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アワビの飼料環境の諸問題
新
井
章
【報 文】 1.はじめに アワビはコンプ科植物から脱落した葉片である寄り藻 driftingalgaeを主飼料としている。アワビの飼料環境の 整備として,寄り藻利用率向上のための藻留め樵の設置 および餌となる大型褐藻のほとんど生育していない磯焼 け域では藻場の造成が試みられている。これまでの藻留 め礁の効果は十分でなく,藻留め樵の改良を目的とした 室内実験が行なわれている1) 2〉段階である。磯焼け域で は,大型褐藻の幼体の移植や藻食動物の除去などの人為 的管理を主体とした養殖的手法による藻場造成が成功し ているが3) 4) 5) 6),藻場維持の省力化に限界があり普及し ていない。 磯焼け域において環境を改変することによって,大型 褐藻の極柏群落を成立させる増殖的手法による藻場造成 は,対象種の群落の成立要因がほとんど解明されていな いので,実際に行なうのは可能な場合もあるが困難であ る。対象種の群落の成立要因が解明されないまま,転石 とコンクリートブロックによる着生基盤の造成が行なわ れ,遷移の途中相として大型褐藻群落が一時的に成立し たとみられる例7)8)9)は報告されている。しかし,磯焼け 海域で着生基盤の造成によって成立した大型褐藻群落が 極相として維持されている例は報告されていない。 アワビ稚貝にとって付着珪藻と海藻の発芽体が重要な 餌料であることが,おもに室内実験10) 11)から知られてい る。しかし,アワビ稚貝の住み場における付着珪藻と海 藻の発芽体の生態は調査されていない。そのため,アワ ビ稚貝礁の飼料環境の整備手法は検討されていない。 筆者は,アワビの餌料環境として;大型褐藻密生域で はアワビが直接採食可能な珪藻と海藻の発芽体の生産量 および寄り藻の通過量と滞留時間が重要であり,磯焼け 域ではそれらに加えて葉片が寄り藻となるコンプ科植物 の現存量が重要であると考えている。また,アワビ樵の 造成では,アワビが捕食される機会を減少させるために, 採食活動する場と住み場を一致させる必要がある。その ためには,成長段階ごとの天然アワビの住み場環境を詳 * 株式会社 海藻研究所(〒239神奈川県横須賀市津 久井500 GH. 8-3-301) しく潜水観察し,自然の状態を模倣することが最も合理 的であろう。ここでは,潜水観察中に気付いたことを中 心にアワビの飼料環境とその整備手法について述べる。2.アワビの住み場環境
アワビの住み場の海藻植生というと漁場全体の植生と して捉えられる場合が多く,個々のアワビの住み場の植 生として捉えられることは少ない。ここでは,漁場全体 とアワビの住み場の植生を区別する。表-1に磯根生物 の住み場周辺でよく見られる海藻の生活型と生育環境を 示す。それらのうちアワビの稚貝から成貝の住み場の植 生として各地で共通しているのは,殻状の無節サンゴモ の優占である。秋田県金満町地先のクロアワビ漁場では, 巨礫と転石の表面に餌となるスギノリとツノマタが優占 しているが,アワビが付着している住み場は無節サンゴ モが優占している礫と転石の側面と裏面である(図-1)。 無節サンゴモの優占は,物理的撹乱(表-2)と藻食動 物の食害(過剰採食) 12) overgrazingによって生じる。 表面の平滑な無節サンゴモは,アワビの付着面に適し ている。また,無節サンゴモが優占するような物理的環 境の不安定な場所では,付着珪藻や海藻の発芽体による 潜在的生産力が高く,飼料環境も優れている13)。物理 的撹乱が激しすぎれば,アワビも砂に埋没したり押しつ ぶされてしまう。反対に,物理的撹乱が弱すぎると,固 着動物が基質上で優占し(図一二2),凹凸が生じるために アワビの付着面が減少してしまう。そのような場所では, 肉食動物の捕食圧が高いとみられる。無節サンゴモが優 占するような場所では,物理的環境の安定性の低さによ って,平滑な付着面,優れた餌料環境および低い捕食圧 が保たれる。しかし,アワビ自体も物理的撹乱の影響を 受けるので,身を守る空間形状が重要となる。キタムラ サキウニやブダイなどの採食圧が高い海域では,物理的 撹乱が弱いと海藻と固着動物は発生の初期に採食されて しまい,採食されにくい構造の無節サンゴモが優占する。3.アワビの餌料環境
大型褐藻が密生する海域では,稚貝はコンプ科植物の 密生する瀬と瀬の間の砂が薄く堆積した礫の裏面で観察 される(図-3)。成貝は砂地に接する礫,転石および岩26 水 産 土 木 VoL26No.2 盤で観察される。コンプ科植物が密生する岩盤では,ア の住み場に適した無節サンゴモの優占する平滑面は少な ワビはほとんど観察されない。磯焼け海域では,稚貝は い。磯焼け域では,藻食動物の採食の影響で物理的環境 転石と礫の接点などの鋭角的な間隙と転石上の小さなく の安定している所でも無節サンゴモが優占し,アワビの ぼ地などで観察される(図-4)。大型褐藻密生域では,寄 生息可能な面積が広い。しかし,コンプ科植物は海水流 り藻を供給するコンプ科植物の現存量は多いが,アワビ 動の強い漸深帯上部や砂地に点在する小岩盤などの採食 表- 1磯根生物の住み場周辺でよく見られる海藻の生活型と生育環境13) 生 活 型 種 類 生 育 環 境 直 _ふ,_ 大型多年生 アラメ カジメ クロメ ツルアラメ 物理的撹乱の少ない場所,磯焼け域のア●ラメとマ マコンブ ノコギリモク オオバモク コンプについては波浪と漂砂の影響が適度にある ヤツマタモク 場所 大型1年生 ワカメ ホソメコンプ アカモク 大型多年生海藻の生育が制限されるレベルの撹乱 上し 海 藻 のある場所 小型多年生 フサイワヅタ マクサ オバクサ 波浪や砂の衝突による撹乱が継続的にある場所 有節サンゴモ ツノマタ 小型1年生 フクロノリ イシモズク ツルモ 一定期間(秋一冬)に基質の反転や埋没があり, その後物理的撹乱の少ない場所
小型短命
アナアオサ アオノリ属 珪藻 藍藻 物理的撹乱と安定が短期間ごとに反復する場所 殻 小型多年生 無節サンゴモ イウノカワ属 基質の衝突・反転,砂と小礫の衝突,砂泥の堆積 状 による撹乱の激しい場所,藻食動物による採食圧 海 の高い場所,大型多年生海藻群落内部の照度の低 藻 い場所 表-2 環境を不安定にする物理的要因と作用13) 要 因 作 用 波 浪 衝撃による基質からの動植物の剥取り 基質の反転・衝突 基質の移動による動植物の押しつぶしと剥取り 基質への砂と礫の衝突 ヤスリ効果による動植物のこすり取り 基質への砂泥の堆積 動物の呼吸の阻害,海藻の光合成の阻害,埋没 図一1秋田県金浦町地先のアワビ漁場.巨轢 図-2 三浦半島沿岸のカジメ群落内部で基質 と転石の表面に田料海藻が生育し,陳 を覆うカイメン類,コケムシ類,カン と転石の側面と裏面の無節サンゴモの ザシゴカイ科などの固着動物.13) 使古する場所にアワビが付着している.アワビの餌料環境の諸問題 27
図-3 大型褐藻密生域におけるコンプ科植物とアワビの分布
28 水 産 土 木 Vol.26No.2 図一5 寄り藻の発生,移動,滞留,流失.寄り藻の滞留時間は海底地形の複雑な 谷やくぼ地で比較的長い. 図-6 三浦半島沿岸のカジメ群落に接する砂陳地 に滞留する寄り藻(アラメとカジメの葉片) 13) 圧の低い所にしか生育していないので,寄り藻の供給量 は少ない。無節サンゴモの優占する場所では付着珪藻と 海藻の発芽体による生産力が高いので,稚貝の飼料環境 としては優れている。大型のアワビにとっては,珪藻と 海藻の発芽体の現存量が少ないので採食効率が悪く,飼 料環境はよくない。 成員の主飼料であるコンプ科植物の寄り藻は,岩礁が 落ち込んで谷やくぼ地となっている場所の砂地と砂礫地 に滞留していることが多い(図-5)。岩礁が落ち込んで 谷やくぼ地となっている場所の寄り藻も海水流動によっ て少しずつ移動するが,岩盤や砂地の斜面よりも移動に 図書7 愛媛県大島の抄轢地の標(長径22.5cm x 短径18.5cm)の裏面に付着するアワビ稚 貝(殻長16mm),陳の裏面では無節サンゴ モが使古する 時間がかかるので滞留しているように見える。そのため, 寄り藻の発生量の少ないときには谷やくぼ地でもほとん ど寄り藻は観察されないが,そこを通過する寄り藻の量 は他の場所より多い。一方,寄り藻が多量に集積しやす い場所では海水流動が弱いのでアワビの付着可能な平滑 な面が少なく,砂泥が薄く堆積していることも多く,ア ワビの生息密度はかえって低い。アワビが捕捉して採食 するのは住み場を通過する寄り藻であり,住み場から離 れて集積する寄り藻は利用されない。アワビの餌として の寄り藻の量は,アワビが住み場で捕捉可能な量が問題 となるので,滞留量ではなく通過量と滞留時間の関係と
アワビの飼料環境の諸問題 して捉えるべきである。コンプ科植物群落縁辺部の砂に 接する場所(図-6)と砂礫地では,寄り藻の通過量が多 く,滞留時間が比較的長いので,アワビ成貝にとって良 い飼料環境となっている。それらの場所では,前述のよ うに無節サンゴモが優占している。マダカアワビ,メガ イアワビとクロアワビより採食活動の活発なエゾアワビ は,寄り藻の集積する瀬と瀬の間の谷に蝿集することが しばしば観察されている14)。エゾアワビが分布する海 域ではキタムラサキウニの採食の影響で,物理的環境の 安定した所でも無節サンゴモが優占し,餌となる海藻は ほとんど生育していない。寄り藻の通過量が多く滞留時 間の比較的長くなる地形であれば,表面の平滑な無節サ ンゴモの優占は,エゾアワビの採食のための移動に都合 がよいと考えられる。 アワビの天然稚貝の消化管内容物は,エゾアワビでは珪 藻が多いこと15)が報告されている。他種の稚貝の消化管 内容物は調査されていないが,着底直後の稚貝の分布調 査から,初期飼料として付着珪藻が重要であること16)17) が示唆されている。稚貝の住み場でも無節サンゴモが優 占し(図-7),目視による観察では付着珪藻を含めた餌 料海藻はほとんど認められない。無節サンゴモ上では, 物理的撹乱,藻食動物の採食,無節サンゴモの皮層の剥 離18)の影響で基質面の更新が盛んで,遷移初期に優占 する付着珪藻の生育に都合がよいと考えられる。また, そのような面には海藻の遊定子なども着生しやすいが, 肉眼的な大きさとなる前に藻食動物に採食されてしまう。 アワビ稚貝が分布する砂轢地では,マット状の付着珪藻 の群落は水温の低下する秋から冬によく観察される。こ れは,水温の低下によってヨコエビ,ワレカラ,チグサ ガイなどの微小な動物を含めた藻食動物の採食活動が低 下して,食べ残される珪藻の量が増えるための現象と考 えられる。成員も寄り藻が少ないときには,住み場周辺 の無節サンゴモあるいは裸面上の付着珪藻や海藻の発芽 体を採食しているとみられる。そのため,餌料としての 珪藻と海藻の発芽体の量は,現存量ではなく生産量とし て捉えることが必要である。
4.餌料環境の整備
1〉 大型褐藻密生域 飼料海藻は十分生育していることから,寄り藻の利用 率の向上が課題である(表-3)。これまでの囲い樵のよ うな施設は海底からの高さがあり,寄り藻が礁内に移勤 しにくく,そこでは大型褐藻が密生し群落内部の照度が 低下するので,付着珪藻や小型海藻の生産量も少ない。 アワビの住み場での寄り藻の通過量を増加させ滞留時間 を比較的長くさせるように,岩盤の周囲の砂地に構造物 を設置して谷あるいはくぼ地状のアワビ樵を造成すべき である。また,平滑なアワビの付着面を維持させる点で 29 も,物理的撹乱が適度に生じるように,囲い樵とする場 合には礫や転石をぎっしり詰めないで,それらがときど き反転したり漂砂の影響を受けやすくすることが必要で ある。 稚貝にとっては付着面の平滑さを維持し,付着珪藻と 海藻の発芽体の生産力を増大させるために成員の住み場 よりも物理的環境を不安定にすることが重要であると考、 えられる。これまでの稚貝樵では,海水流動による基質 の移動・反転や漂砂の影響がないことおよび肉食動物に 捕食されにくい空間形状が重視されている。物理的環境 の安定したアワビ礁では遷移が進むにつれてカンザシゴ カイ科などの固着動物が優占してしまい,空間形状がア ワビにとって不連なものへと変化する。また,大型褐藻 が繁茂してくるので基質上の照度が低下し,直接採食で きる餌の量が減少してしまう。そこで,積極的に漂砂を 利用したアワビ樵と海水流動によって適度に反転する小 型のアワビ礁の開発が望まれる。 付着珪藻,海藻の発芽体の生産に有利になるように, コンプ科植物の間引きによって海底の照度を増加させる ことも大型褐藻密生域では,飼料環境の整備として有効 と思われる。アワビ漁場におけるコンプ科のアラメ属カ ジメ属の利用による間引きの例を表一4に示す。アラメ 属カジメ属の間引きのように人為的にアワビ漁場を管理 する場合には,間引きを目的とするのではなく,産業的 な利用の結果として間引きされることが望ましい。人為 的なアワビ漁場の管理は補助的手段であり,漁場の飼料 環境の整備は環境の改変によって自然の力で行なわれる のが基本と考えられる。 2)磯焼け域 磯焼け域においても,漸深帯上部,砂地に点在する岩 盤や礫,港内などに大型褐藻の小規模な群落が観察され る19)。そのような場所は,海水流動,漂砂,内湾水によ って藻食動物の侵入する頻度が低いと考えられる。小規 模な既存の藻場が成立しているのと同じ環境を土木的に 拡大することによって,藻場造成は可能である。海水流 動の激しい漸深帯上部に藻場の着生基盤を設置する場合 には,移動や転倒がないように構造物を大型化する必要 があるが,効果面積が狭くなるので事務的な問題で事業 化しにくいようである。効果面積が狭くとも着実に藻場 を拡大すべきである。港を作る場合には,漸深帯上部の 構造物の傾斜や表面形状を海藻の着生に有利となるよう に工夫してほしい。砂地に藻場を造成する場合には,漂 砂によって藻食動物が排除されやすいように,数壷の広 さの構造物を砂地に点在させるのがよいだろう。砂地に 囲い樵のように広い面積を有する構造物を設置すると, 周辺の磯焼けした岩盤と同様な物理的環境となるので, 浮遊幼生で着底した藻食動物は生き残りやすくなる。最 初の2から5年間は藻場が成立するが,藻食動物の成長30 水 産 土 木 Vol.26No.2 表-3 藻場密生域と磯焼け域における前科環境の整備 地 域 対e象 課 題
整備の考え方
方 法 藻場密生域 成 貝 寄り藻の効率的利用 地形の複雑化による寄り藻 谷やくぼ地の造成 の滞留 砂礫地の造成 付着珪藻・海藻発芽体と幼 体の生産力の増大 基質面の更新 漂砂を利用した磯掃除 照度の増加 コンプ科植物の間引き 稚 貝 付着珪藻・藍藻・海藻発芽 基質面の更新 基質の小型化による反転および 体の生産力の増大 基質への砂と礫の衝突を利用し た磯掃除 照度の増加 コンプ科植物の間引き磯焼け域
成 員 磯焼け期の既存藻場の拡大 人為的な採食圧の低下 漁獲による藻食動物の採取 自然を利用した採食圧の低 海水流動,漂砂,内湾系水を利 下 用した藻食動物の排除 磯焼け回復初期の藻場造成 藻場の急速な回復 母藻の移植, 遊定子・配偶体の散布 寄り藻の効率的利用 地形の複雑化による寄り藻 谷やくぼ地の造成 の滞留 砂礫地の造成 稚 貝 磯焼け回復期の付着珪藻・ 基質面の更新 基質の小型化による反転および 藍藻・海藻発芽体の生産力 基質への砂と礫の衝突を利用し の増大 た磯掃除 照度の増加 コンプ科植物の間引き 表一4 アワビ漁場におけるアラメ属カジメ属の利用による間引き 種 類 地 域 利 用 日 的 ア ラ メ(サガラメ) 三浦半島駿河湾西部 志摩半島紀伊半島 食用としての採取 ア ラ メ 分布域の各地 アワビなどの種苗の餌としての採取 ア ラ メ 三浦半島 葉に付着するパティラ採取のための刈取 ツ)レアラメ 能登半島佐渡島 男鹿半島 食用としての採取 とともに採食圧が高くなると,藻場構成種の幼体の採食 による減耗が激しくなり,藻場は衰退すると予測される。 図一8に静岡県田牛地先における磯焼け現象とアワビ 漁獲量の変動と黒潮の大蛇行期を示す。磯焼けは潮流の 変化によって生じ,飼料となる海藻の不足によって1, 2年後にアワビの漁獲量が急減する20)。現在の土木技術 では潮流を制御できないめで,大規模な大型褐藻群落の 造成は困難である。磯焼け期にコンプ科植物群落の回復 を目的として母藻の移植や遊定子の散布が各地で行なわ れているが,藻場を衰退させた環境が変化しないうちは, 藻場が形成されることはない。着生基盤の設置と母藻の 移植などを同時に行な・えば,遊定子の着生面が広く藻食 動物の密度も初めのうちは低いので,一時的に藻場が成 立する。しかし,藻食動物が侵入して周辺の岩盤や礫地 と同程度の密度になると,藻場は裏返して周辺と同様に 無節サンゴモが優占した状態で極相になる。 図-8には,磯焼けの回復初期にアワビの漁獲量が急 速に回復することも示されている。これは,無節サンゴ モ群落の拡大する磯焼け期の餌料環境が,漁獲サイズ以 下の小型アワビにとって,大型アワビほど悪くなかった ことを示していると推察される。稚貝にとっては,良好 な飼料環境であったと考えられる。 コンプ科植物群落の消失はアワビのやせとへい死をも たらし,アワビの漁獲量を制限する要因となっている20〉 21)。 そこで,磯焼け域では,磯焼け期に存在する藻場と同じ 環境の造成によって藻場を拡大すること,磯焼け回復期 の予測方法を開発し,環境の変化に合わせて母藻の移植 や遊定子の散布によって藻場の早期回復を計ることが,アワビの飼料環境の諸問題 00 帥 ﹁○○し 0 (事)エ〇十<○ 31 1890 1900 1910 1920 1930 1940 1950 1960 1970 YE AR 図-8 静岡県田牛地先ににおける磯挽け現象.アワビ漁獲量の変動と黒潮の大蛇行期. 大規模な磯焼け現象の期間を黒点で示した20). 効率的な餌料環境の整備手法である。また,磯焼け域の 大型褐藻群落は局所的に分布し,アワビの住み場から離 れていることが多いので,寄り藻を誘導する施設と漁場 の外へ流失させない施設の開発が望まれる。
5.おわりに
放流アワビは小型であるほど減耗が激しく,放流場所 によっては生き残る数が少ないので,漁業者はより大型 の種苗を望んでいる。しかし,放流事業の低コスト化の ためには,より小型の種苗を多量に放流し,生残率は多 少低下しても生き残る絶体数を増加させる必要がある。 アワビの放流事業に関する調査は,放流種苗の追跡やそ の場の環境調査が主体となっている。しかし,天然稚貝 の分布と生態がほとんど不明であるにもかかわらず,放 流種苗の調査をもとに放流適地を選定したり,放流種苗 を使った室内実験から稚貝礁を設計するには無理がある ように思われる。筆者は,天然稚貝の生態を明らかにす れば,より小型の種苗の餌料環境を含めた放流適地の選 定や稚貝樵の造成が可能になると考えている。また,藻 場造成とアワビ礁造成の報告書と論文は,生物相が極相 となる前のデータをもとに書かれたものが多いと思われ る。増殖事業では長期的な効果が問題となるので,設置 してから5から7年以上経過した藻礁とアワビ樵の調査 も必要である。 謝 辞 本稿をまとめるにあたり,有益な助言をいただいた水 産工学研究所の月膜 茂氏,日本テトラポッド株式会社 の綿貫 啓氏,財団法人電力中央研究所の寺脇利信氏, 徳島県水産試験場の小島 博氏および興国コンクリート 株式会社の平松 亘氏に感謝の意を表する。 参 考 文 献 1)川俣 茂・萩野静也:二次元一様流中における平板 型流れ藻清流施設について,水産土木, 23, pp. 1-11, 1987. 2)川俣 茂:飼料としての流出海藻とその滞留施設, 月刊海洋科学, 20, pp. 369-376, 1988. 3)中久喜昭:磯焼け漁場の海中林造成試験,栽培技研, 9, pp. 25-30, 1980. 4)足助光久:コンプ藻場の造成とその効果,水産土木, 20, pp. 37-42, 1983. 5)大野正夫・笠原 均・井本善次:土佐湾産カジメ類 の生理生態学的研究, Ⅱ成体からの移植実験,高知 大海洋生物研報, 5, pp. 65-75, 1983. 6)谷口和也:アラメ海中林の造成,月刊海洋科学, 20, pp. 362-368, 1988. 7)門間春博:浅海岩礁域におけるアワビ増殖技術およ32 水 産 土 木 Vol.26No.2 びその効果について-Ⅳ (種苗中間保護育成場にお けるアワビの生息密度),栽培技研, 10, pp.15-21, 1981. 8)船野 隆:噴火湾沿岸伊達市におけるマコンブの生 態およびコンクリートブロック,割石によるコンプ 礁造成,第Ⅱ報コンクリートブロック,割石による コンプ礁造成,北水試研報, 23, pp. 9-52, 1981. 9)金子 孝:コンプ類の生態と増養殖,月刊海洋科学, 17, pp. 725-733, 1985. 10)浮 永久・菊地省吾:付着性微小藻類6種のエゾア ワビ稚貝に対する飼料効果,東北水研研報, 40, pp. 47-52, 1979. 11)前迫信彦・中村伸司・四井敏雄:数種の褐藻,緑藻 発芽体ならびに藍藻のクロアワビ稚貝に対する飼料 効果,長崎水試研報, 10, pp. 53-56, 1984. 12)新井章吾・新井朱美:海藻の遷移に及ぼす採食の影 響I,藻類, 32, pp.43-51, 1984. 13)新井章吾:磯根生物と住み場環境の安定性,月刊海 洋科学, 20, pp. 355-362, 1988. 14)内田 務:アワビ礁,月刊海洋科学, 19, pp.178-182, 1987. 15)富田恭司・田沢伸雄:礼文島エゾアワビ稚貝の胃内 容物,北水試研報, 13, pp.31-38, 1971. 16)市来忠彦・山下金義・種村一成:長崎県宇久島沿岸 におけるクロアワビ稚貝の分布と成長,長崎水試研 報, 3, pp.84-94, 1977. 17)田中邦三・田中種雄・石田 修・大場俊雄:千葉県 南部沿岸のアワビ浮遊幼生並びに着底稚貝の分布, 日水誌, 52, pp. 1525-1532, 1986. 18)正置富太郎・藤田大介・秋岡英承:エゾイシゴロモ (紅藻サンゴモ科)上におけるマコンブの発芽につ いて,北大水産研究彙報, 32, pp. 349-356, 1981. 19)新井軍書:磯焼け海域における藻場造成について, 海藻魚礁ニュース, 7, pp.7-9, 1987. 20)河尻正博・佐々木 正・影山佳之:下田市田牛地先 における磯焼け現象とアワビ資源の変動,静岡水試 研報, 15, pp. 19-30, 1981. 21)田中邦三・石田 修・田中種雄:房総半島南部布良 瀬周辺の瘡せアワビ,特に棲息状況について,白水 研報告, 36, pp. 49-57, 1986. 質 疑 応 答 吉村憲鵜(愛知県知多事務所) :摂餌場となる無節サン ゴモの剥離後の再生産のスピードがどの位かかるのか, また,無節サンゴモ上の付着珪藻などがどの程度存在す れば,アワビの摂餌要求量を満たせるのか量的な把握を していれば,教え願いたい。 新井:付着珪藻については量的な調査をしていません。 稚貝が付着している場所では,ほとんど珪藻は肉眼的に は観察されないが,潜在的な生産量は多いと考えていま す。 川俣 茂(水工研) :石の反転・転勤には圧死というマ イナス効果があるが,アワビは付着する石が反転しても 生存しうるのか,あるいは石の転勤時には逃避するのに 適した安定した基盤が必要なのでしょうか。 新井:確かにマイナス効果はあるが,稚貝の場合,安 定した環境での捕食による減耗の方がきびしいと考えて います。転石などの安定した基盤は,あったほうがよい と思います。 池原宏二(水産庁開発課) :従来増殖場造成はアラメ, カジメ場作りを目的としていたが,アワビ稚貝の場合は 無節サンゴモ場作りをした方がよいのですか。 新井:そのとおりです。ただし,磯焼け域ではアワビ 成員のために,アラメ,カジメ群落を作る必要がありま す。 中村 充(東京水産大学) :種苗サイズについて,移植, 放流は経済行為ですから4cm, 5cmあるいはそれ以上 でまいても利益が大であればよい訳です。ここでは種苗 性について考えると,放流場の環境によって1cmサイ ズでも良い場があるのではないだろうか。 15, 6年前に 和歌山県のある漁民が水試から1cmの稚貝をもらい, 新井さんの言われるような岩場の畝の溝,ここには礫場 が混在していましたが,ここで3cm位まで育てていま した。これを再現性のある環境条件として明らかにした いと思いながら今日に到っています。生物条件と環境条 件を複合した研究の推進をお願いします。 新井:それらの研究を進めることは必要なことだと思 っています。天然の稚アワビの住み場環境を詳しく調べ ることによって,小型サイズの種苗の放流が可能になる と考えています。 小島 博(徳島水試) :植生の変化は動物柄の変化をも たらす。アワビの漁獲後にも動物柄の変化が知られてい ます(overfishihgの場合) 。生物環境が変化するなかでア ワビを増やすという視点から,放流場所についての助言 をして欲しい。 新井:生物環境が変化しても,稚貝は礫の反転や漂砂 の影響によって無節サンゴモが優占する場所に放流する のがよいと考えています。