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歪ガラス合金に形状記憶効果を発見

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Academic year: 2021

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同時発表: 筑波研究学園都市記者会(資料配布) 文部科学記者会(資料配付) 科学記者会(資料配付)

歪ガラス合金に形状記憶効果を発見

―形状記憶合金の常識を覆す― 平成18年12月 1日 独立行政法人 物質・材料研究機構 概要 1.独立行政法人物質・材料研究機構(理事長:岸輝雄)センサ材料センター(センター長: 羽田肇)のセンサ物理グループの任暁兵グループリーダーらは、中国西安交通大学の融合材 料研究センターと共同で、歪ガラス合金において形状記憶効果および超弾性を世界で始めて 発見した。この発見によって、数十年間信じられてきた形状記憶合金の必要条件(マルテン サイト変態する合金)が覆されると共に、歪ガラスは広く利用されている形状記憶合金の種 類を大幅に拡大させる可能性がある。この新しい形状記憶効果の応用も期待される。 2.形状記憶合金は加熱によって元の形状に戻るという不思議な合金であり、電化製品、医療、 宇宙、航空などの分野に広く応用されている。形状記憶効果を決めるのは、この種の合金に 特有な構造変態―マルテンサイト変態の存在である。これまでの数十年間に形状記憶合金の 探索はマルテンサイト変態の存在する合金・組成に限って行われてきており、マルテンサイ ト変態しない合金・組成における形状記憶効果の存在する可能性は考えられていなかった。 3.任グループリーダーらの最近の研究により、マルテンサイト変態をしない合金組成に、 strain glass(歪ガラス)という新しい物質状態の存在を発見した。今回の研究では、マル テンサイト変態しない組成のTi-51.5Ni歪ガラス合金(固溶材1))において形状記憶効果及 び7.5%に及ぶ巨大な超弾性を発見した。この新しい形状記憶効果と超弾性の機構は従来の 形状記憶合金と異なり、歪ガラスからマルテンサイトへの変態という新しい物理的な機構に よるものであることが示された。 4.今回の発見によって、数十年間信じられてきた形状記憶合金の必要条件―マルテンサイト 変態する合金―を覆すことになり、科学的な意味は大きい。また、これまで狭かった形状記 憶合金の組成範囲が歪ガラスによって大きく拡大されることになる。この新種の形状記憶合 金の新しい応用の可能性も期待される。

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2 研究の背景 形状記憶合金はある臨界温度以上に加熱すると元の形状に戻るという不思議な合金である。 また、この臨界温度以上で応力を加えると、超弾性と呼ばれる巨大な擬弾性2)的な変形挙動を 示す。形状記憶合金は携帯電話のアンテナ、炊飯器やシャワーの温度制御を始めとする日常生 活、家電、医療機器、宇宙、航空などの分野に広く応用されている。 形状記憶効果を決めるのは、この種の合金に特有な構造変態―マルテンサイト変態の存在で ある。マルテンサイト変態とは、上記の臨界温度(マルテンサイト変態温度)以下になると合 金の結晶格子は変形のない格子(母相と呼ばれる)から変形した格子(マルテンサイトと呼ば れる)に自発的に変わる構造変態である。これは網戸の網格子が外力で変形することに類似し、 マルテンサイトの格子変形は温度による自発的な過程である。マルテンサイトを変態温度以上 に持っていくと、結晶格子が自発的に母相格子に回復し、巨視的に元の形状も“思い出される” (形状記憶)。一方、変態温度以上では、外部応力が母相を強制的にマルテンサイトに変態さ せることもできるが、外力が除去された時にマルテンサイトは自動的に母相に戻る。この“応 力誘起変態”とその逆変態は巨大な可逆変形をもたらし、この特異な変形挙動は超弾性と呼ば れる。 上記の原理から、マルテンサイト変態の存在は形状記憶効果及び超弾性が起こるための必要 条件とされてきたが、この条件に縛られ、これまでの数十年間に行われてきた形状記憶合金の 探索はマルテンサイト変態の存在する合金と組成に限られており、マルテンサイト変態をしな い合金・組成における形状記憶効果の存在する可能性は考えられていなかった。 成果の内容 今回の成果は、当機構がマルテンサイト変態を示さない strain glass(歪ガラス)合金にお いて形状記憶効果及び巨大な超弾性効果を世界で初めて発見したことである。 歪ガラスは昨年当機構が発見した新しい物質状態であり、マルテンサイト合金に一定量の添 加元素を入れることによって、マルテンサイト変態が消えた組成にできた特殊な状態である。 歪ガラス状態とは、マルテンサイトではないが、ナノ範囲の格子変形が存在する“ナノマルテ ンサイト”であり、歪ガラスと名付けた由来は、この特殊な状態が良く知られる窓ガラスが平 均的に液体の構造を持ちながら、局所的に結晶の構造を取っているのと同じ様な物理現象であ ることからである。 今回の研究では、自発的なマルテンサイト変態が存在しない 1.5%の Ni 過剰の Ti-51.5Ni 歪 ガラス合金を用いた。この組成の Ti-Ni 合金(固溶材)では、マルテンサイト変態はしないた め、これまでに形状記憶効果や超弾性効果の存在は予想されていなかった。しかし、図1に示 したように、138K で歪ガラスの試料を大きく変形を加えた後、加熱によってほぼ完全な形状回 復を実現した。つまり、この合金はほぼ完全な形状記憶効果を示す(図1a)。また、歪ガラス 相転移温度(160K)3)以上では、7.5%に及ぶ巨大な超弾性を発見した(図 1b)。 この新しい形状記憶効果や超弾性の機構は従来の形状記憶合金と異なり、図2のように歪ガ ラスからマルテンサイトへの変態というに新しい物理機構によるものであることが示された。 歪ガラスはガラス相転移温度 Tg 以下の温度では、平均構造4)は母相のままであるが、ナノ範囲 では格子の変形が既に起こっている(図2b)。応力を加えると、長範囲な格子変形が起こり、 合金は巨視的な変形を示す(図 2c)。合金を加熱すると、図2a のような揺らいだ歪ガラスに 変わり、巨視的な変形も消える。これは歪ガラスの形状記憶効果である。一方、ガラス相転移 温度以上の状態(図2a)で変形すると、揺らいだ歪ガラスから強制的に長範囲な格子変形(図

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2d)に変わり、応力が除去した時に元の図2a の状態に戻る。これは歪ガラスの超弾性効果の 機構である。 波及効果と今後の展開 今回の発見によって、数十年間信じられてきた形状記憶合金の必要条件―マルテンサイト変 態する合金―を覆すことになり、科学的な意味は大きい。また、これまで狭かった形状記憶合 金の組成範囲が歪ガラスによって大きく拡大されることになる(図 3)。この新種の形状記憶 合金の新しい応用の可能性も期待される。 問い合わせ先: 〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1 独立行政法人物質・材料研究機構 国際・広報室 TEL:029-859-2026 研究内容に関すること: 独立行政法人物質・材料研究機構 センサ物理グループ 任 暁兵(にん ぎょうへい) TEL: 029-859-2731 FAX: 029-859-2701 E-mail: [email protected]

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4 用語解説 1) 固溶材 高温で合金を均一な固溶体にさせ、急冷でこの固溶体状態を室温まで保存することによってで きた合金。その中に第 2 相は含まれていない。 2)擬弾性 弾性域より大きな歪領域で変形する際に、応力除去した時に元の形状に戻る変形挙動の総称 である。 3)歪ガラス相転移温度 歪ガラスは高温が揺らいだ格子変形状態であるが、ある臨界温度でこの揺らぎが凍結する。 この臨界温度は歪ガラス相転移温度である。これは普通な窓ガラスが高温で流動性のある液体 からある温度以下で完全に固まるのと物理的に平行する。 4)平均構造 局所の格子変形を無視した結晶構造。

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図1 歪ガラス Ti-51.5Ni 合金における

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6 図2 歪ガラスにおける形状記憶効果及び超弾性の機構。(a)凍結していない歪ガラス、(b) 凍結した歪ガラス、(c)凍結した状態の歪ガラスが応力でマルテンサイトに変態する. このマルテンサイトが加熱することによって(a)の状態に変態し、形状の回復をもたら す.(d)凍結していない歪カラスが応力で強制的にマルテンサイトに変態する.応力を 除荷すると自発的に(a)の状態に戻り、超弾性効果を示す。Tg はガラス転移温度.

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