Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,
Available from http://ir.tdc.ac.jp/
Title
Dr.Kのペリオゼミナール 歯周病原細菌はどこから来て
どこへ行くのか 終わらない戦い「病原体」vs「免疫」
Author(s)
石原, 和幸
Journal
デンタルハイジーン, 28(5): 413-417
URL
http://hdl.handle.net/10130/2148
Right
終
わ
ら
な
い
戟
い
「 病
原
体
」 v
s
「
免 疫 」テロリス トか ら身 を守 る
最近,新聞などで 「テロ」 という見出 しを目にすることが増 え,テロに対する種々の対策が講 じられています.たとえば, 飛行機 はハイジャックなどのテロの危険性が高いため,空港で の手荷物検査やボデ ィチェックは年々厳 しくなっています. こ れは,無差別殺人 という手段 をとるテロリス トか ら乗客 を守 る ために,で きるだけ早 くテロリス トを 「認識」 し,
「排 除」す るための対策の1つです. 同 じように,私たちの身体の中にも,いわば体 内でのテロを 起 こす ような危険な微生物 を排除するシステムがあ ります. こ れは古 くか ら "一度ある病気 にかかった ら二度 とかか らない'' とい う形で知 られています. また,
「あの人は∼に免疫がない か ら・・-・」などという表現 を聞 くことがあ ります.この 「免疫」 こそが,身体の中に入 り込むテロリス トである 「病原微生物」 を排除す るしくみです.基本的には,自分でない もの (非 自己) を識別 して攻撃するシステムです. いまはもう化石 しか残 っていないか もしれませんが,昔はピ の家庭 にも "家長"がいました.だいたいは父親がその役割 を 担当 し,家族の統制 を行 っていました. では,それを免疫の しくみに置 き換 えて考えてみ ましょう. 私たちの 「身体」 を 「家」 に,
「免疫」 を 「家長」 に当てはめ て考えてみて ください. 自分の家によそ者が入 って くると,衣 長はそれを家族ではない と見 なして怒 り,追い出 します.免疫 とはそんなシステムです.ただ, この 「家長」 は,雅儀 な くら いの並々な らぬ頑固者で,家族で も,たとえば娘が髪の毛 を赤 く染めて鼻にピアスなんかを開けて きた りして,ち ょっと見た 目が違 って しまうとひどく怒 りだ して,娘 まで追い出 して しま い ます. これが,免疫 によって身体 に不利益 なことが起 こる 「ア レルギー」 とよばれる状態です.石原和幸
東京歯科大学微生物学講座 連絡先 :〒26ト8502干葉市美浜区真砂 ト2-2 舟 肝 招 け 肢 1 ・Lh 〟 J 1 -.. 卑 :・針 " r./. ㌦ 1 了 ・・ . ・ ・ ・︰プ r .よj J I・. I I :T U . ぎ ・ノダ 〟 け デ ンタル ハイ ジー ン :第28巻第5号 :2008年5月41
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生体 を危険か ら守 る 「
免疫
」
システム
前回解説 した炎症のプロセスでは,"侵入者が入 って くると,食食 細胞が出て きて侵入者 を食べ る" と説明 しました,そのなかで,防御 する細胞 としては,細菌を食べ る 「好中球」 についてのみお話 ししま したが,実際は もっと多様 な細胞が血液中か ら出て きて防御反応 を 担 っています.今回と次回は,その多様 な細胞 によって有機的に構成 されている 「免疫」 という防御 システムについてお伝 えしたい と思い ます. た とえば,口腔内は食物の入 り口であ り,食物の摂取 に付随 して微 生物 もた くさん入 って きます.入 って きた微生物 は粘膜 に付着 した り そのまま飲み込 まれた りします.それ らの微生物が,ただ体内を通過 するだけだった り,粘膜 に住み着いて も何 もしないのであれば問題な いのですが,一部の微生物は,粘膜の表面, もしくは粘膜の中の組織 内に入 り込んで身体 に傷害を与 えることがあ ります.生体 はなん とか それを防がない と,病原体 によって命 を奪 われて しまいます. そ して, この危険か ら生体 を防御 して くれているのが 「免疫」 とい うシステムです.防御の第一線 「自然免疫」
口腔内には,多種の細菌が生息 しています.そのため, これ らの細 菌 と接触 している粘膜や歯肉溝上皮 はつねに細菌の侵入の脅威 にさら されています.生物が生 きてい くため,生 き延 びるためには, これ ら の外敵か ら身 を守 る必要があ ります.粘膜や歯 肉溝上皮 は, まさに 「免疫」 と 「病原体」の戦いの場 といえるで しょう. 免疫の システムはおお まかには 「自然免疫」 と 「獲得免疫」に分け ることがで きます.「獲得免疫」 は, さらに 「体液性免疫」 と 「細胞 性免疫」 に分かれます (図 1). 病原体の侵入 に対 して最初の関門として立ちはだかるのは,
「上皮」 とよばれる組織です.皮膚や粘膜の表面は上皮細胞が緊密に結合 した 上皮で覆われているため,寄生体が体内に入 り込みづ らくなっていま す.私 たちは一般的に,
「皮膚が多少汚れて も洗 えば大丈夫」 とい う 感覚 をもっていますが,それは,上皮の存在 によって,異物の侵入か ら人体が守 られているためです. もし上皮が外敵 を通 していた ら,菌 が皮膚 に くっついただけで大変なことにな ります. また,皮膚か ら垢 が出ることか らもわかるように,上皮細胞は細胞分裂が激 しく,新 し い皮膚が どん どん生 まれ,古 くなった皮膚 は剥がれてい きます. この ため,古い上皮細胞がそれに くっついた病原体 ごと剥がれてその定着 を阻止 しています. 図 1 免疫のシステムは,おおまかに は 「自然免疫」
「獲得免疫」に分けら れ,「獲得免疫」は,体液性免疫と細胞 性免疫に分けることができる41
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デンタル ハイジーン :第 28巻第5号 :2008年 5月終 わ らな い 戦 い 「病 原 体 」 vs 「免 疫 」 図2 「自然免疫」の防御メカニズム さらに粘液の分泌 も,免疫 として働いています.粘液の分泌, とい うと難 しそ うですが,鼻風邪のウイルスが侵入 して きた とき,鼻の粘 膜が病原体 を洗い流 して追い出そ うとして出す粘液が 「鼻水」です.垢 や鼻水などは,私たちにごく身近でとりわけ目新 しいものではあ りませ んが,これらも生体を防御する免疫 として働いているのです.唾液 も,洗 い流す という作用に加え,それに含 まれるリゾチーム,ペルオキシダー ゼなどの抗菌物質によって,微生物の侵入か ら身体 を守っています. この防御 に打ち勝 って組織内に入 り込んで しまった病原体 に対 して は,血液中の細胞,好中球がそれを会食す ることによって消化 し,処 理 します. また, ウイルスに感染 しておか しくなって しまった自分の 細胞やがん細胞 に対 しては,ナチュラルキラー細胞 (NK細胞)が細 胞 を破壊することにより対抗 します. ここまで述べて きた, どのような微生物にも対応で きる防御 システ ムが 「自然免疫」です (図2). 自然免疫 は,病原体 を選ばず に反応 し,それを追い出そ うとして くれる点で,非常 に有能な防御です. ご近所 トラブルか ら,空 き巣対策,迷子の道案内まで,あ らゆる場 面で市民 を守 る,いわば 『踊 る大捜査線』に出て くる所轄の 「おまわ りさん」のような役 目を担 っているといえるで しょう. デンタル ハイジーン :第28巻第5号 :2008年 5月
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′一 * P l \ 図3 「獲得免疫」の防御メカニズム防御の特殊部隊 「
獲得免疫」
この 「自然免疫」だけで も,十分身体 を守 って くれるような気が し ますが,1つだけ難点があ ります. どんな ものに対 して も同様 に撃退 して くれるのですが,いつ も同 じレベルの防御 になるので,同 じ病原 体が再 び侵入 して きた ら, また前回 と同 じ過程 を経て撃退せねはな ら ず,私たちはふたたび同 じ症状で苦 しむことにな ります. これでは, 学生時代のテス ト勉強の ように,似通 ったテス トを何 回 も受 けている にもかかわ らず,毎回テス トの前 日には,む りや り一夜づけをして苦 しみ なが ら勉強 しているような ものです. しか し, もし,前回の苦労 を繰 り返 さないような対策 をとり, もっと前か ら 「学習」 を して効率 的に処理す ることがで きれば,テス ト前 日に苦 しまず にすみ ます. こ の ようなあ らか じめ準備 をしてお く防御 システムが 「獲得免疫」です. 「獲得」とは手に入れるということで,"最初はもっていなかったけれ ど, 病原体 に出会 って 「学習」 してそれを 「記憶」す ることによって対応 で きるようになった" とい うニュア ンスです. 市民の全般的な安全 を守 る 「お まわ りさん」 とは違い,警視庁の捜 査一課 は殺人な どの凶悪犯罪 を専 門に扱い ますが,獲得免役 の任務 も, 捜査一課の ように専 門化 しています. この防御 は,複数の細胞のネ ッ トワークによってなされ,表に示す ような細胞が関与 します. 獲得免疫のメカニズム (図 3)は, まず樹状細胞やマクロフ ァー ジ の ような食食細胞が,侵入 して きた病原体 (抗原) を貧食 します.食 べ るとい う点では好中球 と同 じですが, これ らの細胞 は どんな病原体 がん細胞 栄 ウイル ス感染細胞 I Erm 細胞 内寄生細菌 ヽー・ 亘 1:I-I 抗体産生細胞 表 獲得免疫の主役たち 樹状細胞 マクロフア-ジ T細胞 ○ヘルパーT細胞 Th1 Th2 ○ キラー (細胞傷害性)T
細胞41
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デンタル ハイジーン :第28巻第5号 :2008年 5月細胞 図5 抗体は,病原体の付着因子に付着することに より,病原体 を排除する た とえば,生 まれたばか りの赤 ち ゃんは, 防御 システ ムがで きあが っていないため弱 いのですが,生 まれる前 に,胎盤 を経 由 して母親か らもらったIgGを血液中に取 り込み,産 まれてか らも,乳汁中の分泌型IgAを取 り入 れ ることによって,感染か ら身 を守 ってい ます.
抗体 の有能 な部下 「
補体
」
抗体 の活躍 には,血液 中の 「補体」 とい う成分の助 け が不可欠です.補体 は複数の タンパ ク質で構成 されてい ます.抗体 が抗原 に結合す る とそれによって補体が活性 化 します.そ して,活性化 によ り, いろいろな タイプの 防御が引 き起 こされ ます.病原体 を貧食す る細胞 は抗体 のFcと活性化 した補体 を認識す る レセプ ター を もって い ます. この2つ の レセプ ター に Fcと活性化 した補体 が結合す ることに よ り,貧食の効率が上昇 し,菌の排 除 が効率 的 に行 われ ます (図611). また,活性化 された 補体 は,好 中球 を集 め る役割 も果 た します (図6-2). さ らに,補体 の活性化 によ り生ず る成分 には,膜 に穴 を 開ける作用 をもつ ものがあ り,病原体 の細胞膜 に穴 を開 けて殺 します (図6-3). この抗体 と補体 の協力 に よっ て,病原体 の排 除が効率的に進め られてい きます. さ らに,獲得免疫 の 1つ 「細胞性免疫」 も生体 防御 に 重要 な役割 を果た してい ますが, こち らにつ いては次 回 お話 しします.活
性
化
し
た
補
体補
体
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セ
プ
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Fcレセプター 図6-1 含食細胞は,抗体の Fcと活性化 した補 体 を認識するレセプターをもっているため,貧食 を効率的に行 うことができる A---) :L ・_I ▲」 .爪 、 万 / ユ ニ \[ Li 三`= 1- :==! '丁 】二 ・ 一) (Il°,=・・ 日 ヽヽ l -/) I -{ Lヽ iZtr L t / )二 七 一 ' 吾 / JlrJl I二言 一一・二 一, h lL・:-: .I__; 図6-2 活性化 した補体は1好中球 を集める役割 も果たす (走化性) \- /
図6-3 補体の活性化によって生ずる成分は,柄 原体の細胞膜に穴 を空けて殺す作用ももつ41
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デンタル ハイジーン :第28巻第5号 :2008年5月終 わ ら な い 戦 い 「病 原体 」vs「免 疫 」 図