乳幼児期の 康と生活リズムを える
金
泉
志 保 美
は じ め に 近年, 日本社会は急速に夜型化してきており, それに 伴い幼い子どもたちの生活リズムもまた激変している. 日本小児保 協会が 10年毎に実施している「幼児 康度 調査」の結果によれば,夜 22時以降に就寝する幼児の割 合が, 1980年には 15.0%であったものが, 1990年には 25.3%, 2000年には 43.7%と, 20年間で急増している. 幼児期に就寝・起床時刻が遅いことは, メラトニンの 泌減少, コルチゾールの 泌パターン変調, 生体時計の 狂いからの内的脱同調など, 小児の発達に重大な影響が 生じることが指摘されている. このような状況を杞憂し て, 筆者はいくつかの研究に取り組んでみた. 幼児を持つ親への 康教育 はじめに実態調査として, 県内にある幼稚園児と保育 園児の保護者を対象に, 睡眠を含めた生活習慣や 康管 理全般に関する質問紙調査を行った. 22時以降に就寝し ている子どもは, 保育園児で 39.1%, 幼稚園児で は 23.6%であり, 幼稚園児については, 全国平 よりもかな り少なかったが, 一方, 起床時刻が朝 8時以降の子ども が 27.1%もいるという問題が見られた. 社会全体が夜型 化している現在においては, 遅寝遅起きに問題意識を 持っていない保護者が多いということが指摘されてい る. そこで, 調査対象となった幼稚園の保護者を対象と して, 幼児期の睡眠に関することを主なテーマとした 康教育を試みた. 康教育の効果を検討するために, 実施 1ヵ月後に実 際の日常生活の状況についての質問紙調査を行い, t検 定を用いて 析したところ, 平 就寝時刻 (p<0.05), 平 起床時刻 (p<0.01) ともに, 康教育実施前よりも有 意に早くなったという結果が得られた. しかし, 生活時 間が変化した者の割合から見てみると, 実施前後で就 寝・起床時刻とも全く変化のなかった対象者が 4割を占 めていた. 質問紙の自由記述内容から, 幼稚園の登園時 刻や, 親自身の生活習慣などが生活改善の困難な要因と なっていることが かり, また, 生活リズムの基盤は乳 児期に既に作られるため, 子どもがある程度の年齢に成 長してからの改善は困難であることが予測された. 妊娠中の母親を対象とした 康教育の取り組み そこで, 乳児期から望ましい生活リズムを整えること ができるように, 両親学級を受講する妊娠中の母親を対 象に, 同様の 康教育を行ってみた. そして, 対象者の出 産後, 子どもの 8ヶ月児 診時に, 子どもの生活リズムの 実態に関する質問紙調査を行った. 調査は 8ヶ月児 診 を受診する全ての子どもを対象とし, 妊娠中の 康教育 受講の有無を調査することにより, 対象群とコントロー ル群とに けて比較した. その結果, 子どもの実際の就 寝・起床時刻,理想と える就寝・起床時刻ともに,両群 間で有意差を認めることはできなかったが, 母親の知識 の面においては有意差がみられ, 康教育の成果の一部 であると えられた.すなわち,両群とも,およそ 97%の 保護者が,「早寝早起きは大切」と回答していたが, 大切 であると える理由について,「朝の光が大切」(p<0.05) 「夜の長時間の光は害」(p<0.001) などの具体的な項目 を選択した保護者の割合は, 受講している群で有意に高 95 Kitakanto Med J 2008;58:95∼96 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科看護学専攻母子看護学講座小児看護学 野 平成19年11月28日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学医学部保 学科看護学専攻母子看護学講座小児看護学 野 金泉志保美くなっていた. これらの結果から, 康教育で聞いた内 容は, なんらかの形で記憶には残っているものの, 実際 の育児に反映されるには至っていないことが推察され た. 妊娠中に 康教育を行ったことにより, 母親に知識 を提供することはできたと えられるが, 行動変容に結 びつけるためには, 子育て期まで継続させるフォロー アップが必要と えられる. 特に, 子どもの実際の就寝 時刻は, 母親が理想と えている就寝時刻よりも平 し て 1時間程度遅いという結果が得られていることから, 子どもを早く就寝させることを困難にさせている要因 を, 保護者とともに探りながら丁寧に対応していくこと が必要であり, 今後の課題である. お わ り に これまでに, 私が細々と研究テーマとしてきているの は, 医療的ケアを要する小児の在宅療養支援に関するこ とである. ここに挙げた一連の研究活動は, 康児を対 象とした一般的な育児支援に関する内容であるが, 疾患 や障害を持った小児であっても, やはり 康の基本は生 活リズムであることに変わりはなく, これらの活動の結 果を, 今後は療養・養育支援へも活かしていきたいと えている. 文 献 1. 川井尚他.平成 12年度幼児 康度調査報告書.東京,日本 小児保 協会, 2001: 12. 2. 神山 潤. 睡眠の生理と臨床. 東京, 診断と治療社, 2003: 180-200. 3. 金泉志保美・中下富子・佐光恵子ほか.幼児をもつ親の子 どもの 康管理の実態および認識について・第 2報.上武 大学看護学研究所紀要 2003; 1 (1): 17-34. 4. 金泉志保美・中下富子・佐光恵子ほか.幼児を持つ親への 康教育プログラムの開発・第 2報―教育効果の検討―. 上武大学看護学研究所紀要 2005; 2 (2): 87-93. 5. 金泉志保美, 永田悦子, 柴田眞理子. 乳児後期の生活リズ ムについて―妊娠中に行った 康教育後の追跡調査―. 母性衛生 2006; 47 (3): 180. 乳幼児期の 康と生活リズムを える 96