretation. However, it has been pointed out that findings are sometimes accepted without considering the limitations.
For pharmaceutical companies, the Guidance on good pharmacovigilance practices Module Ⅸ and Guidance for Industry - Good Pharmacovigilance Practices and Pharmacoepidemiologic Assessment are available in the European Union and United States, respectively, for the purpose of signal management in pharmacovigilance activities. In contrast, there are limited resources to which researchers can refer when they publish scientific findings obtained using spontaneous reporting databases. To rectify this deficiency, we created a�checklist of important points to be noted during research that uses the data mining method in JADER(mainly signal detection by disproportionality analysis)�for the benefit of researchers using JADER. That study was supported by a Grant for Research Projects of the Japanese Society of Drug Informatics in 2017. In this article, we provide an overview of the checklist, with reference to the�Report of CIOMS Working Group Ⅷ:practical aspects of signal detection in pharmacovigilance,�which was used as
a source when creating the checklist. (Jpn J Pharmacoepidemiol 2020; 25(2): 64-73)
Drug Informatics, Faculty of Pharmacy, Meijo University, Japan
Takamasa SAKAI
●Special Issue on�Possibility and Point to Consider of Utilizing Spontaneous Report Database�
2.A Checklist of Important Points in Research Using JADER
〈Abstract〉