神経病理画像化のためのPETプロープ開発
著者
原田 龍一
雑誌名
東北医学雑誌
巻
129
号
2
ページ
181-183
発行年
2017-12
URL
http://hdl.handle.net/10097/00128766
―
勾坂記念賞受賞記念講演
― 2017年 5 月 20 日 : 勝山館神経病理画像化のための PET プローブ開発
東北大学大学院医学系研究科 機能薬理学分野 原 田 龍 一 略 歴 2008年 東京農工大学工学部卒業 2010年 東京農工大学大学院工学府 修士課程修了 2013-2014年 日本学術振興会特別研究員(DC2) 2014年 東北大学大学院医学系研究科 博士課程修了 2014-2015年 日本学術振興会特別研究員(PD) 2016年 東北大学大学院医学系研究科 機能薬理学分野 助教 現在に至る 東北医誌 129 : 181-183, 2017182
―
勾坂記念賞受賞記念講演
―神経病理画像化のための PET プローブ開発
Development of PET Tracer for Imaging Neuropathology原 田 龍 一 東北大学大学院医学系研究科 機能薬理学分野 背 景 アルツハイマー型認知症をはじめとする認知症は, 超高齢化社会を迎える我が国で解決しなければならな い疾患の一つであり,65 歳以上の認知症患者は推計 460万人いることが平成 24 年の厚生労働省研究調査班 より発表されている.アルツハイマー型認知症は,神 経病理学的には大脳皮質の神経細胞脱落,アミロイド β タンパク質(Aβ)から形成される老人斑,タウタン パク質から形成される神経原線維変化によって特徴づ けられる.これらは,死後の病理解剖によってしか得 られない知見であった.過去の病理学的研究より,こ れらタンパク質の蓄積は臨床症状が発現するよりはる か 10∼20 年前から始まっていることが明らかにされ ており,これらの検出法(画像化法)が求められていた. タウ病理像の非侵襲的な画像化は,診断面だけでなく, 疾患修飾薬の薬効評価におけるサロゲートマーカー, 治療対象者の選択における活用が期待されている.
陽電子撮影法(Positron Emission Tomography ; PET) はポジトロンを放出する放射性薬剤(PET プローブ) を体内に投与し,体外からその放射線を検出すること によって画像を構築する手法であり,生体内の機能・ 病態生理を評価することができる.PET で使用する 薬剤は,比放射能(単位物質量当たりの放射能)が極 めて高いため,ヒトへの薬剤の投与量は数百 ng∼数 μg と,臨床的に薬効を示さない投与量で検査を実施 することができ,安全性が高い.18F- Fluorodeoxyglu-cose (FDG)が診療(がん)で使用されている唯一の 薬剤であるが,近年様々な分子を標的とする PET 薬 剤が開発され,臨床研究に使用されている. タウ病理像を標的とする PET 薬剤の開発 アミロイド病理像の画像化は 2004 年に Pittsburgh 大学の William Klunk, Chet Mathis 博士らにより今日
のゴールドスタンダードである11C-PiBが開発された (Klunk et al. 2004).申請者のグループは,アルツハ イマー型認知症のもう一つの神経病理像であるタウ病 理像を標的とした PET 薬剤の開発に取り組んできた. タウ病理像選択的な PET プローブの開発の難しさは その “選択性” にある.脳内に蓄積したタンパク質は 共通してクロスβ シート構造を有していることが知ら れている.したがって,クロスβ シート構造に結合す る化合物の多くはアミロイド病理,タウ病理の両者に 結合する.しかし,PET で使用するトレーサー濃度 ではその結合性に差が現れる化合物も存在し,それを 利用して開発されたのがタウ PET プローブである. 最初に開発したプロトタイプである18F-THK523は, はじめてヒトで評価されたタウ PET プローブである が,アルツハイマー病患者タウ病変好発部位でシグナ ルの上昇は確認されたものの,残念ながら十分なコン トラストを得ることができなかった(Villemagne et al. 2014).そこでさらなる化合物の最適化を図り新たに 18F-THK5105,18F-THK5117を開発した(Okamura et al. 2013).豪メルボルン大学,東北大学で実施された 探索的臨床研究によりアルツハイマー病患者のタウ病 変好発部位において高集積を認めた.興味深いことに, 18F-THK5105の集積は MRI で測定した脳萎縮や臨床 的重症度と相関を認め,アミロイド PET プローブ 11C-PiBではそのような相関を認めなかった(Okamura et al. 2014).しかし,両トレーサーはタウ病理像が存 在しない白質に非特異的に集積する性質があり,画像 読影性能向上のため改善の余地があった.そこでさら なる最適化を進め,白質への集積を低減化させた最適 化 PET プローブ18F-THK5351を開発した.同一被験 者における18F-THK5117と18F-THK5351の比較にお いて,18F-THK5351はより高コントラストで病変部 位を描出できた(Harada et al. 2016).しかし,18F -THK5351を含む第 1 世代のタウ PET プローブは off -target bindingというタウ病変以外への標的(基質)に
原田 ─ 神経病理画像化のための PET プローブ開発 183 対する結合性があるなど未解決問題が残されていた. 18F-THK5351 の画像病理対応研究 18F-THK5351はこれまで開発した THK シリーズの 中で最もコントラストよく病変部位を描出する.しか し,これが真にタウ病理像を反映しているかを検証す るには PET 画像と病理所見との対応を検討する必要 がある.そこで,18F-THK5351 PETを施行したアル ツハイマー型認知症患者の剖検脳の神経病理を探索 し,トレーサーの集積との相関を検討した.その結果, 18F-THK5351の in vivo における集積量は大脳皮質に おいてタウ病理像と高い相関を認めた.その一方で, 大脳基底核では相関を示さなかった(Harada et al. 2017). し た が っ て, こ の 領 域 の 集 積 は off-target bindingによるものだと考えられた.さらにその標的 分子の探索を行ったところ,18F-THK5351の off- tar-get bindingの標的分子はモノアミンオキシダーゼ B (MAO-B)であることが判明した.この剖検症例にお ける18F-THK5351の集積は,大脳基底核を含むすべ ての脳領域において MAO-Bの量と高い相関を示し た.異なる症例の PET 研究において,MAO-B阻害 剤セレギリン服用後18F-THK5351 PETを施行したと ころ,そのシグナルは大脳皮質も含め大幅に減少した (Ng et al. 2017).以上のことから,18F-THK5351 PET シグナルはタウ病変好発部位である大脳皮質において も MAO-Bの寄与が大きく,off-target bindingによる
シグナルが含まれていると考えられた.MAO-Bは主 にアストロサイトに発現していることが知られてい る.神経疾患の脳内では反応性アストロサイトと活性 型ミクログリアを含むグリオーシスが共通所見として 認められる.MAO-Bを検出していることはグリオー シスの検出に相当すると考えられる.さらに,大脳皮 質において MAO-Bの量はタウ病理像の量ともは高い 相関を認めた.したがって,アルツハイマー型認知症 ではタウ病理像の進展に伴ってアストログリオーシス も同時に起こっていると考えられる.過去の病理学的 研究においてタウ病理はグリオーシスと同時に起こっ て い る こ と が 報 告 さ れ て い る(Serrano-Pozo et al.
2011).18F-THK5351 PETはアルツハイマー病におい てはタウ蓄積とそれに伴うグリオーシスを検出してい ると考えられた. お わ り に 申請者はタウ病理像に選択的な PET プローブを目 指してトレーサー開発を行ってきたが,最適化した PETプローブ18F-THK5351はタウ病変だけでなく, 主に MAO-Bを画像化していることが明らかとなっ た.MAO-Bを発現しているアストロサイトは神経炎 症に伴いダイナミック変化する細胞であり,共通した 神経病理所見であるアストログリオーシスを画像化す ることは神経変性プロセス解明に大きな意味を持つ. タウ病理像がグリオーシスを誘発するのか,あるいは グリオーシスが積極的に神経変性を誘導し,タウ病理 像が生まれるのか,後ろ向きの病理学的研究で明らか にするには限界がある.タウ病理像,アストログリオー シスを個別に画像化することでこれらの問いに対する 答えを出すツールを今後開発してきたい. 最後に本研究を推進するにあたり様々な分野の多く の先生方にご協力いただきました.この場を借りて, 心より御礼申し上げます. 文 献
Harada, R., Okamura, N., Furumoto, S., et al. (2016) 18F
-THK5351 : A Novel PET Radiotracer for Imaging Neurofibrillary Pathology in Alzheimer Disease. J.
Nucl. Med., 57, 208-214.
Harada, R., Ishiki, A., Kai, H., et al. (2017) Correlations of 18F-THK5351 PET with post-mortem burden of tau
and astrogliosis in Alzheimer’s disease. J. Nucl. Med. Klunk, W.E., Engler, H., Nordberg, A., et al. (2004) Imag-ing brain amyloid in Alzheimer’s disease with Pitts-burgh Compound-B. Ann. Neurol., 55, 306-319.
Ng, K.P., Pascoal, T.A., Mathotaarachchi, S., et al. (2017) Monoamine oxidase B inhibitor, selegiline, reduces 18F-THK5351 uptake in the human brain. Alzheimers
Res. Ther., 9, 25.
Okamura, N., Furumoto, S., Harada, R., et al. (2013) Novel 18F-labeled arylquinoline derivatives for noninvasive
imaging of tau pathology in Alzheimer disease. J.
Nucl. Med., 54, 1420-1427.
Okamura, N., Furumoto, S., Fodero-Tavoletti, M.T., et al.
(2014) Non-invasive assessment of Alzheimer’s
dis-ease neurofibrillary pathology using 18F-THK5105
PET. Brain, 137, 1762-1771.
Serrano-Pozo, A., Mielke, M.L., Gomez-Isla, T., et al. (2011)
Reactive glia not only associates with plaques but also parallels tangles in Alzheimer’s disease. Am. J.
Pathol., 179, 1373-1384.
Villemagne, V.L., Furumoto, S., Fodero-Tavoletti, M.T., et al.
(2014) In vivo evaluation of a novel tau imaging tracer for Alzheimer’s disease. Eur. J. Nucl. Med. Mol.