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障害者手帳を持つ人の同居家族における避難行動要支援者名簿に対する有効性認知の心理的規定因:その名簿の存在を認知していなかった同居家族を例に注1)

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Japanese Journal of Community Psychology, 2020, Vol. 23, No. 2, 100–110

障害者手帳を持つ人の同居家族における

避難行動要支援者名簿に対する有効性認知の心理的規定因:

その名簿の存在を認知していなかった同居家族を例に

注1)

髙尾 堅司 *

1

・水子

学 *

1

・佐々木 新 *

1 *1 川崎医療福祉大学

Factors Determining the Recognized Effectiveness of the List

of People Requiring Disaster Evacuation Assistance among

Families Cohabiting with a Person Possessing a Disability

Certificate:

Families Who Did not Recognize that the List

TAKAO Kenji*

1

, MIZUKO Manabu*

1

, and SASAKI Arata*

1 *1 Kawasaki University of Medical Welfare

This study examined the factors determining the recognized effectiveness of a list of persons requiring disaster evacuation assistance among families cohabiting with a person possessing a disability certificate who did not recognize that the list. In June 2018, an online survey was conducted to monitor those who meet these criteria. The respondents analyzed were from families unaware of the list’s existence and families intending to register on behalf of a member with a disability (n=117). Respondents rated the extent to which the recognized the list’s effectiveness, along with the respondents’ solidarity with, and dependency on, others in their regional community, self-efficacy for interpersonal resources in disasters, and so on. Results showed that solidarity with, and dependency on, others determined the recog-nition of the list’s effectiveness. Results also revealed that among those who recognized themselves as having low self-efficacy for interpersonal resources during disasters, those who rated highly the degree of solidarity and dependency on others determined the list’s recognized effectiveness as high.

キーワード: 障害者手帳を持つ人の同居家族,避難行動要支援者名簿,連帯・積極性,他者依存, 対人資源活用力

Key words: families cohabiting with a person possessing a disability certificate, list of person requiring

disaster evacuation assistance, solidarity, dependency on others, self-efficacy for interpersonal resources

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目 的 全国の約2,400 国勢調査区に居住する在宅の 障害児・者を対象とした調査(厚生労働省社 会・援護局障害保健福祉部,2018)によると、 障害者手帳所持者は5,594 千人であり、そのう ち身体障害者手帳所持者は4,287 千人、療育手 帳所持者は962 千人、精神障害者保健福祉手帳 所持者は841 千人と推計されている。東北地方 太平洋沖地震で被災した岩手県、宮城県、福島 県において在宅の障がい者の死亡率が高かった ことを踏まえると(立木,2013)、在宅の障が い者の避難支援を検討することは喫緊の課題で ある。 非常時の計画立案に携わる者は、障がいを持 つ人々の所在とその障がいの情報を把握して おくことが求められる(Alexander, 2015)。日本 においては、2013 年に災害対策基本法が改正 され、市町村に避難行動要支援者名簿注2)(以 下、名簿と称す)の作成を義務づけることが明 記された(防災行政研究会,2016)。総務省消 防庁(2017)の報告に基づくと、1,739 市町村の 99.1%が2017 年度末の時点で名簿を作成した ことが考えられる。避難行動要支援者とは、災 害対策基本法上は「当該市町村に居住する要配 慮者のうち、災害が発生し、又は災害が発生す るおそれがある場合に自ら避難することが困難 であって、その円滑かつ迅速な避難の確保を図 るために特に支援を要するもの」(防災行政研 究会,2016, p.311)と定義されている。市町村 が名簿の作成を義務付けられた背景から、災害 時において避難支援を要する人を絞り込んでい ることが伺える(山崎,2013)。 名簿情報は、避難支援等関係者(消防機関、 都道府県警察、民生委員、市町村社会福祉協議 会、自主防災組織等の避難支援等に携わる関係 者)(防災行政研究会,2016)が、避難行動要支 援者の避難計画の立案に活用する場合や災害発 生後の避難支援あるいは安否確認を進めるた めに使用する。市町村が名簿情報を外部に提 供する場合は、同意を要さないことを定めた 条例が施行されている場合を除き、避難行動 要支援者の同意が必要である(内閣府(防災担 当),2013)。ただし、一定の要件を満たせば親 権者や法定代理人等が同意することができるの で(内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(総 括担当)・消防庁国民保護防災部防災課長・厚 生労働省社会援護局総務課長,2013)、同居家 族が避難行動要支援者に代わって名簿に登録す るか否かを判断する可能性がある。 名簿の登録要件は、国が一律に定めるので はなく、各自治体が設定することになってい る(内閣府(防災担当),2013)。その登録要件 は、避難支援を要する人々をすべて含むことが 理想的である。しかし、名簿の存在を認知して いなかった同居家族の中にも避難支援を求めて いる場合がある(水子・髙尾・佐々木,2018)。 また、全国社会福祉協議会障害関係団体連絡 協議会災害時の障害者避難等に関する研究委 員会(2014)は、避難が困難な障がい者の範囲 を示すものとしては十分とは言い難いとしてい る。よって、自治体の登録要件を満たしていな いことは、必ずしも避難支援を全く必要としな いことの根拠とはならないといえよう。内閣 府(防災担当)(2013)は、「避難支援等関係者 とされた者の判断により、避難行動要支援者と して避難行動要支援者名簿への掲載を市町村に 求めることとする仕組」「形式要件から漏れた 者が自らの命を主体的に守るため、自ら避難行 動要支援者名簿への掲載を求めることができる 仕組」(p.17)という例を挙げている。自治体が この例に倣っている以上は、同居家族が掲載を 申し出ることも可能である。また、内閣府(防

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災担当)(2014)は、登録要件に該当しない人々 を名簿に掲載するにあたっては、手上げ方式等 で名簿登録対象者とすることを地域防災計画の 要件として定めて周知を図ることを提案してい る。このような機会を創出するには、まずは同 居家族が名簿の存在を認知することが重要であ る。 ただし、避難行動要支援者が名簿の登録要件 を満たしていないならば、名簿の存在を知る機 会は限定されてしまう。登録要件を満たさない 人々が名簿の存在を知るそれ以外の機会として は、地域コミュニティ内の人々との関わりが挙 げられる。民生委員との関わりは、その一例で ある。ところが、水子・髙尾・佐々木(2018) は、名簿の存在を認知していない同居家族が 「民生委員も、うちに障害者がいることは知ら ないと思う。」(p.207)と述べた事例を報告して いる。この事例は、名簿の存在を認知していな い同居家族の中に避難支援を要する家族が同居 している例がある可能性を示唆している。ま た、名簿を認知していない背景に、地域コミュ ニティ内の人々との関わりの希薄化が存在する ことも意味する。よって、名簿の存在を認知し ていない背景には、地域コミュニティ内での平 常時の生活上の課題と非常時の課題がそれぞれ 関連していると解釈できる。以上の理由で、自 治体あるいは避難支援等関係者は名簿の存在を 周知させるとともに、社会的な認知度を高める ことも必要であろう。 同居家族が名簿の存在を認知した後は、同居 家族にとって名簿が役立つ意義あるものとして 理解してもらうことが求められる。名簿の制度 としての実効性が高い限りは、避難行動要支援 者を名簿に掲載することは避難支援等関係者に よる避難支援を得る機会につながるという点で 有効である。この点については、同居家族の多 くがそう認知するに違いない。一方で、地域コ ミュニティの構成員の一員としての同居家族の 地域コミュニティへの態度が名簿の有効性の認 知(以下、名簿有効性認知)を規定する可能性 があるのではなかろうか。たとえば、同居家族 は地域コミュニティ内での他の人々との協働が あってこそ、名簿を有効にみなすかもしれな い。あるいは、同居家族は地域コミュニティ内 の一部の人々が避難を支援してくれるとの認知 が名簿有効性認知を規定するかもしれない。 コミュニティ意識尺度(短縮版)(石盛・岡 本・加藤,2013)によると、コミュニティ意識 を構成する因子のうち、連帯・積極性は「積極 的にみんなと協力しながら地域のために活動 するかどうかに関する」(p.23)因子である。連 帯・積極性を肯定的に認知する同居家族ほど、 地域コミュニティの課題の一つとしての避難行 動要支援者の避難支援に対して、地域コミュニ ティ内の人々と積極的に協働しようとすること が考えられる。そのため、避難支援等関係者と の協働という側面がある名簿に対して有効に機 能すると認知するであろう。他者依頼は、「行 政や他の熱心な人に地域の問題への取り組み は任せておいてよいと考えるかに関する」(石 盛・岡本・加藤,2013, p.20)因子である。他者 依頼と NPO 法人による活動への参加動機との 間に負の相関が確認されていることから(Ishi-mori, 2007)、同居家族が避難行動要支援者の避 難を地域の問題として位置づけているならば、 「行政や他の熱心な人々」に避難行動要支援者 の避難支援を任せておいて良いと考える同居家 族ほど、名簿有効性を肯定的に認知することが 考えられる。 一方、地域コミュニティ内の人々に対する認 知に加えて、非常時における自己効力感も名簿 有効性認知を規定することが考えられる。元

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吉(2017)は、自助に相当する「自己対応力因 子」と共助に相当する「対人資源活用力因子」 の二つの因子から災害自己効力感が構成される ことを確認した。対人資源活用力は、災害時に おいて対処すべき課題については対人資源を活 用して対処できるという認知である。災害時に おいて、同居家族がどの程度対人資源を活用し て対処できると認知しているかによって、名簿 有効性認知も異なることが考えられる。名簿 は、地域コミュニティ内の人々からの避難支援 を想定しているため、その避難支援に携わる他 者、すなわち対人資源を活用することが困難と 認知する人にとって、名簿の機能を有効に認知 しないことが考えられる。対人資源活用力が名 簿有効性認知を規定するならば、対人資源活用 力を低く認知する同居家族ほど、名簿有効性に ついても低く認知することが予測される。 さらに、対人資源活用力認知の高低と連帯・ 積極性及び他者依頼の高低によって、名簿有効 性認知が異なることが考えられる。同居家族の うち、対人資源活用力を低く認知する人で地域 コミュニティ内の問題解決のために活動するこ とを望む人にとっては、名簿は災害時における 対人資源活用の契機となる。そのため、対人資 源活用力を低く認知し、連帯・積極性を高く認 知する同居家族は、名簿を有効に機能すると認 知することが考えられる。また、同居家族のう ち、対人資源活用力を低く認知する人で地域コ ミュニティ内の一部の人々に任せたいと考える 人にとっても、名簿は対人資源活用の契機とな る。したがって、対人資源活用力を低く認知し 他者依頼を高く認知する同居家族ほど、名簿が 有効に機能すると認知することが予測される。 以上から、地域コミュニティ内で名簿の活用を 促進するには、名簿を認知していない同居家族 がその存在を知った際に、いかなる場合に名簿 を有効に機能すると認知するかを確認すること が重要と考えられる。 ところで、同居家族の名簿有効性認知は水 子・髙尾・佐々木(2018)と髙尾・佐々木・水 子(2019)の報告にあるように、障がい状況や 家族構成等による個別性に富んでいる。少数事 例を対象とした調査から見出される個別性に関 する知見は、名簿の意義を確認することに資す るであろう。一方で、障がい状況の多様性や家 族構成に係る諸事情等の諸要因を捨象し、同居 家族の地域コミュニティへの態度や対人資源活 用力の認知と名簿有効性認知の関連性を分析す ることにも意義がある。なぜなら、地域コミュ ニティ内で名簿の存在を認知していない同居家 族を対象に名簿の意義に関する理解を促進する 手段の大枠を知ることができるためである。地 域コミュニティへの態度と名簿有効性認知との 関連を確認すれば、名簿の存在を認知していな い同居家族が名簿の存在を認知した際に、避難 支援等関係者が名簿の意義を同居家族に理解し てもらうための地域コミュニティ内でのアプ ローチの手掛かりとなるであろう。したがっ て、巨視的に捉えることにも意義があるといえ よう。そこで、本研究では名簿の存在を認知し ていない同居家族で、避難行動要支援者に代 わって名簿登録を決定する意向を示した者を対 象に、名簿有効性認知の規定因を分析した。 方 法 手続き 2018 年6 月、楽天リサーチ株式会社の20 歳 以上のモニターで、各都道府県の障害者手帳 を持つ人と同居する家族を対象に調査を実施 した。同居家族自身が障害者手帳を持つ場合、 家族内に障害者手帳を持つ人が複数名存在す る場合、各種身体障害者手帳の等級が不明の

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場合は除外対象とした。500 名の回答が得られ たが、等級の自由記述欄に等級以外の内容が 記載されていた1 名を除いた499 名をサンプル とした。そのサンプルのうち、名簿の存在を 認知していなかった者で、「仮にその名簿に氏 名、住所、支援を要する内容等を登録すること について同意するか否かの意思を確認された場 合」、自分(同居家族)が名簿に登録に同意する か否かを最終的に決めると回答した者、障害者 手帳を1 冊持つ者(身体障害者手帳:75,療育 手帳:29,精神障害者保健福祉手帳:13)と同 居する家族を分析対象とした(n=117)(男64, 女53)。分析対象者の居住都道府県は35 都道府 県であり(表1)、平均年齢は52.8 歳(SD=14.1) であった。 質問項目 本研究で使用した質問項目は以下の通りで あった。属性項目として、年齢、性別のほか、 同居家族自身の名簿の認知有無、名簿登録に同 意するか否かを最終的に決める家族構成員、家 族が持つ障害者手帳の種類(身体障害者手帳・ 療育手帳・精神障害者保健福祉手帳)と等級に ついて尋ねる質問項目を用意した。なお、名簿 については市町村により名称は必ずしも一致し ない。そこで、同居家族自身が名簿の存在を認 知しているかを確認するため、「あなたは、災 害が発生するおそれがある場合や災害が発生し た場合に、自ら避難することが困難な人の氏 名、住所、支援を要する内容等を登録する名簿 があることを知っていますか。」という質問項 目を用意した。また、名簿登録に同意するか 否かを最終的に決める家族構成員については、 「仮にその名簿に氏名、住所、支援を要する内 容等を登録することについて同意するか否かの 意思を確認された場合、最終的にどなたが登録 に同意する、同意しないを決めることになると 思いますか。」という質問項目を用意し、「あな た」(回答者自身)「障害者手帳を保持するご家 族ご自身」「その他の方」「分からない」のいず れか一つに回答するよう求めた。なお、「あな たは、災害が発生するおそれがある場合や災害 が発生した場合に、自ら避難することが困難な 人の氏名、住所、支援を要する内容等を登録す る名簿があることを知っていますか。」という 質問項目の後に、名簿に登録するか否かを最終 的に決める家族構成員に関する質問項目と名 表1 分析対象者の居住都道府県 (注)数値は度数。度数が0 の県は記載していない。

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簿の有効性認知に関する質問項目を配置した。 よって、調査の前段階では名簿の存在を認知し ていなかった同居家族も、それ以後の質問項目 に回答できる状況にあったことが考えられた。 既存の尺度として、コミュニティ意識尺度 (短縮版)(石盛・岡本・加藤,2013)、災害自 己効力感尺度(元吉,2017)を用いた。コミュ ニ テ ィ 意 識 尺 度( 短 縮 版 )( 石 盛・ 岡 本・ 加 藤,2013)は1(そう思わない)から5(そう思 う)の5 件法、災害自己効力感尺度は1(まった くそう思わない)から7(非常にそう思う)の7 件法で回答を求めた。また、名簿有効性認知を 測定する質問項目として、「自ら避難すること が困難な人々の災害発生後における迅速な避難 に役立つ」「災害発生が予測される場合におい て、自ら避難することが困難な人々の迅速な避 難に役立つ」「災害発生後の安否確認に役立つ」 の3 項目を用意し、1(全くそう思わない)から 5(非常にそう思う)の5 件法で回答を求めた。 倫理的配慮 本研究は、著者らの所属機関の倫理委員会の 承認後に実施された(承認番号:18-009)。 統計解析 統計解析においては、HAD(version16)(清 水,2016)を使用した。 結 果 尺度の分析 コミュニティ意識尺度(短縮版)に対して、 探索的因子分析を行った(最小二乗法、プロ マックス回転)。因子数は、固有値の減衰パ ターンと因子の解釈可能性を踏まえて4 因子と した(表2)。さらに、災害自己効力感尺度に 対して、探索的因子分析を行った(最尤法・プ ロマックス回転)。因子数は、固有値の減衰パ ターンと因子の解釈可能性を踏まえて2 因子と した(表3)。名簿有効性認知の信頼性係数は、 0.89 であった。 表2  コミュニティ意識尺度(短縮版)の探索的因子分析(最小二乗法・プロ マックス回転)の結果

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名簿有効性認知の規定因 説明変数として、連帯・積極性、他者依頼、 対人資源活用力、連帯・積極性と対人資源活用 力の交互作用項、他者依頼と対人資源活用力の 交互作用項を投入した。さらに、各障害者手 帳の最重度の等級に該当する者(n=41)を「1」 (身体障害者手帳1 級:32,療育手帳 A もしく はⒶ : 8,精神障害者保健福祉手帳1 級:1)と し、それ以外の等級に該当する者(n=76)を 「0」とした等級ダミー変数を用意した。そし て、目的変数として名簿有効性認知を投入した 階層的重回帰分析を行った。なお、説明変数は すべて中心化した。 Step 1 で連帯・積極性、他者依頼、対人資源 活用力の主効果を投入したところ、連帯・積極 性、他者依頼が統計的に有意に名簿有効性認知 を予測していたが、対人資源活用力については 統計的に有意ではなかった(表4)。 Step 2 では、新たに等級ダミー変数を主効果 として投入したところ、連帯・積極性と他者依 頼については名簿有効性認知を統計的に有意に 説明していたが、対人資源活用力と等級ダミー 変数については有意ではなかった(表4)。 Step 3 では、新たに連帯・積極性と対人資源 活用力の交互作用項を主効果として投入したと ころ、連帯・積極性、他者依頼、連帯・積極性 表3 災害自己効力感尺度の探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)の結果 表4 階層的重回帰分析の結果 (注)b は非標準化係数。SE は標準誤差。p は有意確率。

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と対人資源活用力の交互作用項が統計的に有意 に名簿有効性認知を説明していたが、対人資源 活用力と等級ダミー変数は有意ではなかった (表4)。 連帯・積極性と対人資源活用力の交互作用 項が統計的に有意だったため、単純傾斜分析 を行った(図1)。分析の結果、対人資源活用力 が低い(−1SD)場合において連帯・積極性の 単純傾斜が統計的に有意であったが(b=0.50, t(110)=4.96, p<.001)、 対 人 資 源 活 用 力 が 高 い場合(+1SD)においては連帯・積極性の単 純傾斜は統計的に有意ではなかった(b=0.20, t(110)=1.96, p=0.52)。 Step 4 では、新たに他者依頼と対人資源活用 力の交互作用項を主効果として投入したとこ ろ、連帯・積極性、他者依頼、連帯・積極性と 対人資源活用力の交互作用項、他者依頼と対人 資源活用力の交互作用項がそれぞれ統計的に有 意に名簿有効性認知を説明していたが、対人資 源活用力と等級ダミー変数は統計的に有意では なかった(表4)。 他者依頼と対人資源活用力の交互作用項が統 計的に有意だったため、単純傾斜分析を行っ た(図2)。分析の結果、対人資源活用力が低い (−1SD)場合において他者依頼の単純傾斜が統 計的に有意であったが(b=0.39, t(110)=3.16, p=.002)、対人資源活用力が高い場合(+1SD) においては他者依頼の単純傾斜は統計的に有意 ではなかった(b=0.11, t(110)=0.91, p=.367)。 考 察 本研究では、名簿の存在を認知していなかっ た同居家族で、仮に名簿に登録するか否かの意 思確認を迫られた場合は自身が決定するとの意 向を有する人を分析対象とした。分析の結果、 対人資源活用力低認知群においては、連帯・積 極性の効果が確認された。対人資源を活用して 対処することが困難と認知し、連帯・積極性を 高く認知する同居家族は、名簿は災害時という 不確実性の高い状況下での協働の契機を生むと 見込んでいるため有効に機能すると認知するの であろう。 連帯・積極性を高く認知する同居家族の中に は、地域コミュニティ内の障がい者支援等に係 る活動に関わっている同居家族が存在する可能 性がある。その人々を対象に名簿の意義を啓発 すれば、地域コミュニティ内における名簿の活 用を促進することにつながるのではなかろう か。無論、地域コミュニティ内の問題に該当す る内容は多様であり、その全てが避難行動要支 図1 対人資源活用力および連帯・積極性と名簿有 効性認知との関連 エラーバーは標準誤差を表す。 図2 対人資源活用力および他者依頼と名簿有効性 認知との関連 エラーバーは標準誤差を表す。

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援者の避難に関連するものではない。ただし、 地域に対する意識が防災意識に関連することや (渡邊,1999)、地域コミュニティ内での諸活動 への参加意識が地域防災意図の規定因となる ことを踏まえると(元吉・髙尾・池田,2008)、 地域コミュニティ内の何らかの活動に関わって いる人々に対して名簿を周知させることも有用 かもしれない。 また、対人資源活用力低認知群において他者 依頼の効果が確認された。名簿に登録しておく と、災害発生が予測される段階や災害発生後の 避難、安否確認の際に、避難支援等関係者の協 力を得る可能性が高まる。そのため、対人資源 を活用して対処することが困難と認知し他者依 頼を高く認知する同居家族ほど、名簿が安全な 避難を実現するうえで有効に機能すると認知す るのではなかろうか。ただし、本研究の分析対 象者は名簿の存在を認知していなかったため、 平常時から名簿を活用し避難支援等関係者と 個別計画を策定するといった利用形態(内閣府 (防災担当),2013)を認知していない可能性が ある。また、対人資源活用力を低く認知してい る同居家族ほど他者依頼の効果が確認されたこ とは、地域コミュニティ内での住民との関わり の希薄化等を理由に、避難支援等関係者に一任 せざるを得ない事情が存在する可能性もある。 以上の可能性を踏まえて、避難支援等関係者は 名簿を認知していない同居家族に対して名簿の 意義のみを説明するのではなく、同居家族が地 域コミュニティ内におかれている状況を考慮す ることが求められよう。 なお、連帯・積極性と他者依頼の間におい て、負の因子間相関が確認された。両変数は、 概念的には相反することが考えられる。それに もかかわらず、なぜ対人資源活用力低認知群に おいて連帯・積極性と他者依頼が名簿有効性認 知を高めたのであろうか。対人資源活用力を低 く認知する同居家族は、災害時に地域コミュニ ティ内の人々に頼ることが困難と認知している 人々として考えられる。対人資源活用力低認知 群で連帯・積極性を志向する同居家族は、地域 コミュニティ内の人々に頼ることが困難と認知 しているからこそ、地域コミュニティ内の人々 との協働の機会を志向する人々と位置づけられ る。そのため、避難支援等関係者他との一種の 協働を軸に運用される名簿の有効性を肯定的に 認知するものと考えられる。一方、他者依頼を 肯定的に認知する同居家族は、自らが地域コ ミュニティ内の活動に参加することについては 消極的であることが考えられる。ただし、その 活動に参加することについては消極的であるに せよ、対人資源活用力を低く認知する同居家族 は登録することで避難支援等関係者による避難 支援を依頼できる名簿に対して有効に機能する ものとして認知するのではなかろうか。以上の 理由で、対人資源活用力低認知群において連 帯・積極性と他者依頼の効果が認められたと考 えられる。

ところで、Duffy & Wong(1996,植村訳1999) は市民参加運動の参加者の構成員を例に、その 人々が集団や市民を代表していなければ、そこ で見出された解決策は受け入れられないであろ うと述べている。市民参加運動と避難行動要支 援者を対象とした避難支援とは、活動の主旨等 が必ずしも一致しない。しかし、同居家族が避 難支援等関係者を避難支援に関わる地域コミュ ニティの代表的立場として認知していること は、名簿の意義を理解してもらう上での前提と なるのではなかろうか。とりわけ、障がい者を 対象とした非常時の計画には障がい者の特定の ニーズを把握することが求められるので(Alex-ander, 2015)、避難行動要支援者と地域コミュ

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ニティ内の人々との交流を創出するにあたって は、避難支援等関係者の立場やその役割に関す る認知度を向上させる必要があろう。 また、Trotter(1981)は、問題解決に伴うコ ミュニティの基本構造の強化といった波及効果 が地域コミュニティにもたらす肯定的な側面を 強調している。この観点からすれば、名簿が有 効に機能したことがある地域コミュニティの住 民とそれ以外の住民の間で、避難行動要支援者 の避難支援や名簿の有効性に対する認知の他、 防災に対する認知が異なる可能性がある。さら に、地域コミュニティにおける名簿の活用実績 や防災に対する認知、さらに避難行動要支援者 の避難支援に対する関心度等と名簿有効性認知 の関連については検討の余地が残されている。 避難要請を拒否する人への対応のあり方という 課題(髙尾・佐々木・水子,2018)も含め、具 体的な介入方法については今後の検討課題とし たい。 文 献

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