資金会計情報について
清 水 哲 雄
1 序 企業が外部に報告する主要な財務諸表は損益計算書と貸借対照表である。前 者は一定期間における企業の経営成績をあらわし,後者は一定の日における財 政状態をあらわすが両者によって企業の財務活動はあらわし得ない。損益計算 によって確定する損益と支払手段として利用する現金の増減とが一致する条件 は限られている。すなわち, 1) 固定資産に対する新規投資がないかあるいはもしあってもその資金が増資・たは齪籟によ・て調達・れてい・・と・(資産の物・雛の増加)
2) 固定負債の返済がないかあるいはもしあってもその負債の返済資金が増資・たはその伽顛・よ・て調達されて・…と・簾噺少・翻の増
加) 3)棚卸資産の期首と期末の残高が等しいこと。 4) 売上債権,末貸金,前払金,短期貸付金などの債権の期首と;期末の残高が 等しいこと。 5) 仕入債務未払金,前受金,短期借入金などの債務の期首,期末の残高が 等しいこと。 ユラ 6)定期預金な:ど長期預金の期首と期末の残高が等しいこと。 しかしこのような条件を満たす会計事象は稀れであり,今日一般に用いられ ている発生主義会計においては収益は必ずしもその期間における資金の流入を 意味するものではなく,また費用は必ずしもその期間における資金の流出をあ 1)染谷恭次郎責任編集:『資金会計論』中央経済社,昭和55年,pp.14∼15。らわしてもいない。したがって多くの利益を計上しているにもかかわらずそ の期間の資金不足を生じたり,企業の財政状態が悪化していることがある。こ れは企業における資金の流れである資金の源泉と資金の運用状態を示すもの の必要性を喚起する。この要望を担うものが資金運用表(=資金計算書)fund statement, cash flow statement, statement of source and application of funds である。これは企業における資金の変化に関する情報を提供するものであり, 経営者のみならず外部の株主や債権老にとっても自己の意思決定に有用であ る。資金運用表は企業の財務活動を明らかにし,企業活動の適否を判断する会 計情報を提供する。 E 資金会計システム 財務諸表に多大な関心を寄せる利害関係者はVatterによればおおむね3者 である。
1)経営者management
会計記録および財務諸表に対する最も直接的な要求は経営者によってなされ る。この範囲でいえば会計組織は全般的な財務報告書の作成を全く別問題とす れば経営上の手続をおこなうための一手段である。さらに会計手続は組織にお ける重要fa 一一要素でもある伝達の組織の一部を提供する。財務諸表は観察,評 価および統制の観点から経営者の問題点を単純化する1つの手段である。会計 の日常業務は殆んど常に全体的な内部牽制組織や管理組織に統合されている。 さらに特定の形式および組合わせによる会計資料は経営方針,経営戦略または 経営手続の問題を解決するのに役立つように経営者が利用している。あらゆる 角度からみて会計組織は経営組織の一部であるといえる。たとえ経営者が資料 を提供する唯一の階層であるとしても,経営者が会計部門に要求し期待してい る資料は単一の価値をもった会計理論によって作成されるような種類のもので はないQ 2) 社会的管理機関social control agencies さまざまな政府機関は課税し,価格および生産を規制し,有価証券の発行およびその市場を統制し,配当の過大な支払あるいは配当制限の影響から債権者 やその他の人々を保護し,不公正な競争および労務対策の問題を処理し,公共 の利益に影響する紛争を調停するために特別の形式の会計の要約書を利用して いる。商業およびその他の任意団体がさまざまな産業におけ’る発展を研究し, 解釈するために会計資料を用いている。経済学者や統計学者は学問的分野およ び実務的分野の双方の重要な問題をさまざまに分析するために会計資料を利用 している。企業に関する殆んどすべての研究はある程度会計記録および財務諸 表によって提供された情報にもとづいておこなわれる。 3) 企業と資本的関係ないし取引関係をもつ利害関係者 現在の所有主および債権者のみならず将来の賃貸人あるいは投資家は彼等が 直面しなければならない問題および彼等がおこなわなければならない意思決定 に関係した情報を受けるのに財務諸表を利用している。さらに短期の一連の債 権を設定するのに役立つような種類の資料は長期的な投資の意思決定に必要な 資料と同じではない。会計記録および財務諸表の提供する情報には数多くの特 別な用途がある。所有主理論とか企業主体理論といった単純な概念にもとづい た一般的な目的をもったあまりにも単純化された会計理論の構造によってはこ の れらすべての必要性に答えられない。これらの記述から伝統的な所有主理論や 企業主体理論のような人格的所有概念あるいは一般目的的構造による会計清報 提供機能によっては今日の経済社会に対する会計情報の提供は不可能であり, 多数の利害関係者の情報要求に応じ得る複合的な会計情報提供の機能をもつ会 計理論を指向する。 財務諸表としての損益計算書や貸借対照表が企業の財務活動を示さないため に,これらを補足する資金計算書が必要となる社会的,経済的背景はどこにあ るであろうか。第1は企業の活況と高率課税とに関連したインフレの進行が企 業の財政面に新しい課題を投じたこと。すなわち資金計算書によって企業の純 2) Vatter, William J.: The Fund Theory of Accounting and i:ts lmplieations for Fznanciat Reports The University of Chicago Press/951 pp.8∼9.飯岡透・中原 章吉共訳:『バッター資金会計論』同文舘,昭和46年,pp.15∼16.
利益が必ずしも配当金の増加や賃金の引き上げのための資金とはならないとい うことを解明する手段となる。第2は急激な物価変動が損益計算書がもつ経営 比較機能を減殺してきたため,これに代って資金の流れを表明する計算書が補 完的な意味で企業に必要となってきた。第3は国民所得分析上の資料として伝 統的損益計算書は極めて主観的原価配分と見積をおこなっているため適確性 3) を欠き,このためエコノミストは別に資金計算書が必要となってきた。また資 金分析の方法と資金計算書が多く利用されるようになった要因を別の見方をす れば,1) 国民経済および株式会社が驚異的発展を遂げたこと。2) 会社の組 織構造の性格の変化が広範囲な影響を与えたこと。3) 貸出形態が変わり流動 資金に対する需要が高まってきたために迅速かつ正確に作成できる財務計算書 の が必要となってきたことによる。 資金計算書はうえに述べたような背景から必要となってきたものであるが, 貸借対照表,損益計算書および資金計算書の関係は,一定時点における企業の 5) 貸借対照表・損益計算書・資金計算書の関係 貸借対照表昭×1年12脚 損益計算書 昭X2年1月1日∼昭X2年12月31日 益用益 収費利 鞘国本 資軍資 貸借対照表 昭×2年12月31日 産訳本 同国資 資金計算書 昭×2年1月1日一昭X2年12月31日 資金収入 ←給金支出 資金残高 3) Moonitz, Maurice: “Reporting on the Flow of Funds” The Accounting Review July 1956 p.378.中村萬次:『資金計算論』国元書房,昭和48年, pp,3一一4。 4) Anton, Hector R.: Accounting for the Flow of Funds Houghton Mifflin 1962. 森藤一男・鎌田信夫共訳:『資金計算の理論』ダイヤモンド,昭和39年,3ページ。 5) 鎌田信夫:「資金計算書の開示とその課題」『企業会計』第28巻第9号,43ページ。
財政状態を示す貸借対照表の期間変動額を損益計算書と財政状態変動表によっ て発生原因別に明らかにしょうとするものである。換言すればストックの計 算書とその変動原因を明らかにするフローの計算書との関係とみることができ る。 前出の図は3者の関係を示すものであるが,貸借対照表は連続する損益計算 書の連結環である。すなわち損益計算書は連続する貸借対照表の変動のうち損 益計算に関するものを説明する計算書である。また貸借対照表があらわす財政 状態は営業活動・財務活動・投資活動によって変動するが,損益計算書は財務 活動・投資活動をあらわさない。したがってそのような諸活動を明らかにする ために資金計算書が作られる。損益計算書と資金計算書の関係では収益と資金 収入,費用と資金支出を関連付けることができる。これらのことから資金計算 書は損益計算書と連続する2つの貸借対照表の連結器の役割を果たしていると の いえよう。 資金計算書は資金理論に支えられて作成されるものであるが,この資金理論 を構築するために資金概念を定義しておく必要がある。1)現金資金概念では 現金そのものが資金であるとする。2)正味貨幣性資産資金概念では正味貨幣 性資産を資金であるとし,正味貨幣性資産とは貨幣性資産から流動負債を控除 したものである。3) 貨幣性資産資金概念では貨幣性資産を資金とし,貨幣性 資産は流動資産から棚卸資産と前払費用とを控除したものである。4) 正味流 動資産資金概念では正味流動資産を資金とし,正味流動資産は流動資産から流 動負債を控除したものである。5)流動資産資金概念では流動資産を資金とす る。6)総資産資金概念では総資産を資金とする。7)正味運転資本概念では 正味運転資本を資金とする。8) 運転資本資金概念では運転資本を資金とす マう る。また資金を手許現金と要求払預金でいわゆる現金資金としたり,現金と市 6)笹倉淳史: 58”v590 7)太田正博: pp. 62一一63. 「資金計算書の最近の発展について」『千里山商学』昭和56年3月,pp. 「会計理論への資金概念の導入」『鹿児島経大論集』第21巻,第2号,
場性ある有価証券とするものもある。さらに総資産あるいは総資本を含めるも の のを資金と考えたり,キャッシュフローを資金とするものもある。 このように資金概念には種々のものがあるがそのいずれをとるかは当該企業 の経営環境や金融情勢のような外部環境および企業内部の事情や経営計画の内 容これらに対応する資金管理の重点目的如何にかかっている。たとえば日常 ないし短期の資金繰りに苦しんでいる企業では現金資金の管理が資金管理の中 心課題である。しかし資金繰りの楽な企業でも巨額の設備資金が必要であり, 長期資金計画の設定が要請される企業では単に現金資金よりもむしろキャッシ ュフローを資金として考慮した方が有効であろう。このように管理目的の如何 によって対象とすべき資金の種類,資金表の種類および資金管理の組織も異な ユの ってくる。 皿 資金計算書による会計情報 資金理論が資金計算書を作成するための理論体係であるとするならば,資金 計算書は伝統会計によって作成されたデータを基礎として目的に応じて加工さ れることを意味する。したがって資金計算書を作成するために特に現金主義等 にもとづいた資金会計組織の体系を別に必要とはしない。また資金の意味,領 域は必ずしも固定的ではないので企業が必要とする実務的要求によって時代と 経済の動きにともなって弾力的性格をもつ。したがって資金計算書も複数のも のを必要とすることがあり,その形式,内容についても種類別され得る。さら に資金理論は資金の源泉と運用の;期間的流れをその計算対象とするから財産計 算的な評価論の重要性は後退し,また発生主義による収益・費用の期間対応計 Anton, Hector R:op. cit.森藤一男・鎌田信夫共訳:前掲書, pp.49一一57.では4) と7)を除いた資金概念をあげている。 8) Mason, Perry.“(フash FJow”Analblsis and the Funds Statemeret, AICPA 1961. pp.51一一S”・.染谷恭次郎監訳:『キャッシュフロー分析と資金計算書』中央経済社,昭 和38年,pp.88∼94. 9)吉田弥雄:『現代管理会計論』同文舘,昭和53年Jpp.180∼182, 10)吉田弥雄:前掲書,182ページ。
11) 算が資金の流れを歪めることもあるから損益計算の修正が試みられる。 資金概念を何に求めるかによって数種の資金計算書が考えられる。 1) 運転資金計算書……これは正味運転資本を増加させる取引が資金の源泉で あり,正味運転資本を減少させる取引が資金の使途であることを示すものであ る。資金計算書という場合,資金の概念は財務会計,管理会計双方において資 ユ ラ 金を正味運転資本とすることが多い。正味運転資本は流動資産から流動負債を 控除したものであるから,この運転資金計算書では流動資産と流動負債以外の エヨ 項目の変動がその計算要素となる。これはアメリカにおいて,1971年に97%以 上の会社が採用したものであり,運転資本の概念が他の資金概念よりも明瞭で あるためである。この運転資金計算書は営業活動,株式や社債の発行,固定資 産の売却等の資金の調達源泉と,それらの金額から固定資産の取得,貸付,借 入金の返済,配当の支払等の支払資金の控除を示す。かくして期末の残高は正 味流動資産すなわち運転資本の変動額と照合される。したがってこの方法によ ると流動資産および流動負債を構成するすべての項目の変動が個別的な資金の 源泉および使途とはみなされず,個別的な:運転資本の変動はすべて運転資本以 外の変動から生ずる会社の財務的資源の変動として全体として考えられる。運 転資金計算書は投資家の関心を重視するものであるが,即時的,短期的流動性 よりも企業に対して長期的関心をもつ債権者あるいは取引先に対しても有用な ユの 情報を提供する。 2) 当座資金計算書……これは企業の正味当座資本を増加させる取引が資金の 源泉であり,企業の正味当座資本を減少させる取引が資金の使途を示すもので ある。正味当座資本は当座資産から流動負債を控除したものであるから,こ の当座資金計算書では当座資産と流動負債以外の項目の変動がその計算要素と 1ユ) 中村萬次:前掲書.5ページ。 12)Anton, Hector R;op. cit.藤森一男・鎌田信夫共訳:前掲書,53ページ。 13)染谷恭次郎=『資金会計論・増補版』中央経済社,昭和35年,24ページ。ここでは 各種の資金計算書のことを資金運用表としているが,本小論では資金計算書で統一し た。 14)鎌田信夫・前掲論文,pp.45・一46。
なる。 3)麦払資金計算書……これは企業の支払資金を増加させる取引が資金の源泉 であり,企業の支払資金を減少させる取引が資金の使途を示すものである。支 払資金は現金,預金や商品の仕入・販売その他営業取引から生じた債権・債務 の差額を指すから,この支払資金計算書では支払資金を構成する現金,預金, 受取手形,売掛金,支払手形,買掛金等営業取引で発生した短期の債権,債務 以外の項目の変動がその計算要素となる。 4)現金資金計算書……これは企業の現金資金を増加させる取引が資金の源泉 であり,企業の現金資金を減少させる取引が資金の使途とするものである。現 金資金とは正に現金および預金をいうが,定;期預金や貯蓄性の預金は除外され ユゆるから現金,預金以外の一切の項目の変動がその計算要素となる。このように 現金および小切手等の即時的購買力を強調する資金計算書は現金,預金を増加 させる資金源泉とその使途を示すものであるが,前者の現金資金の源泉には当 期純利益減価償却費,税金の支払延期,一時所有有価証券の売却および社債 の発行等がある。後者の現金資金の使途は固定資産や棚卸資産の取得および 買掛金や当期の現金や配当金の支払等である。企業の営業活動拡大のために充 当される資金は営業活動より得られた資金から求められることもあるし,また 内部資金のやりくりによってもなされる。また配当率を前年から引き上げてい るにもかかわらず現金資金が増加していることなどもある。これらの情報は会 社の流動性の評価に関心をもっている人達のうち,特に現金資金の減少とそれ に関連する配当支払額の減少を評価しようとする人達にとっては有効な情報と なる。 5)概観的資金計算書……これはすべての財務的資源と資金調達の源泉とを包 括する資金概念である。この資金概念はすべての財務取引と財務変動とを分析 し,資金の源泉の合計額と資金の使途の合計額を等しくする。このような資金 計算書は企業に流入し,そして流出した資金の流れに対して総括的で一般的な 見方を与えようとするものであり,現金あるいは運転資本に対する正味の影響 15)染谷恭次郎:前掲書,24ページ。
を重視しようとするものではない。したがってこのような資金計算書は企業の ラ 財務管理に概観を与えることになるから投資家にとって有用な情報となる。 資金計算書が情報として提供する主要な内容は外部資金と内部資金からなる 長期資本の調達の経過と長期資本の返還,処分および固定資産の増減変化の経 過である。これによって企業の財務活動の経過がわかるが,経営活動にともな う資金の流入や流出はわからないし,当然のことながら経営活動の成果もわか らない。このような資金表は出資資本および長期債権資本の提供者による固定 的資本を期間中にどのように運営したかを知るのに有用であるので企業外部の 人達とりわけ株主や債権者にとって有用な資金表である。そこで扱われるもの ユのはファンド・フローであり,運転資本の把握である。つぎに資金表を示す。 財務活動報告書 資 金 源 泉 糸屯 作子 益 3.055,639 減 価 償 去iJ 費 761,503 長期負債の増加 1, OOO, OOO (差引)短期負債へ振替
増資手取金
そ の 他 計 資 金 使 途 工場建物設備 特 許 権 利 益 配 当 計 運転資本の増加 513, 333 486, 667 !35, 880 7, 565 4, 447, 254 1, 539, 192 403, 059 1, 401, 924 3, 344, 175 1, 103, 079 資金計算書が提供する会計情報とこれを利用する利害関係者,とりわけ外部 の人達との関係を考えてみよう。 1)資金計算書の開示は現在の株主に対する受託責任の解除のための清報とな 16)鎌田信夫:前掲論文,46ページ。 !7) 山桝忠恕編 『現代会計と測定構造』中央経済社,昭和44年,1/9ページ。る。資金計算書はここで企業にとって利用可能となった種々の新しい資金の源 泉を記述し,他方これらの資金を経営者がどのように利用したかを記述するか ら,企業の経営者が株主に対して一定期間の財務的業績を表示するための基本 的報告手段であると考えられる。 2)資金計算書の開示は現在の株主および将来の投資家の意思決定のための情 報を提供する。彼等の意思決定の事項は必ずしも同じものではないが現在ある いは将来の投資に関して彼等は将来の予想配当高や株式の売却益について知り たくても,今日の処ではこれらについては過去の記録しかない。そこで企業の 財務政策や財務戦略,財務管理の内容等について多くの情報を必要とする。資 金計算書は資金の流入と流出のデータを示すものであるから,ある程度までこ れらの要望にかなう情報をもつものと考えられる。たとえば資金計算書は能率 的経営遂行による稼得資金を開示したり,株式や社債を発行して外部資金の調 達を開示する。かつ調達資金の使途たる固定資産の取得,更新を示したり販売 促進や他の企業を取得するためにどれ程の利益を留保して力を蓄えているかを 開示する。 3)資金計算書の開示は債権者および仕入先等の関心を集める。これらの人達 の関心は企業資金の流動性にある。資金計算書は企業の財務管理や財務的戦略 のみならず,企業資金の流動i生と運転資本の状態に直接影響を及ぼす資金の流 れに対する見通しをある程度まで確実にするから,彼等としては資金計算書の 開示によって重要な情報を得ることができる。したがって過去の資金の流れに 関する資料は将来の流動状態の予測に関する重要な情報として正しく表示され なければならない。これは債権者や仕入先にとって支払日における企業の債務 ユ ラ 弁済能力を評価するために有用な情報である。 資金計算書が提供する会計情報とこれを利用する企業内部の人達との関係を 考察しよう。 企業内部の人達のうち,最も経営に関心をもつのは経営者である。彼の企業 18)鎌田信夫:前掲論文,pp.42∼44。
に対する意思決定の正誤は他の多くの人達に大きな影響を及ぼす。経営者は製 造や販売な:どの営業活動を管理して利益を追求するとともに,この営業活動を 円滑にするために企業の資金繰りを適切にすることも重要な任務である。;期間 中にどのような源泉から,どれほどの資金を求めることができたか。そしてこ れらの資金はどのように運用されたかという資金繰りについての情報を提供す ることが内部報告書としての資金計算書であり,この資金計算書を通じて資金 管理をおこなう。その目的は第1に企業が債務を支払わなければならない時と 場所に十分な現金を保有することである。このことが達成されない時には信用 を損うとか,あるいは不利な条件で資金調達をする必要が生ずるとか,破産さ えも起り得るというような重大な結果を招くことになる。他方現金を持ちすぎ ることは企業の使用資本に対する利益率を引き下げることになる。第2には企 業がその産業の技術的な発展と成長に後れないように現金の流れの速度を保つ ことである。最近一般に産業技術の革新の速度が早まってきたので資本を最も 有利に使用できる場所に移動させる経営者の能力を示す尺度として,現金の流 ユの れに対して注意を向ける傾向があらわれてきた。したがって内部報告のための 資金管理の資金は現金資金であり,そのような資金の需要と供給の整合をはか る情報を提供するのが資金計算書である。 IV 結 び 資金理論は資金計算書を作成するための理論体系であるから会計主体は会計 担当者それ自体である。その経理意識は誠実で細心な観察者,分析者,解釈者 の観点から如何なる利害にも煩わされないで会計業務を担当しなければならな い。そして会計を誰のためにおこなうかという客体は一般公衆である。このよ うに会計担当者が中立的立場を堅持するためには会計担当者を指揮監督する経 営者もまた中立でなけれぽならない。経営者は資本主の召使いではなく,各種 lg) National Association of Accountants: Cash Flow Analysis for Managerial Control 1961.染谷恭次郎監訳,中原章吉,野口和男,脚下敏共訳:『経営管理のためのキャ ッシュ・フロー分析』日本生産性本部,昭和38年,5ページ。
20) 利害の調停機関であるから資金理論の基礎にあるのは所有主理論ではなく企業 を社会的公器とみる立場である。 企業会計は収益・費用の流れを事後的に計算するだけではなく,その背後に ある資金の流れを把握して現実の経営活動に対処しなければならない。その最 も初歩的な段階は目前の資金需要のための現金収支計算たる資金繰りの会計で ある。さらにそのつぎの発達した段階は事業年度末に決算報告書から資金計算 書を作り,これによってその期間の資金の流れを分析することである。月次的 には月末の試算表から月次の資金計算書を作り,短;期の資金計画の基礎i的情報 ヨ を得ることができる。 資金という代りにキャッシュ・フローという語がある。これは「現金または ヨ これに類する資産」を意味する場合と「利益に減価償却費を加えたもの」とす お る場合がある。利益は伝統会計においては発生主義による損費と実現主義によ る収益を期間的に対応させて計算される。伝統会計においては多くの利益を計 上していながら資金不足をきたしたり,あるいた反対に利益が少ないにもかか わらず多くの配当をしたり,借入金を返済したりすることがある。後者の場合 は現金の支出をともなわない費用たる減価償却を多く計上している場合になさ れる。したがってキャヅシュ・フローの多寡は企業が借入金を返済したり,配 当を平均的におこなったり,また設備の取り替え・拡張をするための資金を調 達することができるかどうかを判断する場合に重要な情報となる。キャッシ ュ・フローは資金計算書において示される営業活動から求められた資金と一致 するから,決算においてはキャッシュ・フローに関する説明は資金計算書と関 らの連させて示すことが必要である。 20)青柳文司=「バッター「資金理論』の吟味一会計学と経済学の交錯一」『会計』第 76巻第5号,pp,736∼737. 21)黒沢清:『資金会計の理論』森山書店,昭和33年,序文,pp.!∼2。 22)National Association of Accountants:op. cit.染谷恭次郎監訳・中原章吉・野口 和男・岡下熱共訳1前掲書,監訳者はしがき4ページ。 23)Mason, Perry=op・cit. p.4.染谷恭次郎監訳・武田安弘・高橋久夫共訳:前掲書, 28ページ。 24)染谷恭次郎監訳・武田安弘・高橋久夫共訳;前掲書,監訳者はしがき!ページ。
アメリカでは,資金計算書はかなり古くから損益計算書や貸借対照表の補助 的役割を果たすために作成され,これを株主に報告してきたが,1971年には AICPAの会計原則審議会が資金計算書を損益計算書や貸借対照表とともに主 要な財務諸表として開示することを義務付けた。また1977年には国際会計基準 委員会もそのように定めている。このような資金計算書は損益計算書,貸借対 照表および剰余金計算書と同じ会計データから作成され,これらと密接な関係 にあることは前に述べたが,資金計算書は付属明細書ではなく,他の財務諸表 から容易に入手することができない資料を示す補足的な計算書であり独立した 重要な計算書である。しかしてこの資金計算書から得られる風潮こは一般につ ぎのようなものがある。 1)利益はどこへ行ったか。 2) 配当は何故もっと多くなかったか。 3)当鯨こ純損失があるにもかかわらず,あるいは当期の利益以上に何故配 当をおこなうことができたのか。 4)純利益は増加しているにもかかわらず,何故正味流動資産が減少してい るのか。 5)その期間に純損失であったにもかかわらず何故正味流動資産が増加して いるのか。 6)キャッシュ・フP・・一が必要なだけあるにもかかわらず何故新設備を購入 のために資金を借りなければならないかQ 7)設備拡張のための資金はどのようにして調達されたか。 8) 営業活動を縮小した結果生じた設備の売却による収入はどうなったか。 9)負債の返済はどのようにしておこなわれたか。 10) 増資によって調達した資産はどうなったか。 11)社債の発行による収入はどうなったか。 25) 12) 運転資本の増加のため,どのように資金が調達されたか。 25)Mason, Perry;op. cit. pp. 49一一一50.染谷恭次郎監訳・武田安弘・高橋久夫共訳:前 掲書, pp.85∼87.